真・恋姫†無双 たった一つの望み 第二話
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それは綺麗な砂のようなもの

 

純粋な願いだったそれは、小さな器を満たしていました

 

けれど、時が経つにつれ

 

それはゆっくりと、それでも確実に

 

風に飛ばされるように、器から逃げていきました

 

今までも幾度かあったように

 

今度もまた、ほんの少しそれは零れるのでした

 

 

――覆水盆に返らず

 

 

ならば、代わりに満たされるものは?

 

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華佗に自分がおそらく天の御使いだと告げられても、実際にはなにも変わりはしない

噂の内容だって大した事はない、天の御使いが舞い降りる、だがその後なにをするともされていない

ならば自分の意思で行動し、天の御使いなんてのも隠せばいいのだ

そもそも天の御使いなんて怪しい者を、誰が信じてくれるものか・・・

 

この世界だって、この場所に居る自分自身だってそもそもおかしいことだらけ

三国志の世界だというのに、華佗の服装はかつての時代のものとは思えない

一番不思議なのは言語だ、なぜ普通に会話できているのか?

結局全てが不思議なこと、そう納得するしかない状況なのだから

 

――それに、天の御使い程度が今更なんだというのだ・・・

 

「オレが天の御使いらしいってことはわかったよ

 だけど天の御使いだからなにをしなきゃならないとか、そういうのはないんだろう?」

「少なくとも噂ではそんな事はないからな

 北郷はこれからどうするんだ?」

 

そう、それが問題になってくる

生きていくこと自体はそう難しいことではないとはいえ、今まで現代人の生活をしてきたのだ

この世界の生活水準がどの程度のものかわからないが、ある程度の生活をしたいという気持ちはある

 

それにまずこの世界のことを知らなきゃならない

この土地独特の風習や一般常識、この国の現状、知らなきゃならないことはたくさんある

どんな時だって情報はあって困ることはない、しかしなければ困るものだ

 

「華佗はこれからどうするんだ?

 大陸を旅して病魔とやらと戦ってると聞いたけど、どこか向かう予定はあるのかな?」

「俺はこのまま南に向かうつもりだ、もともと北から南下してる最中でな

 山を越えているところに流星を見てちょっと寄って見ただけの話だからな」

 

ここから南の方角、とすると呉の方角に向かうことになるのだろうか?

正確な位置は覚えていないが、今の場所は大陸のほぼ中心辺りのはずだ

ならば華佗についていくのもいいかもしれない

 

特にやることがないとはいえ、英雄を見てみたい気持ちはあるし

なにより大きな街も呉にはあるだろう

それまで華佗からこの世界のことをいろいろ聞ければ一石二鳥だ

 

「華佗、すまないがオレも一緒に行っていいか?

 正直この世界のことを知りたいし、頼れる人が他にいないのも事実なんだ」

 

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頼むのにはちょっと勇気が必要だったにも拘らず、華佗はあっさりと同行を許してくれた

医者として旅をしているから人手があれば助かるというのもあるだろうが、華佗のこれは生来の気質な気がする

近くの村に着くまではあと2日ほどかかるらしく、その間に華佗からこの世界のことを聞くことにした

 

文字はどうやら漢文らしく、しゃべっている言葉を考えて随分とおかしなものだと思った

それになんとなく予想はしていたが、この国は腐って堕ちる寸前であるらしい

三国志の序盤の出来事といえば、官の腐敗に民が暴動を起こす黄巾の乱だからそんな気はしてたが

それでもまだ黄巾党はいないらしい、山賊や盗賊は普通に居るらしいが・・・

 

なによりも驚いたのは真名という風習、この世界独特のシャーマニズムなのだろう

しかし誤って真名を呼んでしまったとしても、どうやら冗談では済まされないほど重いものらしい

オレの場合は一刀が真名にあたるのかと華佗に言ったら驚かれたほどなのだから

 

「うーん、ということはこれからは北郷と名乗った方がいいのかな」

「その方がいいだろう、名乗るたびに驚かれるもの嫌だろう?」

「そうだな、それに目立ちたくない」

 

そう、目立ちたくないのだ

淡い期待ではある、だけどもしかしたらこの世界なら

天の御使いであることがバレなければ、もしバレても力さえ隠し通せたなら

 

 

――この世界でならオレは"ヒト"になれるかもしれないから

 

 

だから、極力目立つ行動は控えてこの世界に溶け込まなきゃならない

まぁ、現時点ではこの服装のせいで目立たないことなんて不可能なんだけど・・・

 

「はぁ、村に着いたらどうにかして服を調達しないとなぁ・・・」

「ハハハ、北郷のそれは目立つからな!

日の光を浴びて光って見えるなんて、どんな素材でできているのやら」

 

華佗は笑いながら白い服を見つめているが、こちらからしたら由々しき自体なのだ

そもそもが目立つように作られた服である以上、何とかしないとこれだけで怪しまれてしまう

 

「まぁ村に着くまでにこの世界の常識なんかは教えてやるよ、こうしてあったのも何かの縁だろうからな!」

「この世界に来て初めて会ったのが華佗で良かったと心から思うよ

 天の御使いなんて、得体の知れないものかもしれないオレにこうして付き合ってくれてるし」

「天の御使いと言ったって所詮は噂さ、北郷がそんなに気にすることじゃない」

「その言葉でどれだけ救われることかわからないよ」

 

本当にそうだ、どれだけ救われたことかわからない

正直な話をすれば、最初に天の御使いだと言われた時にオレは少なからず諦めを覚えた

またここでも特別扱いをされる、悪くすれば・・・と

 

なのに華佗ときたら笑いながら、北郷は天の御使いなのか言われてみれば珍しい服だ、なんて

お互い様だと思いもしたが、その笑い声でオレがどれだけ楽になったか

 

華佗という男に、北郷一刀は確かに救われたのだ

 

まさか医者だからといって、心まで癒されるとは思わなかった

まさに神医だな、なんて言葉にはしないが・・・

 

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――2日後

 

予定の村についたオレがまずやった事、それは服の調達だった

この2日間、暇さえあれば狩りをして動物の毛皮と肉を集めてきたそれを売って庶民の着る服を買った

大急ぎで着替えたのも、着替えて思わずホッと安心してしまったのも仕方がないと思う

 

「どれだけ経っても慣れないんだよな、あの好奇の視線ってのは・・・」

 

村に入ってからすぐに肉を売れるところを探したにも拘らず、その短い間だけでもかなりの人に見られてしまった

もともと目立つ服装なのに、華佗が村に入った途端大声で叫んだのが原因だ

 

「病気や怪我をしてる奴が居たら教えてくれ!!

 俺がその病魔を徹底的に退治してやる!!!」

 

一緒に居てテンションが高いことや熱血漢であることはわかっていたが、ここまでだとは正直思わなかった

注目を浴びて視線が集まるのを感じた瞬間、華佗に行き先と要件だけ告げてそこから逃げたのは正しい判断だったはずだ

 

「やれやれ、良い奴であることは間違いないんだけどな〜・・・」

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

宿を手配し、用事を済ませてから華佗を探すと、広場に人が集まっているのを見つけ足早に向かう

だが、そこであんなものを見るなんて誰も想像できなかったに違いない・・・

 

オレはどうやら華佗についての評価を改めなければならないらしい

熱血漢という言葉ではどう考えても足りなかったようだ・・・

 

「我が身、我が鍼と一つなり!

 一鍼同体!全力全快!必察必治癒!

 病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

なんなんだあれは、傍目からは掛け声とともに鍼を刺している様にしか見えない

しかし、あまりにも真剣なその表情と威圧感、それに明らかに元気になっている患者がいる

 

「五斗米道ってそういうものだったかな?

 初めて麻酔を使ったとかそういうものだったと記憶してるんだけどなぁ・・・」

 

おそらく今自分はとても引き攣った笑顔になっているだろう

額に嫌な汗が滲むのを抑えられなかった・・・

 

それからしばらくして治療が終わったらしく、やっと人が居なくなり良い笑顔になっている華佗に近付く

ちょっと躊躇したのは仕方ないと思う

 

「随分と数をこなしたみたいだけど大丈夫か?」

「問題ない!全ての病魔も俺にかかれば即退散だ!!

 俺の夢は大陸から全ての病魔を取り除くこと、ならばこんなことは雑作もない!!!」

「そ、そうか・・・宿も手配したし、今日はもう休むか?」

「そうだな、今日の所は患者もいなくなったようだし、食事を済ませて宿に行こう」

 

こちらにきて初めてのまともな食事の感想は、薄味であるということだった

よく考えてみればこの時代、調味料は貴重なものだ

ちょっと物足りなかったが、これからは慣れていかなきゃならないだろう

 

 

「しかし今日は驚いたよ、華佗の治療の仕方にだけど・・・」

 

宿に戻っての第一声はこれだった、あれだけ印象に残る治療もないだろう

 

「あれは鍼に気を集中させてたんだ、直接病魔を滅ぼせるから病気なんかは一発で治療できるぞ!」

「病魔を感知できるだけですごいと思うんだけど・・・

 それに気っていうのはなんだ、誰にでもあるものなのか?」

「気は万物に宿るものだ、人にだってあるしそこら辺の植物や土にだってある

 五斗米道では特に自分の体内にある気を操作して治療に使うんだ」

 

どうやら自分が思っていたものとは少し違うようだ

気っていうと特定の人だけが持つものだと思っていた

 

「誰でもやろうと思えば気を使うことはできるのか?」

「訓練さえすればある程度はできるようになるだろう、得意かどうかは別だけどな!

 北郷さえよければちょっと診てやろうか?」

 

オレは・・・どうなんだろう、少し興味はある

気を使ってなにができるのかも気になるし、診てもらうのもいいかもしれない

 

「じゃあそこに横になってくれ」

 

少し緊張しながら寝台に横になってからふと、嫌な予感がした

 

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何で忘れていたんだろう、華佗という医者が"診て"くれるということは

オレの力も、下手をしたらバレて・・・

 

「―――・・・ちょっと待ッ!!!」

 

だけどその判断はあまりにも遅く・・・

 

 

――北郷、お前本当に人間か・・・

 

 

その言葉がとても遠くで聞こえたような気がした・・・

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あとがき

 

どうも、へたれキノコです

 

 

ようやく3回目の更新です、他の人と比べると若干遅いペースかな

なんにせよこれで見習い卒業!

やっといろんな機能が使えるようになるのでちょっと楽しみです

これで今までたまってた応援メッセージが返せる!

違和感や文章への指摘、気になることがあったら気軽に送って下さい

 

これからもへたれキノコをよろしくお願いします

 

 

さて、コメント返信のコーナー

 

第二話投稿時のコメントは4つでしたー

 

 

Q1.自分に対しての劣等感の一刀君今物語スタート

A1.劣等感というより疎外感が近いかも

 

貴方と私は違うという感じですかね

現時点ではまだそれほどでもないですけど、これから性格にも若干の変化が?

 

Q2.此処でも「特別」だが、意味合いが違う

A2.良い所に気付いてくれました!

 

何方の外史でも北郷一刀が出る場合は必ず「特別」なんですよね

しかもその「特別」を「特別」と感じずにあくまで一般人ですよってスタンス

そんな外史が多い中でウチの一刀君は「特別」に対してとても敏感です

もはや忌避してると言って良いくらい、これが今後どう影響するのか

是非お楽しみに!

 

Q3.世界を跨いでも『人とは違う存在』である宿命からは逃れられない、もはや諦観な感じ

A3.天の御使い=人じゃない、とはちょっと違う感じです

 

結局天の御使いって単純に他者からの評価ですよね、人じゃないっていうのも同じ

だけど両者には決定的な違いがあるんです

人じゃないという場合には、人の根本的な部分にそれだけの理由があるということ

天の御使いの場合には、みんながそういうからそうなんだろうってくらいの理由です

つまり、一度確定したら二度と撤回できない評価とそうでない評価でと考えてます

ちょっと説明がわかり辛いと思いますがそんな感じです

諦観な感じはあるかも〜、でもちょっと希望があればそれに縋っちゃうのも人ですよね

 

Q4.とりあえず華陀と一緒に旅をするのかな?

A4.華佗とは一緒に行動しますが旅というほど長くないかな

 

ある程度の一緒の行動をするけど以外と早くお別れになるかも

一刀君は三国志の英雄や有名人を見に行く、というのが今の行動指針

対して華佗は北から南へ旅をしているので今後の行き先が異なる可能性も・・・

 

以上でコメントへの回答は終了です

 

それではまた次回の更新で!

説明
やっと3回目の投稿です
こんな時間に投稿することになろうとは・・・
相変わらず話が進まない、他の人はどうやってあんなにスラスラと進められるのか!

正直、羨ましいです
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コメント
疑問に思ってもそれでどうこうするような華佗ではないでしょうけど、一刀の今後の行動は気になりますね。(深緑)
力の事がばれた?!(zendoukou)
この後、一刀がどういう行動に出るのか気になります。(ポセン)
実際どうなんだろう?この一刀は人間なのかな?(FALANDIA)
タグ
真・恋姫†無双 北郷一刀 

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