大好きだから… 〜They who are awkward〜 第10話 |
「ついにこの日が来たわね……」
「ああついに、だな……」
「俺…この戦いが終わったら全国の妹達の兄貴になるんだ……」
「皆さんがんばっていきましょう!」
俺らは思い思いの言葉を吐き出す。
「なぁところで悠樹」
珍しく弱気な恭一が俺に尋ねる。
「この先には地獄しか待ってないんだぜ?それでも…行くのか?」
「何のために今日まで準備してきたんだよ恭一?俺らは……」
「私達は勝つために行くのよ?だからシャキッとしなさいよ!」
「恭一さんならきっと出来ます。私は信じてますから」
「みんな……そうだな俺としたことが弱気になっちまったぜ。じゃぁ…行こうぜ!!」
そして俺らは歩みを進める。行く手には門。
昨日まではただの校門だったのに今では地獄の門に見え、刻まれた銘文を幻視させる。
我を過ぐれば憂ひの民あり
我を過ぐれば永遠の苦患あり
我を過ぐれば滅亡の夏休あり
中略
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
なんであんなもの見えたんだ?
しかも一部違うし……
門を抜け進むと眼前に広がるは日々を無為に過ごし、
今日を諦めた人々が鬱々としたオーラを漂わせながら各々が向かうべき場所へ向かっている。
「…うちの学校ってそんなにダメな子が多かったかなぁ?」
「言われてみればなんか多いような……」
美樹が首をかしげ、俺も同意する。
「俺らだって同じ穴の狢なんだ。とっとと行こうぜ。あ、茉莉子ちゃんも頑張ってくれよ。応援してるからよ」
と言ってさっさと行こうとする。
「じゃあ茉莉子俺らもいくから。茉莉子も力を出し切ってくれよ」
「はい、兄さんや美樹さんも恭一さんも頑張ってきて下さい。応援してますから」
茉莉子と別れ俺らは俺らの戦場に向かう。
大げさかもしれないが今日はテスト当日、その日なのである。
「では、はじめ」
担当の先生の合図ととも開始される。
最初は数学か………
ちなみに不正行為を防ぐために毎回席の場所は異なっている。
二人とは離れたけど大丈夫だと信じたい。
よし、気合入れていこう。
二時間目、物理
この教科は美樹が苦手だったな…。
そう思った俺は後ろの美樹の様子が気になった。
「……っとこれがこうだから……うーん……」
後ろから美樹の呟きが聞こえるが、苦戦しているみたいだ。
頑張れ美樹。
三時間目、古典
古典は俺の苦手な教科だな……
これが終わったら今日は終わりだし気合入れな…きゃ
「そこまで、試験終了!!」
先生の声ではっと気づく。
やばい、これはあれだ完璧にマズイ。
いつの間にか眠りの淵に沈んでいたようだ。
いったいどこまで書いたんだっけ。
確認しようとした俺の答案は無常にも回収される。
「マジかよ…………」
俺は絶望した。
「おいおい悠樹お前、寝ちまったのかよ」
帰っている最中俺は自分の失態を暴露した。
ちなみにテストの日は決まって午前中だけで終わる。
「兄さん、どこまで解いたんですか?」
「それが…確認しようとしたら回収されちゃってさ。問題冊子を見てみたけどなんかどれも解いた記憶がないんだよね……」
俺はがっくりと肩を落とす。
「ま、まぁもしかしたら寝ながら解いたって可能性もあるだろ?気を落とすなって。な?」
そんな可能性は万に一つもないぞ恭一。
「あれ、それおかしくない?」
美樹が異議を申し立てる。
「三時間目は私、悠樹より後ろの席だったけどちゃんと起きて解いてたように見えたんだけど」
「いや、でも俺の記憶にはないぞ?」
「おい、悠樹これは俺の提唱した寝ながら解いた説が有力になってきたんじゃないか?」
「いやいや、そんなの有り得ないでしょ。美樹は俺のこと最初から最後まで見てたわけじゃないだろ?」
「まぁそうだけど…。でも起きてた気がするわ」
どうして意見が食い違うんだろうか。
まったく訳がわからないが、ひとつ言えるのは
「まだ、初日なんだよなぁ…」
そう、あと二日はこれが続くのである。
早く開放されたいな。赤点は嫌だけど。
「なぁ明日ってなんだっけ?」
「明日からの科目はね……」
美樹と恭一が話しているのを余所にさっきから考え込んでいる茉莉子に話しかける。
「どうかしたか?」
「……あ、えっと何でもないですよ兄さん。ちょっと……気になって…」
「? 何が気になったんだ?」
「…えっと………兄さんの話を聞いてたら私テストに名前書いたかなって思って」
「そうなのか!?ちゃんと書いたか記憶あるか!?」
「それでですね、よく考えたら最初に書いたのを思い出しました。あはは、私もダメですね」
茉莉子が舌を出して茶目っ気たっぷりに笑う。
「そ、そうか。まぁ茉莉子はそんなミスなんてしないもんな。俺はちょっとヤバイかもだけどさ」
「自信持ってください兄さん。返ってくるまで希望を捨てちゃダメですよ。それよりも気持ちを切り替えないと明日からまたあるんですから」
「そうだな……気合、入れなきゃな」
茉莉子に言われて自戒する。
まだ始まったばかりなのだ。
先はまだまだ長い。
「ん?」
家に着いて少しまったりしながら携帯に着信が5件きていることに気づく。
誰だろうか?ディスプレイの名前を見る。
佐久島亮司
澪先輩のお父さんだ。何の用だろうか……って澪先輩のことしかないと思うが。
そこでまたも着信が来て俺は電話を取る。
「はい、もしもし!!」
「っと、悠樹君か?ちょっとびっくりしてしまったよ」
「すいません。何度もお電話いただいていたようで急いで出なきゃと思いましたので」
「そうだったのか。いや、そんなに気にすることはないさ」
「ところでどうしたんですか?もしかして澪先輩の容態が?」
「鋭いね。というかそれしかないか、あぁそうなんだ実は…」
1時間後、俺を含め四人は病院の前に集合していた。
「本当なの悠樹?佐久島先輩が…」
「あぁ。澪先輩のお父さんからさっき電話があってさ」
「そういえば面識があるんだったな」
「とりあえず、行ってみませんか兄さん?」
「よし、行こう。病室は澪先輩のお父さんから聞いたから大丈夫」
そうして俺達は澪先輩の病室の前まで来た。
「みんな心の準備はいいか?」
俺は皆に尋ねた。
「私は大丈夫よ」
「大丈夫です」
「早くしろよ準備できてないのお前だけじゃねぇの?」
どうやら俺だけだったらしい。
澪先輩………
深呼吸して病室のドアをノックする。
「誰かは知らないが、入ってもいいぞ」
意を決して病室の中へ入る。
部屋にはベッドやテレビなど一般的な病院の施設用具が揃っており、そのベッドの上には先輩が横たわり来訪者を迎える。
「なんだお前達か、どうしたんだ?今はテスト期間じゃなかったのか? まさかここまで来て勉強を教えろ、なんてことはないよな?」
いつもどおりだった。ホントにいつもどおり過ぎて俺は、
「……まったく…俺なんかじゃこの二人の勉強まで教えられるわけないでしょう!?それなのにいつまでも寝てるから。やっと…やっと起きたんだから、もう始まってますけどこれからは俺の代わりに午後から二人に教えてもらいますからね」
「まったく。私は重病人だぞ?それなのに起きてすぐの言葉がそれとは。普通はもっとこう、大丈夫でした?とか、ホントによかったですとかが定番だろうが。どれだけ悠樹は私を虐めたいんだ?うん?」
俺はわざと軽口を叩きこの人が澪先輩なんだと実感する。
色々言いたいことはあるけど姿を見たら吹っ飛んでしまった。
変わらない澪先輩がそこに居て俺は嬉しさと安堵の気持ちを覚えたのであった。