一刀の記憶喪失物語〜袁家√PART7〜
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一刀が呉に来てから、呉の城は変った。

 

 

 

 

 

 

まず一つ目、とても賑やかになった。今までは厳しい蓮華のもと、とても静かな城だったが、一刀のお陰で楽しくなっていた。

 

 

 

 

そして2つ目、武将たちが綺麗になった。

 

 

 

 

 

特に何かをしたわけではないが、古よりこう言う言葉がある。

 

―――女は恋をすると、綺麗になる。

 

 

 

 

 

 

 

そして3つ目は・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

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蓮華がいつものように起き、着替え、そして朝食を食べに行く。

 

蓮華はまるで機械仕掛けの人形のように、いつも決まった時間に決まった行動を取っていた。それも、規律を重視する、王としての当たり前の行動だった。

 

今日も、いつも通りに朝食を食べに行こうと廊下を歩いていると、廊下の向こう側から、一刀と雪蓮、冥琳、祭と言う組み合わせが歩いてくるのが見えた。

 

蓮華は思わず廊下の隅に身を隠し、そして一刀たちから隠れる。

 

 

「(ぶるぶる)」

 

 

膝を抱えている手が震えている。

 

普段は王として自信があったとしても、一刀の前ではどうしても怖がってしまう。それも、王としての自信を失わせた一刀のせいだ。そのせいで、『王』ではなく『女』の蓮華になってしまったのだ。

 

楽しそうな会話が聞こえ、そしてしだいに遠ざかっていく。

 

 

 

 

「(ぶるぶる)・・・・・・・ふぅ」

 

 

 

 

 

 

ガン!

 

 

 

 

 

 

「ごらぁ!」

 

 

「ひっ!」

 

蓮華の隠れていたすぐ傍の壁が蹴られ、蓮華はその音にびっくりして思わず悲鳴をあげた。

 

 

「何だ!?何で隠れてんだよ!」

 

 

「な、何でもないの・・・・(ぶるぶる)」

 

 

「ちょうどいい。おい、飯食いに行くぞ」

 

 

「えっと・・・・実はさっき食べちゃったの・・・・だから・・・・その・・・・・」

 

 

「あぁん!?」

 

 

「ひっ!ごめんなさい!嘘です!ご一緒します!」

 

 

蓮華はよろよろと立ち上がると、生まれたての小鹿のようにプルプル震えながら一刀の傍を歩き始めた。

 

 

「あら、おはよう蓮華」

 

 

「お、おはようございます・・・・・」

 

 

「何やら面白いわね、あなた」

 

 

「本当だな。蓮華さま、新しい修行ですかな」

 

 

「ふむ。わしもマネしてみようかのぉ」

 

 

にやにや、と笑みを浮かべながら蓮華を見る三人。それに当然蓮華も怒り

 

 

「五月蠅い!」

 

 

「あぁん?てめぇの声の方がうぜぇんだよ!朝っぱらから叫ぶんじゃねーよ!」

 

 

「ご、ごめんなさい!(ぶるぶる)」

 

 

すっかり一刀に逆らえないようになってしまった蓮華に、雪蓮たちは声をあげて笑った。

 

何か言い返そうとしたが、結局何も言い返せず、仕方がなくとぼとぼと四人と一緒に食堂へと向かった。

 

食堂にはすでに料理が並べられており、蓮華はいつも通りに自分の席に座って、食べ始めた。が、対面には一刀が座っており、落ち着いてご飯が食べられず、結局は味も分からぬまますべて食べ終えてしまった。

 

蓮華は食べ終わると、そそくさと立ち上がり、自室に逃げ込もうとした。

 

 

「おい!何出て行こうとしてんだよ!」

 

 

「ひっ!だ、だって食べ終わったから・・・・・(ぶるぶる)」

 

 

「ちゃんと料理人に挨拶しろ」

 

 

「えっ?だって、お姉さまたちだってしてないし・・・・」

 

 

と振り返ってみると、それぞれ食器を片づけやすいようにまとめ、そして台所にいる料理人に「ごちそうさまー」と挨拶をしていた。

 

 

「してんじゃねーか。お前、いつも一人で飯食ってたから、知らなかっただけだろ」

 

 

「で、でも料理作るのは料理人の仕事だし、当たり前のことだし、わざわざ礼は言わなくても・・・・(もじもじ)」

 

 

「あぁん!?てめぇは、いつから俺に口答え出来るほど偉くなったんだ!?」

 

 

「わ、私は呉の王だから、一刀よりも偉いと思うけど・・・・・」

 

 

「あぁん!?」

 

 

「何でもないです!」

 

 

蓮華は雪蓮たちのを見よう見まねで食器をまとめると、台所にいる料理人に声をかけようとした。すると、ちょうどタイミングよく、料理人が食器を片づけにやってきて。

 

 

「おや、孫権さま。どうかなされましたか?」

 

 

「あ、いや・・・・その・・・・・」

 

 

「(ギロ)」

 

 

「うぅ・・・・・う、うまかったぞ。ごちそうさま」

 

 

「は、はぁ・・・・」

 

 

最初は何を言われたのか分からなかったが、礼を言われたのだと気がつき、料理人のおじさんは笑顔になって。

 

 

「いえいえ、喜んで貰えて何よりです」

 

 

と上機嫌に食器を片づけ始めた。

 

 

 

 

 

 

―――一刀が呉に来て、変ったこと。

 

 

 

 

三つ目は、蓮華が優しくなったことだった。

 

 

 

 

 

 

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雪蓮に蓮華の貸出の許可を得た一刀は、朝食後から夕食まで自由に蓮華を連れだせる権利を得ていた。蓮華の仕事はそのまま雪蓮がすることになったが、雪蓮は自分の妹のため、少し不満そうだが、しっかりと仕事をしている。

 

 

だが、一刀との一緒の生活は蓮華にとっては地獄のような日々で、いつも泣きそうになっていた。

今日も、蓮華と一刀は中庭を散歩していた。散歩、と言っても、一刀の後方を少し離れてとぼとぼと蓮華が歩いているだけだが。

 

 

「あ、一刀さま!」

 

 

「よぉ、亞莎じゃねーか」

 

 

中庭では木の陰で本を読んでいる亞莎が居た。一刀の姿を見かけると、嬉しそうに寄ってくる。その姿はまるで子犬のよう。

 

 

「どうかなされたんですか?」

 

 

「ん?こいつを効率よくいじめる方法を考えてた」

 

 

と、一刀は蓮華を指差した。蓮華は指を刺されただけなのに、ビクっと震え、そして「(ぶるぶる)」と震えている。

 

その姿に、少し可哀そうに思いながらも、ずっと一刀の傍にいれて羨ましい、と亞莎は思った。

 

 

「あ、あの一刀さま。蓮華さまはもうよろしいのではないですか?」

 

 

「あぁ?」

 

 

「えっと、近頃、城の使用人たちの間で「孫権様が優しくなった」「心が広くなった」と評判になっていました。なので、もう蓮華さまを虐めるのは止めて、私と一緒に街の警邏にでも・・・・」

 

 

「おぉ!そうか、街だ」

 

 

「・・・・はい?」

 

 

「亞莎。いいこと言った。後でゴマ団子買ってきてやる」

 

 

「あ、いえ、それは嬉しいのですが・・・・」

 

 

「おい蓮華!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「これから街に行くぞ!」

 

 

「えっ・・・街・・・?」

 

 

「そうだ。街を堂々と歩け。嫌とは言わないよな・・・・?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

 

と、一刀は蓮華を連れて、あっと言う間に街に行ってしまった。

 

取り残された亞莎は、がっくりして、そして一刀が買ってきてくれるだろう、ゴマ団子を想って、少しだけ嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

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ジロジロ

 

 

 

蓮華と一刀に視線が集まる。

 

しかし、蓮華が視線を民に向けると、民たちはすぐさま立ち去ってしまう。

 

その様子を見て、一刀が思ったことをそのまま口にした。

 

 

「お前、嫌われてるのか?」

 

 

「わ、分からないわ。でも、いつも厳しく民に接してきたから、怖がっているのかも・・・」

 

 

「ふーん。厳しくねぇ・・・・まぁ、間違ってはねーよな」

 

 

「えっ・・・?」

 

 

「民に言うことを聞かせる。それに一番効率がいいのは、恐怖だ。厳しく罰し、厳しく取り締まれば、民は自然と言うことを聞いてくれる。だから、お前がやってきたことに全否定はしない」

 

 

「ほ、本当?」

 

 

初めて一刀に褒められたことに、蓮華は不覚にも泣きそうなほど嬉しかった。

 

 

「あぁ。でもな、それだけじゃあ駄目だ。もっと民と触れ合わないと」

 

 

「触れ合う・・・?」

 

 

「ほら、雪蓮なんて、よく民と遊んでるだろ?」

 

 

「えぇ、仕事をサボってね・・・・」

 

 

「だがな、そのお陰で、民は雪蓮に絶対な信頼を置いている。そのお陰で、いざという時、民たちは協力してくれるんだ」

 

 

「な、なるほど・・・」

 

 

「それでだ、今日は街の子供たちと遊ぶぞ。安心しろ。よく俺や斗詩と猪々子と暇な時に遊んでた奴らだから、心配はいらない。」

 

 

「で、でも、私、子供と遊んだことなくて・・・・」

 

 

「あぁん!?」

 

 

「や、やりますぅ・・・・・」

 

 

うるうる、と涙目な蓮華を連れて、一刀は街はずれの広場へとやってきた。

 

ちょうど一刀がやってきた時は、子供が六人ほどいて、何やら遊んでいた。

 

一刀はその子供たちに近づいていき。そして、声をかけた。

 

 

「よぉ、糞ガキ。何してんだ?」

 

 

一刀の乱暴な言葉遣いに、蓮華は眉をひそめた。子供相手にそんな言葉を使えば、怖がってしまうのではないか。

 

 

しかし、子供たちは一刀に振り向くと

 

 

「わー、天のお兄ちゃんだぁ。また遊ぼうよ」

 

 

と一刀に寄ってきた。

 

その光景に、何故?と疑問に思う蓮華。

 

 

「蓮華。子供の相手をする時に必要なのは、優しい言葉じゃねーんだよ。必要なのは、同じ立場、同じ目線だ」

 

 

「立場・・・?」

 

 

「そうだ。お前、いつも王として民を見てただろ」

 

 

「え、えぇ」

 

 

「でもな、雪蓮は同じ呉に住む同じ民として接してるんだよ。それがどんなことよりも重要だ。王も人なんだ。そんで、民も人なんだ。同じ人だってことを忘れるな」

 

 

一刀はそう言うと、子供たちに行った。

 

 

「おめぇら、今日はそこに居る奴とも遊んでやってな」

 

 

「???うん、お兄ちゃんがそう言うなら、遊ぶ。それで、何やるの?」

 

 

「そうだな・・・・かくれんぼでいいか?」

 

 

「わーい!やろうやろう!」

 

 

きゃきゃ、とはしゃぐ子供に、蓮華は不思議と心が穏やかになるのを感じていた。

 

 

 

―――呉の未来とは、こういう子供たちなのではないのか。そして私たちが守らなければならないのは、このような笑顔ではないのか。

 

 

 

 

蓮華はなぜ、そんな当たり前のことに気が付けなかったのかと悔んだ。だが、こうして気が付くことが出来て、蓮華は嬉しく思った。

 

 

「おい!蓮華!お前が鬼だ。よし!かくれるぞ!」

 

 

「「わーい!」」

 

 

「あ、こら!勝手に決めないでよ!」

 

 

 

 

 

 

 

結局、最後の方は蓮華が本気になって遊びに夢中になり、そして服を泥だらけに汚したことで初めて雪蓮に怒られたのだった。

 

 

 

 

 

 

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城に戻り、一刀と蓮華は雪蓮の説教を終えて、部屋から出てきた。

 

 

「ふぅ、こんなの初めてだわ。雪蓮お姉さまに叱られるなんて」

 

 

「説教つっても、あいつ笑ってたじゃねーか。そんで「何して遊んだの?今度は私も混ぜて」って言ってただろ」

 

 

「ふふ、でも楽しかったわ」

 

 

「だろうな、最後の方は、お前、なかなか勝てなくて、半泣きになって探してたじゃねーか」

 

 

「あ、あれは・・・・その・・・・・」

 

 

「でもまぁ、子供がなついてくれてよかったじゃねーか」

 

 

「そうね。嬉しかったわ」

 

 

「これで分かっただろ?対等の立場で居るだけで、こんなにも人の距離ってのは縮まるもんだって。ほら、今だって俺と普通に話してるじゃねーか」

 

 

そう言われて、蓮華は気が付いた。

 

いつの間にか、自分は一刀の隣を歩いていた。

 

・・・・少しだけ、恥ずかしかった。

 

 

「あのね、一刀。最初は貴方が怖かった。私の存在を否定して、そして私の自信を打ち砕いた貴方が・・・・でも、何故かしら。貴方と遊んだ時、とっても楽しかったの」

 

 

「そうかい」

 

 

「私、きっと貴方のことを「天の使い」としか見てなかったんだと思う。でも、こうして遊んで、一刀は私たちと同じだって分かったから、怖くなくなったんだと思うわ」

 

 

「そうか」

 

 

「だから・・・・その・・・・・お礼を言わせてくれる?王として大事なことを気付かせてくれたお礼・・・・」

 

 

「あん?嫌だ。礼を言うなら、お前が王になった時にでも聞かせてくれ」

 

 

「・・・・そうね。なら、きっと立派な王になった時に礼を言うから、その時は・・・・・私の傍にいて・・・・ね?」

 

 

「・・・・・考えとくよ」

 

 

 

 

 

月光に照らされれる二つの陰が、より一層、距離が縮まったように見えたのは、けして錯覚ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな二人を後から眺める陰が二つ。

 

 

「うぅ、一刀さん。遊ぶなら私にも声をかけて下さいよぉ」

 

 

「ゴマ団子、まだかな。ゴマ団子、まだかな」

 

 

仲間はずれにされて寂しい斗詩と、ゴマ団子のお土産を楽しみにしている亞莎が、二人の後をつけていた。

 

そして、一刀がその二人の存在を全く忘れていたことが発覚して、泣きだした二人に必死に謝る珍しい一刀が見れたのは、その後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

――結局、一刀と蓮華が一緒に遊びに行ったのは、それが最初で最後だった。

 

だが、蓮華は一人の時でも積極的に街へ出向き、そして地道に民たちとの交流を続けていた。

最初は戸惑っていた民たちだったが、次第に心を開き、そして今では、蓮華が歩くと雪蓮のように民たちが気軽に声をかけてきてくれるほど仲良くなったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

説明
PART7です。

さて、今回に限り、蓮華のキャラが崩壊しています。まぁ、普段と違う、というだけで、不快に思わせる壊れ方はしていませんが・・・・

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コメント
忘れ去られた亞莎や声すら掛けて貰えなかった斗詩はそりゃ拗ねますね・・・しっかり埋め合わせしてあげなさい^^; 蓮華の子犬状態から笑顔になるまでがとても微笑ましかったです^^b(深緑)
お〜やる〜〜〜(スターダスト)
やるな一刀君!(ryu)
めでたしめでたし・・・w(おやっと?)
良い話だ〜(´∀`*)w ついに蓮華も一刀の手中に((( ;゚Д゚)))(みっちー)
、ここの蓮華さまいいな。他にはない面白味がある(流狼人)
怖がり蓮華がとてもかわいいですねw雪蓮に怒られる蓮華というのもなかなか新鮮じゃないですか(ue)
コメアリガト!(´▽`)蓮華に対しての反響がいいですねw極端に強気と弱気の強弱をつけて、ギャップ萌えをだしてみたのですが、よかったですwあと、誤字ありがとうございました(戯言使い)
これはこれでありだな(ROXSAS)
・・・もう蓮華さんこのままで良いよね? というか亞莎さん不憫・・・みんなかわいいですけどねw(よーぜふ)
予想以上にいい話だw 一刀の今後の活躍に期待!(イタズラ小僧)
・・・なんかこう胸にこみ上げてくるものがありますね。これが、萌か・・・(BX2)
何だかすごく良い話になってるw 相手が誰であろうとはっきりと物事を言える・・・簡単そうで難しいですから(村主7)
びびってるのも可愛いなww(btbam)
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真・恋姫†無双 一刀の記憶喪失物語 袁家√ デレ斗詩 ワイルド一刀 怖がり蓮華と怖い一刀 

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