PSU-L・O・V・E 【L・O・V・E -Panther-】 |
ヘイゼルのジートシーンとヴィエラのクレアセイバー。得物は共に片手剣同士の死闘(モータル・コンバット)。
斬りかかるヘイゼルの剣をヴィエラは苦も無く往なし、弾き返す。剣を合わせる毎にヘイゼルはジリジリと後退させられていた。
(クソッ、攻めているのは俺の方なのに……ならば!)
ヘイゼルは剣の柄を両手で握ると、裂帛の気合を上げ踏み込み、古流剣術よろしく袈裟切りに斬り付ける。
片手で力負けするのなら、両手持ちにすれば―――!
「フッ!」
ヴィエラはならばとばかりに逆袈裟で迎え撃つ。激しくフォトンの粒子を迸らせた双方の剣は、鍔迫り合いの力比べとなった。
(なっ! それでも押し返されるだと!?)
ゆっくりと、だが確実にヘイゼルの剣は押し戻されている。
ユエルと同様に彼女の身体能力もまたカスタマイズされているのだろう。力比べではヴィエラに圧倒的な軍配が上がっている。
口元に余裕の笑みを浮かべたヴィエラの表情が強張った。
脳裏に走った危険を知らせるアラートにヴィエラは剣を引き後退した。と、同時に今までヴィエラの上体があった位置をフォトンの光弾が走る。ビリーの仕業だ。
「おいおい、押されてるぜ? しっかりしてくれよ」
「クッ! ビリー、フォローが遅いぞ!」
「何て言い草なんだぜ!」
等と軽口を叩き合う二人をヴィエラは忌まわしそうに見詰めていた。
ヘイゼルとビリー、個々の戦闘力を比べれば、圧倒的にヴィエラの方が上回っているのは確かである。
だが、この二人がコンビネーションを取った時は厄介だ。
現にヴィエラは責め切れずにいる状態だ。
甘く見ていたか……ヴィエラは自分の分析の甘さに内心舌打ちしていた。
だが、それは覆せない過ちではない。
「ヒューマン風情が、やるわね……正直見くびっていたわ……」
分が悪い状況にも関わらず、ヴィエラ不敵な笑みを浮かべる。
「悪かったわ……だからお詫びに見せてあげる……私の最大出力(本気)をね―――!」
減らず口を……ヘイゼルがそう思った瞬間、ヴィエラは肩に羽織っていた緋色のケープを掴むと脱ぎ捨てた。
放り投げられ宙を舞う緋色のケープにヘイゼルが一瞬気を取られていると……。
「ヘイゼル!?」
緊張したビリーの声がヘイゼルを我に返した。
気が付くとヴィエラの姿が二人の目の前から掻き消えている。
「なッ、消え―――!?」
「ヘイゼル、危ねぇッ!」
ヴィエラを見失い驚いているヘイゼルをビリーがいきなり蹴り飛ばす。
「うおッ!?」
転びかけ、慌てて踏みとどまったヘイゼルの直ぐ脇を緋色の陰が高速で通り過ぎた。
衝撃で巻き起こった風圧がヘイゼルの顔を叩きつける。
「な、何だ!?」
「ヘイゼル、あっちだぜ!」
ビリーが叫び指差す方向に目を向けると、地上すれすれをフォトン粒子の尾を引きながら緋色の人影が滑空していた。
ヴィエラの腕部パーツ、ジェンケル・アームの肩部は取っ手の付いた籠状の形をしているが、その肩部に見慣れない球状の装置が有り、そこからフォトン粒子を噴出し滑空している。
「あれは……フォトン粒子を利用したスラスターなんだぜ!?」
ビリーが分析した通り、ヴィエラの腕部パーツの肩部には圧縮したA・フォトン粒子を推進力にするスラスターが取り付けられているようだ。
差し詰め、"フォトン・ブースター"と言った所だろうか?
キャストで有りながら上半身を覆うケープを纏っていたのは、それを悟られないようにする為だったのか!
挿入曲 『Armored Core 4 Original Soundtrack より』
―Panther―
「高速戦闘特化型……これが私に与えられた能力(ちから)!」
ヴィエラが高らかに告げる。
ユエルは法撃特化型として、腕部にテクニック発動体を内臓していた。
通常のキャスト体と違い、彼女達は能力に特化した機能を付加されているのだろう。
ヴィエラはスラスターの噴出孔を可動させ、左右への軸移動、急加速と急減速を繰り返し巧妙なフェイントを仕掛ける。
二人を中心に旋回するヴィエラに対し、ヘイゼルは片手剣を両手で構え身構えるが、相手との距離が有りすぎる事に加え、速度が速すぎるせいでこちらからは手が出せない。
(右か……左か……? クソッ、どこから来る!?)
ヴィエラはスラスターを下方に向け空中に飛び上がった。3m程空中へ舞い上がると身体を回転させ再び急加速し肉薄する。
(正面ッ! だが速過ぎるだろ、これは!?)
迎撃が間に合わない!
ヘイゼルは剣を正眼に構えて身を護るのがやっとの状態だ。
「遅いのよ、貴方達は!」
十字に打ち重なる二人の剣。
だが、ヘイゼルの身体は加速度が加わった一撃の力に抗いきれず、容易く弾き飛ばされる。
「がっ! かはッ!」
背中を地面に打ち付けた衝撃にヘイゼルは息を詰まらせた。
「俺に任せるんだぜ!」
ヘイゼルを薙ぎ倒し、高速で離脱するヴィエラの後ろ姿を追ってビリーが割り込む。
構えるのは彼が最も得意とする得物、フォトン・ライフル。
再び旋回軌道に戻ったヴィエラの姿を捉え、狩人(ハンター)の鋭い眼差しが彼女の影を追う。
訓練校時代、ビリーはキャスト以上と称された狙撃力の持ち主だ。
「捉えたぜぇッ!」
無意識に舌なめずりし、スコープ部分を改造して取り付けた照星と照門に捉えたヴィエラを狙い、引き金を立て続けに三度引く。
ヴィエラを狙って発射された三発の光弾は、全て彼女を掠める事無く通り過ぎた。
「は……外したぁ!? 駄目だ、速過ぎる。この俺が当てられないんだぜ!」
ビリーが素っ頓狂な声を上げる。彼が見せた表情からは、いつもの余裕が窺えない。
ビリーは自分の射撃力に絶対の自信を持っていた。その男がいともあっさり降参するとは……。
ヘイゼルの背中に冷たい悪寒が走る。
打つ手無し、状況は想像以上に深刻だ!
「悪いけど時間がないの……そろそろ終わりにさせてもらうわよ!」
終劇(フィナーレ)の予告を告げると、ヴィエラはもう一振りのクレアセイバーをナノトランサーから取り出した。双剣を携えたヴィエラが戦場を駆る戦乙女の如く飛翔する。
「お前の勝手を―――ッ!」
「ヘイゼル、危ねえんだぜ!」
告死の天使に抗おうとするヘイゼルをビリーが止める。
彼の判断力は正確だ。その力が言っている。ヴィエラのあの速度は常人がどうこう出来る物ではないと!
揉め合う二人にヴィエラが突進し斬り掛かる。
「うおッ!?」
堪らず二人は身を退くと、追撃を恐れ近場に積まれていた擁壁用CB(コンクリートブロック)の山に身を隠す。
CBに背を預け、苛立ったヘイゼルが声を荒げた。
「だがどうする! このままじゃ打つ手がねえぞ!」
ヘイゼルの焦りも尤もだ。ヴィエラとの戦闘が長引くほど、ユエルの置かれた状況は悪くなる。
時間が無いのは彼等も同様なのだ。
(止むを得ないんだぜ……)
暫し黙考し、ビリーがポツリと言い放つ。
「ヘイゼル……すまないが、ユエルちゃんの事……頼むんだぜ」
妙に真剣なビリーの口調にハッとし、ヘイゼルは彼の顔に目を向けた。
「ビリー? おい待て、何をする気だ!?」
ヘイゼルの言葉に答えずに、ビリーは遮蔽物の陰から飛び出していた。
「ビリー!」
「ヘイゼル! お前は来るんじゃない!」
ビリーはライフルを構え、無防備なその身をヴィエラに晒した。
(何をしている!? それじゃあ狙ってくれと言っているような物だぞ!)
援護しなくては! ヘイゼルがナノトランサーからハンドガンを取り出そうとするのを察し、ビリーが叫んだ。
「狙いが逸れる、余計な事はするんじゃねえぜッ!」
「しかし!」
「黙って見てろ! 活路は……俺が開いてやるんだぜ!」
ライフルで狙いを定めるビリーに対し、フェイントを駆使して攪乱を図るヴィエラだったが、彼が誘いに乗ってこない事を察した。
(誘いに乗って来ない……まさか……?)
高速戦闘時のヴィエラの攻撃方法は急接近しての一撃離脱である。極端な事を言えば、近付かなければ相手を攻撃できない。
そして攻撃する瞬間はフェイントも取れない無防備な状態なのだ。
ビリーが狙っているのは、その一瞬の隙を狙ってのカウンター攻撃なのだろう。
ようは、ヴィエラの速さと、ビリーの精密さとの勝負だ。
(チキンレースと言う訳ね……良いわ、その誘い乗ってあげる。どのみち私も勝負を長引かせるつもりは無いのよ!)
ヴィエラも意を決し、ビリーの誘いに乗る事に決めた。
一方、ヘイゼルは迷っていた。
このまま自分はビリー一人を放って置いて良いのか……だが二人の勝負に水を差せば、ビリーの折角の機会を奪う事になるのも理解している。
(クソッ、俺は……どうすれば……!?)
ヘイゼルが迷っている間にも状況は進んでいく。ヴィエラは小細工のフェイントを止め、真っ直ぐにビリーに向かって飛翔する。対するビリーは、その場を移動せずに絶えずヴィエラを正面に捉え、真っ向勝負でヴィエラを迎え撃つ気だ。
(避けていては、彼女に一発食らわす事は出来ないぜ……!)
ヴィエラが攻撃に移る瞬間は、その軌道を変更出来ない筈! チャンスは一度きり、肉を斬らせて骨を断つ!
それがビリーの狙いだった。
「今の俺、最高にロックだろ?」
口元にニヤリと笑みを浮かべ、ビリーが引き金を引く。
ヴィエラが剣を振り下ろそうとする瞬間、ビリーのライフルから発射された光弾がヴィエラの左肩のスラスターに命中した。
フォトン光弾の直撃を受け、片側のスラスターを破壊されたヴィエラは、コントロールを失い軌道を保てない。
「なッ!?」
振り下ろしたヴィエラの剣は狙いを反れたが、ビリーの身体を浅く薙いでいた。
推進力のバランスを失い、自身のコントロールを保てなくなったヴィエラは大きく弧を描いてビリーから離れて行く。
途中、ヴィエラの身体は地面に叩きつけらながら、砂煙と火花を上げて地面を引き摺り、転落防止用のフェンスを薙ぎ倒して下の階層に落ちていった。
直撃とまでは言わないが、ヴィエラの斬撃を受けたビリーはもんどり打ってうつ伏せに倒されている。地面には彼の身体から流れる血が広がり始めていた。ビリーのシールドラインはヴィエラの攻撃を相殺しきれなかったらしい。
(何て事だ……!)
ヘイゼルはヴィエラの姿を見送り、躊躇しながらもビリーの元へ駆け寄ろうとした。
「おい! ビリー、大丈夫か!?」
「来る……な! ヘイゼル、お前は……ヴィエラを追うんだ……ぜ!」
ビリーは僅かに顔を上げると、駆け寄ってくるヘイゼルを力を振り絞って制する。
「し、しかし!」
ビリーの必死の形相に気圧され、ヘイゼルは脚を止めていた。
「あれ位で終わるようなら……苦労は無いんだぜ……」
ビリーの言う通り、彼が破壊したのはヴィエラのスラスター、それも片側だけなのだ。
「お前は彼女を追え……! 活路は開いた……後はお前が……決着を付けるんだ……ぜ」
ビリーは言いながら痛みに喘いでいる。
「だがッ!」
「お前が行かなきゃ、誰がユエルちゃんを救えるんだぜ!」
渋るヘイゼルに苛立ち、ビリーが力の限り叫ぶ。その迫力にヘイゼルは二の句を告げられなかった。
「俺の事なら……気にする事ないんだぜ……」
ビリーはナノトランサーから右手に何かを取り出した。遠目な上に指の間に隠れ、よく窺えなかったがそれはメイト系の回復薬のようだ。
「身体が回復したら俺も後を追う……だからお前は……先に行くんだぜ……彼女が回復する前に! 俺がこんな怪我までして作った機会……不意にしたら承知しねえんだぜ!」
ビリーの言葉を受け、一瞬瞳を閉じたヘイゼルは大きく息を吸い込むと覚悟を決めた。
「解った……お前が作ったこの機会、無駄にはしない!」
「ああ、頼んだぜ……だが、俺の出番も残しておいてくれよ……」
「出番が欲しかったら、早く俺を追って来るんだな」
ヘイゼルとビリーは互いの顔を見詰め、不敵に笑い合う。ヘイゼルはビリーに背を向けると、ヴィエラが落ちた下の階層へ向かう階段へ向かって走り出した。その背中を見送ると、ビリーは苦痛に顔を歪めながら身体を仰向けに回転させた。
「イテェ……んだぜ……」
胸から腹部へ走る服の裂け目には夥しい血が広がっている。
ビリーは右手を顔の位置まで持ち上げるとゆっくりと広げた。右手に収まっていたのは彼がナノトランサーから取り出した、"アンチメイト"が握られている。
アンチメイトはメイト系の回復用医療キットの中でも、毒や感染症といった身体の状態異常を正常に治す為のアイテムだ。だがそれには負傷して負った傷を治療する効果は無い。
「……非番の時とはいえ、備えはしておくんだったぜ……お前は大丈夫か? ……ヘイゼル……」
ビリーは苦笑を浮かべながら独り言のように呟いていた。
説明 | ||
EP12【L・O・V・E -Panther-】 SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚) 【前回の粗筋】 ヘイゼルに突き付けられたビリーの銃口 ビリーの裏切りで絶対優位に立ち、つい口の軽くなったヴィエラは 残されていた最後の疑問を語り始める 平穏な日常の破壊が個人的な八つ当たりと知ったヘイゼルは苦笑し、ビリーと軽口を叩き合う その気軽さを訝しむヴィエラを襲う逆転劇 裏切られたのはヘイゼルではない 彼女の方だ―――! Phantasy Star Universe-L・O・V・E それは戦火に彩られた“L・O・V・E”の物語…… 読んで頂ければ幸いです。 登場人物紹介を作りました! でも此処ではSS(スクリーンショット)の使用はご法度なので、興味がある方は此方をどうぞ! ↓ http://moegami.moe-nifty.com/blog/2010/09/psu-love-4903.html |
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