大きな神様
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今年もその日がやってきた。

大きな神様に捧げる生けにえに、誰がなるかを決める日だ。

しきりに降り続いた雪がやんだその日、森の生きものたちが集まってきた。

ウサギの親子もやって来た。ウサギの子はまだ生まれてから日も浅く、外の景色をめずらしそうにながめている。

 

「ほう」と木の上で、フクロウが一声鳴くと、ひそひそ、ひそひそ 、話されていた声が静まりかえり、皆が注目した。

 

フクロウが指し示した先には、枯れたカラスウリの実があった。

その場に集まったものたちは、ゆっくりと一つづつカラスウリの実を取っていく。

ウサギの子も親に促されると、わけも分からないまま、

 

その目にしみるような赤い実をくわえ取った。

何をするのだろう。ウサギの子はおぼろげに考えた。

まわりのものたちは、みな静まりかえっている。

 

 

「ほう」と、またフクロウが鳴いた。

それを合図に、みなはカラスウリの実の種を、一つ、二つ、と雪の上に並べだした。

ウサギの子も、親がするのをまねて、一つ、二つと、ていねいに並べてゆく。

みなが種を並べ終わると、フクロウがそれぞれの種の数を数えだした。

この種の数が少なかったものから順に、大きな神様に捧げられるのだ。

フクロウはみなの種の数を数え終わると、また「ほう」と鳴いた。

うつむくもの、目をつぶるもの。

今年は誰と誰が捧げられるのだろう。

 

親ウサギがうなだれた。どうしたのだろうと子ウサギが見上げると、

そこには子ウサギをじっと見すえるフクロウの目があった。

 

子ウサギが選ばれたのだ。

親ウサギはそっと真綿のような毛で子ウサギを包みこんだ...。

 

雪はとけた。

子ウサギはすっかり大きくなって、もう親とは一緒ではない。

大きな神様はいつやって来るのだろう。今日だろうか、明日だろうか。

そんなことが頭の片すみにいつもあった。

 

ある日、ウサギは別のウサギに夢中になった。

恋をしたのだ。

そして、何匹かの子をもうけた。

 

気が付くとずいぶんと時間がたっていた。

大きな神様は、まだ現れなかった。

ウサギの体が真綿に包まれる頃、森も同じように白くなった。

ある日、ウサギはその子らを連れると、かすかな記憶にある場所へと向かった。

カラスウリの種を数えた場所に。

 

その次の年も、またその次の年も、大きな神様は現れなかった。

 

森の生きものたちは、いつの間にかカラスウリの種を数えるのも忘れてしまった。

 

あれから百年近く、大きな神様は現れていないと言う。

 

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