レベル1なんてもういない 2−4
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「お前ら、この界隈で何をしてやがる!」

 

急にこの街の情緒と一辺たりとも似合わない大きな声が後ろからこちらに向かって響きわたった。

見ると軍服を連想させる格好の男が1人、耳に触る声を吐き出しながら他者を押しのけて堂々とした歩き方でこちらにやってくる。

 

 

「あぁ?

 あぁあぁ

 またお前か。懲りない奴だな」

 

「うるせぇな…放っておけよ

 雲に止められてなきゃテメェなんてただの…」

 

初めて見たときと変わらず、イライラした殺気とも取れる視線を取り戻し、そのまま男に浴びせる。

知り合いというより邪見にしている顔見知りと言う感じだろうか。

 

「ただの、何だ?

 口の聞き方に気をつけろチビ!

 俺が誰か忘れたわけじゃねえだろ」

 

チビ、という不愉快な単語にこちらまで反応する。

 

すると右手に持っている棒で黒いドレスの子を殴りだした。

 

「…っ」

 

 

 

「この街のルールを忘れたってんなら!解りやすく教えてやるよ!」

 

耳障りな声を散らしながら2度3度と殴り出す。

次第に黒いドレスの子は倒れこんでしまった。

こんな事、周囲を振り返ってみると、皆何事も無い日常のように素通りして歩いている。

 

「この街のルールは俺らのもの

 だからお前等はニコニコして俺の機嫌を取るんだよ」

 

だから、とかくだらない。

どこの世界でもこの手の人間は存在するのか。

 

それよりもラフォードは何をしてるんだろう。

まさかあの服を未だ着せたがって見ているいるのだろか。

こちらが店に戻ってツッコムのを持っているのか、それだけのチャンスタイムは当に過ぎているはずだ。

いやラフォードなら無きにしも非ずか。

 

「テメェの汚ねぇモノで触るんじゃねえよ

 孕んじまうだろうが」

 

「何だとこの…」

 

「ぅぐっ」

 

ドレスの子が何かを呟いている。

意外と余裕あるんだ。

いや、どちらにしろ、これ以上は見ている方もいい気分はしない。

 

「よく見れば目つきは悪いがいい顔立ちしてるじゃねぇのさ

 屯所に連れ帰ってジックリと弄ってやるか」

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「おっちゃん」

 

男の視線はうずくまる黒いドレスからゆっくりとこちらを向いた。

 

「何か、言ったか?そこのチ…」

 

「そこのおっちゃん

 力に任せるなんてよくないよね、おっちゃん

 恥ずかしくないからやってるんだろうから忠告してあげげるけどそれはダサい事だから」

 

言われる前に聞きたくない単語を塞いでやる。

 

「それとも周りに自分より強いものがいなかったの?

 ねえ、おっちゃん」

 

「てめぇ偉そうに何をほざく?」

 

更に余裕を持って腕なんか組んでやる。

 

「ウチの親父もよく言ってたよ

 無知なものほど人を軽蔑し、知恵のあるものは包容力を持つってさ」

 

「…」

 

「…」

 

なんだか2人して黙ってしまった。

 

「口のへらねえガキだ。

 てめえには特別にこの町の教育を教えてやる」

 

「いいよ。ウチに出来るものならね」

 

…教育を教えるなんて表現の仕方から知識の欠落が伺える。

日本語がおかしい…?

ここで改めて考えてみるとこの世界、どこかおかしい。

 

いや今はその疑問はいい。

ラフォードには内緒だが自分の力量を物差しで測る機会がやってきた。

世界を救う為に呼び出されるいう常軌を逸した事象が街の一介のチンピラに負けるはずがない…はず。

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一歩一歩と近づく男に対して集中する。

 

以前いた剣道での試合みたいなこの緊張感も久しぶりだ。

ワクワクするようなビビって力が入らないような、

それでいて口が渇き、内蔵の動きが鈍り、指先が敏感になっていく感覚。

 

次の相手の動きを見逃さないよう眼球がジッと見張っている。

それに合わせて動きをする指先から体全体の反応に備える。

 

男は力任せに棒を振り上げる。

どう動いていくか…

 

 

 

「ぁ…ぐ…」

 

男はそのまま倒れこんだ。

 

「エル、大丈夫?」

 

「あ…葵?

 うん…ウチは大丈夫」

 

突如現れていたラフォードによってのされていた。

 

 

「エル…」

 

「ウチよりもあっちの子を手伝ってあげて」

 

「あっちの子?」

 

「いるじゃん。

 そいつにやられた黒いドレスの子が…」

 

いない。

再び地面に落としたであろう正体不明の黒い球を集めた籠もなかった。

そして貰ったはずの球もいつの間に消えていた。

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「あれれ、さっきまでいたんだけど

 葵にビックリして逃げちゃったよ」

 

「私ラフォード」

 

「そうだったね。

 …おや?コレって」

 

未だビニールの封が開いていない箱が転がっていた。

バージニア?

箱の柄から見て目の前で倒れている男のものの可能性は低い。

ではさっきまでいた黒いドレスの子か。

 

「タバコ…身体の集中力の補佐をする代わりに肺を潰すもの」

 

ラフォードが説明してくれる。

この世界にもタバコなんて存在しているんだ。

 

あんな年からタバコなんて将来が思いやられる。

とはいえ数ある著名人はタバコを吸う者が多いのを考えると満更悪いものでもないのかもしれない。

いや、健康には悪さの一途だが。

 

もともとニコチンは人の思考、集中力を高めるものだったと言うし。

もといた世界でのタバコの物価は上がる一方だ。

依存性が高いものを高い所に置く人間ならではの姑息なやり方だ

それでいて効き過ぎる薬は違反という良くわからない世界でもあった。

 

 

とりあえずは拾っておこう。

この街にいる間にまた遭遇する事を願うとしよう。

 

「エル」

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歩き始めようとする途端、ラフォードが呼び止める。

 

「なに?」

 

「さっき戦おうとした」

 

「…そういう状況だったから」

 

「エル、戦っては駄目

 ヒト一人くらい放っておいていい」

 

「え〜…それは嫌だな、ウチは。

 人一人だけでも助けるのが人でしょう

 ん〜ホラ、ウチが本当に凄いんならさ、手加減してやればいいじゃないかと思ってさ」

 

「エル

 相手を軽くやっつけるとかない

 相手に向かって手加減するとかない

 戦うという事はいつでも全力を出すこと」

 

「…って事は?」

 

「エルが戦う時は今住んでいるこの世界を削り、この星を壊す事が出来るほどの相手と戦う。

 今から手加減なんてしてたら其れが100%まで下がって、いざという時に本当の力が出ない」

 

改めて知った。

戦うとは…

そして未だ解らない自分自身の力…

 

「でもさ、自分のレベルがどの位かは自分で知っておきたいじゃない」

 

「エルはずっとレベルは1でなくては駄目」

 

駄目なのか。

 

「葵は大丈夫なの?」

 

「私ラフォード」

 

「ウチの戦いを全部1人で引き受けてさ」

 

「大丈夫

 その為に修行してきた」

 

その為って…

まるでずっと前から決まっていた事みたいだ。

 

 

 

グゥ〜〜

 

2人してお腹が鳴った。

顔が赤くなりかけたが、西に堕ちる日の光のお陰で誤魔化せたようだ。

ラフォードはそんな羞恥心など持っていませんよとばかりのいつもの顔だ。

 

「エル、宿に戻ろう」

 

「そうだね、お腹空いたよ

 そういえばポテチが食べたいなぁ」

 

「何?」

 

「話せば長い究極の食べ物だよ」

説明
この話は勇者は戦う事禁止なのです。
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