真・恋姫?無双 悠久の追憶・第十九話 〜〜大戦の予兆〜〜 |
第十九話 〜〜大戦の予兆〜〜
果てしなく続く荒野の只中に、その街は堂々と栄えていた。
ここは大陸の都、洛陽。
豊かな土地と、華やかな街並み。
その中では多くの人々が生活を営み、今日も街には活気があふれている。
通りに響く子供たちの声も、人々の笑顔も今日もいつもと変わらない。
そう・・・・・街に暮らす人々は、何も知らない。
こんな変わらぬ日常の裏・・・・・・街の奥に堂々と構える城の中では少しずつ、黒い野望が動き始めていることを。
城の窓から、豊かな街の様子を見下ろす少女が一人。
しかし活気に満ちた街を眺めているというのに、その少女の瞳は優しくはあれど、どこか悲しげだった。
「・・・・月(ゆえ)」
「!・・・・・・詠(えい)ちゃん」
後ろから真名を呼ばれた少女は少し驚いたように振り返るが、声の主が分かるとその表情はすぐに柔らかくなる。
立っていたのは眼鏡の少女で名を賈?(かく)、真名を詠(えい)という。
幼いころから少女を支え、今でも共に都を治めている少女の親友だ。
「また、街を見てたの?」
「・・・・うん」
詠は優しく微笑みながら少女の傍へと歩み寄り、少女も頷いて再び窓の外へと視線を戻す。
「皆、楽しそうだね。」
今度は笑顔で・・・・・それが隣にいる親友に心配をかけさせないためなのかは分からないが、少女は明るい声で言う。
しかしその笑顔はすぐに消え、さっきと同じ・・・・優しくも悲しい瞳に戻ってしまう。
「こうやって・・・・・・ずっと平和でいられたら良いのにね。」
「月・・・・・・」
詠には、少女の言う言葉の意味が分かっている。
そう言う彼女の表情が暗い理由も・・・・・・
この少女の名は、董卓。
若くしてこの洛陽の都を治める当主。
誰よりも優しく、なによりも民の事を想い、この洛陽を治めてきた。
それは、少し前まではたしかにそうだったはず。
しかし数カ月前から・・・・・いや、もしかしたらもっと前からだったのかもしれない。
彼女は自らの想いの通りに、民を愛する事が出来なくなった。
今窓の外に見えるこの光景は、言ってみれば仮初の平和。
まるで根をはっていない大木のように、いつ倒れる時が来てもおかしくは無い見せかけだけの安定。
その『倒れる時』が少しずつ近づいてきていることを、彼女は知っているのだ。
しかしそれを知っていても、今の彼女にはどうすることもできない。
なぜなら、今の彼女は『当主』という名を持つだけの人形。
ある一人の存在が自分を隠すための、いわば隠れ蓑なのだから。
そう、ある一人の男・・・・・・
「董卓様。」
「!・・・・・・・」
後ろから聞こえたのは、詠の時とは違う、感情のこもっていない低い声。
振り向く月と詠の顔には、僅かに恐怖の色が浮かぶ。
この冷たい声の主を、不本意ながら二人は良く知っている。
後ろで腰を低くして立っていたのは、髭を生やした中年の男。
董卓という名の影に隠れ、洛陽を裏から動かそうとする存在。
この仮初の平和を作り出し、今にもそれを壊そうとする存在。
「・・・・・・・郭(かくし)」
月は少し怯えた様子で、前に立つ男の名を呼ぶ。
郭と呼ばれたその男は口の端に笑みを浮かべ、月になにやら一枚の紙を差し出した。
「・・・・こちらを」
「これは・・・・?」
月は郭の顔色をうかがいながら、差し出された紙を手にとる。
そしてそこに書かれている内容を見たとたん、月の表情は引きつった。
「そんな・・・・・また、民からの税を軍備拡張に使うの?」
「なんですって!?」
月の言葉を聞いて、隣にいた詠も声を上げる。
しかし驚く二人を見ながら、郭は当然のように静かに頷いた。
「ええ。 今回は騎馬隊の方に力を入れようと思っています」
書面には、民から徴収した税の実に八割を軍備のために使うと書かれている。
そんな遣い方をすれば、民のために使える金など残るはずもない。
「あんたねぇ・・・・・!」
「おや? どうされましたかな賈?どの、そんなに怖い顔をして」
「くっ・・・・・・」
怒りをあらわにする詠など意に介さぬように、郭は口の端に浮かべた笑みを崩そうとはしない。
詠が自分の意見に反対できないことを、郭は知っている。
なぜなら、今城の中で月に味方する者は詠を入れても数えるほどしかいない。
郭はゆっくりと時間をかけ、月も詠も知らぬところで自分に賛同する仲間を集め、気がついた時には月の逃げ場はどこにも無くなっていたのだ。
郭に反対すれば、月の身に危険が及ぶ。
だから詠も、大人しく郭のやることを黙認するしかないのだ。
「郭、税は民から集めたものです。 民から集めたお金は、民のために使うべきだと私は思います。」
それでも月はなんとかこの謀略と戦おうと、郭に精一杯の強い視線を向ける。
だが郭はその視線に一切表情を変えることもなく、むしろ気丈に振舞う月をあざ笑うかのように笑みを増す。
「何をおっしゃいますか董卓様。 軍備を整え、この洛陽の都を守ることこそが、民に報いる一番の方法とは思いませぬか?」
「それは・・・・・・」
「それに、我らは帝を擁している事をお忘れですか? 帝の御身を守るためにも、軍備拡張は必要なことなのです」
「・・・・・・・・・・・・・・」
そう、本音はこちらだ。
洛陽や民の安全・・・・・この男は、そんな事など微塵も考えてはいない。
ただ帝の名を遣い、自分の思い通りにこの都を動かすことが、この男の目的なのだ。
それが分かっていながら、郭の鋭い瞳が、月にそれ以上反論することを許さなかった。
「ご安心ください。 私にお任せいただければ、必ずや洛陽を繁栄の道へと導いて見せましょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「では、私はこれで。」
敬意など全く感じさせない形だけの礼をとり、郭は部屋の奥へと消えて行った。
二人に背を向けて歩くその顔は、きっと悪意の笑みに満ちていたことだろう。
「詠ちゃん どうしよう、私・・・・・・・」
「月・・・・・・・」
郭が部屋を去るのを見届け、月は今にも泣きそうな顔で詠の方を見る。
その目に浮かんだ涙が、この洛陽の未来を想っての事なのか、それとも郭の言いなりになるしかない自分に対する不甲斐なさからなのか・・・・・
どちらにせよ、今の彼女に幸せは無い。
詠は自分も泣きそうになるのをこらえ、震える月の肩をそっと抱き寄せた。
「大丈夫よ。 月は、何があってもボクが守るから。」
まるで鳥かごのようなこの城の中で、二人の少女は光の見えぬ明日に怯えながらも、必死に戦っていた―――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――
(―――――――――・・・・と)
(―――――――――・・・ずと)
暗闇の中で、誰かの声が聞こえる。
(――――――――― 一刀。)
「ん・・・・・?」
目を覚ましたはずなのに、そこはまだ暗闇だった。
(――――――――――よう、久しぶりだな一刀)
「・・・・・・・はぁ〜。」
思わずため息が出た。
(―――――――――おいおいひどいな。 いきなりため息吐くなよ。)
「そりゃため息も吐くさ。 せっかくしばらく見ずに済んでたのに・・・・」
確かこれで四度目・・・・・この周りを黒一色に覆われ、自分の声とこの正体の分からぬ声しか存在しない夢。
随分前に黄巾党を討伐した時以来、この夢は見ていなかった。
せっかく忘れかけていたというのに、今までの三度の夢もしっかりと思い出してしまった。
(――――――――――まぁそう言うな。 こうして夢でしか会えないんだから仲良くしようぜ?)
「・・・・・で、今回は何の用だよ?」
正体も分からない声だけの存在の冗談に付き合っている暇は無い。
こっちとしては一刻も早くこの夢から抜け出して安眠に戻りたいところだ。
一刀は対して興味もなさそうに、単刀直入に聞いた。
(―――――――――――なんだよつれないな。 まぁいい・・・・・そういえば、随分と面白い子が仲間になったみたいじゃないか。)
「雪の事か?」
(―――――――――――あぁ、そうそうその子だ。 馬謖だったか? 元気があっていい子じゃないか。 まぁ少し問題があるみたいだが・・・・・)
「・・・・・・何が言いたい?」
問題というのは、聞くまでもなく『雪白の鬼人』の事だろう。
雪の事を悪く言われたような気がして、一刀の声には怒りの色が浮かぶ。
(―――――――――――おいおい怒るなって、別に深い意味は無いさ。 ただのちょっとした世間話だよ。 それより、俺が本当に言いたいことは別にある。)
「言いたいこと・・・・・?」
(――――――――――――ああ。)
そこで急に相手の声からは今まで軽薄な雰囲気が消え、真剣な声音に変わった。
(――――――――――――良く聞け一刀・・・・近いうちに、大きな戦いが起こる。)
「何!?」
(――――――――――――確証は無いが、恐らく歴史を左右するほどの大きな戦いになるだろう。)
「どうしてお前にそんな事が分かるんだ?」
(――――――――――――前にも言ったが、それは答えられない。 俺が言いたいのは一つだけ・・・・・一刀、戦いが起きたら、緋弦(ひげん)を肌身離さずに持っておけ。)
「緋弦を?」
緋弦・・・・以前城の蔵で見つけた緋色の刀だ。
どうしてこの声の主が緋弦のことまで知っているのかは分からないが、今の一刀にとってはそんなことはどうでもよかった。
「肌身離さずって言われても、俺はまだあの刀をちゃんと使えないんだぞ?」
あれから時間があるときには鍛錬をしているが、まだとても護身用としてすら使えないレベルだ。
(―――――――――――――使えるか使えないかは問題じゃない。 とにかく常に身につけておけ、片時も離さずだ。)
「ちょっと待ってくれ、なんでそんなに緋弦が大切なんだ?」
(―――――――――――――説明してる暇は無い。 いいか? とにかく俺の言うとおりにするんだ。)
いつもと同じだ。
肝心なところで、暗闇の奥から差し込む光に包まれていく
「待て! もっと詳しく・・・・・・」
視界が黒から白へと変わる中、遠くへ消え去る声の主は最後に言った。
(――――――――――――――その刀が・・・・・・・・・彼女を救う―――――――――――)
―――――――――――――――――――――――――――――――
「はっ!」
“ビュン”
「せいっ!」
“ビュン”
ようやく日が昇りきった早朝。
中庭では、一刀の振るう緋色の刃が空気を斬る音が響いていた。
先ほどの夢から覚めてすぐ、朝食も食べぬまま緋弦を手に取り部屋を出た。
もちろんその理由は、あの声が言っていた『大きな戦い』の為。
はたから見れば、たかが夢で見ただけの事に何をそんなに本気になっているのかと笑われるかもしれない。
しかし以前の黄巾党との戦いのときは、確かにあの声が言った通りになったのだ。
夢だからと、放っておく気にはなれなかった。
「(あの声が言っていた戦いが起こるまでに、もっと強く・・・・・・)」
剣を振るう一刀の両手には、自然と力がこもる。
今から急いだところで、すぐに戦場で役に立てるとは思っていない。
だがせめて戦う愛紗たちの足を引っ張らない為にも、自分の身くらいは自分で守れるように。
それに何より、一刀が気になっているのはあの声が最後に言った一言。
――――――――― 『その刀が・・・・・・彼女を救う』――――――――――――――
“彼女”・・・・・・・あの声は今までにも何度かその言葉を口にした。
その“彼女”というのが誰なのか、あの声は聞いても答えてくれない。
既にいる仲間たちの中の誰かなのか。
それとも、まだ会ったことすらない人物なのか。
どちらにせよ、誰かに危険が迫っているというのなら助けたい。
一刀がこうして剣を振るう理由の多くは、そこにあった。
「はぁっ!」
“ビュン!!”
頭の中を巡る考えの量と比例するように、更に素振りにも気合が入る。
すると剣を振る鋭い音にまぎれて、“トテトテ”と小さな足音が聞こえて来た。
「ご主人様ーーっ!」
「!・・・・・・朱里?」
精一杯の呼び声に振り向くと、廊下の方から朱里が息を切らして走って来る。
「どうしたんだ朱里? そんなに急いで・・・・・」
一刀の前まで走ってきた朱里は、小さな肩を上下させている。
こんなに慌てている朱里は珍しい。
何より今は早朝・・・・・・こんな時間に朱里が急いできたということは、少なくとも何か大切な要件に違いない。
「た・・・・大変なんです! すぐ来て下さい!」
「え・・・・・?」
一刀の頭を、嫌な予感がよぎった――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
結果から言えば、一刀の嫌な予感は当たっていた。
「これって・・・・・・・」
玉座の間で表情を固める一刀の視線の先には、手にした一枚の書状。
知らせを聞いて集まった仲間たちも、一刀の様子を固唾を呑んで見守っている。
「反董卓連合・・・・!?」
その書状は、?州を治める袁紹からのものだった。
朱里の話によればつい先ほど、おそらく丁度一刀が目を覚ました時間に、袁紹の遣いのものがこの書状を届けに来たということらしい。
その内容は、洛陽の董卓を打つための連合軍を組織するため、諸国の参加を募るものだった。
「朱里、いったいどういうことなんだ?」
朝の鍛錬のおかげでもう頭は起きているとはいえ、この知らせはあまりに唐突だった。
洛陽といえば、大陸を代表する都。
その君主である董卓をいきなり討つといわれても、『はい、そうですか』と納得できるわけもない。
もっともな一刀の質問に、朱里も少し困惑した様子で答えた。
「実は最近、洛陽を治めている董卓さんが暴政をしき、民を苦しめているという噂があったんです。」
「暴政って?」
「詳しくは分かりませんが、民から膨大な税を徴収し、そのほとんどを軍備のためにつかっているとか・・・・」
「そんな・・・・ひどい。」
「なるほど。 それを聞いた袁紹はこれを絶好の機会と見て、大勢力である董卓を大義名分の下に消してしまおうと考えたわけか。」
「はい。 ですが星さんの言うとおり、董卓さんの軍はかなりの兵力を持っています。
さすがの袁紹さんでも、単一で勝つのは難しいでしょう。」
「つまり、足りない兵力を集めるためにこうして書状を送ってきたわけか。」
「はい。 そして間違いなく、この書状は他の諸侯・・・・・孫策さんや曹操さんの下にも届いているはずです。」
「それじゃあ、また前の黄巾党のときみたいな大きな戦いになっちゃうの?」
「いえ、今回の相手は黄巾党のような賊ではなく正規の軍隊・・・・・戦の規模で言えば、前回よりさらに激しい戦いになるでしょう。」
「そんな・・・・・・」
愛紗の言葉で、桃香は表情を暗くする。
おそらく彼女が心配しているのは戦が起こること以上に、仲間が傷つくこと。
そんな時、自分は何もできないとわかっているから。
そしてその気持ちは一刀も同じ。
みんなの会話を黙って聞いていた一刀は、意を決してゆっくりと口を開いた。
「いや・・・・・この戦い、俺たちは参加しない。」
「え!?」
「ご主人様、何をおっしゃるのですか!?」
分かっていたことだが、その場にいた全員から驚きの声が上がる。
「主、戦に出ないとはどういうことですか!」
「そうだよご主人様、私たちは戦うためにここにいるんだぞ?」
愛紗に続いて星も翠も、一刀に対して不満をぶつける。
しかし一刀は、感情的になる皆とは対照的に極めて冷静だった。
「皆の言うことは分かるよ。 俺だって本当は戦いたい・・・・戦って、苦しんでいる洛陽の人たちを救いたい。 だけど袁紹や孫策、曹操たちに比べれば、今の俺たちはずっと小さい・・・・・そんな戦場に出て行ったら、どうなると思う?」
「! それは・・・・・・」
一刀の質問の意味を理解し、今まで不満を口にしていた全員が言葉を詰まらせる。
「朱里、雛里。」
一刀は質問の答えを求めるように朱里と雛里へと視線を向け、二人も言いにくそうに口を開く。
「はい・・・・・・おそらく、数では完全に弱小軍である私たちがこの連合に参加すれば、それをいいことに周りの諸侯は私たちを利用するでしょう・・・・・・」
「膨大な兵力を誇る董卓軍と正面から当たるのは、どの諸侯も避けたいはず・・・・・まず間違いなく、私たちは最前線へと送られます。」
つまりは、捨て駒。
他の諸侯が被害を最小限に抑えて戦うための、体のいい防波堤になるのがオチだ。
それが一刀にはわかっていた。
そして何より気になっていなのは、あの夢での声との会話。
まず間違いなく、あの声が言っていた戦いとはこのことだろう。
ならばこの戦いで、声が“彼女”と呼ぶ存在に危険が及ぶことになる。
それが誰であれ、危険と分かっていてみすみすそんな戦場へと仲間を行かせるわけには行かない。
「そう。 もし俺たちがこの戦に出て行けば、まず間違いなく無理難題を押し付けられて、董卓の大群と正面からぶつからなきゃいけなくなる。 そうなったら、いくらみんなが強くても・・・・・・・」
その先は言えなかった。
だが言わずとも、その場にいた全員に一刀の思いは伝わったはず。
「分かってくれ。 もし俺の決断のせいで皆に何かあったら、俺は・・・・・」
「ご主人様・・・・・・・」
先ほどまで口々に不満を言っていた仲間たちも、一刀を表情を見て何も言えなくなってしまう。
だがそんな中、一人だけはちがった。
「あ゛ーもー! 面倒くさいなー!」
「!?」
「雪?」
突然でため息混じりに大声を上げたのは、今まで後ろのほうで黙って話を聞いていただけの雪だった。
雪はその白い眉毛を”キッ”と吊り上げ、一刀を見つめた。
「何うじうじ考えてんの!? 洛陽でたくさんの人が苦しんでるんでしょ? だったら助けてあげればいいじゃんか!」
「なっ・・・・お前なぁ、俺の話を聞いてなかったのか? この戦いに出たら俺たちは・・・・」
「そんなこと分かってるよ! でもそれが何!? 戦なんだから危ないのは当たり前でしょ!?」
「っ・・・・・・・・」
「ご主人様は私に言ってくれたよね? 私が皆にとって危険だって分かったときも、仲間なんだからここにいていいって。 あのときの状況と今と、いったい何が違うの!?」
「雪・・・・・・・」
確かに雪の秘密を知った時、一刀も仲間たちも、それを受け止めて共に闘うと決めた。
ならば同じように、危険だと分かっていても苦しんでいる人たちを救おうと、雪はそう言っているのだ。
「戦おうよ皆! 私は一人だった時、誰かに助けて欲しいって思ってた。 きっと洛陽の人たちも今同じ気持ちだよ。 だから、助けてあげたいって思うんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・」
まさか雪がこれほど反発するとは思っていなかった。
雪の言葉は仲間の身を心配すること以上に、仲間を信頼しているから言えること。
そして心から、苦しんでいる人を助けたいと思っているからこそのもの。
仲間に助けられた彼女は、誰よりも助けを求める人の気持ちを知っている。
それが分かったから、一刀は何も言い返すことができなかった。
「クスッ・・・・・」
「?」
「ハッハッハッハッハッハ。」
「・・・・星?」
少しの沈黙を破って、突然星が笑い出した。
「確かに、雪の言うとおりだ。」
「え?」
「この趙子龍としたことが、危うく武人としての心を忘れるところだった。 なぁ愛紗?」
「フフ・・・・そうだな。」
「愛紗・・・・・」
笑う星の横で、愛紗もおかしそうに笑みを浮かべる。
「あたしも、雪に気づかされるとは思わなかったよ。」
「ほんとほんと。 雪もたまにはいい事言うよね♪」
「たまにはなのだ。」
「あ〜、ちょっとたんぽぽ、鈴々。 それどーゆー意味!?」
続いて翠、蒲公英、鈴々も、楽しそうに言う。
まるで、今まで戦の話をしていたことなど忘れているように。
「主よ、雪の言うとおりわれわれは武人。 戦から逃げてしまっては、ここにいる理由がなくなってしまうというものです。」
「星・・・・・」
「ご主人様の優しさは心から嬉しく思います。 しかし、今回ばかりはその優しさに甘えてしまうわけにはいかないようです。」
「愛紗・・・・」
「・・・・・・・行こうよ、ご主人様。」
「!・・・・桃香?」
そう言ったのは、以外にも桃香だった。
一番この戦いに反対していたであろう彼女が、今は笑顔で一刀の顔を見つめそっと手を握る。
「私は皆みたいに戦えないし、こんな事言える立場じゃなかもしれないけど・・・・・雪ちゃんの言うとおり、洛陽の人たちを助けてあげたい。 きっと皆も同じ気持ちだよ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だから、ね?」
これはもう、完全に一刀の負けだ。
ここにいる仲間たちの誰ひとり、恐怖がないはずはない。
特に桃香は、今こうして笑顔でいることがどれほど辛いことか一刀には痛いほどによく分かる。
なぜなら、必死に笑顔で自分の手を握る彼女の手は、ほんの少しだけ震えていたから。
自分の不安が周りに伝わらないようにと必死で笑顔をつくり、一刀の背中を押そうとしているのだ。
それは恐らく、戦場で剣を持てない彼女のせめてもの、そして必死の自分との戦い。
逃げていたのは自分だけ・・・・・・そのことに、この時初めて一刀は気づいた。
「・・・・・・わかった。」
こうなっては、自分だけ暗い表情をしているわけにもいかない。
桃香に負けないように、一刀も必死に不安を押し殺し、笑顔で顔をあげた。
「戦おう、洛陽の人たちを守るために。」
自分たちに不利な戦いになるであろうことを顧みず、反董卓連合に参加することを決意した一刀たち。
そして同じころ朱里の読み通り、袁紹からの書状は他の諸侯のもとにも届いていた。
曹操も・・・・・・・・・・・・・・
「フフ。 あの高飛車女め・・・・・この私を利用しようなんて、随分と舐められたものね。」
「いかがいたしましょう? 華琳さま。」
「そうね・・・・・袁家に協力するのは腹立たしいけれど、逆にこちらが向こうを利用して名を上げる絶好の機会よ。 ここはあの女の誘いに乗ってやるとしましょう。」
「はい。 ではそのように・・・・・」
「あぁ、それから珪花。」
「はい?」
「“あの子”には、この事は知らせないでおきなさい。」
「あの子・・・・?」
「あの放浪娘よ。 まだこの戦は、あの子を出すべきではないわ。」
「・・・・・ああ。 分かりました。 どのみち、アレはどこにいるかわかりませんから。」
「フフ、それもそうね。 それじゃあ頼んだわよ。」
「はい。」
そして孫策も・・・・・・・・・
「あらあら、皆で仲良くお手々繋いで友達ごっこしようってわけ?」
「どうするのだ雪蓮? もちろん袁術から参加しろとの命令は来ているが。」
「いいんじゃない? なんか面白くなりそうだし、それに・・・・・」
「それに?」
「もしかしたら、一刀に会えるかも知れないじゃない♪」
「・・・・・はぁ〜」
それぞれがそれぞれの思惑を胸に秘め、連合へ集おうとしていた。
だが、恐らくこの時はまだだれも知らない。
曹操、孫策をはじめとする反董卓連合に集いし諸侯。
そして彼女達が討たんとする標的、董卓。
この戦いによって、この物語に関わるすべての人の運命は―――――――――――
良くも、悪くも―――――――――――――――――――――
大きく、動き出すことになる―――――――――――――――――
〜〜一応あとがき〜〜
え〜、十九話でした。
今回からようやく董卓篇突入です。
いや〜、途中に西涼篇やら馬謖篇やら入れてたらここに来るまで大分長くなりました 汗
この戦いはこの物語の大きな分岐点となる予定なので、個人的には続きを書くのが楽しみですww
次回からはいよいよ連合終結!ということでまた読んでやってくださいノシ
説明 | ||
前回から大分空きましたが十九話目です。 新しくオリキャラの馬謖も仲間に加わり、新章突入ですww どうかお付き合いくださいノシ |
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コメント | ||
砂のお城さん=指摘感謝しますww すぐに訂正します 汗(jes) 砂のお城さん=コメントありがとうございますww 実はこの董卓篇で、一刀にとって大きな転機が訪れます。 そのあたりを楽しみにしててくださいww(jes) アラトリさん=コメントありがとうございます。 そうですね、原作に比べると戦いに対して逃げてしまう傾向が強い気がします 汗 でもこれから少しずつ変わっていくと思うんで、そんな一刀を見守ってやってくださいww(jes) 更新乙♪ う〜ん、この一刀は随分と消極的だね。さすがに周りが見えてないのは痛い、原作のイライラさせる桃香みたいだ。(アラトリ) |
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