Guilty Gear XX -Golden Eyes- File000.-SIN- |
早朝。知り合いに教えられたカフェで朝食を摂る。丁度良い塩梅に焼き目がついたベーコンエッグトーストと珈琲。彼はどうやら落ち着いた雰囲気の店を好むらしい。
…正直な話、この程度だと食べている気がしないのが本音なのだが、流石にこのような場所で量を頼む気はないし、何より紹介して貰った手前、あまり軽率な行動はしたくない所だった。
「はぁ…腹減ったなぁ。」
―逃げる。昨夜からずっと。自分とさほど年も変わらないであろう少女を連れて、走り続ける。
「はっ…はっ、はぁっ……!」
―息が苦しい。脚がもつれる。だが、この先は街一番の広場だ。人の数もそれなりに居るはず――
「居たぞ!!」
「っ!?」
―回り込まれた!?
外が騒がしい。窓に接した席から眺めると、どうやら喧嘩、戦闘の類のようだ。黒服のいかにも怪しそうな男達と、あれは…二人組の少女を相手取っているらしい。
時間が時間だ、ギャラリーはほぼいない。
寝間着のままの少女を庇いながら闘っているようだが、いかんせん人数が違う。
地力は明らかにあのシスター姿の少女の方が上のようだが、非戦闘員を抱えた上にあの人数が相手では、倒されるのも時間の問題だろう。
それに。何か紙の束―何かの書類をファイリングしたモノ―を片手に持っている。大事な物のようだし、動きがかなり制限されているように見える。
「運が悪かったか。…にしても、何やらかしたのやら…どう見ても連中、悪役っぽいし」
カップに残った珈琲を一気に呷る。そのまま大きな荷物―サラシを杜撰に巻き付けた鉄の塊―を背負い、レジで精算を済ませる。ついでにクッキーの小袋と食後の歯磨きガムも。
「ただ、見捨てるのは趣味じゃない。ってね。」
不敵な笑みを浮かべ、扉に手を掛けた。
―――Guilty Gear XX ~GOLDEN EYES~
「フン…随分と手こずらせてくれたな」
「うぁっ!? な、なにを…」
数人の男に体を取られ、背中から地面に叩き付けられる。側にいた少女も結局逃げ切れずに捕らえられてしまったようだ。
「賞金稼ぎだか何だか知らんが、余計な事を。お節介が過ぎるからこうなる。…お前もコレの『仲間入り』だよ。」
「ッ…!」
「なあ、ちょっと味見しても構わねぇよな? こういうタイプ、俺の好みなんだわ。」
ナイフを片手に玩び、舌なめずりをする一人の男。取った両腕を頭上に掲げ、その手のナイフをカフスに突き刺す。
「ちっ…程々にな。」
「分かってるよ、軽くヤらせて貰うだけだって。」
「なっ…最低です、アナタ。」無駄だと分かっていても、吐き捨てずには居られなかった。
「へへっ、そいつは光栄なことだねぇ。」
―――下卑た笑い声、吐き気がする。
「おい、足押さえてろ。」側にいる二人を顎で使う。言われるままに行動する二人の男の表情には、明らかな呆れの感情が見えていたが、だからといって、そこにつけ込む事も無意味だろう。
「なっ!? や、止めて下さいっ…い、嫌ッ…!!!」
男の手が襟首に掛かる。その手がリボンを解き、そのまま下に滑って行く。
発達していない胸を弄び、そしてそのまま服を―――
一撃。少女を組み伏せている男を蹴り剥がし、そのまま体を捻る。足を押さえていた二人も油断していたらしく、手を離させるのは至極、簡単だった。
「――っ。」
そしてそのまま、彼女の腕の動きを封じているナイフを蹴り上げ、男が持っていたファイルもすかさず回収。
手にしたのは、刃渡り十五センチ前後のダガーナイフ。
―純粋な武器と言うには可愛らしい代物だが、一般人に恐怖を与えるにはコレでも十分だろう。
「ぁ……あ…っ」事実、この賞金稼ぎらしい少女も、少なからず恐怖を感じていた。
もっとも、刃物以上に、その身に降り掛かろうとしていた災厄のほうが大きな原因だろうが。
そしてもう一人。後ろ手に腕を取られて立ち尽くす少女へ向けて駆け出す。
反射的に、彼女を押さえていた男が臨戦態勢をとろうとするが―――
「遅いよ。」
ナイフのグリップ部分で下顎を殴打。そのまま後ろ襟を掴み、地面へ叩き付ける。
動きの緩慢な少女等を自らの背に退がらせ、体勢を立て直した男達と相対する。
「あちゃー…まだ起きてくるか。ちょっと加減しすぎたかしらね。」
「…何者だ、貴様。」リーダー格と思しき男が、問う。
一頻り考え込み、一言。「通りすがりの賞金稼ぎで、お節介。」
「それにしても、随分悪いコトしてるね、アンタ達。…ろくでもないリスト、使い道が簡単に想像つくってのが嫌だわ。」
ファイルに纏められていたのは、どれも年端のいかない少女等の個人情報。年齢から健康状態、事細かなプロフィールに至るまでが記述されている。そして、Adaptive【適応性】-%の文字。
「…あんなモノ研究してるヤツがまだ居たなんてね。」
「ふん、研究の内容が何だろうと俺達には関係のない話だ。」
「でしょうね。でなきゃ女の子ばっかのリストをアンタ等に渡さないわ。…ホントに、下衆ね。」一瞥。
「…正直下っ端に興味はないの。親玉の居場所、吐いてもらえるかしら。A,Bクラス賞金首の方々?」
男達の顔色が変わる。
「…よく知ってんじゃねえか、テメエ。」
「そりゃまあ、ベテランですから。アンタ等がDoAっつーのも確認済み。…まあ、一応命は助けてあげようか」
パァン。乾いた音。放たれた弾が頬を掠め、巻き上がる髪。
今、眼前にある『モノ』に、驚きを隠せない。
背後で誰かが流れ弾に当たったらしい。けたたましい悲鳴が聞こえる。
…二度と聞きたくなかった音。
―ブラック・テック…。
「…へ、へへへ…随分大人しくなったなァ!? さっきまでの威勢はどうした!!」
「あ、アナタ…何を…」
「うるせえ!! 死にたくなきゃ命乞いしてみろよ!!? 命『だけ』は助けてやるぜ? 命だけは、なァ!!!」先程以上に歪んだ笑い声を上げ、もう一発、二発。立て続けに引き金を絞る。
―足元の石畳が弾け、細かな破片を撒き散らす。威嚇のつもりか。それが得体の知れないモノである二人ならまだしも。…そんな子供騙し。
「………。」
―アンタ等は、やっちゃいけない事をした。『そんなモノ』を出さなきゃ、私が直接手を下す事もなかったのに。
『どうした? ビビって動けねえのか!? イイぜぇ、そのまま泣き喚いてみろよ!! ちったぁ考えてやるかもしれねーからなァ!!?』
―ああ、なんだ。どのみちこの“クズ”が死ぬのが、ほんの少しばかり早くなるだけか。…ご愁傷様。
「…気が変わったよ。」
肩に掛けたベルトを一つ、そしてもう一つ、順に外す。
背中に提げた鉄塊がずり落ち、地面に先端を着ける。
剥き出しのグリップに手を添え、傾きかけたそれを体に寄せた。
「何スカしてやがる!? とっとと命乞いしてみろっつってんだよォッ!!?」人差し指に力を込める。
しかし、結局次弾が放たれる事はなかった。
突然揺らぐ景色、首に掛けられた細い指。
それは紛れもなく、つい先程まで十数メートル先に立っていた少女のものだった。
「かッあ…!!?」
眼下に見える瞳が薄い光を湛える。このまま括り殺す事など造作もない、そう言いたげな表情。
自らの一回りも大きな体躯の男を、いとも簡単に。首に手を掛けたまま持ち上げる。
得体の知れないモノに生死を決められる恐怖。思考は既に不可能だった。
「一秒あげる。やってみな」
「ぁ…!? たっ、たすけ――」
―残念、時間切れ。
少女の口元が、嗤った。
鈍い、肉と骨の千切れる音。恐怖に歪んでいた瞳は光を失い、その口を血で染める。
重力に従い落下する『躰』。それに頭部は着いて来なかった。
当然だろう。引き抜かれた腕が、首の部分『だけ』を抉り取っていたのだから。
返り血を浴びてなお、眉一つ動かさず。
その瞳は、ただ次の獲物を捕らえていた。
―――眼前で繰り広げられるのは、戦闘でも殺し合いでもなく。単なる一方的な殺戮。ヒトの姿をしたバケモノが、人間を。ただ殺すだけの景色。
辛うじて正気を保っていられる自分が信じられず、隣で気を失う少女を心底、羨ましいとさえ思う。
何かの間違いであって欲しい。そうでなければ、ただの悪夢で。
コレを現実だと言うには、あまりにも。
―趣味が悪すぎる。
「…あと一人。」
「ヒッ…!!?」情けない声を上げたのは、周りの肉塊―ほんの数十秒前までは人だったモノ―を仕切っていたリーダー格の男。腰を抜かし、失禁でズボンを濡らしたその姿を誰が責められようか。
生存本能のまま、恐怖のまま、ただがむしゃらに腕を振り回し、這い蹲って逃げる。
その様を冷たい瞳で見つめ。
『あ、だ……ダメ……!』
それを全く追い掛けようともせずに少女は。
『ダメです…!!』
―Gamma-Ray.―
破滅の言葉を呟いた。
――カイ隊長!!」
「どうしました、騒々しい。」カイと呼ばれた青年は、片手に持つ書類から視線を上げて答えた。
「四丁目の広場より、要請です。殺人事件、との事で…応援に来て頂きたい、と。」
部下の態度に、不信感を覚える。こう言っては何だが、たかだか普通の殺人でこの男の元まで応援要請が来る事など、ほぼ有り得ない。
単純に捜査などの人手が足りないのであれば数を頼む、それが警察機構の基本的な動きであった。
―そう、いち個人を頼りに現場が動く事は無いはずだ。
「…妙ですね。本当に『ただの』殺人なのですか?」
「…いえ。詳しいお話は、現場の方でお願い致します。」
一考。「わかりました、すぐに向かいましょう。」書類を仕舞い、手慣れた動作で上着を着用し、執務室を後にした。
「これは…!!?」
現場の周囲、それも掃討に広い範囲がテープで封じられ、その前には数人の警察機構の人間。単純な事件にしては、異常と言っていい程の厳戒態勢。現場を臨む位置にすら、一般人が立ち入る事は出来なかった。
「とにかく、現場を見せて下さい。」
「はっ」
―現場が目に入った瞬間、過剰なまでの立ち入り禁止エリアの広さに得心がいった。
このような物を。
一般の方々に見せるのは避けたい。否、絶対に見せてはいけない。
「何が、あったというんだ…!? それに、この被害者達は…」
「はっ…皆、B〜Aクラス、Dead or Aliveの賞金首です。」
「“生死を問わない”か…。しかし、だからといってこのような事が…。」許されるはずがない。そう言いかけて、気付く。
――何故、『顔だけがそのまま残っているというのか』? 殆どの者が体を裂かれ、抉り取られ、穿たれ、中には原形を留めていない者すら居るというのに。
そのような者でさえ、『顔』は傷付けられていない。
――まるで、『賞金首である事を証明する』かのように。――
「…まさか…有り得ない!!! これだけの事をしておいて、『首から上を傷付けない』ようになどと、そこまで気を回せる程…犯人は冷静だったとでもいうのか…そんな事が!?」自分で考えて、空恐ろしくなる。
そのような狂気を内包する人間がいる事も。
その狂気を、あろう事か制御できる人間が居るという事も。
―できるならば、考えたくはなかった。
―…BANG.―
「―止めて下さいッ!!!!」一瞬。彼女の瞳に光が見えた。…だが、それだけ。
放たれた光は、逃げる男を飲み込み、そして消えた。
「…ぁ…」声が出ない。目の前には、確かに人間が居たはずなのだ。それが、『消え去った』。
死体も、痕跡も、何一つ残さず…そう、跡形もなく。全て。
「………あ。あは、あははっ…」その中心で少女は。
―嗤っていた。血に塗れたまま立ち尽くし、その瞳に大粒の涙を浮かべて。
嗤うしか、なかった。自我を取り戻した時には、全てが遅すぎたのだから。既に止められない状態だった。方向を変える時間も、気力も。そう、間に合わなかったのだ。
だったら。
「どうして…」
問いかけられる。「仕方ないよ。…あんな連中、死んで当然。」何度も聞かれた。でも、今更後悔なんてしない。私のやり方だし、文句を付けられる筋合いはない。…苦しいから止めるなんて、そんな甘い事が言える立場ではないのだから。
「違います! 確かに、殺されても文句は言えない事をしてきたのかもしれませんし、だからこその『Dead or Alive』でしょう。ですけど…だからって、こんなのは…あんまりにも…酷すぎます…!!!」
「じゃあどうするの? 無理して生け捕りにでもする? もし、それで逃がしたらどう責任を取るつもり!? 甘っちょろい事言わないで!! “生死を問わない”のならば迷わず殺す。私はこれまでそうしてきた。だから続ける、それだけ。」
逡巡する。初対面の相手にここまで言って良いのか。やはり、ヒトならざる者にこれ以上関わるべきではないのか。…答えは一つだった。
「ですけど…やっぱり、彼等は法の裁きを受けるべきでした。」
―赤の他人だから関わらない、そうじゃない。戦闘を見る限り、ヒトでない事は確かだろうし、彼女の中に潜む狂気は並大抵のモノではないだろう。しかし、彼女は命の恩人であるし、それに何より。
自分と殆ど年の頃が変わらないであろう少女を、一人にする訳にはいかなかった。
しかし。
「ははっ。…“相変わらず。甘くて正しい事ばっかり言うんですね、貴方は。”」
『相変わらず』? 考える時間はなかった。寂しげな笑みを浮かべたその少女は、そのまま。
「え…?」
力なく崩れ落ちたのだから。
―Prologue File -SIN- end.
―Continued to File 001 -Running Out-
『あとがき。』
えー、ビクビクしながら投稿になります、Golden Eyesプロローグ。いかがでしたでしょうか。
元ネタ自体は結構昔から暖めていたモノで、今回大幅に設定を見直してやり直してみようという事で開始しました。
シナリオの主役はオリジナルキャラクターの『ノーティス・アーシュヴァイン』、『ブリジット』、そしてもう一人の少女です。こちらの少女についてはまだ色々と秘密という事で。
ノーティス等がメインではありますが、カイは勿論、ソルや他のキャラクター達も登場させる予定でございます。
ソルとかカイには中核に近い立ち位置を予定してますが、今後どう動くのか、自分でもちょっとドキドキしてます。
面白いモノを書けたらいいなーと思ってますので、よろしければお付き合い下さい。
説明 | ||
ギルティギアの二次小説、オリジナルキャラ『ノーティス』をメインにした中、長編予定のプロローグパートです。少々グロ系の描写があるので、閲覧の際はご注意下さい。 | ||
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