涼州戦記 ”天翔る龍騎兵”4章1話
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第4章 狂気の果てに 第1話 幽州を守りし者達(前編)

 

パカポコ、パカポコ

 

「・・・うっ、ここは?」

 

「気が付きましたか?一刀殿」

 

一刀は簀巻きにされた上で、今や一刀の愛馬となった麒麟の背に括り付けられており、並んで馬を歩ませていた郭嘉が声をかけて来た。

 

あの後、余計な一言を言い馬超と孫策にボコボコされた一刀を除いた各陣営の君主及び軍師達による話し合いが持たれた。

 

その結果、激戦の後でもあり兵達は本拠地に一旦戻して休息を取らせた後、洛陽郊外に集結させることとし、君主と軍師は一足先に洛陽にて対張譲戦の協議を行なうことにした。

 

因みに劉備であるが話し合いの最中に伝令が着き、反乱を既に鎮圧し事後処理の為に一部の部隊を残し劉備達は黄忠達荊州軍と共にこちらに向かっているとのことだったのでこちらの状況を知らせ、そのまま洛陽へ向かうよう伝令を送っていた。

 

郭嘉から詳細を聞き特に問題はないと判断した一刀だが心配そうに北の空を見上げた。

 

「(・・・白蓮、大丈夫かな?・・・元直殿が居るから大丈夫だよな)」

 

胡車児よりの情報で幽州攻略が既に始まっていることを知った郭嘉は袁紹襲来を知らせる狼煙を上げるよう洛陽に伝令を送っていた。

 

もし間に合わなかったとしても相手が袁紹ならば白馬義従が居るし徐庶も居る、そう簡単にやられることはないだろう。

 

だが相手は張譲なのだ、なにをしてくるのかまったくわからない。

 

一刀の不安な心中を表すかのように北の空に暗雲が立ち込めていた。

 

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その頃、冀州と幽州の州境にある狼煙台兼監視塔の1つへ冀州軍先遣隊が接近していた。

 

「なあ斗詩?ここまで接近したのに動きが見えないと言うことは・・」

 

「うん、文ちゃん。信じられないけど影の人達が攻略したということだよね」

 

文醜や顔良が驚くのも無理は無いのである。

 

先遣隊に先駆けて狼煙台へと向かっていった影は2名で特段武に優れているようには見えなかった。

 

その上、狼煙台には常時50名以上の兵がいることがわかっておりどう見ても無謀としか思えなかった。

 

ひょっとして罠かもと恐る恐る近づいて行った文醜達が見たものは・・・

 

辺り一面血の海で動くもの一つも無い狼煙台だった。

 

「・・・文醜様、顔良様・・これってさっきの奴らがやったんですか?」

 

「・・・・・」

 

「・・・多分そうだと思うよ」

 

余りの凄惨さに横に居た兵士が聞いてくるが、文醜は言葉が出ず、顔良も一言発するのが精一杯だった。

 

無言のまま狼煙台を通り過ぎていく文醜達だったが、前に兵士が1人立ちすくんでいるのに気が付く。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

声をかける文醜に気が付いたのかその兵士は振り返るのだがその顔は青白いを通り越して真っ白だった。

 

「・・・こっこれ」

 

そう言って指差す前方を見た文醜達の目に映ったのは、辺りに飛び散った血の海の中に元は人だったと思われる肉片が散らばっており、まるで人が内側から爆発したような光景だった。

 

「・・・うっうげっ」

 

横に居た兵士はたまらず吐き出す。

 

「文ちゃん、あの服さっきの影の人達が着ていたものだよね?なんだか怖いよ」

 

「あの爺、奴らになにしやがったんだ?」

 

言い知れぬ恐怖に不安を口にする顔良と忌々しげに吐き捨てる文醜だが、それでも彼女達は前進せざるを得ない。

 

なぜなら地方豪族の離反を引き止めるべく東奔西走していた隙を衝かれ、主、袁紹の身柄を奪われていたからである。

 

主の命を盾に取られては逆らうこともできず止むを得ず張譲の命に従っていた。

 

「田豊のじいちゃん、審配のにいちゃん早いとこ頼むぜ」

 

南皮に残った田豊らによる袁紹奪還に希望を託し彼女達は進軍していく。

 

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それから数日後

 

公孫賛は本拠地北平は政庁の執務室にて竹簡の山に囲まれていた。

 

「おら、伯珪。なにをぽけっとしてんだ!手が止まってるぞ」

 

「あ?ああ、すまん。ちょっと考え事をしてたんだ」

 

さらさらと筆を動かしていた徐庶はなにやら心ここに在らずといった風な公孫賛に声をかける。

 

「考え事?なんだよ」

 

「いやな、反董卓連合戦の時、当初の予定通りに麗羽、袁紹側に付いてたらどうなってたんだろうと思ってな。元直、お前はどう思う?」

 

「お前はどうなると考えたんだ?」

 

「うーん、麗羽の奴のことだから

 

『おーほっほっほ、貧乏臭い白蓮さんはお仲間の貧乏臭い方々といっしょが宜しいのではなくって』

 

ってな感じで混成軍に入れられて多大な損害を出しながら水関をやっとこさ抜けると

 

『うらぁぁぁぁ、この逆賊どもが!!我が槍の錆となれぇぇぇ!!』

 

と突っ込んできた菖蒲様に“これ”されるんじゃないかなーと思ったんだけど」

 

と自分の首の前で指先を左から右へすっと動かす公孫賛。

 

「真面目に聞いた俺が馬鹿だった。おら、仕事しろ」

 

「わー、冗談だって冗談。麗羽の奴だって攻城戦で騎馬隊が役にたたないって知ってるだろうから、多分後方待機ってことになって殆どなにもせずに終わることになったんじゃないかと思ったんだけど?」

 

「ふむ、まあその可能性も高いが俺が袁紹の参謀だったら水関から虎牢関までの間を偵察する為に伯珪達を真っ先に送り込んだけどな」

 

「おいおい、それだったら結局私達はやられていたということじゃないか」

 

「まあな、で終わった後、どうなるんだ?」

 

「はぁ、積極的に攻めていない訳だから多分北平の太守でいられたと思うけど、唯、今と違って幽州で孤立無援の上に元直も居ないんじゃ麗羽辺りに攻められて良くてその配下、へたすりゃ討たれて終わりだな」

 

「ふーん、まあ間違っちゃいねえな」

 

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「はぁぁぁぁ、皆すごいよなーそれに比べて私は・・・」

 

盛大な溜息を吐きながら机に伏せる公孫賛を見、徐庶はニヤニヤ顔を改める。

 

「伯珪、お前はすぐ自分を普通だと言って卑下するが普通のどこが悪いんだ?」

 

強い口調で言う徐庶に公孫賛はおずおずと顔を上げる。

 

「だって・・武では恋はもちろん翠や愛紗にも遠く及ばず、智では朱里や詠に遠く及ばず魅力でも桃香や月に及ばず・・・なにもかも中途半端じゃないか!私だって色々努力してきたさ、でも・・何一つとして誰にも勝てないんだよ!!」

 

徐に話し出した公孫賛だが話していく内に感情が高ぶってきたのか激しい口調になっていく。

 

「うーーー(涙)、私はやっぱり駄目だ、駄目駄目なんだーーー」

 

感極まったのか涙目になっていく公孫賛に徐庶はふうっと溜息を吐き苦笑する。

 

「なあ、俺前に言ったよな。物事を一方面からだけ見るなと。今お前が言った人達は確かにそれぞれの分野でお前より上だろう。でもな例えば呂布殿、馬超殿、関羽殿は武ではお前より上だろうけど、智ではどうだ?俺が聞いた限りではお前の方が上だと思うぞ。他の人も同じだ。総合的に考えれば同等か差があってもほんの僅かでしかないと俺は見てる」

 

「えっ、・・・本当か?」

 

「ああ、本当だ。一刀も言ってたぞ、お前が仲間になってくれて助かったって」

 

「そうか、一刀が・・・」

 

「お前みたいになんでもそつなくこなせる将は貴重だとさ。わかったか、見てる奴はちゃんと見ているんだよ」

 

「うん、へへへ」

 

泣きながら、でも嬉しそうな顔をしていた公孫賛だが、ふと徐庶の顔をじっと見つめる。

 

「な、なんだよ」

 

「なあ、そこまで認めてくれるならそろそろ真名で呼んでくれよ」

 

公孫賛は徐庶に度々真名を預けようとしていたのだが徐庶は頑なにそれを拒んでいた。

 

「駄目だ、我が家の掟なんだ。俺が真名を呼んでいい女性は伴侶だけだ」

 

「じゃあ・・・」

 

公孫賛がなにかを言おうとしたその時、扉を開けて慌てたように兵が入ってくる。

 

「し、失礼します、易京城より伝令です!」

 

「んっ、なんだ?」

 

徐庶の問いに兵が横に動くとその後ろからボロボロの格好をした伝令が現れる。

 

「易京城より(ハアハア)伝令・で・す。突・如・現れた袁紹軍に城・を包囲さ・れ・ました。(ウグッ)至急・援軍・を願います」

 

ボロボロの伝令はそう言うと気を失いその場に倒れた。

 

「おい!しっかりしろ。医者だ、すぐ医者の所に運ぶんだ!」

 

衛兵達が慌しく伝令を運んでいくのを見送ると公孫賛は徐庶の方へと向きを変える。

 

「おい、元直。いきなり易京城に現れるとはどういうことだ?狼煙台は機能しなかったのか?」

 

「わからん、現状では情報が無さ過ぎる。それよりも大至急援軍を送らんといかん!伯珪、お前はすぐに将と兵を集めろ」

 

「ああ、わかった。それでお前は?」

 

「直属の偵察部隊を送って情報収集すると共に町の長老の所に行って最悪の場合に備えて避難の用意をするよう依頼してくる」

 

公孫賛と徐庶は頷きあうと慌しく執務室を出て行った。

 

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その頃、袁紹軍、いや張譲軍先遣隊は易京城を包囲した上で軍議を行っていた。

 

「文醜!伝令を逃がすとは何してやがる!!」

 

「うるせえな!やっちまったものはしょうがねーだろ。それにそもそも無理なんだよ!歩兵が騎馬に追いつける訳がねえ。あたい達から騎馬隊を取り上げたあの爺に文句言えよ!」

 

今軍議を行っている天幕の中には、この部隊の長である高覧と文醜、顔良の武将と参謀の沮授が居て、高覧と文醜が互いを罵り合っていた。

 

さて、彼ら先遣隊の状況を簡単に説明しておこう。

 

狼煙台を潜り抜けた後、なんとか目標とする易京城近くまで公孫賛軍に発見されることなく辿り着いたのはよかったのだが、袁家の幸運力が尽きたのか包囲しようとした矢先、城から5騎ほどの伝令と思われる騎馬隊が出てきたのである。

 

あわてて包囲しようと突撃した高覧や文醜だったが当然のごとく逃げられてしまったのである。止むを得ず城を包囲し早期に城を攻略するべく軍議を行おうということになり今に至る訳である。

 

「ふたりとも言い争いはそれぐらいにしてどうすれば早期に攻略できるか前向きな意見を出してもらえませんかね?」

 

何時までたっても言い争いが終わらない2人に業を煮やしたのか沮授が2人を仲裁?するように声をかける。

 

ここで今声をかけた沮授について少し語っておこう。

 

正史や演義の沮授と同じようにこの外史の沮授も韓馥に仕え、その後袁紹に仕えているが少し異なるところがある。

 

それは韓馥である。

 

正史や演義の韓馥はどうしようもない人物で沮授らの諫止を聞き入れず袁紹に冀州を譲ってしまい惨めな最後を迎えたが、この外史の韓馥は中々の人物で武は人並だが智はかなりのものがあり、なによりも人を引き付ける魅力に溢れており袁紹の父、袁成とその筆頭軍師田豊に見込まれて?の太守に推挙され、またなんと袁紹の許婚にもなっていた。(まあその為袁紹のわがままに振り回されて苦労していたようであるが)

 

沮授は彼に惚れ込み彼の下で数々の献策を行い黄巾の乱で荒廃した?の復興に尽力していった。

 

やがて荒廃した町の復興が終わりを迎える頃には武の張?、智の沮授として韓馥配下の双璧と名を轟かすようになった。

 

順風満帆だった彼らだが、反董卓連合戦後から暗雲が立ち込めて来る。

 

袁家で内紛が起こった際に彼らには思いもかけない噂が流れ始めたのである。

 

曰く「?太守、韓馥は袁家に取り立ててもらった恩を忘れ曹操に寝返ろうとしている」と

 

反董卓連合戦で散々な目に遭い気落ちしていた袁紹は噂を真に受けてしまい韓馥に釈明する為南皮へ来るよう使者を出す。

 

その使者を受けて韓馥は南皮に向かおうとするが沮授は謀殺される危険性が高いから先ずこちらからも使者を送るべきと進言するも袁紹の性格をよく知る韓馥はそんなことをすれば余計にこじれるだけだと沮授らの制止を振り切って南皮へと向かう。

 

だが彼は南皮には辿り着けなかった。

 

途中で崖崩れに遭い谷底へと転落し行方不明になる。

 

その上、知らせを聞いた張?、沮授が捜索の為、?を離れた隙を狙って高覧、許攸の兵に?を急襲し制圧されてしまう。

 

事ここに至って沮授は今回の件の黒幕に気づく。

 

そう、噂を流して韓馥を誘き出し謀殺したのは高覧と許攸である。

 

韓馥が袁紹と結婚することにより張?、沮授らに自分達の居場所を奪われることを恐れての凶行だったのだ。

 

だが、このことを袁紹に訴えようにも怪しいというだけで確たる証拠がない、これではいくら袁紹でも奴らを処罰することはできない。

 

沮授達は顔良らに取り成してもらいそのまま袁紹に仕えることになった。

 

ただ、主君の仇を討つために。

 

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策を出すよう促した沮授だがどうにも出てきそうもないことを悟ると自らの策を説明する。

 

逃げた伝令は当然のことながら援軍を呼んでくるだろう。

 

そして城の連中も伝令が逃げ延びたのを見ているからやがて援軍が来ると思っているはず。

 

そこで我軍を3つに分け、一隊を使っていかにも援軍がきたようにみせかければ城にいる連中は援軍が来たと誤解し、挟撃するべく討って出てくる。

 

そうしたら隠しておいた一隊で城門を急襲し占拠する、それと同時に偽戦をしていた2隊は反転し出てきた連中を包囲殲滅する。

 

説明を終えた沮授は高覧と文醜に「質問は?」と問いかけるが二人は何も言えず首を左右に振るだけだった。

 

頭が少し残念な2人はほって置いて顔良が問う。

 

「でも本当に援軍が来てしまったら逆に私達が挟撃されることになるのではないですか?」

 

「ふっ、その時は出てきた奴らの包囲を辞めてさっさと城の中に逃げ込めばいいのさ。後は城門を閉めて本隊が来るまで守れば十分目的を達したことになる」

 

涼しい顔で言う沮授に3人とも反論はなくこの策で行くことに決まった。

 

配置については偽の援軍を文醜、顔良がそれぞれ自らの兵2千を率いて行い、包囲するのは高覧、城門を奪取する部隊を沮授が率いることになる。

 

軍議は終わり文醜、顔良、沮授は天幕を出て行くが外に出た処で文醜達に沮授が声をかける。

 

「あー、援軍を演じるに当たって注意することがある。歩きながら話そう」

 

沮授に促され文醜と顔良は横に並んで歩き始める。

 

「なんだよ注意することって、沮授のにいちゃん」

 

「いいからそのまま聞け、いいか偽戦の時けっして油断するな。高覧の奴お前らをマジで殺しにくるぞ」

 

小声で思いがけないことを言ってくる沮授に息を呑み立ち止まる2人

 

「止まるな、なんでもない振りをしてそのまま歩け。出発前に高覧といっしょに呼ばれて命令されたんだ。ふっ、俺と張?は事情が事情だけに反袁紹と思われたんだろう。いいか良く聞けよ、高覧の奴が殺りに来たらやられた振りをしてそのまま公孫賛のところへ逃げろ。そして公孫賛に力を貸してもらえ。このままここに居たら袁紹を助け出す前にお前らが死ぬぞ」

 

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まだまだ戦いは続くであろうと思われるこの時期に袁紹軍において有数の武を誇る自分達を排除しようとするとは夢にも思わなかった2人は状況の急変に愕然とする。

 

そしてなにかに気づいたように文醜は沮授の方に顔を向ける。

 

「沮授のにいちゃんはどうすんだよ?」

 

「知れたこと、この機会に高覧の奴を討つ!」

 

その言葉を聞き顔良も顔を向ける。

 

「そんな!無茶ですよ。高覧は武官で将軍なんですよ、文官の沮授さんが敵う訳ないじゃないですか。それにもし討てたとしても後どうするんですか?討った瞬間に回りは敵ばかりになるんですよ?逃げられる訳ないですよ(泣)」

 

泣きながら言う顔良の頭に手をポンポンと当てながら沮授は苦笑する。

 

「全く相変わらず斗詩は泣き虫だな。・・主君を守れないような腐れ軍師の命などどうでもいいのさ。仇さえ取れればな。・・さあ、行った行った。・・無事麗羽を助け出すことを祈ってるぞ」

 

そう言うと沮授は天幕の方へと戻っていった。

 

戻っていく沮授を見送った2人は深刻そうな顔を合わせる。

 

「どうしよう文ちゃん?いやだよ私、韓馥さんに続いて沮授さんまで失うなんて」

 

「とは言ってもあの様子じゃいくら言っても思い留まってくれそうもないし・・・・・・・・・!」

 

なにか思い付いたように手をポンと叩く文醜。

 

「いい手を思い付いたぜ。よし、急いで準備しなくちゃ。斗詩、急いで隊に戻るぜ」

 

「えっ?なになに。思い付いたってなにを?待ってよ文ちゃーん」

 

2人は自分の隊の方へと駆けていく。

 

さて、なにを思い付いたのか文醜。大丈夫なのか文醜。顔良の不安は膨らむばかりだった。

 

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次の日、高覧が城攻めに取り掛かっている頃。

 

公孫賛は援軍を引き連れ易京城へと向かっていた。

 

白馬義従1万、それ以外の騎馬隊1万、歩兵1万の計3万に登る堂々とした行軍であった。

 

「伯珪様、元直殿。白馬義従だけでも先行させた方がいいのではないですか?」

 

公孫賛、徐庶と並んでいる横に王門が並びかけ問い掛ける。

 

「ああ、私もその方がいいと思ったんだけど・・」

 

「いや、今易京城に攻め寄せている2万が袁紹軍の全てではないはず。必ず後続の部隊がいるはずだ。先に一部を割いて送り込んだとしても2万と交戦中に後続がやってくれば全滅しかねない。兵力の逐次投入は避けるべきなんだ。それに安心しろ、2万程度なら1日や2日で落ちるほど易京城はやわじゃない。厳綱殿や関靖殿もいることだし」

 

と徐庶は周りの者を安心させるようににこやかに断言する。

 

「そうですな、あの袁紹でもたかが2万でこの幽州を取れるとは思ってないでしょう。確かに後続がある可能性が高い。・・・ふふ、でも早く行ってやらないと関靖の奴が大変なことになるぞ」

 

「ああ、あいつ普段は優秀なんだけどな〜。突発的なことが起こると駄目だからな。多分今頃泣き喚いて厳綱を困らせているんじゃないか?」

 

范方、鄒丹らがそれぞれの感想を述べると周りから笑いが巻き起こる。

 

 

 

因みに同じ頃易京城では。

 

「死ぬーー、死ぬ死ぬ。あーー、あんなにいっぱいの敵がーー。伯珪様――早く来てーはーやーくー」

 

盛大に関靖がパニクっていた。

 

「・・・・う・る・さ・い!」

 

ボゴッ

 

パタッ

 

「おい、ぐるぐる巻きにして部屋に押し込んどけ!」

 

「はっ!」

 

厳綱は部下に指示を出すと篭城戦の指揮をするべく城壁へと向かった。

 

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一頻り笑った公孫賛達は再び進軍を開始するのだが、やがて前方から砂煙が立ち上るのが見える。

 

「んっ?騎馬のようだが・・あれは越の奴か?」

 

「どうやらそのようだがおかしいな?戻ってくるには早すぎる。なにかあったのか?」

 

公孫賛と徐庶が首を捻ってる内に公孫越が数騎の騎馬とともに到着する。

 

「おう、姉貴」

 

「越どうしたんだ、こんなに早く帰ってくるなんて」

 

「いや、俺じゃ判断付かないことが起きてさ。姉貴の判断を仰ごうと思って戻ってきたんだ」

 

「判断付かないこと?」

 

「ああ、おい!」

 

公孫越はそう言うと上体を捻って後ろを向き後ろに居る者達に前に来るよう促す。

 

「へへー、白蓮様しばらくぶりー」

 

「もう文ちゃんちゃんと挨拶しなきゃ駄目だよー」

 

「・・・えーー!猪々子に斗詩。なんでお前らがここにいるんだ!!」

 

そう、公孫越に促されて前に出てきたのは文醜と顔良だった。

 

驚きの余りパニックになりかけた公孫賛だが徐庶の一喝で気を落ち着けるとどういうことなのかを公孫越に聞いてみた。

 

公孫越が言うには易京城へ偵察に向かう途中に2人に遭遇したとのこと。

 

敵襲かと戦闘態勢を取ろうとしたところ、どうも様子がおかしいことに気づく。

 

顔見知りだったので文醜と顔良だということはわかったがあの特徴的な得物を持っておらずどうも敵対する様子がない。

 

そこで話してみることにしたのだが

 

「仲間を助けるため手を貸してくれ」

 

と言われ困惑してしまった。

 

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どういうことか尋ねた処、仲間の武将に命を狙われておりもう一人の仲間の機転により自分達は逃げることができたがその仲間がまだ残っており彼もまた命の危機にありなんとか助けたいとのことだった。

 

公孫越としても顔見知りの2人の頼みを聞いてやりたいが自分にはその裁量がないのでとりあえず公孫賛の下へ連れてきたという訳であった。

 

公孫賛としてもどうしたものかと思ったが徐庶の「なにはともあれ詳しい話しを聞いてみないことには判断できん」の言にそれもそうだと思い、部下の范方、鄒丹、文則に軍を任せ、進軍を続けさせ所定の場所で野営の準備をするよう指示を出し、自分は徐庶、王門、単経そして文醜、顔良とともに近くの森へ行きそこで詳しい話しを聞くことにした。

 

「へっ、なあ姉貴。俺は?」

 

「はあ?お前は偵察の任務が残ってるだろ」

 

「えー、今からまた易京城近くまで行くのかよ。俺も付いて行っていいだろ」

 

「・・・(怒)い・い・か・ら行け!」

 

すらりと普通の剣を抜く。

 

「わ、わかったよ。行くよ、いきゃいいんだろ」

 

公孫越は「ちくしょうーー、姉貴のケチ、扁平胸、影薄―――」と捨て台詞を残すと脱兎のごとく馬を走らせていった。

 

「・・・(ピキッ)おい・・・弓を貸せ・・」

 

「んー、捨て台詞としてはイマイチだな。はい、当てないでくださいよ」

 

公孫賛は王門より弓を受け取ると徐に矢を番え、

 

「うるせーー、この馬鹿弟。死ねーーー」

 

走り去る公孫越向けて矢を乱射していた。

 

「くくく、白蓮様達相変わらず仲がいいんですね・・・くすん、どうしてこんなことになっちゃったんだろ?姫や韓馥兄様達、それに白蓮様達とにぎやかで楽しく過ごしていた頃に戻りたいよ・・」

 

主を奪われ、兄と慕った人はこの世を去り、そして親しかった友人達と殺し合いをしかねなかった状況に顔良は涙する。

 

「それを取り戻すためにも先ずは詳しい話しを聞かないとな。さっ、行くぞ。おい、伯珪矢がもったいないからそのぐらいにしとけ」

 

顔良を慰めるように声をかけると徐庶は公孫賛の首根っこを引っつかんで森へと引っ張っていった。

 

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明けて次の日、高覧は前日に引き続き攻城戦を行なっていた。

 

後一刻もすれば沮授の策に則り偽援軍との偽戦が始まる。

 

そして公孫賛達は白馬義従を含む騎馬隊のみで易京城へと疾駆していた。

 

因みに文醜、顔良も同行している。

 

昨日あの後文醜、顔良から詳しい話しを聞いた公孫賛と徐庶は文醜達の頼みを聞き入れ沮授を助けることを決めた。

 

唯、後続部隊のことが気にかかったのだが顔良からの情報で到着にまだ2,3日かかることがわかった為、騎馬隊のみで急襲することにしたのである。

 

ここまでを読んだ読者の中には公孫賛と徐庶の判断を甘いと思われる方がいらっしゃるだろう。

 

攻めてきた敵軍が内輪もめを起こして合い争ってるのだから放っておけばいいと。

 

まあ公孫賛は文醜、顔良との友誼を感じているところがあるがそれだけで助けようと考えるほど2人は甘くはない。

 

文醜、顔良を手助けして沮授を助けることにより3人を自軍に取り込んだ上で今回侵攻してきた2万の兵の内1万ぐらい引き込めるのではと目論んだのである。

 

公孫賛軍は兵数、錬度ともにそれなりのものがあるのだが残念ながら将として兵を率いる人材が欠けておりそれを補えるのではと期待した訳である。

 

そううまくいくものかとの懸念はあったものの袁紹が張譲に拉致され袁家が既に乗っ取られていることを文醜らから聞き及ぶに至り少なくとも3人に関してはうまくいくと確信した。

 

彼女達3人には自分達の側へ来るしか生きる道はないと。

 

「そろそろ見えてくる頃・・・んっ?おっ、越の奴戻ってきたか。全軍停止!」

 

前方からやってくる騎馬が公孫越であることを確認した公孫賛は騎馬隊を停止させる。

 

「姉貴!ちょっとヤバイ状況だぜ。沮授さんの策見透かされてたみたいで挟撃されて風前の灯って状態だ」

 

「なに!うーん元直、どうする?」

 

公孫越の報告を聞いた公孫賛は横に居た徐庶に問いかけ作戦会議を始める。

 

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すこし離れた所からそれを眺めていた文醜は小首を傾げる。

 

「なあ、斗詩?どうしたんだろうな」

 

同じように公孫賛達を眺めていた顔良は顔を俯かせて考え込んでいたが文醜に問われ顔を上げる。

 

「文ちゃん・・・もしかすると沮授さんになにかあったのかもしれないよ」

 

「な、なにかってなにがあったんだよ!」

 

「そ、それはわからないよ。でも白蓮様が深刻そうな顔をしてるってことは危ない状態にあるってことだと思うよ」

 

「・・・・」

 

「あ、でも聞いた訳じゃないから本当にそうだとはって・・・文ちゃん?(キョロキョロ)文ちゃんどこいくの!!」

 

顔良の悲鳴のような叫びに公孫賛と徐庶は何事と顔を声の方へと向けると一騎で疾駆していく文醜が見えた。

 

「なにーーー、猪々子――どこいく気だーーー」

 

「気づいたのか?しかし真名はその者の本質を表すとはよく言ったものだな。」

 

そして徐庶はあきれながらも各隊へ指示を出し前進を始めるのだった。

 

その頃、沮授は絶体絶命の危機にあった。

 

当初は沮授の思惑通りに進み、騙されて出てきた城の守備兵を高覧は部隊を反転させ包囲するべく鶴翼の陣へと移行した。

 

驚いた守備兵達は城へ戻ろうとするが包囲を完成させるべく両翼は伸びていく。

 

そしてそれに伴い中心部の牙門旗のある箇所が薄くなっていくのを沮授は見逃さなかった。

 

機会を待つべく守備兵に紛れ込んでいた沮授は好機とばかりに元韓馥の親衛隊500名と共に主君の仇を討たんと牙門旗目掛けて突撃を開始した。

 

突然のことに狼狽し中心部は崩壊していくように見えた。

 

だが銅鑼の音と共に中心部は左右に分かれていき沮授の目の前には唯、牙門旗が棚引いているのみ。

 

そこに左右から矢が降り注ぐ。

 

為すすべも無く倒れていく元親衛隊の兵達、沮授も肩と足に矢を受け倒れ付す。

 

そこで沮授は気づく、自分の策が見透かされていたことに。

 

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「ははは、ざまあねえな沮授」

 

悪態を付きながら左側の部隊より出てくる高覧。

 

それに気づいた沮授は痛みに耐えながら高覧を睨みつける。

 

「悪く思うなよ、降りかかった火の粉は払わなくちゃならないからな」

 

「くっ、我が力及ばずか・・」

 

無念そうな沮授を見て高覧は首を傾げながら剣を抜く。

 

「何故に俺にそこまでの害意を持つのかわからんが、命を狙われたんだ、情けをかけるつもりはない。死んでもらうぜ!」

 

剣を振りかぶる高覧に沮授は最早これまでと覚悟したその時。

 

「うらーー、高覧――あたいの兄貴になにしやがる!!」

 

雄たけびとともに文字通り文醜が自身の得物、斬山刀を振りかぶりながら飛んで来た。

 

「なっ!文醜どうしてここ、ぐわっ!」

 

勢いのままに振り下ろされた斬山刀は防ごうとした高覧の剣ごと高覧を真っ二つにして大地に突き刺さった。

 

文醜は斬山刀から手を離すとくるっと1回転してから地面に立つ。

 

「兄貴!沮授の兄貴、大丈夫か?」

 

「くっ、猪々子・・なんでここに?逃げなかったのか」

 

沮授に駆け寄り心配そうに声をかけた文醜だが、苦痛に満ちた声と沮授の体に突き刺さる矢を見て・・・無言のまま立ち上がると地面に突き刺さっていた斬山刀を引き抜く。

 

周りを囲んでいた高覧隊の兵士Aは後に語る。

 

「俺は見た!確かに見たんだ、文醜様の背後に紅蓮の炎を背に立つ鬼神の姿を!」

 

また兵士Bはこうも語る。

 

「人は空を飛べるんだってその時始めて知りました」

 

得物を肩に担ぎ文醜は顔を上げると、

 

「て・め・え・らーーー、死ねぇーーー」

 

そう叫ぶと得物を振り回しながら高覧隊の兵士達へと突っ込んでいった。

 

「ぎゃあーーー」

 

「あ、兄者ーー」

 

「逃げろ!!」

 

後はもう文醜無双全開、意味不明のことを喚きながら得物を振り回し兵士達を追いかける文醜、そして空を飛び交う兵士達。

 

-14ページ-

 

「くっ、猪々子・・・」

 

文醜の繰り広げるドタバタ劇を苦痛に耐えながら見ていた沮授に声をかける者達がいた。

 

「沮授さん大丈夫ですか?」

 

「おおい、重傷じゃないのか?衛生兵を呼べーー」

 

そう、やっと文醜に追いついた公孫賛と顔良である。

 

因みに王門と白馬義従百騎が護衛として付いて来ており、徐庶と残りは高覧隊を包囲するべく動いていた。

 

やってきた衛生兵が沮授の応急処置をすませた頃、徐庶が十騎ほどの護衛を引き連れやってきた。

 

「おう、伯珪。包囲は終わったんだが・・あれをなんとかしてくれ」

 

と、親指を立て自分の後ろを指し示す。

 

「うわはははは、やっぱりあたいは強い!」

 

そこには相変わらずの文醜無双が繰り広げられていた。

 

はぁっと盛大に溜息を吐く公孫賛。

 

「いいかげんにしてもらわんと兵士達がつかいもんにならなくなる」

 

「はぁ〜・・・斗詩、たのむ」

 

「文ちゃんったら、ごめんなさいごめんなさい、ほんとーにごめんなさーい」

 

顔良は只管謝ると得物の金光鉄槌を持って文醜へと向かっていくのであった。

 

「おい、伯珪。あれ本当に大丈夫なのか?」

 

「すまん、少し考えさせてもらっていいか?」

 

がっくりと肩を落とす公孫賛をいつのまに集まってきたのか配下達の笑い声が包む。

 

とりあえず先遣隊への対処はうまくいった。

 

だがこの先に待ち受ける地獄を彼女達は知らない。

 

公孫賛は生き残れるのか?そして徐庶や愉快な仲間達はどうなるのか?

 

それは・・神のみぞ知る!

 

-15ページ-

 

<あとがき>

 

どうも、hiroyukiです。

 

4章に入りました。

 

白蓮?のターンからの始まりです。

 

さらっと1話で終わらそうと思ったんですが・・・

 

終わりませんでした、はははは、はあっ・・・

 

さて、この4章ですが史実からも演義からもかなり乖離したものになるはずです。

 

まあ、真恋姫の魏、蜀√後の三国同盟対張譲&その他という図式ですから当然そうなるはずです。

 

そして有名な武将は殆ど全て一刀達の側に居る訳ですから張譲は鎧袖一触で終わっちゃいそうですがそうはなりません。

 

別に実は張譲がチートだったとかそういう訳ではありませんよ?

 

3章の最終話の最後の方で書きましたが彼は復讐をしようとしているのです。

 

人類に対する、いや民草に対する復讐を・・・

 

こう書くと張譲がなにをするつもりなのかわかる方にはわかるかもしれません。

 

先ず、次話で白蓮達がその洗礼を受けることになります。

 

では、あとがきはこのくらいにしてまたお会いしましょう。

説明
作者「ふう〜、やっと出来た〜」

ゴキッ(首の鳴る音)

作者「さて、じゃあ投稿するとするか」

カチカチ

作者「え〜と、『涼州戦記”天翔る龍騎兵”4章1話 幽州を守りし者達(前編)』っと・・・?」

じーー(見直している)

作者「あれ?おかしいな。1話で終わらすはずなのになんで前後編?」

そろりそろり

作者「まいったな、知らない内に余計な話しが混ざってるわ。仕方ない書き直しだ、やれや(ボクッ)」

ばたっ

白蓮「ふふふ、やっと出番がきたんだ。少しでも長く粘ってやる」

カチカチ

白蓮「それでは、4章1話幽州を守りし者達(前編)の開幕だ!ちゃんと読むように、はははは」

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コメント
なかなか面白かったですが、5年も更新ないのでもう・・・・(TT)(HAL)
続きまだー(´・ω・`)(リョウト)
一言で良いのでご連絡を下さい。(tokitoki)
なんとか三人を助ける事が出来た様で先ずは良かった。張譲が相変わらずろくでもないことしでかしそうで次回白蓮達は大丈夫だろうか? 麗羽は・・・まああの幸運姫はそう簡単にはやられないか^^;(深緑)
まだー?(がるでにあ)
白蓮 乙(グロリアス)
jackry様:なるだけお待たせしないようにするつもりですが諸々の事情で今のようなペースになると思われます。申し訳ありません。(hiroyuki)
砂のお城様:徐庶とのコンビをそう言って戴けると作者としては大変うれしいです。後、3人入ってくる訳ですから改善されるはずですが・・・(hiroyuki)
うたまる様:それについては2,3話後にはあきらかになる予定です。(hiroyuki)
ロンギヌス様:河北は相当酷いことになると思います。(hiroyuki)
張譲が其処までしてなす者が何なのか、楽しみにしています(うたまる)
白蓮†無双、乙 河北情勢はどうなることやら(ロンギヌス)
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