彼とアタシと如月ハイランド 第一問 |
如月ハイランド来場者アンケート
【第一問】
サービス向上のためのアンケートにご協力ください
『今回ご来場されて、こんなものがあったらよかった、と思うものをあげてください』
木下優子の答え
『休憩用のベンチ』
スタッフのコメント
園内にいくつか配置してありますが足りないと感じられたのでしょうか? ベンチの設置数、設置場所に関して検討しようと思います。
吉井明久の答え
『ベッド』
スタッフのコメント
睡眠不足、ということでしょうか。わざわざ寝に来なくてもいいと思うのですが……。
坂本雄二の答え
『自由』
スタッフのコメント
それをこちらに求められましても……。
「ええと……これはちょっと地味かな……これはまあ良いかも……これはちょっとサイズが……」
あれでもないこれでもないと洋服箪笥からいくつもの服を引っ張りだす。今日は明久君とデートだから少しでも良い服を着ていきたい。そう思ってさっきから探してるんだけどなかなかこれっていうものが見つからない。
あ〜もう、どうしてもっと良い服買っておかなかったんだろう……まあ今そんなこと言っても仕方ないか。まだお店もやってないし。今持ってるので何とかするしかないわね。
「ねえ、秀吉。これなんてどう思う?」
「ん〜、いいんじゃないのかのう」
新たに取り出した服をあてて秀吉の方を振り向く。癪だけどこいつ、人を魅せることに関してはかなりのものだから意見を聞いてるんだけど――
「なら、これはどうかしら?」
「ん〜、いいんじゃないのかのう」
「そう? じゃあこっちは?」
「ん〜、いいんじゃないのかのう」
――さっきからこんな感じでいまいちあてにならない。
「ちょっと秀吉。さっきから同じことしか言ってないわよ。ぼーっとしてないでもうちょっと役に立つ意見を――」
「そういわれてものぅ、さすがに朝四時に起こされれば誰だってぼーっとすると思うのじゃが……」
「うっ……」
ふわぁ、と大きな欠伸をしながらの言葉にアタシは思わずうなってしまった。
それを言われるとあまり強くは言えないわね……昨日は今日に備えて早めに寝たんだけど、逆にそのせいでいつもより早く目が覚めちゃったのよね。二度寝もできそうにないし。とりあえず今日の準備してたんだけどそれも終わっちゃって。仕方ないから今日着てく服を選んでようと思ったんだけど、男の子とデートなんて経験ないから秀吉をたたき起こして、それが今まで続いてるってわけ。
「で、でもほら、それでも何かないわけ? もうちょっと明るめが良いとか、アクセサリーは控えめの方がいいとか、明久君の好みに合うかとか」
「まあそうじゃの。姉上なら活発さで押していくのがよいと思うのじゃ。だからもっとラフな格好のほうが――」
「明久君の好みとかっ!!」
「――結局それが重要なんじゃな」
重要なところなので二回言ってみた。そんなアタシを見てなにやらあきれたようにため息を吐く秀吉。
「なによその反応は。明久君とのデートなんだから明久君の好みが気になるのは当然じゃない」
「しかし明久の好みなぞわからんぞ。会えば二言目には『秀吉、今日もかわいいね』じゃからな」
「何それノロケ!? ていうかいつも明久君とそんなやりとりしてるわけ!?」
アタシなんてまだろくに明久君と遊んだことすらないのに。こいつ、ひょっとしたらアタシのやりたいと思ってることの大半はもう経験済み!? ホント油断ならない弟ね!!
「ワシのせいじゃないと思うんじゃが……そうじゃ、いっそ露出を増やして昭久を悩殺…………すまん」
「……あんた今どこをみて諦めたのかしら」
「それはもちろん姉上のワシと変わらんレベルの薄い胸じゃがそこの関節はそっちに曲がらんのじゃ――!!」
しばらく痛めつけてから秀吉を解放する。一応手加減したし、こいつもこう見えて頑丈だから大丈夫だろう。多少痛みが残ってるのかまだ腕をさすってるけど。
「それで、どんなのが良いかしら? 今度はまじめに答えなさい」
「少しは労ってほしいのじゃが……まあ、ワシにそういうってことは同じ顔の姉上も見た目で問題が起こることもあるまい。明久も特にファッションには詳しくなかったはずじゃ。姉上の好きな服で行くのが一番じゃないかの?」
「そう? う〜ん、じゃあ今日はこれにしようかしら」
しばらく悩んで、あたりに散らばった服の中からお気に入りの一着を引きずり出す。
「ようやく決まったの。それじゃワシは日課のランニングに行ってくるとするかの」
その言葉を聞いて時計をみるといつも秀吉がランニングに出かける時間だった。アタシにたたき起こされたせいで眠そうにしているが日課を変えるつもりはないらしく、秀吉はあくびをかみ殺しながら玄関へ向かう。
まあ、見送るくらいはしてやろうと思い、男とは思えないほど華奢な背中を追ってあたしも玄関へ行く。そこでふと思い出したことがあって、靴を履いている秀吉に尋ねてみた。
「そういえば、夕べの電話何だったわけ? なんかアタシ関係みたいだったけど」
「ん?ああ、あれのことか。なに、ムッツリーニからでの、明久との約束をキャンセルして姉上とデートさせてやって欲しいという話じゃったが」
……ムッツリーニって土屋君のことよね。何で土屋君がそんなこと言うのかしら。
「ワシに聞かれてもわからんのじゃ」
それもそうか。
「で、なんて答えたのよ」
「もちろん、姉上はその前日――まあ今日のことじゃが――明久と如月ハイランドに行くそうじゃと伝えたぞ。そしたらなぜか携帯が落ちたような音がして通話が切れてしまったがの」
ふ〜ん。ひょっとしたら愛子あたりが動いてたのかな。だとしたら悪いけど、秀吉が言ったとおりあたしは土曜日――つまり今日のことだけど――明久君とデートだから結果的に無駄になっちゃったわね。まあ普通に考えて日曜じゃなきゃいけないってことはなかったんだから予定がかぶったなら別の日にすれば良いだけの話よね。試召戦争の時はついカッとなって秀吉にやつあたりしちゃったけど。
「もういいかの、姉上」
「え、ああうん。もういいわ……行ってらっしゃい」
「うむ、行ってくるのじゃ」
声をかけてすぐ秀吉の姿は見えなくなり、地面を蹴る音だけが聞こえてきた。
「さて、朝ご飯にでもしようかしら」
そうね、今朝のお礼にあいつの分も作っておいてやろう。
軽く伸びをしてからキッチンへ向かう。
「じゃあ、そろそろ行ってくるわ」
「行ってらっしゃいなのじゃ」
秀吉が帰ってきたら一緒に朝食を食べ、しばらく休んでから待ち合わせの駅前に向かった。
「ふんふふんふふ〜ん♪」
思わず鼻歌を歌ってしまうほど気分が高揚している。アタシ実は歌とかぜんぜんだめだから普段は歌うなんてことないんだけど、まあそれだけ今日を楽しみにしてるってこと。
今日はなにをしようかしら。如月ハイランドって行ったことないからなにがあるのかわからないのよね。もっと事前にネットとかで調べとけばよかったわ。向こうでパンフレットとかもらえるかしら。そういえば明久君ってどんなアトラクションが好きなんだろう。なんとなく絶叫マシンとか好きそうな気がする。
なんて今日のことをいろいろ考えていたらいつの間にか駅前に到着していた。
「……さすがにちょっと早かったかしら?」
時計を確認すると九時をちょっとまわったところ。待ちきれずに来ちゃったけど、まだ後一時間くらいあるし。どうしたものかしら。
「……って、あそこに立ってるの明久君?」
視線の先、駅入り口におかれているベンチの一つに明久君の姿を見つけた。とくになにかしてるわけでもなく、ぼーっとしている姿を見て、慌てて彼のいるところまでいく。その途中で明久君もこちらに気づき、微笑みかけてきた。
「あ、優子さん。おはよう。今日は誘ってくれてありがとね」
「え、あっ、おはよう。まあ気にしないで、こっちも福引きで当てただけだし。それよりごめんなさい、アタシ時間間違えちゃったかしら?」
「あ、大丈夫だよ。僕が早くきただけだからさ」
…………よかった、アタシのミスで待たせてしまったかと思った。でも、じゃあどうしてこんな早くに? 明久君もアタシみたいに楽しみにしていてくれたのかしら。だったらうれしいのだけれど。
そこでふと、明久君の笑顔に違和感を感じた。
「どうしたの? ずいぶん疲れてるみたいだけど……」
なんだろう、この前みた明久君の笑顔と比べて今日は精彩に欠いてるように思う。目の下にうっすら隈も見えるし。その辺をつっこんでみると明久君は苦笑気味に答えてくれた。
「あ〜、うん。ちょっと姉さんと一悶着あって、安眠できなくて。家にいても危険だから早めに出てきたってわけ」
危険って……明久君のお姉さんっていったい……。
「まあ気にしないで良いよ。それより、予定より早いけどどうしよう。もう電車に乗っちゃおうか?」
「そ、そうね、ここでこうしてても仕方ないし、行きましょ」
もうちょっと詳しく聞いてみたい気もしたけど、まあ明久君も気にするなって言ってることだし、今日を楽しむことにしましょう。
とりあえず電車に乗るまで特に問題はなかった。土曜のこの時間だからもっと混んでるかとも思ったんだけど、幸い二人で席に座ることができた。というか、いくら何でも少なすぎないかしら。この車両にはアタシ達以外いないんだけど。
「どうかしたの?」
キョロキョロとあたりを見渡していると明久君が不思議そうに訪ねてきた。
「ん、なんか今日人少なくないかしら。この時間ってもっと混んでるような気がしたんだけど」
「ん〜、確かに少ないかも。貸し切りみたいでいいね」
そういってニコッと笑う明久君。気にするほどでもないのかしら。なんか不自然な気がするけど――うん、明久君の笑顔見てたらどうでもよくなったわ。
「ねえ。明久君は如月ハイランド、行ったことあるのかしら」
「一応一回だけは行ったことあるけど、あのときは特に遊んでなかったから、今回が初めてみたいなものかな」
「……? 遊園地行って遊ばなかったって、じゃあいったい何してたの?」
「あのときは雄二と霧島さんのウエディング体験の仕込みとかが忙しくて……」
「ウエディング体験? ああ、そういえば前に代表がプレミアムチケットが手に入ったとかって嬉しそうに話してたけど、ひょっとしたらあれのことかしら?」
「ん〜、多分そうじゃないかな。ほかの日に行ったって聞かないし……あのときいろいろあったけど、霧島さんすごくきれいだったし、良い思い出になったよ」
「……へぇ〜、ウエディング体験か……」
にこにこと笑いながら話す明久君を見て、チクリと胸が痛む。代表のウエディングドレス姿をきれいと言ったことに嫉妬したわけではなかった。まあ全くないとは言わないけど。ただ、明久君が笑顔で話す思い出の中にアタシは存在していない。それがたまらなく寂しかった。
「……」
「……」
しばらく無言の時間が続いた。あたしが黙っちゃったことで明久君もしゃべりづらくなったのか、気まずい沈黙が流れる。せっかく勇気出して誘ったって言うのに、どうしてこうなるかなぁ。普段だったらもっとうまくやれる自信があるのに、ぜんぜん思うとおりにいかない。この前の試召戦争の時だって……。
そこまで考えてこの間のことを思い出した。愛子や代表に言われたこと、そしてあのとき自分が考えて感じたことを。そうよ、あの時アタシはようやく一歩目を踏み出したんじゃない。今までその程度の関係だったのに、この程度で落ち込むなんてだめね、アタシは。思い出なんてこれから作っていけばいいのよ。
そう思えたら一気に気持ちが軽くなった。何でも良いから喋ろうと思い、浮かんできた疑問をそのまま口にした。
「……明久君はウエディング体験一緒にしたいなって人はいるのかしら?」
……ってあたしはいったいなに聞いてるのよ!? そりゃ確かに気になるし、その相手がアタシだったらうれしいけど……ここでほかの女の子の名前が出てきたらどうするつもりなのよ!! 絶対この後気まずくなっちゃう。
あ〜でも言っちゃったものは仕方ない。こうなったら誰の名前がきても言いように覚悟を決めて、明久君の返事を待つわ。
「……」
「……」
「……」
「……?」
しばらく待ってみたけど無反応だった。
「明久君?」
「……」
改めて話しかけたのに返事がない。どうしたんだろうか。そろ〜っと視線を横に向けてみると――
こてっと明久君の頭がアタシの肩に乗ってきた。
「!? 明久君!?」
突然明久君との距離がゼロになって軽くパニックになってるアタシ。いやだって、さすがに好きな人とこんなに近くでくっついたら誰だって慌てるわよ!! 触れてる部分から伝わってくる明久君の温もりとか、鼻先をかすめる明久君の髪から漂うシャンプーの香りとか。それに近すぎて耳元に規則正しく吐息が吹きかけられてくるし――って規則正しい吐息?
……よく見ると明久君はぐっすり眠っていた。
「……よっぽど疲れてたのね」
体をずらして明久君の頭を膝の上に載せる。いわゆる膝枕って奴。誰もいないからできることよね。目的の駅につくまでの間、無言で明久君の寝顔を眺めていた。
今度の無言の時間はさっきと違って幸せだった。
あとがき
いかがでしたか、如月ハイランド編。
いや〜、何とか前回の投稿から一週間程度で更新できて一安心です。今後もこのペース維持できるといいのですが。割と現実のほうが悲惨な状態になりかけてるんで、最近じゃあ小説書いてるのが唯一の楽しみです。
小説書くといえば今回の書いててふと思ったんですが、自分の文章ってどうなんでしょうかね。自分は頭の中でこういう時こいつはこう動くんじゃないかみたいな映像が流れてそれを文章化している感じですが、読みやすいように、場面がイメージしやすいように表現できているのでしょうか。そのあたり自分だと判断しづらいですね。感想求む。
内容に関してですが、実質こっちがプロローグみたいなものでした。とりあえず如月ハイランド到着までで一区切りとさせていただきました。このうち半分は木下家での話しになっているので明久の出番も少なかったですね。実は今回、秀吉のほうが明久よりセリフ数が多かったです。これ以降はひたすら明久と優子は一緒にいるんで、そのあたりを期待してた方は次回をお待ちください。
それでは次回お会いできることを楽しみにしております。
説明 | ||
どうもnaoです。 前回ので大風呂敷を広げてしまったような気がしないでもないですが、まあとりあえずやれるとこからやっていこうと思います。 ということで、今回はタイトルどおり如月ハイランド編、お楽しみいただければ幸いです。 |
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コメント | ||
今は平穏みたいですが、如月ハイランドに着いたら、色々と妨害してきそうですねw(十狼佐) 他のメンバーは裏で何をしているんだwww(中原) |
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