マクロスF〜イツワリノウタノテイオウ(9.Obelisk) |
9.Obelisk
街のいたるところで砲弾の閃光が走る。
本当なら、こんな戦場で歌っている場合じゃないだろう。
(それでも、俺は歌う。――俺に出来るたった一つの)
「!」
いきなりステージのライティングが復活する。
驚いて制御ブースに視線を向けると、GOサインを出すグレオの姿が見えた。
さすが敏腕マネージャー。
これまでと同じように一歩踏み出すきっかけを与えてくれる。
(これが、俺の戦い方だ!)
想いを込めて――勝つことを信じて、精一杯歌う!
「シェリオ――?!」
街頭の巨大モニタに映し出される姿。
町中に歌が流れ始めた。
戦火に包まれたステージで歌っているんだ。
これがアイツなりの戦い方なんだ。――なんて、らしいんだろう。
「私も負けていられない!」
絶対、ランタを助け出して、戻ってみせる。
「!」
ランタを攫ったバジュラを視界に捕らえる。
他のバジュラたちより大きい個体だ。
(ランタ、無事でいて――!)
祈るような気持ちでランタの姿を探す。
「いた! ――よかった。無事、だったんだ」
バジュラの腹の辺り、赤い半透明の部分に膝を抱え込むようにしてるランタが見えた。
何としても助け出さなきゃ。
(……ランタ……)
遠くから、声が聞こえた。
誰かが、名前を呼んでいる。
(ん……誰?)
誰が呼んでいるんだろう?
遠ざかっていた意識が徐々に戻ってくる。
「あ……シェリオさんの歌、だ……」
ぼんやりした頭に耳慣れた歌声が入ってくる。
――シェリオさんの歌声だ。
あれ? ……そう言えば、ボクはどうしてたんだろう?
「ここは……一体……?」
目をこすって、周りの景色を見る。
半透明な赤の世界。
ここはどこなんだろう? ――何で、こんなところにいるんだろう?
確か、ボクはシェリオさんのコンサートに行って……。
「あ!」
いきなりそれまでのことが思い出された。
コンサートの最中のバジュラが襲ってきたんだ。
お腹の辺りがむずむずして、理由はわからないけど、自分が狙われてるんだでわかったから、何とか皆を助けたくてあの場所から離れようとした。
でも、それは間に合わなくて……。
そして、殺されると思ってたけど、そうじゃなかったんだ。
「バジュラに捕まったんだ」
足元には戦火に包まれた町並みが見える。
殺されはしなかったけど、どうすることもできない。
一体、どうなってしまうんだろう……。
「! ――あれは!!」
ありえない光景に思わず叫ぶ。
太陽の光を反射して、こちらに近づいてくる白い機体が目に入る。
『ランタ!』
バルキリーから聞こえてきた声。
――ボクを助けに来てくれたんだ!
「アルト!」
誰よりも一番会いたかった人の名前を叫んだ。
「ランタ、絶対助けるから」
ランタは意識を取り戻したみたいだった。
怪我なんかしてないみたいでほっとするけど、ここが正念場だ。
何としてもバジュラからランタを取り戻さなくっちゃいけない。
「簡単に終わらせてくれないってわけね!」
どうにかここで追いつくことは出来たけど、簡単にランタを開放してくれそうにない。
何とかして、このバジュラを止めなきゃ。
「邪魔よ!」
ランタを捕らえてるバジュラに取り付こうとしているところに横槍が入る。
小型のバジュラがこちらに攻撃を仕掛けてきた。
「くっ――!」
高層ビルに囲まれてるせいで思うように機体を操ることが出来ない。
砲弾を避けようとしたけど、間に合わない!
コックピットにアラーム音が鳴り響く。
機体の右舷後方に損傷を受けてしまった。
機体のバランスが崩れる!
「ダメだ――何とか、機体を立て直さなきゃ」
大きなダメージとまではいかないけど、一度体勢を整えないとどうにもできない。
このままじゃ、二撃目を受けたら、墜とされてしまう。
(まずい。墜ちる……!)
バジュラが次の攻撃を打ち出そうとしていた。
万事休す――回避する手立てがない!
「え――」
後方から、私を攻撃しようとしていたバジュラに砲弾が浴びせられた。
銃弾に打ち抜かれ、バジュラが地上に落ちていく。
(――助かった?)
バジュラを打ち落としたのは真紅のバルキリーだった。
S.M.Sでも新統合軍でもない初めて見る機体。
『アンタレス1よりS.M.Sのパイロットへ。こちらで貴君を援護する。このままバジュラを追い掛けなさい』
「え……」
通信機から赤い機体のパイロットの声が聞こえてきた。
突然の申し出に言葉が見つからない。
『急いで。ぼやぼやしてたら、見失う』
「了解! 援護、感謝する」
急かす言葉に我に返る。
ぼんやりしているヒマなんてどこにもないんだ。
(ランタ、待ってて!)
スロットルを握る手に力を込めてエンジン全開でランタの後を追う。
程なく、バジュラの姿を見つけることができた。
「まずい――あの空母に戻られたら」
ランタがあの空母に連れ去られてしまったら、恐らく救い出す手立てはない。
何が何でも、今、ランタを救い出さないと。
「――今度こそ!」
バジュラの反撃を避けて、何とか取り付く。
「アルト!」
『ランタ、今、助けるから』
「うん!」
ランタの捕らわれてる部分は半透明な形状だけど、硬さも厚みもバジュラの外皮とそう変わらない。
簡単に壊せる硬さじゃない。
「くっ――!」
「アルト!」
当たり前だけど、簡単にことを運ばせてくれないらしい。
取り付いたメサイアを振り放そうとバジュラが反撃に出る。
(でも、何とかしてランタを助けなきゃ!)
「しぶとい――っ!」
バジュラに引き離されないようにするのが精一杯で、思うようにランタに近づけない。
このままじゃ――。
『全く――本当に世話の焼けるわね!』
「ミシェル――?」
通信機からミシェルの声がした。
それとほぼ同時に遠距離砲撃が目の前のバジュラに着弾する。
ダメージを受けたバジュラの反撃が止む。
今ならランタを助け出せる!
「ランタ、下がって!」
躊躇している暇はない。
ダガーナイフで一気にバジュラの腹を割く。
「アルト――!」
「――ランタっ!」
精一杯伸ばされたランタの手を掴もうとする。
(あと、ちょっと――!)
後、数十センチ。
これでランタを助け出せる。
「!」
そう思った瞬間、バジュラの体が反転する。
あと少しで……と思った気の緩みが事態を急変させる。
バジュラの突然の行動のせいでランタの体が宙に放り出されてしまった。
「アルト――っ!」
悲鳴を上げて、ランタの体が空に舞い上がる。
このままじゃ、ランタはフロンティアの外壁に開けられた穴から宇宙空間に放り出されてしまう!
「――ランタ!」
コクピットのハッチを開けて、飛び出す。
今度こそ、ランタの手を捕まえた!
「アルト、僕たちこのまま……」
「大丈夫。私たちにはメサイアがある」
「え?」
二人して宙に放り出されて、不安な表情のランタに安心させるように微笑んでみせる。
手首に巻いてある制御装置でメサイアを呼び寄せた。
「狭いけど、我慢してね」
「うん」
VF-25は単身用の戦闘機だ。
コックピットに二人入れば、ぎゅうぎゅう詰めになってしまう。
「さあ、行くわよ!」
掛け声を掛けて、メサイアのエンジンを全開に開く。
シェリオの待つステージに向かうんだ。
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マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。 | ||
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