【南の島の雪女】第2話 ハブのおまわりさん(4)
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【おじいちゃんと川】

 

風乃は、トラックにひかれ、意識を失った。

 

意識を取り戻すと、そこには、

死んだはずのおじいちゃんがいた。

 

おじいちゃんは、風乃の手をひっぱっては

しきりに「川の向こうへ行こう」と言うのだった。

 

「風乃や、どうしても川を渡りたくないのかい?

 ほら、浮き輪もあるから大丈夫じゃ」

 

「でも…ほら、今の服装じゃ川渡るの大変だし」

 

風乃は両手を広げ、

寝巻き姿なので泳げないことをアピールした。

 

「脱げばいいじゃないか。

 裸は泳ぎやすいぞい」

 

「ええっ、おじいちゃん何を言ってるの!

 そんなことできるわけないでしょう!」

 

風乃は顔を真っ赤にして反論する。

 

「すまんすまん、風乃が

 年頃の女性ということを忘れておったわい。

 わしが生きてたころは、風乃は子供だったから」

 

「ちょっと太ってきたから

 見せられないの!」

 

「もっと他に気にすることが

 あるんじゃないかね?

 風乃や」

 

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【おじいちゃんと川2】

 

「とにかく、裸で川を渡ることなんてできないよ。

 ねぇ、舟とかないの?」

 

「残念ながら、本日の舟はないのじゃ。

 定期便の舟が欠航してしまってのう。

 泳がないと渡れないのじゃ」

 

「そっか…じゃあ、水着ある?

 それ着て泳ぐから。

 なーんてね!

 おじいちゃんが持ってるわけないよね」

 

「風乃や。持ってるぞい」

 

「え」

 

「ほら、水着は5種類もあって選びたい放題じゃ」

 

色とりどりの水着を広げて見せる、おじいちゃん。

 

「ねぇ、おじいちゃん、水着なんて

 どこで手に入れたの?」

 

「川に流れていたのを拾ったんじゃ」

 

 

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【おじいちゃんと川3】

 

「あのね、おじいちゃん。

 わたし、川の向こうに渡ることはできない。

 今、大変なんだから」

 

「どうした、風乃?

 何があったのじゃ?」

 

「お友達が、悪い人にさらわれそうなの」

 

「それはいかんな」

 

「でも、わたし、何も力がない。

 何もすることができない。

 だからお願い。力を貸してほしいの」

 

「武器ならいっぱいあるぞ。

 岩に、金属バットに、鉄パイプに、バールのようなもの」

 

物騒きわまりないウェポンの数々が、

おじいちゃんの足もとにずらりと整列する。

 

「わぁ、すごいね、おじいちゃん!

 これだけあれば、怖いものなしだよ」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 

「ちょっと持ってみるね。

 うーん…お、重い…!」

 

風乃は、鉄パイプを持ち上げようとしたが、

非力なためか、いっこうに持ち上がらない。

 

「風乃、ファイトじゃ!」

 

「うーん、うーん…

 ふぅ、なんとか、もて、そう…だよ」

 

風乃は、苦しそうに鉄パイプを構える。

相当に重いらしく、両腕はぶるぶる震えている。

 

「もてた…よぅ」

 

「よし、風乃、その意気じゃ!

 ばーん! と悪者をやっつけるんじゃ!」

 

「うん! ばーん、とやっつけ…

 う、うあああ!?

 ああ、おじいちゃん、よけて!」

 

風乃は、鉄パイプの重みのせいか、

身体のバランスを崩す。

おじいちゃんのほうへ、傾いていく。

 

おじいちゃんの頭が、ばーん! となった。

 

 

 

次回に続く!

 

説明
【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

風乃は、つかまった白雪を助けようとした。
勇敢にも、南国紳士の前に立ちはだかる。
しかし、そこは車道。歩行者信号は赤。
トラックにひかれ、意識を失う風乃であった。
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コメント
>ko-jiさん コメントありがとうございます。甦りませんが、人間より生き生きとした活躍をしますので、乞うご期待ください。四次元ポケット…考えてもみませんでした。どこから出したんでしょうね。本編そのものが四次元ポケットという噂も。(新原)
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南の島の雪女 沖縄 雪女 妖怪 コメディ 

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