剣帝?夢想 第十八話 |
賊軍の討伐が終わり、華苑の軍を城の前で待ち受ける。レーヴェの部隊のさらに選りすぐりの十人ほどの手勢を引き連れて、華苑を出迎えたレーヴェは報告を聞いた後、労を労ったあとで、共に城へ入った。城へ入り、しばらくすると微かに金属音が鳴り響いてきた。
「…華苑。この時間帯に誰か訓練をしているなんて話は聞いているか?」
「…いえ。そもそも、先ほどまで戦だったのですからレーヴェ様の部隊のものでも休息か事後処理に追われているはずですが」
華苑の言葉にレーヴェは金属音の鳴り響く音が聞こえてくる方向、調練場の方へと駆けた。それに遅れることなく華苑もついてくる。たったあれだけのやり取りだがすでに何があったか、ということは理解できた。
敵襲だ。
どこの国の人間かは分からないが大胆な人間もいるものだ。だが、一般兵に足止めを食らっているということは大した実力ではないのかもしれない。
そう思いつつ現場に急行すると、そこには予想を裏切る光景があった。
「その程度では自分の命も、大切なものも守れませんよ。ほら、もっと振りを鋭く。そして相手を見るのではなく、力の流れを読み取りなさい」
そこには、大勢の兵士に真剣を向けて囲まれ、斬りかかってくる兵士を軽くいなし、なおかつ涼しい顔でアドバイスまでしているマクスウェルの姿があった。
「く、くそっ!!」
兵士は悔しそうな顔でマクスウェルへと斬りかかっている。…マクスウェルの言う通りに振りを更に鋭くしようとする努力が見えるのは何と言えばいいのだろう。なんとも言えない顔で華苑は立ちつくしている。一応は戦斧に手をかけている分、警戒心は何とか残っているようだが。
そこでマクスウェルはこちらに気がついたのだろう。剣を大きく振って兵士たちを吹き飛ばす。兵士たちは地面に転がり、気を失う。その瞬間、レーヴェは地を蹴り、剣を横薙ぎに払っていた。
「おや…以前よりも攻撃が鋭い。精進したようですね」
マクスウェルが迎撃のために抜き放った剣は中途半端な位置で止まっている。前回の戦闘からの月日を考えて恐らくこの程度の成長だろうと見当をつけての迎撃だったのだが、レーヴェの成長速度はそれを超えていた。マクスウェルは純粋に驚いている。そして次の瞬間、二人の体が同時に動き、幾度も剣が交わされ、二人は距離を開けた。
「マクスウェル。なぜあなたがここに?」
レーヴェは油断なく剣を構えて問いかける。決して相手から目を放しはしないし、注意も彼から逸らさない。一瞬でも他に注意を割けば自分の体は裂かれているだろう。
だが、マクスウェルは持っていた剣をしまい。レーヴェの方へと歩みよってくる。そしてある程度まで距離が詰まるとレーヴェも剣を収めた。
「いえ、私が言うのも何なのですが、快気祝いとちょっと貴方に発破をかけに」
「快気祝いだと?」
「ええ」
レーヴェの訝しげな言葉にマクスウェルは笑顔で頷き、指を鳴らした。その瞬間、レーヴェたちの上空に影が差し、何かが降り立っていた。
「ば、化け物だ!!」
「ゆ、弓隊を呼べ!!」
その降り立った物を見て兵士たちは恐れの入った声で騒いでいる。華苑も険しい顔でレーヴェの前に飛び出し、降り立ったそれに激しい敵意を叩きつけている。そしてレーヴェは予想外のことに言葉を失っていた。そしてポツリと言葉を漏らす。
「ドラギオン…」
その声に兵士たちの、華苑の視線がレーヴェへと集中した。そしてその視線はどれも同じ言葉を発していた。
『説明をお願いします』
と。
マクスウェルはそのレーヴェの反応に満足したのか一度頷くと説明を始めた。
「そう。貴方もよく知っているでしょう。トロイメライ=ドラギオン。我らが結社が、トロイメライを解析して製作した劣化型導力人形。貴方も専用機を持っていたでしょう。そしてこれはその最終改良型。ドラギオン零式改。今までのドラギオンを圧倒する機動性、戦闘能力。そして強力な導力砲を腹部と腕部に三門装備。そして、レーザークロー。極めつけは、太陽を利用した、無限導力精製機構を搭載し、どのような場所でも無限に活動できるようになりました。もっとも、雨の日は機動力と活動時間が60%まで落ち込むのですがね」
流石の博士も流石に全能ではないようです。
マクスウェルはそんなことを言って肩をすくめている。
「快気祝い、ということはこれをオレに?そもそもどうしてこれがここに?」
「さぁ?私がこの世界で、目覚めたときに傍に待機状態であったのですよ。それも四機。なので、今までは正・副・予備・パーツ用として保存していたのですが、貴方が居ると知って一機は貴方に差し上げようかと」
レーヴェはその言葉にドラギオンを見上げた。
確かに、そのフォルムは自分が知っているものと違いがあるのが分かる。そして、今まではなかった、各所に取り付けられた板のような部品。これさえあれば、魏の兵力などないに等しい。だが
「これは受け取れない。この世界にこれはオーバーテクノロジーだ。それに他国とは、自分たち自身の力で決着をつける。だからこれは持って帰っていただきたい」
レーヴェはドラギオンを拒絶した。これを受け取ることは仲間たちへの裏切り行為に思えたからだ。この世界でならば、ドラギオン一機で他国を蹂躙することができるだろう。空からの一撃離脱や導力砲での一気殲滅。方法はいくらでも考えられる。そんな力に頼ることをレーヴェはよしとしない。だからこそ、レーヴェはドラギオンの受け取りを拒否した。
だが、マクスウェルはその答えを予想していたのか全く表情を変えずに言った。
「そう言わずに受け取っておきなさい。戦争で使う必要はありません。そうですね、馬の代わりくらいに思っていればいいでしょう。それに、これがあれば、何らかの災害が起こった時にも、いち早く急行し、復興支援が行えるのでないですか?それに、一つ断言しておきましょう。近い未来に、そのドラギオンの力が必要になるときが来ます。貴方の大事なものたちを守るために、必要になるときが」
マクスウェルは何を知っているのだろうか?彼の言葉は何かを確信している。そう、レーヴェに感じさせた。
「今は分からなくてもかまいません。今はただ、この国のことだけを貴方は考えていればいい。そして、貴方の愛する者たちとの未来を。そして、私を超えることを。貴方にはその権利と義務がある。そう私は思っているのですから」
「……あなたが何を知っているのか、何を言っているのかはわからない。だが、貴方がそこまで言うのであれば、確かに必要になる時が来るのだろう。ならば、今は受け取っておこう。それで、発破をかけに来たとも言っていたが、どういうことだ?」
レーヴェの言葉に、マクスウェルは満足そうに頷き、そして、今度は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「貴方は既に感づいているでしょうが、この世界への渡来は、元の世界での死が一つの原因のようです」
「…まさか、あなたも?」
レーヴェはリベルアークでその命を落とした。そして、気がつけば、五体満足でこの地にいた。元の世界で死んだから、役目を終えたからここに来た。レーヴェは勝手にそう結論付けていた。しかし、マクスウェルがどうして、どうやってこの世界に来たということは、考えてはいなかった。マクスウェルとの戦いでの敗北。それに意識が向けられていたことと、自分は確かに今、この世界に存在している。新たな時を刻んでいる。そう思っていたからだ。
そして、今、マクスウェルは自分も元の世界で死亡した。そう捉えられる言葉を放った。
「ええ。そしてそのことこそが、貴方に発破をかけることになるのですが、私を破ったのは誰だと思います?もちろん、貴方が知っている人物ですよ?」
自分が知っている人物で、マクスウェルを破ることができそうな人物。
アガット・クロスナー…彼は実力のほうは確かで、将来性も十分だが、マクスウェルとは相性が悪いだろう。力で押すタイプの彼ではマクスウェルには追いつけない
ジン・ヴァセック…確かに、彼ならばマクスウェルを破るほどになるかもしれなかったが、彼が誰かを殺すことは絶対にないだろう。
だとすれば、やはり剣聖か。
レーヴェはそこまで考えて、口を開いた。
「剣聖、カシウス・ブライトか?」
その答えに、マクスウェルはおかしそうに、笑う。予想通りだというように。
「く、くく、はははは、予想通りの答えをありがとうございます。確かに、彼ならば、私を倒すこともできたでしょう。それも、生かしたまま。しかし違いますよ。私を倒したのは、私を殺したのは、貴方の大切な恋人であったカリン嬢の弟、いえ、回りくどすぎますね。元執行者『漆黒の牙』にして、A級遊撃士になったヨシュア・ブライトですよ」
「なに?ヨシュアだと?」
レーヴェは眉を顰めた。ヨシュアは真っ先に斬り捨てた選択肢だった弟のことを考えた。確かに、幼いながらも執行者としての才覚を現し、その速さならば、誰も追随できなかったあいつならば、彼と戦えるくらいには成長するかもしれない。確かにヨシュアには才能があったのだから。だが、彼の隣にいるはずの少女が、一人でマクスウェルに挑ませることを、そしてマクスウェルを殺すことを許すとは思えなかった。だから真っ先に選択肢から除外したのだ。
「彼は想像以上の成長を見せましたよ。貴方の死をきっかけに、相当な鍛錬をつんだようです。私の前に一人でたちはだかった彼を見て、一瞬ですが貴方を幻視したほどです。断言しましょう。あのときのヨシュアは間違いなく剣帝である貴方を、そして神剣と呼ばれたこの私をも上回っていたでしょう。自身の速さという最大の特徴を極限まで鍛え上げ、この私の反応を超える速攻を仕掛ける。まさか、この私が反応できない攻撃があるとは露ほどにも思いませんでした」
マクスウェルは、ヨシュアに敗れたという戦いを思い出しているのか、愉快そうに笑い声を洩らす。
その言葉に表情こそは冷静だが、心の中では弟に負けてはいられないという思いが強く湧き上がっていた。そんな思いをマクスウェルは感じ取ったのか、満足そうな笑みを浮かべた。
「どうやら、私の目論見は上手くいったようですね。貴方が私を超える日を待ち望んでいますよ。まあ、そう遠い日ではないと思いますが。ドラギオン!」
マクスウェルはそう言って、ドラギオンの名を高く叫んだ。それとともに、レーヴェの前にあるものとは別のドラギオンが舞い降りてきて、マクスウェルはそれに軽く跳躍して飛び乗った。
「では、次の邂逅を待ち望んでいますよ。それではごきげんよう」
マクスウェルはそういうと、ドラギオンに乗ってどこかへと飛び去っていった。そして後に残されたのはドラギオン一機とレーヴェと華苑、そして呆気にとられた表情をしている兵士たちだった。
「超えてやるさ。必ず。剣帝の名にかけて」
レーヴェはドラギオンが飛び去った空を見上げ、小さく呟いた。
「あの…ところでレーヴェ様。これはどこに置いておくのですか?」
そんなレーヴェに、一人の兵士が恐る恐る声をかけた。その視線は完全に静止して鎮座するドラギオン零式改に向けられていた。
確かに、この巨体を置く場所は考えなければいけないだろう。それに、整備はどうすればいいのだろうか。ここには整備に使えるような器具は一切ないのだが。
「…ともかく、どこか邪魔にならない場所に移動させておこう。だが、置ける場所など、ここか中庭くらいしかないか」
さぁ、どうしよう。レーヴェはドラギオンを見上げながら、そこに置くかということを考えていた。そして、どう桃香たちに説明をするかということも。
その後ろでは、華苑がなにかを深く考え込んでいた。それも深刻な表情で。
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お久しぶりです。へたれ雷電です。一応生存報告も兼ねての短いですが更新です。今回は以前出ていたある意見を取り入れてみました。 そういえば零の軌跡、発売されましたね。ヨシュアとエステルも出てくるようで楽しみです。 |
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コメント | ||
恋姫世界に何と言うチートなモノを^^; う=ん、確かにエステルと共に在ったならば殺す事を前提には戦かわないでしょうし・・・何かあったのかな?物語の進行も気になるがこっちも気になるー!(深緑) なっとぅ様>修正しました(へたれ雷電) 3pそそいぇ→そして?(なっとぅ) 森番長様>そこは禁則事項ということで。まぁ、しばらくは土木用機械兼乗り物ですがw零の軌跡にはヨシュアとエステルも出るらしいですからね(へたれ雷電) なんとドラギオンきたwwwおそらく別の敵が外史に降り立つのかな?零の軌跡・・・・めっちゃ欲しいわ〜wwww(森番長) |
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