まぁ、とりあえず |
「お茶でものんでさ」
……………………
唐突な姉貴の行動に,逆に度肝を抜かれる俺。
「どうした? あ,水の方が良かったか?」
確かに,カフェインという刺激物が混ざっているお茶やコーヒーなんかより,ミネラルウォーターの方が何倍も体にいい。
……いや,そうではなくて。
「ゴメンな。あたしはお茶好きで,お前のように水の買い置きなんかしてないんだよ」
なるほど。
確かに,姉貴はお茶好きだった
というか,ミネラルウォーターを箱買いしているのは,俺くらいなもんだ。
……うん,だからやっぱり,そんなこと関係なくて。
「……そんなに嫌か? しょうがない。コンビニででもいってくるか……」
「姉貴!」
ほっとくとボケのスパイラルが果てしなく続きそうだが,いい加減,この辺にしておかないと,俺もビビるし,何より,読者もビビる。
「……? なんだ? 自分で買ってくるつもりか?」
「いや,全然そーじゃなくて。」
「……??」
その,『意味がわからないこというなよ,お前』みたいな表情はやめてくれ。
こっちがおかしいのかと逆に不安になるだろうが。
「何でいきなりお茶なんだよ」
とりあえず,俺は一番の疑問を口にする。
東京の夜は10時。
実家にいたはずなのに,一人暮らしの家にいきなり現れた義理の弟。
おまけにその弟はボストンバックを所持している。
この状況で,お茶でも飲めとか言えるその発想が俺には謎すぎる。
「……お前,ここに来るまでになんか食べたか?」
「はい?」
質問を質問で返されて,俺は思いっきり鳩が豆鉄砲な感じになる。
「この時間だと新幹線の駅の売店は閉まってるだろう? なにも食べてないんじゃないか?」
「そりゃあ,そうだけど」
もとより何かを食べられる余裕があったはずもない。
「今は気が張ってて腹はすいてないだろうが,飲み物を腹に入れれば,腹が減っていることを思い出すだろう」
「それはそうかもしれないけど……でも,なんでそんなこと?」
なんで今頃来たとか高校はどうしたとか,他に聞きたいことはいっぱいあるだろうに。
「どーせ今日はもうここに泊まるしかないんだ。とりあえずご飯でもたべて,そのあとゆっくり話したいことを話せばいいだろ?」
「……理由とか,聞かないのかよ」
「だから」
言って姉貴は持っていたお茶の缶を俺に放り投げる。
あわててそれを受け取る俺。
「いいたいことなら,飯を食ったあとにいくらでも聞いてやる。とりあえず,そのお茶でものんでろ」
クルリと踵を返して,姉貴はキッチンへと向かっていった。
姉貴から渡されたお茶は,冷えてなくて,完全に室温と同化していたけれど,その微妙な暖かさは,今の俺には心地よく感じられた。
「……まった,姉貴」
「何よ?」
ダイニングからキッチンへと向かうその途中で,俺の言葉に姉貴は振り返る。
「もしかして,姉貴が飯を作ってくれるわけ?」
「……そうだけど,問題?」
少しばかり怪訝な表情の姉貴。
「問題大有り。昔から俺の方が料理得意だったじゃないか」
こんなときにいうのもなんだけど,姉貴の料理はお世辞にもうまいとはいえなかった。
ただ,食べるからにはおいしいものを食べたいと思うのが人情というものだ。
「失礼な。これでも独り暮らしして上達したんだぞ?」
「どーだか。あやしいもんだ。だから……」
「だから?」
「俺も手伝う」
そう言って俺は腰を上げ,姉貴のところへと歩いていく。
俺より背の低い姉貴の顔が,ちょうど俺の胸のあたりで俺を見上げている。
やがて。
「分かった。じゃあ,手伝って」
不意に,姉貴は笑い,キッチンへと踵を返す。
それに続く俺。
ダイニングのテーブルの上には,俺が置いたお茶の缶がひっそりとたたずんでいた。
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姉と義弟。こんな姉が欲しかった人も多いんじゃない? | ||
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姉 クーデレ お茶 | ||
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