真・恋姫?無双 虎琥の出会い 3
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前回のあらすじ!

 

虎狩りに来た一刀達は虎に襲われた村に到着した。

虎狩りに行く華琳達と別れ、一刀は凪、虎琥と一緒に村の復興を始める。

その最中、虎が再び村を襲った。

虎琥は一人で引きずり込まれた兵士を救うために森へ入り、一刀は村の事を凪に任せると他数人の兵士と共に虎琥を追って森に入った。

 

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虎琥は虎を追って森の中を走っていた。

幸い、と言って良いのだろうか、けもの道に少なくない血の跡が続いている。

 

「…」

 

『優しいんだ。誰にでも、どんなことがあっても自分より他人を優先する…。私は、そんな隊長の下にいることが出来る…。そのことが何よりうれしいし、誇りなんだ』

 

虎琥の頭の中に凪の言葉と笑顔が浮かぶ。

 

わからない。確かにあの男は村の人に優しく接していた。でも、それだけではないか。

曹操軍に入ってしばらく北郷隊、北郷一刀について調べたことがある。

しかし、誰よりも強い武力を持っているわけでもない。この軍の参謀の頂点、荀ケ様、郭嘉様、程c様と肩を並べるような知力を持っているわけでもない。

警備隊を組織した話は聞いたが…大したことではないと思う。

私には、あの男が何か優れているところは持っているようには見えない。

だけど、

ただ優しい男に何であの人はあんな表情が出来るのだろうか?

 

私には、わからない。

 

虎琥は走る。自分の中にある、このモヤモヤした感情を払うように。

 

 

 

 

しばらく走っていると目の前が少し開けた。

そこには、

 

「…クッ!」

 

すでに絶命した血塗れの兵士が倒れていた。

 

(まだこの近くにいる…!)

 

おそらく自分が追われているのを気付いて身を隠したのだろう。

虎琥は愛用の細身の剣ともう一本、小刀を逆手に抜いた。

 

「…」

 

息を殺して周囲の気配を探る。

 

ガサッ!

 

「…!」

 

音のする方に目をやる。しかし何も居なかった。

虎琥は虎が確実に自分を追い詰めているのを感じる。

虎琥の背中に冷たいものが流れる。

 

グルル…

 

「…ッ!」

 

今度は唸り声が聞こえた。

確実に仕留められる機会を探っているのだろうか。

が、しかし、

 

ガサガサ!

 

虎琥は音がする方を見た。

 

「そ、そんな…!」

 

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「華琳様、虎は全く見当たりませんが…」

「…変ね。血のにおいをかぎつけるだろうと思っていたのに」

 

その頃、華琳達は虎の捜索をしている最中だった。

出発する際にシカを捕らえ殺し、その血を撒きいて虎を誘っていたが未だにかからなかった。

 

「一度戻ってはいかがでしょう?歩きづめでは兵士も疲れてしまいます」

 

華琳の隣に控える秋蘭が華琳に提案をする。

 

「そうね…ん?」

「いかがいたしました?」

 

と、華琳は何かに気付いた。

どうやら村の方から馬がこちらに走って来ている。

 

「曹操様は何処!緊急です!」

「何かしら…?曹操はここだ!」

「曹操様!緊急事態です!」

「何があった!」

 

早馬の兵士は息を落着け答えた。

 

「村に大虎が現れました!兵士が一人引きずりこまれ、これを追って孫礼様が一人で森の中に入りました。さらにそれを追って北郷様他数名が森に入って行きました!」

 

華琳と秋蘭の表情が変わる。

 

「何だと!?…華琳様!」

「…すぐに村に戻る!前方の菖蒲、春美、悠、春蘭達にすぐに伝えろ!」

 

 

 

その頃、一刀達は虎琥と同様に血の跡を追っていた。

 

「この大きさは…かなり大きさです。普通じゃない…異常だ」

「大きな虎とは言っていたけど、そんなのがここに…」

 

しゃがんでいた兵士、項が立ち上がり、けもの道の方を見る。

彼は元々猟師を生業としていた。そんな彼でも見たことの無い大きさだという。

一刀達は思わず息をのむ。

これからそんな化け物の様な虎と出会うかもしれない。

 

「このまましていても埒が明かない。みんな周りに警戒しながら急ごう!」

 

一刀の一言に一同は前に進みだす。

しばらく歩き続けた、との時だった。

 

ガルァァァ!!!!

 

「北郷様、今の泣き声は…!」

「行くぞ!」

 

一刀達は走り出した。

次第に木々が減って開けた場所にでる。

 

その時、一刀が見たものは、

 

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虎琥はその大きさに声を失った。一丈(3m)をかるく超えている。

本当に虎だろうか、しかし、その虎には特有の縞模様がある。間違いなく虎だ。

だが、虎はこんなに大きくなるのか?もう化け物ではないか。

 

「ガァ!!」

 

と、その瞬間、虎琥は思考を断ち切る。

虎が虎琥の頭上にその大きな前足を振りあげていた。

虎琥は身を低くし転がるようにかわす。

 

ドンッ!

 

虎琥の耳に信じられない音がした。

虎琥はすぐさま体を虎の方に向けて剣を構える。

 

「グルル…」

 

虎がゆっくり動きだす。

攻撃を繰り出した右足を動かす。

 

ボコッ!

 

「嘘…」

 

虎琥はすさまじい光景を目の当たりにした。

虎の右足は地面を陥没させていた。

 

(あんなのを受けたら…)

 

虎琥はその光景を思わず想像してしまう。

冷や汗がでる。呼吸がおかしくなる。足が震える。剣が震える。

 

(怖い…!)

 

虎琥はただ恐怖に動けなくなってしまった。

そんな虎琥を尻目に虎はゆっくり近づく。

だが動けない。

近付く。

動けない。

また近付く。

動かない。

さらに近付く

動くことができない。

目の前に迫る。

体が硬直する。

そして、虎はその爪を振りあげた。

虎琥はそれをただ、見つめていた。

その時だった。

 

「虎琥ーーーーー!!」

 

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北郷一刀は見た。

虎が虎琥に近付いて行くのを。

一刀は考えるのを止めた。

 

「虎琥ーーーーー!!」

 

 

爪が振り下ろされる瞬間、虎琥は思った。

 

 

あぁ、死んじゃうんだ。

 

 

その時、左肩に何かがぶつかった。

 

虎琥は突然右肩から倒れた。

何かに左肩をぶつけられたせいだ。

虎琥は倒れたまま左肩を触る。

血は出ていない。どうやら虎の爪に引き裂かれたわけではないらしい。

では何に?

虎琥はゆっくり起きあがる。

 

「え…」

 

なんで、

この人が、ここに?

 

「何であなたがここにいるんですか…!」

 

虎琥すぐ横には、

 

 

体を横向きにして倒れ、背中から血を流す一刀が居た。

 

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「北郷様!?」

「クソッ!」

 

一刀についてきた兵士たちは一刀の突然の行動に驚いた。

自ら、目の前の女の子をかばったのだ。

項が弓に矢を番え飛ばす。

 

ドス!

 

「ガァウ!?」

 

虎は倒れることなくこちらを向く。

 

「こっちを向いた…!いまだ!お二人を早くお救いしろ!」

 

その声に槍を持った二人の兵士が虎の横を通ろうとする。

しかし、

 

「ガアァア!」

「うわ!?」

「ガハ…!」

 

虎は突然方向を変えて槍を持った二人を襲う。

二人は巨大な前足に吹き飛ばされてしまう。

 

「そんな…!?この!」

 

項は再び矢を放つ。

また当たる。しかし、虎は倒れない。

 

「項!矢が効いてないぞ!

「…そんな!」

 

虎は次の獲物を、項とその他の兵士に切り替える。

項たちは矢を放つも今度は交わしてくる。

 

「今度は…当たらないなんて…!」

 

虎は矢の軌道から少し外れるように動き、項たちとの距離をあっという間に縮めてしまう。

そして、今度は彼らが蹴散らされた。

 

「ゲホッ!?」

「ぎゃぁあ!」

「ぐあ!」

 

項達は虎の一撃に動けなくなってしまう。

 

「…くっそ…!」

 

項が口から血を流しながら苦しそうに呻いた。

苦しそうにする彼の頭上に虎の爪が迫ってくる。

とその時だった。

 

「やあああぁー!!!!」

 

虎琥が、虎の背に剣をつきたてた。

 

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何で、あなたがここにいるんですか?

あなたが酷い目に合えば、みんなが、あの人が悲しむじゃないですか。

何であなたは力も技も持ってないのにここに来るんですか?

一人の男も倒せないのに。

何であなたは私の代わりに血を流しているんですか?

私は、

 

 

 

 

「あなたに…あんなひどいことを言ったのに」

 

 

 

 

虎琥は手から離れた愛用の剣をつかむ。走り出す。飛び上がる。そこを目指す。

 

虎の背中を。

 

ドス!

 

「ゴァァア!!!」

「孫礼様!?」

 

虎が大きな唸り声をあげながら暴れ出す。

虎琥はひらりと背中から降りると、側にいた兵士の死体から剣を抜く。

 

「…!」

「そんな、まだ動けるのか!?」

 

虎は背中に剣が刺さっているのにも関わらずまだ動いていた。

背中から血を流してはいるものの致命傷では無いらしい。

それもそのはずだった。

この虎は毛と皮膚が異様に堅かった。

矢が刺さっても平気だったのはそのせいだった。

 

「グルル…!」

 

虎は虎琥を睨みつける。

虎琥じっと虎を睨む。

 

「ゴァア!!」

 

虎が動く。

それと同時に虎琥も動く。

虎が爪を虎琥に向けた。

虎琥はその横をすり抜け虎の右肩を剣で貫いた。

 

「ガァア!!!?」

 

虎琥は右肩から血を流す。

虎の爪がかすったのか、それでも浅くは無く、血がどろりと流れる。

虎琥は右肩一瞥すると何でもなかったかのように虎を睨みつけた。

今度は懐から小刀を取りだし、虎に向ける。

 

「孫礼様!?ダメです!そんなものじゃ!」

 

項が叫ぶ。

それでも虎琥は立ち向かう。

虎に向かって突進する。

そして、

 

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ドンッ!!

「…ガハ!?」

 

虎琥は虎の前足に叩きつけられた。

幸いつぶされてはいない。

が、しかし、

 

メキメキッ!

「あがああぁーーーーッ!?」

「グルル…!」

 

虎が虎琥をさらに踏みつけだした。虎琥の絶叫し、小さな体から嫌な音が聞こえる。

もう、時間の問題だった。

 

「クソ…!孫礼様!」

 

彼は傷ついた体を押して立ち上がろうとする。

その時だった。

 

 

 

「おい虎。…その足、どけろ」

 

 

 

ドンッ!

 

虎が吹き飛んだ。

そして、そのまま木に叩きつけられる。

叩きつけられた虎はゆっくり地面に倒れた。

起き上がろうとしていた彼は驚きの表情を浮かべる。

 

「な、何が…!」

 

「よう、そこの虎…俺の部下が世話になったみたいじゃんか」

 

「張?様…!?」

 

現れたのはいつもと若干口調の違う悠だった。

兵士が虎琥の方を見るとその先に棒が転がっている。

 

(まさか、投げた棒で虎を吹き飛ばした…!?)

 

しかし、

虎がゆっくり立ち上がった。

 

「タフな野郎だな…!」

 

悠は忌々しそうにつぶやく。

虎は怒り狂ったように吠えると悠に向かってくる。

 

「春蘭!菖蒲!」

「おう!」

「はい!」

 

悠がそう叫ぶと脇の茂みから二人が飛び出す。

 

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「行きます…!ハァア!!!」

 

菖蒲は地面に大斧を下からすくいあげるように振りあげる。

振りあげられた大斧から石の礫や泥の塊が飛び散り、虎に向かって叩きつけられる。

虎はそのあまりの量の土と石礫に突進が止まってしまう。

そこに春蘭が大剣を虎の左肩めがけて水平に振り抜く。

 

「はぁああああ!!」

 

振り抜かれた刃は虎の厚い毛と皮を容赦なく切り裂く。

今まで矢や剣で刺されても動じなかった虎が今回一番の苦しげな声をあげる。

かなり深く切られたのだろう、虎は体が傾いていく。

 

「寝るには早いぜッ!」

 

そこをさらに悠が追撃する。

いつの間にか拾った槍を縦に振り回し、石突で虎の顎を叩き上げる。

円運動を伴った一撃は容赦なく、虎の意識を刈り取っていく。

そして、

 

「止めだぁあー!」

 

動きを完全に止めた虎の首に向かって春蘭はその剛剣を振り落す。

そして、

 

虎の首を叩き落とした。

 

ドズーン…!

 

首を失った虎はゆっくりと崩れ落ちた。

倒れた虎から土煙が上がった。

 

「やった…おい、やったぞ!」

 

項は隣で気絶していた同僚を揺り起こす。

目を覚ました兵士たちはその光景に歓喜の声をあげる。

だが、歓喜の声が飛ぶ中、悲痛な叫びが聞こえた。

 

「おい、北郷!しっかりしろ!北郷!?」

「虎琥!おい!生きてるか!?」

 

春蘭がすぐさま一刀に駆け寄りその体を揺さぶり、悠が虎琥を揺さぶる。

 

「…うッ…」

「良かった…生きてる!」

 

しかし、

 

 

 

「悠…!北郷が起きない!」

 

 

悠はすぐに一刀の方へ向かうと、その体をうつ伏せにさせる。

 

「これは…!」

「酷い…」

 

その光景に菖蒲が顔を歪めた。

そこには大きな爪の跡があった。背中は血で赤く染まっている。

その傷の大きさに春蘭は顔が青ざめる。その赤さに恐怖する。

 

「おい…北郷?…死ぬな、死ぬんじゃない!一刀…かずとぉ!!」

「クソ…血が流れすぎている、急いで運ぶぞ!」

「動ける人は自分の足で村まで戻ってください!…悠さん、一刀さんをお願いします。私は虎琥ちゃんを運びます」

「わかった!泣くな、春蘭!しっかりしろ!ほら行くぞ!」

 

悠は一刀にすがりつき、名前を叫び続ける春蘭を励ますと一刀を担いで村へと急いだ。

 

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体が痛む。だけど動かせないわけではない。

頭が痛い。だけど起きることができないわけではない。

 

「ここは…?」

「虎琥!?やっと起きた〜!良かったぁ〜…」

「春美…?ここは…どこ?私は何で寝ていたの?」

「虎琥、忘れちゃった?虎琥、虎狩りの最中、虎とやり合って気絶して…?に戻ってきたんだよ」

「とら…?虎…ッ!」

 

ガバッ!

 

思い出した!私は虎を追ってそして…!

 

「虎琥!?ちょッまだ寝てなきゃ!骨何本かやられてるんだから!」

「北郷様は!」

「はへ?」

「北郷様は今どこにいるの!」

「一刀さん…まだ眠ってるはずだよ。…凪さんがずっと看病してる」

「…私が」

 

私が一人で先走ったせいで…!あの人を悲しませて…!

 

「う…うぅ…」

「虎琥…」

 

虎琥は膝を抱えると涙を流す。

春美は虎琥の頭を抱くようにして慰める。

すると、外で足音がした。

音は部屋の前で止まり戸が開いた。

 

「春美さん、虎琥さんは…!起きたんですね…良かったぁ…」

「菖蒲様!そんなに急いでどうしたんすか?」

 

菖蒲は深呼吸し荒れた息を落ち着かせ柔らかい口調で伝えた。

 

「一刀様が目を覚ましましたよ」

 

その言葉に虎琥は膝から顔を挙げた。

 

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「たいちょう〜よかったぁ〜!!…もう目を覚まさないかと…!」

「北郷!生きてるか!?幽霊じゃないよな!?」

「姉者…ちゃんと足はついているぞ。…北郷、心配したぞ。馬鹿者め…」

「よく生きてたな〜…まぁ、よかったよかった!」

 

一刀は目を覚ますと凪が腰に抱きつき、春蘭が顔や体をべたべた触ってきた。

 

「ちょっ!凪、痛い、背中が!春蘭そんなとこ触るな!」

「たいちょう〜!ううぅ…」

「北郷…この軟弱者め!!…ぐすっ」

 

凪は大泣きし、春蘭は寝台の前に座り込み一刀を責めるも目には涙が流れていた。

秋蘭と悠はそんな二人を微笑ましく眺める。

すると、

 

「一刀が目を覚ましたですって!」

 

そこに華琳が入ってくる。

急いで来たのだろうか。肩で息をし、額には汗がにじんでいる。

華琳の目に、凪に抱きつかれ春蘭に泣かれている一刀の姿が入ってきた。

 

「華琳…」

「…」

 

華琳は何も言わず一刀の前まで来た。

そして手を前に出し、

 

パンッ!

 

「うえっ!?」

「「「華琳様!?」」」

 

悠が突然のことに声をあげた。

凪達は思わず華琳の名を呼ぶ。

 

「華琳…」

 

華琳は一刀の頬に平手打ちをした。

一刀は茫然と華琳を見る。

 

「心配させてるんじゃないわよ…!…バカ!」

 

そこには目に大粒の涙をため込んだ少女がいた。

 

「ごめん…華琳、泣かないでくれ…な?」

「泣いてなんかないわよ…!」

 

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そう言うと華琳は一刀に背を向けてしまう。

そんな光景を秋蘭、凪は微笑ましく眺める。

すると、

 

「ああもう、可愛いなあぁ!華琳は!!」

「って悠!?やめなさい!ってこらぁ!///」

「良いだろう〜?すりすり…」

「ってどこを触って…!///」

 

悠は背を向ける華琳の後ろに回り、抱きしめ頬ずりを始めた。

さらに開いた手で華琳の尻を撫でまわし始める。

殆どおっさんのような状態になっている。というか雰囲気ぶち壊しだった。

と、一刀にすがりついて泣いていた春蘭が飛び上がり、悠に食ってかかる。

 

「悠!キサマ〜!…華琳様になんてことを!羨ましいではないか!」

「姉者…本音が出てるぞ」

 

静かだった空間はあっという間に騒がしくなった。

ぶち壊された雰囲気の中、一刀は口を開いた。

 

「なぁ、みんな…」

「どうしました、隊長?」

 

凪が一刀に尋ねる。

 

「…何で俺は寝てるんだ?」

 

一瞬、音が無くなった。

 

「あなた…、覚えていないの!?」

 

華琳が驚いた様子を見せる。

 

「うん、思い出せない。」

「隊長は虎に襲われた村の復興作業中、村に再び現れた虎を追って森の中に入ってそこで虎琥を庇って大けがをしたんですよ!」

「大けが!?」

「ああ、背中をざっくりと。血がかなり流れていたが、ふらりと現れた医者が手当てをしてくれてな。…変な医者だったが」

 

なにやら変な叫び声をあげながら治療してくれたらしい。もっぱら針を使っていたが。

 

「まぁ、たぶん血を流しすぎて記憶が飛んだんじゃないか?」

 

一刀は自分の体に巻かれた包帯を見る。

そっか。俺、虎琥を庇って虎に…。

とその瞬間一刀はハッとなった。

 

「虎琥は!あの子は無事なのか!?」

「…あなたの方が死にかけていたのにさっそく他人の心配…。まぁ一刀らしいわね。…そこにいるんでしょう?入ってらっしゃい」

 

華琳は前を向いたまま言った。

 

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「…」

「…失礼しまーす。おお、一刀さん!元気そうでなによりっす!」

「ああ、春美ありがとう。…虎琥、無事でよかった」

 

一刀が少しばかり包帯を巻いているがちゃんと歩いている虎琥を見つけると無事な姿を見て安心したように言った。しかし、虎琥は何も言わない。

 

「ほら、虎琥…」

 

春美は虎琥の背中を押す。

 

「…すみません、皆さん。北郷様と、二人だけにしていただけませんか…」

 

虎琥は俯きながら言った。

一同顔を見合わせると打ち合わせしたかのように部屋を出て行く。

 

「隊長…まだ病み上がりです。無理は…」

「大丈夫だよ、凪」

「…わかりました。虎琥」

 

凪は俯く虎琥に声をかけた。

 

「…」

「隊長を頼んだぞ」

 

虎琥は何も答えなかった、凪も何かを察するように何も言わず部屋を後にした。

一刀は虎琥の顔を見る。

 

「虎琥。無事でよかった…怪我は酷いのかな?どこか痛むところは無い?」

「…なんで」

 

虎琥は一刀の問いを無視して言葉を進め出す。

 

「何であなたがあの場に来たんですか?私より弱いあなたが猛獣と、虎と戦う力なんて持っていないのに。あなたが傷ついて、凪様を悲しませる必要なんてなかったのに。なんであなたが私の代わりに血を流したですか…?私は…」

 

その時、俯いた虎琥の瞳から涙が床にこぼれおちる。

 

「私は…あなたに、あんな、酷い…こと、言った、のに…それなのに…あなた、は私を、助けて…凪様を、悲し、ませて!なんで…」

 

虎琥の口から嗚咽が漏れだす。

虎琥は自分のせいで、あの人の、凪の大切な人を死なせてしまいそうになったことと、なぜ目の前の男が自分を助けたのかが、理解できなかった。

それが、悲しかった。悔しかった。辛かった。だから、泣いた。

 

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一刀は目の前で泣く少女を見る。

 

(この子は、ホントに凪のことが好きなんだな…)

 

そう思いつつ一刀は口を開いた。

 

「君を助けるのに理由が必要なのか?」

 

虎琥は一刀の顔を見つめる。

その顔には信じられないと言った表情が浮かんでいた。

 

「私はあなたに酷いことを言ったんですよ!?私はあなたが大嫌いです!どう考えてもあなたは凪様の足を引っ張っている!そんなあなたをわたしは認めないっていったじゃないですか!…そんなあなたが私を助ける義理なんて!」

「確かに君は俺に言うだけ言ったよね。けっこうキツかったよ。俺も反省しなきゃなーって思ったよ。でも関係ないんだ。」

「嘘です!…信じられません!」

「だから関係ないってば…義理とかそんなんじゃない。ただ、君みたいな可愛い女の子をほおっておけるわけないじゃないか。うん、やっぱりほおってはおけないな!」

「なッ…!///」

 

虎琥は一刀のその発言に顔を赤くする。

 

「な、何をこんな時に言ってるんですか、あなたは!?///」

「まぁまぁ怒らないでよ、事実なんだし」

「ううう〜…!///」

 

虎琥はますます顔を赤くする。

そんな虎琥を見て一刀は笑顔を浮かべる。

 

「だから…気にしなくていいんだよ、虎琥は。俺が君をかばったのは君を助けたかったから。俺が勝手にしたことなんだ。凪だってわかってくれるさ」

 

一刀は立ち上がると自分の顔の一つ下にある頭に手を乗せる。

その大きな手が虎琥の柔らかい髪を優しく撫でた。

 

「君が無事で本当に良かった…」

「北郷様…」

 

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あ。

 

 

 

 

今、凪様が言っていたことが、わかった気がした。

 

 

 

 

この人はただ、

 

 

 

 

ホントに『ただ』、

 

 

 

 

 

 

やさしいんだ…。

 

 

 

 

 

 

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「ふふッ…」

「虎琥?どうしたの?」

 

虎琥は涙の止まらない瞳を笑顔で拭いた。

 

「いえ、わかったんです。凪様の言っていたことが…」

「?凪の言っていたこと?」

 

虎琥は涙の止まった瞳を一刀に向け、満面の笑みで言った。

 

「あなたが変な人ってことです」

「…」

 

一刀は思わずその笑顔に見とれた。今まで見せることの無かったその笑顔に。

 

「北郷様?どうしたんです?ぼーっとして…」

「いや…可愛いな笑顔だなーって…」

「北郷様!?///いきなり何を言ってるんですか!///」

 

虎琥は顔をさっきよりも赤くする。耳まで真っ赤だ。

 

「いやホント…。ねぇ、もっかい笑ってみて」

「何でですか!?恥ずかしいです!」

「ホントお願いします!このと(ドス!)りぃい!!?」

 

何度も虎琥にせがむ一刀の頬を大鎌が通り過ぎた。

一刀はゆっくり首を動かして鎌が飛んできた方を見る。

そこには、

 

「…かぁーずーとぉー…ンふふふっ…」

「たぁーいーちょー…」

「ほぉーんーごぉーうー…」

 

見目麗しい鬼が三人立っていた。

 

「えっと…華琳さん?凪さん?春蘭さん?俺はけが人ですよ?病み上がりですよ!?ちょッ秋蘭!?悠!?菖蒲!?春美!?みんなこの人たちを止めてください!」

 

三人の後ろに隠れていた四人が顔を出す。

 

「すまん、北郷。ここはおとなしく散ってくれ」

「この三人を止めるって無謀だろうに…まぁ頑張れ!無事に帰ったら宴会だ!」

「すいません、一刀様…!お止したんですが…」

「君子危うきに近寄らず…と言うことで一刀さん!頑張ってくださいっす!ほら、虎琥!行くよ!」

「ちょっと春美!?あなた、まさかさっきの話聞いて!?…悠様達も!?」

「聞こえたんだからしかたないじゃん!なぁ菖蒲!?」

「私は止めたんですけど…」

「菖蒲もしっかりと戸に耳を当てていたが?」

「秋蘭様…!それは…!///」

 

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四人は止めることもなく虎琥を連れて部屋からいなくなった。

外からはこの場にそぐわない女の子の声が聞こえてくる。

しかし、次第にその声は遠くなっていった。

そして、部屋の周りから音がしなくなった。

 

「へ…?いや、やめて、ねぇ!こんなところに一人にしないで…!ねえちょっと!しゅうらーん!悠!?菖蒲!?春美!?虎琥!?くそっ!こんなところで死んでたまるか!」

 

そう言うと一刀は日取りの窓から逃げようとする。

が、しかし。

 

ガッ!

 

「うわッ!いてて…ってうわぁああ!?」

 

ニガサナイ…

 

三人がニヤァ、と口が裂けるように笑った気がした。

 

「えっ、ちょ、やめ…あ、ああ…!…うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

この日、北郷一刀を見たものは誰もいなかった。

 

 

 

 

「いやぁーあの時はマジで死ぬかと思った…」

「ホント無事だったのが不思議ですね…。あの時の華琳様達、あの虎よりも怖かった…」

 

二人は過去起きたあの悲劇…天の御使い惨殺未遂事件と呼ばれた…のことを思い出して身震いをする。あの後、華琳達が去った後の一刀とその部屋は見るも無残な状況となり、部屋は取り壊されることが決定した。しかし、工事中に作業をしていた人夫が何人も下腹部に痛みや怪我、吐き気等の不可解な出来事が起きたため、この部屋に曹操の呪いがかかったとうわさが流れ工期は遅れてしまい最近終ったとのことだった。

 

「しかもあの後ホントに悠は宴会を始めるし…」

「私は隊長が無事…ではないですけど生きて帰ってこれたことが不思議でした」

 

ズタズタのボロボロだったが何とか生きていた、ぐらいではあるが。

宴会は一刀に協力したあの項と言う兵士とそのほか4名も呼ばれ、どんちゃん騒ぎとなった。一刀は今でも項とは連絡を取っていたりする。宴会の最中、仲良くなったらしい。

ちなみに宴会には虎の肉が置かれていた。

 

「項や悠達、元気してるかなー…」

「あの人たちだったら何があっても大丈夫そうですけど…そう言えば春美、今度こっちに転勤らしいですよ」

「そーなのか!?いやぁひさしぶりだなぁ…今度みんなに紹介しようか!」

「そうですね…そうしましょう」

「よし…じゃあそろそろ凪達も帰ってくるだろうし…行こうか」

「ハイ!」

 

おばちゃーん、お勘定!と言って一刀は代金を払いに行く。

その間、虎琥は再び少し昔のことを思い出す。

 

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「何だって…?北郷隊に行って勉強したい?」

「ハイ、許都の警備隊の一員となってもっと勉強がしたいんです!」

 

一刀達が?を離れて2週間ほどたったころ、虎琥は悠に転勤を直談判していた。

悠はお茶を飲む虎琥の顔を見て、ふうん、と言うと間を置いて言った。

 

「その髪が決意の表れか…」

「ハイ…!」

 

虎琥は腰まであった長い髪をバッサリと肩口まで切っていた。

なるほどね、と悠は言うと彼女一言、告げた。

 

「お前…一刀に惚れただろう」

「ぶふッ!」

 

虎琥は思わず口にしていたお茶を吹いた。

 

「そんなわけありません!私が好きなのは凪様です!///」

「バーカ…そりゃ好きじゃなくて尊敬してるだけだろう?まるわかりなんだよ。まったく…ここ最近ため息ばっかりついて、そのたびによく一刀が寝ていた部屋に行っているだろうに」

「なぁあッ!!?なんで…そのことを…!」

「春美が言ってた」

「春美ー!?」

 

虎琥はここにいない友人に向かって叫んだ。

 

 

 

「くしゅん!」

「あら、かわいいくしゃみね。春美ちゃん風邪?」

「んー…すいません菖蒲様…そんなことないっすけどね〜」

 

春美はおっかしーなーと言いつつ帳簿の整理は進める。

 

「あんまり無理しないでね」

「大丈夫っす!」

 

 

 

「まぁというわけでお前は一刀に会いたいわけだ」

「そうじゃありません!…会えたら嬉しいですけど///」

 

虎琥は顔を赤くしてぽつりと呟く。

 

「しっかり本音を言ってんじゃねーよ、まったく…ほらよ」

 

悠は虎琥の前に簡単に丸められた竹簡を置いた。

 

「これは…」

「読んでみろ」

 

虎琥は竹簡を手に取って中を読んだ。

そこには、

 

「悠様…!」

「行って来い。せっかくの決意と女の一生、無駄にすんなよ」

 

-19ページ-

 

あの時の悠様の一言が無ければ私はここにはいませんでした。

悠様、菖蒲様、春美…ありがとう。

 

 

 

虎琥は自分の右肩を触る。

あの虎に襲われた時についた、爪の跡が残っている。

そして、一刀の背中には自分を助けた時についた爪の跡がある。

一刀と自分にある『同じ』傷。

虎琥はそう思うと少し心の中が暖かくなる。

 

 

 

「と、ごめん!虎琥!おばちゃんの話なかなか終わんなくって…って虎琥?」

 

笑顔で目をつぶっている虎琥を一刀は不思議そうに見つめる。

すると、虎琥は目を開けて一刀を真正面から見つめる。

 

 

 

「隊長、食事のお礼です///」

「お礼?(チュ!)…へ?」

 

「…さぁ行きますよ、隊長!凪さん達を待たせてはいけませんから!///」

 

-20ページ-

虎琥出会い編しゅーりゅー!

と言うことで終了しました。虎琥の出会い編でした。

まぁ簡単にまとめますと虎琥は凪大好きッ子で一刀の事を目の敵にしていましたが…一刀の町の人達の接し方と凪の一刀に対する感情、そして虎狩りの事件などを経て一刀を認めることになりました。そしてセクハラまがいの一刀への罰。この部分は皆さんのご想像にお任せします。

ちなみに…この話を作る発端は誰かを一刀にかばわせようと思ったとこからです。

さて、また今度一刀に怪我してもらうかなぁ…。

とそんなところで新キャラ武将の紹介です。まぁこの二人は一話目に描いたようにお借りしたキャラクターです。まぁ自分解釈がありますんで一応。

張?字儁乂(シュンガイ)真名悠

元は袁紹の将で官渡の戦いの際に曹操に降伏。馬超の敗走後は涼州を夏候淵と共に制圧。漢中制圧後はその守りに着く。定軍山の戦い後は郭淮の推薦で司令官に。

諸葛亮の北伐の際は街亭の戦いの際に登場。馬謖を攻撃し街亭を奪う活躍を見せる。

その後、司馬懿の下で戦うも戦死。当時の皇帝、曹叡が嘆き悲しんだと言われる。

蜀に最も恐れられた武将の一人とのこと。

恋姫的には郁さんの描いている通り姐さんな感じでいっています。キレると口調は俺に変化する。華琳にもタメ語で話すせいで春蘭に追いまわされるがそれを楽しんでいる。

武器は槍。て言うか魏と呉の長物使うキャラが少ない…。

 

徐晃字公明真名菖蒲

元は楊奉の部下。楊奉が曹操に倒されると降伏する。呂布、袁紹との戦いで活躍。その後荊州を守備する曹仁が関羽に攻撃されるとその救援に向かう。その活躍ぶりを曹操に絶賛される。227年に病死。演技では蜀から降った孟達が反乱をした際に放った矢が額に当たって死んでしまう。

恋姫的には先ほどの通りです。自分的には男性恐怖症のお母さん的なキャラになってしまっていますが…怒らせると怖いって設定です。

 

今後は獣耳編萌将伝バージョン作るかなーと思ってます。

ただいつになるかは不明ですので…申し訳ありません。

キャラが多いんでこのキャラを獣化してほしい!ってのがいましたらどうぞ連絡を。

十人ぐらいを考えています。リクの多い順に優先して使って行きます。

 

 

ではいつも通り誤字等の報告ありましたらどうぞ!

 

説明
虎琥編終了です。
次回は前回やりました獣耳編萌将伝バージョンでいこうと思います。
そこで…リクエストがありましたらどうぞ!詳しくはあとがきで…
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コメント
3m以上ある虎の一撃を受けて良く生きていたな一刀; 悠達将の強さもそうですが、項や兵士達の頑張りもたいしたものですね^^(深緑)
ZYMAさん>蜀オールキャラでしょうか?それとも蜀の中から…という感じですか?(同人円文)
獣耳編はできれば蜀単独でお願いします(ZYMA)
kirikamiさん>何か思いついたら作ろうかと…。ご指摘の部分は変更しました。確かにこっちが通りますね。(同人円文)
翠湖さん>計画段階ではギャグも考えていましたがいつのまにかシリアスばっかになりました。確かにギャグでも良かったかもしれません…(泣)(同人円文)
劉炎さん>蜀のみのストーリーでしょうか?その中で誰か…という感じでしょうか?(同人円文)
mightyさん>可愛くできたなら何よりです!リクおkっす!(同人円文)
ポセンさん>ご指摘の部分変更しときました!ありがとうございます。(同人円文)
よーぜふさん>どうもです!今後もあった方がいいですかね?虎琥の話?(同人円文)
フル―さん>変更しときました。ありがとうございます!(同人円文)
アラトリさん>これからも止まらなくしましょう!(同人円文)
虎琥の話をもう少し見たい感じもありますね。後最後の紹介ページの蜀で恐れられたは蜀に恐れられたのほうが通りやすい気がします。(kirikami)
これ、全編ギャグにしたほうが面白いですな。 たかが一兵卒が主君と雲の上の上官に逆らったストーリーにしか見えない面もあるから。(翠湖)
獣耳編は・・・蜀が見たい!(劉炎)
虎琥可愛いっす♪そして一刀はもげちゃえばいいんだ・・・。 リクは秋蘭と恋で頼みます♪(mighty)
虎琥は可愛いな、一刀は女のためなら命をかける種馬!! 14pの「俺も反背しなきゃなー」の反背って反省じゃないですか?(ポセン)
2828をありがとうございます・・・やっとここたんの2828がみれてよかった・・・(よーぜふ)
「一刀が寝ていた部屋に言ってるだろうに」誤字ではないですか?(フルー)
2828が止まらないZe!!(アラトリ)
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