双天演義 〜真・恋姫†無双〜 二十六の章 その三 +おまけ
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 袁家の陣中に張られた大きめの天幕の中、眼鏡をかけた道士服を着た男の前に、何の前触れも無く一人の男が跪いた姿勢で現れた。全身影のような黒衣の男が突然現れたにもかかわらず、道士服の男、干吉は動じることなく手元の竹簡に目を落とし、仕事をしない城主の代わりに政務を執り行っている。

 

「両軍、布陣を整え一両日中には矛を交えるもよう。目標を監視しております影につきましては、もろもろ首尾整っております。ご命令があれば今すぐにでも……」

 

 黒衣の男は顔を伏せたまま、彼の主の目が自分に向いておらずとも、自らに課せられた命を果たすべく報告を続ける。

 

「たしか、一万五千に一万で方円でしたか……」

 

「はっ。公孫伯珪の軍を最後に相手とるようで、足止め兼時間稼ぎがその思惑かと」

 

「手堅い公孫伯珪ならば無暗に正面からぶつからず、弓を使い時をかけてでも後の戦いに備えるか……」

 

 水関に布陣された両軍の陣形に兵数を黒衣の男から確認し、干吉は顎に手を置き思索にふける。男も主の思索を妨げることを避けるように、身じろぎひとつすることなく沈黙を守った。

 

「……今回、影は直接手を下す必要はありません。私の人形が始末しましょう」

 

「では、我ら影は監視のみ……と言う事で?」

 

「いや、人形に繰糸を結ぶ役目をしてもらいます」

 

 干吉は机の上に置かれた箱の中から長方形の紙を取り出し、政務のために用意してあった墨を使い、さらさらと何事か念じながら書き付けていく。

 

 それは幾何学的な模様と複雑な文字のようなものが合わさり、一見子供の書いたいたずら書きのようにも見えたが、自然と目がひきつけられ、なにやら頭の中に直接囁かれているように感じられる不思議な札だった。

 

「これを私の人形に見せてください。それで今回の任務は終わりです」

 

「御意」

 

 黒衣の男は札を干吉より受け取ると、来たときと同様、忽然とその姿をかき消してしまう。その手際の鮮やかさは、天幕を照らす蝋燭の灯りをゆらりとも揺らすことはなかった。

 

「ここで不確定要素……蟲を取り除かなければ、いくら私達が修正しようともこの外史は、いずれ暴走の末止まる。蟲が蟲を呼び、今は正常かもしれない他の外史にさえ悪影響を与えかねない……」

 

 水関の方を向きながら干吉が呟く。その呟きは、黒衣の男が揺らすことなく消えた天幕を照らす蝋燭の灯りをゆらゆらと揺らし、誰の耳に届くことなく虚空へと消えていった。

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 孫家の陣の中で兵たちが慌ただしく動き回っている。あるものは複数の矢玉を抱え、あちらこちらへとその矢玉を配り、あるものは大声を張り上げ、自分が率いる兵を集める、あるものは百人長、千人長、将軍と軍師から受けた伝令を陣中を駆け回って伝えていった。

 

 その慌ただしくも戦前の張り詰めた空気を感じながら、孫家の軍師、周瑜は傍らに控える弟子に作業の進展を訊ねる。

 

「ん〜。思っていたよりも順調に進んでいると思いますよぉ」

 

「しかし、そのわりにはなにやら不満があるように聞こえるが?」

 

「なんと言いますかぁ、順調といっても今出来ることをやっているだけで、もう少し時間があればもっとしっかりと準備できたかなぁなんて……」

 

「それは仕方ないだろう。本来ならば私達はこの場で撤退してもおかしくは無い状態だというのに、あの大酒呑みの勘だけ君主が攻めると言うわ、直前に新しい情報が入って、戦術の見直しをしなくてはいけないわと、ごたごたがあったからな」

 

「そうですねぇ、神速といわれるほどの張遼さんがここまで行軍速度が遅いから、何があるのやらと思っていたらでしたからねぇ」

 

 疲れをほぐすように目頭をもみ、ため息をもらす周瑜に同意する陸遜も、虚空を見つめ肩を落とした。

 

「華雄率いる一軍を倒したとはいえ華雄を取り逃がし、水関も曹操の手によって落とされてしまった手前、なにかしらの戦功をあげなくてはいけないのも事実」

 

「だから私達にとってもあの標的は、目の前の董卓軍分隊さえ突破できればかなりの獲物ではあるんですよねぇ」

 

 愚痴とため息を吐き出して気分を切り替えた周瑜と陸遜は、現在孫家軍を取り巻いている状況と自分達にとって何をすれば益となるのかをそれぞれの思考の中で考え、相手が何を狙い何をするのかを目と目を通じて確認する。師と弟子の関係となり結構な年月が経っている。周瑜は陸遜の、陸遜は周瑜の考え、思考の流れをある程度以上分かり合えている。

 

「やはり中央突破を誘い軍を分け、董卓軍の両脇を迅速に駆け抜ける」

 

「そしてそのまま董卓軍は曹操さんに押しつけてぇ」

 

「私達は投石機に火矢を用いて、これを焼く」

 

 二人はまるで一人の人間が考えたように互いの思考の帰結を一つに纏め上げていた。

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「穏、火矢の準備は?」

 

「はい〜すでに祭様の隊に一人に五本ほど」

 

 細かい指示を伝令に伝え終えた周瑜の問いに、満面の笑みで手のひらを大きく開いて突き出しながら陸遜は答える。その答えに頷きつつも、周瑜は若干不満げな様子を見せる。

 

「冥琳様、火矢の数が少ないとは私も思いますけどぉ、さすがに急な指示でこの数を用意できただけでも御の字ですよぉ」

 

「たしかにその通りなのだがな。……ふふふ。先ほどとまったく逆の立場になってしまったな。先ほどは穏の方が不満そうだったのにな」

 

「あ、言われてみればそうですねぇ」

 

 顔を見合わせてひとしきり笑いあう二人。しかしすぐその笑みを消し、真剣な表情に戻す陸遜に周瑜も自然と表情を引き締め、問いただすように視線を陸遜に向けた。

 

「冥琳様、董卓軍は私達がその両脇をすり抜けた後、私達の背後を反転追撃をするということは無いんでしょうか?」

 

 おずおずと質問を投げかける陸遜を、周瑜は微笑ましく思いながらも表情はきつく引き締め、まるで叱責するように答えを出すための手掛かりだけをまず口にする。

 

「その追撃をなくすために百人長以下のものに対しても、細かく指示を出したのを聞いていなかったのか? 穏」

 

「百人から五十人単位でバラバラに四方八方に進軍指示を出していたのは聞いていたんですけど、それがなぜ董卓軍の追撃を防ぐことになるのかがわからないんですよぉ。中央突破を誘い、攻め込んでくるのに併せて軍を多数に分けて、董卓軍の両脇を駆け抜けることで投石機までの道が出来るのはわかるんですけどねぇ」

 

 陸遜は周瑜と考えた策を空を見上げながら思い返し、手順を一つ一つ口にして確認していく。自身にも理解できているところまで振り返ったところで、一旦思考の海から現実に戻り師である周瑜の表情を盗み見る。ニヤニヤと陸遜を試すような瞳で見る周瑜に少々陸遜は不愉快なものを感じてしまうのは仕方ないかもしてない。

 

「中央を突破して二つに分断したように見せるとはいえ、董卓軍は後背に孫家の軍を放置するでしょうか? 名に聞こえし陥陣営がそのような過ちを犯すとはとても思えません〜」

 

「確かに大きく二つに分けるだけでは董卓軍は反転、私達の後背を追撃してこよう。だがこれが百人、五十人前後の多数の隊が四方へと散り散りになったなら、どうなると思う? 曹操の軍と相対している董卓軍本隊を少しでも早く救援するために、私達を鎧袖一触のもと倒さなければならない陥陣営はどうするか? 穏、そこまで思考を突き詰めたかな?」

 

 周瑜は思考は常に柔軟にしておくものよと最後に付け加えて、自分の言葉で弟子がどのような答えを導き出すのか観察を始める。

 

 周瑜のこの策はひとつ間違えれば、そのまま孫家の兵士はちりぢりになり二度と戻ってこない諸刃の剣であることを周瑜自身はしっかり理解している。いくらここまで孫家に付き従ってくれている兵士でも逃亡しないとはけっして言い切れないのだ。それでも兵士達が規律をもってこの策を実行できれば、いかな陥陣営とはいえども、曹操と戦う本隊のために判断を誤る可能性は高い。

 

 どんな名将であろうとも人間である以上、全知であるはずは無く一瞬一瞬の判断をするとき、焦りや情報不足から間違いを少なくない可能性で犯すものである。ゆえにより大きな間違いを犯したものが戦いに敗れ、様々な戦場で間違いを少なく出来たものが、歴史に名を残す名将として残っていくのである。

 

「冥琳様、それでは兵の大半が逃亡してしまいませんか?」

 

 さすがにこの策の危険性に陸遜が気がつかないはずがなく、周瑜に質問を重ねる。

 

「逃亡するだろうな。だが私は半数残ればよいと思っている。とくに祭の隊と雪蓮の隊が残っていればよい」

 

「それは?」

 

「祭の隊は投石機の撃破のためというのは言うまでも無いと思う。雪蓮の隊は雪蓮の警護のためだ。どうせこの戦が終われば、ここにいる三軍は被害の面からして根拠地に帰らざるをえないだろう。なれば一花咲かせるためには多少の無茶をしなければ、戦功を稼ぐなどできようはずもない。独立のための兵集めを再び一からしなければならなくなるのは頭が痛いことだがな」

 

 これまでの苦労が台無しになることと、これからの苦労を思うと周瑜は頭痛が酷くなるように感じられた。そして胸のうちにたまったものを吐き出すようにため息をついたのだった。

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 このあとは双天とはまったく関係ないおまけです。

 

 ニコニコ動画で東方サッカー系の動画を見て、思いついてネタ帳に書いたものを長期間放置していたお詫び(になるとはまったく思えませんが)として、おまけと銘打って公開します。

 冒頭でも書いておりますが、このおまけをきちんとした作品にする予定は現在ありません。

 だれかやってくれると面白いと思いますが、ネタ的に小説媒体よりもマンガやゲーム、アニメーションといった映像媒体の方が迫力あるものが出来るよなぁとか思ったりしています。別に誰かやってとは言っておりませんよ、ほんとに(^^;

 

 とりあえず、作品未満のネタ帳からの転載ということを了承の上、おまけをご覧ください。

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 三国会議後の宴において、

    恋姫たちにとって、

       負けられない戦いの幕がきって落とされてしまった。

 

 

 北郷一刀によって伝えられた天の知識、

    曲解、伝言を繰り返し、

       それはとてつもない進化をしてしまった。

 

 ひとつの球を定められた空間に入れる、

    蹴球と呼ばれた競技のひとつの形。

 

 手を使うこと以外が許された、

    生死をかけた新たな戦争の形。

 

 

 優勝した恋姫たちに与えられる名誉、

    そして副賞として……。

 

 

“北郷一刀を今後一年間優先しようする権利”が与えられることになった……。

 

 

「桃香! 今回は私が勝たせてもらうわ。副賞は別に“どうでもいいけれど”くれるというのならしっかりといただくわ」

 

 金髪の少女が黒と白の革の球を足元に、桃香と呼んだ桃色の髪の女性に指を突きつけ宣言する。

 

「えぇと優勝は別に譲りますけど、いらないなら副賞は私に……」

 

 金髪の少女、華琳の勢いに気おされながらも、自分の利益を得ようとする桃香。

 

「コホン。そんな人を物や何かと同じように扱うのはどうかと思うが?」

 

「では蓮華は不戦敗ということでいいわね」

 

「しかし勝負を挑まれて逃げたとあっては孫家の恥。その勝負、参加します」

 

 常識的なことを言いつつも副賞……いや、優勝に惹かれる蓮華。

 

 一つの球を手以外で操り、相手の守りを潜り抜け得点を決める競技、蹴球。

 

 今、歪に進化した恋姫蹴球の戦いの幕がきって落とされる!!

 

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「ついに始まりました、北郷一刀争奪蹴球大会。実況はわたし、馬岱、真名は蒲公英、そして解説はこの人、魏の三軍師のお一人、程c、真名は風さん、お客様として副賞の景品、ご主人様こと北郷一刀でお送りします」

 

「いや〜ついに始まってしまいましたねぇ。これからどんな戦いが起こるかと思うと……ぐぅ」

 

「寝るな!」

 

「おぉ。つい波乱の試合展開を考えるとつい、うとうととぉ」

 

「どんな試合展開だと、うとうとするんだよ。つうかなんで俺の了解もなにもなしに景品になってるの俺!」

 

「さぁ、注目の第一試合は魏の三羽烏率いる警備隊対我らの女神を守り隊の対戦です。風さん、この試合どう見ますか?」

 

「そうですねぇ。凪ちゃんたちがいるのに対して、相手は将軍格がいませんからねぇ。ほぼ一方的な試合になるとおもいますよ」

 

「ねぇ、無視? 無視なの? 俺の話聞いてる?」

 

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「得点圏まで球を持ち込む凪選手! そのまま大きく足を振り上げる!」

 

「おぉ、凪ちゃんも大人気ないですねぇ」

 

「練り上げた闘氣とともに“ごおる”に向けて球を"しゅうとぉぉぉぉぉぉ”! 唸りをあげてごおるに向けて一直線!」

 

「いいのか、あれっ!? 下手すると死人出るぞ!」

 

「我らの女神を守り隊の“きぃぱぁ”、懸命に"ごおる”を死守しようと凪選手の“しゅうと”に立ち向かう!……しかし、ふっ飛ばされたっ! そのまま我らの女神を守り隊の“ごおるねっと”を突き破る! 三羽烏率いる警備隊先取点!」

 

「いやぁ、試合前の守り隊の“きぃぱぁ”の“北郷一刀の魔の手から楽進様をお守りするのだ!”という言葉がよほど気に食わなかったんですねぇ、凪ちゃん」

 

「また無視なのかよ……俺、ここにいる意味なくね?」

 

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「さぁ第五試合も大詰め、一対一の同点で前半を終了するのか? それとも……おおっとここでこの試合初めてこの選手に球が渡る! 雛里選手、高い浮き玉に併せて思いっきり手に構えた竹簡を叩き付ける!」

 

「ちょ、あれハンド! 反則、反則!」

 

「お兄さんはなにを言っているんですか? 手じゃないですよ、竹簡じゃないですか」

 

「勘違い種馬は放っておきまして……雛里選手の“しゅうと”に向かって桂花選手飛びつく! しかし届かない! 球は一直線に“ごおる”へ! “きぃぱぁ”横っ飛び! 届かない〜! 決まった!」

 

「こ、こんなんサッカーじゃねぇ……」

 

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「おおっと第七試合、開幕の花火をこの人があげる! 恋選手“きっくおふ”で貰った球に向かって方天画戟を振りかぶる! 一閃二閃、速い速い目にも留まらぬ速度で球に方天画戟を叩き込んでいく! 一瞬で一千撃だ!」

 

「なんで武器をピッチに持ち込んでるんだよ……」

 

「猪々子選手、恋選手の“ろんぐしゅうと”に斬山刀を振り下ろす! しかし球の勢いに吹き飛ばされた! 猪々子選手の敵討ちか? 斗詩選手も金光鉄槌を振り下ろす! が斗詩選手も吹き飛ばされた!」

 

「さすが人中の呂布ですねぇ。あの二人を相手にまったくしていませんねぇ」

 

「袁家の“ごおる”を守る麗羽選手、高笑いとともにムネムネ団を召喚! 暑苦しい漢たちがわらわらと恋選手の“ろんぐしゅうと”に向かっては吹き飛ばされていく! あぁっと麗羽選手も吹き飛ばして、恋選手の“ろんぐしゅうと”は“ごおるねっと”を突き破ったぁ!」

 

説明
とりあえず文章書きたくない病も一段落といえるかわかりませんが、双天第二十六章その三でございます。
HAHAHA 話が進まない。orz
おかしいなぁ……この辺でもう伯珪軍の戦いを書いて、投石機が燃えて、両軍ボロボロ状態になっているはずなのに……。
あとおまけはネタです。元ネタは東方サッカーで元元ネタはキャプテン翼。きちんとした作品に仕上げる予定はいまのところございません。
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コメント
戦の準備を着々と進めて、さて次回はどんな戦いになるのやら。蹴球にも凄いルールのものがあるんですな;(深緑)
COMBAT02様コメントありがとうございます。普通の蹴球なら一発レッドで退場なんですけどねぇ。恋の“しゅうと”は元ネタの小町のヒガンルトゥールやフランの十六爪をイメージして書いていますので、武器を持っていても退場にならないと言う……。カオスな蹴球です。orz(Chilly)
種馬に同情・・・武器持ってる者はレッドカードで退場だな!恋殿には悪いが・・・・(COMBAT02)
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双天演義 真・恋姫†無双 冥琳  干吉 恋姫蹴球 一刀 蒲公英  

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