『舞い踊る季節の中で』 第93話 |
真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-
第93話 〜 霧の向こうに舞いしは、美しき鳥か、風に揺れる朽ちた枝葉か 〜
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
秋蘭視点:
私達は落ち合った後、賑やかな喧噪と露店が広がる市を抜け、一度混雑を避けるために路地に入り一息いれる。
孫呉の新王との謁見の後、私達はそのまま城下街を民情視察をするために、大きな通りから離れた小さな露店が立ち並ぶ通りに来たのだが。
「予想以上の賑わいだな」
「ええ、以前旅の途中に立ち寄った事がありましたが、その時は酷いものでした」
稟の話では、その時は袁家の圧政と横暴で民の暮らしは廃れ、官と賊の両方に怯えながら何時暴動が起きてもおかしくない状態だったと言う。
むろん今の賑やかな状態でも、許昌の賑わいに比べれば比べるまでもないが。 たった数カ月でこの賑わいを取り戻したと言うのなら、呉の政治手腕は見事としか言いようがない。
しかしいったいどうやって? そう思って稟に尋ねてみると。
「露店を開くのに、お金を取っていないそうです」
「は? 国の大事な収入源をの一つを取っていないと言うのか?」
「ええ、それどころか旅の行商人にはお金を渡して来て貰っているそうです。 むろんその行商人からは、途中の関所においての通行税とかも取っていないそうです」
そんな馬鹿な話があるかと、私は稟の話を否定してしまう。
露店は店舗と違い、店を開く度に僅かばかりの金を国に治める。 俗に言う場所代と言われる代物だが、別にそれは街を治める側が搾取するために取っている訳では無い。
勝手気ままに露店を開かれれば、街の治安や交通が乱れ、民の暮らしにまで弊害が出てしまう。
それを金を取る事で、秩序や規則を生じさせ。 その金を街の警備兵の給金の一部に割り当てる事で、街の秩序や問題の早期解決を図るためにあるのだ。
関所の通行税も同様の事。 一定の平和を維持するには、それなりに金も人も労力も使う。
多くの税や土地の使用料等は、民が平和に暮らせるために払うべきもの。
それを取るどころか、逆に払う事等考えられん。 そんな事をすれば国はすぐに干上がってしまう。
「むろん一時的なもので、来月には元通りお金を取るそうですが、袁家の支配下の時の事を思えば格安だと、多くの人達は快く受け入れるつもりだそうです」
「つまり、これは客寄せと言う事か?」
「ええ、それも馬鹿げた規模の客寄せです。 ですが理には適っています。
少なくても、この街の様子を見た者は孫家の支配を信じるでしょうし、旅の行商人はこの事を各地へと広めるでしょう。
将来的に見れば、此処で失った金など微々たるものになるでしょうね」
稟の話は分かる。 確かに規模を無視すれば理には適っているかもしれん。
だが、今までこんな政策が行われた事等聞いた事が無いし、何より失敗した時の損失大きすぎる。
まず誰かの猛反対を受け、実現される事は無いであろう政策。 だが実際はこうして執行された。 何故?
「まさかっ」
「さすが秋蘭さま、良い読み手です。
おそらくあの『 天の御使い 』を名乗る男でしょう」
脳裏に浮かんだ人物の名を稟は。事も無げに口にする。
正直、信じられない話だ。 華琳様の眼とお言葉を疑う訳では無いが、連合での会議で見た時もそうだったが、どう見てもただの庶人しか見えなかった。
だから今日の謁見での出来事には多少驚きはしたが、あの男が華琳様が手放しで褒めるほどの舞を踊る事は聞いていたので、それぐらいの演出をして見せる事は出来るだろうと気にも留めなかった。
むしろ孫呉の新王が聞いていた評価と違い。 まだまだ未熟なれど、華琳様が喜ぶほどの資質を持ち得る人物だと言う事。 そしてあの会談において最後まで冷静な、そして静かな怒りを灯していた瞳をしていた軍師達。 とても甘く見て良い相手ではないと言う事が肌で感じられたくらいだ。
そんな考えが顔に出ていたのか、稟は私の考えに応えるかのように、路地裏を歩きながら話を続ける。
「別に『 天の御遣い 』が必ずしもそうである必要はありません。
その後ろで糸を引く人間が優秀であれば良いだけの事です」
「つまり、やはり『 天の御遣い 』は御輿でしかないと?」
「いえ、今結論を出すのは早計と判断せざる得ません」
稟は眼鏡を指で押し上げるように掛け直しながらそう結論付け、小さく溜息を吐く。
少なくても稟の眼から見て、判断しがたいと思えるだけの人物だと言う事か……。
稟の言葉と態度に、そう感じる傍らで稟は己が持論を進めて行く。
「確かに桂花の集めた情報によれば、あの男は唯の庶民と判断せざる得ないでしょう。
連合の時も、呉の独立の時も、裏で手を引いている者の策と偶然の要素が重なり、それを巧く活かしただけと考える方が自然だと思います」
稟の言う通り私もそう考え。 今日再びあの男を見た時、その考えが間違いでないと私は判断した。
「ですが、それでは説明つかない事があります。
虎牢関で呉が取ったと言う策、孫呉の独立の時の無謀とも取れる策、そして先日の戦においても、孫呉のとった策はあまりにも奇策過ぎます」
「だが、それ故に奇策と言うのであろう。
稟が風と共に袁紹の軍を追っ払った策も、とても真面と言えぬと思うが」
私の言葉に、稟は一度目を瞑ってから小さく首を振り、私の言葉を否定する。
自分と風が行ったのは、相手の心理と状況を逆手に取った一度限りの、当たり前と言うべきような奇策。
だが孫呉が行ったのは、相手の心理や状況を読み切った上で、自分が望む方向へと戦況を捻じ曲げ、その策すらも、より大きな作戦の一環としている節があるらしい。 戦略級で見た場合でも、その与えた影響は余りにも多方向に及んでいるとの事。
とても連合と言う不自由な状況や、先日のような突発的に起きた防衛戦で、すぐさま構築できるものではないとの事。
なにより策の内容が異質すぎると言うのだ。
策を練るための基準となる考え方が、根本的に違うらしい。
華琳様は相手の魂を読み、最小の策で正面から切り崩す。
桂花は情勢を読み、相手の状況に合わせた策で相手を嵌める。
稟は理と利を読み、積み上げた術理で相手を突き崩す。
風は心を読み、策でもって惑わせた後、更に変幻自在に見せかけた策で自滅へと追いやる。
孫呉のとった策は全てを読み、相手を誘導した上で、相手の虚を討ち霧散させる。
「とても、連合前まで孫呉が取って来た策とは、似ても似付きません。
周瑜、諸葛瑾、陸遜は確かに一角の軍師ですが、常識を外れるような考え方はしません」
「だが、桂花の調べた中に、呂蒙と言う軍師も最近直属の臣下になったとあった。 その者かもしれぬぞ」
「いえ、それは無いでしょう。 呂蒙と言う者の名は放浪の旅をしていた時に噂を聞いた事があります。
口より手の速い無頼者と言う内容でしたが、桂花が調べさせた内容によれば、ここ最近心を入れ替え勉学に励んだとの事です。
短期間で軍師に取り上げられる程なのですから、素質はあるのでしょうが、現時点では他の軍師達の足元に及ばないと見た方が良いでしょう」
つまり単純に消去法で見た場合。
孫呉に新たに加わった者で、該当する人物は一人しかいないと言う訳か……。
「その上、この街の市における策以外にも、孫呉には今まで聞いた事のない政策が、多数行われている話を聞きます。 そして先程の会談において、『 天の御遣い 』を名乗る男は、王を始め多くの者達に絶大な信頼を得ていました」
たしかに言われてみれば、あの時感じていた違和感の正体に気が付く。
あの時の孫権を初めとする多くの臣下達は、演技では無く本気であの男の言う事だからと、その怒りを飲み込んだ。 とても演技ではあの瞳に映った怒りを、あそこまで冷静な炎に変える事等出来はしない。
それに先日の戦においては、王の代わりに大号令を放った。 本来であれば、現王の孫権が大号令を放つのが相応しいと言うのにも拘らず、その役を果たした。
それは、あの男がそれだけ信頼されている証に他ならない。
「事象を冷静に見詰め、その事象を検証すればその者の真の姿が、おのずと浮かび上がります。
ですが起きた事象の大きさに対して、我々が持つ情報は少なすぎます」
「故に結論を出すのは早いと言う訳か………だが、どうやら我等はついているようだ」
私はそう呟きながら足を止める。
稟も私の視線の先に気が付き、同じように身を潜めてくれる。
流石その辺りは、桂花と違い諸国を回ったと言うだけあって察しが良くて助かる。
我等の視線の先、路地の奥に噂をしていた人物の姿に、咄嗟に息を殺す。
何故か子供達と楽しげに話すあの男の姿を。
『 天の御遣い 』を名乗り、華琳様が気に掛けられたあの男の姿を。
その正体を見極めるために、私と稟は、意識を捉えるのとは逆に視界から外しながら、私と稟は相手に気取られないように建物の陰に隠れ、話し声が聞こえる処まで近づいて行く。
聞こえてくる子供達との会話の内容は、他愛無いものだった。
自分の親の事。 周りで起きた出来事。 新しい遊びや、森に群生する食べ物の話。
そんな内容を、子供らしい感情ばかりの言葉が混じった会話が聞こえてくる。
子供達は、自分達の話を楽しそうに聞いてくれる事が嬉しいのか、我先にと殆ど一方的に喋っている。
その会話すらも子供達同士だけで話したりする事もあれば、あの男がその会話に交じったりと色々だ。
そんな風景に、私はつい頬が緩んでしまう。
少なくてもあの子供達の周りの大人達は、今の生活が苦しくても、希望を持って一生懸命に生きている事が分かるからだ。 大人の感情を読み取って生きている子供達が、あれだけ笑顔を見せていられるのは、その何よりの証だと、私は他国の事ながらも、その事に安らぎを覚える。
『ねぇ、御使い様〜。 今日はどんなお話してくれるの?』
『う〜ん、そうだねぇ。 今日来ている皆は揃ったようだから話しても良いけど、どんなお話がいいかなぁ?』『もちろん、英雄が出てくるお話だよな』
『えーーっ、そんなのつまんないよ。 やっぱり恋話よ恋話。 これだから子供は困るわ』
『うわっ、こいつ自分の歳を棚に上げて何言ってるんだよ』
『だから男は駄目なのよ。 女は生まれた時から恋を知り、恋に生きるのよ。
まだ恋すら知らずに、歳ばかり取った貴方達と一緒にしないでよね』
『……そんな赤ん坊居たら、嫌すぎだよ……』
そんな他愛無い子供達との会話に苦笑を漏らしながらも、男は子供達に物語を聞かせる。
それは今まで聞いた事も無い物語。 継母に疎まれ、呪いの果てに眠りにつくある姫の物語。 旅の武芸者が苦難の末その呪いを解き放つ物語。 文字通り夢物語のような恋物語だった。
そんな子供達との一時を終えた男は、市の並ぶ大通りに出て、小さな店の人間達と気楽な雑談交じりに足を歩ませる。 そしてある店の前で、恰幅の良い御婦人の長話に捉まったらしく、私達は視線を逃れる意味も含めて適当な店の中に入ってみせる。
「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか」
店に入るなり、線は細いが品の良い口髭を生やした店主が、商売熱心にも早速私等に声を掛けてくる。
私達は勝手に見させて貰うと言って、外の様子を気にしながら改めて店内を見渡す。
なるほど此処は服や装飾品を扱う店だったか。 適当に入りはしたが、外の様子は当分時間がかかりそうな様子。 怪しまれずに時間を潰すのにはちょうど良いかもしれないと、服や装飾品に目を通して行く。
「ふむ、悪くないな」
「ええ、思っていた以上に質が高いです。 こういった物に気を回す余裕があると言う事は、それだけ民の心に余裕が生まれてきていると言う証でもあります」
「そうだな。 それにあちらでは見かけない変わった意匠の物も多い。 これなど華琳様に似合いそうだ」
「そうですね。 後で土産を見るのに良い店かも知れません。 ん? 店主これは?」
装飾品を見ていた稟の言葉に、私もそして店主も目を向けると、稟の手には何か丸い円盤上で、僅かに膨らみの在る物を手にしていた。 確かに稟が疑問に思うように、装飾品にしては地味な色と形で、正直この場に相応しくない。 それに表面は布だが、中は何かを皮で包んでいるらしく、意外と弾力と程好い柔らかさがある。
「あっ、それはお嬢様方には必要のないものでございます」
そう言って、店主はその物の使用用途を説明してくれる。 その説明に、私は確かに私や稟には必要ないものだと納得するが、稟は何故かその説明に笑みを浮かべ、それを幾つかの種類を全て数枚づつ購入すると店主に告げる。
「稟よ。 その様な物等どうするつもりだ?
桂花や風はともかく、華琳様はその様な自分を誤魔化すような物を好むとは思わぬが」
「物は考えようですよ。 これも美しく飾るための装飾品の一つと考えれば、そう堅苦しく考える必要はないと思います。 まぁ話の種と言う物です」
そう言ってから、稟は自分の手に持つそれを私の前に差し出す。 親指である箇所を指差しながら。
私は其処に施された刺繍に目を見開く。 其処には連合、そして先日の戦で見た十文字の紋。 そしてその下に控えめに記された袁の紋に。 私は店の奥で品物を包んでいるいる店主に聞こえぬように小声で郭嘉に囁き掛ける。
「どう言う事だこれは?」
「袁術と張勲が生かされていると言う話は聞いていましたが、……やはりただ生かされているだけではないようですね」
桂花の集めた情報でその事は知っていた。 桂花はその噂に、
『 捉えた敵の君主を肉奴隷にするだなんて。
これだから男って生き物は最低で、どうしようもない屑なのよっ! 』
と怒りを露わにしていたが、むろんそれだけでは無いと言う事も冷静に判断していた。
袁術を使い。 袁家の直轄領をより速く支配下に置くための道具にしたと言う事。
敵の君主を捉えた以上、斬首するか其れに応じた辱めを受けさせねば、周りが納得しないための処分だと言う事を自ら報告した以上、その事は分かっている筈。 ただ女として、その事が許せないだけと言うだけなのだろうがな。
だが、この『羽都兎』と言う物に施された刺繍の意味する所。 それは袁術達が只の肉奴隷で無い事を意味している。 少なくともこの『羽都兎』の恩恵を受けた者にとって、この刺繍の紋に関して、例え僅かでも謝念の意が出てくるはず。 捕虜であり奴隷である者に、そんな事を許すなど普通は考えられん。
確かに、これはそう言う意味でも買って帰る価値があるかもしれんな。
そうして品物を受け取った頃、ようやく外の様子に動きが見られ……まずい。
「店主よ。奥の部屋を借りるぞ」
私と稟は、それぞれ適当な服を数着手に取り、店の奥の部屋に駆け込む。
そして駆け込んだ先で、自分の手に持った服が、……そのなんと言うか、小柄な可愛い女性向きで私が着たら、物凄い事になりそうなものばかりと気付き頭が痛くなる。
これを持って奥に入って行ったのを店主は見ている筈だ。 そう思うと正直店主を射殺したくなるが、まさか他国でそう言う事をする訳も行かず。 自分の迂闊さを呪う。
『これは御使い様。 今日は例の物の件で?』
『ああ、出来上がると言う話を聞いてね』
『態々来られなくても、お城までお持ちいたしましたのに』
『おいおい、俺の楽しみと息抜きを取り上げるのは勘弁してくれよ』
『そうでございましたね』
ふぅ……、どうやらあの男は、唯の買い物でこの店に寄っただけのようだ。
とにかく、そうして店主と何やら遣り取りした後、お店の外へと出て行くのを気配で感じ取り、安堵の息を吐く。 当然のことながら、私達は持ち込んだ服を一度も通す事無く、あの男をつけようと部屋を出ると。
「お客様、これを」
店主はそう言って、店を出ようとする私達に小さな羊皮紙を渡してくる。
その羊皮紙を見た私は手紙の内容に驚くものの、もう慌てて店を出る事を止めた。
店主にまた後で寄らせてもらう旨を告げ凛と共に店を後にする。
もうコソコソするのは止めだ。 もともと性に合わないし、もう意味をなさない。
さて、華琳様がお認めとなられたと言う貴様の力、今度こそ見定めさせてもらおうか。
羊皮紙には、短くこう書かれていた。
『 この先の茶館にて、お待ちさせていただきます 』
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第93話 〜 霧の向こうに舞いしは、美しき鳥か、風に揺れる朽ちた枝葉か 〜 を此処にお送りしました。
さて、約一週間以上経つ更新になりますが、今回は秋蘭の視点で描かせて頂きました。
他の視点で、色々語っている事もあり、秋蘭たちの持つ情報に違和感を持つ人が居るかもしれませんが、現時点で秋蘭達が持っている情報は今回語った程度の物です。 この時代の情報網では仕方ないと御理解していただけたらと思います。
さて、実は一刀を唯の凡人と判断していなかった稟。 そして変だと思いながらも、経験に裏打ちされた自分の目を信じ、再び騙されかけた秋蘭を描いてみました。
さぁ、次回は誰の視点で語られるのか、心待ち下さい。
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
PS:別に、一刀との会談の場面は無くても良いですよね?(w
おまけ(一刀視点):
某月某日
トン
トン
トン
軽快に並べて行くお皿に、同時並行に仕上げていた料理を並べて行く。
何層にも重ねた白菜と豚肉、そして香草や漢方薬のミルフィーユ。
鳥の足を使った煮凝りの上に、柑橘の皮を少しだけ添えたもの。
多くのエキスを染み込ませた餅と一緒に、数種の茸と香草を包んだ揚げ。
その余ったエキスを薄く伸ばして作った粥。
海藻と野菜のサラダと、紫蘇と胡麻のドレッシング。
食安めとして、家から持ってきた漬物を一粒。
おまけとして、小さな器一杯分の食前酒。
「「「「 おぉぉーーー 」」」」
大きな机に並べた逸品に、俺の動きを見守っていた者達が声を上げる。
別に料理大会をしている訳では無い。
先日の華佗の料理に雪蓮の堪忍袋がキレた一件以来、こうして朝昼と続けられている光景だ。
城の厨士達は、俺の腕や見た事のない料理を覚える為。
そして、
「一刀、相変わらずの腕だと感心するが、最後の二つは何だ?」
冥琳の頼みもあって、俺が華佗の作った薬膳と言う名の固形物食べさせられているに哀れと思い、こうして雪蓮の朝食と昼食を作っている訳だが、華佗を説得する際に出た食医と言う言葉に、華佗は興味を惹かれ。 こうして、指定された香草や漢方薬を使った料理を病人食として書に纏めているらしい。
もっとも、華佗の料理の腕で再現できるとは思わないけど、料理の腕に覚えがあるものならば、それなりに参考になる内容ではあった。
「最初のは梅干しで、俺の国での保存食だよ。 こっちだと梅酢を作るのに使っていたようだけど、食用に特化した作り方になっている。 食欲増進や疲労回復などの効果があるし、作るのに蜂蜜も使ってるから体に良いのは保証するよ。
もう一つは梅酒さ。 少量の酒は食べ物の消化を助け血行を良くする。 これくらいの量なら構わないだろ?」
「そう言う事ならな」
俺は華佗の言葉に安堵の息を吐く。
正直、酒を断たせている以上、駄目出しを出されるかと思ったけど、了承が得られて安心した。
まぁ、酒と言うには余りにも甘いので、酒じゃないと言われるかもしれないが、其処は酒の雰囲気だけで我慢してもらう事にしよう。
さて、問題は此処からだ。
料理と言うのは一人前作るより、一定以上の人数分を作った方が美味しくできる。
むろん、幾ら下拵えは城の厨士達にお願いしているとは言え、俺一人でそんなに作れるわけが無いので作ったのは三人分。 そして残り二つはいつも明命と翡翠に食べて貰っているのだが、今日はあいにく明命は外の任務で街に居ない。
そして以前俺は迂闊にも言ってしまった。 薬膳料理は美容にも良いなどと。
うん、女性の美に掛ける情熱を甘く見ていました。
「じゃあ、シャオが戴くね〜」
と言う一言から、余った一人前を誰が食べるかで論争になり、俺が雪蓮の給仕が終わって戻ってきても、まだ決着が着かない程白熱した論争になったらしい。
結局、あの時は仕事を始めない女性陣に苛立った冥琳が、争いの元を没収すると言う形で、彼女の胃袋に収まってしまった。 ……冥琳って結構ちゃっかりしているよな。
かと言ってそう言う時は人数分減らすと言う考えは、
「「「「 却下っ! 」」」」
と言う、一言の下斬り捨てられてしまった。
俺は溜息を吐きつつも、せめて今回も無事に終わってくれる事を祈りながら厨房を後にする。
ちなみに雪蓮の方はと言うと、梅酒に関しては喜んでくれたし、梅干しも。
「んっ!!」
と言う悲鳴にならない声を上げ、顔を思いっきり崩して梅干しの味を堪能してくれた。
でも、幾ら酸っぱいのを黙っていたからって、涙目になって文句を言わなくても良いと思う。
明命と翡翠も、梅干しに関しては偉く不評で、手を加えなければとても食べてくれそうもない。
この酸っぱさと後味が美味しいのに……トホホッ。
説明 | ||
『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。 孫呉の新王、孫権との謁見を終えた秋蘭達。 春寿の街を民情視察するが、その復興ぶりに驚くばかり。 そんな二人の視線の先に、噂の人物を姿を捉える。 拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。 ※登場人物の口調が可笑しい所が在る事を御了承ください。 |
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コメント | ||
尾行があっさりばれてるお二人へのご招待。さて、次回のお茶会はどうなるのやら^^; お土産のパッドが別の意味で波紋を呼びそうで閑話としてでも見てみたかったりw 梅干を食べたときの各々の表情をジックリ見たかった^^(深緑) テス様、冥琳は結構可愛い女性だと私は思っています。 今回もそんな彼女の可愛さを少しだけ書いてみたつもりです♪(うたまる) 恨みも恐れず戦いを収めた冥琳はさすがと言わざるを得ない! 悲鳴が上がったに違いないw(テス) アボリア様、駆け引きのある会話は難しいですよねぇー でも頑張って書いてみまーーす(うたまる) 七夜様、はい、仰られる通り、少しだけ書きます(ぉw(うたまる) 遅ればせながらコメントさせて頂きます 次回は魏サイドとの個人的会談ですか……できる事ならば、会談の場面も見てみたいですねw あと、梅干は古代中国伝来のもので、当時は解熱などの漢方薬として使われていたらしいですね なので一刀君の活用法は正しいのですが……いかんせん、味的に人を選ぶのがネックですねw(アボリア) だめ書くこと!じゃないとね・・・・・・・(ニパ〜(七夜) kuzu様、連呼し過ぎという程使っては居ないと思いますが(汗 それと、この言葉を使ったのは無印で華琳が使っていたと言うのも在ります。 不愉快を与えてしまいましたのなら申し訳ございませんが、この場面では、此方の言葉の方が嫌悪感をより演出できると思っています(うたまる) ねねね様、さすがに、此処で神の手のマッサージの発動はヤバイかと(w(うたまる) jackry様、 梅干って日本人の食卓として、よく演出に出される食材ですよね。 それだけ日本人にとって馴染みがあっても、所詮島国の中だけの話なんですね(苦笑(うたまる) mokiti1976-2010様、一刀としては、まず梅干そのものを楽しんでもらいたかったのだと思いますよε=(゚∀゚)(うたまる) hokuhin 様、ふふふふふっ、もちろん、そのあたりの場面も考えてありますよぉ〜 おたのしみに(うたまる) nanashi様、梅干は万人向けの食材ではないですよね、確かに………でも、大陸の人達の方が、よっぽど万人向けでない食材を平気で食べていると思うのは気のせいでしょうか?(汗(うたまる) フィーメ様、次回はこの続きになるのか、いったん別のシーンを物語るのか、それは秘密です(ぉw(うたまる) 瓜月様、さすがに、この流れでそれは無理があるかと(汗(うたまる) 肉奴隷と連呼しすぎかとw桂花が蔑称としていってるのはいいのですが女の子が普通に口走ってるのは卑猥すぎる気がするw普通は性的奴隷という方が無難かと・・・(kuzu) 茶館…つまり、神の手のマッサージの出番ですね、わかります。 梅干…あ、食べたくなってきた…。(ねねね) 梅干しはいろいろな食材と併せた方が皆の受けは良いのでは?それと会談はいるでしょう!こういう終わり方をして無しで済ますなど許されません!!(mokiti1976-2010) パットが稟によって魏に行くか・・・桂花がどういう反応するか楽しみだw(hokuhin) 梅干は翡翠と明命、雪蓮には不評だったのか 梅干で不評なら納豆はまず無理か(nanashi) 会談はどんな話をすることやら。次回も楽しみにしています。(フィーメ) 抹茶様、誤字報告ありがとうございます。 さっそく修正させていただきました。 ………そっちはノーマークでした(汗(うたまる) 2828様、…………えーと、どうやったらこの状況下でその様な結論に……まぁ種馬ですから分からないまでも無いですけど(汗(うたまる) 紫電様、唸らせると言うより、情報不足ゆえにこれ以上考えようがないと言った所ですね。 孫呉の皆と違う敵方の視線では一刀はどう映るのかお楽しみください(うたまる) 血染めの黒猫様、えっ次回は外伝的なSSですよ(マテw (うたまる) 320i様、露わになって行くのは、一刀の底か、 それとも暗闇が其処に在る事が分かるだけなのか……次回?をお楽しみにしてください(うたまる) poyy様、その三人の面子だと、秋蘭は付属物扱いになってしまうのが少し残念な気がするので、どうやってその存在感を活かそうかと悩み中です(うたまる) 水上桜花様、 今回は少し長めの詩ですね♪ 最後など、この外史の一刀を良く理解されている事が分かる一文だと思います(うたまる) よーぜふ様、稟がいい娘だから書きたいんですよねぇ。 風はもう糸つの作品で脚光浴びているから封印していると言う意味もあるんですが(汗(うたまる) GLIDE様、未知な相手と言うものは、怖いものだと思います。 何をしてくるか分からないですからね。 そう言う意味では、一番怖いのは麗羽ではないかと私は思っています(うたまる) btbam様、梅干しは元々副産物だったみたいですからねぇ。 しかも薬としてですし……苦手な民族が多いようですよね。(うたまる) 砂のお城様、本当、こんな事やっているから、話数の割に話が進まないんでしょうえねぇ…と、思いつつ書いてしまう私が居たりします(うたまる) naganaga様、そう言えば郭嘉って、原作でも、能力の割に程c以上に居ろ物扱いされていましたよね………色々な意味で不憫な娘ですよねぇ……(うたまる) 説明文に孫堅が(抹茶) 会談・・・・・これ対応間違えたら明命と翡翠のOHANASHIコースでは・・・ww(2828) 次回どのように話が転がっていくのか楽しみにしています。(血染めの黒猫) 一刀と稟、秋蘭の邂逅いったいどうなるんでしょうねぇ。(poyy) 理見の明は少年を捉えきれず。少女らは翻弄され少年の掌の上で踊り狂う。明かされてゆく少年の力。しかし未だ底は見えず。捉えられるものではないと、柳の様に受け流す。届かぬ領域、心理誘導。謀り騙し狂わせる。戻る事などありはせず。されど少年は少女達に機会を与え、硬き心の器を測る。(水上桜花) もちろん会談はあるのでしょう? 凛さんや秋蘭さんとの掛け合いが見たいですw(よーぜふ) なんか一刀は敵だったら凄く恐ろしいなw会談はなくても大丈夫じゃない、問題あるよwww(GLIDE) 俺も梅干しは苦手だなぁwww会談は是非みたいです!(btbam) |
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