Far away
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積み荷の作業を手伝ったシラギは、宿へ帰る途中リウヒと会った。

「キャラは一緒ではなかったのか」

ようやっと砕けた話し方ができるようになった自分をほめてやりたい。

「うん。一緒に手伝っていた子と楽しそうに話していたから、一人で帰ろうと思って」

そうか、と答えると二人連れ立って歩き始めた。

その横を商船が波止場を離れて行った。帆を張ってゆっくりと海の上を走る。地平線へと向かうその後ろ姿は、太陽の光を受け堂々としていた。

リウヒが足を止める。感嘆するように船を眺めるその後ろ姿をみて、ふと赤子の頃の王女を思い出した。あれは何年前になるのだろう。自分がまだ十五の頃だ。果てしなく遠くに思える。

「あの船はどこにいくんだろう」

「エジンバラにいくそうだ」

先ほど積み荷作業をした船だ。

王女の横に立って、彼方を指差す。

「あちらの方角にある。隣がアスタガ諸島。反対側がイデアの国だ」

指を差して説明する青年と、好奇心に瞳を輝かせる少女の髪を潮風が揺らした。

「いつか行ってみたいな。みんなで」

髪を抑えながらリウヒがほほ笑んだ。

「みんなで?」

シラギも思わず微笑して聞き返す。

「そう、みんなで行って旅をする。トモキも一緒に」

しばらく二人はそのまま彼方を眺めていた。先ほどの商船は遠く小さくなっている。

「あーっ!リウヒ!」

キャラが素っ頓狂な声を上げて走ってきた。

「もう、先に帰らないでよ。びっくりしたじゃない」

「いや、楽しそうに喋っていたから、邪魔かなと思って」

じゃれ合う少女たちにシラギは苦笑し、帰るぞ、と声をかけた。連れ立って歩きだす。

 

「いつか行ってみたいな。みんなで」

「みんなで行って旅をする」

 

実現はしないだろう。今も、この先も。

 

振り向いて地平線を見ると、商船はすでに見えなくなっていた。

しかし、現実になればいいと思う。

所詮は夢なのは分かっているけれども。

賑やかなあの連中と旅をする。いつかは終わる旅。永遠に続けていたい旅。

 

 

遠くに少女たちの呼ぶ声がして、シラギの足は踵を返し宿へと向かった。

 

説明
「Princess of Thiengran」番外編。

というより本編に入れられなかった短編。
時間軸は外の世界を旅していた頃の後半、トモキとはまだ再会していない。

視点はシラギ。
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コメント
天ヶ森雀さま:コメントありがとうございます。しかもこの人は孤高を気どっていた人なので(笑)。余計に。(まめご)
旅を続けたくなる様な仲間がいるという事が、もう何か幸福な感じ、と思う。(天ヶ森雀)
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