レベル1なんてもういない 2−5
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「やっぱりさ、ゴハンは大事だよね」

 

「当然

 動く為に、考える為に、生きる為に、エルを護る為に必要」

 

「はは…」

 

街の大衆食堂で2人して食べることへの思いを交換する。

太陽も西側へ降りてきてラフォードの言う藍の時間、早い話夜を迎える。

元にいた世界より煌びやかに輝きを放つ途方もない距離を一直線に流れてきたとも言われる遥か遠く星から発せられた光は、この街に外灯など必要ないほどの明るさを保っている。

幾万、幾億、またはそれ以上存在するかもしれないこの星以外の星を見渡しながらの食事。

これも普段は味わえないロマン溢れる情緒だ。

 

思い返せばこの世界の、あの砂しかない大地を歩いている数日間はラフォード持参の豆や種と水で過ごしていた。

元々いた世界でも「父親が修行に行くぞ」、とか突如言い出しては色んな所に連れ回されて、今と負けず劣らずの質素な生活はしてきているので、その延長線上と思えば耐えられる。

その前に好き嫌いや文句を言っている場合でもない状況は心得てはいるのだが、そうだとしてもポテチは恋しい。

ポテチがあれば何も言う事はないと言っても過言ではない。

そんな無茶を言う父親は今、どこで何をしているんだろう。

 

一年前にふらりと家を出てそのまま戻ってこない。

残された母親は其れが当たり前かのように表情を変えることはなかったが、配慮してくれてのことだろうか。

今は1人で心配してくれているのかな。

それともあの父の子だからと呆れているのかな。

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そういえば食料は間に合わせたがもう1つの問題、水の供給はどうするかが疑問だった。

砂しかない土地の中ではそうそうと水のある場所はありはしない。

そこについて驚いたのが、ストローをやや太くした形状のろ過装置の存在だ。

あのストローの内部にあらゆる細菌や病原菌をカットしてくれる仕組みがあるというので、どんな所の、地に付いた水すらも真水のように飲めるのだとラフォードは言っている。

勿論始めは疑いの眼差ししか持てなかったがラフォードは馴れた感じで使用していたのを見て使わせてもらったらなるほど、こんなものがあると黒く汚くなった水でもこれを通して飲めてしまう。

 

汚いとはいえ僅かな水、この場で補給しなければ次にいつ機会が来るか解ったものではない。

 

恐らくはこれからの旅路にもずっとお世話になるだろう。

あんな便利なものはその辺の店にも売っているのかな。

 

それに砂の大地で僅かに生まれた水を交互に飲んでいるとどうもラフォードが照れているようないないような表情がチラチラ見えた。

こちらは意に介さない振りをしていたが、事によるとラフォードの奴は間接キスに照れていたんじゃないのか。

改めて思い返すと何か恥ずかしい…

そんな趣味はないというのに。

そう思うところは自意識過剰というのか…

 

 

ラフォードを見直してみるとパッと見ると普段の無表情にも取れるが、食事は大事と言っているだけあって嬉しそうな顔をしているにも見える。

あのおかしな空間で、食べるものの無い所で最小限の食料で過ごした後では、食べることへの有難味が発生するのは当然だ。

ダイエットをしたければあの地へ渡ればいい。

何せ小動物や微生物や花や野草どころではない。

小さなハエも蚊も毒のありそうな雑草すらも見当たりもしない。

 

空に浮かぶは雲と風のみ

地に着いている物は白い砂だけ…

 

ヒトの力でこの星はいくらでもこうなってしまえるのだろう。

それに、こんな事ができるのもおそらくヒトだけだろう。

どんな巨大で凶暴な肉食獣でも生態系を変えて不毛の地にする事は出来てもあそこまで砂だけの世界にはできないだろう。

 

そう、よほどの危険な事態にもならない限りは。

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「エル?」

 

「え?ああ、ちょっと考え事だよ

 それよりもさ明日が楽しみだよ

 どんな服になるんだろうなぁ」

 

「エルにはあの服を着て欲しかった」

 

「もう、その話はいいよ」

 

「似合っていた」

 

「まぁ…それは有難うね」

 

服屋でもした同じ会話をしながら食事を満喫していると

 

「そっか〜ありがとうね〜」

 

テーブル毎に聞いて回る一人の女性がいることに気付いた。

長く伸びた金髪をサラリとなびかせながら質問をしているようだ。

 

「私のペットを探しているんだけどさ、どんなことでもいいから教えてもらえるかなぁ」

 

屈託のなさそうな笑顔に自然に目がいってしまう。

何がそこまで楽しいのか。

赤いワンピースと反するようにその肌は死人のように白く、耳がヒトのそれとは若干だが異なり尖って見える。

人のような人でない者…なるほど異世界ってこういう事なのだろうか。

この世界には慣れていないので前向きに納得してしまう。

 

「ねえ葵、あそこの金髪の人さ

 モノスゴイ金髪だよね」

 

「私ラフォード

 そうかもしれない

 でもエルほどでもない」

 

お世辞のつもりだろうか。

あれほどの長くサラサラした髪はよっぽどのお手入れが必要だろう。

髪を長く伸ばしてみた経験はないけどそれ位は解る。

 

「オリアスって言うかわいい子なんだよ〜

 ねえ知らない?」

 

金髪の子はこの場の全ての人に探しものの情報を聞いて回っているのを横耳に入れるのだが、その質問が今ひとつ要領を得ない。

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…だったのだが次の一言でボンヤリと思い出す。

 

「あの子ったら閉所恐怖症だからさ〜狭い所に入ると怖がって動かなくなるんだよ〜

 何か変な箱に入り込んでなければいいけど〜そんな事もないか〜ハハハ」

 

…箱… …?

 

確かあの大地を出る間際に初めてラフォードの戦いを見たときだったか、

 

あの箱をもってこい、

中の奴に倒させる、

 

と言っていたっけ。

あの時の箱の持ち主はこの街で探している、とも言っていたっけ。

フミという人に言われるがままにそのままここまで持ってきてしまったけど

 

「もしかしてさ葵、あの時の箱ってさ…」

 

そこまで聞いてラフォードも思い出したようだ。

 

「あの箱は宿においてきた」

 

「教えてあげようよ」

 

「違うものかもしれない

 別のものかもしれない」

 

「その時は一緒に探してあげればいいじゃない」

 

「そんな暇はない」

 

「ならさ、ウチの服が出来る明日まで…どう?」

 

「…わかった」

 

「うんうん

 葵も困っている人を見たら助けてあげるんだよ

 さぁ…ってあれ?」

 

ラフォードは他人の事情に首を突っ込み事に不満げだが話がまとまった所でさあ、金髪の子に話を聞こうと思ったら

 

…いない。

さっきまでの笑い声がちょっと目を放した隙にいなくなっていた。

 

「ついさっき知っていると言う男達と一緒に外に出て行った」

 

「そんな訳ないよ、追おう」

 

「知っていると言っていた。

 任せておけばいい」

 

「そうだね…って。

 そんな変な所だけ鵜呑みにしないの。

 ホラ行くよ」

 

「…食後の休憩…」

 

「行くよ!」

 

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外に出ると空の決戦場、太陽がすっかり沈んでいた。

その代わりに無数の星々がこの町を照らしているお陰で街に街頭を置く必要はないらしい。

とは言っても昼間とは明るさが違うようで未だ見慣れない部分もある。

全方位から星の光が届くので影のつき方が太陽の出ている時間とはまるで違う。

巨大すぎる屋根の下にいるみたいだ。

 

でもこれで雲が覆い雨でも降り出したら暗くなってしまうのではないだろうか。

 

「手分けして探そう」

 

「駄目、エルには戦わせられない」

 

「う…じゃあ一緒に行こう」

 

そう遠くには行っていないはずだ。

食堂を出て行く先を模索する。

 

どっちかな…とラフォードに聞くとこっちが不断に取られるかもしれない。

 

「こっちだよ」

 

勢いよく走り出そうとする。

 

「エル待って」

 

「何?」

 

「食後の運動は危険」

 

「言っている場合じゃーないよ」

 

こんな急ぎの事態にも母親みたいな事を言ってくる。

 

「大事な事」

 

「解った、解ったから腕を放してよ」

 

「エル、落ち着いて」

 

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