真・恋姫?無双 悠久の追憶・第十八話 〜〜雪白(せっぱく)の鬼人〜〜 |
第十八話 〜〜雪白(せっぱく)の鬼人〜〜
――――――――――――――――――――――――
『馬謖は鬼の子だー!』
『近寄るな、喰われるぞーっ!』
そう言って、周りの子供たちは私に石を投げてくる。
飛んでくる石つぶてが、自分がどれだけ周りから嫌われているかを教えてくれているようだった。
だけど小さな私にはそんなものより、皆から向けられる視線の方が・・・・・ずっとずっと、痛かった。
まるで人以外の化け物を見るような、恐怖と侮蔑が入り混じった冷たい目。
最初から、ここまでひどかったわけじゃないんだ。
だけどある事件をきっかけにして、私の居場所は村のどこにも無くなっていた。
石を投げる子供たちを見ている大人たちも、決してそれを止めようとはせず、同じような目で私を見る。
やめて・・・・・そんな目で、私を見ないで。
『鬼の子は、この村から出ていけっ!』
投げかけられる言葉のひとつひとつが、私の心に針のように突き刺さってくる。
・・・・どうして、私だけこんな目に遭わなきゃいけないの?
私はただ、皆と同じように普通に暮らせればそれでいいのに・・・・・
いくらそう訴えても、私の言葉は空しく罵声の中に消えていく。
違うよ皆・・・・・私は、私は・・・・・・
私は、鬼の子なんかじゃないっ―――――――――――――――――――――
『・・・知ってるよ。』
・・・・え?
『大丈夫。 わたしはいつだって、雪ちゃんの味方だからね。』
・・・・・・・・・・・・・・お・・・・・・・・・・・・・・・・・・ね・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゃん―――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・ん・・・・・っ」
「お、目が覚めたか?」
雪が寝台の上で目を覚ますと、その横で一刀が椅子に座って雪の顔を覗き込んでいた。
「ご主人様・・・・ここは?」
「医務室だよ。 気を失った翠と雪をここまで運んで来たんだ。 ついさっきまで皆居たんだけど、全員が仕事しないわけにもいかないからね。」
「翠?・・・・・・・・・!」
まだ半分寝たままの頭を抱えながら身体を起こすと、座っている一刀の後ろにある寝台では、翠が眠っていた。
それを見た雪は今の状況を理解したのか、表情を曇らせた。
「そっか・・・・・私、またやっちゃったんだ・・・・」
「・・・・覚えてるのか?」
「ううん・・・・・翠と戦ってた途中までは覚えてるけど、そこから先は全然・・・・・だけど、何があったのかは大体分かるよ・・・・」
「・・・・そっか。」
翠と雪の戦いで何があったのか・・・・・それは、できることなら一刀も思い出したくはなかった。
あの時――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「いけません! 誰か、雪ちゃんを止めて下さいっ!」
「えっ!?」
「・・・・・・ボクが・・・・・・・・・・・殺してあげる。」
“ビュオッ!”
「っ!?」
“バゴオォォン!!”
朱里の叫びに周りが反応した時にはすでに遅く、雪は右手に持った槍を翠に向かって真っ直ぐに投げた。
翠はとっさに身体を開いてかわしたものの、雪の放った槍は翠の後ろにあった木を粉々に粉砕し、更に後ろの石壁に深々と突き刺さった。
「・・・・まじかよっ・・・・・」
「翠、危ないっ!」
「え?」
「はあ゛ぁ゛ぁっ!」
“ガキィィィン!”
「ぐぅっ!?」
翠が飛んできた槍に気をとられている隙に、雪は一瞬にして翠の懐へと潜り込んでいた。
そして残った槍を両手で振りかぶり、力任せに振り上げた。
翠はかろうじてその一撃を受け止めるが、その表情は険しい。
「くっ・・・こんのぉーーっ!」
“ビュン!”
「・・・遅いよ」
“ズンッ!”
「ぐぁ゛っ!」
“ドサッ”
翠の力任せの一撃を雪は頭を下げて難なくかわし、がら空きになった翠の腹に鋭い蹴りを放った。
先ほどの試合とはまるで逆・・・・・小柄な雪の一撃で翠は身体ごと吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ。
「ぐぅ・・・・くっそ・・・・」
“ズンッ!”
「ぐはっ!!」
起き上がろうとした翠の上に雪は思い切りのしかかり、馬乗りのような状態になる。
そして両手に構えた槍を逆手に持ち、翠の頭上に振り上げた。
「さぁ・・・・これで終わりだ。」
「くっ・・・・・」
雪は暗い笑みを浮かべ、自分の真下にある翠の顔を見下ろしている。
まるで、この状況を楽しんでいるかのように。
「お姉さまっ!」
「やめるんだっ、雪!」
「やめて雪ちゃんっ!」
一刀たちの必死の叫びも、今の雪には全く届いていない。
「・・・・・・・・死ね。」
「っ・・・・・・・・!」
雪はもう一度“ニヤリ”と笑って槍を振り下ろし、翠はとっさに目を閉じた。
“ギィィィン!”
「!?」
しかし、振り下ろされた雪の槍が翠に届くことはなかった。
「・・・・そこまでだ、雪。」
「・・・・・・・・っ」
いつの間にか愛紗と星は二人のもとに駆け付け、雪の動きを封じていた。
振り下ろされた雪の槍を愛紗が青龍刀で止め、星は雪の首元に槍を突きつけている。
しかしそんな状況でもなお、雪の冷たい瞳は鋭さを失わずに、自分を囲む二人をにらみつけていた。
「動くなよ雪・・・・お主を斬りたくはない。」
「・・・・・邪魔するな。」
「悪いが、そうはいかんな。」
“ズビッ!”
「ぐっ・・・・・・・」
“ドサッ”
星は一瞬の隙に雪の首筋に鋭い手刀を食らわせ、雪は気を失ってその場に倒れこんだ。
「翠っ、雪っ!」
「お姉さまっ!」
「雪ちゃんっ!」
一刀たちも、慌てて二人のもとに駆け寄る。
「お姉さま、お姉さまってば!」
たんぽぽは倒れたままの翠に呼びかけるが、返事は無い。
どうやらさっきのショックで、気を失ってしまったらしい。
「安心しろたんぽぽ、気を失っているだけだ。 それより、問題は・・・・」
言いながら、星は倒れている雪に視線を落とした。
「雪ちゃん・・・・」
朱里も雛里も、泣きそうな顔で雪を見つめている。
二人だけではない・・・・この場にいた全員が、目の前で起こった出来事に衝撃を受けているはずだ。
さっきの雪の姿は、まるで―――――――――――――――――――――
――――――――――――『雪白(せっぱく)の鬼人』
雪が昔、村の人々からそう呼ばれていたらしいと、朱里の話で聞いた。
雪が水鏡塾に身を寄せていたのも、それが原因で生まれた村を追われたからだということもわかった。
それを知りながら朱里が何も言わなかったのは、朱里自身あの状態になった雪を一度も見たことがなかったからだ。
考えてみれば、最初に雪の話を聞いた時、疑問に思うべきだったのかもしれない。
勉強が好きなわけでも、得意なわけでもない雪がどうして、朱里や雛里と同じ塾に居たのか・・・・。
それは、そこにしか彼女の居場所がなかったからなのだ。
村を追われ、いきなり放り込まれた見知らぬ場所で、彼女が出会った初めての友達と呼べる存在が、朱里と雛里。
だから雪は、二人の事をあれほどのまでに慕っているのだ。
「私・・・・ちょっと外にでてくるよ。」
「え?」
起き上がった雪はゆっくりと寝台から降りると、まだ足取りがおぼつかないまま扉に向かって歩き出した。
「ちょっと待て雪。 まだ動いちゃ・・・・」
「大丈夫だよ・・・・少しだるいだけだから。」
「だけど・・・・」
「ごめん・・・・今は、一人になりたいんだ。」
「・・・・・・・・・」
今の雪を一人にするべきではないことは、一刀も十分理解している。
しかし、沈んだ雪の顔を見ていたら引き留めることができず、部屋を出ていく彼女の背中をただ黙って見送った。
“ガチャ”
「・・・・主。」
「!・・・・・星。」
雪と入れ替わるように扉を開けて部屋に入ってきたのは、星だった。
昨日雪の話をした時と同じ、険しい表情だ。
「今、雪が出て行くのを見かけましたが・・・・・様子は?」
「ああ、もうだいぶ落ち着いたみたいだから、とりあえずは大丈夫だと思う・・・・あの時の事は、覚えてないって・・・・」
「そうですか・・・・・・・翠は、まだ目を覚ましませぬか?」
星は、いまだに寝台に眠る翠の方へと目を向けた。
「うん・・・・翠にも、ずいぶん怖い思いをさせちゃったな。」
翠が気を失うなど、よほどの恐怖だったはず・・・・・それほど、あの時の雪は恐ろしかった。
あの時、雪は自分のことを『ボク』と言った。
それは、明らかにあれがいつもの雪ではなかったということ。
しかしそれでも実際に翠を襲い、殺すとまで言い放ったのは間違いなく雪自身。
普段の雪からは想像できない感情の無い冷たい目と、恐ろしいまでの殺意。
あれはまぎれも無く雪で・・・・しかし決定的に、雪ではなかった。
「申し訳ありませぬ。 私がもう少し早く止めに入っていれば・・・・」
「そんなことないよ。 星も愛紗も、ほんとに良くやってくれたと思ってる。」
もしあの時二人が雪を止めていなければ、雪の槍は翠に届き、最悪の事態になっていたかもしれない。
そうなれば、とても雪をここから追い出すどころの騒ぎでは済まなくなっていたはずだ。
それを防げただけでもよかったと、今はそう思うべきだろう。
「俺の方こそ、星の話にもっと気を配っておくべきだったんだ。」
「いえ、主のせいではありませぬ。 私も、まさかこんな形で不安が的中するとは思っていませんでした・・・・」
「・・・・星は、あの時の雪の事、どう思う?」
一刀の問いかけに、星は一度考えるようにうつむき、そして口を開いた。
「はっきり申し上げて、予想以上に危険です。 あれほどの殺気は、今まで感じたことがありませぬ・・・・認めたくはありませんが、あの場で雪と戦っていたのが私でも、愛紗でも鈴々でも、恐らく結果は変わらなかったでしょう。」
「・・・・・・・・」
一刀も、ある程度は予想していた答えだった。
奇襲に近かったとはいえ、翠を倒した時のあの強さ。
それに、あの時雪が放っていた殺気は、一刀でもはっきりと感じられるほどに強力で、今なら星の言葉の意味が良く分かる。
「・・・・そう言う主は、どう考えているのですか?」
「え?」
「私がいくら言葉を並べたところで、所詮私は一軍の将にすぎませぬ。 雪をどうするかは、主の考え次第です。」
「俺次第・・・・・」
一刀からしてみれば、それは自分には重すぎる問題だった。
きっと他の皆に相談したところで、皆星と同じことを言うだろう。
雪をこのまま城に残すか、それとも危険な存在として追い出すか・・・・・
自分の決断次第で、これからの雪の人生は大きく変わってしまうだろう。
もし追い出せば、雪は大好きな朱里や雛里とも離ればなれとなり、また一人あても無い旅に出なければならなくなる。
雪の過去を知ってしまった一刀には、もうその選択はできなかった。
「俺は・・・・雪を仲間にしようと思う。」
「・・・・・・なぜです?」
一刀の答えを聞いて、星の表情が少しだけ険しさを増した。
おそらく星はこの意見には反対なのだろうが、一刀としてもここで引く気は無かった。
「朱里が言ってたんだ。 雪は今までずっと一人で、今やっと自分の居場所を見つけようと
してるんだって。 それなのに今俺たちが投げ出してしまったら、あの子はずっと変われな
い・・・・だから、俺たちがあの子を支えてやらなきゃいけないと思うんだ。」
「また・・・・今回のような事が起きるかも知れないのですよ?」
「そうかもしれない・・・・だけど、今雪のそばにいてあげられるのは俺たちだけだ。 仲間と接していけば、きっと雪は変われる・・・・俺は、そう信じたい。」
根拠など何もない、ただの独りよがりなのかもしれない。
またいつか同じことが起きたとき責任を取れるのかと聞かれれば、はっきり言って不安はある。
しかしそれでも、苦しんでいるあの少女を救いたい・・・・・・その思いだけは、嘘ではないと自身が持てた。
「・・・・・・フフ。」
「星・・・?」
一刀の言葉で、今まで険しかった星の顔が不意に緩んだ。
「いや、失礼。 主があまりにも私の予想通りの事をおっしゃるので・・・・」
「・・・・予想通り?」
「はい。 主はきっと、雪を見捨てはしないと思っていましたよ。」
そう言って、星にしては珍しく・・・・なんて言うと失礼かも知れないが、優しい笑みを浮かべた。
「主が雪の事を知ってなお、仲間にするとおっしゃるのなら、私もあやつを仲間として歓迎しましょう。」
「星・・・・いいのか?」
「良いもなにも、先ほど言ったはずですぞ? 雪の今後を決めるのは、主だと。 ならば私は臣下として、それに従うまでです。」
『臣下として・・・・』それはおそらくただの建前だ。
きっと星も、雪の事を知った上で彼女を認めてくれたのだろう。
そもそも星は、自分の考えを曲げてまで人の下に着こうとはしない子だ。
「確かにまだ不安は残りますが、もしまた雪が仲間を襲うようなことがあれば、その時は我らが責任をもって止めて見せましょう。」
「星・・・・・あぁ、ありがとう。」
笑顔で言う星の言葉が、今の一刀にはとても心強く聞こえた。
そして星は、なぜか扉の方へと“チラリ”と目を向けた。
「さてと・・・・これで良いのだろう? 朱里、雛里。」
「はわっ!?」
「あわっ!?」
星が問いかけると、閉まっている扉の向こうから聞きなれた声が上がった。
「コソコソと盗み聞きとは、あまり関心せぬぞ?」
“カチャ”
「はう・・・・申し訳ありません・・・・」
「あう゛・・・・・」
恐る恐るといった様子で扉を開けて入ってきたのは、星の言うとおり朱里と雛里だった。
「朱里、雛里・・・・」
「フフ。 おおかた、雪が追い出されぬように主に頼みに来たのだろう?」
「はい・・・・でも、部屋に入ろうとしたら星さんと話している声がしたので、入るに入れなくて・・・・」
「・・・・・“コクコク”」
よほど雪の事が心配だったのだろう・・・そう言う朱里と、隣で頷く雛里の目の端には涙が浮かんでいる。
「そっか・・・・でも、それなら話は聞いてただろ? 大丈夫、雪を追い出したりしないよ。 あの子は、俺たちの大切な仲間だからね。」
「ご主人様・・・・・ありがとうございますっ!」
「・・・・ありがとうございます。」
今まで涙目だった二人の顔が、一気に明るくなった。
二人のこの笑顔を守れたことだけでも、自分の決心は正しかったはずだと思えた。
「さて、これにて一件落着ですが・・・それならば主よ、早く雪のところに行ってやるべきですぞ。」
「え?」
「今あやつは、きっと自分からこの城を出て行こうと考えているはずです。 その必要はないと、主の口から言ってやらねば。」
「・・・・ああ、そうだな。」
――――――――――――――――――――――――
城壁に手をかけ、もう遠くに沈もうとしている夕日を眺めている雪を見つけたのは、城の中を散々探し回った後だった。
「・・・・こんなところにいたのか。」
「!・・・・・ご主人様・・・・」
突然後ろから聞こえた声に振り向いたその顔にはいつもの笑顔はまったく無く、ガラス玉のようなその青い瞳だけが、夕日に照らされて美しく光っていた。
「結構探したぞ。 もう体はいいのか?」
「・・・・・・うん。」
一刀の質問に小さく答えると、雪は再び夕日の方を向いてうつむいてしまった。
「なんだよ、元気ないな。」
雪の隣まで歩み寄り、同じように城壁に手をかけて少しおどけたように話しかける。
「・・・・・いくら私でも、こんな時に笑ってられる訳ないよ・・・・」
「・・・・・・・・」
一刀の方を見ないままそう言った雪の横顔は沈んでいて、予想以上に落ち込んでいる雪の様子に、一刀も返す言葉が無かった。
二人の間に、少しの沈黙が続いた。
「・・・・私ね、昔からこうなんだ。」
「え?」
何か話さなければと考えていた一刀より早く、雪が口を開いた。
「一度頭に血が上るとわけが分かんなくなっちゃって・・・・・気がついたら、いつも周りの人が傷ついてる・・・・・今日みたいなことが、昔から何度もあった。」
「・・・・・・・・」
これは、朱里からも聞いていた話。
しかし雪本人の口から聞くのは、その何倍に増して重みがあるように感じられた。
「水鏡塾にいた頃も何度かあったんだよ。 その度に水鏡先生がなんとか話を収めてくれて、そのおかげで朱里先生たちにはなんとか隠してきたんだけど・・・・・もうバレちゃったな・・・・」
「雪・・・・・・」
「ほんと馬鹿だよね。 自分のことなのに何にもできなくて・・・・・せっかくできた仲間も傷つけて・・・・・」
話を続ける雪の目には、少しだけ涙が滲んでいるように見えた。
大好きな朱里や雛里にバレないようにと、必死に自分を押し殺し、嘘をつき・・・・それは、彼女にとってどれほどの負担だったことだろう。
その苦しみは、今までずっと桃香たちのような仲間に支えられてきた一刀には、とても想像出来るものではなかったはず。
「・・・・・私、この城を出てくよ。」
「えっ?」
うつむいていた状態から顔を上げ、雪は突然言い放った。
「だって、こんなことになっちゃたら誰も私のこと仲間だなんて思ってくれないよ。 それに、このままここにいたらまた同じことしちゃうかもしれない・・・・・これ以上、皆に迷惑かけたくないから・・・・・」
「そんなこと・・・・・・っ」
「せっかく仲間にしてもらったのに、ごめんね。 ご主人様。」
一刀の言葉を遮るように。雪は目の端に涙を浮かべたまま無理やり笑顔を作り、一刀に向き直った。
しかしその上辺だけの笑顔は、一刀にしてみれば辛いものでしかない。
「また・・・・そうやって一人になるのか?」
「え・・・・?」
思いがけない一言に、雪はの顔から笑顔が消えた。
「せっかくこうして仲間になれたのに、朱里と雛里とも再会できたのに、またそうやって無理に自分に嘘をついてまで一人に戻るのか?」
「そんな・・・・無理なんてしてない。 私は今までずっと一人だったんだから、これからだって・・・・」
「一人でいるのがいやだったから、俺たちのところにきたんじゃないのか?」
「!・・・・・っ」
一刀の言葉で、再びうつむいてしまう。
初めて会ったとき、雪は『一人でいるのは飽きた』といっていた。
それはそのまま、寂しいという意味だったのだと今になって一刀には思えた。
そして雪の返事が無いのは、おそらくそれが正解だということ。
うつむいたままの雪に、一刀は優しい声で言葉を続ける。
「雪は言ってくれたよな、俺たちの仲間になれて良かったって。 俺はあの時、本当にうれしかった。 あの言葉は、嘘だったのか? 雪は、俺たちの仲間でいるのは嫌か?」
「・・・・・・・・」
こんな聞き方をするのはずるいのかもしれない。
しかし一刀は、どうしても雪の口から本当の気持ちを伝えてほしかった。
仲間になれてよかったと言ってくれた、あのときのように。
「もう一度聞くぞ、雪。 俺たちの仲間でいるのは、嫌か?」
「・・・・・そんなこと無いっ! 私だって朱里先生や雛里ちゃんや、みんなと一緒に居たいよ。 だけど・・・・・」
「・・・・なら、居ればいい。」
「え?」
やっと聞けた雪の本心に、一刀の声はさらに優しいものに変わっていた。
「雪が仲間で居たいなら、ずっと居ればいい。 それを拒むやつなんて、誰もいないよ。」
「ご主人様・・・・・でも、そんなのウソだよ。 だって、私は・・・・・・」
そこまで言って、雪は再びうつむく。
せっかく少し明るくなった表情も、最初に戻ってしまった。
「あーあー、情けない面しやがって・・・・もっとシャキっとしろよ。」
「!?」
「翠っ!?」
突然聞こえた声に振り向くと、そこにはいつ目を覚ましたのか、さっきまで寝台で眠っていた翠が立っていた。
その隣には、朱里に雛里、そして星の姿もある。
「翠・・・・もう起きて大丈夫なのか?」
「ああ。 このとおりもう平気だよ。 起きたら星に、雪はここだって聞いてさ。」
「ええ、翠のやつがどうしても雪が心配で行くと聞かないので、こうして朱里と雛里も連れて様子を見に来たというわけです。」
「ばっ・・・星! 余計なこと言うなよっ!」
隣で薄く笑みを浮かべる星に対して、翠は顔を赤くして怒鳴る。
どうやらもう平気だというのは嘘ではないようだ。
「翠・・・・あの、私・・・・・・」
そんな翠とは対照的に、雪は突然現れた翠に対して申し訳なさそうに視線を向ける。
だが翠は雪の態度にあきれたようにため息をついた。
「はぁ〜・・・・だからそんな顔すんなって。 昼間のことなら、別に気にしてないさ。」
「でも・・・・」
「あのなぁ、お前はあたしに勝ったんだぞ? それなのにお前がそんなんじゃ、負けたあたしが馬鹿みたいじゃないか。」
「翠・・・・・」
「元気出してよ雪ちゃん。 笑ってない雪ちゃんなんて、雪ちゃんらしくないよ?」
「・・・雪ちゃんは、いつも笑ってないと。」
翠に続いて、朱里と雛里も雪を元気付けようと声をかける。
雪のことを一番心配していたのは、ほかならぬこの二人なのだ。
「朱里先生、雛里ちゃん・・・・・でも、見たでしょ? 私、今まで朱里先生たちにずっと隠して・・・・」
「・・・そのことなら、知ってたよ。」
「え・・・・・?」
「雪ちゃんが来てすぐの頃ね、水鏡先生が話してくれたの。 雪ちゃんには絶対言わないようにって言われてたけど。」
「それじゃあ・・・今までずっと知ってて私と・・・・」
「当たり前でしょ? どんな隠し事があったって、雪ちゃんは私の大好きな雪ちゃんだよ♪」
「・・・・朱里先生・・・・・」
その言葉は嘘ではないと、朱里の笑顔は語っている。
自分の全てを知りながら、なおも笑顔を向けてくれる朱里に、雪は涙を浮かべた。
「うんうん、雪ちゃんは笑ってた方が可愛いよ♪」
「!? 桃香、それに皆・・・・」
いつの間に現れたのか、翠たちの後ろには桃香、愛紗、鈴々、たんぽぽまで集まっていた。
「まったく、皆仕事もせずに何をしているのかと思えばこんなところで・・・・」
「そーゆう愛紗だって心配で見に来てるのだっ。」
「なっ・・・私は別に・・・・・」
「あはは、素直じゃないよね〜愛紗って。」
「う、うるさいぞたんぽぽっ!」
気がつけば、仕事に追われていたはずの仲間たちが全員城壁に集まってた。
兵たちが見たら、いったい何事かと驚くような光景だろう。
別に示し合わせたわけではない、皆それぞれが、本当に雪を心配してこうして集まったのだ。
それはそのまま、他の仲間たちも一刀と同じ思いだということを意味していた。
「皆、どうして・・・・・」
なぜ仲間を傷つけた自分なんかのために皆が集まったのか、雪には理解できなかった。
「どうしてなんて・・・・そんなの決まってるだろ?」
「え・・・?」
「雪が・・・・俺たちの仲間だからだよ。」
「仲間・・・・・」
一刀のその一言は、止まっていた雪の心を少しだけ動かした。
「雪、誰もお主のことを邪魔などとは思っていないぞ。」
「そうそう。 せっかく仲間になれたのにお別れなんて寂しいよ。」
「愛紗、桃香さま・・・・・」
「雪ちゃん、また昔みたいに一緒に暮らそうよ。」
「朱里先生・・・・・・」
「どうだ雪。 これでもまだ、城を出て行くなんて言うのか?」
「・・・・・・・・・っ」
畳み掛けるような皆の言葉に応えるように、今まで目に溜まっていただけだった大粒の涙が、その青い瞳からゆっくりとこぼれ落ち、彼女の白い肌をつたった。
それはまるで、今まで凍っていた彼女の心が、溶けて流れ出したように。
「はは、やだな・・・・私・・・・・こういうの慣れてないのに・・・・・っ」
流れ落ちるしずくを必死に止めようと何度頬をぬぐっても、それがとまることは無い。
だがそれは、さっきまで浮かべていた涙とはきっと違う理由・・・・それは、その場にいる誰もが理解していること。
だからこそ、泣いている雪を見る仲間たちの顔には、笑みが浮かんでいるのだから。
そして一刀は涙を流す雪の前に立ち、涙で潤んだその青い瞳を見つめながら言った。
「さて、いろいろあったけど改めて・・・・・・よろしくな、雪。」
もう雪は、流れ落ちる涙をこらえることはしなかった。
もはや、夕日は完全に沈もうとしている。
しかしこのとき雪が頬を濡らしながら浮かべた自慢の笑顔は、どんな夕日より明るく、そして美しかったと思えた。
「・・・うん! よろしく、皆。」
それは、今まで孤独という人生を歩んできた一人の少女が、本当の意味で孤独ではなくなった瞬間だった。
――――――――――――ねぇ、お姉ちゃん・・・・・・
――――――――――――私ね・・・・もう一人じゃないよ。
――――――――――――だって、今日初めて・・・・・・本当の仲間ができたんだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ちょっと長めの十八話でした。
雪が一刀たちの仲間に加わるまでの話でしたが、いかがでしたでしょうか?
個人的には、この話結構気に入っちゃってますww
今回、冒頭で雪の過去について少し出てきましたが、詳しくはまた別の話で書きたいと思います。
ようやく本当の仲間になった雪、彼女にはこれから愛紗と並ぶ今作のもう一人のメインヒロインとして活躍してもらおうと思ってます。
応援の方どうかよろしくお願いしますww
それから、大変申し訳ないのですが、最近忙しくなって参りまして、更新速度が急激に落ちると思います。 汗
どうかご了承ください。
説明 | ||
十八話目。 これで雪の仲間参入編は終了です。 翠との試合中に豹変した雪、混乱の結末は・・・・ |
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コメント | ||
nemusさん=指摘感謝ですww すぐに訂正します 汗(jes) 誤字:p13 朱里と雛里とも再開 → 朱里と雛里とも再会 なのでは?(nemus) COMBAT02さん=指摘感謝しますww すぐに訂正しておきます 汗(jes) 砂のお城さん=うまい感じにまとめていただいてありがとうございますww そうですね、そんな感じでこれからも話を進めていきたいです。(jes) 誤字:p2「雪は一瞬にして雪の懐へと潜り込んでいた。」→「雪は一瞬にして翠の懐へと潜り込んでいた。」では?間違っていたらすみません。(COMBAT02) |
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