真・恋姫無双 魏end 凪の伝 25 第一部最終話
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ぐにゃり、と視界が歪む。

 

「なんだ・・・!?」「はうっ!?」

 

王我との戦いの最中だった思春と明命はそれに気をとられた。

 

歪む視界の中で見たのは、苦しむ一刀の姿。

 

さらに・・・

 

思春は、聖フランチェスカ学園の制服に身を包んだ一刀と一緒にいて軟弱者と罵るが、

 

いつしか心惹かれてやがては子を成す幻視────

 

明命は、同じく制服姿の一刀と一緒に猫を愛でたりしながら一刀を愛し、また同じく

 

子を成す幻視────

 

そして再び一刀の苦しむ姿。

 

涙が、溢れる。

 

戦いの最中に戦いを忘れた。

 

その隙を王我が見逃す筈も無く、

 

「────チィッ!皆の者!!村に突撃だ!!!」

 

王我が二人をすり抜け村に迫る。だが、王我にも焦りが見える。

 

幻視が見えずとも不穏な気配で想像以上の異常事態が起こっていると理解出来た。

 

『にゃあ黄巾党』に化けていた五胡の兵士も頭巾を取り、王我の後に続く。

 

その数はおよそ千。

 

一刀の危惧した数字だった。

 

思春と明命が慌てて追いかけるが、騎馬を自由自在に操る王我に追いつける筈は無い。

 

村の防壁からは第四作戦である膨大な数のロケット花火による牽制が始まったが、

 

王我とその部下は体が焦げる事や、撒かれた油によって数人が火達磨になる事等構わず進む。

 

『にゃあ黄巾党』の兵と訓練された兵の最大の違い。

 

それは自分自身の命の重さ。

 

『にゃあ黄巾党』の兵は元々が農民だったり、あぶれ者達だ。

 

何よりも自分の命が大事。

 

それ故に、わずかな火すら恐れる。

 

火傷や怪我を負えば誰も助けてくれる筈も無く、明日は生きていない。

 

それが分かっているからだ。

 

だが訓練された兵は違う。

 

何よりも任務。

 

自分の命よりも、大事な事。

 

それが一刀が恐れた事。

 

やがて王我の槍の一撃が容易く村の杭で作られたバリケードを粉砕する。

 

雪崩れ込む五胡の兵に、我も我もと『にゃあ黄巾党』の者達も後に続く。

 

防壁の上にいた兵達も必死で矢を射るが、数が違いすぎた。

 

絶望が、襲い掛かる────

 

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幻視は、思春や明命だけではなかった。

 

ガバッ!と雪蓮が布を跳ね除け、寝台から立ち上がった。

 

一糸纏わぬその姿は美しいが、その頬には涙が伝っている。

 

その後ろには同じ姿の冥琳の姿もあるが、彼女もまた寝台で体を起こし涙を流しながら呆然としていた。

 

「今のは・・・何・・・?」

 

「雪蓮、お前も見たのか・・・?」

 

「え、ええ・・・冥琳・・・あなたが・・・死ぬ・・・いえ、私も・・・?でも、側には

 

白い服を着た・・・あれは、華琳の所に居た『天の御遣い』・・・の・・・筈・・・よね」

 

自分自身で今見た事が理解出来なかった。

 

自分が白い服を着た男と親しげに・・・いや、それ以上に堪えきれない程の愛情を持ってその男の側に

 

居たいと願い続ける、乙女のような自分の姿。

 

そして・・・幻視で見た自分はその男に抱かれていた。

 

羨ましい、とさえ感じた。

 

だがその男は今は黒い服を身に纏った姿になり、苦しんでいる。

 

雪蓮の胸に、凄まじい感情が込み上げる。

 

その感情は一つでは無かった。

 

その中でも一番強い焦りが、雪蓮の胸を押しつぶそうとしていた。

 

冥琳も同じ・・・その男との子供を欲しいと切に願う自分。

 

叶えられなかった願い・・・。

 

巨大な喪失感が冥琳を襲った。

 

思わず雪蓮を抱き、引き寄せなければ耐えられない程の恐怖。

 

会いたい、と思った。

 

「策殿!冥琳!」

 

バタンッ!と乱暴に開かれた扉から祭と穏、そして小蓮が飛び込んできた。

 

三人とも息を荒くしながら雪蓮と冥琳に詰め寄る。

 

「い、今見たのじゃが・・・って、あ、いや、本当にあったのではなく・・・いや、

 

あったのか・・・?」

 

どうにか説明しようとする祭だったが、混乱しているのかしどろもどろだ。

 

「ええーとですねー。あのー。ですねー。子供が・・・ですねー・・・」

 

穏もどう説明したらいいのか分からなかった。

 

「雪蓮おねえちゃん達、死んじゃうの!?」

 

雪蓮と冥琳の元に飛び込み、えぐえぐと泣く小蓮の頭を撫でて大丈夫と言いながら

 

雪蓮は心の中で舌打ちをする。

 

やはり、自分が行けばよかったと。

 

今見た幻視の『天の御遣い』は近くの村にいる。

 

今から行っても間に合う筈も無い。

 

送った亞莎と呉の精鋭部隊に期待するしか無い。

 

 

 

でも・・・

 

 

 

会いたい。

 

 

 

 

会いたい。

 

 

 

 

心が、

 

 

 

体が、

 

 

 

叫ぶ。

 

 

 

 

ただ、会いたいと。

 

 

 

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「北郷・・・一刀・・・」

 

呟いたその名は、ひどく懐かしく感じた。

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建業から出発して村まで後少しの所で野営をしていた亞莎率いる呉の精鋭部隊は

 

野営を即座に破棄して再び進軍を開始する。

 

「急いでください!急いでください!」

 

焦る余りに先行しかける亞莎に慌ててついていくが、その兵達もまた言い知れぬ焦りを感じていた。

 

何かは分からない。

 

だが、ここでモタモタしていては大切なものを失うような気がしていた。

 

(無事で・・・無事でいてください!『天の御遣い様』!!)

 

亞莎が必死に祈る。

 

直接会った事など無い筈の『天の御遣い』

 

だが、今は一秒でも早く側に駆けつけたかった。

 

心が、求める。

 

ただ彼さえ無事なら自分等どうでもいいとさえ思える程に。

 

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建業の宿では、街に着いたばかりの星が同じく幻視を見ていた。

 

その瞳は涙に溢れ、あまりの胸の苦しさにうずくまる。

 

大切な人、心の底から愛した愛しい人。

 

一緒に酒を呑み、仲間と笑い合っていた。

 

失われた胡蝶の夢・・・。

 

"何故、失われた?"

 

再び『天の御遣い』がこの世界に降りたという噂は聞いている。

 

そう、"再び"・・・。

 

その夜、建業から星の姿が消えた。

 

呉の者達と会う事は無く・・・。

 

 

 

 

南蛮に戻っていた美以達も揃って泣いていた。

 

「大王しゃまー・・・、グスグス。かえりましょうにゃー・・・」

 

ミケの言葉に泣きながら美以が頷き、トラに手をひかれる。

 

「会いたいにゃー・・・」

 

ぽそっと呟いたシャムの一言にまた美以がうえーんと泣いた。

 

 

 

 

玉座の間に璃々の泣き声が響く。

 

自分の胸で無く璃々を前に、紫苑も止め処無く溢れる涙に困惑していた。

 

会った事の無い筈の『天の御遣い』の幻視に璃々が嗚咽を漏らしている。

 

そしてそれは自分も・・・。

 

亡き夫以上に愛しく思い、璃々もまた父とまで慕う暖かな幻視。

 

ありえない、現実。

 

「これは、どういう事だ・・・?何でみんなこんな幻を見たんだ?」

 

力無く翠が問いかけるが、誰も答えられない。

 

男と楽しく笑いあう自分など想像できなかったが、その笑顔は側にいた。

 

太陽の日差しのような明るく暖かい笑顔・・・手から砂が毀れる様に消えた幻視。

 

焔耶と蒲公英も喧嘩する事無く二人並び、俯いている。

 

足元には幾つもの雫が落ちていた。

 

握られた拳がギュッ・・・と硬く握られる。

 

苦痛に叫ぶ『天の御遣い』の姿が頭から離れない。

 

笑顔しか知らない・・・その顔が、苦しんでいる・・・。

 

欲した笑顔に手が届かない。

 

"何故"その言葉が頭を巡る。

 

音々音もどうすることも出来ずに泣くだけ。

 

月と詠は気分が優れないと部屋に篭っていた。

 

「とにかく・・・何が起こっているのか調べるしかなかろう・・・」

 

桔梗の言葉にピクリ、と雛里が反応する。

 

「魏を・・・調べましょう・・・『天の御遣い様』は魏にいました。何かあるのかもしれません」

 

雛里の言葉に皆が頷く。

 

帽子に隠された雛里の瞳がある決意に燃える。

 

『鳳雛』が再び羽ばたこうとしていた。

 

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「うああああ!!!一刀!一刀!一刀!」

 

「ど、どうしたのだ霞!その怪我で暴れるな!」

 

北の街から少し離れた小さな集落の宿では全身を包帯で覆われた霞が着る物も纏わずに飛び出そうと

 

するのを華雄が必死に止める。

 

霞はあの戦いの最中に戦いの気配に突撃した華雄と鉢合わせ、何とか逃げる事が出来たのだった。

 

「一刀がどこかにおんねん!!苦しんでるんや!!!」

 

槍を掴もうとする霞を華雄が抑えようとするが、その力はとても怪我人とは思えなかった。

 

「どこかって、どこだ!!その怪我で行けるのか!!?」

 

華雄のその言葉に霞が愕然として膝から崩れる。

 

「お、おい・・・」

 

霞がまるで子供のように泣いている。

 

その事に華雄は困惑するしかなかった・・・。

 

 

 

 

数え役萬☆姉妹の事務所では天和、地和、人和の三人が泣いていた。

 

何が起こったのか分からないが、一刀が苦しんでいるのだけは分かった。

 

「とりあえず、お城に行ってみよう」

 

天和の言葉に二人が頷く。

 

 

 

 

政務室にいた秋蘭と桂花が呆然と幻視を見ていた。

 

「何よ・・・これ・・・何よコレ!何よ・・・こ・・・れ・・・」

 

桂花が耐えられず泣き崩れる。

 

秋蘭の表情は真っ青だった。

 

"また、失われる"その恐怖で気が狂いそうになる。

 

そこへ真桜が飛び込んできた。

 

「い、いま、たい、ちょう、の、姿が・・・」

 

心が、耐えられない。

 

二人の泣き声を聞きながら秋蘭は胸が痛むのを感じた。

 

その痛みは傷口よりずっと痛い。

 

「華琳様の・・・所へ・・・いかなければ・・・」

 

せめて華琳の側へと足を引き摺りながらも向かう。

 

扉を出た所でふいに、一刀の後姿を見た気がした。

 

「あ・・・」

 

手を伸ばしかけたその先で一刀の幻が消える。

 

「嫌だ・・・嫌だ・・・待ってくれ・・・」

 

必死でその後を追いかける。

 

傷口から血が滲むがそれよりも一刀の背中を追いかけた。

 

だが追いつける筈も無く、秋蘭の足がもつれて転ぶ。

 

床の冷たさを感じながら秋蘭の嗚咽が漏れる。

 

盆からこぼれた水が戻らないように、砕かれた心は・・・戻らない。

 

 

 

 

城壁の上では風が星空を見つめていた。

 

「お兄さん・・・戻っていたんですね・・・」

 

つう・・・と涙が頬を伝う。

 

「そして、また苦しんでいるのですね・・・」

 

一度目を閉じ、開けばもう涙は無い。

 

「お兄さんを苦しめるのは・・・誰でしょうか・・・」

 

その瞳には、燃える炎が見える。

 

広がれ、広がれ、燃え広がれ・・・。

 

そこへ兵士が血相を変えて走ってきた。

 

「程c様!!郭嘉様が戻られました!!」

 

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魏と呉との境にある小さな隠れ里では────

 

ガタン!と椅子の倒れる音がした。

 

倒したのは季衣。

 

「しゅ、春蘭様!今、兄ちゃんの姿が・・・!!」

 

慌てて寝台の上に座る春蘭に駆け寄るが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春蘭は胸に抱いた一刀の首の入ったケースを愛しそうに撫でながら、静かに微笑むだけだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あっはははははははははははははははははははは!!!!いいよ!いいよ!!ご主人様カッコイイよ!!!」

 

五胡の城の玉座に桃香の爆笑が響く。

 

「ふにゃあ〜。はやく会いたいのだー♪」

 

にっこにこと笑う鈴々の笑顔が蕩ける。

 

恋も真っ赤になってモジモジとしながらコクコクと何度も頷く。

 

「はわわ!早くご主人様に直接会って、体もご主人様のものにして欲しいですー♪」

 

トロンとした表情で朱里が両手を頬に当て、身悶えしていた。

 

「よぉーーーっし!!ご主人様が北郷軍ルートに乗るから、私達もはっじめっるよー!!!♪」

 

桃香がノリノリで小躍りする中、恋が玉座の後ろにある旗を取る。

 

それは、『十文字』の旗。

 

広げられた旗が翻る。

 

「私達『真・北郷軍』の立ち上げだーーーーー!!!」

 

桃香の叫びに皆が「おおーーー!!!」と叫ぶ。

 

「ううううううーーーー!!!楽しいよ!!楽しいよ!!前はご主人様が居なかったから負けたけど、

 

今度は負けないよぉーーー!!!あっはははははははは!!!負けちゃった蜀は要らない!!

 

呉も要らない!!!ご主人様を奪った魏はもっと要らない!!!!歴史どおりに滅んじゃえばいいんだ!!!!!!」

 

 

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「今から私は司馬懿仲達!!!まずは本物の司馬懿ちゃんのいる魏を滅ぼすぞーーーーーー!!!!!!!!

 

キャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!

 

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

桃香の瞳に妖しい光が宿る。

 

危険な、危険な光。

 

「ご主人様もいけないんだよ!!『強制力』を甘く見ていたご主人様も!!!アッハハハハハハハハ!!!!

 

でも、でもね!!!もうすぐご主人様が私達の所に来てくれるからいいの!!!!早く!!!早く来て!!!!

 

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ

 

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」

 

 

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<<Download率30%>>

 

「うあああああああああああああ!!!!」

 

「一刀兄さま!!!」

 

一刀の絶叫が響く。

 

『靖王伝家』から発せられた光が暴風となって周囲を荒れ狂う。

 

蓮華が近づこうとしても、愛紗がそれを許さない。

 

脳が掻き回されるような激痛に視界がぼやけ、右手で頭を抱えるが体はすでに思うように動かない。

 

「が・・・ぐぅぅぅ!!」

 

猛烈な吐き気と体が千切れそうな感覚に心臓が激しく鼓動するが、それを抑える術が無い。

 

<<Download率40%>>

 

ぼやける視界の中で倒れた白蓮に駆け寄る医者の姿を捉え、一瞬ホッとする。

 

次の瞬間────

 

ドクンッ!!!と心臓が激しく胸を打つ。

 

「は・・・ッ・・・あ・・・・ッ!!??」

 

呼吸が、出来ない。

 

<<Download率50%>>

 

『靖王伝家』の鍔にある玉の半円が金色に輝いてる。

 

「もうすぐです!もうすぐ我らだけのご主人様になれますよ!!"我らだけを愛するご主人様に!!"

 

ああ、早く!もっと早く!!!!!!」

 

愛紗の狂気の絶叫が響いた時、前方から馬の蹄の音が聞こえて来た。

 

王我や五胡の兵を止める事ができず、ここまでの侵攻を許してしまったのだ。

 

「何をしている、愛紗!!さっさと異分子を処分しろ!!」

 

王我の叫びが一刀の耳に入り、凄まじい嫌悪感が吐き気を上回る。

 

怒りが全てを逆転した。

 

「や・・・め・・・ろ・・・!!!」

 

一刀がよろめき、ふらつきながらも立ち上がった。

 

その瞳には未だ力強い輝きが宿っているのが見える。

 

愛紗の顔に焦りが浮かぶ。

 

「や、やめろ王我!!今手を出すな!!」

 

愛紗は知っていた。

 

一刀は自分の事より、愛する者が危機に陥った時にこそ力を発揮すると。

 

だが王我は知らない。

 

異分子を処分する事が王我の家族を助ける唯一の方法。

 

その為に寄り道をしている暇は無かった。

 

王我の槍がなぎに迫る。

 

だが白蓮に気を送っていたなぎは動けない。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

愛紗の焦りの絶叫が響く。

 

左手の『黒い閻王』が、ドクンと鼓動する。

 

突然、一刀の左手にビリッ!!という強い電撃が走った。

 

<<エラーを検出、Downloadを一時中断します>>

 

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<<"予約"システム起動>>

 

<<妨害敵性を確認、妨害敵性を排除する為にバックアップデータをインストールします>>

 

<<呂布データをロード>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<インストール、完了しました>>

 

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カツ、と冗談のような音が聞こえた。

 

それは・・・王我が騎馬ごと左右に真っ二つに絶たれた音。

 

グラリと左右に倒れる王我の体の向こうで一刀の瞳が赤く燃えるのが見えた。

 

一刀の気が暴走を始める。

 

黒い、黒い気。

 

夢を見ているようだった。

 

高まり続ける気の中で心だけが冷え、感情が消えていく。

 

音も、聞こえない。

 

全てがスローモーションのように感じる。

 

次に見たのは愛紗。

 

だがその表情は驚愕に見開かれている。

 

右手を軽く振るう。

 

愛紗が吹き飛び、家の壁にめり込んだ。

 

もう一度、と思った時には愛紗の姿が消えていた。

 

じゃあ、いいや。と思い、"敵"を探す。

 

見つけた。

 

騎馬に乗った黒い集団。

 

多いな。と思った。

 

じゃあ減らせばいいや。

 

左手に持つ『靖王伝家』を振るう。

 

それだけで数十の騎馬兵がまるで紙切れのように吹き飛んだ。

 

周囲に血肉が飛び散る。

 

気にしない。

 

左手だけだとバランスが悪いな。と思った。

 

槍があればいいのに、と思うが無い。

 

そこで転がる『南海覇王』を見つけた。

 

右手にそれを持つ。

 

そう言えば、前に何かをやろうとしてたっけと思い出す。

 

"剣に気を・・・"

 

ああ、そうだった。

 

やってみよう。

 

出来た。

 

まだまだ騎馬がいる。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

数百の馬と人が空高く舞い上がる。

 

まだまだいる。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

まだまだいる。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

まだまだいる。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

まだいる。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

いる。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

いつの間にか居なくなった。

 

今度は黄色いのがいる。

 

逃げようとしているみたいだ。

 

走ったらすぐに追いついた。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

死んだ。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

死んだ。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

死んだ。

 

ブン、ブン、と両手を振るう。

 

死んだ。

 

どのくらい繰り返しただろうか。

 

誰も、いなくなった。

 

何か左手に持つ剣が煩い。

 

投げた。

 

びりびりしたけどいいや。

 

静かになった。

 

ちょっと疲れたな。

 

・・・ん?投げた剣を緑髪の女の子が拾ったな。

 

まぁいいか。

 

終わり。

 

そこで一刀の意識は途切れた。

 

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その光景は、まさに地獄。

 

一刀の手によって人が、馬が、次々と空を舞い、あるものは潰されていく。

 

人としての原型を残さない者の方が多いかもしれない。

 

だがこれは以前も見たことがあった。

 

反董卓連合の時の恋の姿が重なる。

 

圧倒的なその力に黒い何かが付け足され、あの時の恋よりも巨大に見えた。

 

蓮華は足の振るえが止まらない。

 

声も出せず、動くことも出来ない。

 

だがそれは恐怖では無い。

 

────歓喜。

 

蓮華の全身を途轍もない歓喜が支配する。

 

"<<呉軍ルート>>"

 

そう聞こえた。

 

そして、愛紗は言った。

 

「"我らだけを愛するご主人様に!!"」

 

と。

 

蓮華もまた幻視を見ていた。

 

一刀と愛し合い、子を成す幻視。

 

あの『靖王伝家』があれば・・・。

 

そこへ思春と明命が駆け寄る。

 

「一刀様は村から出た所で気を失ったようです。黄巾党はほぼ全滅しました。

 

生き残った者はごくわずか。すぐに処理できます」

 

明命の報告に蓮華が頷く。

 

「よし、一刀兄さまを救出しに行きなさい」

 

「はい!」

 

明命が駆け出す。

 

それを見届け、思春が蓮華の側に控える。

 

白蓮の様子を見れば、医者が必死で治療をしている所だった。

 

なぎのがんばりだろうか。顔色はそこまで悪くない。

 

これなら助かるかもしれないとホッとする。

 

なぎを見れば、小さな体で白蓮に気を送り続けた為か気を失っていた。

 

その姿を見て蓮華に暖かな微笑みが広がる。

 

「思春」

 

そちらを見たまま思春を呼ぶ。

 

「はい」

 

「"何としても"『靖王伝家』を手に入れなさい」

 

「承知しました」

 

思春は即座に意味を理解する。

 

だが、その事に意見をするつもりは毛頭無かった。

 

思春が消えた後、蓮華は思考を張り巡らせる。

 

「愛紗は敵・・・それは蜀も、という事かしら・・・」

 

ふぅ、と溜息をつく。

 

微笑んだまま。

 

「やはり、三国同盟は邪魔ね・・・」

 

その小さな呟きは誰にも聞かれること無く風に消えた。

 

風を起こしたのは蓮華の覇気。

 

────その日、蓮華の覇気は雪蓮を超えた。

 

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村を脱出する馬が一頭いた。

 

その背には『靖王伝家』を持った流琉の姿がある。

 

馬は一目散に魏を目指す。

 

(待っててください。兄さま・・・必ず"元に戻して"あげます)

 

必死の逃亡劇は呉の追跡を逃れる。

 

流琉の持つそれは火種。

 

巨大な、あまりにも巨大な全てを焼き尽くす火種。

 

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桂花は泣きすぎてふらつく頭のまま華琳の部屋へと向かう。

 

秋蘭は医務室に逆戻りだ。

 

未だ目覚めない華琳だが、せめて側に居たかった。

 

ギィ、と扉を開けた時────

 

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「桂花、今までの事を説明して頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳、目覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一部完

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ぐはっ<吐血

 

ようやくここまで来ました。

 

これで第一部完です。

 

300kbでもここまで書きました。

 

いつもいつも支援やコメントありがとうございます!

 

ものすごーーーーく、力になります。

 

まだの方もどしどしお願いします。

 

非常に喜びます♪

 

そうそう。24話で王冠がつきました。

 

これも皆様のおかげです!本当にありがとうございました!

 

第二部開始までちょこっと色々お茶を濁すと思いますが、

 

そちらもよろしくお願いします。

 

あ。ちなみにオリジナルの期間内完結は諦めました!

 

何しろ今日まででしたねぇ・・・ぐふっ<吐血

 

では、第二部にも御期待ください。

 

 

 

ちょこっと予告。

 

『靖王伝家』を巡り三国の水面下での激しい戦いが始まる。

 

三国同盟を維持するのか、破棄するのか。

 

その中で一刀はついに雪蓮と冥琳の二人と出会う。

 

「三国同盟」

 

ではまた。

 

 

 

説明
第一部最終話です。
はた、と気が付いた。
今日は月曜日でした。
一日ズレテマシタ・・・。
曜日の感覚が・・・。
というわけで一般公開です。
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コメント
各々が想いを取り戻し、その願いが叶うモノが存在すると知る・・・なんかこの先の道が狭く険しいモノにしか思えない; ともあれ第一部完結お疲れ様でした!第二部も楽しみにしております! (深緑)
なんてものがダウンロードされてるんだ(KU−)
春蘭、精神崩壊したな(シン)
はぁ、なんとまぁ、驚きの一言ですね。とにかく第一部終了お疲れ様です。第二部も引き続き頑張ってください。こちらも楽しみにお待ちしております。(マスター)
ガタガタ・・・ブルブル・・・、蓮華エ・・・インストール開始後の姫君たちの反転ぶりがマジパネエっすw(まーくん)
靖王伝家が宝剣以上の剣になってるし!第二部は第一部以上に混沌するな…(シン)
トッティ様、一度味わってしまった&quot;幸せ&quot;という名の禁断の果実。それがどうなるのか・・・。(北山秋三)
makimura様、いいですね!蓮華は雪蓮を超えれると思うので、それが出来ればかなりすごい事になるかと。(北山秋三)
中原様、それも第二部に続く!(北山秋三)
七夜様、これからどうなるか〜♪(北山秋三)
よしお様、春蘭は姉という&quot;枷&quot;を外せなくなってしまっていますから・・・。(北山秋三)
サイト様、もうちょっとかかると思います。(北山秋三)
nameneko様、正解です。無いのは一刀のデータだけです。(北山秋三)
きのすけ様、一刀ですからw(北山秋三)
ゆっきー様、それが表現できていれば幸いです。(北山秋三)
sai様、自分の命よりも欲しくて欲しくてたまらなかったものが手に入らなかった狂気・・・どうなるか・・・。(北山秋三)
Djトク様、もうしばらくお待ち下さい♪(北山秋三)
イタズラ小僧様、さぁーて、それはどうなるでしょうか。微妙なバランスが描ければいいのですが。(北山秋三)
btbam様、第二部にも御期待下さい!(北山秋三)
よーぜふ様、エッ、コノサクヒンハ&quot;心臓振る羅武混迷day&quot;ハートフルラブコメディデスヨ?(北山秋三)
ryu様、一刀が全てを知る時どうなるか・・・お楽しみに!(北山秋三)
たっちゃん様、まさにその通りだと思います。何しろ今の半分の蜀でも充分戦えますからねー。(北山秋三)
ロンギヌス様、そしてこの一刀は凪&quot;だけ&quot;を愛する一刀ですからねー・・・。(北山秋三)
poyy様、魏の一刀が消えなければこうはならなかった、というのがキーワードでもあります。(北山秋三)
「天の御遣いと靖王伝家が揃えば…」と、あの幻を見た者たちは思うんでしょうねぇ。でも春蘭さんがやばげだぁぁぁ!?(トッティ)
いいね、実にいい。どいつもこいつも最高だ。特に覇気を得た蓮華は素敵だ。私も書いてみよう。(makimura)
春蘭に何があった!?(中原)
凄く楽しかったですw続きが楽しみ♪(よしお)
この手を終わらせたくなる何も悪いことじゃない〜♪(七夜)
春蘭が病んでる!!??(よしお)
覇王様復活!役者が揃うまでもうちょっとかな?(サイト)
全武将のバックアップデータがあるのか(VVV計画の被験者)
つまり一刀がヒロインですね、わかりますw(きの)
桃香が怖いよ。・゚゚ &#039;゜(*/□\*) &#039;゜゚゚・。 ウワァーン!! (ゆっきー)
第二部はものすごい争乱になりそうですね。桃香たちの狂いようもここまでになると恐ろしいですね。第二部楽しみにしています。(sai)
三国同盟が消えるのは確定ですかね。どこが優位にもっていくのか、気になるところです。(イタズラ小僧)
こ、これは・・・いろいろな人間が侵食されていく・・・第二部気になる!(btbam)
まさか一人の男を争いこのようなことに・・・ ある意味ご都合主義な記憶でありながらそれゆえの争乱、どうなるのか楽しみです・・・が、できればハッピーにやにやがいいので、ね? 不幸なのは辛いのですよw(よーぜふ)
これはきつい。真っ先に蜀が狂っているのも痛いな。一刀がすべてを知った時、苦しむだろうな。自分自身が争いの火種なんだから。(ryu)
これは予想を大きく上回る展開ですね…三国同盟はどうなるんでしょう?しかし、いつも感じていたことだが、蜀って敵に回すと恐ろしい…。(たっちゃん)
風雲急を告げる&quot;天の御遣い&quot;模様 アレがあれば一刀は自分たちを愛してくれる。文字通りに天の御遣いが三国の争いの火種となってますね・・・(ロンギヌス)
なんという展開。なんか皆さん病んでるというか壊れていってるというか、これから三国による潰しあいが始まるんですかねぇ。それに一刀が恋と一緒の状態になるとかどんだけwww(poyy)
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