バカと優等生と最初の一歩 第四問 |
バカテスト 国語
【第四問】
問 「羅生門」などの作品で知られる小説家「芥川龍之介」、彼は服毒自殺をしていますがその
原因としてある物を見たためではないかという説があります。そのあるものとは何か答えな
さい。
霧島翔子の答え
『ドッペルゲンガー』
教師のコメント
正解です、ちょっと苦しい問題かとも思いましたがさすがはAクラス代表ですね。こんな問題でも答えられますか。
吉井明久の答え
『負のオーラをまとった美――』(途中で答案が破れている)
坂本雄二の答え
『浮気したと誤解した翔■■■■』(途中から答えが塗りつぶされている)
教師のコメント
とりあえず死亡フラグには注意しましょう。そしてそれを見た君たちの死因は自殺ではなく他殺ですよね。
土屋康太の答え
『女子の■着替■■見■■■■』(ところどころ血痕が残っている)
教師のコメント
それで死に掛けるのは君くらいでしょう。
秀吉視点
さて、ワシの仕事は敵のかく乱とムッツリーニをこの先へ無事送ることか。
「……秀吉」
「ん、なんじゃムッツリーニ」
「……いつの間に着替えた?」
「……?今着替え終えたところじゃが?」
どこかおかしなところでもあったのじゃろうか。自分の格好を見直してみる。今ワシが着ているのは文月学園の女子用の制服。姉上のふりをしてAクラスに潜り、内側からの情報操作でかく乱してみようというわけじゃ。
「……くっ、写真が……」
ムッツリーニはなぜか悔しそうに床を叩いておるが……、まあどうせ碌なことではないじゃろう。それより……。
「戦況の方はどうなっておるのじゃ?」
「……現状は大きく二つの線上に分かれている。階段付近でA・D・E・Fクラスが戦闘、こっちは大混乱して味方を攻撃している奴もいる」
「お、復活しよったか……、ふむ、それはここからもわかるの。島田と姫路も突破できずにいるようじゃ」
「……それと対照的に整然としているのがAクラス前でのA・B・Cクラスの戦闘。Aクラスは戦力が分断されているが、個々の点数が高いのとB・Cクラスの連携がうまくいってないのとで割と両局面でも優勢。木下優子の指示もなかなか良い様子」
よくわかるのう、ここからだと階段前の人ごみでその向こうまで見えんと言うのに。決定的一瞬をとらえる為に観察力が磨かれでもしたのじゃろうか……。
「伊達に盗撮しとるわけではないということじゃな」
「………………盗撮とかしたことない」
「……その嘘は表情を見んでもわかるぞ、ムッツリーニ」
「………………それより、これからどうする?」
むっ、話をそらしおったな。まあ、いまさらムッツリーニに盗撮云々に関して何か言っても無駄じゃしの。今必要なことを考えるとするか。
「さすがにそろそろワシらも動かないとまずいの」
「……今戦場が移動してAクラスは完全に分断されてBクラスの入口前が空いている。俺はそこから教室内を通って奥の戦場の背後を回り、Cクラスへ向かう」
「ならワシは姉上のいないこちら側のAクラスの陣へ行くとするか。問題はこの乱戦と通路のせいでどう通っても誰かの目に触れることじゃな。せめて一瞬だけでも注意をひけるといいのじゃが……」
現在の召喚フィールドは数学。ワシとムッツリーニでは強行突破は難しいし、そもそもそれほど目立ってしまっては作戦が成り立たない。
どうしたものか悩んでいたが、ムッツリーニに何か策があるようじゃ。
「……それならまかせろ」
そう言ってサムズアップすると、ムッツリーニは混戦の少し手前で戦況を見守っていた姫路に近付いて何やら耳元で囁いてから戻ってきた。姫路は俯いて震えているようじゃが、いったい何が?
「何を話しておったのじゃ?」
「……すぐ分かる」
そう言われて姫路を見ると、キッと前を見つめて手を前にかざした。それに呼応するように姫路の召喚獣も手をかざし、その手につけられた腕輪が光を発し――って、
「総員っ!! 壁に飛ぶのじゃ――っ!!」
叫んだ瞬間、廊下がまばゆい光に包まれた。
康太視点
『0点になった生徒は補習だ、ついてこい』
『嫌だっ!! 鬼の補修は嫌だっ!!」
『と言うか俺たちはこの戦争関係ないだろ』
『やかましい、0点は0点だ。おとなしくしろ』
『いぃいいいやぁああああっ!!』
光が消えたあと残ったのはまさに死屍累々といった表現がぴったりの風景。姫路の腕輪の効果で大分削れたようだ。鉄人がやってきてかなりの人数が補習室送りになった。
「ムッツリーニィーッ!! お主、なんてことするのじゃっ!!」
「……狙い通り、道ができた」
戦場のほうに視線を移せば、Aクラス前での戦闘がよく見えるようになっている。思った通り、Bクラスの入口付近は空白地帯ができていた。これでCクラスまでたどり着ける。
「じゃが、だからと言って味方もろともやるのはどうかと思うのじゃ」
「……それも心配ない」
さっき確認したところ、鉄人に連行されたなかにFクラスメンバーはほとんどいなかった。瀕死状態だった何人かが余波でやられたが、日々鉄人とやりあっているFクラスメンバーの危機回避能力を甘く見るな。
それを言うと秀吉も諦めたのか溜息を吐いた。
「……確かに、結果オーライともいうしの。この好機を無駄にするわけにはいかぬか」
「……そういうこと」
ようやく秀吉も納得してくれた。後は秀吉をAクラスまで連れて行き、俺はCクラスに忍び込むだけ。
そう思って秀吉を連れ出そうとしたところで、こちらに歩いてくる人物を見つけ、慌てて秀吉をFクラスのまとまっているところに押し込む。今見つかるわけにはいかない。
「そこにいるのは土屋君かい? さっきのは姫路さんの腕輪だね。なかなかやってくれる」
「……久保、利光」
ちっ、厄介なやつが……。足元には奴の召喚獣。その点数は、
『Aクラス 久保利光
数学 285点 』
くっ、さすがAクラス。確か久保は文系だったはずだがそれでもこの点数。俺では保健体育以外で勝ち目はない。相手もそれが分かっているのだろう、ゆっくりこちらへ歩いてくる。
「だけどそれもここまでだ。吉井君は僕が貰い受ける。Aクラス久保利光、Fクラスの土屋――」
「その勝負、姫路瑞希が受けますっ!!」
覚悟を決めて召喚しようとしたその時、久保の声を遮って姫路の声が聞こえてきた。そのセリフとともに俺の横を駆け抜けて、姫路の召喚獣が久保の召喚獣に斬りかかった。
「やはり来たか、姫路さんっ!!」
「吉井君は渡しませんっ!!」
「ふふっ、前回の僕とは思わないことだね」
「私だってっ!!」
叫ぶ間もぶつかり合う二体の召喚獣。周囲はその戦いを呆然と見ている。……無理もない。二人とも学年トップクラス、これほどハイレベルでのぶつかり合いはそうそう見ることができないだろう。だが、これはチャンス。予定外のことだが皆の意識が二人に向いている間に廊下を抜ける。秀吉も同じ考えのようで、こちらへ近寄ってきた。
「ムッツリーニ、今ならいけるぞ」
「……了解」
秀吉とともに戦場を駆け抜け、秀吉はAクラスの陣に残り、俺はBクラスへ飛び込む。
「ムッツリーニッ!! 気をつけるのじゃぞっ!!」
「……そっちこそ、ここは任せた」
……このままB・Cクラス連合の背後からCクラスへ侵入する。
『きゃあ。ちょっとどこ触ってるのよ!!』
『やっ、スカートが引っ掛かって……』
『あ、ボタンが飛んじゃった!!』
「…………」
懐に手を伸ばすとカメラの固い感触が返ってきた。
……まだ時間はあるはず。
優子視点
「これでとどめよっ!!」
掛け声とともにアタシの召喚獣がCクラス代表、小山友香さんの召喚獣を貫いた。
「くぅ〜、また負けた……。木下優子、次は絶対負けないからね!!」
小山さんは捨て台詞を残し、西村先生に引きずられていった。だからそれは秀吉だってば!!でもまあ、これで背後に残っていた敵は全部倒したか。
にしてもこれはありなの? 突然関係ないクラスまで参加してくるなんて。背後を突かれたおかげで序盤から大打撃を受けたわ。っといけない、愚痴をこぼす前にまず崩れた陣形を立て直さないと。
「いいみんな、二人、もしくは三人一組で一人の敵にあたりなさい。個々人の点数では勝っていても、この混戦の中に単独で入ってもやられるだけよ。表面から徐々に削っていきましょう」
「「「はいっ!!」」」
「点数を削られた人は回復試験を、それ以外はどこか別の班に合流して。なるべく相手より多い人数で攻めるのよ」
「「「了解っ!!」」」
ふぅ、何とか持ち直したかしら。他クラスを巻き込んだ予想外の混戦に敵陣深くからの姫路さんの熱線砲撃。それに今は戻ったけどさっきまで妙に前線が崩れてたのも気になるわね。。やっぱりFクラスは一筋縄ではいかないわ。思った以上に戦力を削られてしまった。でも他のクラスは決してFクラスの味方というわけではないし、熱線も突出した久保君が受けてくれたからこちらへの被害は最小限で抑えられたと思う。後は敵陣に突っ込んだ久保君がどこまで行くかだけど。
「報告、久保君がFクラス前で姫路さんと一騎打ちを行い敗北、そのまま補習室へ送られました」
よし、これで不安要素はなくなった。この戦争、一番心配だったのは久保君の勝利だ。姫路さんか島田さんが勝つ以上にそれが心配だった。その久保君が戦死、しかもFクラスにあってAクラス、それも代表に迫る点数を持つ姫路さんと戦って。これで不安要素の久保君は消え、その久保君と戦った姫路さんもそれなりに点数は削られたはず。残るのは島田さんだけど……
「あぁーだめっ、突破できないっ!! ッていうかFクラス対Aクラスにしたらうちらのほうが不利じゃないっ!!」
そんな叫びが戦場の向こう側から聞こえてきた。島田さんにはAクラスに太刀打ちできるほどの点数はない。だったら後は、
「皆聞いて!! 久保君がやられたことはショックだと思う。でも彼はその身で敵の砲撃から私たちを守ってさらに姫路瑞希さんに戦いを挑んだ。結果として敗北したけれど、彼だって学年次席。彼女に相応の手傷を負わせてくれたはずだわ。だったら私たちがすることはただ一つ!! 彼の死を無駄にしないためにもここを制圧し、この戦争に勝つわよ!!」
『お―――っ!!』
これでよし、戦線を整えて士気も向上させた。後は当初の予定通り渡り廊下の階段を確保するだけね。さて、そろそろあたしも参戦しようかしら。思った以上に時間がかかりそうだし。
……まって、思った以上に時間がかかりそう? 他クラスの参戦に情報伝達の乱れ、それによる制圧時間の延長。これは本当に偶然? いや、向こうの代表は坂本君だ。これは意図的な時間稼ぎと見た方が無難。だとすると目的は? 時間稼ぎする理由の一つは援軍の到着を待つこと。でもこの試召戦争では戦力はクラスメンバーのみ、Fクラスは最初からほぼ全戦力を投入してきてるからこれ以上、少なくとも戦局が変わるほどの人数が来ることは考えられないし……。ん、そういえば……。
「ねえ、ちょっといいかしら」
回復試験を受けに戻る途中の一人を捕まえる。
「あの混戦の中で、坂本雄二、吉井明久、土屋康太、木下秀吉のウチ誰か一人でも見たかしら」
「いえ、見てないですけど」
「そう、ならいいわ。回復試験、頑張ってね」
やっぱり。坂本君がいないのは代表としてFクラスで防御を固めているとしても、他の三人が見えないのはおかしい。彼らは防衛に回すより指揮を取らせた方がいいと思う。今まではそうしてきたはずだし。とするとどこかで何らかの作戦を行っていると考えるのが妥当ね。ここの選挙区をひっくり返せない以上、彼らが取る策としてはAクラス代表に奇襲をかけるくらいかしら。でもどこから? 唯一の通路は戦場になってて抜けられないし。そういえばFクラスがBクラスに勝った時って……。
「ッ!!まさかっ!!」
明久視点
「……雄二」
「なんだ、明久」
「…………マジでやるの?」
「マジだ」
茫然とした僕の目の前には文月学園新校舎がそびえ立っている。見上げると3階の窓からムッツリーニが見えた。予定通り、ムッツリーニがCクラスの窓を開けてくれたんだろう。なぜか鼻血を出してるのが気になるけど……。
「……いやいや無理だって」
「オイオイ何言ってるんだ明久。お前だって了承しただろ」
確かに了承した。秀吉たちが敵を引き寄せている間に僕らは保健体育担当の大島先生を連れてムッツリーニが確保したCクラスから3階に戻りAクラスに突入、僕と雄二がその他のAクラスを押さえ、その間にムッツリーニが霧島さんを討つ。確かに了承した。でも……。
「人間砲弾になることまで了承した覚えはないっ!!」
まさか一階から三階までの移動手段が召喚獣に投げてもらうだとは思わなかった。確かに召喚獣の腕力があってなおかつ『観察処分者』である僕の召喚獣なら人に触れることもできるから理論上可能ではあるが……。
「僕はやだよっ、怖いじゃないか!! 雄二がやれよ!!」
「俺だっていやに決まってる!! サッサとお前が上に行ってロープをおろしてくればいいだろう!!」
「そのために飛ぶのがやなんだよっ!! なんでムッツリーニに持たせなかったのさ!?」
「んなもん持ってたら隠密行動できないだろっ!! お前は何のために塩と水だけの生活を送ってきたんだ!?」
「だから僕は砂糖も食べてるっ!!そして僕の食生活のレベルの低さは少なくとも生身で空を飛ぶためではないっ!!」
まったく、雄二は僕のことをなんだと……、飛ぶために断食して体重を減らしているとでも思ってるのか? 僕が塩とか水で食いつないでるのは新作ゲームの頻繁に出るからなのに。
とまあ、そんな感じに雄二と言い争っていると急に浮遊感を感じて――って痛ぁああああ!!
「ぐぁあああっ、何事だ!?」
僕のすぐ目の前では同じように雄二も宙づりになって悶えていた。見れば雄二の頭にはやたらごつい手がくっついており、その根元の方へ視線の向けてみれば――
「吉井、坂本。またお前らか」
――げっ、鉄人だ。
「なんだ吉井に坂本、その『げっ鉄人だ』とでも言いたげな顔は」
「なんで考えてることが分かった、このチンパンジーもどき(やだなぁ西村先生、そんなこと考えてるわけないじゃないですか)」
「このチンパンジーもどき、やっぱり人類の進化の枠から外れてやがったか?(そうっすよ西村先生、俺らほどまじめな生徒はこの学園にはいないでしょう)」
「……そうかそうか、お前らの考えていることはよ〜く分かった」
あれ、今本音と建前が逆に出たような……。
「……そういえばお前たち、Cクラスに行きたいんだったな」
やばいっ、鉄人がキレてる。しかもこの流れからすると、次の行動は……。
「だったら俺があそこまで運んでやるとしよう。そぉおおうらぁあああああああ!!」
「「やっぱりかぁ――――っ!!」」
鉄人の咆哮とともに、僕と雄二は大空へ向かって投げ飛ばされた。
「いったぁ〜。雄二、ムッツリーニ、大丈夫?」
「……なんとか」
「つぅ〜、鉄人の野郎、無茶苦茶しやがって。ほんとに人間か?」
いや雄二、これは君がやろうとしてたことだからね。まあ、生身で人を投げ飛ばす鉄人は明らかに人類のカテゴリにいないと思うけど。
鉄人に投げ飛ばされた後、覗いていたムッツリーニを巻き込んで僕らはCクラスに転がり込んだ。大分騒がしくしてしまったけどAクラスに気付かれなかったようでよかった。
「お前ら、倒した机はちゃんと直しておけよ」
ちなみに大島先生はロッククライミングの要領で壁を登ってきたらしい。この学園の教師どもは化物ぞろいか!?
「よし、こんなもんだろ。明久、ムッツリーニ、いくぞ」
「雄二、やけにやる気あるね。HRであんなこと言ってたから今回は特に勝つ気ないのかと思ってたけど……」
「俺の目的は力がすべてじゃないということの証明だ。模擬戦だろうが最下位クラスで最高クラスを倒せばそれが為される。それに……」
「それに?」
「これに勝てば翔子から婚姻届を取り戻すことができる。あれが翔子の手にあるうちは平穏な学園生活を送ることができないっ!!」
握り拳を作って振り絞るように言う雄二。
こいつはまだ諦めてなかったのか……。いい加減諦めればいいのに、あんな美人の霧島さんに言い寄られて何が不満なんだ?
「俺のことよりお前はどうなんだ、明久」
「……同感」
「僕?」
「ああ、お前はなんで俺についてきた?」
「なんでって、雄二がついて来いって言ったんじゃないか」
自分で引っ張ってきておいて何言ってるんだこいつ。
「そういう意味じゃない、ついてきたってことは多少なりとも勝ちたいってことだろ? なんでだ?」
ああ、そういうことか。勝ちたい理由ねぇ、とりあえず負けたくないってのもあるけど、
「なんか喧嘩してるらしいじゃないか、美波と姫路さんと秀吉のお姉さん。命令するのはどうかと思うけど、仲直りするように言ってみるくらいはしようかなって思って」
「……明久らしい」
「確かにな。だが明久、喧嘩の原因はわかってるのか?」
「いや、それが全然」
そうなんだよな。そもそもあの三人って喧嘩するほど関連あったかな? 確か昨日秀吉のお姉さんと会った時はそんな感じじゃなかったと思うから、あのあとなにかあったのかな?
「「……はぁ」」
「なんだよっ、二人して溜息吐いて」
失礼だなぁ、まるで僕が何も分かってないみたいじゃないか。
「なあ明久、お前は他のFクラスの奴らみたいに誰かをデートに誘おうとか思わないのか? たとえば木下優子とか」
「……? なんで秀吉のお姉さん?」
「いや、なんでって……」
「……明久、秀吉のこと、どう思う?」
「可愛いし優しいし好きだよ」
はっきり告げる。なに当たり前のこと聞いてくるんだろう、ムッツリーニは。
「……なら木下優子は?」
「そりゃ秀吉に似て可愛いし勉強も運動もできてすごいと思うよ」
「……ならデートに誘いてぇとか思わないのか」
いや、なんでそこからデートに話が飛ぶのかわかんないんだけど……。
「僕、秀吉のお姉さんのことよく知らないし、向こうだって僕のことそんなに知らないでしょ。無理矢理デートさせるっていうのも違うと思うし」
「「…………はぁぁっ」」
「さっきよりも深い溜息っ!?」
「……ここまでとは思わなかった」
「こりゃ木下も大変だな」
二人で何やら小声で話してる。一体なんだって言うんだ、まったく。
「そんなことよりっ!! 今はAクラスとの試召戦争の方が大事でしょ」
そう言って扉に近付くと僕が手をかける前に勝手に開いた。
「あれ? Cクラスって自動ドアだっけ?」
「落ち着けバカ久。ちゃんと前見ろ」
少し目線を下げてみるとそこには秀吉のお姉さんが立っていた。
「うわっ、秀吉のお姉さん!! 雄二、どうしようどうしよう!? とりあえずサモ――」
「だから落ち着け。お前、秀吉だろ?」
召喚獣を召喚しようとしたら雄二に口を塞がれて無理だった。……って今こいつ何て言った? 秀吉?
「……ほんとに秀吉?」
「いかにも、ワシは秀吉じゃ」
ほんとに秀吉なんだ。どっから見てもお姉さんの方にしか見えないけど。さすが双子。秀吉の演技がうまいってのもあるだろうけど、全然区別付かないや。にしても秀吉はなんでお姉さんの格好をしてるんだろう。いつもは女の子の格好嫌がるのに……。そうか、秀吉は不幸にも戸籍上は男になってるけど、やっぱり女のことして見られたかったんだね。
「安心してよ、秀吉。君は180度どこから見ても完璧な美少女だよ!」
「……なんでそうなるのじゃ」
「……しかも180度足りない」
「まあ、あながち間違いとも言えないのか?」
しまった、π=180度っていうのが頭に浮かんでつい……、あれは半周だった。ていうか同じ角度なのになんで言い方が二つもあるんだよ、紛らわしいっ!!
「明久、バカやってないでさっさとAクラスに殴りこむぞ。これでこの戦争も終わりだ」
そう言って雄二はさっさとCクラスを出て行った。ムッツリーニと大島先生も僕に構わず雄二の後を追っていく。ひどいや、みんな。
と思ったら秀吉だけは教室の入り口で僕を待っていてくれた。ああ秀吉、やっぱり君だけは僕に優しくしてくれるんだね。
待たせても悪いから急いで秀吉に駆け寄る。
「じゃあ行こうか、秀吉」
そう僕が呼びかけると、秀吉は頬を紅く染めながらコクリとうなづいた。
「よう翔子、またせたな」
「……雄二、ようやく来た」
Aクラスに乗り込んだ僕たちを待っていたのはAクラス代表霧島翔子さん、工藤愛子さん、そしてAクラス担任高橋先生の三人だった。
「あんまり驚かねぇんだな、せっかくAクラスの防衛線を抜けてきたってのに」
「……雄二ならそれくらいできるってわかってた」
「はっ、そうかい。Aクラスの代表様にそう言われるとは光栄なことだな。じゃあ時間もないことだしさっさとラストバトルを始めるか。ムッツリーニ、工藤は任せたぞ。大島先生、召喚許可を」
「召喚を許可しよう」
「……了解した、試獣召喚(サモン)」
「ムッツリーニ君、今日は負けないよ!! 試獣召喚(サモン)!!」」
『Aクラス 工藤愛子 VS Fクラス 土屋康太
保健体育 526点 VS 584点 』
二人の喚び声とともに現れる召喚獣。その点数は驚異の一言だ。その500点オーバーの召喚獣がぶつかり合う。
「……吉井、そろそろ私達も戦う」
「分かったよ霧島さん……、試獣召喚(サモン)!!」
「……試獣召喚(サモン)」
『Aクラス 霧島翔子 VS Fクラス 吉井明久
保健体育 312点 VS 87点 』
さすが霧島さん、得意科目ってわけでもないのにこの点数。まともにぶつかったら僕の召喚獣なんか一瞬で消し飛ばされる。
「よしいけっ、僕の召喚獣っ!!」
でもそれはまともにぶつかったらの話だ。霧島さんの召喚獣に向かって一直線に走らせる。僕の召喚獣を迎え撃つように構える霧島さんの召喚獣。間合いに入った瞬間振るわれた刀を伏せてかわし、がらあきの胴体に木刀を叩きつける。
「・・・・・・くっ」
たまらず後退する霧島さんの召喚獣に追撃をかけるべく、上段から木刀を振りおろす。残念ながらこの一撃は防がれたがそれでも少しは点数を減らせた。次いで反撃の隙を与えないようにどんどん木刀を打ちこんでいく。よし、思った通り、召喚獣の操作は僕の方が上だ。これならいけるぞ。
そう思ったのは雄二も同じようで、僕の背後から霧島さんに挑発的なセリフを投げかける。
「おい翔子、俺たちがいることを忘れてんのか。もっともその様子じゃ、明久一人で十分そうだがな」
「……雄二、そんなところにいていいの?」
「俺より明久の方が召喚獣の扱いは上だからな。俺がやられたら負けなんだ。ま、お前が明久に勝ったら相手してやるよ」
「……私の役目は終わった」
いまいち噛みあってないような雄二と霧島さんの会話。霧島さんの役目ってなんだったんだろう。さっき雄二のいる位置がどうとか言ってたけど……、雄二と秀吉は召喚フィールドの外にいる。今確認して気付いたけど霧島さんと戦ってる最中にフィールドが移動してたらしい。戦闘中の僕らがフィールド外に出ないように大島先生が気を遣ってくれたみたいだ。でもそれってそんなに大事なことなのだろうか? 僕らと雄二は離されたけどまだそばには秀吉もいるし、そもそも他に敵はいないんだから雄二の防衛まで考えなくてもいいと思うけど。それともAクラスの人たちが戻ってくるんだろうか。
その疑問は霧島さんの次のセリフで解消した。
「……後は任せた――」
霧島さんは注視しないと分からないくらい薄い笑みを口元に浮かべてある人物の名前を口にした。
「――優子」
その言葉が霧島さんの口から出ると同時に、雄二の隣にいた秀吉は数歩前に出て雄二とぼくらを隔てる位置に立った。秀吉?
「お膳立てありがとう、代表。……高橋先生、召喚許可を。Aクラスの木下優子、Fクラスの坂本雄二に総合科目勝負を申し込みます!!」
「承認します」
「なんだとっ!?」
その名乗りに雄二から驚愕の声が上がる。驚いたのは僕も同じだ。秀吉だと思ってたら実はお姉さんだったって……。ていうか雄二、さっきCクラスで自信満々に断言してたのはなんだったんだよ!!
「試獣召喚(サモン)!!」
「くっ、試獣召喚(サモン)!!」
『Aクラス 木下優子 VS Fクラス 坂本雄二
総合科目 3735点 VS 2378点 』
呼び出された召喚獣は、雄二の召喚獣はいつもの改造制服だったが、もう一体は見慣れた袴姿のものではなく、洋風の鎧を身にまとい手にはランスを持った秀吉のお姉さんの召喚獣だった。まずい、僕より召喚獣の扱いに慣れてない雄二じゃあの点数差は――
「……吉井、油断大敵」
「あっ」
秀吉のお姉さんの方に気を取られた一瞬で間合いを詰められた。咄嗟に自分の召喚獣に意識を向けるが、霧島さんの召喚獣はすでに手に持った日本刀を振りおろしていた。
『Aクラス 霧島翔子 VS Fクラス 吉井明久
保健体育 286点 VS 0点 』
「ぎゃぁあああっ、身体が縦にさけるように痛ぃいいいいいいっ」
真っ二つにされた痛みがフィードバックで僕になだれ込んでくる。痛すぎて気絶すらできない!!
「……鈍感な吉井に、お仕置き(ザクッザクッ)」
「やめてぇえええ!! 僕のライフはもう0だよ!?」
倒れている僕の召喚獣に無言で刀を突き刺す霧島さん。僕何か怒らせるようなことしましたか!?
「…………明久がやられたか」
「君の相手はボクだよ、ムッツリーニ君。今のボクじゃあ君には勝てないけど……、でも、足止めだけはさせてもらうよ!!」
「…………ちぃ」
雷光をまとった大斧がムッツリーニの召喚獣めがけて叩きつけられる。間一髪で回避したようだが――
『Aクラス 工藤愛子 VS Fクラス 土屋康太
保健体育 385点 VS 402点 』
どうやら直撃は避けたが纏っていた雷光までよけきれなかったようだ。まだ点数では勝っているが、それでも今の一撃で大分削られてしまった。しかもいつの間にか立ち位置が入れ替わっており、雄二とムッツリーニの間に工藤さんがいるという状況になってしまった。これではすぐに雄二のところへは向かえなさそうだ。
「これで詰みよ。諦めて降参しなさい」
「上等だぁ、FクラスにはFクラスの意地があるってところを見せてやる!!」
雄二が吼えると同時に召喚獣が駆け出す。相手の武器はランスだから間合いの内側に入るつもりなのだろう。対する秀吉のお姉さんは迫りくる召喚獣に恐れることなく対峙して、
「悪いけど、眼中にないの。さっさと散りなさいっ」
手に持ったランスを突き出した。
「いくら点が高くたって、あたらなければ意味ねぇんだよっ」
そして――。
『Aクラス 木下優子 VS Fクラス 坂本雄二
総合科目 3735点 VS 0点 』
――今回の試召戦争は雄二の召喚獣の腹に風穴が開くことで幕を閉じた。
あとがき
いかがでしたか、第四問、試召戦争編後半。
第三問と比べてだいぶ長くなってしまったような気がします。まあだからってなんか問題というわけでもないのかもしれませんが、なんだかバランスが悪いというか……こんなことなら前後半に分けないほうが良かったかなと思わなくもなかったり。
で、今回の内容ですが。秀吉→ムッツリーニ→優子→明久の順に視点を変えてお送りしました。本によるとあまり視点を変えないほうがいいらしいですが、一人称視点ですと描写できない場面とかもあるので。ころころ視点を変えると地の文の口調が混ざったりして大変でしたが。
秀吉、ムッツリーニ、優子の視点ではどちらかというと俯瞰的に戦場を眺めてる感じになりました。どうもこの三人はあまり前線で派手に戦うというイメージがもてません。明久だと前線で暴れてたり予想もつかないようなこともしてくれそうですが。雄二は両方ですかね、軍師でも兵士でもいけるみたいな。今回の場合はどちらかというと内容が明久の部分までのつなぎ的な意味合いが強かったからというのもありそうですが。
このあたり書いてて思ったのはもうちょっと姫路さんと美波の黒化を入れたかったです。なんかいつの間にか元に戻ってるような気がしました。久保君とぶつかったあたりは素になってそうです。
そして明久視点ですが、三人合わせたのと同じくらいの量になりました。笑える行動は明久が動かしやすいです。まあ、今回の話が笑えるかどうかは呼んでくれた皆さん次第ですが……、後は自分のセンスか……。
視点が移って最初の行動ですが、飛びました、二人して。とにかくなにか一つは突拍子もないことをさせたいと思ったんですが、そこで思い出したのが一巻Bクラス戦での根本君への奇襲と2巻清涼祭終了後の打ち上げ花火でした。その二つが合わさって、よし、じゃあ召喚獣を使って外から進入しようということになりました。そしてなぜか鉄人が出てきて召喚獣は要らなくなりました。
Cクラスに飛び込んでからは二人の戦う理由。雄二は相変わらず霧島さんがらみです。しかし、雄二の霧島さんに対する感情はどんな程度なのか判別しかねます。好きだけど罪悪感から素直に向き合えないのか、大切には思ってるけど恋愛までは行かないもしくは恋愛とは別ベクトルなのか。可能性としては前者なのかなとも思いますが、どうなんでしょう。
そして明久は試召戦争の原因が自分にあるとは思ってません。まあ明久ならこんなものかと。また、この場面で明久の優子に対する感情も判明。この辺は原作とそんなに変わってないと思います。基本登場人物たちの気持ちは原作通りにしているつもりです。この話自体が明久×優子なので優子は明久に好意を持っていますが。このあたりの話もおいおい作ってみたいと思ってます、現在はノープラン。明久のほうは姫路さんへの好意を薄めてある感じです。可愛いなとは思うけど付き合いたいとまではいかない感じ。美波に対しても同様。
微妙なのが秀吉です。とりあえずこの話の秀吉は明久に好意を持ってます。ライクじゃなくてラブよりで。最近二次創作の中で割と明久×秀吉を目にしてたせいかと。ただ、秀吉の場合原作でも最近はグレーゾーンに突入してきてるので展開しだいではあながちないとも言い切れないんじゃないでしょうか。自分の秀吉に対する認識はそんな感じです。さすがに秀吉ルートはないですけど……。
そのあたりの話が終わったあたりで秀吉(に変装した優子)登場。誰も気づきません(たぶん読者の皆さんは展開がわかっちゃったんじゃないかと)。この話を作る段階でどう優子で雄二を倒すか考えてたら入れ替わりくらいしかおもいつきませんでした。戦闘に入れば大体優子が勝つでしょうが、勝ち目がない状態で雄二が戦場に立つことは無いんじゃないかと思ったんで。
そして最終決戦。一対一の状態で優子が雄二を倒しました。作中での霧島さんたちの役割とはこの状況を作り出すことです。雄二を総合科目のフィールドに引き込んだのは万一ムッツリーニが工藤さんを倒しても科目が変われば脅威がなくなるからといった理由があります。このあたりの戦術は、多少甘い部分もあるでしょうが割りと考えてまして、登場人物たちもそれを踏まえた上で動いていました。
そのあたりの描写をすべてできなかったので、今回はわかりづらい部分が結構あったんじゃないかと思います。あとがきが長めというか、もはやあとがきではなく解説か? このあたり今後の課題といったところでしょうか。
とりあえずこれで今回の試召戦争は終わりです。次回エピローグとなります。ちょっと学校のほうの事情でちょっと更新が遅くなるかもしれませんが空いている時間にちょくちょく書いて、次の土日までには終えたいと思ってますので、ここまで読んでくださった方々、もう少しお付き合いください。
それでは次回お会いできることを楽しみにしております。
説明 | ||
どうも、naoです。 試召戦争編後半です。正直前後半の配分を間違えたような気がしますが、とりあえずこれで今回の試召戦争は終結です。明久たちはどう動くのか、そして勝負の行方はどうなるのか。 それでは第四問をお楽しみください。 |
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