真・恋姫†無双 たった一つの望み 第三話
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境界線

 

それは何かを別つものである

 

ならばそれを越えたものは違うものとできる

 

では境界線とはドコにあるものか

 

そう、例えば人間の境界線とは・・・

 

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さっきまで和やかだった雰囲気は今はどこにもない

たった一言が部屋の中の空気をすべて凍らせてしまったかのように

 

――北郷一刀は人間か?

 

問われたのはただそれだけ、なのに返す言葉にこれほど迷うのはどうしてなのか

それでも、ゆっくりと心の内を自分の言葉で紡ぎだす

 

「人間かどうか、今まで何度も聞かれたよ

 けどなんて答えていたかは覚えてない、その問いは事実上の決別だったから」

 

何度となく聞かれたその問いかけ、その意味は文字通りじゃない

訊くほうはいつだって既に自分の中に答えを持って訊いてきた

だから結局、それはただの確認作業で

 

――北郷一刀は人間じゃないよな?

 

それを自分から問うのはあまりにも失礼だから、相手に答えを述べさせる

どちらが礼を失しているのか、冷静に考えれば問い自体が失礼であるというのにそれにすら気付いていない

そんな奴らから何度も訊かれたその問いに、真面目に答えたことなど一度もあるはずがなかった

 

「だけど、華佗が訊いているのはそういうことじゃないんだろう?

 華佗のように真っ直ぐな心根を持っている者が訊きたいのはそのままの意味と捉えていいんだよな?」

 

北郷一刀は華佗のことを信じていると、そんな失礼なことは絶対にしない

信じているという態度の下にあるのは希望に縋りつくような、そんな小さく淡い願い

 

その言葉を華佗はなに一つ誤魔化すことなく捉え返事を返した

 

「いきなり失礼なことを訊いたことをまずは謝る

 俺が北郷にこんなことを聞いた理由も後でしっかりと説明する

 つまりさっきの言葉は純粋な俺からの疑問ということで間違いない」

 

適度に区切り、ゆっくりと沁みこませるように紡いだ言葉は、オレの気持ちを少しだけ落ち着かせてくれる

華佗は今までの奴らと違うと思っておきながら、ほんの少しでも疑ったことが恥ずかしかった

 

「オレが人間かどうかと問われれば、正確なことはわからないと言うしかないよ

 ただ、オレは人間として今この場所に生きていると、ずっとそう思ってきた」

 

偽らざる本音だった

いつだって自分は人間だと、他の何なのだと

誰になにを言われても、自分の心にあるのはこれだけだった

 

「だけどそれを決めるのはオレじゃない」

 

あるものを評価をする場合は、評価する者に対する信用性が必要になる

故に、自分が自分を観測して評価することは信用性の点から認められず

客観的にみて、他者からの評価が一般的には正しいとされる

 

「だから、オレは・・・」

 

――人じゃないとされている、それが北郷一刀の現状

 

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少しだけ元の雰囲気に和らいだ部屋の中で、一刀は少しずつ今までのことを話始めた

 

――出会った時には話さなかった今までの境遇の細かい部分

――生まれつき備わっていた望まない力

 

寝台と椅子という座るものに違いはあるが同じ視点で華佗に心の内を吐き出した

 

「なるほどな、北郷は俺が思っていたよりも随分と重いものを背負って生きてきたんだな」

「少しだけ楽になったよ、今までこんなことを話せる相手はいなかったから・・・」

「しかしそこまで凄まじい力を持っているとは思わなかったよ

 俺は逆に体に何か不都合がないか心配したんだが・・・」

「それについては説明して欲しい、華佗はオレを診てなにを疑問に感じたんだ?」

 

説明をしている間、華佗の様子が気になってずっとみていた

だけど、見ていた分には心配していたような忌避される感じはまったくなかったし

むしろ驚いているような、オレの体を心配しているような様子だった

 

「それなんだがな、さっき気の説明はしただろう?」

 

気は万物に宿るものだったか、訓練次第である程度は扱えるものだったはずだ

 

「そう、だけどその場合の扱えるようになる気は自分の中にある"内気"といわれるものなんだ

 自分以外の万物に宿っているほうは"外気"という、外気は自然そのものといっていい」

 

物語なんかでよくみる気っていうのは内気のことをいうらしい

それ以外の外気というのはちょっとイメージが掴めないが・・・

 

「人間が扱えるのは自分の中で作り出した内気に限られる

 自分自身で作り出した力だからこそ操ることもできるわけだ

 しかし外気は操れない、むしろ人の体にとっては猛毒に近い物なんだ」

「なんとなくはわかるよ、自分で作り出したものだから自分で使える

 だけど使えないというのはともかくとして、猛毒に近いっていうのはどういうことなんだ?」

 

どちらも気である以上は同じかそれに近いものなんだろう

だけど人体にとっては毒になるというのはよくわからない、自然の力なんだから体にも良いような気がする

 

「もしも外気を人間が取り入れた場合、体がそれに耐えられない

 あまりにも大きな力はその身を滅ぼす害にしかなりえないんだ」

 

なんとなくわかってきた、要するに麻酔なんかと同じことだろう

あれだって適量なら痛みを止められる、だけど大量に使ったらそれこそ内臓や脳まで止めて死に至る

身の丈にあったものじゃなければどんなものも邪魔になるし害になる、そういうことだろう

 

「だから北郷に訊いたんだ、本当に人間なのかって」

「それは・・・オレに外気が入ってるとか、そういうことなのか?」

 

今までの話の流れからすれば、きっとこの予想であってるだろう

人には扱えないはずの外気が、オレに何らかの作用をしているのだと

 

 

――それがこの体に、力に関係しているのだろうということも・・・

 

 

「北郷の体には外気が流れ込み続けてる、それこそ普通なら死ぬような量が常に・・・」

 

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今自分はどんな顔をしているんだろう

鏡があればきっと笑えるようなアホ面をしている気がする

だって目と口がポッカリと開いてて、ポカーンなんて音が聞こえるような顔だろうから

 

華佗の言葉に思考がついていかない

外気っていうのは人の身にあまるもので、それがずっとオレに流れ込んでいる?

じゃあ何でオレは今こうして生きているんだ?

力の原因はそれだったのか?

 

いくつもの疑問が浮かび上がっては答えを求めて彷徨う

情報処理能力の限界を超えたコンピュータみたいに機能停止していたオレを、華佗の言葉が現実に引き戻した

 

「推測になるが、北郷は外気を無意識のうちに扱ってるんだと思う、それが力となって表に現れてるんだろう

 身体能力と思考能力の向上、反応速度、それに治癒能力も外気を使ってるとしたら理解はできる

 気は世界万物を構成しているといわれているくらいだから」

 

――だとしたら、気を扱えるようになれば・・・この力を無くすこともできるんじゃないか?

 

思いがけず見つかった希望に、感情のまま言葉が口をついて出る

 

「じゃあ外気を自分の意思で扱えるようになれば、力をなくすこともできるのか!?

 どうしたらいい、どうやったらこの気を操作できるようになるんだ!!!」

 

興奮が抑えきれない、今までずっと願ってきたことが叶うかもしれない

どんなに絶望しても、それでも捨てなかった思いが形になるかもしれない

オレのたった一つの望みが・・・―――

 

「北郷、落ち着いて聞いてくれ

 もし、気を扱えるようになったとしても・・・」

 

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―――その力をなくすことは、きっとできない

 

 

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あとがき

 

 

どうも、へたれキノコです

 

いやぁ、話が進みませんね・・・

 

やっとあと2話くらいで導入部が終わる感じでしょうか

さっさと大陸を舞台にした一刀君を書きたいです

時間が取れない中何とか更新している状況ですががんばります

これからもへたれキノコをよろしくお願いします

 

さて、コメント返信のコーナー

 

第三話投稿時のコメントは3つ

 

 

Q1.実際どうなんだろう?この一刀は人間なのかな?

A1.人間ってなんでしょう?

 

次の話で焦点として取り上げる予定の部分ですねー

うーん、難しい・・・人間ってなにを持って人間なんでしょうね?

 

Q2.この後、一刀がどういう行動に出るのか気になります

A2.ごめんなさい、一刀君がまだ動き出しません・・・

 

これからどういう行動をとるのか、できればありきたりのルートは・・・

やっぱり今までにないものに挑戦したいのですこーしだけ期待しててください

 

Q3.力の事がばれた?!

A3.バレました

だけど相手が華佗だったおかげで結果的には良かった!

書いてて思ったんですけど華佗が男前過ぎてウチの一刀君が空気に・・・

次で力のもっと詳しい部分について華佗から説明が!?

 

以上でコメントへの回答は終了です

 

 

それではまた次回の更新で!

説明
あと2話あれば導入部終われるのかなぁ・・・
小説をじっくり書ける時間が欲しい!
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コメント
人に限りませんが定義というのは思いのほか難しくも曖昧ですからね。(深緑)
力をなくす事は出来なくても、制御して抑える事は出来るんだろうな。後は、まぁ、一刀次第だと思うな。(zendoukou)
その言葉がどういう意味を持つのか。(ポセン)
もし、力をなくすことができても、この世界では力を使わなければならない場面がきっとくると思います。結局、力を隠すことはできないと。(中原)
人を殺す者は人ではないとするならば、事故で命を奪ってしまったのならばその人は人ではないのでしょうか。人を表すものは?遺伝子?形?生き方?少なくとも今の私たちでは出せる答えはないでしょう。自分たちの体のことすらも完全に知ることのできない私たちが、人がなんであるかを知ることは難しいと私は考えます……。(紫炎)
個人的な意見ではありますが、人を定義するものはないのでは、と思います。探究者でもある医療の道を歩む身ですが、それゆえに考えれば考えるほど、定義という狭い観点で収めることができないのです。(紫炎)
人のつながりによって今後の精神状態が変化するね〜。(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫†無双 北郷一刀 

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