真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第五十二話 |
「分かっていたとはいえ、やっぱり手ごわいわね」
「そうじゃな」
徐州・下?城の近郊。
『孫』の旗を掲げた軍勢、約十万が、鶴翼陣を展開して『晋』の軍勢五万と対峙していた。
過日、襄陽にて話し合いをしてからすでに半月。
揚州に戻った孫堅たちは、すぐさま州内のほとんどの戦力を終結させ、徐州へと軍を進めた。
まず呉軍がぶつかったのは、徐州に駐屯していた晋の正規兵だった。
徐州に入ればすぐに、虎豹騎との戦いになると思っていた孫堅たちは、正直拍子抜けした。
そして、正規軍の兵たちは、あくまで”普通の”人間であった。
しかも、その戦意が相当に低いことは、火を見るより明らかだった。
わずか半刻で、徐州正規軍は撤退を始めた。それも仕方のないことだった。もともと、正規軍の兵のほとんどは、前徐州の牧である一刀に心酔していた。だが、陳登・陳珪の親子の反乱で一刀は徐州を追われ、正規軍の兵たちは否応なく、陳親子に従わざるを得なかったのである。
その陳親子が、呉軍の甘寧と凌統の二人によって討たれると、兵士たちは一目散に逃げだすか、呉軍に降伏をした。
正規軍をあっさりと降した呉軍だったが、孫堅は気を緩めることなく、
「次は確実に虎豹騎が出てくる。兵たちには、とにかく二人、もしくは三人以上で相手をするよう、徹底させておいて」
そう、部下たちに指示を出した。
少々のことでは倒すことの出来ない虎豹騎の兵たちと、まともに戦うためには、二人以上の複数で、敵兵一人に当たるしかない。たとえ、卑怯といわれようとも。
それが、孫堅たちの対・虎豹騎対策だった。
だがそれは、数の優位という、戦術上の有利を、差し引き零にすることにもなった。
戦いは、こう着状態に陥った。
「……このままじゃ、埒が明かないわね」
「じゃが、打てる手などあるのか?堅どの」
いらつきながら敵陣を見つめる孫堅に、黄蓋がその隣に並んで問いかける。
「……無い訳じゃないけど。……どうやら、あちらさんも同じ結論に至ったみたいね」
「何?」
孫堅の言葉に、黄蓋がその視線を前方へと転じる。そこには、陣からたった一人で歩み出てくる、毛皮で出来たビキニを身につけた、一人の女の姿があった。
「……一騎打ちで相手を打ち負かして、敵の戦意を削ぐ。……結局、そこに辿り着くわけよ。武人の考えってのはね」
にやり、と。口の端を緩めて言いつつ、孫堅もまた歩み始める。
「堅どの!いくらなんでも無謀すぎるぞ!」
「悪いけど祭。もう何を言っても止まらないよ。……そう、この、血の滾りはね」
自身を制止しようとする黄蓋の台詞にそう返し、孫堅は振り向くことなく、さらに歩を進める。
「……まったく。明命!おるか!?」
「はっ!」
シュタ、と。
黄蓋の背後に、どこからともなく現れる周泰。
「策どのと権どの、それと公謹に急ぎ伝えよ!すぐにこちらへ合流するようにじゃ!」
「はい!」
シャッ!
現れたときのように、一瞬で姿を消す周泰。
「堅殿……負けるでないぞ」
孫堅の後姿を見送りつつ、黄蓋はそう祈るのであった。
「晋の五神将、第四の席。祝融だ」
「呉王、孫堅文台よ。……殺り合う前に、一つだけ聞く。……あんたにとって、仲達の存在とは?」
「全て」
孫堅の問いに、何の躊躇もなく即座に答える祝融。
「そ。なら、もう交わす言葉はない。江東の虎の牙、その身でとくと味わうといいわ」
「……参る」
ゴウッッッッ!!
二人を中心に、激しい気の本流が巻き起こる。
「あああああああっっっっ!!」
「……………ッッ!!」
雄たけびを上げる孫堅と、無言のままの祝融が、正面から相手に突進する。
ギャリィィィィィッッッ!!
孫堅の南海覇王と、祝融が両手に持つ短刀が、激しい火花と金属音を立てて、ぶつかり合う。
「るああっっ!!」
「……チッ!!」
十合、二十合と。すさまじい速さで、互いの武器を繰り出しては、相手の武器を受け止め、それを受け流し、また、相手に繰り出す。
互いに、相手の致命傷を狙える機を、伺いながら。
「アハハハハハハッッッ!!流石にやるじゃないか、アンタ!!あたしをこれだけ燃えさせるやつは、本当に久しぶりだよ!!」
戦鬼。
そんな表現の似合う、紅潮し、興奮した顔で、笑って言い放つ孫堅。
「……われら”特戦機”型と、まともに張り合えるやつがいるとはな。……ナチュラリアンも、なかなか面白い生き物だな」
「とくせんきがた、ね。……やっぱりアンタも、さいぼーぐとかいう奴なんだね」
「!!……どこでそれを」
「答える必要があるかい?ま、仲達の目的とやらを教えてくれるんなら、特別に教えてやってもいいけど?」
「……フン」
「そういうこった。……それじゃ、続き行くよ!!」
祝融に再び突進する孫堅。そして、再び激突する両者。
それを、後方から見守る孫策ら呉の面々。
「……やっぱり、母様は化け物だわ」
「……そんなことを言ったら、後で文台さまにどやされるぞ、雪蓮」
「聞こえてやしないわよ。……祭だってそう思うでしょ?」
「……否定はせんがの。じゃが、不安がないとは言わん」
そんな孫策の、母親を茶化す台詞に対し、黄蓋は眉をひそめてつぶやく。
「……不安って、何よ、祭」
「……」
「年だからとか?」
ジロ、と。孫策のその台詞に、きつい視線を送る黄蓋。
「……堅どのはの、病が治っておらんのじゃ」
『…………え?』
黄蓋のその台詞に、一瞬、思考の停止する一同。
「……祭。あなた、今、なんて」
「……本人は隠しおおせているつもりじゃろうが、わしの目はごまかせん。……いつぞやかの病、まだ完治しておらんはずじゃ」
「うそ……」
「とてもそうは、見えませんが」
孫堅の戦いぶりを見る限り、とても信じられないと、周瑜が疑念の顔を黄蓋に向ける。
「じゃから不安なのじゃ。……堅どの、はよう決めてしまえ。……頼む」
「そうじゃないでしょう、祭!それならすぐにでも、みなで加勢を……!!」
「駄目よ、蓮華」
「姉さま?!」
母に対して、すぐの加勢をと言う孫権を、孫策がその正面に立って制する。
「何でですか、姉さま!?本当に母様がご病気なら、このままでは!」
「……」
「ねえ、さま……?」
姉に対して、納得できずに食って掛かろうとした孫権。だが、その姉の瞳に、涙が浮かんでいることに、彼女は気がついた。
「……あたしだって、助けに入りたいわ。けどね、当の母様が、それを一番望んでいないわよ」
「そうじゃな。堅殿とて武人。しかも相手は、下手をすれば自分以上の実力者じゃ。……先ほど本人も言うておったわ。血の滾りは、もはや抑えられぬと」
「そんな……」
「だから蓮華。今は、母様を信じましょう。……江東の虎の、勝利を」
「……はい」
姉の真摯なその表情にうたれ、うなずく孫権。
そして、孫堅と祝融の戦いは、いよいよ佳境に入っていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
右手で南海覇王を携えつつも、もう片方の手で自身の心臓の場所を押さえて、孫堅は完全に、その呼吸を荒くしていた。
「……まさか、病気持ちだったとはな。それでここまでやれるのだから、さすがだとは言っておこう」
「……そいつは、どうも。けど、病人だからって、遠慮はいらないよ。さ、続きといこうか」
ハァ〜〜、と。
一度長く息を吐き、再び南海覇王を両手で構える孫堅。
(もう少し、後一撃分だけ、もっておくれよ。子供たちに、虎の魂を伝えるまでは、あたしはまだ、逝けないからね)
「……どうやら、次を最後にしたい様だ。ならば、私もそれに、全力で応えるとしよう」
両手に持つ短刀を、その柄の部分でさかさまにつなぎ合わせ、一振りの武器へとかえる祝融。
「これこそ我が剣の真の姿。名を、『ヴァジュラ・零式』。……虎の牙、今日この場にて、狩らせてもらう」
その剣―ヴァジュラ・零式を構え、体勢を低く取る祝融。
「狩れるものなら、ね。……はああああああ……!!」
「こおおおおお……!!」
気を高めていく両者。
そして、一瞬とも永劫とも思える、その間の後、
「グルアアアアアッッッッ!!」
「カアアアアアアッッッッ!!」
咆哮。
砂塵。
閃光。
爆発。
そして、大量に巻き上がる粉塵によって、あたりは完全に、視界が効かなくなる。
やがて、その舞い上がった砂煙が、徐々に晴れてくる。
そこには、
両の脚で、しっかりと大地に立つ祝融と、
地に膝を着き、片腕を失って、大量の血を流している、孫堅の姿が。
『母様!!』
「陽蓮!!」
「文台さま!!」
その孫堅の姿を見て、悲痛な叫びを上げる呉の面々。
「…………さすが、江東の、虎。その牙、病に負けず、か」
祝融がそうつぶやいた瞬間。
ドシュウッッ!!
その体の中央から、大量の血を噴出して、真っ二つになり、祝融は倒れた。
「……母様が、勝った、の?」
「母様!!」
母親の元へと、慌てて駆け寄る孫策。
「医療兵!すぐに文台様を!!」
それに続き、治療専門の兵たちが、周瑜の指示を受けて大急ぎで孫堅の下へ駆け出す。
「陽蓮!しっかりせい!」
「……祭、か。……腕一本、犠牲にしちゃった」
「……ああ」
「……はあ。久々に激しく燃えたわぁ。あたし、思わずイッちゃった」
「……ばかたれ」
医療兵の応急処置を受けながら、いち早く隣に駆け寄ってきていた黄蓋に、その満足そうな笑顔を向ける孫堅。
「……母様」
「雪蓮か。……祭、南海覇王は?」
「ここにある」
孫堅の、その残された左手に、南海覇王を握らせる黄蓋。
「ありがと、祭。……雪蓮、受け取りな」
「え?」
「予定よりちょっと早いけど、今日からお前が、孫家の家長だ。呉の民を、これからはお前が背負っていくんだ。良いね、孫伯符」
南海覇王を孫策に差し出し、孫堅は、その真剣な眼差しを向ける。
「……分かったわ。後はゆっくり、休んでてください。……病もちゃんと、治して、ね?」
「分かってるよ。あたしはそう簡単にくたばりゃしないさ。……一刀に、”四人目”を授けてもらうまではね」
「……あのね」
「はっはっはっは!」
失った右腕の痛々しさを忘れさせるかのように、大声で孫堅は笑った。
その後、母の跡を継いだ孫策の指揮の下、指揮官を失って、完全に”人形”の様になってしまった虎豹騎を、徐州、および青州から駆逐することに成功した呉軍。
孫堅は、腕と病の治療に専念するため、抹陵へと帰還することとなった。
まずは、一角。
晋の牙城が崩れた、その日であった。
説明 | ||
第五十二話。 ついに晋への北伐を開始した一刀たち。 まずは呉軍。 激突する孫堅と祝融。 その結末は? では、どうぞ。 |
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コメント | ||
孫堅さんまがりなりにも神の名を持った祝融に勝ってるとかぱないっす(はこざき(仮)) 堅殿すげぇぇ(qisheng) うーむ、流石江東の虎・・・あらゆる意味で強い。(深緑) 2回目すいません。 はい、無傷という意味です。わかりにくくて、すいませんでした。(ZERO&ファルサ) ちくわの神さま、規格外中の規格外。呂布&孫堅、さらに一刀。・・・怖い怖いww(狭乃 狼) このトラ生身でサイボーグに勝つとか…流石だwww(ちくわの神) ZEROさま、・・・えっと、一応堅殿が勝ちました・・・よ?病気じゃなかったら無傷で、って意味でしょうか?(狭乃 狼) よーぜふさま、さあ、最後のせりふは実現するのか?!(狭乃 狼) hokuhinさま、ほんとに流石ですねww恋姫最強はやっぱり堅どのですな。(狭乃 狼) ヒトヤ犬か(ニヤリ)。・・・言われて気づく私がいたりするわけで^^。(狭乃 狼) 村主さま、やっぱりどっかで似ちゃうんですよねー。いろいろな話に。ほとんど後の祭りですがww(狭乃 狼) 東方武神さま、そうですね。真桜がいるんですものね。腕の一本や二本ぐらい(え? (狭乃 狼) 腕一本でとはすごいですよ。病気がなければ勝ってたんでしょうね。 一刀がまた大変なことになりそうですね。(ZERO&ファルサ) 堅殿・・・さすが堅殿、最後のセリフも込みでさすがすぎる(よーぜふ) 腕一本の犠牲でサイボーグに勝つとは・・・・流石は孫堅だわ。(hokuhin) 病が治ってなく心臓押さえながら戦う、しかも相手はサイボーグ・・・これだけ共通点があると人造人間19号VS悟空そのものだ(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) 片腕1本と引き換えの勝利・・・男塾が脳裏をw しかし堅さんの「4人目」発言はw 桃香と愛紗がマッシュアップを開始しそうなwww(村主7) 右腕一本を無くしたとはいえ、真桜が義手やら何やら作ってくれると思うので心配はあまりありませんが、問題は『四人目』を作る際に一刀が腎虚にならなきゃいいんですがね・・・(東方武神) 砂のお城さま、一刀の戦後の”仕事”はどれくらいに増えるでしょうねww・・・ホントニモゲチマエバイイノニ。(狭乃 狼) 紫電さま、本当なら、戦後の”あっち”の燃え方も、雪蓮の数倍は凄いんですがねww血がたくさん抜けて、そうはなりませんでした^^。さて、次回は漢中(予定)ですよー。お楽しみにww(狭乃 狼) poyyさま、多分文台お母さんぐらいでしょうね。一刀と恋以外で、連中とまともに張り合えるのは。(狭乃 狼) 孫堅病持ちでよく勝てたなぁ。確かに化け物だわ。(poyy) |
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