真・恋姫無双 EP.42 邂逅編(1) |
一刀たちは、呉の街に入った。洛陽で詠が出会った男が教えてくれたのが、この街だったのである。
「確か、呂蒙という者の生家がここにあるらしいわ。華佗という医者とともに、そこへ向かったらしいのだけれど……」
「結構、広い街だなあ。闇雲に探すよりも、誰かに訊いた方が早いだろ?」
「ええ、そうね」
一旦、邪魔にならない所に馬車を止めた一刀は、御者台を降りて近くを歩いていた二人組の女性に声を掛けた。
「あの、ちょっと伺いたいのですが……」
「何かしら?」
品の良さそうな、一刀と同じくらいの年頃の女性が足を止める。すると、付き従うように隣に居た、目つきの鋭い女性が威嚇するように睨んできた。
(おかしな真似をしたら、殺すぞ?)
とでも言っているように思えて、一刀は引きつった笑みを浮かべた。
「えっと、呂蒙さんという方の家をご存じないかと思いまして……」
「呂蒙? ねえ、思春は知っているかしら?」
その女性が目つきの鋭い女性に尋ねると、少し考えて思春と呼ばれた女性が答えた。
「おそらく、華佗の診療所がそうかと」
「ああ、そういえば呂蒙という者がいたわね」
頷いた女性は、一刀に丁寧に道順を教えてくれた。
「華佗の診療所と訊く方が、きっとわかると思うわ」
「有名なお医者様なんですか?」
「腕が良いと評判なの。でもほとんどお金は取らないから、街の者からも慕われているわ。私も何度かお会いしたことがあるけれど、とても誠実そうな人よ」
「助かりました。ありがとうございます」
「構わないわ……誰か、病気の人でもいるの?」
心配そうに、女性は馬車の方を見た。
「まあ、そんなところです」
曖昧に答えた一刀は、礼を述べて馬車に戻ろうと歩き出す。途中で少し振り返ると、歩いて行く二人の後ろ姿が見えた。優しく道を教えてくれた女性の大きなお尻に、一刀は眩しいものを見るように目を細めたのだった。
呂蒙の生家は、人通りの少ない街の端の方にあった。到着するまでに何度か人に道を尋ねたが、確かに華佗の診療所としての方が有名だった。
「とりあえず、いきなり全員で行っても驚かれるだろうから、ボクと月、一刀の三人で様子を見てくる」
「そうだな。他のみんなは馬車で待っててくれ」
「わかったのです!」
患者のためなのか、開け放たれてある正面の門をくぐって、少し広い庭を進んで屋敷の入口で声を掛ける。すると、奥から女性の声で返事があった。
「すみません。診療時間はもう終わりなんですが……」
パタパタと小走りでやって来た女の子が、長い袖で顔を隠して言う。怒っているのか、少し睨んでいるような目つきだった。
「いや、患者じゃないんだ」
「あの……こちらに霞……張遼さんがいらっしゃると伺ったのですが」
「えっ!」
月が前に進み出て言うと、応対してくれた女の子は驚いた様子でこちらを見た。
「あの、どうしてその事を?」
「洛陽で訊いたの。確か――」
詠が男の名を言うと、再び女の子は驚いて目を見開いた。そして少し待つよう告げると、奥に戻って行く。やがてしばらくして、若い男性を伴って戻って来た。
「お待たせしてすまない。俺の名は、華佗。君たちは彼女の知り合いなのか?」
「私たちは……」
少し迷うように月がそう言って、詠と一刀を見る。二人が頷くと、今度ははっきりと答えた。
「私の名前は、董卓と言います」
彼女や一刀の名は、反逆者として有名だ。幸い顔は知られていないので、名告らなければバレることはない。余計なトラブルを避けるため、今までも安易に名告ることはしなかった。だが、名告りもしない者を会わせてもらえるとは思えない。ここに来るまでに、どうするかを皆で話し合った。
「大切な霞さんを命がけで助けてくれた……そんな方に嘘はつきたくありません」
月の強い想いもあり、正直に自分たちのことを話すことに決めたのだ。それでも月には、皆に迷惑が掛かるかも知れないという不安があり、詠と一刀はそれを後押しするように頷いたのである。
「ボクは賈駆、それでこっちが――」
「北郷一刀です」
「――っ!」
華佗は驚き、なぜか話をする月ではなく一刀の顔をじっと見つめたのだった。
「どうやら、彼女の待ち人が来たようだ……。わかった。張遼の部屋に案内しよう」
そう言って歩き出した華佗の後を、三人は顔を見合わせながら付いて行く。廊下を真っ直ぐ進み、渡り廊下の先の小さな離れに案内される。
「ここだ」
「ここに霞さんが……」
月と詠は込み上げる想いを抑え、そろってドアノブに手を掛けた。ゆっくりと開くその先に、ベッドで上半身を起こし窓の外に視線を向けている髪の長い女性の姿があった。
「霞さん!」
「霞!」
二人は名前を呼びながら、女性の側に駆け寄った。
「霞さん! 月です!」
「霞!」
手を取り、何度も声を掛けるが彼女に反応はない。
「俺が診た時から、ずっとその状態だ。心を壊されて、何の反応も示さない。ただ、手を引けば歩くし、食事や排泄も促せば自分で行えるようにはなった。多少は改善しているが、相変わらず会話は成立しない」
「そんな……」
月は張遼の手を握り、悲しげに目を伏せた。どうすることも出来ずに一刀が拳を握っていると、不意に詠が張遼の顔に耳を近付けた。
「何か、言っているみたい……」
「本当、詠ちゃん?」
「ええ、ちょっと待って……」
そのやりとりをじっと見守る一刀を、華佗が一瞥する。そして――。
「……か……ず……と……一刀?」
「えっ、俺?」
張遼の断片的な声を拾い、それを口にした詠の言葉に一刀は驚きの声を上げた。月と詠自身も驚いたように、一刀を見る。困惑する一刀が華佗に目を向けると、彼は大きく頷いてはっきりと告げた。
「そうだ、彼女はずっとその言葉だけを繰り返している。まるでそれだけは忘れまいとしているかのように、ただ『カズト』と――」
信じられないというように、一刀は首を振った。
「俺、張遼さんに会うのは初めてだよ。別人なんじゃないのかなあ?」
「そうだろうか。俺は彼女の言う名は、君のような気がするのだが……」
「ねえ、一刀。霞……張遼の名前を側で呼んでみて」
詠に言われ、一刀はベッドに近寄る。そして少し緊張しながら、彼女の名前を呼んでみた。
「……張遼さん?」
「……」
だが、やはり何の反応も示さない。
「ほら、違うよ」
「うーん……」
詠は唸り、月は残念そうに顔を伏せる。何だか自分が悪いことをしているみたいで、一刀はいたたまれなかった。華佗も一刀と会えば何か起こるだろうと思っていたので、この結果に肩を落としている。
(どうしたもんかなあ……)
せっかくこうして再会できたのに、今のままでは素直に喜べない。一刀は何か方法はないか考えた。すると、心の中に貂蝉の声が響いた。
(ご主人様……)
(貂蝉! そうだ、お前なら何か張遼を助けられないかなあ?)
(その事なんだけど、一つだけ方法があるのよ)
(本当に?)
(ええ、だけど――)
(だけど、何だ?)
(壊れた心を戻すことは出来ないわ。だから、もう一度初めから育てるのよ)
貂蝉の説明を聞き、真面目な顔で頷いた一刀は、なおも張遼に声を掛け続ける二人を呼んだ。
「月、詠、もしも張遼さんが笑ったり、怒ったり、泣いたりと昔のように戻れる方法があったとしたらどうする?」
「そんな方法があるの?」
「でも、そのために二人の事……みんなとの思い出をすべて忘れてしまうとしたら? それでも助けたい?」
一刀が訊ねる。月と詠は顔を見合わせて、迷わずに頷く。
「そんなの決まってるじゃない!」
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恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 僕はお尻の大きな女性が好きです。(※ただし蓮華に限る) 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
道を尋ねて行き成り国宝と鈴に当るとはどんだけ^^; 初見で見惚れる国宝は流石だw ・・・・・・霞ToT;(深緑) FALANDIA様、そうですね。まったく気付きませんでした。ありがとうございます。(元素猫) あれ?詠ってカクでしたよね?(FALANDIA) 一刀は相変わらずのフェミニストっすね(VVV計画の被験者) |
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