真・恋姫無双 EP.49 急信編
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 何も見えないくらい、濃い霧が立ちこめていた。北郷一刀は周囲を見回し、用心しながら歩き始める。

 

「ここは、どこだ?」

 

 薄暗く、何の気配も感じられない。溢れる嫌な予感を振り払うように、一刀は歩く速度を上げた。すると、ぼんやりとした二つの人影が見えて来た。一刀は足を止め、人影に向かって声を掛けてみる。

 

「そこにいるのは、誰ですか?」

「私よ、ご主人様」

「何だ、貂蝉か……」

「儂もいるぞ」

 

 どうやら二つの人影は、貂蝉と卑弥呼のようだ。一刀は今の状況を説明してもらおうと口を開きかけたが、それよりも先に貂蝉が真剣な声で語り始めた。

 

「常々、考えていたことがあるの……」

「えっ?」

「ご主人様、どうして男がおっぱいに魅せられるのか知ってるかしら?」

「へっ? おっぱい?」

「そう。私、ようやく気づいたの」

 

 貂蝉の雰囲気に嫌なものを感じた一刀は、思わず後退る。

 

「それは、あの弾力! ふにふにとした、柔らかさ! それが男の心を鷲掴みにするのよ!」

「はあ……」

「だから卑弥呼と二人で考えたわ。女たちに毒されていない男たちを、おっぱいから解き放つ秘術! それは――!」

 

 そう言った直後、貂蝉と卑弥呼は素早い動きで一刀を両側から挟み込み、がっちりとその腕を掴んだのだ。

 

「なっ!」

 

 身動きが取れなくなる一刀だが、それよりももっと気になることがあった。自分の腕を両側から掴んでいるのは、貂蝉と卑弥呼だ。それなのに、腕に押しつけられる感触は柔らかく心地の良いものだったのだ。

 

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 それはまさに、おっぱい。

 

「こ、これは!?」

「驚いたかしら? これこそ、男の胸を女のように柔らかく心地よいものにする秘術のたまもの!」

 

 一刀は腕に押しつけられる感触に、胸の高鳴りを覚えた。しかし、すぐにそれが貂蝉と卑弥呼だということに気づき、一気に気分が悪くなったのだ。

 

「秘術の無駄遣いだ!」

「失礼ね〜。いい? 男の胸が女と同じように柔らかければ、おっぱいごときに惑わされる心配はなくなるのよ! だっていつでも自分の胸を触れば、気持ちがいいんだもの」

「や、やめろ! 押しつけるなー!」

「むふふふふ……」

 

 頭ではわかっているのに、どうしても腕の感触が一刀の心を捉えて離さない。

 

「嫌だ……嫌だぁ…………はっ!」

 

 パチッと目を開けた一刀は、視界に飛び込んできた天井に息を吐き出した。

 

「夢、かあ……」

 

 そう呟いてみるが、腕にある柔らかな感触はなおも感じられる。おそるおそる横を見ると、一刀の寝台にもぐり込んだ霞と恋の姿があった。両側からがっちりと、一刀の腕を掴んでいる。現実の感触は、この二人のものだったのだ。

 

「はあ……よかった」

 

 そう安堵してから、それほど良い状況ではないことに気づく。誰かに見られたら、誤解を受けかねない状況だ。一刀が二人を起こそうと思ったその時、部屋の扉が乱暴に開かれた。

 

「いつまで寝てるのですかー! いい加減に起きるのですぞ!」

 

 叫びながら入って来たのは、音々音だった。

 

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 元気よくやってきた音々音は、目の前の光景に凍りつく。あろうことか、変態主人(一刀)が大切な恋殿の胸をいやらしい手つきでモンでいるのだ。実際は起こそうと肩を揺すっているだけなのだが、そんな事は頭に血が上った音々音にはわからない。すっかり思い込んで、怒りが頂点まで達していた。

 

「こんの……変態ちん――!」

 

 言葉には出来ない罵詈雑言を叫びながら、音々音は大きく跳躍する。そしてベッドの一刀に向かって、飛び込んだ。いわゆる、フライングボディアタックだった。

 

「たりゃあー!」

「ちょ、ま、待て――ぐぇ!」

 

 恋や霞にはぶつからないように計算された攻撃は、見事、一刀にだけ命中する。音々音の小さな体でも、お腹当たりに勢いよく飛び乗れば破壊力はあった。カエルがつぶれるような声を漏らした一刀は、体をくの字に曲げて布団の上でもだえた。

 

「あ、暴れてはダメなのです!」

「そんな……こと……いわ……れても……」

 

 こうなると、さすがに恋や霞も目を覚ます。

 

「ん……一刀、どうしたの?」

「んん〜、なんや……かじゅと?」

 

 何が起きたのかわからず目を丸くする二人に、音々音は怒られるかも知れない恐怖で小さく震えた。そして出した答えが……。

 

「お、お前に用事があるらしい使いの者が、許昌から来ているのです! 伝えたのですよ!」

 

 用件を言い、音々音は大急ぎで部屋を出て行った。残された一刀は、それからしばらく恋と霞が見守る中、もだえていた。

 

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 顔を洗い、着替えた一刀は恋と霞を従えて、使いの者が待つという応接室にやって来た。部屋には呼びに来た音々音の他に、月や詠、風、稟も揃っている。その彼女たちの前に、汚れた服で疲れを顔に滲ませた男が、膝を付いていた。

 

「遅くなってごめん」

「何やってるのよ、もう!」

 

 詠に怒られながら、一刀は男の前に立った。そして目線を合わせるように、しゃがみ込む。

 

「初めまして。俺が北郷一刀です。許昌から来たそうですが……」

「はい。この手紙を荀ケ様より預かり、直接、北郷様に手渡すよう言いつかりました」

 

 男はそう言うと、服の継ぎ接ぎをはがし、隠してあった手紙を取り出す。その様子からただ事ではないと察し、全員に緊張が走った。手紙を受け取った一刀は、達筆の文字をゆっくりと確かめるように読み始める。

 

「……そんな、まさか」

「何よ? 何て書いてあるの?」

 

 顔を苦しげにしかめた一刀は、覗き込んでくる詠に手紙を渡す。他の者たちも、詠の周りに集まった。

 

「曹操が何進に敗北! 公開処刑って!?」

 

 手紙の内容は、一同に衝撃を与えた。曹操軍と何進軍が激突した事は、ほんの数日前に知ったのだ。偵察を放ち、情報収集をしている領主たちならともかく、一般の人々に知れるのはやや時間差がある。それでもまさか、これほど短期間で決着が付くとは思わなかったのだ。

 

「戦上手の曹操が、どうして?」

 

 詠の疑問に、使いの男が答える。

 

「曹操様は許昌を守るため、あえて自ら時間稼ぎの囮になられたのです。部下たちを許緒様、典韋様に託して逃がすと、後は夏侯惇様、夏侯淵様のたった三人だけで……」

 

 男は声を詰まらせ、唇を噛んだ。それに少しだけ微笑んだ一刀は、その顔から表情を消して立ち上がる。

 

「みんな!」

 

 そして全員を見渡して、声を掛けた。皆の顔には、諦めと決意の色が浮かんでいる。言葉にしなくとも、北郷一刀が何を思っているのか、皆にはわかっていたのだ。代表するように、詠が頷いて言った。

 

「出発の準備をしましょう!」

説明
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。
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コメント
漢女道の無駄に凄い秘術が今明らかに!・・・でもそんな恩恵味わいたくないと思うのは私だけでは無い筈だ^^; 当然の如く動く一刀、待ち構えるあらゆる策謀を退けて華琳達を救出する事ができるかこれからも楽しみです!(深緑)
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