R.I.P.-3 |
「突然だが、お別れの時が来たようだ」
何か柔らかいものの上で目を覚ました僕に、突然、ユミールの声が響いてきた。
ああ、いつもの通り、僕は自分の部屋のベッドの上で眠りに付き、夢にぽっかりと開いた別の世
界への入り口を通り、ユミールの世界へと迷い込んでしまったのだな。
そう思った僕は、再びどことも知れない洋館の中の、ソファーの上で横になっていた。
僕は横になった姿勢から、素早く座る姿勢へと体を動かす。
ユミールの世界は、僕自身の迷いと、そこから救ってくれる人とで出来上がっているという。僕
自身の迷いとは、無限に続いている洋館の廊下と部屋。そして救ってくれる人とは、ユミールの
事なのだろう。
実際、彼女は僕からしても頼りがいのありそうな女性に見える。銀髪で、黒いドレスを着た姿
は、どことなく僕にとって近寄りがたい存在ではあったが、頼りにはなった。何度もあの黒い煙の
姿をした怪物から僕を守ってくれている。
そんな彼女が僕に対して言って来た、お別れの時とはどういう意味だろう。
「お別れ…?」
僕は彼女の言って来た言葉を繰り返して言った。
「そう。言葉の通りだ。お前と私達は、別れなくてはならなくなった」
何とも唐突な言葉だろう。僕は戸惑った。彼女に対して言い返す言葉が思い浮かばない。
だが、いつまでも彼女達のような存在と一緒にいられると考えていた僕の方が、考えが甘かっ
たのかもしれない。
「そんな…。だって、僕。あなた達と友達でいたい。これからも、ずっと」
僕はそう答えたが、ユミールは威圧感のある目で僕を見下ろしてきた。彼女は僕の目から見る
とかなり迫力があり、その目で見られただけでも心臓がどきりとするほどだ。
「友達?お前は何か誤解をしているんじゃあないのか?お前は、ただの迷い人でしかなく、わたし
達の世界に偶然迷い込んできただけだ」
ユミールは、まるで感情が篭っていないような声で僕に言って来た。彼女はいつもそのような喋
り方をする。
「それでも、友達になったっていいじゃあない」
そのように答えた僕を、ユミールは再びその鋭い目つきで見てくる。まるで、僕の心の中を覗き
込んでいるかのようだ。はっきりとそれを感じる。僕の体が精神だけになっていると彼女達は言う
から、心の中も無防備になってしまっているのかもしれない。
しばらく僕を見つめた後、ユミールは答えた。
「パレネだな?あの娘にそう言われたんだろう?彼女は、彼女自身がそのような性格の世界であ
る以上は仕方がないが、優しすぎる。いつも、迷い人を縛りつけてしまうな…」
彼女は、自分の妹だという存在を思い返すかのようにそう呟いた。優しすぎる。確かにパレネ
は、突っ張った性格のフェンリルや、冷静な性格のユミールに比べて優しい所があった。友達とし
ていたいと思える何よりもの相手。そう思える。
だが、だからこそ良いんじゃあないか。僕は、ユミールに向かって、反発しようと思ったが、それ
よりも前に彼女が言葉を発した。
「しかし、だからこそ、けじめはきちんと付けないとな。お前は本来、ここに来てしまってはいけな
い存在なのだ。お前がわたし達の世界に来続ける事によって、世界のバランスは崩れ、お前自
身にも悪影響が出ている」
ユミールはきっぱりと僕を指差してそのように言ってくる。はっきりとした口調、そして堂々とした
口調。もはや、何事もその言葉の前では無駄であるかのようなはっきりとした口調だ。
「僕は…、あなた達と一緒にいたい。悪影響が出るって、それって歩けなくなるよりも悪い事な
の?そうじゃあなかったら、むしろこっちの世界にいた方がいい。元の世界に戻れなくなってしま
ったって構わない」
と、僕は言うが、ユミールは、僕のそんな欲求には何も答えなかった。代わりに別の言葉で僕に
返してくる。
「あの黒い煙の正体が分かった。あれは、歪みだ。それも、お前自身の歪みだ。そして、あの煙
こそ、お前がこちらの世界に入ってくるゲートでもある」
再び唐突に僕に対してユミールは言って来た。ユミールは僕を指差し、僕自身ではなく、僕の中
にある何かを示したいようだ。
「僕自身の…、歪みって…?」
「簡単に言えばな…。お前が悩んだり、傷ついた事によって生まれた負の精神が、お前の最も弱
い部分、脆い部分に歪みを作った。それがお前の最も精神が無防備になる時、夢の世界で、ゲ
ートを作ってしまったというわけだ」
僕はユミールの言って来た言葉を頭の中で想像してみようとした。だが、上手くいかない。心の
弱い部分の歪みとはどういう事だろう?
僕が完全に理解するよりも前に、ユミールは言葉を続けてきた。
「そう珍しい事じゃあない。誰しも心には弱い部分があるものだ。お前はその部分が人一倍、侵
食されてしまったというわけだ。
そうなってしまった時の対処法は一つ。お前を元の世界に送り返し、開いてしまったゲートを閉
じる。それだけだ。そうすれば、お前の前にはもうあの黒い煙は現れないだろうし、お前が迷い人
となるような事も無いというわけだ」
ユミールは僕に言うなり、再び口を閉ざし、じっと僕を見つめ出した。彼女は僕の何を知ってい
ると言うのだろう。まるで僕の事を頭の上から脚の下、そして心の中まで全て知っているかのよう
な言い方だ。
僕の中に、ふつふつと、彼女に対しての反発心が生まれてきそうだった。
「じゃあ、別に良いじゃあないですか。あの黒い煙が僕自身だと言うのならば、僕がここにいても、
何も問題はないでしょう?」
ユミールに向かって反発するような口調で僕は答えた。もちろん、その中に僕のわがままがあ
った事は否めない。
だが、ユミールはそんな僕のわがままを認めるかのような目をして言って来た。まるで、今まで
僕のように言って来た人を、何人も相手をしてきたかのような目だ。彼女の眼は怒りに震える事
も、落胆するような事も無い。
「問題だらけ、なんだよ。黒い煙は歪みだ。それはどんどん広がり続けている。お前にも分からな
いか?前よりもあの黒い煙の存在が大きくなってきている事を。あれは、お前自身の負の精神。
放っておけば、その負の精神は、さらに広がり続け、お前はあの黒い煙だけの精神を持つ事に
なる。
そうなってしまった者の姿を、私は何人か知っているが、私達だったら、そうなる前にお前を救う
事ができる…」
黒い煙だけの精神を持つようになった存在とは、果たしてどのようなものか、僕には分からない
が、良い印象は受けなかった。あの黒い煙は僕自身も恐ろしい。もしあの煙に呑み込まれたらど
うなってしまうのか、僕にも分からない。
だが、僕の黒い煙はいつも僕の精神の中にあり、この世界へとやってくるきっかけともなったも
のだという。
どうしたら良いのか。僕は自分がどうこうと考えるよりも前に、まず、せっかくできた友達達を失
いたくは無かった。
「今は、何も考える事はできないよ…。もう少し、時間をくれないかな…。そうすれば、僕も決断す
ることができる」
それが僕の出した答えだった。これ以上、この人達と一緒にいる事は出来ないと分かっても、
すぐに決断などできない。
僕がそう答えた時だった。
「おい。後ろにいるぞ!」
突然、ユミールが大声を上げて、僕に注意を促した。何かと僕はさっと背後を振り向いたが、そ
こには、黒い煙が立ち込めていた。
馬鹿な。今まではこの黒い煙が現れるときは、必ず、金属同士をこすり合わせるような、不快な
音が聞こえていたと言うのに。
今は、何の音もたてず、そこに立ちこめていたのだ。
ユミールは僕が反応するよりも早く、僕の体を抱えると、黒い煙から僕の体を引き剥がした。そ
して、僕の手を引っ張り、よそ見もせずに部屋から飛び出した。
僕達は、廊下へと飛び出した。
「どうして、どうして、何も音がしなかったの…。いるなんて気が付かなかった…」
と僕は絞り出すような声で言った。
「あの存在は、お前の負の心そのものだ。お前の負の心がもっと強まれば、どんどん厄介な存在
になるさ…。この廊下のようにな…」
ユミールが飛び出してきた廊下を指差して言った。
僕が初め、ユミールの世界に脚を踏み入れた時、そこに広がっていた世界は、一本道の洋館
の廊下でしかなかった。
だが、今、僕が見ている世界は違う。左右に広がり、さらに、上下にも廊下が連なっている。横
道もあるようだったし、扉も沢山そこにはあった。
同じ洋館の内装とはなっていたけれども、巨大な迷路のようになっていたのだ。
もし、この中に迷い込んでしまったら、元の場所には二度と戻ってくる事は出来ないだろう。
「これは、僕の心の迷いだって言うの…?」
「迷いが、実際に目で見える形になって、分かりやすくて助かるか?」
珍しく、ユミールが僕を皮肉るかのように言って来た。
「全然良くないよ。でも、あなたは言った。あの黒い煙が、僕の負の心を表しているんだって」
「ああ、そうだ」
ユミールが頷き、僕は飛び出してきた部屋の扉を見つめた。この扉の向こう側には、あの黒い
煙が立ち込めているはずだ。
「僕は、負の心を知りたい。そうする事によって、僕はあなた達と別れたくないという迷いを消し去
る事ができるかもしれない。何故、僕が、あなた達と出会ったのか。その理由も分かるかもしれな
い」
僕はそのように言うと、今、ユミールと共に飛び出してきた扉の前に立った。それが何を意味し
ているのか、ユミールは分かったようだ。
「自分の、恐怖と対面する事になるぞ。それは、日常、お前が体験しているのよりももっと深くお
前の精神に入り込んでくる。耐えがたいものになるかもしれない。
そして、黒い煙は、お前を元の世界へと返そうとはしないだろう。お前が思っている事とは正反
対の方向へとお前を動かす」
「それでも、知りたいんだ。僕の負の心とは、何なのかって」
僕はドアノブに手をかけた。
「黒い煙は、わたしにとっては、ただの黒い煙でしかない。何も感じられないし、何も手助けする事
は出来ない。分かっているな?」
「分かっている」
そう言って、僕は扉を開いた。
瞬間。巨大な黒い煙が僕の精神に覆いかぶさって来た。それはまるで津波のように襲いかか
り、まるでタールのような粘性に包み込まれていくのを僕は感じた。
僕の体を包み込んできた黒い煙は、そのまま僕の精神をも包み込んでくる。
扉を開き、黒い煙に襲われ、そして次の瞬間に僕が目を開いた時、僕の前に広がっていたの
は、巨大な黒い空間だった。
黒い空間は、上にも下にも、タールを塗りつけたくらいに黒い。それしか色が無かった。そんな
空間を僕は歩いて行く。距離感も何も全くない。
これが、僕の負の精神だと言うのか。こんなにまで真っ黒になるくらいに、僕の心は汚れてしま
っているのだろうか。
突然、そんな黒い空間を何かがよぎった。僕はとっさに背後を振り向くが、そこには何もいな
い。ただ黒いだけだ。
僕はしばらくその黒い空間を歩いていた。ここは、黒い煙の中で、僕自身の精神を包み込んで
いる負の姿。僕は自分自身の負の姿と向き合っている。
負とは何だろうか?僕の心の中にある邪悪な姿なのか、それとも、言葉通り、僕の精神にとっ
てマイナスである事なのだろうか。
負の精神と対面してみても、僕にはそれが分からなかった。
やがて、黒い空間のどこからか、音が聞こえてきた。
それは、どこからかやってくる、金属音にも似た、甲高い音だ。最初は耳の中に響き渡って来
る、少しキーンとした音程度に聞こえていたものだったが、だんだんとそれは大きな音となって僕
に襲いかかって来た。
まるで頭の中に染み込んでくるかのようなその音は、僕の耳を激しく刺激し、頭へと突きぬけて
くる。
何故、僕の負の精神にこんな音があるのか分からない。僕は、だんだんとその音に耐えられな
くなっていき、やがて膝をついた。
頭を抑え、音が収まるまで待とうとする。だが、一向に音は収まろうとしない。どんどんその音は
激しくなっていく。
よく聞けば、その音の向こう側には何かが聞こえて来ているような気がした。一体何の音なの
か、不明瞭なもので僕には分からなかった。
だが、幾つもの音が重なり合って、僕に向かって襲いかかって来ようとしている事だけは分かっ
た。その音が増幅し、耳鳴りにも似た金属音になっているのだ。
僕は動けばその音も消えてなくなるだろうと思い、体を動かそうとした。
だが、動こうとした時、僕は自分の頭上に迫る、非常に大きな気配に気が付いた。
巨大な、戦車のような何かが、僕の頭上に迫ってきていた。それは巨大な物体だ。黒い空間に
ただ浮かび上がっている黒い物体。
しかし、僕はそれを知っている。それはあまりに巨大で、スケールが変わってしまっているが、
形は自動車そのものだった。
ゴムのタイヤが激しく回転しながら、火花を飛ばしつつ、まるで巨大な機械のように僕の頭上に
迫ってきている。
それは、まるで僕を押し潰そうかとしているようだった。
巨大な、戦車のような何かが僕に覆いかぶさるかのような勢いで迫って来る。それは、車だ。僕
が良く知っている車。僕から脚の自由を奪ったものだ。これが、僕の恐怖の象徴なのだろうか。
僕は目をつぶった。こんなものが間近に迫ってきたら、どんな大人だって怖気づいてしまうだろ
う。
再び、僕はその車に押し潰されてしまう。そう思った。
しかし、突然、僕の周りを覆っていた黒い煙は晴れ上がっていった。巨大な戦車のような車の
姿も消え去ってしまった。
僕は、どこかの部屋へと放り出されていた。黒い煙は僕の目の前にそのままあったが、僕はど
うやら煙から外へと弾き出されてしまったらしく、どこかの床に座り込んでいた。
辺りを見回してみる。そこは、僕が良く知る、学校の教室だった。
だが生徒たちの机は無く、壁と黒板、床と天井だけがある。そこに漂う黒い煙と、その前に座り
込んでいる僕の姿。
異質な光景だった。
「こうじゃあない。こうじゃあないんだよ!」
僕は、思わず黒い煙に向かってそのように言い放っていた。黒い煙は僕の方をじっと見つめて
いるかのようだ。ただそこに漂っている。
何故僕が、こうじゃあない、などと口走ったのかは自分でも分からない。多分、その言葉には意
味は無い。ただ、そう発するのが、僕の今の気持ちそのものを表しているのだろう。
僕が黒い煙の中に入り込んでしたかった事は、こんな事じゃあない。
「何やってんだ?お前…」
と突然僕の背後から聞こえてくる声。振り向いてみればそこにはフェンリルがいた。彼は学校の
椅子に座り、机を前にしていた。
まるで授業を受ける生徒であるかのような姿をしているが、彼自身が真っ赤なローブ姿だった
ので、その光景はあまりに異質に見える。
そんな彼は、机の上にアルミ製のトレイ、器、皿、牛乳パックを並べており、皿の上に盛られた
給食を食べている最中のようだった。
小学生の給食の一シーンであるかのような彼の今の姿は、黒い煙の中に飛び込んで、自分の
負と対面してきた僕とは、あまりに対照的で呑気なものだった。
「ねえ。どうすればいい?」
僕は給食を食べているフェンリルの目の前まで行き、座っている彼を見下ろしてそのように言い
放った。
「はあ?何、言っているんだ?お前?」
フェンリルは給食を食べるのを止めないままそのように言って来た。フォークを握って、しきりに
食べ物を口へと送っている。
「ねえ!黒い煙を消す。つまり、僕の心からあの負の精神とか言うのを消す方法って知ってい
る?」
そんな彼とは裏腹に、僕は必死になってフェンリルへと詰め寄った。
彼は給食を食べつつ、僕に答えてくれる。
「何言ってんだ。お前。誰にだって負の心はあるんだ。それを消すなんていうのは、わがままな考
え方だ。そんな綺麗な心を持つ人間なんてこの世にいないね。おれにだって負の心はあるんだ
し、姉ちゃん達にだってあるんだ」
僕が必死になっているのに給食を食べているという呑気な姿。だが、フェンリルはしっかりと僕
に対してそのように答えてくれた。
誰にでも負の心がある。確かに彼の言う通りかもしれない。しかし、それは僕が追い求めている
答えとは違う。
僕は、何が自分を追い詰めているかを知りたいのだ。
「ど、どうすればいいの…?このままだと、僕は、あの黒い煙に呑み込まれてしまうって言われた
…」
すると、フェンリルは、給食を頬張りつつも、手に掴んだフォークの先端を黒い煙の方へと向け
て話し始めた。
「姉ちゃんが言っていたけれどもな。お前の負の精神は、過去に起こった事に引きずられ、未来
に対して恐怖を感じている事なんだとな。つまりだ。お前は過去に起こった出来事にこだわりすぎ
て、未来を見失ってんだよ。
黒い煙はお前自身なんだ。受け入れろ。それだけさ」
過去。僕の過去。黒い煙は、僕が感じている過去の精神なのだろうか。
「受け入れるって…?」
「プラス1足す、マイナス1は幾つだ?足し引き0だろ?全部、元に戻る」
と、フェンリルは僕に向かって言って来た。それが、何を意味しているのか、僕には分からなか
ったけれども、心なしか理解できてきたようにする。
僕は過去に縛られているというのか。黒い煙は僕が感じている過去の負の精神なのだろうか。
それを受け入れる。そうすることで、僕は救われるのだろうか?
「分かった…。じゃあ、もう一度、立ち向かってみるよ」
「おう。だけどな、無理すんなよ。焦る事はないんだからな」
フェンリルも僕を応援してくれている。彼は給食を食べているだけのように見えるが、彼はきち
んと僕を応援してくれているのだ。
乱暴な口調ばかりな彼だったけれども、今は、僕を応援してくれている。
それが、僕の後押しとなった。僕は、再び自分の負の精神。黒い煙の中へと飛び込んでいっ
た。
再び、タールで塗りつけたような黒い空間が僕の周囲に広がった。
黒い空間は前と変わらず、僕の視界全てに広がっている。一点の光さえもないし、そこには何
も見ることができない。
金属音のようなものも聞こえなければ、あの戦車のように巨大なものも迫って来ない。
僕の過去に起こった負の出来事が襲いかかって来るのならば、それを受け入れてやろう。その
覚悟はもうできた。
やがてあの耳鳴りが聞こえ、僕の方に向かって、戦車のように巨大な車が迫って来ようとしてき
た。その車は、前よりも心なしか小さく見えたような気がした。
その車は、僕の上へと覆いかぶさるかのように迫って来ている。だが、僕は冷静に考えて見
た。
何だ。簡単な事じゃあないか、横に避ければいいんだ。
僕は体を素早く横に避けさせた。まるで飛び込むように黒い空間の中を移動し、身を丸めて迫
り来る車を僕はかわした。
簡単な事だ。これは僕の過去に起きた出来事に過ぎない。僕の脚の自由を奪った車は、もう僕
には襲いかかってこないのだ。
車をかわした僕は、黒い空間の中で体を起こそうとした。
心なしか、黒い煙の中が、晴れ渡ってきていたような気がする。僕の目が暗闇に慣れてきた、
ただそれだけのことかもしれない。だが、黒い空間は晴れ上がりつつあった。
だが、体を起こそうとした時、僕はある事に気がついた。
脚が動かないのだ。
僕が体を起こそうとしても脚が動かない。そんなはずはなかった。僕は、こちら側の世界にいる
内は、脚を動かすことができたはずだ。それは、僕が体ではなく精神だけが抜け出した状態であ
るはずだったからだ。
だが、今の僕は脚を動かすことができないでいる。ぴくりとも動かない。
もしかしたら、僕はいつの間にか黒い煙の中を通って、元の世界、あの自分の部屋のベッドの
上に戻ったのかとも思ったが、そんな事は無かった。
僕はまだ黒い空間の中にいる。
そんな、あの巨大な車。僕の恐怖の象徴さえ避けてしまえば、僕の迷いや恐れは晴れるはずだ
と思っていたのに。
だが、その時、僕は気が付いた。
脚を動かすことができないでいる僕の前に、ある一本の道が伸びていた。
フローリングでできた木の床だ。それだけならただの床でしかないのだが、そこには二本のレー
ルのようになった手すりがずっと渡されていた。
丁度、僕が立ち上がることができれば、その手すりに手をかけて歩く事ができるようになってい
る。例え、脚が不自由であっても、腕の力だけで進んでいく事ができるようになっている、リハビリ
施設にある物だった。
僕は、思わず目を背けた。何で、黒い空間の中にこんなものがあるんだ?僕は、リハビリが目
をそむけてしまうほど嫌なわけじゃあない。
だが、今、僕の目の前に広がっている物は、まるで僕自身を皮肉っているようなものだ。何だろ
うこの感覚は。怒りさえ感じられる。
「何故…、目を背けてしまうの?これは、あなた自身が、あなたに見せているものなのよ…」
と聞こえてくる声があった。顔を上げれば、僕と、あれの間に、パレネがじっと立って僕を見下ろ
してきていた。
見上げると、パレネの姿が異様に大きく見える。
「僕自身が、僕が、これを恐れているの?」
僕は自分の前に広がっているものを指差して言った。だが、パレネは首を振った。
「いいえ、これは象徴に過ぎないんでしょう…。あなたが恐れているのは、これじゃあないのよ」
と言うと、パレネは二本の手すりの間の道を歩いて行ってしまう。僕に背を向けて、とっとと行っ
てしまう。
「あなたが恐れているのは、未来のあなた自身。あなたは過去を恐れていたのと同じように、未
来をも恐れている。これが、示しているのは、それ」
パレネは僕の方をちらりと振り向いてきてそう言った。僕は、動かせない両脚のまま地面にしゃ
がみこみ、ただ先へと歩いて行ってしまうパレネを見ている事しかできない。
彼女はそのまま行ってしまうのか。僕は彼女に追いつけないまま、パレネはどんどん歩いてい
ってしまうのか。
「待って!」
僕は、二本の手すりの間をどんどん歩いていってしまうパレネに向かってそう叫んだ。
パレネは進んでいく脚を止め、僕の方を振り向いてきた。
「わたしはここにいるのよ。ついてきてくれないの?」
と、とても寂しげな声で僕に言って来た。
「もちろん行くさ。今、そっちに行ってあげる」
僕はそう言うなり、動かす事ができない脚のまま、手すりにまず片方の手を伸ばした。木の手す
りは、まるで僕の為に作られたかのように握りやすくなっていた。だが、両腕をそこにかけ、動か
ない脚のまま、先に進んでいくのは、想像以上にとても辛い事だった。
僕の体は、車椅子の生活をしていた間、ろくに鍛えてもいない。ここにいる僕は、僕の体ではな
く僕の精神だと、パレネ達は言っていたが、その精神にも、腕力の弱さは反映されてしまっている
のだろうか。
必死になって僕は、体を前へと送ろうとした。リハビリもしてきていないから、手すりを使って体
を送る事さえろくにできない。
脚は氷のように動くことなく固まり、僕の体にとって、重い足枷のような障害となっていた。
「今、そっちに、行くから…」
僕は声を振り絞り、体を前方へと送った。汗によって手が滑り、手すりから僕は転げおち、地面
に倒れ込んだ。
そんな事にひるんでいる暇は無い。僕は体を起こし、前方を見た。そこにはパレネがいる。彼
女の元へは10メートルくらいはあるだろうか。
僕は再び手すりに両手をかけ、体を前へと送った。僕の、動かなかったはずの脚が、ほんのか
すかに動いたような気がした。
力は全然入らないけれども、何とか、体重の一部分を支える事ができそうだった。僕は床に脚
を付き、パレネの方へと体を送る。
だが、彼女との距離が、残り5メートルほどにもなった時だろうか、僕の脚先には巨大な空間が
口を広げていた。
今まで体を進めてきた分の床には、確かな床があった。だが、そこから先は、黒い空間がぽっ
かりと口を開けているではないか。
二本の手すりが伸びているだけで、脚下には何も無い。パレネはその口を開けている空間の
向こう岸に立っている。
こんな所を行けと言うのか。せっかくここまで進んできたのに、もっと難関が待ち構えていると
は。
僕は恐る恐る体を進めた。
戻りかけている脚下の感覚では、確かにそこには何も無い。ぽっかりと崖のように空間が口を
開いているだけだ。
僕の体は両腕だけで支えるしか無く、それ以外には何も頼りになるものが無い。僕の両腕は震
え、脚はだらりと下がっているだけだ。
だが、僕は何かにとりつかれたかのように必死になって体を前へと送った。両腕だけで僕の全
ての体重を支え、更に体を送って行くのは、予想以上につらい事。だが、僕は一気に3メートルほ
ど体を進めた。
もう、残りわずかな所にパレネはいる。崖の向こう岸は近い。
彼女はじっと僕を見つめている。その目は応援しようとしているのか、とても真剣なまなざしだっ
た。
僕はそれに答えるかのように、必死になって体を送る。だが、その必死さが僕の注意力を失わ
せていたのか、片手を滑らせてしまった。
すでに汗に覆われていた僕の手は手すりを握るときに滑り、そのまま僕の体は手すりから落下
し、脚下に広がっている空間に呑み込まれてしまった。
もう少しで、パレネの待っている向こう岸に辿り着く事ができたのに。僕の体は落下しているとい
う感覚に襲われた。
黒い空間が全てを包み込み、手すりも、床も、パレネの体も何も見ることができない。僕の体は
落下しているのか、それともただ漂っているのか、分からないような感覚に包まれる。
ああ、結局、僕は駄目だったのか。
僕は黒い煙の中の空間に呑み込まれてしまった。このまま、どこに行ってしまうのだろう。自分
に打ち勝つことができなかった僕は、一体、どこに向かってしまうのだろう。
結局、あの車椅子生活から抜け出す事の出来ない、現実へと引き戻されていくだけなのだろう
か。
僕は自分で自分を責め続けていた。
だがやがて、黒い空間に包まれた僕を、誰かが優しく受け止めた。
僕の体は落下していたと言うのに、誰かが優しく僕を受け止めている。
「よく、頑張ったわね」
そう話しかけてくる声。僕は顔を上げた、そこにはパレネがいた。彼女の体は、黒い空間の中
で、ほのかに金色に光っており、今までの彼女とは何か違っていた。
彼女は優しい目で僕を見つめてくれている。
「頑張った?僕が?」
僕はあっけに取られたような声でそう答えていた。
「これで、もうお前は未来に向かって進んでいく事ができるだろう。また躓くような事があっても大
丈夫だ」
と、パレネの向こう側から声が聞こえてきた。それはユミールの声で、彼女もパレネの向こう側
に姿を見せていた。
「また同じ目に遭ったとしても、おれ達を頼んなよ。お前は、自分の負の心を受け入れる事ができ
たんだからな!」
元気よく僕に向かって声を投げかけてくるのはフェンリルのものだ。
「あなたは、あなた自身の未来を見ることができた。もう、恐れるものは何も無いわと言ったら嘘
になるけれども、もう、恐れなくても大丈夫。あなたは未来に向かって歩んでいく事ができる」
パレネは僕に向かって優しい声でそう言ってきてくれる。
彼女の言っている言葉の一つ一つが、僕の心の中に染みわたって行くかのようだった。
やがて、パレネ達の姿は薄れていく。
「ま、待って…」
僕はそのように言葉を発したが、パレネが消えていくのを止める事はできなかった。彼女達の
姿はまるで煙が消えていくかのように消えていった。
最後まで、パレネは僕に向かってにっこりとほほ笑んでくれていた。
パレネ達が消えてしまった後で、僕は黒い空間にただ取り残されていた。だが、その黒い空間
の中で、僕は、何かを自分の体の中に取り込んでいるかのような感覚に襲われた。
僕の中に取り込まれていくそれは、黒い煙そのものだった。周囲の視界は真っ暗なままだった
が、僕にははっきりと黒い煙を自分の精神の中に取り込んでいくのだと言う事が分かる。
やがて、黒い空間が晴れていく。僕の精神を包みこんでいた黒い空間はどんどん晴れていき、
やがて現れた空間は、僕の部屋だった。
そう、いつもと変わりない、僕の部屋がそこには広がっていた。
僕はいつの間にかベッドの上に座っており、ただ、何も無い壁を見つめていた。
僕が見つめる壁には何もない。ただの壁だ。僕が通り抜け、別の世界へと旅立っていたのは、
この壁の先ではなく精神の先だった。
僕はそう自分に言い聞かせる。
だが、僕は自分の部屋の壁を見つめ続けていた。
すでに日は昇り始めている。朝の6時。早置きな人はどんどん起き始めている時間だ。僕が起
きるにはまだ少し早い。
だが、気分は良かった。実に晴れ晴れとした気分となっており、朝のすがすがしい空気を肌で
感じることができる。
僕が今、心の中で思い始めている事と、朝のすがすがしい空気は、見事に一致していた。
僕の心の中は、あの黒い煙を全て吸収してしまったかのように晴れ渡っている。もはや、何も迷
う事は無い。
僕は車椅子に身を移した。今までは車椅子に乗る事さえも嫌だったが、今は違う。僕は朝、起
きて当然する事のように、車いすへと身を移すことができていた。
そして、勢いよく車椅子を移動させ、自分の部屋を出た。
キッチンでは、お母さんがすでに朝食の支度を始めていた。僕はリビングルームに車椅子を進
め入れていく。
「あら?真一。今日は随分早いのね?」
お母さんが、僕を迎えてくれる。その表情は、どことなくあのパレネに似ているような気がした。
だが、お母さんは僕が、夢の中から黒い煙のトンネルの中を通り、別の世界へと旅立っていた
事は知らないはずだ。
それなのに僕には、お母さんが、僕の旅を知っているような気がした。僕が一つの旅を終えて、
戻って来たと言う事を知っているかのようだった。
僕は車椅子をキッチンの方へと向かわせていく。
「お母さん。大事な話があるんだ…」
と話し始めた。
「あら、何かしら?」
お母さんが朝食の支度を中断し、僕の方を振り向いて来る。お母さんの表情に対し、僕は一つ
の決断を報告した。
「僕、リハビリを始めるよ」
その言葉には、未来に対する恐怖も何も無かった。ただ一つ、僕はすがすがしい気持ちに包ま
れていた。
リハビリというものは、僕が思っていたほど恐れるものではなかった。ただ、肉体的な苦痛はあ
ったかもしれない。
しかし僕が、車椅子生活を送って来た時の、黒い煙に包まれていたような、淀んだ沼の底のよ
うな気持ちからは解放される事ができていた。
僕の脚は、医者が言っていた通りに回復していった。いつしか、僕は車椅子が無くても、杖を使
って歩く事ができるようになり、やがて、学校に行き、他の同級生達と何も変わらないような学園
生活を送ることができるようになった。
車椅子の生活をしていた、3年という歳月は何だったのだろうか。僕は時々考える。
その期間、僕は塞ぎこみ、自分自身を追い詰めるかのように、あえてリハビリを避け続け、車
椅子に乗る事さえも抵抗を感じていた。
まるで、僕自身の負の歴史であるかのように。
だが、僕はその負の歴史を責める事はしなかった。それ自身も、僕自身の歴史なのだ。僕自身
の一部なのだ。
僕は、一つの旅に出る事によって、それを克服した。
僕はそのたびに帰り道を見つける事によって、動かない脚から自分を解放させた。
その代わりに払ってしまった代償もある。
車椅子生活をしている間、僕と友達でいることができた、3人の“他の世界”そのものという存
在、フェンリル、ユミール、そしてパレネとは、もう出会う事がなかった。
いくら夢を見ても、それは他愛の無い夢でしかなく、別の世界に行くような事も無かった。
旅先で出会った、他の世界の者達とは、もう出会うことができないのだろうか。
僕の精神の中で作られたというゲートは、僕が出ていった後、あの3人の手によって閉じられて
しまい、僕は二度と、別の世界に行く事はできなくなってしまったのだろうか。
やがて、僕があの3人の顔さえも薄々忘れてしまいそうになってしまった頃―。
僕はその頃には故を使って歩く事ができるようになっていた。まだ、完全に何かの手助けなしに
歩く事ができるわけではなかったけれども、僕は何者にも助けられる事なく、自由にデパートに買
い物に行く事ができたし、学校にも通う事ができた。
日常生活にもそれほど苦を感じる事も無かった。
もう、あのパレネ達に会うことができないのか。そう思う事も時折あった。
今の僕は、何にも苦を感じない。友人達の手助けなど必要がないほど、心が晴れ晴れとした気
分だった。
だが、助ける、助けないという事を除いて、僕はあの友人達と再び会いたい気持ちがあった。
また、あの友達と出会いたい。もう一度だけでも良いから。
そんな想いを胸の内にしまい込み、僕はデパートの中を歩いていた。行き交う人々は、何か、
買い物をするためにデパートにやってきているのだろう。
だが、僕は違う。自分の脚が動き、外に出歩く事ができる。そして、外の空気を吸う事ができ
る。それを確かめるかのようにこうして歩いているのだ。
杖をついて歩く僕の脚取りはぎこちない。それに気付いた人は僕に道を開けてくれる。今ではそ
れは恥ずかしい事では無い。
近いうち、この杖さえもいらずに僕は歩く事ができるようになる。全てが元通りになるのだ。あの
フェンリルが言っていたように、マイナス1足す1は0になる。
ふと、僕の視界を何かがよぎった。
それは、最初は色として僕の頭には認識された。
金色の何か。何故、そんなものが見えたのか、僕には初め、分からなかった。だが、僕の頭は
金色の何かを、ある人物に結び付けて直感した。
もしかして、今僕の前をよぎったのは、金色の髪をした人物なのではないかと。
そんな髪の色をした人物は、そう見かけるものではない。
もしかしたらあれは。
そう思った僕は杖を使い、脚早にその人物を追いかけた。
杖を使っても、やはりまだ僕の脚は完全とは言い切れない。だが、僕は必死になってその人物
の後を追いかけた。
待ってくれ。もしかしたら、またあなた達に会う事ができるのか?
僕は必死になって追いかけた。デパートの中を突っ切り、金色の髪をした人物を、デパートの外
まで、そして、裏口の方まで追いかけた。
だが、そこでは、トラックからデパートの中へと納品作業が行われている場所で、僕が見かけた
金色の髪をした人物は見つからない。
僕は息を切らしながら周囲を見回した。だが、どこを見回しても、金色の髪をした人物を見つけ
る事は出来ない。
もしかしたら、僕が見た幻覚でしかないのだろうか。それとも見間違いでしかないのだろうか。
そうだ。今のはただの見間違いだ。僕が、あのパレネ達に会いたいと思うあまりに見てしまった
見間違いでしか無い。
僕はがっくりと肩を落とした。
そんなに上手くいくはずがない。あの友達に会う事なんてできない。あの人々は別の世界なの
だし、もしかしたら、本当にただの夢でしか無かった存在なのかもしれないから。
と、僕はうなだれながらデパートの方へと戻って行こうとした。その時、
「まるで幽霊でも見つけたかのような顔をしているな?」
と話しかけてくる声があった。その聞き覚えのある声に、思わず僕は顔を上げた。そして驚く。
まさかと思ったが、僕の目の前に立っているのは、ユミールだった。
銀色の長い髪をした鋭い目つき、今、僕の目の前に立っているユミールは一昔前のような衣装
を着ておらず、まるで僕の世界の中に溶け込んでしまったかのように、僕の世界の衣服を着てい
る。
「え…、嘘…、どうして…?」
見間違いでも無いし、幻覚でも無い。ユミールは確かに僕の目の前に立っていた。
確かに現実の存在として、ユミールが僕の目の前に立っていた。
「馬鹿だな?おれ達が、こっちの世界に来る事も出来ないと思っていたのか?」
背後から聞こえてきた声に、僕は思わず背後を振り向く。するとそこにもフェンリルが立ってい
た。彼の世界とは違う、普通の子供用の衣服を着たフェンリルが、確かな存在としてそこにいた。
「ごめんなさい…、驚かせちゃって…。でも、あなたの世界とわたし達の世界はそう遠くない、それ
ぞれが隣同士にあるほど近い…」
と言ってくる声に、僕は顔を上げた。するとそこにはパレネが立っていた。弟であるフェンリルの
両肩に手を乗せ、僕の方に話しかけてくる。
「何で…、あなた達が…?」
僕は今だに信じる事もできないままに答えていた。もう二度と会えないと思っていた人達が、僕
の目の前にいる。
「せっかくできた友達だぞ。あのままお別れじゃあつまんないだろ?」
フェンリルが僕に言って来た。彼らは僕と再び出会えた事を嬉しく思っているようだ。
「つまらない…?そ、そうだけれども…」
僕の言葉の呂律が上手く回らない。驚きをとにかく隠す事ができないでいる。
「さあ、行きましょう」
そう言って、パレネは、彼女の世界で見せていたのと同じような表情で僕の方へと手を伸ばして
きた。
「行くって、どこへ?」
僕はパレネの顔を見て尋ねた。
すると彼女は僕の方に向かって、にっこりと顔を微笑ませて答えてくる。
「あなたの、新しい旅よ」
終
説明 | ||
とても長くなってしまいました。もはや短編ではありませんが、この回で完結します。 | ||
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