TINAMI学園祭! 第2話:対策会議 |
第2話:対策会議
夏休みに入り、2日たった。
この長い休みの最初の週はだらだらと惰眠をむさぼることにしているのだが、今年は忙しい。
税込20億3千百24万5千6百61円。
すなわち2010年度TINAMI学園祭の費用を調達しなければならないからだ。
朝8時に起きた。
今日は10時から打ち合わせだ。
9時前には出発しないと。
実はこの問題は解決のめどが立っていたのだが、オレがその解決方法を断固拒否した。
ちゃんと打ち合わせをして、もっと良い方法を考えましょうと言い放ったのもオレ。
だからオレが打ち合わせに遅れるわけには行かない。
朝食のトーストをかじりながら、終業式の日に生徒会執行部室に4人集まったときのことを思い出した。
エガちゃんが何箇所かに電話している。
優しい笑顔。
優しい口調。
ほんわかほわほわした空気が漂ってきて、こそばゆい。
携帯電話をしまい、そのほっこり笑顔をこちらに向けた。
江頭「ざっと25億円くらい手に入りそうよ。」
会長「ご無理を言って、申し訳ありません。」
副会長「なーんだ、今回は私の出番無しかぁ。」
オレは目の前に展開している不思議な光景が、なんとびっくり現実のものだとは、すぐに気付くことができなかった。
オレ「あの、TINAMIにうかがいますが・・汚(けが)れたお金じゃないですよね?」
副会長がぷぷっと可愛く笑った。
オレはその反応だけで全てを悟ったのだが、次のやり取りでなんというか止めを刺された。
江頭「やーねぇ、わかってるわよ。」
オレ「ふぅ・・よかった。」
江頭「ちゃーんと洗っておくわよ。足がつかないよぉ・おっ・にっ。」
エガちゃん・・天使のような笑顔でそんなことを言えるアンタは・・本当の悪魔だ。
しかも今のは、一瞬オレを油断させて、心が無防備なところをドカンと砕き壊したでしょう。
鬼でもそんな非道はしないと思う。
オレ「オレは、その25億は誰かを泣かして手に入れた金ではないのか?と、言っているんですよ。」
エガちゃんは少し考えてこう言った。
江頭「泣かないと思うわ。」
オレ「・・なーんか・・微妙な言い回しですね。その理由を教えてくれますか?」
エガちゃんはころころと笑っている。
江頭「だって人は、人生の底辺をもがき苦しみ、いよいよ死に臨んだときって、意外と泣かないものなのよ。」
オレ「死?」
オレの目が点になった。
江頭「眼球ならともかく、心臓が無いと死んじゃうでしょう?」
オレ「心臓?」
オレの目が白一色になった。
副会長「臓器提供でしょう?交換条件は”家族には手を出さない”かしら?」
オレ「却下じゃああああっっ!!!!」
エガちゃんは困り顔。
江頭「困ったわね。今から電話して止まるかしら・・」
オレ「兎に角、今すぐ電話しろおおぉぉっっ!!」
会長「ぼくも駆路に賛成です。」
オレはうれしかった。
常識人がオレ以外にも存在する。
正直、胸が熱くなった。
心強い。
会長「短期間にこれだけの商いを臓器のみで行うのは、リスクが高いと思います。警察のみならず、同業者からも目をつけられるでしょう。」
江頭「そうね、うかつだったわ。できるだけ止めてみるわ。」
再び携帯電話を取り出し、忙しくかけまくる。
オレは突っ込みの台詞が喉まで出掛かっている。
だが、今大声を出せば彼女のキャンセルの電話を妨害し、結果、人生のすばらしさを知らずにこの世を去る人が出てしまう可能性がある。
オレは廊下に出て窓を開け、頭を突き出して叫んだ。
オレ「会長のオレに賛成する理由が・・おかしいいいいいいぃぃっっ!!」
一瞬でも会長を信じ気を許した、オレがバカだった。
執行部室に戻った。
会長が廊下側の壁に、腕を組んでもたれかかっている。
オレの叫びを聞いていたのか?
会長「お前の判断力はたいしたものだ。蜂児湖が強引に連れてきただけのことはある。」
副会長「いやだわノリくん。蜂児湖なんてよそよそしい呼び方しないで・・私、悲しくて・・お願いだから、もっと砕けた呼び方にして。雌豚、ゲロカス、肉便器・・この3つから選んでって口をすっぱくして言っているのに、なぜわかってくれないの?」
キモ・・やっぱこの女、キモい。
会長もポーカーフェイスがくずれかかっている・・引きまくっている。
オレはエガちゃんをチラッと見た。
まだ必死に電話をしている。
なかなか捕まらない手下がいるようだ。
再び廊下に出て窓を開けた。
オレ「そんな社会的立場を砕く呼び方、できるかあああぁぁっっ!!」
い、今のわちょっと酸欠になった。
力の限り叫んだ。
エガちゃんは全ての依頼のキャンセルに成功した。
それにはほっとしたのだが・・
江頭「一人は絶望して、首をつってしまったみたいなの。」
オレ「救急車で運べぇぇええええっっ!!」
その方の無事が確認できるまで、2時間居残った。
本当に良かった。
蘇生が成功し助かったと聞いたときは、膝の力が一気に抜けた。
さて、朝食の続きだ。
トースト2枚を完食し、コーヒーをすする。
オレは精神衛生上の理由から、1学期最終日の生徒会執行部室での一連の出来事を記憶の隅に追いやった。
こういう自己のコントロールは得意だ。
持ち物をチェックし、鞄を持ち家を出る。
携帯電話で電車を調べる。
目的地は日本橋・・学校ではない。
昨日、日本橋にある某オフィスビルに集まるよう、副会長から電話があった。
私服だとまずいので、学生服で来いとの指示だった。
オレ「なんで日本橋なんだ?」
悪い予感はしないではないのだが、明確には頭に浮かんでこない。
もやもやとしているのみ。
待ち合わせ場所のオフィスビルの提供公園。
会長と副会長が大理石の丸椅子に腰掛けている。
ソフトクリームを食べている。
おそらく副会長が買ってきたのだろう。
会長の顔を、獲物を狙う鷹の目で、じっと睨み続けている。
付き合いの永い俺にはわかる。
会長の頬に、クリームが付着するのを待っているのだ。
あの女のことだ、ティッシュで拭いたり、指でぬぐったりなんかしない・・じかに舐め取りに行くに決まっている。
オレ「キモ・・」
その光景を思い浮かべただけで、吐き気をもよおした。
50階はありそうな摩天楼。
副会長が先頭になって1階の受付へと向かう。
すでに数名並んでいた。
外人だ。
ゲートの向こうから日本人がやってきて出迎えた。
外人とフランス語で話し、書類に署名してもらっていた。
オレ達の後ろにもビジネスマンがやってきて並んだ。
学生服3人。
場違いであり、ういている。
視線を気にしてそわそわしているオレと違い、会長と副会長は堂々としたものだった。
副会長に教えてもらい書類に記入、ゲスト用のICカードを受け取った。
ゲートをくぐり、高速エレベーターで34階へ。
心の中の不安・・もやもやがどんどん大きくなってゆく。
オレ「あの、質問しても良いですか?」
会長「なんだ。」
オレ「今日の打ち合わせは、学園祭の対策会議ですよね?」
会長「それも含んでいる。」
オレ「含むって他にも?いや、本題だけ質問します。打ち合わせは、ここで行う必要があるのですか?」
会長「ああ、情報が漏洩してはまずいからな。セキュリティーがしっかりした場所でなければならない。例えばこのビルさ。」
34階は1社でまるまる借り上げられていた。
受付の女性に案内され、会議室に入った。
テーブルには書類が置いてある。
打ち合わせの相手はすぐに来るという。
打ち合わせの相手?
なんのことだ?
すぐに疑問をぶつけたかったが、目の前に手がかりになりそうな資料がある。
ぱらぱら捲ると概算金額が載っている。
オレ「34億円!?」
なぜ・・なぜ、増えている。
オレの脳は混乱し、激しく空回りを始めた。
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