大好きだから… 〜They who are awkward〜 第9話 |
古いアパートの一室。
タバコの匂いと酒の香りが充満していた。
ごみが散乱し、よくみるとビールの空き缶やらコンビニ弁当の入れ物や吸殻がそこらじゅうに広がり
掃除がされていないのをうかがわせる。
しかし、かつては仲むつまじい家族の幸せな風景がそこには在った。
上等な生活とは言えはしないがそれでもそこにいる誰もが幸せを感じていた。
だが、あるとき転機を迎える。
母親の死
残された家族は悲しみに暮れ、父親は寂しさを埋めるために仕事を辞め、
毎日アルコールをあおり続けていた。
それでも失った穴は大きかったのか彼はとうとう狂った。
そして……
「ああ、紫雪。会いに来てくれたんだね。僕は知っているよ。キミが生まれ変わってやってきてくれたっていうことをね。僕は嬉しいよ」
そういって自分の子供を抱きしめた。おかしくなった彼は子供に妻の面影を見た。
彼の認識は狂い自分の妻であると思い込んでいるようだった。
「今度は絶対キミを離さないから。さぁ、また愛し合おう。僕は当然だけどキミも寂しかったんだろう?」
彼は椅子に座り、勢いよくいきり立った自分のグロテスクなものを露出させ、
舐めるよう強要した。
当たり前だがそれを拒否し、逃げようとしたが彼は頭をつかむと自分の前まで顔を近づける。
「どうしたんだい紫雪?早く頼むよ」
「………い……いやだ……」
拒否の言葉が口から漏れると彼は怒りの形相に顔を歪め椅子から立ち上がり思い切り殴った。
「どうしてだよっ!!!このっ……なんで…
なんで紫雪が僕を拒むんだ!!!そんなことは有り得ないだろうがっ!!!」
殴る
「いたいっ……いたいよぉ……おとうさぁん…」
「だったら拒むんじゃない!!!」
殴る
「紫雪は僕の全てを受け入れてくれるんだからなっ!!!」
殴る
「わかったか!?」
殴る
「……っく………あ……わか…っ……た…よ」
殴る
「違うだろっ!!紫雪はそんな言葉遣いじゃない!!!」
殴る
「………はぃ…………わ…かり………ました」
泣かなかったのは泣けなかったからだ。それほどまでに衰弱していた。
父親が荒んでからロクにご飯というものをもらっておらず学校も病欠ということになっていた。
「まったく……紫雪も悪戯が過ぎるよ。さぁ続きをしよう紫雪」
再度彼は座り、こんどは恐る恐るながら自分から顔を近づけていって彼が望む行為をする。
「あぁ紫雪そうだよ、その調子だ。続けながら今度はね……」
彼を止めるものはいなかった。
行為は止まらず、狂気と欲望と愛情の日々が毎日続いた。
だがその狂宴にも終わりが来る。
幕を引いたのは彼の死によってだった。
朝、起きると何を見ていたか内容は思い出せない。
ただ、俺の目から頬を伝っていったものが物語っていた。
涙が止まらないほど悲しかった。
今までにないことが起きてしばしの間困惑してしまう。
一体何を見たというのだろうか。
必死に思い出そうとしても、そんな俺を嘲笑うかのように夢の内容は俺の記憶から零れ落ちる。
「なんだっていうんだよ………」
そんな言葉も漏れてしまうほど、今回のケースは稀有である。
いつもはうなされて起きるか何も見ないかの二択だった。
今回は、泣いているのに加え、懐かしさを感じたのだ。
ようやく会えた……………と
「さて、明日からテストなので皆さん最後まで諦めず努力を続けてください。
今日の授業はほぼテスト勉強になると思いますので時間を有効に……」
HRが始まり担任が連絡事項を伝える。
そう、明日からついにテストなのだ。
だが俺の頭の中は朝の夢を思い出そうとまだ必死に頑張っていたのである。
無意味だというのにまだ続けているのはある種の義務感、
それに準じた何かに急き立てられるような気がしてならないからだった。
思い出せねば。忘れていることは許されない。と、強迫観念に囚われてしまっているかのようだった。
と、そんな俺に
「…いい加減返事してくれねぇとこっちも美樹じゃねえがそれなりの対処法で対応させて貰うぜ?」
そんな俺に突如恭一の両手が顔に伸び、頬を左右摘むと横に…引っ張る!!
「いひぇひぇひぇ。 おまひぇ、ひゃにふるんらよぉ!?」
「いいか、いくら人のいい俺でも流石に朝から上の空で返事されてちゃあ我慢の限界があるんだ。
わかったか?この、この、この」
「わひゃった。わひゃったはら、ほぉのひぇをはらひへふれ!!」
俺は恭一に止めてくれる様に頼んだ。
「で、どうして上の空だったんだ?」
HRは終わって1時間目は担任が言っていたように自習だった。
担当の先生は静かに自習するようにと指示した後、何処かへ行ってしまった。
「………明日からテストだろ?それについて考えててさ。
それに昨日は夜遅くまで勉強してて眠くて、朝からボーっとしがちでさ」
嘘をついた。ただ、その中に真実も混ぜる。
事実関係と、偽の情報を織り交ぜて発言をすることで、信頼性は増す。
大きな真実の中に、ほんの小さな細かい言葉をつけるだけで何かと人は信じるものなのだ。
何かの本で読んだ情報だった気がする。
それでも恭一は納得できない顔して、
「ホントにそうかぁ?そんな感じじゃねぇ気がするんだが。
………まぁ、別に俺はいいんだが美樹も朝から性懲りも無く心配してるの…わかるだろ?」
美樹がチラチラとこちらの様子を伺っていた。
「そうだな、ごめん。休み時間になったら美樹にも言っとくよ」
「そのほうがいいだろうな。ま、なんだ。
俺ら今さら遠慮する間柄じゃねえんだし、何も出来なくても話を聞くぐらいは出来るんだぜ?」
「恭一…… いや、ホントに明日のことが気になってさ。恭一も、ありがとう」
「ふ、ふん。……まぁそんだけだ。俺は寝る」
そういうと恭一は寝る体勢をとった。
言っても良かったかなと少し思った。
自分はそう思わないが他人からみたら、たかが夢でしょ?の一言で済まされる事柄だし、
何より今感じている気持ちを言葉にしてうまく伝えることが出来ないと思う。
うん、やっぱり言わなくて正解だと思う。
でもこれについて考えるのはよそう。
今は勉強しなきゃ。っというかコイツ寝てていいのか?
「おい、明日からなんだからあともう少しやるぞ」
「俺はパスだ。寝る」
「パスとかそんなのないから」
俺は恭一を起こして一緒に勉強をするのであった。
学校が終わりその帰り道、
「んじゃ、さっさと帰って最後の追い込みしなきゃな」
「もういい………勉強はもう嫌だ……」
ちなみにあれからずっと全授業テスト勉強をしていた。
「悠樹今日はずっと恭一とずっとやってたもんね」
「美樹は今回いけそうか?」
「うーん…………まぁギリギリ…かな?」
顔を引きつらせながら言った。
激しく不安だ。恭一だけじゃなく美樹も加えてやればよかったかな。
一回コツがわかれば美樹はなんとかなると思うんだが。
「なぁ、いっそのことカンペをだな…」
「それはリスクが大きいからやめろ」
不正に走ろうとした馬鹿を止める。
「だいたい範囲が広いんだから作るのも大変だろうが」
「それに、見つかったら一発退学よ?私もやめたほうがいいと思うわ」
「まったく二人して俺をいじめるなよ……」
恭一が拗ねた。
「あ、そういえば俺昨日澪先輩がいる病院に行ってきたんだ」
「佐久島先輩に会えた!?」
「いや、やっぱりまだだったよ」
そこで俺は澪先輩のお父さんに会ったことを話した。
「そうよね……早く元気になるといいなぁ」
「ま、澪さんにはテスト明けには会えるんじゃねぇの?」
「そうだといいいけどなぁ……。あ、あたしこっちだから」
「おっとそうか。美樹、勉強頑張ってな」
「しすぎて明日の本番の最中寝こけるなよ?」
恭一がテスト中寝てしまうゼスチャーをとる。
「テスト中は寝ないわよ!! うん…頑張ってみる」
岐路で美樹と別れる。
しばらく進んだ後、次は恭一だ。
「いいか、帰ったら絶対やるんだぞ?」
「俺ん家に未来のロボットが引き出しから来て暗記が出来るパンをくれるからへい……
「勉強しろ」
「へいへい。ま、努力しますよーってね」
恭一と別れ家に着く。
鍵がかかっており、開けて家に入る。
まだ茉莉子は帰って来ていないようだ。
とりあえず………二人にも言った手前俺がやらない道理はないな。
自分の部屋に向かった。
「じゃあねー、茉莉子」
「うん、また明日ね愛理ちゃん」
私は愛理ちゃんと別れ、家に向かった。
今日は学校で勉強していたら遅くなってしまった。
兄さん……もう家についているだろうなぁ。
足早に家へと歩を進める。
私、神原茉莉子は、義兄である神原悠樹のことが好きだ。
幼いときから今まで気になる異性は彼ただ一人だった。
ただ、この想いを伝えることはないと思う。
何より兄が望まないだろうし、だったら私は言わないと決めた。
ただ、この想いが揺らぐことはないだろう。
想いは内に秘め、ただ兄に幸せが来ればと思う。
私はそのためだったらなんだってする。
家事なんて簡単だし、兄に降りかかる火の粉は私がはらう。
心配しないよう兄にも言ったし大丈夫だと思っていた。
「ただいま、兄さん」
私は家に着くと家に居るであろう兄に声をかける。
返事がないところを見るとたぶん二階で勉強か何かをしているのだろう。
私がそう判断して玄関を抜け居間に向かうと、
「あら、おかえりなさい茉莉子」
私は凍りついた。
しばらくその場に立ち尽くし、声のした方を凝視する。
「久しぶりに話すのにだんまりなんてひどくないかしら?」
どうして…………?
私は内心の動揺を悟られぬように冷静に冷たく突き放すように言った。
「性懲りもなくまた現れたんですか。いいからさっさと消えて下さい。
もう既に消えたと思ってましたけどね。あなたがいると不愉快です」
「ふふふ、姉に向かってその言い方はないんじゃないかしら?」
「あなたを姉と認めた覚えなどありませんが?」
「悠樹のことを兄と呼ぶなら悠樹の姉である私は必然的にあなたの姉になるんじゃないかしら?」
「そうですか。だからなんですか? そもそもあなたが普通の常識を持ち合わせていることに私は驚きを覚えますね」
「うふふ、私には冷たいのね茉莉子は」
「ええ、私はあなたの存在自体を許したくありませんので」
「っ、あはは手厳しいわね茉莉子。でも私にはわかるわ茉莉子」
「……何がですか?」
「私に嫉妬しているんでしょう?」
「何を………」
そう返事をしたが、このままじゃあいつのペースに飲まれそうな気がする。
「あんたと悠樹は所詮他人よ。美樹って子も澪とかいうやつも。でもあたしは違う。小さい頃から辛いときも苦しいときも悠樹といたし、言わばそうね、一心同体だからね」
「でも兄さんはあなたのこと忘れているわ」
「そうね。でも最近は違うでしょ?あなただって知っているクセに」
「………うるさい」
「それにね、もうすぐ悠樹は私のこと思い出すわ。私にはわかるの。
あぁ早く思い出してくれないかなぁ悠樹、私のこと」
私は耐え切れず壁を叩いた。
「ねえ、あなたは何がしたいの!?兄さんが思い出してそれであなたはどうするの!?」
「私はね悠樹を愛しているの。私が一番なのよ?全てにおいてね。わかるかしら?あなたたちとは違うのよ?」
自分の言葉に陶酔感を覚えているようだった。
気持ち悪い。私はあいつを睨み付ける。
「あんたなんか存在してるだけで兄さんにとって有害なクセに…
私があんたを――――――――――――消してやる」
「ああ、怖い怖い。だったら消される前に私はさっさといなくなるかしら。
またね、茉莉子」
後半は完全にあいつのペースだった。
でも、最後の言葉だけは有言実行してやる。
私は強く思った。
「ん…あれ、俺勉強……」
どうやらやってる最中に寝た……と思ったがベッドに寝ていた。
俺、寝てる最中に移動するなんてどんだけ快眠に貪欲なんだよ……
「ってうわぁ!!!」
茉莉子が立ち尽くして俺を見ていた。
いつの間に入ってきたんだよ茉莉子。
「にい…さん?」
「どうしたんだ茉莉子?」
「にいさんっ!!!!」
俺に飛び込んで来る。何回目だよこれ。
そう思いつつ問いかける。
「どうしたんだ茉莉子?」
一瞬しか見えなかったが泣いていた様に見えた…気がする。
「ねぇ兄さん。私……私…頑張る」
表情を見られないようにかどうかわからないが俺の身体に顔をうずめながら茉莉子は言った。
「?テストの話…だよな?よしよし、俺も頑張るからな」
俺はそう解釈して背中をさすってやる。
しばらくそうしてやっていたら日が傾いていたことに気付く。
俺は茉莉子に声をかける。
「お、そうだそろそろ晩御飯の時間だし今日は俺が作ろうか?」
まだあまりまともに作れないが最悪、形は悪いがオムライスくらいなら…
「ううん、大丈夫。兄さんにはまだ任せられないし。それに、うん。今まで以上に私が作りたいから」
「そうか。という茉莉子がそうやって俺を甘やかすから料理作る機会がないんだぞ?」
「あはは、ごめんね兄さん。じゃぁ今度は一緒に作ってくれる?」
「俺はいつでもOKだからな任しとけ」
そうして俺たちは部屋を出て下に向かう。
茉莉子に笑顔が戻ってよかった。
今日の茉莉子は気合が入ってるみたいだからきっと晩御飯も美味しいだろう。
うん、楽しみだ。
明日のテストは……どうにかなる……はず
まず、私が書いている小説に読み付き合っていただけている方たちに。
今回、えっと9話ですが投稿するまで1週間ほど時間が空いてしまったことに関して
大変遅くなりましたと謝らせてください。
申し訳ないです、はい。
話の内容ですが出ましたね姉様。ようやく登場です。
ステキに書けていけたらなと思います。
最初のあれですが、やっぱり続きをちゃんと描写したほうがよかったですかね?(笑)
まぁ読者様の妄想力で置換したほうがいいかなと思って当初は書く予定でしたがやめました。
試行錯誤しながらいいものを作りたいですねぇ。
では、次回話にて
説明 | ||
幸せはいつだって長く続かない 不幸はいつだって隣に寄り添っている |
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