真・恋姫†無双 〜天ハ誰ト在ルベキ〜 第漆話 シンソウ
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「隊長、聞きたいことがあるのですが・・・・・・」

 それは凪の一言で始まった。

 

 

「大丈夫かいな、隊長?」

「あぁ、なんとか」

 盛大にこけた俺に真桜が駆け寄って来る。

「しかし、駄目やな〜、こんだけやっても出来へんのも珍しいで。隊長、こいつに変なことでもしたんとちゃうか?」

 呆れた様子で俺を覗き込む真桜。

「特に何にもしてないんだけど。はぁ、俺って才能無いのかな」

「こんなもん才能なんかとちゃうで。これくらいは普通に出来なあかん。まぁ、それ以上やったら才能かもしれへんけどね」

「そうか。よし、もう一回!」

 今、俺が何をしてるかというと・・・・・・。

 馬に乗る訓練だ。

 この前、凪に馬に乗れるかを聞かれて、乗れると答えたが、凪は納得してくれなくて実際に乗ってみようということになった。

 そりゃ、時代とか世界の違いはあるけれどさ、向こうで馬に乗ったことあるし。いけると思ったんだよ。

 んで、どれくらい乗りこなせれば良いのかを凪に実演してもらったんだけど、ね。

 次元が違った。あれはこっちで言う競馬の騎手並だ。

 真桜と沙和にも乗ってもらったけど、どうやらそれがこの世界の標準らしい。

 別に乗れなくても良いんじゃないか、と言ったら

「隊長〜、それは違うの。周りの部下が乗ってるのに、隊長だけ歩いてるとか馬車とかじゃ情けないの〜」

「そうです。それに撤退時にも危険度が高まってしまいますし、他国に行くときにも時間がかかり過ぎてしまいます」

「せやせや。てか、馬に乗れへんとかほんまありえへんよ? これは戦場に出る人として必須やで」

 と、ボロボロに言われてしまった。

 その後、焔耶ともこの話をしたんだけど、

「怒られて、当然だろう! というか、私は馬にすら乗れない人をお館と仰いでしまったのか? 頼む、お館。早く乗れる様になってくれ。そうでないと私は・・・・・・、はぁ」

 思い出しただけでも、申し訳ない気持ちが湧いてくる。

 それにしても、馬に乗れない太守か。・・・・・・なんというか、格好わるい。

 そんな訳で馬を乗りこなせる様に練習しているんだけど、さっきみたいに馬に振り落とされ続けている訳だ。

「なぁ、隊長。馬を換えてみよか?」

 馬に足をかけようとすると、不意にそんな提案をしてきた。

「? なんで? こいつ気性が荒い訳でもないし。乗れないのは俺が下手だからだろ?」

 それになんとなく馬のせいにしてるみたいで、決まりが悪く感じた。

「まぁ、そうなんやけど。相性ってやつあるやん」

「じゃあ、こいつと俺は相性合わなそうなのか?」

 そう言うと、真桜はにやにやしながら言葉を発しようとする。

 嫌な予感が・・・・・・。

「だって、牡馬やん。やっぱ隊長には牝う「俺はこいつでいいからっ!!」

 万一それで上手くいったら、俺はみんなから何を言われるか分からない。

「ヒヒーーーン!!」

 突然の大声に驚いたのか、まだ乗馬しきらないうちに馬が走りだす。

「えっ? ちょっ、待っ」

「たいちょ!!」

 思いっきり、地面に叩きつけられる。あれ、これってやばいんじゃ・・・・・・。

 真桜が視界に入ってきたところで、俺の意識は途絶えた。

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 はぁ、やれやれ。どうしてボクがこんなことをしなきゃいけないんだろう。

 たかが、一都市の太守の任命状でしょ。別のやつが行けばいいのに。

 まぁ、襄陽はそれなりに大きい都市だし洛陽からは近いけれど、もっと暇な奴がいるはずだ。

 もうすぐ期限の仕事もあるし、旅に出ると汗かくし。

 それより何より、洛陽にはあの娘がいるから離れたくないし。

 あの娘のそばを離れてもうすぐ一日位経つのかな。あぁ、心配だ。やっぱり帰ろうかな。

 いや、でも帰ったら怒られちゃうか。ある意味、それはそれで良いんだけれど。

「はぁ」

 休憩を切り上げ歩き出すが、その足取りは重かった。

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「真桜! 隊長が倒れたとはどういうことだ!?」

「それやけどな、・・・・・・・」

「ふむ、そうか。不慮の事故と言う訳か」

「そうなんや。しゃーなかったんや」

「とでも言うと思ったのかー!!」

「ひ、ひぃ」

「どう考えても、お前の余計なひと言が原因だろうがっ!!」

「そ、そやかて、こんなことになるとは思っとらんかったし。凪かて、思うところはあるやろ?」

「む、確かに。この前の警邏の時に、点心の店の売り子の娘に肉まんをもらってデレデレしていらしたな」

「せやせや。この前店で酒飲みながら、変な話してたらしいし。やっぱり、隊長のいつもの行いが悪かったからや」

「真桜、お前な・・・・・・。しかし、隊長。早く目覚めてください」

「せや、隊長、いつまでうちらを心配させるんや」

「隊長が倒れてここまで動揺するとは思わなかった。いつの間にか隊長という存在が自分の中でここまで大きくなっていたとは」

「そうか? 凪は隊長が倒れたって聞いたら、気を失うと思ってたんやけどな」

「なっ。いつもの私はそんなに表に出していたか?」

「そんなも何も、二十四時間年中無休で隊長の忠犬やないか・・・・・・」

「うぅ。そ、そんなことを言ったら、真桜、お前こそっ」

「うち? 何かあったか?」

「この前の休み、からくりの博覧会があるから行ってくると前々から言っていたくせに、その日の朝隊長に市に行かないかと誘われてそっちに行ってきてただろう!」

「ば、ばれとったんかい」

「別に、隊長を朝起こしに行こうとしていたわけじゃないからな」

「そこで、自爆せぇへんでも。まぁ、自分の隊長自慢はもうええやろ」

「そうだな。そろそろ、休憩時間も終わりだ。沙和がこの後来ることになってるから、心配するな。・・・・・・、先に行ってるぞ」

 

 

「なぁ、隊長。はよぅ、目ぇ覚ましてぇな。うち、罪悪感に押しつぶされそうや」

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 やっと襄陽に着いた。さて、このまますぐに城まで行くはどうだろう。

 今回の任命の件はかなり特殊だった。

 あの曹孟徳が直々に太守にしろを言ってきたのだ。あの、そうあの曹孟徳が。

 傲岸不遜ぶりやその言動から朝廷内から敵は多いが、武勇・知略ともに誉れ高い。

 妥協を許さぬ姿勢から、自他どちらにも評価は厳しい。しかし、その評価は正確で信頼できる。

 ボクも彼女はかなりの人であると認識している。下手に絡むと腕を噛まれるどころか、その身までも呑みこまれるかもしれない。

 だからこそ、絡んでみたいと思うのは己の過信だろうか。

 と、まぁ自分の感想はさておき、その曹操が推薦しているのである。

 まず、推薦自体が珍しい。その上

「気に入らなかったら、任命の話は無しでも構わないわ。判断は任命状を届ける人に一任する。もし気に食わなかったら、誰にしても良い。貴方たちにとって都合の良い人でも良いし、うちの娘たちを持っていっても良いわ。じゃ」

 と言ってきたのだ。

 それで何進に頼まれて(誰でも良いということで逆に不安を感じ、ある程度の位を持つボクに任せたらしい)来たというわけだ。

 が、その話を聞いて、有り得ない、そうとしか思えなかった。

 一任してしまう曹操にではない。一任して構わないと言い切った曹操の評価に対して。

 あの言葉は『貴方達が襄陽の太守を勝手に決めていい』という意味ではない。

 真の意味は『私の指名した人物は襄陽の太守に値する人物である。それは誰の目から見ても明白であるから、その人が太守にならないなんて有り得ない。かつ、それに対する責任は曹孟徳が全て負う』ってこと。

 つまり、その人に対して全幅の信頼を置いているわけ。

 いったいどんな人なのか? 曹操は女の子好きだったっけ? なら、女なのだろうか。

 少し街を歩いてみて、情報を集めてみようか。

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「お館ー! どうだ調子は!?」

「あ、焔耶ちゃん。隊長まだ目を覚ましてないの」

「そうか・・・・・・」

「心配だね」

「あぁ」

「そういえば、どうして焔耶ちゃんは隊長のところに来たの? 厳顔さんと喧嘩したの?」

「いや、そんなことはない。むしろ、桔梗様は私を快く送り出してくれたさ」

「ふ〜ん。じゃ、なんでなの?」

「なんで、と改めて聞かれると答えにくいな」

「隊長のこと好きになっちゃったとかなの〜?」

「へっ? 好きに? い、いや、べ、別にそんなことではない! お館にほ、惚れてここにいるなんてこと、断じてない!!」

「そこまで強く否定されると、逆に怪しくなってくるの〜」

「か、からかうなっ。・・・・・・、しかし、お館の人柄と言う部分には惚れているのかもしれんな。正直出会っていなかったら、私はここに居なかっただろうしな」

「隊長の人柄かぁ。焔耶ちゃんも私たちと同じかもしれないの」

「えっ?」

「最初はね、天の御遣いさんだったから。でも、今は違うの。一緒に戦って、一緒にご飯食べて、一緒に街を警護して。そしたら、隊長と一緒に居るのが当たり前みたいになってたの。なんか凪ちゃんと真桜ちゃんと四人で昔から一緒にいたみたいになってたの」

「そうか、確かに同じかもしれんな」

「そうなの〜」

「・・・・・・なぁ、沙和」

「どうしたの?」

「私が来て迷惑ではなかったか? その結束の和を私が乱してしまっているのではないか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「焔耶ちゃん」

「な、なんだ?」

「それ、ずっと気にしてたの?」

「ずっとというほど長くはないが。そうだな、話し合いの時とかにふと思うことはあったな」

「焔耶ちゃん、ごめんなさい!」

「ど、どうした、沙和!?」

「知らないうちに焔耶ちゃんにそんなこと思わせてたなんて、ほんとにごめんなさい」

「私は責めてるんじゃないぞ?」

「分かってるの。でも、焔耶ちゃんは見知らぬ土地に来て不安も多いの。そこで私たちが仲良くして安心させてあげなきゃいけないのに、逆に不安にさせていたなんて、いけないことだと思う」

「沙和・・・・・・」

「ただ、私たちはいつも三人で、他に近くに人がいたことがあんまりないから、どう付き合って良いか戸惑う部分もあるの。でも、私も凪ちゃんも真桜ちゃんも焔耶ちゃんのことは大切に思ってるの。勿論、風ちゃんもね。だから、もう少しすればそんなことは無くなると思うの。それまで、もしかしたら迷惑かけちゃうかもしれないけど・・・・・・」

「いや、ありがとう、沙和。それを話してくれたので十分だ。みんなが私のことをそこまで考えていてくれたとは思っていなかったからな。これからもよろしくな、沙和」

「うんなの! よろしく、焔耶ちゃん!」

「ところで、この話は秘密にしておかないか?」

「賛成なの。誰かに聞かれるのはちょっと恥ずかしいの〜」

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「すいませ〜ん、肉まん一つ」

 昼食がてらに街の飯店に寄ってみる。

 こういう街の人から聞ける生きた声がその人の本質を表しているんだとボクは思う。

「はーい」

 心地よい返事と共に売り子の女の子が駆けよって来る。

「ここの通りっていつもこんなに人がいるの?」

 ボクが街に入ってまず驚いたことは街を行きかう人の数だ。

 地理的に荊州の一部であるため人は集まりやすいのだけれど、この数は多い。

 袁紹や孫堅の本拠地に匹敵する発展だろう。勢力の差を考えれば、考えられないことだ。

 しかも、裏通りまである程度整備されている。

 都市として発展してくると、それに追いつけない人や元々貧しい人は裏通りで生活せざるを得なくなる。

 だからどうしても裏通りは治安が悪くなってしまう。

 しかし、この街は違う。裏通りまで商店があるのだ。

 どんな方法で治安を維持しているのか、とても興味が湧いてくる。

「そうですねぇ。天の御遣いさんが来てから、段々増えてきてますね」

 天の御遣い? あの管輅の占いの天の御遣いだろうか。

「ふ〜ん。もしかして、ここの街を治めてるのもその御遣いさん?」

「そうですよ」

 なるほど。単なる噂だと思っていたけれど、実在していたんだ。

 ならば、曹操の推薦もそのせいなのか?

 でも、曹操はそういった上辺でものを判断する人ではないはず。ということはやはりそれなりに出来る人ということか。

「御遣いってどんな人なの?」

「どんな、ですか? う〜ん、いいカモですね」

「カモ?」

 カモ? 天の御遣いは羽でも生えているのか?

「だって、ちょっと甘い声で呼びこめば、ほいほい点心を買っていってくれますから」

 そういう意味か。しかし、一市民にカモと言われる施政者なんて他に居るのだろうか?

 部下が優秀なのか? でも、それほど優秀な部下が果たして無能な者に従うのか?

 結局、いまいち分からなかった。

「そ、そうなんだ。これお代」

 はっきり言って不安になってきた。

「はい、丁度ですね。毎度あり〜」

 

 休憩ついでに、店に寄る。

「おい、聞いてくれよ」

「なんだよ、気になるじゃねぇか」

 隣の男二人が大声で喋っている。五月蝿い。

「この前いつもの店で飲んでたらよ、御遣いさんが来たんだよ」

 御遣いが日常的な会話で話題に上がるということは、さほど評判は悪くない様だ。

「おぉ、あの人か」

「そしたらよ、意外と馬が合って話がすげぇ盛り上がってな」

 酒場に行って、住民と交流。何気ない世間話から今の街の現状を聞きだす。

 有効な手段だけれど、一番上の人がやることはあまりない。

 住民側が委縮してしまったりして、上手くいかないこと多いのだ。

 しかし、それをこなしている? やはり、情報を集めて正解だったのかもしれない。

「どんな話をしてたんだ?」

 今まで以上に耳を傾ける。ここが一番肝心だ。

「えっと、女の胸についてだったかな?」

「なんだそりゃ」

 思わず、立てていた肘を滑らせてしまう。周りから怪訝な顔でみられてしまった。

 本当だ。本当に、なんだそりゃ、だ。

 こんなに早く前言撤回しようと思ったのは生まれて初めてだろう。

 あぁ、恥ずかしい。穴があったら入りたい。

「俺は慎ましやかな胸が最高って言い張ったんだが、御遣いさんは巨乳も良いといってきてだな」

 今を以って、天の御遣いの評価を最低に認定。太守任命の件はなかったということで。

「何!? なんで俺を呼ばなかったんだよ」

 もはや、情報収集に意味なないだろう。

 さて、はやく洛陽に帰って、あの娘に会いに行こうっと。

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 警邏の途中、階段に腰を掛ける真桜。

「はぁ、隊長がまさか意識不明の状態が続いてるなんて、有り得へんわ。はよう起きてくれへんかなぁ」

 誰に行ったわけでもない、小さな独り言。

 いや、背後に人がいなかったら独り言だったのかもしれない・・・・・・。

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「お兄さん、お兄さん、もう朝ですよ〜」

「・・・・・・」

「早くしないと、朝ごはん無くなっちゃいますよ〜」

「・・・・・・」

「おおっ、あんなところに綺麗な女の子がっ!!」

「・・・・・・」

「起きれば、風に悪戯できる権利をあげますよ〜」

 ピクッ

「・・・・・・」

「少し反応があった様にも見えましたが、駄目ですか。仕方ないですねぇ」

「・・・・・・」

「せっかく、風の全てを懸けて仕えるに足る人を見つけられたのにこれはないですよ? お兄さん」

「・・・・・・」

「支えるべき太陽はこんなところで消え失せる程度の光ではないと信じていますからね」

「・・・・・・」

「おや、なんだか騒々しいですね?」

 

「――――――、これはこれは。お兄さん、お兄さん」

「・・・・・・」

「やっぱり、まだ駄目ですか。取り敢えず風は行ってきますよ?」

「・・・・・・」

「はやく、起きてくださいよ〜。流石にこれは風たちでも抑え込むのは無理そうなので」

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「ちょっ、ちょっ、何!? これ、どうなってんの!」

 街の住人が続々と城の方に向かって行く。

 何だ、これ。天の御遣いがはじめた宗教か?

 いや、それにしては人の顔が必死すぎる。必死と言うより、真っ青に近い。

 一体、城に何があるというのか? 

 どうやら、帰るのはもう少し後になるらしい。

「とにかく、ボクも行ってみなきゃ!」

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「ええぃ、貴様ら、止まらんか!!」

「取り敢えず、落ち着け! くそっ、この人数では声が通らん」

 城にはこの街の住民が押し掛けていた。

 門の前には、警備隊らしき人が必死に住民をたしなめようとしている。

 一体何があったのか?

 住民の顔は熱病にでも侵されている様な感じだ。

 重税を課せられた? 徴兵令がきつい?  

 周囲は悲鳴や怒号の様な声で一杯で何を言っているか分からない。

 かろうじて聞こえてくる声を懸命に聞き取ってみる。

 

「御遣い様は、一刀様は大丈夫なのですか!」

「兄ちゃんが意識不明ってのは本当なのかよ!?」

「死んでしまったりはしませんよねぇ!!!」

 

「えっ?」

 御遣いが意識不明? 

 ということは、ここにいる人は御遣いを心配してここに集まってきていることだろうか。

「起きて下さいよぅ、一刀さん! あなたが来てくれなくなったら、私はどうすればいいんですか!? あなたがうちの店を宣伝してくれたからやっと繁盛してきたっていうのに、私はまだあなたに何も返せていないじゃないですかー!!」

 さっきの店の売り子が泣き叫んでいる。

「あんとき酒場で、俺が呟いた夢をあんたは馬鹿にせず、聞いてくれた! 一緒に夢を叶えようって言ってくれた! そして、みんなが平和に暮らせる街を作ろうって頑張ってきたじゃねぇか。そんな人はあんた以外にいねぇんだよ! 頼む、目を覚ましてくれよ!!」

 酒場で話していた男が周りの目も気にせず、泣いている。

 

 

「あぁ、そうか。そうだったんだ」

 やっと分かった。だから、私が聞いた時には駄目な部分を話してきたのか。

 あまり詳しく知らない人を他人に紹介するときは、その人の良い部分しか言わないだろう。

 しかし、気の許せる仲間、家族を紹介するときは違う。

 その人の変わったところを言ったり、ふざけたことを言いながらになったりする。

 住民から馬鹿にされていたんじゃなくて、もはや、住民の一部になっているんだ。

 すごい。そんな人大陸中探しても見つからない。

「この人に会ってみたい・・・・・・」

 いつの間にかそう呟いていた。

 それと同時に門が開いた。住民が押し込むのとは、逆の方向に。

 開かれた門の先にいたのは光輝く服を着た青年の姿だった。

 一斉に周囲が静まりかえる。

「隊長!」

「お館っ!」

「お兄さん」

 警備の呟きが聞こえるほどに静かであった。

「みんな、心配掛けてごめん! 馬に乗る練習してたら、転んで頭打ってちょっと寝てた。でも、もう大丈夫だから!」

 少し間が空いた後、歓喜の声が響き渡った。

「ほんとに、ほんとに大丈夫なんですか?」

「あぁ、勿論さ! また、お店に寄らせてもらうよ」

「この街はまだこれで終わりじゃないよな?」

「まだまだやることはたくさんあるからね。夢を叶えるまで俺はくたばったりしない!」

 もはや、街はお祭り騒ぎだ。

 これでは今日行っても恐らくは話にならないだろう。

 

 ごめん、もう少し帰るのが遅くなりそう。

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「・・・・・・、という訳で、貴方、北郷一刀をこの襄陽太守に任命します。はい、これが任命書」

 俺が目覚めて一夜明け、朝廷からの使者がやってきた。

「あ、ありがとうございます。でも、俺で良いんですか?」

 実際に手渡されると、なんだかいけないことの様に感じられた。

「なんで?」

 相手は目を丸くしていた。何を言っているか分からない、言葉にしなくても、そう言っている。

「なんでって・・・・・・。特に実績もないし」

「実績なら、この前の黄巾党討伐があるでしょ」

 でも、あれってほとんど華琳と厳顔さん、黄忠さんのおかげだし。

「何処の馬の骨とも分からないやつに太守なんて」

「アンタ、バカ? じゃあ、ある程度位がなきゃ上に行けないなら、なんで肉屋だった何進が朝廷を牛耳ってるのよ。第一、曹操と厳顔のお墨付きがある時点でその部分は問題ないわ」

 確かにそうだ。何進は平民の出だったな。宦官の孫と現太守の推薦ならばかなりの説得力がある気がする。

「で、でも」

「それに、昨日のあの騒動を見て、アンタ以外を太守にするっていう選択肢がないわ。あんなに住民に愛されている太守なんてそうないないわよ」

 そう言われると何も言えないし、嬉しくて頬が緩んでしまう。

「そうですか、じゃあ、ありがたく頂戴させてもらいます、賈駆さん」

「えぇ、粉骨砕身で頑張ってちょうだい」

 会話が終わるや否や、帰ろうとする賈駆さん。

 賈駆文和。董卓配下の将にして、後の魏の三公に列せられるほどの知略の持ち主。

 挙げる策に失敗は少なく、事態の変化にも柔軟に対応出来る優秀な人物。

 俺としてはもっと話を聞かせてもらいたい。なにせ相手はあの賈駆なのだから。

「もう帰るんですか?」

「待っている人がいるし、仕事も溜まっているからね」

「まっ、待って下さい! 最後に一つだけ質問させてください」

 話を聞けないのは残念だが、それならば言っておかなくてはいけないことがある。

「何?」

「董卓って人知ってますか?」

 まずは、ここから聞かないと前提が狂う。

「アンタ、舐めてんの? 知ってるも何も月に私は仕えてんだから、知ってるに決まってんじゃない」

 軽く怒られた。この世界での賈駆と董卓は仲がいいのかな? あの表情からすると、董卓に仕えていることに誇りを持っているようだ。

「! なら、風評に気をつけてください」

 言い方が悪いがこう言うしかない。

「は? 何、月が暴政を振るっているとでもいうの? 喧嘩売ってる?」

 やばい。キレかかってる。かなりきつい視線を浴びせられてる。もし視線で攻撃が出来るなら、俺は半殺し状態だ。

「いや、そうじゃなくて。今日、賈駆さんに会って、賈駆さん程の人が仕えててそんなことは無いと思ったんだけど。たまに、洛陽で董卓って人が酒池肉林を作って、私腹を肥やしているって噂が流れているから」

「ほんとなの、それ!?」

 声は驚いているが、目は俺から逸らされていない。

「うん」

「・・・・・・、情報ありがとう。洛陽の中に居ると外のことがあんまり入ってこないから、助かったわ」

 信じてくれたのか、すっと、優しい表情に変わる。

「もし、また新しい情報が入ったら連絡しますか?」

「うん、お願い。手紙は呂布宛にしてちょうだい。私とか董卓にすると中身を見られるかもしれないから」

「分かりました」

 偽装しなくちゃいけないとは。朝廷の中はもうそんなに不安定なのか。

「それじゃ。良い経験させてもらったわ」

 賈駆さんは颯爽と去って行った。

 

「隊長、どうしてあんな嘘ついたの〜?」

 沙和がさっきの俺の質問に食いついてきた。

「もし、俺の思う通りなら、これからまた大きな戦いが始まる。そして、その鍵になるのは董卓さんなんだ。その戦いでどう立ち回るかによって、俺たちの先も決まってくると思う」

 俺の知る三国志ならこの後反董卓連合が結成される。そしてそこから群雄割拠になって今よりもっと大きい戦いがいくつも起こる。

「だから、あえて種をまいておいた、ということですか〜?」

 風が俺の意を酌み取ったかのように合いの手をいれる。

「うん。出来ることなら戦いは起こらない方が良い。その為に先手を打っておけば戦わなくて済むかもしれないだろ?」

「なるほど、だからお館が嘘をついてても賈駆には分からなかったわけか。その気持ちは嘘ではないからな・・・・・・。ってどうしてみんなそんな驚いた顔してるんだ?」

 一瞬の沈黙の後、代表して風が

「いやぁ、焔耶ちゃんがまさかそこまで分かっているとはみんな思ってなかった訳でして〜」

 と、みんなの心の内を代弁してくれた。

「なんだとぉ! こ、これでも一応考えるようにして入るんだからな。脳筋といつまでも言われる訳にはいかんしな」

 真っ赤になりながら、起こる焔耶。うん、そういうことが可愛い。

「良い心がけだと思いますよ〜」

「それに、起こってしまったなら、そのときに選べる選択肢も多い方が良い。この後どうなるかはまだ分かんないからね。とまぁ、先のことはさておいて。みんなに心配かけちゃったから、今日は俺の奢りでなんか食べに行こうか!」

 話が重くなってきたので、話題を変える。

 どうせ、先のことなんてどうなるか分からない。

「流石、お館。話が分かる」

「よっしゃ、やっぱ天の御遣いは一味ちゃうなぁ」

「あっ、でも真桜のせいでこうなったんだから、真桜に奢ってもらおうかな?」

「そんな、殺生な〜」

「うそうそ、んじゃ、行こうか」

 

「そういえば、俺が眠ってる間、皆来てくれた気がしたんだけど、どんな話してたの?」

 勿論、その質問に応えてくれる人はいなかった。

説明
物語としては大して進んでいませんw
ですが、自分としてはいろんな人と一刀の繋がりを感じてもらいたかったので書いてみました。
目標としては意外な人が意外なところにいる恋姫を目指してます
コメント・感想よろしくお願いします
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コメント
沙和エエ娘やなーToT> 一刀よ、一体君はナニを熱く語ったんだ?^^; 皆家族みたいで良い方々ですよね・・・一度往ってみたくなります^^(深緑)
>>月蛍さん ありがとうございます。最近は更新が滞っていますが、ゆっくりながらも次を書いておりますので、気長にお待ちくださいませ(桜花)
文章が読みやすくて私好みです^^しかもこんな展開…期待せずには居られません!!というわけで更新頑張ってくださいね^^(龍生)
>>HIMMELさん コメントありがとうございます。恋姫は人の絡みが国ごとの方が書きやすいのですが、あえてあんまり見ない絡みで行こうと思っています(桜花)
三羽烏と一緒の行動なので、てっきり魏方向に進むかと思いきや焔耶も仲間になりますし、展開が見えない感じで面白いです。色々助言したりと、原作以上に優しい一刀という感じで好きですw(HIMMEL)
>>シュンさん コメントありがとうございます。そうですね、今の一刀には一般人目線での考えをメインにさせてるつもりです。(桜花)
治世ってやっぱ大事ですよね。一刀の能力は原作以上に発揮されてるかもですね。(シュン)
>>ZEROさん コメントありがとうございます。次は意外な人を出すつもりです(桜花)
まあ、一刀ならこんな風になるかもしれませんね。 次はどんなことが起こるか楽しみですね。(ZERO&ファルサ)
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