錯覚の間 |
―錯覚の間
俺が目の前に現れたドアを開けるとそこには部屋があった。
あんなにも入ることに抵抗があったドアの裏側……。
他の部屋と明らかに違っていたのは雰囲気だった。
以前入った3つの部屋に共通していたもの。
それは、明るさの中にあるどんよりとした空気。
今回はそんな重苦しい空気など一切感じなかった。
それともう一つ。
砂が舞い上がっているかのようにとんでもなく視界が悪かった。
入った瞬間、自分の体がおかしくなった感覚に陥った。
携帯を覗くとやはり圏外、もうこれは使いようにならない。
ここでも頼りなのは俺の腕時計、たったこれだけだ。
しかし、一度入ってしまった部屋。
入ってきたドアも、すでに消え去る寸前だ。
もう戻ることは出来そうになかった。
数分経って、俺は砂嵐の中へと体を埋めていった。
探り探り、足を前へと伸ばしていく。
何があるか分からない……。
今までにはなかった見えない恐怖におびえながら。
ただひたすらに、いつまでも見えることのない道を進んでいた。
今までの部屋もおかしかったが、この部屋はまるで"別世界"だ。
何度針が回っても、俺は壁にすら触れることがなかった。
他に何があるわけでもなく、何者かが現れるわけでもない。
無限に広いとすれば、ここは屋内ではないのかもしれない。
体力自慢な俺でもこれだけ長いとさすがに疲れた。
体力的にも、精神的にも。
一寸先も見えないとはこういった状況を言うのだな。
先ほどまでの緊張すら、今ではなくなりかけている。
時計の針は途中から動いていないのか、さっき見たときと同じ時刻を指していた。
今までの部屋は何ともイビツな形をしていたものだ。
ドア、窓、机、イス、ともに一つずつ置かれていた。
そして部屋の中心と思われる場所には、太い一本の柱がずんとそびえ立っていた。
今回もそんな部屋だろうと踏んでいたが、まったく別モノらしい。
気づくと俺は何かの上に手を触れていた。
その拍子に、カラン、という音がして俺の足の上に落ちてきた。
とても軽い。
足元へ手を伸ばして拾ってみる。
しかし、目の前が砂嵐になっているためよく見えない。
感触からすると小さな丸い缶バッチのようなものだった。
これが缶バッチだとしたら、あの時落としたものなのかも知れない。
……ここは前の部屋と同じ場所なのかも知れない。
ふいに、外にいる時のような寒さが俺の肌に触った。
俺の顔にひらひらとしたものが不定期に当たる、窓でもあるのだろうか。
ここが前の部屋と同じ設計ならば、さっきの場所はおそらくキッチンだと思われる。
あそこでまでは風が届かない、ここはリビングか。
リビングということが分かった今、出口の場所を探すのは容易であった。
そのひらひらとしたものの位置を確かめ、一歩ずつ確実に歩いて行く。
15歩目を右の壁、この部屋に壁などあるのだろうか。
少々の不安を抱きながらも進んでいくと、つま先が固いものに突き当った。
手を突き、その存在を確かめる。
これがあの壁だとすれば電気を付けることが出来る。
すぐそばのスイッチらしきモノに手をかけて反対側へと押し倒した。
その瞬間あたりが眩しいくらいに明るくなり、先ほど以上に視覚を奪われた。
少しでも光が入ると激しい痛みに襲われる。
きっとまたどこかへ飛ばされるのだろう。
今度こそ何も見えない。
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ついに部屋に入った主人公。果たしてこの部屋から出ることは可能なのか。 | ||
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