真・恋姫†無双〜三国統一☆ハーレム√演義〜 #24-3 夢の終わり 〜土〜 |
三月も下旬に差し掛かっていた。
桂花の懐妊が判明し、詠も無事に娘を出産。毎月毎月めでたい報にこと欠かぬ和王朝である。
そんな中、尚書省の執務室ではトップである尚書令・雛里が里帰りによる不在の為、稟・亞莎主導で普段より忙(せわ)しい日々が送られていた。
「亞莎、『学園』の教師採用試験についての進捗報告書は来ていますか?」
「あ、はい。既に華琳様にお渡ししてあります。試験、難しいんでしょうね……」
「当然でしょう。ですが今回は小学部の教師の選抜ですから、より重要なのは人格の方になるでしょうね」
後漢代には三万もの学生がいたという官僚育成学府『太学』であるが、後漢王朝の衰退によってその体制は大きく崩れてしまった。また校舎が洛陽に二百を超えて存在していて非効率的であり、老朽化も著しかった。
そこで和王朝では、基礎教育から大学レベルまでの国立教育機関を設立することとし、『書館・序・痒(漢代の初等教育機関)』と『太学(同大学)』を再編成して、『太学』の小学部と高等部として統合。洛陽新市街の北西部に広大な敷地を持つ学校を新たに建設した。
これが現在設立準備が急ピッチで進められている、通称『洛陽学園』である。
「担当の方は、全国から推薦状の嵐で、もう手紙は見たくないと零(こぼ)されてました……」
「気持ちは分かりますが。未来の官僚を育成する初等教育に係わるのですから、しっかりして貰わねば……あら?」
雑談しつつも、動かす手を一切止めることのない稟と亞莎。
だが、執務室に入室してきた人物を見て、その手を止めた。
「こんにちは、七乃さん。今日はお休みですよね? どうかされたんですか?」
「はいー。今日はちょっとお願いがありまして」
「お願い? 貴殿(あなた)に“お願い”などと言われると、妙な不安を覚えますね……」
何気に失礼なことを言いながら眉を顰(ひそ)めた稟に、亞莎が苦笑い。
そんな上司二人に、いつも通りの笑顔のまま七乃が口にしたものは……彼女らの予想だにしないものだった。
「……今、なんと?」
「……(ぽかーん)」
唖然となる稟と亞莎。なお七乃はへらへらと笑ったまま。
「ですからー……」
再度、口を開く。
「早ければ夏頃。遅くとも今冬までに、尚書を辞職させて戴きたいなーって」
青天の霹靂とも言うべき、七乃の発言に。
「「あわわ〜〜〜!!?」」
何故か二人は雛里の口癖を叫んでいた。
------------------------------------------------------------
「七乃ぉ〜〜〜〜〜!」
七乃の辞意を伝えられた直後、亞莎は大慌てで一刀へと報告。
七乃は“お願い”するとすぐに帰宅していた為、一刀は取るものも取り敢えず美羽と七乃の自宅を訪れていた。
本来なら一刀には常に三人以上の愛妻による護衛が付くのだが、今一刀は一人きりだった。
宮廷内では必ず誰かが側にいる為、妖術対策である護衛役もべったりという訳ではない。一刀が余りにも急いで走り出してしまい、護衛を置いてけぼりにしてしまったのだ。
「ぜぇ、ぜぇ……七乃、いないのか〜?」
乱れる呼吸もそのまま、一刀は玄関の土間で声を張り上げる。
その声に応じて二階からぱたぱたと階段を下りて来たのは、この家の家主(表向き)である美羽だった。
「ええい、この忙しい時に一体誰じゃ……うぬ? おおっ、北郷ではないか♪」
ぶうたれた雰囲気だった美羽は、訪問客が一刀と分かるや途端に表情を綻ばせた。
「や、やあ。美羽、お邪魔、するよ」
「随分と息を切らせておるの。どうしたというのじゃ?」
「七乃に用事だったんだけど……まだ帰ってない?」
「(……むぅ。何じゃ、七乃に用かえ……)」
「美羽?」
「う、うむ。七乃ならば、何ぞ用があって参内しておる。すぐに帰るとは言うておったが」
「そっか。急ぎ過ぎて、追い抜いちゃったのかも……此処で待たせて貰っていいかい?」
「無論じゃ……と言いたいのじゃが」
「あ、都合悪い? それなら気にしないで――」
「かーしゃま〜?」
美羽の困った様子を見て一刀が退去を申し出ようとすると、またも二階から甲高い声が聞こえてきた。
「おっと……北郷、暫し待ってたも」
「ああ、構わないよ」
一声掛けて、美羽は下りて来た時と同じようにぱたぱたと階段を上って行き。
大して間も置かず、幼子を抱えて戻って来た。
「こんにちは。元気かい、袁燿」
「うん! げんきー」
美羽の腕から降り立ち、にぱっと笑ってそう返したのは、美羽と七乃の愛娘である袁燿だ。
彼女ももう二歳。美羽譲りの蜂蜜色の髪も肩口まで伸び、片言の会話や、自力で立って歩くことも出来るようになっていた。
一刀はその可愛らしさに相好を崩し、頭を撫でてやった。
「そうかそうか♪」
「えへー」
「……(じとー)」
「……なんだい、美羽」
「……何でもないのじゃ」
ぷいと顔を逸らす美羽。
一刀も、美羽が袁燿の頭を撫でる様を羨ましそうに見ていたのは分かっているが、此方から「美羽も撫でてあげようか」と言うのは、彼女を子供扱いしているようで、どうにも憚った。
「で、何か美羽も忙しいの?」
「そ、そうじゃった。実はこれから杜徽(とき)の稽古を受けに行かねばならんのじゃが……」
「ああ、成る程。今日も歌の稽古なのか。お疲れ様、美羽。頑張ってるね」
「うはははは♪ そうであろ、そうであろ! もっと褒めてたも〜♪」
杜徽。字は公良。和王朝の太楽令(国の祭祀や饗応といった行事での奏楽・舞楽などを司る役職)である。
漢の雅楽朗、魏の太楽令を経て、和でも華琳によって抜擢された、雅楽・音楽の天才だ。
『杜徽の音楽は華佗の医術に匹敵する』と謂われた才人であり、正史三国志においても『後世に当時の音楽が伝わったのは杜徽の功績である』と評価された程であった。
さて話を戻し、彼と美羽の関係はと言えば、要するところ“師匠と弟子”である。
洛陽に居を構えてより、後ろめたさから元董卓軍所属の者を避けてさえいた美羽。
しかし一昨年の年末、月・詠とも真名を預け合ったのを皮切りに、ようやっと一刀の正室全員と真名を交換することが叶った彼女は、一刀を取り巻く『仲間』の一人として、泰平に貢献する為に自らの使命を求めていた。そんな彼女が雅楽の第一人者である杜徽にその歌唱力を認められたのが昨年の晩秋。元より美羽の歌唱は一部の人間に認められていたこともあり、美羽は“雅楽としての歌唱”に己が使命を見出したのだった。
余談であるが、杜徽は所謂“お堅い”音楽のプロである為、悪い言い方をすれば俗っぽい『数え役萬☆姉妹』こと張三姉妹とは非常に仲が悪かったりする(正確には、杜徽が一方的かつ強烈に張三姉妹を毛嫌いしているので、姉妹も極力避けている)。
とは言え、美羽がかつて各地を放浪していた頃に張三姉妹と歌勝負をした、という話を聞いた杜徽は、尚更に美羽を気に入ったようで、単純に悪いことばかりでもないようだ。
美羽(と七乃)はそんな師匠に苦笑いを返すしかないのであるが。
ともあれ、美羽は日常的に杜徽のレッスンを受けており、楽士見習いとしてしばしば宮中へと参内しているのだ。
「じゃが七乃が戻らんと燿の面倒を見る者がおらんでな」
「そうなの? 女中さんは雇ってないのか」
「おることはおるのじゃが、最近は呼ぶ日を限っておるらしいのじゃ。その辺りは七乃に任せっきりでの」
「そっか。……そうだ、じゃあ俺が袁燿の面倒見るからさ。七乃が帰って来るまでこの家で待たせて貰えないか?」
「おお、それは此方もありがたいのじゃ。燿も良いな?」
「みうかーしゃま。おれかけ?」
「うむ、お出かけなのじゃ。七乃が帰るまで、北郷と留守番、出来るな?」
美羽は幼子にも理解し易いよう言葉を区切って伝えている。そんな母親らしい一面を見せる美羽を、一刀は微笑ましく見守っている。
母の問いかけに、袁燿は大きく頷き。
「うん! よう、とーしゃまとまちゅ!」
とのたまった。
「「父様!?」」
「??」
「よよよよ燿! そそそんなっ、だだだだ誰に教わったのじゃ!?」
「ななかーしゃま」
「「七乃ぉ〜〜〜!」」
天を仰いで叫ぶ二人であるが、当の袁燿は(当然であるが)何のことが分からず、ニコニコと笑っていた。
「いいかー、袁燿。俺を呼ぶときは、“おじさま”な。言ってご覧、おじさま」
「おいあま?」
「ありゃりゃ。最初はゆっくり言おうか。お・じ・さ・ま」
「おーりーしゃーまー」
「うぅ〜ん、まだ難しいかな〜?」
美羽は既に身支度を整え外出。ということで七乃を待ちがてら、一刀は袁燿へ自身への呼称を練習させている。
袁燿が成長する頃には一刀も立派なオジサンだ。ならばせめて“おじさま”と呼ばせようとしている一刀である。
(それにしても、父様、ね……)
七乃が何を思って愛娘へそんな言葉を教えたのか。
彼女のことだ、上手くすれば先程の二人の狼狽ぶりを間近で見れるかもしれないと踏んだ可能性も捨て切れないが。
「やっぱ、見抜かれてるよな〜……」
「とーしゃまー?」
「どうした〜って、父様に戻ってるぞ、袁燿」
「う゛〜……とーしゃまは、とーしゃまだもん。ようのとーしゃまだもん!」
「え、いや、あのね。俺はね、袁燿の、お母さんの、友達なんだ」
「違うもん! ようのとーしゃまだもぉん! とーしゃまぁ……う゛あ゛ぁぁぁぁぁぁん!!」
「わ! あぁ、困っちゃったな〜。ごめん、ごめんな袁燿」
まだまだ理屈など通じない袁燿。大泣きする彼女を、一刀は宥めようと四苦八苦。
そして、そんな二人を廊下からこっそりと窺う存在があった。
(……勿論見抜いてますとも。オンナの勘を舐めないで欲しいですね〜。慌てふためくお嬢様をお側で見られなかったのは残念ですけど)
言わずもがな、この家の家主(実際)にして、今回の騒動の中心である七乃である。
(ああ、あんなに泣いて……燿ちゃん、この代償は後で支払って貰いましょうねー。……さて、護衛役の子たちもまだ来てないし、千載一遇の好機なんだけどなー。うーん、どうしよう。やっぱり恥ずかしいし〜……)
何やら企む七乃には全く気付かず、一刀は袁燿を抱きあげた。
暫くあやし続けると、段々と袁燿は大人しくなっていった。
「どーじゃまのばがぁ〜……」
「無神経なこと言ってごめんよ。おーよしよし……」
「ひっぐ、ひっぐ……」
「……なあ、袁燿。おまえは、俺が父様になったら嬉しいかい?」
「とーしゃまは、とーしゃまだもん……ようの、とーしゃまだもん……」
「そっか、ありがとな。……つっても、子供のお願いを切っ掛けにってのは男らしくないよなぁ……」
一刀は袁燿に話しかけるようにして独り言つ。
「俺が袁燿の父様になるにはさ。美羽がみんなに認められるように頑張ること――これは問題ないと思うけど――。それに、俺が七乃を理解することが必要なんだよ……」
(私……? うぅん、とにかくやるなら今しか……。全てはお嬢様の為。躊躇うな、私!)
一刀の独り言を身を潜めて聞いていた七乃だったが、そのことを深く考えるのは止め、何事かを決心する。
「……とー、しゃま……すぅ……」
そうこうしていると、一刀に抱きかかえられて背をぽんぽんと叩かれた袁燿は、泣きやむと同時に眠ってしまったようだった。
一刀は部屋に備え付けられた寝台に袁燿を寝かせ、掛け布団を掛けてやる。
「泣き疲れちゃったのかな……」
一刀は椅子に座り直し、大きく息を吐いた。
暫くそのまま、一刀は袁燿の寝顔を見つつ、思考に没頭していたが。
「……七乃、遅いな……」
「――呼びました?」
「うわっ!?」
一刀が半ば無意識にぽつりと漏らした言葉に、突如七乃が答えた。
七乃は返事と同時に椅子に座っている一刀の両膝を跨ぎ、座り込む。そして一刀がアクションを起こす暇を与えず、その頭をその豊満な胸に掻き抱いた。
しかして二人の体勢は、所謂ところの対面座位(四十八手で言えば『抱き地蔵』)となっていた。
「むぅっ!?」
「目を瞑って下さい、北郷さん」
「な、なな、ななな七乃!?」
「目を瞑って!」
「は、はい!」
一刀は視界を覆い尽くす肌色と柔らかい感触にどぎまぎとしてしまうが、(やもすれば初めて聞く)七乃の強い命令口調に、慌てて目を瞑った。
しかし視覚を封じたとて、直に伝わる七乃の体温や、顔全体を覆う肌に吸い付くような触感に、とても落ち着ける状況ではなかった。
「モゴモゴ(なんで裸!?)」
「やんっ……動かないで下さいよ、北郷さん」
「モゴモゴ(な、七乃っ、一体どうしたんだ……!?)」
「っ、もう! くすぐったいなぁ、呼吸もしないで貰えます?」
「モゴッ!?(無茶言うな!?)」
「はい、黙って」
「…………」
仕方ないと一刀は口を閉じ、喋っても七乃が平気になるように(窒息防止も兼ねて)、俯くようにして彼女の胸に額を押し当てた。顔の上半分は完全に七乃の乳房に埋もれてしまうが、下半分は解放される。これならば口を動かしても七乃には影響しないだろうという判断だった。
一刀が大人しくなったのを確認した七乃は、ゆっくりと深呼吸する……まるで緊張を解きほぐそうとするように。
「ふぅ……じゃあ質問に答えますけど。まず、裸なのは上半身だけです。上着も肩に羽織ってますからね」
「う、うん」
「では本題です。北郷さんが私に聞きたいことにも係わることなんですけど。ひとつ、お願いしたいことがあるんですよ」
「こんなことをしてまで……?」
「そうです。お嬢様は今、必死に雅楽の基礎知識と正規の歌唱技術を学んでいます。お嬢様がこれ程まで何かに熱中することは、生まれてこの方ありませんでした……蜂蜜への執着を除けば。何故、あのお嬢様がこんなにまで頑張るのか……お分かりですよね?」
「……ああ」
美羽の真名を預かってより一年半以上。いつからか感じるようになった美羽の感情。
初めは憧憬か慕情かが判然としなかった一刀だが、この半年においてそれが慕情であることを確信していた。
「ならば、袁公路第一の臣であるこの私がすべきことも自ずと決まります」
「……それで尚書を辞める、と……?」
「ええ。楽士として出仕するお嬢様を補佐する為に。可能ならば私自身も楽士になる為に。今のままでは困るんですよ」
「はー、見事な忠義と褒めるべきか、過保護だと嗜めるべきか、それとも依存し過ぎだと叱るべきか。まぁ、何にせよ七乃らしいよ」
「私にとっては当たり前過ぎて、褒め言葉としても受け取れませんねぇ。お嬢様は私がいないと色々ダメな方ですから」
「……大筋は理解したし納得もしたんだけど。結局、何でこんな暴挙に?」
「あ、はい。それなんですけど。え、えぇっと〜……」
「??」
「あー、その〜……き、気持ちいいですか?////」
「へ!? あ、あ〜……け、結構なお手前で……////」
「何ですか、それ……というか、なんで北郷さんが恥ずかしがってるんですかっ////」
「そら恥ずかしいわ!」
「恥ずかしいのは私ですよ、もう! ちょっと黙ってて下さいよー、こっちにも色々あるんですよ!#」
「……逆ギレって言うんじゃないか、それは……」
「すぅ、はぁ、すぅ〜、はぁ〜……ごほん! 北郷さん」
一刀の頭を抱く腕に力が籠もる。一拍置いて、七乃ははっきりと口にした。
「私のカラダを差し上げますから、お嬢様を娶って下さいませんか?」
「……はい!?」
「お嬢様のこと、憎からず想ってるでしょう? オンナの目は誤魔化せませんよ〜。なら、いいじゃないですか」
「た、確かに美羽のこと好きだけど! 七乃が犠牲になるようなことしなくても、ちゃんと俺から告白するって!」
「いつですか?」
「い、いつ?」
「そうです。私が尚書を辞して収入が楽士の俸禄だけになると、ウチの生活が苦しくなっちゃうじゃないですか」
「随分と打算的だな、オイ!」
「当たり前ですよー。愛でお腹は膨れませんからー」
「そもそも、それなら七乃が尚書を続けてくれればいいじゃないか!」
「それじゃあ私がお嬢様に侍れないじゃないですか」
「ワガママ言うな!?」
「なんと言われようと、私とお嬢様が常に一緒にいられることが最低条件です! その上で北郷さんの援助があれば、少なくとも生活の心配は要らなくなるんですよ?」
「愛は!? 愛はどこ行ったの!?」
「お嬢様の気持ちは分かってるって、北郷さん、さっき言ったじゃないですかー!」
「美羽のじゃなくて、七乃のだよ!」
「私に北郷さんへの愛があるはずないじゃないですかー」
「なんだそりゃ、ちくしょー! ……んん?」
違和感。
顔半分を包み込む、むにむにとした心地良い感触を忘れてしまう程に理不尽な話だったが、一刀はそこに違った意味で腑に落ちないものを感じた。
「……質問。要求は、俺がなるべく早く美羽を正室に迎えること、だよな?」
「そうですよ?」
「で、報酬というか代償というかが、七乃が俺の相手をしてくれること?」
「そ、そうです、よ?////」
「……なあ。天和たちには後ろ盾が無かったから、功績無しには結婚出来なかったけどさ。美羽は袁家のお嬢様なんだし、問題ないんじゃないか?」
「そう、かも? あ、駄目ですよ、お嬢様だけ後宮に召し上げられたら、私がお嬢様と離れ離れになっちゃうじゃないですか!」
「七乃と美羽を引き剥がそうなんて奴、いないって。七乃が望むなら、一緒に正室に迎えることも出来るよ?」
「……なんだ、結局私にも手を出すんじゃないですか」
「いやいやいや、建国当時の思春みたいに、名義だけって手があるっての。美羽の為って言えばみんな認めてくれるだろうし、七乃くらい実績があれば対外的にも大丈夫なんじゃないかな。俺に気のない娘に手を出すほど外道じゃないぞ、俺は」
「…………あれ?」
「これなら、無理に七乃が俺の相手をしなくても……」
「――いいえ! やっぱり駄目です! 偶にならともかく、お嬢様と北郷さんが延々イチャイチャするのを見せつけられ続けるなんて、耐えられません!」
(七乃って、よく麗羽に弄られる美羽を見ながら悦に入ってるような……)
と一刀は思ったが、再び七乃が強い言葉を発したことに、黙って聞き入ることにした。
そこに彼女の本心が透けて見えるのではないか。そう思ったのだ。
「夜は夜で、私だけ部屋で一人寝ですよ!? お嬢様の為なら火の中水の中ですけど、離れ離れだけは絶対に嫌です! 北郷さんは私を孤独死させる気なんですか!? 私は……私も……」
果たして七乃の言葉に力が籠もる。一刀を抱き締める腕もまた。
そうしてどんどんと強まっていった七乃の語調は、崩れ落ちるかのようにその勢いを失い。
「北郷さんは『天の御遣い』でしょう? なら、お嬢様だけじゃなくて……私も、幸せにして下さいよ……!」
最後は搾り出すような、か細い声。彼女にまるで似つかわしくない、余りに寂しげで儚い響きに一刀は目を見開いた。
「七乃っ!」
「きゃっ!?」
一刀が突如椅子から立ち上がる。
膝の上に跨っていた七乃はバランスを崩して後方へと倒れそうになったが、一刀がその腰を抱き寄せる。
ぱさりと七乃の上着が床に落ち、二人は抱き合うような形で見詰め合った。
「あ、やだっ、見な……」
「聞いてくれ、七乃」
「……は、い」
「俺は美羽を泣かせたくない。そして、君が泣くこと以上に美羽が望まないものはない。だから俺は七乃も泣かせたくない。でも俺にとって、これは全く逆でもあるんだ」
己の瞳を真っ直ぐに貫く男の眼差しに、七乃は息を呑む。
「――俺は七乃を泣かせたくない。七乃が望まないことをしたくない……だから、美羽を悲しませたくない。分かるよね?」
「え? そ、それって……」
「結局、どこまでいっても二人は不可分なんだ。俺が好きになったのは、美羽であり、七乃であり……二人で居る二人なんだ。そしてこれが、俺が君達を幸せに出来る、一番の方法だって。そう信じる」
無節操? ――俺なりの節操はある。
女癖が悪い? ――否定はしないけど、無理矢理とかは絶対しない。
多情仏心? ――褒め言葉と受け取っておく。
開き直りと言えばまさしくその通り。
言葉を交わし、心を交わし、己を頼る女を見捨てて男が名乗れるか。
そんな台詞を臆面もなく言い放つ程に傲慢で、残酷なまでに優しく、しかしその全てを包容するからこそ彼は北郷一刀なのだった。
「七乃。俺は、美羽が可愛くて仕方なくて、何をするのにも美羽が中心で、その所為で頭が切れるのに詰めが甘い、そんな君が好きなんだ」
「ひぇ」
一刀の真っ向からの告白に、七乃の口から妙な声が漏れ出た。
(え、あ、はい? 北郷さんが、私を……私“も”好き……?)
美羽と七乃の関係は単純にして複雑だ。
主と従であり、教え子と家庭教師であり、子供とお守りであり、ボケとツッコミであり(ボケにボケを重ねることも間々あるが)、互いに家族以上の存在であり、変則的な夫婦でもある。
しかし、二人の間にある感情が慕情――恋心、と言い換えも出来る――かと言えば、微妙なところでもあるのだ。
美羽にとって七乃とは、彼女が黒と言えば白も黒に見えてしまう程に信頼を置く(妄信と言ってもいい程の)存在であるが、性知識に乏しいこともあり、愛欲は薄い。
七乃にとって美羽とは、忠誠・庇護欲・愛欲の対象であるが、独占欲は薄い。自身が美羽の所有物であることが重要であり、そこにこそ喜びを感じているのだろう。
七乃は、美羽が亡父への憧憬を切っ掛けに一刀へ慕情を抱き始めたことに、それこそ先の大戦の宴の時点で気付いていた。
故に、理屈を付けては美羽を宮中に参内させ、一刀と逢わせるよう働きかけた。
時が経ち、美羽は歌唱という使命を見出し、望みどおり一刀も美羽を慕わしく想うようになった。
だが、美羽が一刀を想うのを保護者の心持ちで喜ばしく思う反面、主の恋する顔を見る度、言い様のない不安と苛立ちが七乃を苛んだ。
七乃はその胸の痛みを、美羽の心が自身から離れてしまうかも知れないという危惧による心労から来るものだと考えていた。美羽が一刀と共にいること望む以上、この感情とも上手く付き合っていかねばならない。そんな諦観じみた考えもあった。
意識すればする程に乱れる心を、いつしか七乃は半ば無視するようになっていった。
その為に、北郷一刀が当の自分をどう思っているのかにまで意識が回っていなかったのだ。
そして。
「俺は美羽にも七乃にも幸せになって欲しいんだ。でも情けない話だけど、君はいつも飄々としていて、まだまだ俺には理解しきれていない……どうしたら七乃は幸せになれる? 七乃が俺に求めるモノは何?」
「――――」
七乃は衝動的に口を開くが、言葉は出て来ない。
(私が、北郷さんに求める、私の幸せ……)
美羽様を愛して。美羽様を泣かせないで。美羽様をいつも笑顔にして。美羽様を害悪一切から守って。
でも。
私から美羽様を奪わないで。私を、見捨てないで。
「わ、たしのこと“も”、好き……なんですか……?」
ぽつりと漏れた弱弱しい言葉に、一刀は微笑んで返す。
「うん、そうだ。俺は、美羽と七乃の二人が、二人でいる君達が好きなんだ。七乃は、二人を好きだという俺を……好きになってくれるかい?」
「ひゃ」
またもや口を付いて出る奇声。
(お嬢様――美羽様は北郷さんを好き。私のことも、好き)
(北郷さんは、美羽様を好き。私も、好き?)
(私は、美羽様を愛してる。私は、北郷さんを……北郷さんを?)
そこまで考え至って、七乃の顔が一層に赤く染まった。
「え、ええっ!? う、嘘っ!?////」
ここまで遠回りして、ようやっと七乃は自分の心を自覚した。
美羽と一刀の間にある感情にばかりに感(かま)けていた七乃は、自身が一刀をどう見ているのかもまた、完全に失念していたのだ。
出会った頃の苛立ちは、容易く美羽の信頼を得た一刀への嫉妬だったのだろう。しかしそれはいつしか親子のように仲睦まじくなった一刀と美羽、二人ともへの嫉妬に変わっていった。
このような強引な手段に出たのも、自分だけ置いていかれるような錯覚が七乃の背を押したに違いなかった。
畢竟(ひっきょう)するに、七乃もまた、美羽と一刀双方の歓心を買いたかったのだ。
「――七乃」
「――ほ、んごう、さん……」
七乃の態度は、もう口にせずとも一刀の問いに答えたも同然だった。
一刀の掌が、そっと七乃の頬に添えられる。
七乃は、それを拒否することなく、目を閉じようと――
「「ああぁ〜〜〜〜〜!?」」
突如室内に響く叫び声。
声の主は、抱き合う二人を指差す季衣と小蓮。その隣にはにやにやとした笑みを浮かべる星の姿もあった。
「浮気!? 浮気なの、一刀!?」
「これはこれは。もう少々ゆっくり参れば良かったですかな、主。はっはっは♪」
「え、ええ〜っと……」
「……はっ! きゃあぁぁぁ!?////」
とんだタイミングの闖入者に、困った顔を青褪めさせる一刀と、自分が上半身素っ裸であることを思い出し胸を両腕で隠してへたり込む七乃。
「浮気じゃなくて本気だよ……って、聞き飽きたよね……?」
「もぉぉっ! 一刀ったら、そんなに大きな胸がいいの!?」
「いやいやいやいや……」
「ふむ、まぁ待ちなされ小蓮殿。先日仲間入りした葉雄……嶺は、随分胸が小ぶりの様子だったぞ?」
「星も話を混乱させないで!?」
一刀、小蓮、星がぎゃいぎゃいと騒いでいる(その間に七乃はささっと上着を着込んでいた)と、重圧と共に低くぼそりと聞こえてきたのは、残る一人の声。
「……兄ちゃん……」
「き、季衣、さん?」
「兄ちゃんの……ぶわぁかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「待――ごふっ」
一刀の制止の声は、ごうと音を立てて迫る鉄球に掻き消され。ごしゃりと響く鈍くも派手な音と共に、一刀の体は開け放たれていた窓から外へと吹き飛ばされていった。
「一刀〜〜〜〜〜!? ちょっと季衣、やり過ぎよ! 一刀、大丈夫〜〜〜!?」
「だって、だってぇ〜〜〜!」
小蓮は季衣を連れ立ち、慌しく階下へと走り去っていった。
「……はぁ〜」
「おや、随分と大きな溜息ではないか、七乃。主との接吻を邪魔されたのが、そんなに残念だったか? ふふっ」
「別にそーいう訳じゃないですよ……いつから見てたんですか?」
「実のところ、ほぼ見ておらん。部屋に入ろうとした途端アレだったのでな」
「……ならいいんですけど」
「しかし肌を晒して誘惑とは、大胆に迫ったものだ。まぁ男というのは女が隙を見せぬと攻めて来ぬもの。見事な策と言えよう、うむうむ」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよー! 誘惑……でしたけど、私に手を出させる為……でしたけど! 飽く迄お嬢様の為、北郷さんにお嬢様を召し上げて貰う為だったんですからね!?」
「成る程、合点はいったが。ふっ。さりとて、そのように慌てずとも良いではないか。見たところ……結局、主の反撃に押し切られたようであるしな。あの方は一度攻め出すと怒涛の勢いであるからな、無理もない」
「……それは身を以って知りましたよ……」
「はっはっは! これは雪蓮と呑むのに良い肴が手に入ったものだ♪」
「うっ……星ちゃん、雪蓮さんには内緒に出来ません?」
「よいではないか。雪蓮はおぬしらと主の関係に、随分とやきもきしておったのだ。これを聞けばさぞ喜ぶだろう」
「雪蓮さんからお嬢様に話が漏れると困るんですよ〜……」
「ふむ、そういうことか。心配せずとも良い。あの二人も含めて、確と口止めしておこう」
「ホントお願いしましたからね? はぁ〜、嫌な汗掻いちゃったなぁ、もう……」
ぐったりした様子で再度溜息を漏らす七乃だったが、すぐ隣の寝台から声が掛かった。
「……ふみゅ……なな、かーしゃま?」
「あ、あらあら。燿ちゃん、煩くて起きちゃったんですかー?」
「……うん。(きょろきょろ) とーしゃま、いない?」
「あはは、今はお外にいますよー。私達も行きましょうか……あれ?」
「??」
「どうしたのだ、七乃?」
短くも愛娘との会話したことで七乃は調子を取り戻しつつあったが、ぴたりとその動きを止めた。
不思議に思い尋ねた星に、七乃は信じられないといった態でぽつりと一言。
「…………腰、抜けてる…………」
それを聞いた星は憚りもなく呵呵大笑。釣られて袁燿も訳も分らず笑い出す。
策を正面から破られた策士は、羞恥、狼狽、慕情、何れとも知れず――或いはその全て――赤らんだ顔で項垂れたのだった。
春風が洛陽を駆け抜ける四月。
旧市街と呼称されるのが浸透しつつある帝都洛陽北東部、その都大路。そこから更に宮殿へと伸びる道を、数百の兵士が隊列を組み進軍している。
その兵士らに守護された馬車の窓から、感慨深げに宮殿を見遣る二人の女性。
「……やっと帰って来たね、朱里ちゃん」
「そうだね〜。何だか、帰り道は時間がゆっくりに感じたかも……」
「そ、それって……やっぱり、早くご主人様に逢いたい、から?」
「はわわっ!? う、うぅ〜。わ、分かっちゃう?////」
「えへへ〜、もちろん♪」
「もぉ〜、雛里ちゃんだってそうなんでしょ?」
「はぅ〜〜〜……////」
馬車の腰掛に座っていた二人は、突っ込み合って互いに茹で上がっていた。
と、そこへ馬車に並走して馬上から話しかけたのは、護衛を率いていた恋だった。
「…………二人とも顔、赤い。どうかした?」
「はわっ!?」「あわわわ……」
「……?」
「な、なんでもないでしゅよ?」
「…………そう。……恋も」
「ど、どうかしましたか、恋さん?」
「……恋も、早く……ご主人様に、逢いたい……」
「恋さん聞いてたんじゃないですかぁ〜〜〜!」
「恥ずかしいぃ〜〜〜……////」
「??」
何のことやらと首を傾げる恋であるが、その胸中は二人と同じらしい。
朱里と雛里、そして護衛の恋は、先月から荊州は襄陽(じょうよう)を訪れていた。
その目的は、恩師たる『水鏡』司馬徽(き)への見舞い、そして同窓の徐庶(じょしょ)の結婚祝いであった。
雛里にとっては里帰りでもあるこの旅行の為に、二人は長期休暇を取ったのだが、対外的には立派な行啓である。その為、護衛として千を数える軍兵が用意され、それを率いる将軍として恋が選ばれたのだった。
因みに。
『飛将軍の軍師』を自認する音々音も当然従軍することを望んだのだが、政務の重臣二人が休暇ということで、侍中として宮中への出仕を義務付けられてしまい、泣く泣く洛陽に残ることになった。
また、恋の娘である紅昌(こうしょう)の面倒は、専任の乳母(乳児のいる上流階級では、授乳可能な女性を女中として雇い乳母とすることが常)と音々音に任せることになっていた。
とは言え、夫・娘・親友と離れることに当然恋は渋ったのだが、『飛将軍』が護衛、という勇名による示威も選抜の理由であった為、愛紗を初め数人がかりで彼女を宥めたという経緯があったりもした。
さて、そうこうしているうちに馬車と護衛らは正門を通り抜け、無事宮殿の朝庭(前庭)へと到着した。
ひと月弱に亘ったこの行啓もこれで終了である。
「…………到着」
「おう。無事の帰参、何より。健勝のようじゃの」
「……(こくり)」
「あ、桔梗さん! ただいま戻りました!」
「ただいま、です……あ、あれ?」
宮殿へと辿り着いた一行を迎えたのは、司隷校尉にして正室の一人である桔梗だった。
各々挨拶を返す一同だったが、すぐにその腕に抱かれた存在に視線が集まった。
「……赤ちゃん」
「わぁあっ、おめでとうございます!」
「可愛い〜……桔梗さん、おめでとうございます」
「な、なにやら無性に照れるのぉ……ふふ、紫玉(しぎょく)。挨拶せい」
桔梗は、はにかみながらも生まれたばかりの娘の小さな手を取って振らせた。その様子に朱里も雛里もメロメロといった感である。しかし、その様子に一人恋のみが落ち着きを無くしていた。
「……(そわそわ)」
「……恋さん? あ、そっか。ねえ朱里ちゃん」
「そうだね、雛里ちゃん。……恋さん、私達はもう結構ですから、紅昌ちゃんに逢いに行ってあげて下さい」
「……いいの?」
「「勿論!」」
「ありがとう」
彼女が愛娘・呂紅昌(こうしょう)に逢いに行きたがっていると気付いた二人は、解散を促した。
珍しくラグなしの礼を口にした恋は、とてとてと後宮へと走って行った。
「…………。私達も、ご主人様にご挨拶に行こっか?」
「うん……」
どこか羨ましげに恋の後姿を見送った二人。
帰参の報告に行かんと歩き出すが、すぐに桔梗に呼び止められた。
「おっと、待て待て。お館様は今日の武術訓練で少々怪我をなされてな。今、華佗の治療を受けに行っておるのだ。ただ待つのも退屈であろうし、二人は先に風呂に行ってはどうだ。お館様に逢いたいと急く気持ちは分かるが、旅の埃を落としてからでも遅くはあるまい?」
------------------------------------------------------------
かぽーん。
愛しい男に逢うならば、少しでも身綺麗にしておきたいという乙女心。
という訳で桔梗の勧めに従い、風呂に入っている朱里と雛里である。
「はぁ〜……ここ最近、お風呂入るのが習慣になってたけど。改めて物凄い贅沢だって実感しちゃうね〜……」
「ほんとだね〜……普通、浸かれる程お湯沸かすなんて、滅多にないもんね〜……」
湯に浸かって表情も身体も弛緩させる二人。
話題は自然と里帰りの感想へと移っていった。
「水鏡先生、お元気で良かった♪」
「相変わらずお綺麗だったね……ご主人様連れて行かなくて正解だったよね……」
「ほんとだね……」
実は一刀も二人の里帰りに同行を願ったのだが、当の朱里・雛里から拒否されてしまった。なにせ北郷一刀という男は(人妻は対象外だとしても)、年齢差も子持ちなのも気に留めないオールラウンドオールオッケイな男であるからして。
二人としても恩師が恋敵になるのは是非とも避けたかった模様。
「万里(ばんり)ちゃんも、幸せそうだったね」
「うん。優しそうな旦那様だったけど、もうお尻に敷いてる感じだよね〜♪」
「そうそう♪ ああ見えて万里ちゃん、心身とも強いもんね」
万里とは二人の親友、徐庶の真名である。
彼女は女学院に入学する以前から、幼いながらも撃剣(一種の手裏剣術)の使い手として鳴らしていたらしい。
「万里ちゃんったら、結婚したのに、相変わらずのお母さん大好きさんだったね」
「あははっ、そこは全然変わってなかったね♪」
徐庶・万里は学を修める為に故郷を出て水鏡女学院へと入ったが、後漢末の戦乱において荊州州都のある襄陽県の県令に収まり(学院運営を盾に招聘を断った司馬徽の代わりだったようだ)、実母を襄陽に呼び寄せて、その保護に心を砕いていたらしい。
派閥としては曹魏であった訳だが、軍師ではなく一貫して県の統治者の立場にあり、目立った行動や功績はない。
しかし、幼馴染の贔屓目を差し引いても優秀な人物であることに変わりはなく、出来るなら中央でもっと大きな仕事を任せたかったのだが、当の本人はあまり出世に興味がなく、素気無く断られてしまった。
無論、仕事に情熱が無い訳ではない。だが、彼女にとって人生の第一は、どこまでいっても母が恙無く安息の日々を送ることで、寧ろ政権の中枢に係わり過ぎることを忌避したようだった。
とは言っても、抜擢などせずともいずれ州の刺史くらいまで出世するだろうと朱里は睨んでいた。なにせ地元の有力者『水鏡』の後援があり、中央(それも皇后!)へのコネクションを持ち、本人に才能と県令としての経験があるのだから。
「……万里ちゃん、すっごい綺麗になってたなぁ……」
「……背、高くなったよね……」
「…………胸も……」
「…………うん……」
元はと言えば慶事の話題だったと言うのに、体型の話になるや、どんどんと暗くなる二人。
戦乱の時代を憂い、降臨した『天の御遣い』の思想に自らの理想と近しいものを感じた朱里と雛里は、身一つで出奔まがいに学院を飛び出した。そんな二人にとって、約四年振りの里帰り。
かつては朱里や雛里と殆ど変わらない身長・体格だった、久々に再会した幼馴染は、とても女性らしく成長していた。
料理の腕は相変わらず一級品、背もすらりと伸びた。しかし何より二人を打ちのめしたのは、その胸の大きさだった。
言う程大きい訳ではない(身近な例を出せば蒲公英、白蓮辺りか)が、二人とは比べるべくもない。
「「はぁ〜〜〜……」」
深い深〜い溜息を吐く二人。
どんよりとした雰囲気に包まれた湯殿。そこに響いてきたのは、適当感溢れる歌声だった。
「おっふろふろふろ〜♪ ふっろがあるから入るのだ〜〜♪ ケっガをしてても気にしない〜〜♪」
「鈴々ちゃん?」
「にゃ? おー、朱里と雛里なのだ。おかえりなのだー!」
局部を隠すこともせず、よく分からない歌を口ずさみながら歩いて来たのは鈴々であった。
彼女は朱里と雛里を認めるとぱっと笑顔になり、手ぬぐいを持った手を勢いよく上げた。
ぷるん。
「「っ!!?!?」」
二人は確かに見た。腕を上げた勢いで、鈴々の胸が(僅かに)縦に揺れるのを。
「りっ、りりりり鈴々ちゃん!?」
「あわっ、あわわっ、あわわわわ……」
「んー? いきなりどうしたのだ?」
朱里、雛里は大慌てで湯から上がると、鈴々へと詰め寄り、その裸体(胸)をじぃっと舐めるように凝視した。
「(はわわわ……鈴々ちゃんのおっぱい、おっきくなってる〜〜〜!?)」
「(い、いつの間に……わ、私達よりおっきいよぉ〜〜〜……)」
じっくり見ずとも、鈴々の乳房は以前のぺったんこではなく、確かな膨らみを持っていた。
親の仇でも見るような二つの視線。
「あ、あぅ〜。二人とも、一体どうしたのだ? ちょっと怖いのだ……」
「ね、ねえ鈴々ちゃん。いつの間にこんなに胸大きくなったの……?(ズゴゴゴゴ……)」
「ひゃ!? 朱里〜、顔が怖いのだ〜……」
「教えてくれるよね、鈴々ちゃん……?(ズゴゴゴゴ……)」
「あうあう、雛里もおかしいのだぁ〜……」
挙動不審な二人から発せられる(鈴々にとって)不可解な負のオーラに、鈴々涙目。
「えっとえっと確か……これはねぇ、苞(ほう)を産んだ頃にはこうなってたのだ」
「「あ、そういうこと?」」
頭上に電球でも光りそうな勢いで手を打つ朱里・雛里。
タネは至極単純、鈴々の胸が急成長したように見えたのは、妊娠・出産によるものだったのだ。
朱里と雛里は、体型に関するコンプレックスもあって他の女性陣と共に入浴しない。鈴々の小さくも大きい体型の変化に気付かなかったのは、その所為もあるのだろう。
「もぉ〜、びっくりさせないで鈴々ちゃん」
「びっくりしたのはこっちなのだ……よっと」
鈴々は疲れたようにそう言うと、備え付けの手桶を取り、掛け湯をして湯に浸かった。
後に続いて朱里と雛里も再び入浴。
「はぁ〜、鍛錬後のひとっ風呂は最高なのだぁ〜……♪」
「……。鈴々ちゃん、ご主人様に怪我させたでしょう?」
「あぅっ、な、なんで知ってるのだ?」
「やっぱり。私達、さっき帰って来たばかりなんだけど。ご主人様に帰参のご報告に上がろうとしたら、訓練で怪我をされたって」
「にゃはは〜。お兄ちゃんは元々避けるの上手だったけど、最近はもっと上手になったから、鈴々も楽しくなっちゃったのだ♪」
「はぁ〜。あんまり無茶しちゃ駄目だよ、鈴々ちゃん」
「もっちろん分かってるのだ♪」
「「(……絶対分かってないよぉ……)」」
正確には、頭では分かっているが気分次第で吹っ飛ぶ、ということなのだろう。付き合いの古い二人も、それこそ重々承知してはいるのだが、やはり釘は刺したくなるというものだ。
「「……(じぃ〜……)」」
「二人とも、そんなに胸(コレ)が気になるのかー?」
「う〜、それはそうだよぉ〜。ご主人様は小さい胸も好きだって仰るけど、桃香様とか紫苑さんとかの胸を見る時、すっごい、その、だらしない顔されるし……」
「(こくっこくっ)」
「もし、もし万が一、ご主人様に飽きられちゃったら……私、きっと生きていけないもん……」
「うん、うん。胸の無い女には興味ない、とか言われたら……言われたらぁ〜〜ぐすっ」
自分の言葉でショックを受けてか、朱里半泣き、雛里八分泣き。それだけコンプレックスが強いということでもあろうが。
そんな二人に、鈴々はすぱっと一言。
「そんなこと言う男はこっちから願い下げなのだ(けろり)」
と言い放った。
「はわーーー!?」「あわ〜〜〜!?」
その言葉の凄まじい切れ味に、仰天して思わず立ち上がってしまう朱里と雛里である。
「だいたい、お兄ちゃんがそんなこと言う訳ないのだ。“きゅー”とかゆー奴なのだ」
「――それを言うなら杞憂だろ、鈴々」
「「ご主人様っ!?」」
そこに登場したのは腰に布を巻いた一刀だった。二人は慌てて座り直す。
「お帰り、二人とも。朱里も雛里も、怪我とか病気とかしなかった?」
「はっ、はい! だだだ大丈夫でしゅ!」
「あわわわっ、わ、私も平気でしゅたけど……き、聞いてました?」
「まあね。よっ……つぅ〜、沁みる〜」
一刀は右手で桶を持ち、ざっと掛け湯すると、訓練での傷に沁みたか、僅かに顔を歪める。
そして朱里と雛里の間に割り込むようにして湯に浸かった。
「お邪魔しまーす」
「「…………」」
朱里と雛里が、恐縮しつつも自身から離れないことを確認して、一刀は二人の肩をそっと抱いた。
「気にし過ぎ、なんて言うのは簡単だよな。俺だって“ナニが小さい男には興味ない”とか言われたら、流石にキッツイもんなぁ」
「……ご主人様のはとってもご立派だと思いましゅけど……////」
「しゅ、朱里ちゃぁ〜〜ん……!////」
「ん〜? 淑女は下品なことを言っちゃいけないぞ〜?」
「はわぁ〜〜!? ご主人様から振ってきた話じゃないですかぁ〜〜〜!?」
「なんのことかな〜? ナニって背丈のことだぜ〜?(にまにま)」
「うぅ〜〜、意地悪なご主人様なんて、もう知りません!」
「そもそも背丈なら“低い”が正しいです……」
「そうだね、あはははは♪」
一頻(しき)り笑ってから、一刀は体を入れ替え、二人と向き合った。
「認めたくはないけど、俺は節操ナシらしい」
「「認めてなかったんですか!?」」
「……これから真面目なことを言うので、そこは無視して下さい」
「「……はぁ」」
「ごほん。要するに、俺は好みが広いんだと思う。だから、誰かの好きなところを挙げろって言われると、色々なところを言える。だけど、それが相手の長所とは限らない訳で。俺にとって、二人の小さいところは好きなところでもあるけど、二人は正直嬉しくないでしょ?」
襟を正し、至極真面目な顔で一刀は語る。
一刀に“小さくて”可愛いと言われても、どこか喜べない部分があるのは確か。
二人は一度顔を見合わせてから、揃って頷いた。
「それに、小さくなくなったらこの想いが無くなるのかって言ったら、そんなことは絶対無い。ある筈が無いんだ、そんなことは。だってさ……そんなこと言う奴は、もう“俺”じゃないじゃないか」
理屈どころか屁理屈にすらなっていない、そんな一刀の言葉に、朱里も雛里も唖然とするばかり。
「だから俺は言い続けよう。何度でも言うよ――好きだよ。君を、君達を愛している」
そう言って一刀は二人を纏めて掻き抱いた。
「……はい。はいっ……!」
「もう……本当に、困った方です。私達のご主人様は……うふふっ」
「こらーっ、鈴々を忘れちゃヤなのだー!」
寄り掛かるようにして頬を染める軍師二人と、背後から伸し掛かる鈴々。
一刀は愛しい娘達にひとりひとり口付けていった。
……
…………
「ぽぉーーーーー……」
「はぅ〜〜〜〜〜ん……」
結局そのまま身体を重ねた四人であるが、湯に浸かったまま致した為に朱里と雛里はすっかりのぼせてしまった。湯殿の床で伸びた(勿論身体に布を掛けて)二人に、一刀が布を振って風を送っている。一方、鈴々は元気なもので、ばしゃばしゃと泳いでいた。
「大丈夫?」
「はわぁ〜〜〜、申し訳ありません、ご主人様ぁ〜……」
「風、気持ちいいですぅ〜〜〜……」
「にゃはは、だらしないのだ〜♪ そう言えば、お兄ちゃんは怪我、平気なのか?」
「ああ、もう平気だよ。凪が言うには、俺って性欲が増すと“氣”の力も増す体質なんだってさ」
「へぇー! さっすがお兄ちゃんなのだ!」
「褒めてくれてるんだろうけど、素直に喜べない……」
「……本当に、翠さんの言う“えろえろ魔神”そのものですね……」
「ううっ。言わないで、朱里……」
そんな微笑ましい(?)遣り取りをしながらも、一刀は胸中でひとつの疑問を抱いていた。
(今更な話と言えばそうなんだけど……俺達が出会ってもう四年が経つのに、みんなちっとも変わらない。というか変わらな過ぎな気がする……)
鈴々や音々音、或いは少し上で蒲公英。最も付き合いの古い旧蜀勢で見ても、明らかに成長期である筈の彼女らだが、その身体は出会った頃と大差ない。
(一人二人ならともかく。帝国が為って以降で考えても、正室の誰一人変わってないのは変じゃないか? それに、誰も変化しないことを、誰もが気にしない……。少なくとも璃々は成長しているのに)
一刀に近しい存在で、身体的成長が目に見えるのは璃々くらいのものだ。そろそろ身長が低身長組に追いつきつつさえある。
(何か。何か俺の……いや、この世界の誰もが知らない、不可思議な“何か”があるんじゃないだろうか……)
予感めいた確信。しかし一刀は、同時に感じた不安に近い感情に、その想像を口には出さなかったのだった。
五月も中頃となり、穏やかな日々が続いている。
しかし日和に反してということもないだろうが、皇帝・北郷一刀は慌ただしく宮中のあちこちへと出没していた。
その理由は、明快にして単純。
丞相のスーパーサポーターである司徒・朱里、行政実務機関の長である尚書令・雛里、そして国防長官たる大司馬の補佐である太尉・冥琳。帝国官僚の最上層からこの三名の妊娠が確認され、休職した為であった。
------------------------------------------------------------
尚書令の執務室では。
「じゃあ次。し尿の農業利用の報告をお願い」
側近の穏を連れ立った一刀が、稟と亞莎と共に様々な書類を手に会議中であった。
「はっ。旧呉領では元々古くから用いられていたようですが、西方へ行くほどその利用はないようですね」
「前例があるなら上等上等。俺がいた国では、昔は『金肥』なんて言われて売買されてたらしいから、似たような事業を興すのは難しくないと思うんだけど、どうかな?」
「はいっ、旧呉領は問題ないと思います。馴染みがない地域では抵抗感のある人が多いとは思いますが、『開発†無双』の実験結果を公布した上で、官主導で試験地を作成。農民や商人の方々も実際にその効果を目の当たりにすれば、段々と普及すると愚考致しますっ」
一刀の提案に亞莎が所感を述べる。
下肥の導入は建国当初から図られており、既に『開発†無双』によってその効果を実証させていたのである。
「問題となるのは、運搬費用との兼ね合いと、何より防疫面ですね」
「うん。防疫は下肥の導入では最重要課題になると思う。だから余計に“正しい方法”をまず示したいんだ。民間に任せると、どうしても利益優先になっちゃうから、その辺りがなあなあになる可能性を否定出来ない」
「『開発†無双』から手順書は届いています。すぐにでも取り掛かれますが……来春まで待つんですね?」
亞莎の確認に一刀は頷いて返した。
「今秋で医師学校の一期生が卒業する。彼らが地方に配されて落ち着くのを待ちたいんだ。新技術には穴がないとも限らない。万一の場合の対処に、医者は絶対必要になるから」
「承知致しました!」
医師学校の一期生は全員が経験者である。つまり勉強し直した元・医師という訳だ。
一部はそのまま医師学校の教諭となり、今後入学してくる全くの未経験者に対応することになる。
「運搬については、河川利用できる範囲は問題ないよね、穏?」
「は〜い、その通りですね〜♪ 亞莎ちゃんが旧呉領の普及を問題ないと見る理由のひとつは、船舶による運搬が一般的であることですから〜。陸路も各州の道路事業が隅々まで進めば段々と浸透するんじゃないでしょうか〜」
「農村への貨幣経済普及にも役立ちそうですね」
「そこも狙いかな。旧魏領、というか……北に行けば行く程、物々交換が根強いからなぁ」
「大陸北部には銅銭を鋳造する為の良い銅山が今のところありませんからね。仕方の無いところです」
「まずは地方の官吏たちに勉強して貰わないと。『開発†無双』の手順書を各州へ回す準備は出来てる?」
「勿論です!」
「流石。全国都市部の公衆便所設置も進めてるから、都市の衛生面もこれで随分良くなるかな……」
大都市になればなる程に問題となるのが、水源確保とし尿処理である。
漢代より身分の高い者が出入りする建物には『豚便所』と呼ばれるトイレが設置されていることが多い。だが、一般宅には望むべくも無い。
かと言って本格的な下水設備を設置するのは技術的に非常に難しい。河川などが近辺に無いなどの地形的問題があるならば尚更だ。
そこで、し尿処理のノウハウとして広めようとしているのが、下肥の農業利用と公衆便所設置のコンボだったのだ。
和王朝の徴税は基本的に現金納付としているが、貨幣経済に馴染みが薄い地域(つまり都市部から離れた農村)には物品納税も認めており、納税方法が混在している状態だ。
農民に下肥を“買う”という行為に馴染んで貰い、貨幣経済を全国に浸透させる。そうして最終的には納税方法を一本化することも目論んでいる訳だ。
「それにしても……次から次へと、よくも思いつくものです」
「流石は一刀様です! 私も、もっと頑張らなきゃ……」
「あはは、褒めてくれるのは嬉しいけど。これって俺が自分で考え出した訳じゃないからさ」
「私は、褒めたつもりはありませんが」
「ソ、ソウデスカ……」
「……稟さんって本当に天邪鬼ですね」
「亞莎っ!」
「ひえっ、すいませぇん!?」
「あらあら、最近は華琳さんだけじゃなくて旦那様にも天邪鬼さんなんですねぇ〜?」
「なっ、なんのことか分りかねます!////」
泡を食って顔を背けた稟だが、動揺は明らかで。
一同は思わず噴き出したのだった。
------------------------------------------------------------
また、土木を司る三公・司空の執務室では。
「『大運河計画』の進捗はどう?」
今度は風と共に、司空の副官的立場にある尚書の土木担当と相対していた。
風は、休職中で後宮にいる桂花と副官の仲立ちとなり、『大運河計画』の取り纏めを務めているのだ。
「桂花ちゃんと相談しながらなので中々。かなりの長期計画なので予算は何とかなると見ていますが。ただ、土木作業で相当数の人員が集まるのはいいのですが、これは飽く迄一時雇用ですからねー。その後のことを考えておかないと痛い目を見ますよー?」
風の忠告に黙ったまま頷き、同意を示す青年。
彼の名は荀攸(じゅんゆう)、桂花の甥に当たる人物だ。寡黙で目立たないが、その軍略は郭嘉・稟に負けず劣らず、政治手腕は荀ケ・桂花に並ぶほどの才人である。
男性である為に華琳の側近にこそ引き立てられなかったが、かつての曹魏を支えた屋台骨の一人であった。
「そこなんだけど、ちょっと無謀な案を思いついちゃって」
「自分で無謀と言っていれば世話ありませんねー」
「……是非、お聞かせ下さい」
「うん。大運河って『大梁』の近くを通るよね?」
「どうでしたかねー?」
風に促され、荀攸が計画用の地図を確認する。
「……確かに通りますね」
「それにしても大梁、ですか。今は荒廃した城跡があるだけの、陳留近くの小さな町ですよ?」
「今はね。でも、工事の拠点を大梁にして人や金が集まるようにすれば、あの町は今後の重要な交易拠点として見込めると思うんだ。特に南部からの物資を中原・北部へと運ぶ中継地点にいい位置だろう? 州治(州都)規模の大都市に出来るように豫州の刺史とも連携してさ」
大梁、のちの開封である。
本来ならば宋の時代に改名されるのだが、一刀は大運河開通の暁に改名する心積もりだった。
「……ふむ」
「…………」
「洛陽を拡張したとは言え、今後十年の人口爆発を危惧する報告もある。早い段階から首都周辺の収容力を増しておきたいんだ。洛陽拡張計画っていう前例もある分、計画も容易になってるはずだ」
「おやおや、簡単に言ってくれますね、お兄さん」
「…………」
「俺の役目は無茶言うことだと思ってるしね。それに、ある種の確信はある。いつもの『天の知識』だと思ってくれ」
「ふ〜む。桂花ちゃんに相談した上で、皆さんと会議してみるとしましょうかねー」
「うん、よろしく。頼んだよ、風。荀攸」
「はいはい〜」「……はっ」
一刀はそう言って退室していった。
「……先読みは見事、と言ったところですか。『天の知識』とは、なんと恐ろしいものか」
「そうですねー。治世においてこの上なく有用なのは確かですが。ただ……」
どこか畏怖めいたものを感じていた荀攸だが、もう見えない彼の背を追ったままの風に、沈黙で言葉の先を促した。
「あの人の真に恐ろしいところは、『天の知識』などではないのですよ。桃香ちゃんの人望を、華琳様の実行力を、雪蓮さん蓮華ちゃんの祖国愛を。かつての三国の王の持つチカラを取り込みながら、そのどれにも傾倒せずに成長する意志。風の“日輪”さえ包み込んだその心こそ、お兄さんの真髄なのでしょう」
陶然と語る風の言葉はまるで独白のようで、荀攸には判然としない単語も混じっていたが。
彼女の視線には確かな熱が籠められていて、荀攸は知らず溜息を漏らした。
「…………流石は、あの文若おばさんを娶った方、ということか」
「年上なのに“おばさん”なんて言うから、血縁にも係わらず真名を許されないのではないですかー?」
「……曹操様の命でもなくば、あの人は血族だろうと男に真名を許したりしません。そのようなことより……」
「どうしましたー?」
「……いえ。いつか、我が真名をあのお方に預けたいものだ、と」
『あんちゃんときたら、とうとう男までタラすようになっちまったか』
「これ、宝ャ。滅多なことを言ってはなりません。噂になってしまいますからねー?」
「……愛国の士ならば誰もが願うことでしょう。私に男色の気はありませんし、そも貴女に言われたくはない。……さあ、仕事に戻りましょう」
「はいはいー。ふふ」
一刀の理解者が増えることは王朝の基盤を磐石とするに重要であると理性が満足するのとは別に、極めて単純に、惚れた男が褒められたことに気を良くして、風は自然と微笑んでいた。
------------------------------------------------------------
続いて帝国丞相の執務室では。
「華琳、劉豹さんから返答あったって?」
珍しく執務室にいたのは主のみ。
一刀は華琳と二人、机を挟んでいる。
「ええ。要して言えば、只で寵姫を渡す気はない、だそうよ」
「そりゃ当然だよね。で……蔡文姫さんとは接触出来た?」
華琳は頷くと、丸められた竹簡を机上で滑らせる。一刀は受け取った竹簡を開き、多少苦戦しつつも目を通した。
「……う〜ん。帰りたくはあるけど、子供が心残りってとこ?」
「そうね。それに、あんな男の何処がいいのか知らないけれど、意外にも愛はあるみたいね」
「もろ体育会系だけど、いい人じゃん。劉豹さん」
「その汗臭い感じが嫌なのよ」
「相変わらず男には手厳しいなぁ。まあ“美女と野獣”を地で行ってる感じなのは確かだけど……さて、どうするかな」
蔡文姫。漢代随一の才女である。
しかし彼女は戦乱のどさくさで南匈奴に誘拐され、既にその左賢王(匈奴で国王『単于』に次ぐ位)、劉豹の正室となっており、子を成してもいた。
彼女とコンタクトを取ったのは、創立準備が着々と進められている『洛陽学園』の教諭として、名高い彼女を招聘したいと考えていたからだ。
また、誘拐という経緯もあって現状によっては救助という意味合いもあったのだが、どうやらその点においては余計なお世話であったようだ。
なお、南匈奴とは後漢時代から王朝と血縁関係を結んでおり、三国時代では曹魏に帰順していた部族である(三国時代に度々蜀を初めとした各国を侵した“五胡”と人括りにされる異民族の一である『匈奴』は、この南匈奴と区別して北匈奴とも呼ばれる)。
現在でも曹魏の王権を継いでいる和王朝に服属する形となっており、皇帝たる一刀は幾度か劉豹の謁見を受け、面識があった。
「身代金を払えば良いでしょう。彼女ほどの才女を取り戻せるなら、幾ら払っても損ではないわ」
「気持ちが通じてる夫婦を引き裂くのはちょっとね……民の為なら仕方ないときもあるだろうけど、出来るなら俺だって華琳と離れたくないから」
「っ……そ、それは……私だって……////(ぼそぼそ)」
「それにさ。子供と離れたくないって言うのは、本当に、ほんとぉ〜〜〜に良く分かるし!」
「ホント、すっかり子煩悩親父ね、あなたは……」
思わず溜息を吐いた華琳をさておき、一刀は何かを思いついたようだった。
「待てよ。そういや南匈奴の単于って今、こっちにいるんだよな?」
「ええ。戦乱時代に帰順させて以来、此方に留めさせているわ。劉豹の父なのだけれど、もうかなりの高齢で、最近は病気がちなのよね……ああ、成る程」
「あ、分かった?」
「当然でしょう。南匈奴を代替わりさせて、劉豹・蔡文姫の夫妻を子供諸共此方に移住させようって腹ね?」
「正解。これなら誰も離れないで済むだろうし、今の単于に故郷の土を踏ませることも出来る。劉豹さんには新天地で頑張って貰うことになっちゃうけどさ。それに息子の、劉淵くんだっけ? 彼に『洛陽学園』で学んで貰うのは、双方にとって良いことだと思うんだ」
「そうね……将来単于になるだろう劉淵に、此方の皇子皇女らが通う学び舎で共に学ばせる……留学させると言うのは、確かに良案かしらね」
「いけそう?」
「後継者争いを回避出来ることを考えても、利害は一致するわね。いいわ、その案を採用しましょう」
アイディアを採用された一刀はガッツポーズ。
そんな一刀に、華琳はどこか意地悪く笑ってみせた。
「ふふっ、あなたも随分と腹黒いことを考えるようになったものね」
「腹黒いって、なんか聞こえが悪いなぁ……」
「あら、褒め言葉よ?」
「本気で言ってるとは思えないっての、全く……じゃあ俺は政務室に戻るよ」
「――待ちなさい」
苦笑いしつつも退室しようと身を翻した一刀を華琳が引き止める。
何事かと、体を戻そうとした一刀。
その瞬間、華琳はさっと立ち上がると、身を乗り出して彼の腕を取るや机に引き倒し。
「わっ!?」
「――んっ」
バランスを崩して机の上に手を突いた一刀の首に両手を回し、唇を押し当てた。
「ぁむ……」
「んむ!?」
動転する夫の唇を貪った華琳は、艶かしくも美しい笑みを浮かべ、耳元で囁く。
「ぷぁ……ほんの少しだけ、いいでしょう? ――ご主人様」
「やべっ、急がないとみんなに邪推される……!」
あの後、華琳の誘惑に抗えず一戦どころか三戦もやらかした一刀。
今更に遅れを気にして急ぎ足で政務室を目指していたが、どう考えてももう遅い。
そもそもこの場合、邪推どころか単なる図星である。
「はぁ〜、どうして俺って我慢が効かないのかな〜……ん?」
役に立たない反省の言葉をこぼす一刀だったが、廊下の曲がり角で不審な人物を認めて足を緩めた。
「……祭、何やってんの?」
「ん? おお、一刀か。丁度良いところに来たのう」
曲がり角から身を乗り出して廊下の先を覗いていた祭は、一刀の呼びかけに振り向いた。
その腕には、赤子が眠る籠を抱いていた。
「祭が丈夫なのは分ってるけど、まだ大仕事をこなしたばかりでしょ?」
「むう。退屈なんじゃもん……」
「可愛く言っても駄目です。大人しくしてて下さいよ、奥さん」
「かっかっか! この儂が奥などと呼ばれようとは。何やらこそばゆいのう♪」
反省の色が見えない最年長の妻、その笑い声に苦笑いを返しつつ、一刀は愛しき我が子を覗き込んだ。
赤子の名は黄柄(へい)。先日産まれたばかりの祭と一刀の娘である。
「……ふふっ、よく寝てるね」
「先程まで大泣きでな。あやしついでに出歩いとったのじゃが……アレを見つけてしまってな」
「アレ?」
祭は顎で曲がり角の先を示す。一刀は祭に倣って、顔だけを角から出して見てみると。
「……冥琳? なんで宮廷にいるんだ?」
見えたのは、普段の堂々たる姿はどこへやら。こそこそきょろきょろと挙動不審な様子で廊下を歩く冥琳だった。
「あんな冥琳、初めて見た気がする……これが丁度いいことなの、祭?」
「うむ。奴めが持っておる物を見てみい」
見れば冥琳は大量の書簡、竹簡を抱えているようだった。
「なんだありゃ……あ、もしかして」
「そういうことじゃ。儂も出歩いておった手前、どう言ったものかと思案しておったところでお主が現れた、という訳じゃ」
「そういうことね……よし、行こう」
冥琳は両腕一杯の書類を抱え、小走りに後宮の自室を目指していた。
後ろめたさから、背中を丸めていた彼女。幸いにもここまでは誰にも会うことなく来れたのだが。
(あと少し、宮廷を出てしまえば……)
そんな思いが災いしたか。出口でばったりと出くわしたのは。
「んん? 何しとん、冥琳」
「し、霞っ!?」
「……何や、えらい書類の量やなぁ。何かの本やの?」
「い、いや、これはだな……いや、それよりも。お前こそ何故こんなところにいるのだ。華佗の見立てではそろそろなのだろう?」
「おっと、こら薮蛇やったか。はははっ、まぁそらお互い様っちゅーことで」
霞の腹はもう随分と丸く大きくなっている。彼女は臨月を迎えているのだ。
「そう、だな。お互い様ならば、この書類についても他言無用で――」
「そうはいかないぞ、冥琳!」
「か、一刀!? さ、祭殿まで……」
普段なら誰かの前では一歩引いて北郷と呼ぶ冥琳が、思わず名を呼ぶほどに彼女はうろたえていた。
「冥琳。その手に持っているのは何かな〜?」
「くっ、わざとらしい……!」
「はぁ……祭だけじゃなくて、冥琳まで大人しくしてくれてないとは」
「儂を引き合いに出すでない!」
「祭殿と同じ扱いは心外だ!」
「なんじゃと?」「なんですって?」
「どっちもどっち、同罪だ! ……霞、逃げようとするな。おまえもだぞ!」
「あ、あはは……ばれとった?」
「まったく! みんな、自分と子供の身体を最優先してよ!」
腰に手を当てて怒ってみせる一刀。とは言うものの、実際はポーズである。
「祭と霞は、出歩くなとは言ってないだろう? ただ、必ずお供を呼んでくれ。いいね?」
「……うん。ごめんな、一刀」
「すまんかった。今後は遵守しよう」
祭と霞にじっとしていろ、というのが無理難題クラスの要求であることは重々承知している。よって一刀も素直に反省した様子の二人に、満足げに頷いた。
そして、冥琳についてもある種同様の状態であることにも、一刀は気付いていた。
「冥琳。仕事が気になるのは、分かるよ。でも、今の最優先事項は仕事じゃないでしょ?」
「う……」
彼女が抱えている大量の書類は当然、太尉としての仕事の書類。
冥琳に仕事を気にするな、というのもまた無理難題クラスの要求であるらしい。
「し、しかしだな北郷。武官はともかく、文官にとっては妊娠していてもそこまで大きな影響はないのだぞ?」
「シカシもカカシもありません」
「こんな余暇はこの十年なかったことなのだ。急に仕事をするなと言われてもだな……」
「それだけ妊娠ってものが特殊な状況ってことだろう?」
「そ、それに部屋で読書していても、仕事が気になって仕方がないのだよ」
食い下がる冥琳だったが、それを止めたのは一刀ではなく。
「いい加減にせんか、この馬鹿者め!」
「痛っ!」
一喝と共に振り下ろされた祭の拳骨だった。
鈍い音が響き、どさどさと書類が地面に落ちる。その威力と痛みに冥琳は頭を抱えて蹲った。
「くぅぅ〜っ……さ、祭殿、もう少し手加減して下さい……」
「ふん。今のおぬしにはこのくらいが丁度良いじゃろう。我等が子を孕んだ際に如何とするかを決めたうちの一人が今更何を言っとるか」
建国時、『頂議』に参加する上級官僚の面々によって、皇后懐妊の際は武官文官問わず休職することと決められた。
冥琳が言う通り、妊娠しても文官としての仕事にはそこまで大きな影響はない。しかし、この時代の出産の難度等を鑑み、安全を最優先することになったのだ。
「まして、旦那様の気遣いまで踏みにじる気か」
「そのようなっ……わけ、では……」
痛みを忘れたように立ち上がる冥琳だったが、言葉は続かなかった。
叱られた子供のように、気まずそうに此方の様子を窺う冥琳に、一刀はにっと笑み。
「ふふっ。仕方ないなぁ、冥琳は♪」
からかうように言って、その頬を人差し指で突(つつ)いてやった。
「しぇ、雪蓮のような真似を……いや、そうだな。祭殿の仰る通りだ。済まなかった、一刀」
「うん。こっちももう少し配慮が必要だったかも。冥琳のワーカホリックっぷりを舐めてたか」
「「「輪っか?」」」
「えーっと、なんて言うんだコレ……仕事馬鹿?」
「ぷっ、ぶはははは! そら冥琳らしいわ!」
「はっはっは! 正に公瑾に相応しいのう!」
「ええ、ええ。どうせ仕事馬鹿ですとも。何とでも言って下さい」
一刀が漏らした言葉に、祭と霞は噴き出し、冥琳は膨れつつも自覚はあるようだった。
「仕事が気になり過ぎて調子悪くなったら本末転倒だからね。今後は後宮の自室でちょっとずつ仕事出来るようにしようか」
「ああ。そうしてくれると助かる」
「ホンマ、冥琳は仕事馬鹿やな〜♪」
「うむ、まったくじゃ。柄はこんな大人になるでないぞ〜?」
「ふん! 心配なさらずとも、祭殿のご息女ですから豪放な娘になることでしょう」
「言っておれ。おぬしの娘こそ、さぞ几帳面な娘になるじゃろうな!」
「几帳面の何が悪いというのですか!」
冥琳が調子を取り戻すや、途端に子供の喧嘩(寧ろ親馬鹿の喧嘩か?)を始めた二人。
一刀は霞と一緒に声を出して笑ったのだった。
------------------------------------------------------------
一刀はようやく天子の政務室へと戻って来た。
「た、ただいま〜……」
華琳との情事で遅くなった為に後ろめたい一刀が、おそるおそるといった感で扉を開くと。
「一刀、やっと帰ってきたのね!」
「何やってたのよアンタ! 遅いわよ!」
まず一刀を出迎えたのは、問い詰めるように迫った蓮華と詠(因みに詠は産休から復帰したばかり)。
穏も風も出張先から既に戻っていたが、揃ってしかめっ面。
非常勤の音々音のみは例によって不在。
唯一、桃香だけが困ったように笑っていた。
「ええっと……め、冥琳がこっそり仕事しようとしててね? 説得してたんだよ! それに霞や祭まで独りで出歩いててさ。そ、そうそう! 風、桂花の調子はどうだった?」
「それどころではないのですけど、まあいいでしょー。桂花ちゃんは相変わらず、と言いたいところですが。僅かに膨らんだお腹を撫でてはニヤニヤしていて、ちょっと気持ち悪いですねー」
「そ、それはいくらなんでも酷くない?」
「むー。そんなことを言うのはこの口ですかー? 稟ちゃんに続いて桂花ちゃんまで孕ませておいて、風には御子を授けてくれない癖に、そんなことを言うのはこの口ですかー?#」
「いひゃひゃひゃ! お、おえんああい(ごめんなさい)!」
「風! 気持ちは分かるけれど、今は報告が先よ」
「おっと、そうでした。お兄さんの余りに心配りの無い発言に、思わず激昂してしまいました」
「む、胸に刺さる……本当にごめんなさい」
「謝罪は後ほど身体で払って戴くとしてですねー」
「「風!?」」
相変わらずの風の発言に、詠と蓮華が突っ込むが、やはり相変わらずの風はそれを完全無視。
「実はですね。少々……いえ、かなり困った方から、緊急の謁見要請が来ているのです」
「うーん、私は別にそんなことないと思うんだけど……」
「桃香ちゃんは旧知の仲ですからね〜。はっきり言わせて貰えれば、皆さんのこの人への印象は最悪と言って良いんじゃないかな〜?」
「そ、そうなんだ……でも悪い人じゃないよ?」
「それは分かってますよ〜。ただ、何分出会い方が悪かったと言いましょうか〜」
桃香は弁護しているようだが、どうも皆からは忌避、あるいは嫌悪されている人物から謁見の希望があったようだ。
しかし、ここまで聞いていても誰かがはっきりしない。
「で、結局誰からの謁見要請なの?」
結論を求めた一刀に、皆は顔を見合わせ。
やはり困った笑みのまま、代表して桃香が答えた。
「うん。あのね、実は……管輅ちゃんから」
『天の御遣い』が乱世を平定すると予言した占師。
三国同盟期、北郷一刀に天界――元いた世界への帰還方法を示した妖術の使い手。
謁見だというのに、以前と同じくど派手な着物のような衣装を着崩す美丈夫。
その男が今、謁見の間にて平伏している。
「面(おもて)を上げよ」
「……へェい」
彼を取り囲むのは、三国志に名高き英傑らである。産休中である者達も、各々得物を携え、万一に備えている。
特に玉座の手前で二体一対の仁王のごとく立つ、関雲長と呂奉先の二人から発せられるプレッシャーたるや、並みの人間を射殺す勢いであった。
かつて一刀を喪失するやも知れない事態を引き起こした男に、彼女たちはこれ以上ない警戒心を露わにしていた。
しかし皇帝の言葉に頭を上げた男は、蛙の面になんとやら。一刀も気楽な調子で話しかけた。
「……この場には俺達しかいないから、堅苦しい喋り方はしないでいいですよ。あと、口を開くのは基本俺だけなんで。その辺りは気にしないで下さい」
「ほっほっほ! 相ィ変わらずでェござんすねィ♪」
「お久し振りです。お元気でしたか、管輅さん」
「おンやァ、そンなァご丁寧な言葉はァ結構ォ。どォぞ“管輅ちゃん”とお呼びィ下せェ」
「さ、流石に年上の方に“ちゃん付け”はちょっと……呼び捨てでいいかな?」
「ほっほっほっ、どォぞご随意にィ」
(桃香が管輅さんを“ちゃん付け”で呼ぶのは、そう勧められたからなのか……よくも素直に呼べるなぁ)
いきなり意表を突かれた一刀だったが、気を取り直し、直球で尋ねる。
「じゃあ管輅。緊急に取次ぎを求めた、その理由を聞かせて欲しい」
「へェい。正ォ直申せばァ、最早貴方様ァにお会いィする気はァ、あちきにゃアござンせンでありんしたァ。しかァし……先日古いィ知人からァ、少々ォ頼まれモンをしやしてェ」
「頼まれ物?」
「こいつでェありんす」
管輅は懐から包みを取り出した。
周囲により強い緊張が走る中、一刀の隣に控えていた愛紗が進み、包みを受け取った。
慎重に包みを開いた愛紗が見た物は。
「これは……銅鏡と、竹簡?」
包みに入っていたのは、小さな銅鏡と一巻きの竹簡。
「それで、あなたの友人が……」
「ちょオっとお待ちィ下せえ!」
常に飄々としていた管輅が、突如目を見開き、声を張り上げた。
武官たちは一斉に武器を構え、肌を切るような空気が謁見の間に充満する。
「彼奴らはァ知人でェあってェ、友人でェはありんせン! 決してェそこンところォ、誤解しねェで戴きてェんでござんす……!」
「あ、そ、そう……分かった、分かったから落ち着いて!」
「……おオっとォ、こォいつアあちきとしたァことが。大変ン失礼をばァ……」
「う、うん。落ち着いてくれればいいんだけど」
激昂を治めた管輅は、襟を正し頭(こうべ)を垂れた。
「皇帝ィ陛下……いンやァ、『天の御遣い』様ァにィ申し上げェやす。貴方様ァを狙う存在がァ、こン世界にィ迫ってェござんす。そン存在はァ妖しン術を用い、今までもォ貴方様ァを害さんと様々なァ策謀を巡らせてェござんした。しかし、貴方様ァを、こン世界を愛ィする者が、それを防いでェいたンでありんす」
管輅の言葉は、昨年の白装束の一団による不可思議な襲撃事件を裏付けるものだった。
場が僅かにざわついたが、一刀が玉座より立ち上がったことで静まる。
「……それが、あなたの知人か」
「へェい」
管輅は語る。
三国同盟が成った頃から、北郷一刀を亡き者にせんとする者達と、その脅威から守ろうとする者達がせめぎ合っていたこと。
第三次五胡大戦、そして昨年の白装束襲撃。どちらも同じ黒幕であること。
間接的にしか影響を及ぼすことはなかったが、次第に直接的な手段に移行しつつあること。
今現在、両者は間断的に直接ぶつかり合い、此方へ手出しする余力はどちらにもないこと。
渡した竹簡は、大陸を守護する為に張られた結界を強化する呪器を作成する手順書であること。
その呪器を各地の城砦に取り付けることで、敵方の妖術を抑えることが可能になること。
何も知らぬ人間ならば眉唾と断ずるような、胡乱な話である。
しかし一刀達は不可思議な存在、道具がこの世に在ることを身を以って知っている。
管輅が語り終わると、仲間内で妖術に関する知識を持つ者たち――麗羽、地和、華佗――が頷き合った。
「……一応、これまでの経緯と矛盾は無いと思いますわ」
「そうね……呪器作成の手順はじっくり解読しないと分からないけど」
「俺は彼が嘘を吐いているとは思えないな。単なる医者の勘だが。後は一刀の意見に従おう」
「ありがとう。俺も嘘があるとは思わない。思うところもあるんだ。……管輅」
一刀は仲間たちを労うと、再び平伏した管輅に向かって問う。
「もしかして……その知人というのは、俺に“夢”を見せてくれている人なんじゃないか?」
「御意にィござんす。知人はァ遠く離れた場所にィおりましてェ。貴方様ァを守るにゃア、いずれ貴方様ァご自身の力が必要ォになると考えたよォで。お眠りィの際にゃア、お渡しィした鏡を枕元に置きなせェ。またァ“夢”に繋がるでありんすよオ」
「そうか……その人が何故俺を守ろうとしてくれているのか、知ってるかい?」
「先程も申しィ上げた通り、彼奴が貴方様ァとこの世界ィを愛してェいるからでありんす。これはァ確かなこと。我が名ァを懸けて断言いたしやしょう」
“愛”という言葉に、先程とは違った意味で周囲がざわつき出した。
「み、みんな落ち着いて! その人、男だから!」
「会ったこともないというのに、何故お分かりになるのですか!?」
一刀の弁明にすぐさま言葉を返したのは、やはり愛紗。
「例の夢を見るとき声が聞こえるんだって! 絶対男だって! そうだよね、管輅!?」
「ほっほっほ! 本当に愛されてござんすねィ♪ 北郷様ァが仰る通りィ、そいつァ男でェござんすよ……生物的にはァ(ぼそり)」
管輅が最後にぽつりと付け足した言葉は、誰の耳にも届かなかったのだった。
(〜金〜に続く)
【アトガキならぬナカガキ 〜土〜】
過去最長の投稿間隔、そろそろ切腹モノやも……。四方多撲でございます。
出来れば月イチには更新したいものですが、中々……ともあれ、第24話の土編をお送り致します。
今回はかなりイチャラブ出来たと思うのですが如何でしょうか。
ちょっと七乃さんが壊れ気味かな? 乙女過ぎたやもしれません。一応、私のダメ音声再生機能(脳内で声優さんに喋って貰うこと)では問題なかったのですがww
では今回の補足、新たなモブキャラについてです。
●杜キ(とき)
堅物音楽家、トキさん。キの字は文字コードに引っ掛かって使えない為、古代中国音楽の音階『五声』のひとつである徽を当てました。この字は水鏡先生の諱と同じ字なので紛らわしかったかも?
本来のキの字は、説明することも難しいくらいにひどく面倒な字です。
●徐庶(じょしょ)
各種設定は全てオリジナルとなっております。撃剣などは逸話から。また徐庶と言えば主君への忠よりも母への孝を取った人物、ということでマザコンにしてしまいましたw
真名は“里”の字を入れて、それっぽいものを。よくよく考えると朱里と雛里って郷が違うのに、何故真名が似通っているのだろう……?
●劉豹・蔡文姫・劉淵
本作では前趙の創建者・劉淵を劉豹と蔡文姫の息子に設定しております。また、劉豹が南匈奴の単于になったという史実もございません。南匈奴に関してはオリジナル設定が多く、演義や史実とは全く食い違うのでご注意をば。
なお、蔡文姫が字しか書いていないのは、トキと同じく諱の文字コードの関係です(本来は“王偏に炎”でエン)。
執筆がテキストベースなもので、文字コードのせいで使えない字が目立ってきた気がします。ドキュメントで保存すればいいんですけどねぇ。そうすればハートマークとかも使えるようになるしなぁ。でもテキストの手軽さは捨てがたい。う〜ん悩ましい。
●追加補足
前回第24話「〜火〜」編にて、桂花のセリフに違和感のある箇所がございました。改版として本文を修正しております。
訂正前
「とっ、兎に角! 私がアンタと……け、けっ、結婚するのは、飽く迄もこの子の為なんですからね!?」
訂正後
「とっ、兎に角! 私がアンタと……け、けっ、結婚するのは、飽く迄もこの子の為――分かってるんでしょうね!?」
びみょ〜に違和感がありまして。恐らく元のままでも問題ないとは思うのですが、より“らしい”セリフになったかと。
細かいようですが、訂正の旨ご報告申し上げます。
実は今回、文章量がオーバーしてしまい、あちこち修正するハメに……そのせいでプロットよりもひと月進行が遅れていたりします。次回、次々回で調整しなきゃ><
それでは次回、第24話「〜金〜」編でお逢い致しましょう!
四方多撲 拝
説明 | ||
第24話(3/5)を投稿です。 オーマイガッ! ほぼ三ヶ月のご無沙汰……本っ当〜にお待たせしてしまい、誠に申し訳ございませんでしたm(x x)m 気を取り直しまして、話の真ん中、のんびりイチャイチャな今回は〜? あの天然悪人ちゃんを堕とせ! 朱里と雛里を絶望へと追いやる鈴々! 久々アヤスィ〜喋り方のあの人が再登場! ――の三本です☆(だいたい合ってる) 諸々の枉事罪穢れを拂ひ賜へ清め賜へと申す事の由を〜、蜀END分岐アフター、TINAMIユーザー様に聞食せと恐み恐み申す〜♪ |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
50043 | 32048 | 157 |
コメント | ||
まだ待てます!(ヨシケン) 更新ないかな?(ヨシケン) 続きよみたい(ナハト) もうないっぽいな(PROPHECY) 更新はあるのでしょうか?(カエルさん) まだかー?(PROPHECY) 更新早く!(マコト) 続きはよ来てくだされ?(ttaka) 面白いものが、あると思って来てみたら、やっぱり面白いじゃあないの!続き・・・待っておこうか!(デーモン赤ペン改めジェームず) まだなの?ねぇまだなの?(牛乳魔人) 更新お願いします(syou) 更新まだかなぁ。(迷い猫@翔) ぬぅ、続きが気になるけどまずは生存報告があると嬉しいなぁ(闇羽) 続きをまだまってまーす。(arukueid) 続きを首を長くして待っています〜(ノω;)(kirito) 復活してくださいよ〜〜〜!!!(涙)。北郷帝も終わっちゃったし・・・・・・・・・(XOP) 続きないと……ハゥ!(音々音) 続きカモーーーーン(D8) 続きぷりーず!!!(KN) 更新が止まって2年、最後の返信が11年1月4日。この頃にあった出来事・・・嫌な想像ばかりしてしまいます。生存報告だけでもお願いいたします。待ってます(牛乳) 期間が開くことでモチベーションの維持が難しくなっていなければいいのですが・・・(XOP) 続きが気になります〜。更新待ってるっす!(ボブ) 続き宜しくお願いします。(イマ) 続きが読みたいのに続きがない・・・・・ 何度読み直しても続きが気になる(霧龍) このページを開く度に訪れるこの寂寥感…(atlas039) 是非続きをお願いします(umi) 是非続きをお願いします(しのざき) いったい、何度読み直したことか。・・・・・・・・・・・・私は待ち続けます。(rin) 数日前にJe・F・Se・Mさんとこから飛んできて、面白くて一気に読んでしまいました。 可能ならば、是非とも続きを読まして下さい。(眠る人) 復活お願いします!!(atlas039) 続きはまだかいのぅ・・・(トウガ・S・ローゼン) う〜・・・・・続きがぁ・・・・ もう3回も読み返しました 生きててくださいよ・・・・(霧龍) ついに最後のコメントからも一年・・・・・・・・・生きているなら返事をお願いします!(XOP) これでおわりなの…(ロックオン) 私はもう待ちくたびれました。(秋草) 面白くて一気に読んでしまいました、続きを楽しみにしております。というか生きていますか?心配です(mdmc) 1年・・・・ どうぞゆっくりでもいいので生存報告と続きをお願いします(ウィンド) …………ついに投下から一年が経過してしまいました。生存報告だけでもお願いいたします。(XOP) ここで終わり?うわ〜生殺しだ〜〜(タマザン) 続きはまだか〜!(ロックオン) 久々に読み返しました。ご無事でしょうか…?生存報告だけでもいただけると嬉しいです。(肉@ぜの) まだ〜?(アロンアルファ) 続きを希望します!(アカツキ) 続きぷりーず!(huyou) 続き続き!!(mkm) 皆、帰りを待ってます。三周しました〜(レイン) 何のことが分からず、ニコニコと笑っていた。→何のこと『か』分からず(XOP) 続き〜続きをくれ〜m(__)m(rin) 何やら裏で蠢いていた事情が表に出てきたようですが、今後どうなっていくか楽しみです! 皆の行動もきましたが、七乃のテレがかなりきましたw(深緑) 2周目完了 あせらずでかまわないので続き期待しています!(ウィンド) 早く続きが読みたいです・・・。安西先生・・・。(Jeno) とっても楽しく読ませていただいています。続きを期待せずにはいられません。ぜひお願いします!(Glance) 祝・退院、俺が。しばらくぶりに読みに来たら進んでないん・・・先生、続きが読みたいです・・・orz(kau) これほどよく出来た新・恋姫の二次小説のアフターストリーは初めてだと思います。続きをなるべく早くみたいです! :)(novelfan) moki68k 様>まー、仕事中にヤっちゃうのは原作からしてそうなので、大目に見てやってくださいww(四方多撲) XOP 様>「舐めるように」としました/流布→公布/試験地域→試験地/蔡文姫:おかしい、設定には「正室」としてあるのに…その為に劉淵の実母設定にしたのに… という訳で、蔡文姫さんが正室になります/葉雄こと嶺さんは仲間入りであって、恋人関係にはまだなっておりません/以上本文を修正。ご指摘ありがとうございました!(四方多撲) 先日仲間入りした葉雄……嶺は、→これって『臣従』であって。『後宮入り』ではありませんよね?明確な描写がないけど(XOP) 遅くなりましたが七乃さん(&美羽??)おめ!この作品の一刀君、みんなのために精力的に働いてるのでモゲロ言いづらいのがアレだが仕事中にアレはさすがにモゲロw(誘われた方だけど(moki68k) 劉豹・蔡文姫の夫妻を子供諸共此方に→「劉豹一家を」(蔡文姫は側室とある。「劉豹・蔡文姫の夫妻を子供諸共」では劉豹と正室とは離されてしまうことになり、一刀の「夫婦を引き裂くのはちょっと」と矛盾。劉豹が正室を設けていないかもしれないが)(XOP) じぃっと舐めつけるように凝視した→「舐めるように」と「ねめつける」を混同している:実験結果を流布した上で、官主導で試験地域を作成。→「流布」は「広める」よりも「広まる」意味が強いので「広報」などのほうがいいと思う。また、「地域」は作るものではないから「設定」や「指定」がよいのでは?(XOP) XOP 様>Σ(゜д゜;)ナンダコリャ!? どういうタイプミスなのやら…修正しました。(四方多撲) わぁあっ、おめでどうございます!→おめで「と」うございます!(XOP) XOP 様>所感にズレがあるのは、王侯貴族の赤子の面倒は日常的には家族ではなく乳母やそれに類する使用人がみるのが当然、という私の先入観があり、かつそれを作中で描写していないせいだとようやく気付きました−−; その辺りを本文に追記してみました/現代の夢→例の夢としました。ご指摘およびご考察、ありがとうございます!(四方多撲) 恋が選ばれたのはたまたま手隙の武官がいなかったと考えるしかないか。でも紅昌は離乳し始めだろうから朱里らに同行してひと月近い出張は無理がある。『一緒に出かけた』のではなく『迎えに行った』ことにして往路の護衛は別の娘がやったことにすれば・・・無理がなくなる?(XOP) 「“現代の夢”を見るとき声が→“俺の世界の夢”を見るとき(彼女たちにとってはこの世界こそが“現代”ですから)(XOP) XOP 様>税金納付:文章が意味不明に…−−; ご指摘の通りに修正/次期単于:これまた全くその通りです。何故気付かない私…/要請:これは下位が上位に願うことにも使えるようです。少々根拠薄弱ですが、「陳情」とは「上位機関に善処を要請すること」とありました(四方多撲) 愛で〜:スルーでお願いしますw/華佗の同席:彼が一刀の仲間で妖術の知識を持つ数少ない人間の為、ということで/管輅は中立:取引があったと目されます。実は管輅にも狙いが…次回にて/恋:ぶっちゃけると恋に朱里・雛里へツッコミをして欲しかった為です^^;渋ったに違いありませんが、多少は協調性が出てきたということで…苦しいな〜(汗)(四方多撲) 愛紗・星・雪蓮は書類仕事、翠・凪は出産直後、産休と親衛メンバーは無理、袁家関係は主君のお守りで忙しいw 候補になるのは純粋に武官の子…鈴々・蒲公英・沙和・嶺(華雄)あたりでしょうか。蒲公英か沙和でも良かったかな…でも、帰参直後いそいそと我が子に逢いに行くシチュできないし。運命(筆者の都合)ということでどうかお目こぼし下さい−−;(四方多撲) その他、誤記を修正しております。毎度程度の低いミスが多くて申し訳ありません…ご指摘、誠にありがとうございました!(四方多撲) きのすけ 様>やはり奴等は期待値が高い……頑張って盛り上げたいと思います! あ、次々回登場予定ですのでw(四方多撲) nakatak 様>支援ありがとうございます! これからもよろしくお願い致します^^(四方多撲) 砂のお城 様>騒音に分類されるとはw このある種の人気・期待に応えられる描写を考えねば…!(四方多撲) 320i 様>お待たせ致しました! SSはビジュアルがないので、どこまであのキモさを再現できるのか。筆力が問われるなぁ^^;(四方多撲) jackry 様>そろそろですぞ〜w 派手に盛り上げたいシーンですねww(四方多撲) hokuhin 様>やっとこ新作投稿です−−; 「おじさん」と「おじさま」の間には越えられない壁があるのです!…と思うのは私がオッサンになったからかorz(四方多撲) よーぜふ 様>お待たせ致しました、本当に−−; 筆者も早く美羽に萌将のあの呼び方をさせたい…!ww(四方多撲) ZERO 様>美羽と七乃にはもうひと波乱、大変な目に遭ってもらいます。 奴等への恋姫たちの反応は、なるべく多くフォローしたいのですが。なにせ50人もいるので…どうしようかなぁ^^;(四方多撲) dagsj 様>どぅふふふふ…www(四方多撲) シグシグ 様>萌将のしおらしい七乃に、すっかりやられた感のある筆者です^^; 結婚まであと一押しですが…ふっふっふ。 これからもリビドーのままに書き続けます!ww(四方多撲) ryu 様>彼奴等の参入は、七夜様への返コメにありますとおり、次々回予定です。みなさまの期待を裏切らない活躍をさせねばと、少々プレッシャーが^^;(四方多撲) 悠なるかな 様>はてさてw ご期待のシーンは多少大げさに書きたいな、と考えている。とだけ申し上げておきますww(四方多撲) sion 様>その辺りはこの外史独自の設定になる予定です。お披露目が随分先になってしまいそうなのが困ったところで…執筆頑張れって話ですね、ハイ−−;(四方多撲) カズト 様>本当にお待たせしました^^; くーるー、きっと来る〜♪w(四方多撲) 七夜 様>彼(彼女?)らは次々回から本格参入との噂ですよ?ww(四方多撲) 紫炎 様>お褒め戴き大変恐縮です^^; 桂花はこっそり萌えポイント高いですよねぇww(四方多撲) 神龍白夜 様>知人はご指摘の通りでw 執筆頑張ります!(四方多撲) 和のメンツがアレに会った時の反応が楽しみだww(きの) 更新、乙カレー♪、支援しました(nakatak) おかえりなさい。七乃と美羽様もいよいよ輿入れか・・・一刀よ、袁燿に父様呼ばれならすごく良いのでは。華佗だとおじさんだぞwそして出て来るか漢女がw(hokuhin) 愛でお腹は膨れませんからー」→膨れるだろ?別のもので。というツッコミは却下?:なぜ正室でもない華佗が管輅の謁見に同席・・・って妊娠中の正室も居るからか:管輅は貂蝉派でも左慈派でもない中立のはず・・・貂蝉の銅鏡を届けたって事は貂蝉派に鞍替えした?:恋は護衛のために娘と離れ離れに・・・どうやって説き伏せた?(XOP) 徴税は基本的に税金納付→現金納付:次期単于の劉淵に→将来単于になる劉淵に(現時点で次期単于は劉豹):彼が嘘を付いているとは→吐いている:複数箇所・謁見要請→謁見願い(皇帝に「要請」できるのか?) (XOP) おまちしておりました。 ・・・ついにぶるあぁぁあ襲来、ですか。 美羽さんと七乃さんの結婚式が楽しみでスw (よーぜふ) あれ?七乃とは結婚まで行かないんですか? とうとうあいつが出るのかその時の反応が楽しみdすね。(ZERO&ファルサ) 生物的には・・・・だと・・・・。や、やつらしかいない(dagsj) とうとう七乃も一刀の虜ですか。美羽と七乃の結婚シーンが待ち遠しいです。次回も楽しみにしてます。頑張って下さい。(シグシグ) 更新乙です。次回漢女の登場か?(ryu) 新作待っていました!遂に漢女の影が・・・会ったときに何人が正気でいられるでしょうね?(悠なるかな) 丙はこんな大人になるでないぞ→柄は:朱里と雛里って郷がの違うのに→郷が違うのに:(〜水〜に続く)→(〜金〜に続く)(XOP) 更新オツカレでした〜!一刀が微妙にこの世界の理に触れた感がありますがどうなんでしょうね。次回更新を楽しみに待つとします。(Sirius) 更新再開待ってました!・・・漢女でてきちゃうのかw(スーシャン) やべぇ・・・・あの化け物がでてくるのかぁ・・・・><(七夜) 待っていました更新再開!!やっぱり上手だ四方様……。桂花、やっぱり可愛い……。素直になれなくて一人にやにやしてる……。これを可愛いといわずして何という!!(紫炎) とうとう七乃にまでフラグをたてたか!!今後の展開が楽しみですねw管路が言っている知人って言うのはもちろんあの人達かなww次回が待ち遠しいです!!(リンドウ) |
||
タグ | ||
恋姫 恋姫†無双 真・恋姫†無双 三国統一 ハーレム 美羽 七乃 朱里 雛里 冥琳 | ||
四方多撲さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |