ファーストデート
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 おかしいな。確か、こっちに文房具屋があったはずなんだけど。

 まあ、でも、そうか…七年も経ってるんだもんな。変わるよな。仕方ない。駅前の方に行ってみよう。

 あれ? この道じゃなかったっけ。あれを行くと学校だから、こっち…あれれ?

「あ、偶然だね。何してるの?」

 突然声をかけられた。ぐるっと体を百八十度回転させると、光が立っていた。

「あ、やあ、光。実は、ちょっと買い物があってさ。こっちに文房具屋、なかったっけ」

 光は小さくうなずいた。

「うん。あったんだけど、一昨年くらいにショッピング街の方に移っちゃったんだ」

「やっぱりか。じゃあ、駅前の方に行かないとだな」

 俺が行きかけると、光が呼びとめた。

「あ、そっちじゃないよ」

「え?」

「そこ、行き止まりになっちゃったんだ。前は抜け道があったんだけど」

 ううむ。手強いな、七年。俺は光の方を向いた。

「なあ、光。今、暇?」

「え、うん。とくに用事はないけど」

「じゃあさ、ちょっと案内してくれないか? 引っ越してきたばっかりで、道がよく分からないんだ」

 光は笑顔でうなずいた。

「うん、いいよ! じゃあ、行こうか」

「ありがとう」

 というわけで、俺は光に案内されて、街を歩き始めた。

「いやあ、やっぱり七年も経つと街も変わるね」

「そうかもね。私はずっと住んでるからあんまり気付かないけど」

 ついでに言うと、人も変わる。わんわん泣いてた幼なじみがこんな風に可愛くなってたりするからなあ。でも、これを言ったらなんか、光が調子に乗りそうだからやめとこ。

「どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」

「い、いや何でもない。あ、ここ見覚えがあるな」

「うん。ほら、覚えてる? 昔、大きな犬がいてさあ…」

 そんな話をしてるうちに、駅前に出た。ショッピング街はすぐそこだ。

「文房具屋は、こっちよりだからすぐだよ」

 光が手で指し示した。

「ありがとう、光。助かったよ」

「うん…」

 何となく、ぽかんと空いた感じ。ええと。

「その。他にも買わなきゃいけないものとかあるんだけど。光、まだ時間ある?」

 そう言うと、光は何だか嬉しそうにうなずいた。

「うん! 大丈夫だよ。どのお店でも任せといて」

「ははは、頼もしい。んじゃ、とりあえずまずは文房具屋」

 文房具屋で色々と必要なものを買い込んで出た。

「あとは、どこに行く?」

「ええと、そうだな。安い服屋はある? Tシャツ買いたいんだ」

「そうなんだ。じゃあ、あそこかな」

 光オススメの洋服屋は確かに安いし、品揃えも豊富だった。

「お、これいいな」

「えーっ」

「な、何だよ光」

「うーん。だって、君だったらこっちの色じゃないの?」

「え、そうか?」

 二人の歩み寄りで決定したTシャツを買って外に出ると、光が首を傾げた。

「うーん」

 何だか難しそうな顔だ。

「光、どうかしたの」

 そう声をかけると、光の表情が一変した。

「あの、さ。これって、デートだよね?」

 頬が赤くなって、目線をさまよわせながら。でも笑顔で、光は言った。

「で、デート?」

「う、うん」

 うーむ。確かに男と女二人だけでショッピングなんてしてるから、デートと言えなくもないな。

「そ、そうかもな」

 うわ、何俺おろおろしてるんだろ。

「アハハハ、照れない照れない」

 ほらみろ、光に笑われた。

「て、照れてないって」

「ウソだあ。今、顔赤かったもん」

「それなら、光だってそうだぞ」

「そ、そんなことないよ」

 ああ、もう、何だこのむず痒い空気は。俺は必死になって言った。

「だ、大体、何で今更光と買い物してて照れたりするんだよ。昔、よく二人で駄菓子屋に行ったりしたじゃないか」

 光は笑ってうなずいた。

「うん、そうそう。よく麩菓子とか買ったよね。懐かしいなあ」

 俺と光は思い出話に花を咲かせ、他に本屋なんかを回ってから駅前広場に出た。

「ふう。こんなもんかな。光、ありがとう」

 言うと、光は首を小さく横に振った。

「ううん。私も楽しかったよ」

「そうか」

 俺はちょっと目を泳がせてから付け足した。

「また、誘ってもいいかな。その、子供の頃みたいに」

 光は、今度は大きく、首を縦に振った。

「うん! いつでもいいよ。子供の頃みたいに二人で遊ぼう」

「ああ、そうだな。子供の頃みたいに」

「うん、子供の頃みたいに」

 俺たちは何だか呪文のように「子供の頃みたいに」を繰り返しながら別れた。

 光の姿が見えなくなると、俺はほっと溜息をついた。何か顔が熱い。きっと赤くなってるんだろうなあ。

 ああ、もう。またむず痒くなってきたぞ。子供の頃と同じ、同じ! だから照れたりしないんだってば。

 ……そうだ、本当は分かってる。「子供の頃みたいに」は照れ隠しのための呪文だ。子供の頃みたいに二人で遊びに出掛けても、子供の頃と同じにはきっとならない。

 だって、俺も光も、まだ大人とは言えないけど、子供でもない。だから…

 あー、何なんだよ、もう。俺は殊更に歩幅を大きくして、自棄みたいに歩き始めた。

 ……待てよ。そう言えば光も「子供の頃みたいに」を繰り返してたよな。あれはやっぱり、俺と同じ…なのかな?

 ま、まあ、いいや。どっちでも。とりあえず、今度光を誘ってみよう。色んなところへ二人で行けば、きっと何かが分かるだろ。

 と、俺はそこまで考えて我に返った。……ここはどこだ? わーん、光、助けてー。

 

 

 

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典型的SSですなー。
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