少女の航跡 第1章「後世の旅人」1節「カテリーナ・フォルトゥーナ」
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 ある平原があった。

 広大な平原。どこを見渡しても、辺り一面が緑色の大地。地平線の彼方には遠くに山脈が見

える。そんな、途方もなく広い緑色の絨毯を敷いたかのような平原があった。

 それは『リキテインブルグ』という国の大半を占める草原だ。名を《スカディ平原》と言う。それ

は、母性的象徴を示す大地の女神から付けられた名前だった。

 ここには美しい自然があった。様々な種類の植物、動物、その皆が共存していた。ここは、た

だいるだけでも身も心も癒されていく。そして同時に、世界の広さを知ることが出来る、雄大な

土地だった。この広さを測れた者はいない。どこまでも続く、果てしなく続く平原だった。

 それが人間や、勢力を持った亜人種達の激しい争いに巻き込まれてからも、大きく変わる事

はなかった。たとえ激しい戦争で野が焼かれ、木が燃やされても、自然の力は強かった。まる

で生物の行う行為など無視するかのように、またたく間にそれは再生していった。焼けた野に

は、あっという間に草が生い茂る。

 人はそれを、大自然を支配する神の力だという。そして、神の怒りに触れてはならないと…。

だが、人間や亜人種は戦争を繰り返した…。

 

 

 

 私達はそんな平原の高台にいた。燦々と照り付ける日中の太陽の中、馬にまたがって平原

の様子を一望していた。ここからは、遥か彼方までその姿を望む事が出来た。

 やがて、平原に大勢の馬に乗った人々が現れる。

 多くの馬の走る音、そして金属の擦れる音がし、吹きすさぶ風だけが静かだった平原が騒が

しくなってくる。馬に乗った人々は皆、頑丈そうな甲冑を纏っていて、ところどころに緑色の旗が

見えた。旗には翼の生えた女騎士、セイレーンの騎士の姿が金色で描かれている。

 それは、『リキテインブルグ』の《フェティーネ騎士団》だった。軍勢をなしてどこかへ向かおう

と、平原を疾走している。

 私達は、その騎士団の姿を離れた所から眺め、その様子を伺っていた。

「行きますか…?」

 私は尋ねた。私のすぐ隣にはロベルトという男がいた。

「ああ…」

 彼は低い声でそれだけ答えた。

 その男、ロベルト・フォスターは、私と行動を共にしている男。旅を続ける放浪人である私は、

3ヵ月ほど前に彼と出会った。ロベルトは40歳ぐらいの男、結構大柄で、まだ若い女である私

にとっては、顔を上げて見上げる程の身長と体格がある。さらに私の乗る白馬よりもさらに大

きな馬に乗っているものだから、私は彼の肩程の高さも無かった。

 茶色の服や濃い色のマントを羽織り、つばのある帽子を目深く被っている、かなり異質な格

好だ。そして素顔が見えにくい。そもそも彼には謎が多かった。3ヵ月も行動しているのに、ど

この国の出身かも教えてくれない。人間である事は確かだが、彼は口を開く事が少なかった。

ただ色々な所を旅しているという事だけは教えてくれた。

 私は、そんなロベルトと共に馬を走らせた。高台から一気に駆け降り、『フェティーネ騎士団』

の軍勢へと近づいて行く。

 側まで寄って行くと、私はその軍勢に圧倒されそうになった。何十もの騎士達が一斉に馬を

走らせていたから、その音も凄かったし、威圧感、迫力もあった。

 何とか、その軍勢の一端に私達は追いつく。初め、騎士達は私達の姿にまるで気付いていな

い様子だったが、その一部が私達の方をちらりと向き、馬の足を緩めさせた。

「何者だ?」

 一人の黒い甲冑を付けた男が、私に向かってそう言った。とても乱暴な言い方だ。まるで私

が怪しい者であるかのように。でも、彼らからして見れば、私たちはそうなのだろう。

「あの…、カテリーナ・フォルトゥーナさんに会いたいんですけど…」

 私は、馬を彼らの馬の速さに合わせ、答えた。だが、その威圧感のせいか、随分と弱々しい

口調になってしまった。

「我々は忙しいのだ。騎士団長がお前のような小娘に構っている時間はない。さあ、帰った帰

った」

 まるで話を聞いてくれる様子はない。私はため息をつきそうになった。女で、しかもこんなに

ひ弱そうに見えるのだから、屈強な騎士達にして見れば、たぶん、邪魔者にしか思われないん

だろう。

 だが、私は帰るわけにはいかなかった。再び足を速めようとする騎士達に馬の足を合わせ

た。

「とても大事な用事なんです! カテリーナさんに会わせて下さい!」

 今度は大きな声で言ってみたが、

「しつこいぞ」

 と、本当にしつこそうな顔で睨まれてしまった。

 しかし、その時、軍勢の前方の方の馬が足を止めた。それに合わせるようにして、やがて騎

士達全員が止まった。

 少しの間の後、騎士達が道を空け、誰かが私達の方へとやって来る。

 銀色の鎧に全身を包んだ、人間の女騎士だった。兜は被らず、銀色の髪の毛を短く切り揃え

ている。冷たく濡れたような青い瞳をしていて、美しいが、目つきが鋭く、少し怖い顔をした女性

だ。歳は多分、私より少し上なぐらい、まだ20歳にもなっていないだろう。それでも、私のよう

に顔にあどけなさがあったりしない、大人びた人だった。

 その姿は、周りにいるどの騎士達よりも存在感があった。他の騎士達とは姿が違い、浮いて

見えるという事もあったかもしれない。しかし、彼女にはどことなくその存在を感じさせるものが

あった。背の丈も、それほど大きくはないのだが。

ただ、彼女のその背中には、かなり大きさの、銀色の両刃剣の姿が見えた。彼女の身長ぐら

いはあるかという程の剣があった。

 その女騎士は、私の側に近づいてきて、私と目線を合わせた。

「あなたが、カテリーナ・フォルトゥーナさんですね?」

「そう言うあなたは、ブラダマンテ・オーランド」

 カテリーナは私より低い、でも澄んだ声でそう言った。 

 

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「私の事を、ご存知なのですか?」

「噂は聞いているよ、北の街、《ハルピュイア》で、護衛として活躍している娘がいるってね」

「ええ…、一応…」

 周囲の騎士達は、今ではその視線が痛いくらいに私達の方を向いていた。どうも、私がカテ

リーナと話せている事が意外であるようだ。

「彼は、知らないな」

 カテリーナは、私の後ろにいるロベルトの姿を見て言った。ロベルトは黙ってこちらを向いて

いる。

「あ、その、ロベルトさんと言います。私と一緒に行動してくれている。その…、悪い人じゃああ

りません」

 カテリーナは彼と少しの間目線を合わせたが、すぐに私の方を向いてきた。

「それで、私に何の用事だ?」

 私は、自分と目線を合わせるカテリーナに少したじろいでしまう。騎士団長というだけあって、

その視線には威厳がある。だが私は、すぐに自分の白馬に吊るしている荷物入れの中から、

青い封筒を取り出した。

「あの、これ、『セルティオン』の王様からのものです。大至急、カテリーナさんに渡すようにと頼

まれて、それでここまで会いに来たんですけど…」

 その青い封筒をカテリーナに渡した。彼女は金属の手甲を付けたままの手でそれを受け取っ

た。

「『セルティオン』? いったい何の事だ?」

 カテリーナは、青い封筒を見つめる。多分、そこに描かれている《セルティオン》の紋章を見

ているのだろう。

「私達は、ただ渡してくれって言われただけですから…、その…内容までは知らないんです…。

でも緊急だって」

私がそう言ってしまうと、カテリーナは封筒を見つめるのを止め、手甲を付けたままの手で慣れ

たように封筒を切り、中から便箋を取り出した。

 カテリーナは文面に目を走らせる。彼女がその手紙を読み終わるまでに、さほどの時間はか

からなかった。

「悪いが…、『セルティオン』の王に伝えてくれ。私は今、貴国の王都まで行っている時間は無

いってな」

 破れた封筒と便箋を私に渡そうとして、カテリーナが言った。

「でも、あなたをどうしても一緒に連れてきて欲しいと…」

 カテリーナの冷たく濡れているガラスのような瞳を見て、私は言った。

「だけれども、私達は今忙しい。抗争中の『ディオクレアヌ革命軍』との最終決戦に向かおうと

言うところなんだ。ここから『セルティオン』じゃあ、1日かかってしまう。こんな時に騎士団長で

ある私がいなきゃあ、色々とまずいんでな。だから王にそう伝えてくれ」

「どうしてもあなたに来て欲しいそうですよ…」

 私は破れた封筒を受け取らなかった。

「悪いけど…」

 カテリーナがそう言った時だった。

 突然、静かに私達を見つめていた騎士団の軍勢がどよめき出した。そして、

「敵だ! 敵襲!」

 誰かが叫んだ。

「何だ? どうした?」

 カテリーナは騎士達の方を振り向く、

「囲まれています! 何者かに囲まれています!」

 その声に、カテリーナを含めた私達は周囲を見回した。

 いる。確かに小さな影、人間よりずっと小さな者たちの姿が。彼らはフードを目深く被り、銀色

の弓矢をこちらに向けて引いていた。彼らは亜人種、ゴブリンだ。ゴブリンの中でも弓矢を使う

種族、この平原に数多く住んでいる生き物達の種族の一つだ。私の見える範囲に20匹はい

た。だが、いつの間に現れたのだろう。さっき高台から平原を眺めていた時は、私達や騎士達

以外は、何もいなかったはずだ。

「危ない!」

 誰かが叫ぶ。小さな者達は一斉に弓矢を引いた。黒色の矢が日光に輝き、飛んで来た。矢

は群衆の中に突入していく。騎士団の何人か声を上げた。矢に当たったらしい。

 だが、カテリーナはそんな事を気にしている様子は無かった。

「フン、これじゃあつまらないな」

 彼女はゴブリン達の方を向いて、冷静に、強気に、そう言い放った。そして、背に吊るしてあ

った大剣を抜いた。まさか、とも思ったが、彼女はそれを片手で楽々と抜き、馬上で軽々と振り

回しながら構えた。剣の、その大きさでは何キロも重さがあるに違いないのに、しかも彼女の

体など、私より少し大きい程度だというのに、彼女はその大剣を楽々と振り回して、ゴブリン達

に刃先を向けて見せた。

 カテリーナに臆する様子はない。彼女はゴブリン達の方に向けて馬を走らせた。疾風のよう

に彼女は駆ける。

 カテリーナに向けて黒色の矢が放たれた。一斉に飛んでくる何本の矢。だが、カテリーナは

向かう。そして彼女は、自分に矢が当たる直前に、走る馬上で大剣を一閃した。すると、彼女

の方に飛んで来ていた黒色の矢が、あるものは弾かれ、空中に弧を描き、あるものはまるで

焼き砕かれたように粉々になった。

 どうやらカテリーナの持つ大剣には、稲妻のような力が纏っているらしい。ゴブリン達へと向

かって行く彼女の剣は、青白い火花のようなものが迸っていた。その力で矢を、焼き切るように

して粉々にしたのだ。

 そしてゴブリン達へと、彼らが次の矢をつがえるよりも前に、カテリーナは彼らの元まで馬を

走らせ、手に持った大剣で、一匹のゴブリンを豪快に切り上げた。そのゴブリンは彼女の頭上

よりも高くまで舞い上がった。

さらにカテリーナは、そのゴブリンが地面に落ちて来るよりも前に、側にいたもう一匹のゴブリ

ンを大剣で仕留める。

 そしてさらにもう一匹、もう一匹……。とてつもない速さと動きと剣技で、彼女はゴブリン達を

なぎ倒していった。

 大剣の一撃の破壊力は凄まじいらしい、一匹のゴブリンが離れた所にいる私達の側にめで

飛んで来ようとしていた。

 カテリーナが10匹のゴブリンを剣でなぎ倒すのには、彼女が最初に切り上げたゴブリンが地

面に落下してくるまでの時間もかからなかった。カテリーナが動きを止めた頃ようやく、切り飛

ばされたゴブリン達がばたばたと地面に落下し、私のすぐ側に、一匹が飛んで来ていた。

 私の側に飛んで来たゴブリンからは、白い煙が上がっていた。

「凄い…」

 思わず声を漏らしてしまう私。

 だが、まだ油断は出来なかった。平原に次々とゴブリン達が現れる。まだまだ沢山いるよう

だ。騎士団は彼らに囲まれている。しかも黒色の矢は次々に飛んで来ていた。私は、その矢に

当たらない様に、身を縮めなければならなかった。

 騎士達も応戦しようとしていたが、突然の奇襲に押され気味の様子だ。対応しきれていない。

 ゴブリン達は、私達を取り囲み、一斉に矢を引いてくる。私も何度かその矢に当たりそうにな

った。群集の外側にいたからなおさらだった。

 と、突然、爆発音が轟いた。何かが弾けて破裂するような音が轟き、それが平原に響き渡っ

た。

その音に合わせるかのようにして、一匹のゴブリンが宙に飛ばされた。カテリーナの剣にやら

れたのではない。そうなったのは、彼女から離れた位置にいる一匹であった。

 皆の視線が、ゴブリン達に向けて馬を少しずつ進ませる一人の男の方へと向いた。

それはロベルトだった。

 彼は銃を持ち、それをゴブリン達に向けて発射していた。また一つの爆発音が響き、さらにも

う一つ。ロベルトは銃を発射する。そのたびに、正確に一匹ずつゴブリン達が飛ばされた。

 ただの銃ではこんなに速いスピードで連射する事など出来ない。だが、ロベルトの持つ銃は、

その引き金の所に付いているレバーを下げる事で、次々と弾丸が装填される仕組みになって

いた。

 ロベルトはほとんど同じ間隔で、その銃を発射した。狙いを定め、引き金を引き、弾丸を発射

する。そして、レバーを下げて新しい弾を装填して、また発射した。彼のその一連の動きは手

馴れたものだった。

 彼が6発も弾丸を発射すると、彼に向けて矢を発射しようとしていたゴブリン達は、その爆発

音の迫力に恐れおののいたのか、弓を捨て、私達の方に背を向け、一目散に逃げて行ってし

まった。

 彼らの逃げ足は速かった。みな逃げてしまうと、辺りは静かになった。騎士達は深追いをしな

かった。

 カテリーナが私の方にやって来る。彼女はすでに、ゴブリン達を切り捨てた大剣を背中へと

戻して吊るしていた。

「あんた、随分いい仲間を持っているな」

 彼女はこちらに戻って来るロベルトの方を向いたまま、私に言った。彼は発射したばかりの

銃を、背中に吊るしていた。

 この銃は、私のロベルトについて持っている謎の一つだった。銃というもの自体は私も知って

いるが、彼の持っている、こんな早い間隔で連射できる銃など、聞いた事も無い。彼はそれを

改造した物だと言っていた。本当かどうかは私も知らなかったが。

 

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「一体、何だったんだ?」

「今の武器は凄いぞ」

「どこの国の人間だ? 人間なのか?」

 騎士達が騒いでいる。ロベルトと、彼の使った銃を物珍しそうに見ていた。ゴブリン達の事な

ど忘れてしまったかのように。

「こいつらは、ただ襲ってきた訳ではないようだな」

 私の側まで戻ってきたロベルトが、カテリーナに向かって、彼女に対して初めてその口を開い

た。

「どういう事だ? 盗賊まがいの事をする亜人種など良く出会う。まあ、こんな昼間に堂々と襲

ってくるのは、滅多に無いけれどな」

「そいつの持っている矢筒に書いてある紋章を見れば、良く分かる」

 私の側に倒れている一匹のゴブリン、彼の背中に吊るされている矢筒をロベルトは言ってい

た。そこには、「D」と飾られた文字で描かれている。

「『ディオクレアヌ革命軍』の紋章か…」

 カテリーナは呟いた。

 それを聞いた騎士達が、何やらぼそぼそ言い合った。

「『ディオクレアヌ』の回し者ですって?」

 と、騎士達の群衆の中から、女性の声が聞こえてきた。それは、こんな場では不釣合な程、

とても綺麗な声だった。

 やがて一人の、ミスリル銀という金属で出来ているらしい鎧を身に着けた女性が、美しい白

馬に乗って、騎士達の中から現れた。

 長い髪の毛と瞳が、美しい緑色をしていて、肌が白い。背はカテリーナよりも高く、耳が尖っ

ていた。そのような容姿から、エルフの女性かとも思ったが、耳の尖り方がそれほどではない。

たぶん人間とのハーフエルフなのだろう。それにしても、随分と綺麗な女性だ。こんな場所にい

るよりも、宮殿にいる姿の方が似合うかもしれない。

 しかし、すらりとした体に、美しく乱反射するミスリルの鎧を着け、そして一点の曇りも無いよう

な白馬にまたがる姿は、さながら戦いの女神であるかのようだった。

「こんな紋章のついたものを持っているんだから、間違いないだろうな」

 ハーフエルフの女性にカテリーナが言った。

「あらあら、だとすると。『ディオクレアヌ軍』は兵力不足で、こんな亜人種達にまで頼らなくちゃ

ならなくなったのね。壊滅寸前だって言う噂は、まんざら嘘でもないようだわ」

 その女性の騎士団長に対する言葉遣いは、上品なものではあるが、随分と砕けた言い方だ

った。

「だけれども、気になるわねぇ。今までこんなことは一度も無かったわ」

 また別の方向から、別の女性の声がした。そして、騎士達の中からその姿が現れる。

 今度は多分、ドワーフの血が入っている女性だ。日に焼け、活動的な肌をしていて、カテリー

ナよりも小さい。でも、私よりかは少し大きいから、こちらもハーフなのだろう。髪の毛は黒髪に

銀髪が混じっていた。顔立ちは元気の良さそうな、また活動的な女性の顔。明るい印象を受け

る。彼女は、体にぴっちりとし、赤みがかった金属の胴鎧を着ていた。

 ハーフエルフもハーフドワーフも、女騎士であることに間違いは無いようだ。しかも、兜は被ら

ず、その顔を晒している事から、高い階級の騎士であるらしい。

「でも、ゴブリン無勢と手を組むなんて落ちぶれたものだわ。ねえ、カテリーナ?」

 ハーフエルフの女性がカテリーナに言った。だが彼女は何も答えようとしない。真剣な顔をし

ていた。

 やがてカテリーナは私の方を向いてきた。

「なあ…、《セルティオン》の王は、とても大事で緊急な用事だといったんだな?」

「ええ…、そうですけど…」

 騎士達に囲まれている私は、少し肩身が狭い。カテリーナはそんな私を黙って、かつ真剣な

表情で見ていた。何を考えているのだろう。

「こんな時に、私を呼び出すほど火急な用事か…」

 彼女は呟く。

「はっはー、カテリーナ。あんた、この娘と一緒に《セルティオン》の王に会いに行く気ねぇ?」

 ハーフドワーフの方の女性が言った。

「ああ…、本気さ。どうも気になる事があるからな」

 カテリーナは二人の方を見て答えた。

「ゴブリン達が襲ってきた事で、かしら?」

 ハーフエルフが尋ねた。

「それもある。だが、それだけではない。妙な予感がするんだ」

「別にいいよ、行ったって。敵は殆ど壊滅状態なんだ、カテリーナ抜きでも十分さ。ただ、手柄

は全部、あたし達が頂くけどね」

 ハーフドワーフが楽しいことを言うかのように言った。

「構わないさ。そう言う事なら、私は《セルティオン》まで行って来るよ。後はクラリスとルージェラ

に全部任せる」

 どうも、ハーフエルフの方がクラリスで、ハーフドワーフの方がルージェラと言う名前であるら

しい。

「任せておきな」

「大した仕事にもならないでしょうけどね」

 と、二人のハーフ亜人種の女騎士達は口々に言った。

「と言う事さ、ブラダマンテさん。私はあんた達と一緒に《セルティオン》まで行く事にするよ」

「は、はい」

 私は一安心した。一時は騎士団長のカテリーナを連れて来れるかどうか怪しいものだった

が、何とか彼女は同意してくれた。一国の王の頼み事なのだ。うまく行かなかったら示しがつか

ない。

 そして私達は、カテリーナを乗せた馬と共に、騎士団の群衆から離れ、一路、《セルティオン》

へと向かう事になった。

 私達は、大勢の群衆に見送られ、その場を後にする。『フェティーネ騎士団』は『ディオクレア

ヌ革命軍』との決着を付けるため、平原の彼方へと向かって行った。

 カテリーナと私とロバートは、『セルティオン』へと急ぐ為、平原を騎士達とは逆方向へ向か

う。

 

 

 

 これが私とカテリーナ達との出会いだった。

 

 

説明
私のファンタジー小説です。
とにかくファンタジー小説を書きたいと思った動機から生まれた小説で、典型的なファンタジースタイルを取り入れつつ、また自分らしさも追及している小説になります。

小説の表紙絵などは、絵としても投稿しているので、キャラクターの容姿の参考にどうぞ。
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