真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第四十八話 |
荊州・襄陽。
その日、一刀と劉備の二人は、今後の荊・益両州の運営方針を、荊州残留組と話し合うため、久々にこの地へ戻ってきていた。
だが、到着した二人に聞かされた、留守役の劉封の台詞は、まさに青天の霹靂だった。
「なんだって?華琳たちがここに?!」
「ああ。……庇護を求めて、今この地に居る」
「ど、どういうこと?」
劉封の口から語られたのは、まったく予想だにしていなかったこと。魏王・曹操が、家臣全員とともに、中原を追われ、ここ、荊州に逃れてきていたのであった。
「華琳は、みんなは無事なのかい?」
「はい。曹操さん以外の方は、少なからず手傷を負っておいでですが、命に別状はありませんでしゅ。はわわ」
諸葛亮がかみかみながらも、一刀にそう答える。
「……そっか。それは良かった。……で、華琳は?」
「皆さんの看病に付き添っておられます。お呼びしますか?」
「いや。俺のほうから出向くよ。城下の病院でいいのかな?」
「はい」
その、襄陽の街中にある件の病院では。
「華琳さま、われらごときのために、付きっ切りで看病などしていただけるとは、この夏候元譲、もう、お礼の言葉もありません!」
「何を言っているの、春蘭。みんな私のかわいい将よ?それに、私を守ってした怪我ですもの。こんなことは当たり前でしょう?」
寝台に横たわったまま涙ぐむ夏候惇に、そう言って優しく微笑む曹操。
「華琳さま、なんてお優しいお方……。ちょっと春蘭!いつまでも華琳さまを独占してんじゃないわよ!」
「桂花、落ち着け。あまり興奮すると、怪我にさわるぞ」
いすに座って夏候惇に叫ぶ荀ケを、夏候淵がそう言って諭す。
「大丈夫よ、桂花。心配しなくても、貴女もちゃんと看病してあげるから、もう少しだけ待ちなさいな」
「は、はい!華琳さま!!」
曹操に微笑まれ、恍惚の表情を浮かべる荀ケ。
室内には、全身包帯だらけで寝台に横たわる武将組と、その武将組よりは軽症な軍師組が、曹操を中心にしてそれぞれ椅子に座っていた。
そこに。
「お邪魔するよ、華琳」
病室の扉を開け、一刀と劉備が中に入ってきた。
「……一刀、桃香」
「り、劉翔か」
「あ〜、一刀さんなの〜」
「久しぶりやな〜、大将」
「お久しぶりです、一刀どの」
「お元気そうで何よりなのですよ、お兄さん〜」
「……お久しぶりです、一刀、さま」
少しさめたような視線を向ける曹操。そして、その後に続くように、一刀にそれぞれ反応を示す、夏候惇、于禁、李典、郭嘉、程c、楽進たち。
「ちょっと、沙和!凪!あなたたち、なんでこの男を真名で呼んでるわけ!?」
「……それもそうね。風と稟はもともと面識があったみたいだし、別に不思議ではないけど。……一刀、聞かせてもらえるかしら?」
じろ、と。笑っていない目のまま、笑顔で一刀に問いかける曹操。
「いやほら、春ら、夏候惇さんたちを以前、俺たちが捕縛したことがあったろ?そのときに、さ」
「……そう。春蘭たちも真名を預けているのね?……その理由は、聞かせてもらえるのかしら?」
「か、華琳さま、それは」
「春蘭、その説明は私がしよう。姉上、実は……」
動揺する夏候惇を制し、曹仁がその時の事を、姉である曹操に語る。
「……つまり、こういう事態になるかもしれないのを、一刀は見越していた、と」
「正直、そうならないことを祈っての、つもりだったんだけどね」
一刀が曹操、ひいては漢に従おうとしない事への理由を教わった事、司馬仲達らに対する警戒を、頼まれたこと。そして、曹操自身の身を、かならず守ってほしいと、真名を以って迄頼まれたことを、曹操は妹の曹仁から聞かされた。
「……我々と同等に、姉上を想ってくれている。あの時の一刀殿の眼差しは、我々にそう確信を持たせてくれました」
「せやな。大将の想いはほんまもんやったで」
「そうなの。沙和も真桜ちゃんに賛成なの」
「私もです、華琳さま。その想いは、私たちと寸分変わらないと、そう思いました」
曹昂、于禁、李典、楽進の四人が、曹操に対して切々と訴える。
「……わかったわよ。真名の件については、貴方達が預けて良いと判断したのね?なら、それでいいわよ」
少々顔を赤らめながら、不承不承といった感じで、納得をしたという曹操。
「孟ちゃん、顔が紅いで?もしかして照れとんのか?」
「うるさいわよ、霞。けが人は黙って寝ていなさい」
「へいへい。おーこわ」
ぎろりと。自身をからかった張遼を、さらに紅くなった顔でにらむ。
「……それで、華琳。そろそろ、何があったか聞かせてくれるかい?」
「魏の武将さんたち全員が、ここまで手傷を受けるなんて、いったい何が起こったの?」
曹操に揃って問いかける、一刀と劉備。それに対する曹操の答えは、衝撃、の一言だった。
「…………漢が、……滅んだ、わ」
『…………え?』
うつむき、歯がみする曹操の両拳は、ギリリ、と音を立てるかのごとく、強く握られていた。
すべては半月前のこと。
魏王都、許にて。
「それは本当なの、桂花!?」
「……はい。残念ながら、委細、間違いありません」
「そん、な……」
その報告に驚愕し、玉座からおもむろに立ち上がって再度問うた曹操は、改めて荀ケから返ってきた返事に、愕然とした。
「……陛下が、劉協さまが、仲達に禅譲、した……」
禅譲。
それは、今代の王朝から、次代の王朝に行われる、国譲りの儀式のこと。
漢の今上帝劉協が、丞相である司馬懿仲達に、帝位を譲ったと。
荀ケは?からもたらされたその報告を、主君である曹操に、涙をその瞳にためながら報告をした。そしてさらに、追い討ちをかける報告をも、彼女はしなければならなった。
「それからもう一つ。早急に対応しなければならないことがございます。その司馬仲達の軍勢が、すでに黄河を渡り、青州と?州、そして洛陽を攻略中との事です」
「ちょっと待て桂花。いくらなんでもそれは無理があるだろう?河北の戦力はせいぜい、二十万がいいところだ。そんな戦力で多方面への同時侵攻など」
荀ケのその報告に疑問を持った夏候淵が、河北の戦力からしてありえないと、口を挟む。
「確かに。けど、青・?二州に総勢十万、洛陽に二万が、それぞれ襲い掛かっているのは事実よ」
「……ちょっと待って、桂花。それじゃおかしいわよ」
「そうですね〜。数が合いませんね〜」
荀ケが語った河北軍の戦力数に、首をかしげて疑問を呈する曹操と程c。
「んー?青・?の二州に十万だろ?で、洛陽に二万。河北の兵は全部で二十万だから、残りは……。あれ?え〜と」
「……後八万だ、姉者」
「その程度の計算ぐらいできなさいよ、この脳筋」
「うう」
なぜか恍惚としている表情の妹と、しらけた表情の荀ケに突っ込まれ、がくりと肩を落とす夏候惇であった。
「……それはともかく、いかが対処されますか、華琳さま」
「いかがも何もないわ。私は、漢の臣たる魏王よ。ならばすべきことは一つ」
郭嘉に問いに一瞬笑みを浮かべ、そしてすぐにまた、いつもの凛々しい顔になる。
「……やるんか、孟ちゃん?」
「ええ。仲達ごときの好きになど、決してさせるものですか。全軍に通達せよ!これよりわれらは、漢より帝位を簒奪した愚か者を誅滅する!直ちに出陣の支度を整えよ!」
『御意!!』
場面は再び、襄陽の病院。
「私たちはそうして、二十万の兵で許を発ったわ。そして、?州に入る直前で、三万の虎豹騎に遭遇した」
「三万?八万じゃなくてか?」
「ええ、三万よ。……正直、そのときに気付くべきだったわ。残りがどこに向かったか」
「……戦の結果については、われらがここにいる以上、聞くまでもなかろう?」
「……十倍近い戦力でも勝てない、か。相変わらずとんでもないな」
「虎豹騎の兵士自体は、そんなにてこずる様なものではない。だが」
「あの五神将って連中、化け物だよ!ボクも流流も、春蘭さまも秋蘭さまも霞さまも!みんなみんな、まるで子ども扱いなんだから!」
許緒が泣きながら、そう叫ぶ。
「季衣のいうとおりよ。春蘭たちがあっさりと負けて、兵たちの士気はがた落ち。あっという間に、黒い波に飲み込まれてしまったわ」
少し自嘲気味に、苦笑する曹操。
「それでも、何とか孟ちゃんを守って、うちらは許に戻ったんや。せやけど……」
「……別働隊に、制圧されていた、か」
「……そういうこと、よ」
静まり返る一同。
精鋭で知られた魏の軍勢が、正面から十分の一程度の数の相手に対し、一当たりしただけで、壊滅に追いやられた。その事実は、改めて虎豹騎、いや、項羽を筆頭とする五神将の恐怖を、一刀たちに再認識させるに十分だった。
「けど、不思議なのはその後よ。……連中、私たちを追っては来なかった」
「え?」
「そうなんよ。連中、許から南下して逃げようとするうちらを、追撃せえへんかったんや」
「……つまり、わざと見逃した、と?」
「何でそんなことする必要が?」
「それが判れば苦労はないわ。ま、そのおかげでこうして、全員生きて荊州に入れたんだけど」
魏軍をわざと見逃す。
仲達の思惑がどこにあるのかは、現状では何も判らない。ならば、まずは目の前の現実に、しっかりと対処する。それが、現状での最優先事項だが、一刀は後一つだけ、曹操に聞かねばならないことがあった。
「……なあ、華琳。陛下……劉協さまは」
「……私に判るわけないでしょう?確かめる術なんて、あったと思う?」
「う。……そう、だよな。ごめん、軽率すぎた」
「わ、わかればいいのよ。わかれば」
仲達に禅譲をした後、劉協がどうなったのか。一刀はそれが気になって曹操に問うたが、残念ながら、曹操にもそれを確かめる手段は無かった。
「陛下が無事だったら、あの人たちの目的も、少しはわかるかも、なんだけど」
「やつらの目的、ね。普通に考えれば、大陸の統一、なんでしょうけど」
「……それだけじゃ腑に落ちないところも、多くありすぎだし、な」
室内を再び、沈黙が支配する。
その時だった。
「うふふふふ。……その答え、私が教えてあげましょっか?」
突然響いた”野太い”声。
「だ、誰?!」
「何者だ!姿を見せろ!!」
「どぅふふふふ。……ほんとーに、みせちゃっていいのねぇん?いっちゃうわよぉん?」
”声”がそこまで言ったときだった。
ビカアッ!!
室内が激しい閃光に包まれる。
「くっ!」
「ま、まぶしい!!」
思わず目を閉じる一同。そして、光が収まり、目を開いたとき、そこに、”ソイツ”が、いた。
「はあ〜〜〜〜い!!全外史の一億人の漢女ファンのみなっさ〜ん!お・ま・た・せ♪永遠の漢女、貴女の貂蝉ちゃんぃよお〜〜〜〜ん!!」
『オエ〜〜〜〜』
……パンツ一丁の、自称・永遠の漢女こと、変態筋肉だるまが。
〜続く〜
<あとがき>
さって!刀香譚はついに、これより最終章の開幕です!!
「・・・・・・作者さ、あんたの頭の中、一度解剖させてほしいんだけど」
なんでやねん!!
「どーゆー展開やっちゅうこっちゃ!」
「そーですよ!むちゃくちゃもほどが」
そ〜お?これぐらいで驚かれてたら、この先ついて来れなくなるよ?
「・・・もっとトンでも展開になる、と?」
むふふ。読者には絶対読めないだろうね、ここから先の話。
「・・・これでよむやついたら、うち、尊敬するわ」
てなわけで、いきなり急転直下、三百六十度ぐらいぐるりとひねりました今回のお話、いかがだったでしょうか。
「また、たくさんのコメント、お待ちしておりますね」
「支援もできれば、したってな〜」
あと、刀香譚とは関係ありませんが、TINAMI学園祭にも参加しましたので、そちらにも目を通してやっていただけると、私としては嬉しいです。
「わたしたちがメ・イ.ン、の、お話ですよー!!」
「ほかにも、蒔さんとか拓海くんとか出てるから、いっぺん見たってな〜」
ではまた次回、四十九話にておあいしましょう〜。
『再見〜!!」
説明 | ||
さて、いよいよ本編の再開。 第四十八話です。 急転直下の怒涛の展開! みなさん、ちゃんとついてきてくださいね〜。 では、逝ってみよー! |
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コメント | ||
あんなとこで 筋肉野郎がきたら 傷が開くではないか。。(qisheng) 古の偉人の名を冠する人物が率いる強さは伊達ではないってことですか、しかし魏の主力を一蹴ってどんだけ強いのやら; しかし美味しい所を強烈なインパクトで粉砕するのが巧い漢女殿ですな^^;(深緑) 最後で『ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』ですか・・・。(大ちゃん) nyaoさま、文句は漢女にどうぞ。当方では受け付けませんので^^。(狭乃 狼) 東方武神さま、蝶の羽つけて飛んでくように、ですかww(狭乃 狼) とんぷーさま、壊れた雰囲気は戻らない〜。・・・うそですww(狭乃 狼) 瓜月さま、大丈夫、幻聴ですよ^^。(狭乃 狼) 最後の最後で、今までの雰囲気が台無しに・・・orz(Nyao) 御大将はお帰りくださいwww・・・最終章に突入しましたね。さてはて、これからどういった展開を見せるのか楽しみです♪(東方武神) シリアスだから、シリアス気分で読んでたのに最後で木っ端微塵になった(笑(とんぷー) ちくわの神さま、適切には違いないでしょうけど、さて、ちょーせんは何しに来たのでしょうね^^。(狭乃 狼) まぁ人外の相手は人外に任せるのが一番適切かとwww(ちくわの神) 村主さま、やっぱり一対一じゃ無理なんですよ。え?なら複数でフルボッコにしろ?・・・それで勝てますかね〜?(狭乃 狼) うん、まあチート相手にはこちらも漢女という切り札(この場合ジョーカーが適切?)がいる訳でwしかし魏武官全てをもってしても子供扱い・・・ 洒落にならないっすw(村主7) ZEROさま、次回までお待ちください^^。一刀の悲鳴は、ねww(狭乃 狼) 貂蝉はやっぱり一刀をご主人様と呼ぶのかな? 呼んだときの反応が楽しみです。(ZERO&ファルサ) 砂のお城さま、やはりやつに反応するか^^。それはさておき、一刀と刀香のことに、華琳が気付いたとき、それは血の雨の降るとき、か・・・?(狭乃 狼) 紫電さま、仲達の考えがはっきりするかどうかは、あの化け物しだいかも?(狭乃 狼) |
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