PSU-L・O・V・E 【ディ・ラガン襲来(Assault of the Diragan)D】
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血溜まりに沈む巨体。

平原に木霊する、命の終焉を告げる断末魔。

長い激戦の果てに、遂に平原の獣王は堕ちた。

「状況、終了したんだぜ」

『お疲れ様でした。皆さん、お怪我はございませんか?』

ビリーがビジフォンで作戦室のルウに任務完了の報告をし、それを受けたルウは短い言葉で彼等の労を労った。

「ああ、こちらも大きな負傷は無い」

ヘイゼルが告げると「そんな事あるか!」との声がビリーから上がる。

「見てくれよ、俺の自慢のリーゼントが、炎で炙られて少し焦げちゃったんだぜ!」

ヘイゼルを押し退け、ビリーのドアップが作戦室のモニターに大きく映し出される。

「ほら、見えるんだぜ?」

『……そうですか、無事で何よりです』

だが、ルウは見ぬフリをしてサラリと流した。

「ヒデえぜッ!」

「ウルサイ、黙れ、馬鹿」

ヘイゼルに向き直ったビリーに、反応するのも面倒臭くなった彼の突っ込みは冴えない。

それは激戦の後に訪れた幾許(いくばく)かの開放。戦士を労う、束の間の休息の時間だった。

しかし―――。

「……ゥゥォォ…ォォ…ォ…ォ……」

突然、背後から上がった弱弱しい唸り声に驚き二人は振り返った。

斃した筈のディ・ラガンが、ゆっくりと首をもたげようとしていたのだ。

「コイツ、生きていたのか!」

ヘイゼルは警戒して身構え、ナノトランサーから片手剣を転送させた。

だが警戒は不要だったかもしれない。ディ・ラガンは息も絶え絶えといった様子で、既に立ち上がる力さえ無いようである。ディ・ラガンは喉の奥から搾り出す、弱弱しい遠吠えを発した。吠え声はか細く、長く続き、哀切を帯びた声音は、まるで何かに届けと呼び掛けているかのように物憂気な余韻を残していた。

『……この声は』

作戦室で、その遠吠えを聞いていたルウが声質の特徴に気付き小さく呟く。人で言うなら"勘"のような物、ルウはそれを感じ、直様データライブラリとの照合を始めた。

今の彼女はバックアップとして、ヘイゼル達に情報を提供する為、GSN(ガーディアンズ・サテライト・ネットワーク:通称GSネット)を介し、ガーディアンズのデータベースに接続しているのだ。

遠吠えが次第に弱まり聞こえなくなると、ディ・ラガンの長い首は最後の力を使い果たし、ゆっくりと崩れていった。

「驚かせやがるんだぜ……」

ビリーは安堵の息を吐き、構えたハンドガンを下ろした。

『データ照合完了……待って下さい。今の声質の特徴とパターン……このディ・ラガンは"雄"です』

「あ?」

ビジフォンから聞こえるルウの言葉にヘイゼルは顔を顰めた。

『諜報部の調査報告書にあった、討伐対象のディ・ラガンは"雌"でした』

「報告が間違ってたんじゃないのか? ブリーフィングで聞いた内容と違って、このディ・ラガンも言うほどの大きさじゃなかったぞ?」

『それはそうなのですが……』

ヘイゼルとルウのやり取りに、突然ビリーが口を挟んだ。

「おい、ヘイゼル。何か聞こえないか?」

声を掛けられたヘイゼルが視線を移すと、ビリーが真剣な表情で耳に手を当て聞き耳を立てていた。ヘイゼルも聴覚に意識を集中すると、確かに平原の静寂に交じって何かの音が響いている。

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ごうごうごうごうごう、と―――。

 

突然、太い獣の咆哮が平原に轟き空気を震わせた。巨大な影が二人の頭上を高速で通過し、大気を切り裂く突風が平原を吹き抜ける。

「クッ! なッ、何だ! クソッ!?」

ヘイゼルは突風で巻き上がった砂煙に一瞬、視界を奪われ呻いた。

目を擦りながら過ぎ去った影を追ったビリーが驚き叫んだ。

「あれは、ディ・ラガン!? ……って、デカッ! なんだぜ、あの大きさは!?」

悠然と巣の周りを旋回する威容は間違いなくディ・ラガンの物である。だが、その身体は途方も無く巨大だった。先程倒したディ・ラガンの優に一回りは大きいだろう。個体としては最大クラスの大きさを持っているかもしれない。

現出したディ・ラガンは旋回を続けながら、唸りを挙げて地上にあるディ・ラガンの死骸を見下ろしている。

『身体特徴と先ほどサンプリングした声質を分析した結果、上空の個体は"雌"のディ・ラガンと断定しました』

「と言う事は……討伐対象は、あのディ・ラガンだったって言うんだぜ? ……いや、待つんだぜ……まさか!?」

ビリーが何事かに気付き目を瞠り(みはり)、ルウは彼の察しの良さに頷いた。

『ご推察の通りです。あの"雌"のディ・ラガンと、討伐した"雄"のディ・ラガンは番(つがい)だったのではないでしょうか? 繁殖の為、山を下り平原に巣を作った物と推測します』

「つまり、ディ・ラガンは元々二体居たと言うのか? 諜報部、いい加減な調査をッ!」

『お叱りは後ほど受け付けます……。そちらの戦力状況は如何ですか?』

怒鳴るヘイゼルに冷静に返し、ルウは二人の現在の状況を確認した。

「良くないんだぜ。メイト系アイテム(回復薬)もフォトンチャージも尽き掛けてる。正直、勝算が有るとは思えないんだぜ」

『そうですか……止むを得ません。ここは撤退を進言します。一度、野営基地まで後退し大勢を整えましょう』

ビリーが正直に告げると、ルウは迷わず撤退を進言した。彼等の身を案じる意味も有るが、今は力有る隊員を失う訳にはいかない、打算的なガーディアンズの事情もあった。

撤退という言葉は嫌いだが、意地を張っても仕方が無い。

「言われずとも……!」

「そうする」 とヘイゼルが口にし掛けた時、ディ・ラガンは一際大きく吠えると、向きを変えて巣から離れて行った。

「逃げた……のか?」

番を倒した二人に挑むのは危険と判断したのだろうか? 獣にしては良い引き際だが、正直助かったと二人は胸を撫で下ろしていた。

だが、安心したのも束の間、ビリーはディ・ラガンの飛び去った方角に視線を向け目を見開く。

「あの方角は……まずいぜ! ユエルちゃん達が居る方向なんだぜ!」

「何だとッ!?」

目に見えて解るほどヘイゼルが動揺を浮かべている。

『別行動を取っている仲間が居るのですか?』

「あいつは経験不足だ。ディ・ラガンとの戦闘は荷が重いと判断して途中から帰還させた」

『単独でですか? なんて危険な事を……』

言い訳めいたヘイゼルの言葉を、咎めるようなルウの声がビジフォンから聞こえる。

「説教は後で聞く!」

ヘイゼルは逆切れ気味に怒鳴ると、ビジフォンでユエルを呼び出した。

『―――ハイ、ユエルッスよ〜』

僅かな呼び出し音の後、ユエルが通信に応じた。

「ユエルか!」

「ヘイゼルさんッスか? 任務は終わったッスか?」

緊迫したヘイゼルの声とは対照的に、暢気なユエルの声にヘイゼルは僅かに苛立ちを覚えた。

「それどころじゃない! ディ・ラガンがそっちへ行った!」

「え、何がッスか? よく聞こえなかったッスよ……」

「いいから、今すぐ―――ッ!」

「そこから離れろ!」その言葉を発しようとした時、ビジフォンから切迫したジュノーの叫びが聞こえてきた。

『ユエルさん、何かがこっちに……!』

『え? な、何が―――』

 

『キャ―――ッ!』

 

二人の悲鳴が重なる。ビジフォン越しに、けたたましい風切り音が轟き、スピーカーから響く音にガリガリというノイズが混じる。

「ユエルッ! 逃げろ―――ッ!」

ヘイゼルの言葉が届いたかは解らないが、突然、通信は途絶えてしまい、以降、再三の呼び出しにもユエルの応答は無かった。

「ディ・ラガンが、ユエルの所に……」

ビジフォンを切ったヘイゼルは呆然とした表情をしていた。

「クソッ! 何てこった! 元はと言えば貴様がユエルちゃんを帰すからこんな事にッ!」

突然、ビリーがヘイゼルの胸座に掴み掛かった。柄にも無くビリーの双眸が憤り吊り上り、もの凄い形相に変貌している。

「俺の……せいだと!?」

ビリーの様子に一瞬、呆気にとられ、なすがままとなっていたヘイゼルだが、彼もまたカッとなりビリーを掴み返した。

『今は喧嘩をしている場合ではない筈です!』

そんな二人の争いをルウの鋭い声が諫めた。互いの胸倉を掴み合っていた二人は、一瞬目を合わせ互いから離れる。

そう、今は啀み合っている場合では無いのだ。

説明
EP09【Assault of the Diragan D】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

惑星パルム最強の獣王堕つ。

だが、その終わりは新たな戦いの幕開けに過ぎなかった。

Phantasy Star Universe-L・O・V・E

それは戦火に彩られた“L・O・V・E”の物語……。

読んで頂ければ幸いです。

登場人物紹介を作りました!
でも此処ではSS(スクリーンショット)の使用はご法度なので、興味がある方は此方をどうぞ!

http://moegami.moe-nifty.com/blog/2010/09/psu-love-4903.html
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