おとなりの嵐さん過去編「凡田平一」後編
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夏も終わり、秋の風にが身にしみる頃・・

 

成績も上々、受験シーズンも近付いていた

 

「そろそろ受験する大学も決めないとなー」

そう言いながら自室で雑誌を見ながらつぶやいた。

天道大学・・

父の言葉が頭によぎる

「このまま近所の大学へ行くべきなのか・・?」

その時の俺は踏ん切りがつかないままひとつまたひとつ日を跨いでいた。

 

そんな時だった。

日曜の昼 家の電話が鳴った。

その時は誰もが忙しく、しぶしぶ俺が電話に出ることになった

「もしもし?」

何の知らせか、人工島で仕事をしている叔父さんの同僚の人からだった。

「よかった、平一君だね?」

名前が知られているのは叔父さんが俺の話をしていたからだろう、気にも留めなかった

「俺が平一ですけど・・何か用ですか?」

「落ち着いて聞いてくれ、実は・・」

「いつも落ち着いてますよ、一体なんです?」

 

その同僚が発した一言は今でも耳に残っている。

 

 

 

「平次郎さんが・・・・亡くなった・・」

 

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叔父さんが死んだ。

 

 

耳を疑った

 

 

突然の通達だった。

 

 

死因は人工島で起きた爆発事故らしい。

 

遺体は  来なかった

 

通夜も葬式も行われなかった

 

現場の関係者はその人を除いて全員死亡 その時の現状すらわからない

 

連絡が来た時、叔父さんの死を嘆いたのは

 

母と 姉と 

 

 

 俺だけ

 

・・・・・・なんで・・?

 

他の親戚は皆至って平常、皆叔父さんを最初からいなかったように振舞う。

何故・・?

 

知らせを聞き、母や姉さんは叔父さんの死を知り、泣いてるというのに

 

父も何事もなかったかのようにしている

何故・・?

 

叔父さんが何をしたと言うのか

思わず声が出た

 

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「父さんは叔父さんが死んで何も思わないの?」

 

父は当然のように言った

「家訓を汚す輩はこの家の人間ではない、つまり奴は赤の他人だ」

・・・・・

「他人の死にまで情を生んでも仕方がないだろう」

・・・

「そんなことはいいからお前は勉強をして大学に行けばいいのだ、余計なことは・・」

 

口より先に手が出た

今までにないくらいの握り拳で父の顔を殴り飛ばした。

少し宙に浮き、壁に向かって激突する父

これほど感情的になるのは久しぶりだった。

はっとする姉と母、そして鼻と口から血を流す父

 

残ったのは沈黙・・・

 

しばらくの間、ただ時間だけが過ぎた

 

沈黙を破ったのは父だった

 

「・・お前も奴のようになる」

 

「・・・?」

そのまま父は続けた

「お前も死にたくなければ余計な考えは持つんじゃない」

 

「お前は敷かれたレールを走るように私の言うことを素直に聞いていればいいのだ」

 

「そうすればお前は奴のように死ぬことはなくなる、だから・・」

 

今度は足が先に出た

 

顔面に蹴りをくらい、完全に気を失った父

 

俺はどうしようもない気持ちでいっぱいになった

気が付いたら家を飛び出し、夕暮れに染まる道路をただとぼとぼ歩いていた

 

その時には泣きすぎて自分の顔は涙でくしゃぐしゃになっていた。

 

必死に自分の頭の中の情報を整理しようとした

 

でもだめだった。

 

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「・・・滅茶苦茶だ」

この言葉しか出せなかった。

 

父の言うことに従って考えるとしたら叔父さんは家の決まりに従わなかったから死んだというのか

 

この家の決まりの「普通」を貫いて生きていかなければいけないのか

 

自分のやりたいことを我慢してただ生かされてるように生きなければいけないのか

 

自分の思考が様々な感情で埋め尽くされていく

 

父親、親戚への憤怒、叔父さんの死による悲哀、そして虚しさ

 

 

「・・・何もかもどうでもよくなってきた・・」

ひどい虚無感に晒される俺に

 

 

叔父さんの言葉が脳裏によぎった

 

 

 

「後悔しないように生きろよ」

 

 

 

ああ・・

 

叔父さんはわかってたのか

 

仕事に一生懸命になってたのも

 

俺にそう言ったのも

 

自分の

 

自分の生き方に後悔しないよう、自分自身を貫き通したんだ

 

わかったようなわからなかったような、妙な気持ちだけど

 

 

多分叔父さんは死ぬことにも後悔しなかったんだろう

・・・・・・

・・・

 

足が止まった場所は港、叔父さんの職場、人工島に繋がる船が停泊する場所

港からかすかに見える人工島・・名前はなんだろうか・・

 

「叔父さん・・」

 

涙はすでに乾き、もう出ることもなかった。

 

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冬の凍える風も収まり、温かさが目立つ頃

 

俺は引越しの準備をしていた。

あの後から受験戦争を突破し、なんとか大学にも合格した。

「平一、準備できてる?」

母が俺の着替えを抱えながら言った

 

「うん、それ入れればもう出れるから」

着替えを受け取り鞄に押し込む、夏服に防虫剤の香りが残っている。

「天道大学、受かっちゃうなんてやるじゃない平一」

姉も今日家を出るらしい、まぁ一流企業の社長だし今まで家でぐーたらしてたのもおかしい気がするけど

 

「姉さんが協力してくれなきゃ受験費だって出せなかったよ」

 

「まったく、一人暮らしするって聞いた時は驚いたわ」

そう、俺はあの後受験勉強に徹し、見事理想の大学だった天道大学に入学することになった。

それに伴い、大学付近のアパートを借りるつもりだ。

 

「月に一回は少しだけ入れてあげるから感謝しなさいよ?」

「ありがとう姉さん」

ほんと、頭があがらない

父の姿は見えない  まぁそりゃそうか

 

電車の時間が迫り、早々に準備を終わらせ、母と姉に別れを告げ、俺は家を出た。

 

 

 

天道町  一体どんな町なんだろう

雑誌とかで見たときはかなり競争が激しいところらしいけど・・

けど、どれだけ大変でもやり遂げて見せるさ

 

 

「もう後悔はしない」

 

電車の揺れる音を聞きながら俺はゆっくり瞳を閉じた。

 

 

・・・・・

 

・・・

 

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天道町

 

 

様々なジャンルの優秀な人材が集う二つ目の東京といわれる町・・

 

そこにある一般より家賃が少し高めのマンション「花畑」

 

このマンションのネーミングは置いておくとして何故このマンションに決めたというと

 

正直に言おう、ここしか部屋が借りれなかったのだ。

 

他にも安い所や環境が良い所もあった、しかし

 

「凡人に貸す部屋はない」どこに行ってもこの一言ばかりであった。

 

実力差社会が主になっているこの町では平凡な客にはとても冷たいのだ、まぁ相手も商売だから仕方がない所もあるかもしれない。

 

その後やっと見つけたマンション「花畑」、正直あまり住みたいという名前ではなかったが俺には選択肢はなかった。

 

そして今、荷物を運び終え、自分の部屋を改めて見直しているところである。

 

少し無理をしたかいがあったのか、冷暖房、トイレ、風呂、生活するだけの環境は揃っていた。

 

積み立てられたダンボールを見つめながら、俺はお隣の人に何を渡すかを悩んでいた。

 

「やっぱスタンダードにタオルかな・・」

 

タオルという単語が出るらへんで自分の平凡さが出てることに少し悩みつつもマンションに行く途中買った箱付きタオルを持ち、部屋を出ようと扉に手をかけた

 

 

瞬間

 

 

扉が勝手に開いた。

 

俺は少し驚きつつもこの展開が何かの現象か何かではないことに気づいた。

 

開いた扉の前には肩くらいまであるボサッ毛の20代っぽい男が目の前に立っていたのだ。

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そして男が一言

 

 

「タオルもらいにきたぞ!」

 

 

 

過去編 凡田平一 完

説明
「後悔しないで生きろ」亡き叔父の言葉 悲しみに打ちひしがれる平一は叔父の言葉を無駄にしないため、ある決意をする。
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