変態司馬懿仲達物語 06 |
翌朝の早朝。まだ太陽の光が十分に行き届いていない時間に目覚めた司馬懿は川に出向い顔を洗って眠気を覚ました。
昨晩にやった壷酒一気飲みが悪い方向に酔いを回したようで、頭痛に頭を悩ませていた。
「わたしとした事が……悪酔いしてしまうとは」
「旦那、冷たい水だ。……本当にいいんですか?」
「ええ、ザバっとやってください」
何を血迷ったのか、司馬懿はまだ肌寒い早朝に上半身裸で地面に座っていた。
ケ艾はその後ろに立ち、川で汲んできた冷水の入った樽を持っている。
「んじゃ、行くぜ」
冷水を司馬懿に浴びせるように、ケ艾は樽を勢い良く傾けた。
ザバっと冷水のかかった司馬懿は身震いしながら立ち上がり、ふぅ、とため息を漏らした。
「酔いを醒ますのはこれが一番ですね」
「旦那がそういうなら違いないんだろうけど、体に悪そうなやり方だ」
「治療とは常に体に悪いものですよ。頭痛が悩みの人は針を頭に刺してツボを刺激すると聞きます」
「うひゃ〜そりゃ痛ぇ。なりたくないですねぇ、そういうの」
「そうですね。さすがのわたしも針を頭に刺すのは怖いです」
ケ艾から布を受け取り、濡れた体を拭いていく司馬懿は視線を感じてそちらに目を向けた。
「…………………」
徐庶が呆然と立ち尽くしていた。
「徐庶さんではありませんか。どうしたのですか?」
「――――――――――ッッッ!!??」
「声にならない悲鳴が聞こえましたね。はて、何が……」
司馬懿は自身の姿を確認して、あぁ、と納得して上着を着込んで、改めて徐庶と向き合った。
「見苦しいものをお見せしました。お許しください」
「い、いえ、無駄のない体付きだったので見苦しくないと思います」
「嬉しい事を言ってくれます。徐庶さんはどうして川へ?」
「朝食の時に出す茶を沸かすために水を汲みに来ました。司馬懿さまは?」
「少々悪酔いしてしまって、酔いを醒ましに来ました」
「悪酔いですか……これから仕える身としては感心できないお言葉ですね」
「見逃してください。少々、嫌な事を思い出してしまいましたから」
「……一つお尋ねしていいですか?」
「駄目です。許しません。大体聞きたい事が予想できますから」
「そ、そうですか。ならいいです」
「はい。朝食の準備もあるのでしょう? 早く戻りましょう」
司馬懿に促されて渋々という様子の徐庶はいつの間にか樽に水を汲んでいたケ艾にお礼を言って後を付いていった。
「こ、来ないでください! ち、近づいたら許しません!」
「だから俺怪しい人物とかじゃないよ! 司馬懿仲達って人のところでお世話になってる者だってさっきから言ってるのに」
家に戻るとなにやら騒がしかったので、とりあえず物陰に隠れる事にした。
物陰からどんな様子なのかを覗くと、一刀が徐庶くらいの背丈の女の子二人に怯えられ、不審者扱いを受けているところだった。
「司馬懿さんとは以前お会いしましたが、あなたのようなどこぞの豪族のご子息さまが仕官するような人ではないです。あの人は見た目カッコいいけど、とっても意地悪で悪知恵の働く人です。聞いた話ではそれが原因で豪族の皆さんとは少々仲が悪いと聞きます。ご子息であるあなたがいるのはおかしいと思います」
「そんな早口で説明しなくてもいいって。俺は北郷一刀。勝里さんにお世話になっている者だってさっきから何回も……」
「真名を呼ぶなんて! 世間知らずと推測して言いますけど、真名を軽々しく扱ってはいけませんし、不法侵入は立派な犯罪ですよ?」
「どうすりゃ信じてくれるんだよ!」
どうやら一刀が着ている制服が綺麗だったので、少女は一刀を豪族のご子息と間違っているようであった。
確かに一刀の格好はそう言われればそう見えなくもない。
「朱里に雛里……? もう来ていたんですね。しかし何を……?」
「一刀くんを不審者と勘違いしているようですね。徐庶さん、辰、しばらく見守りますよ」
「そこは普通誤解を解きに行くんじゃないのですか?」
「それでは面白くありません。本当に一刀くんが不審者としてなってしまったら動きます」
傍観者を決め込んだ司馬懿は物陰からそっと様子を窺い続ける。
「君、ちょっと混乱してるよ。真名呼ぶって事はそれに近い間柄ってことでしょ? 俺が勝里さんの真名を呼んだっておかしくない」
「……確かに。冷静に考えればそうですね。しかし、だからといってあなたが不法侵入者であるという疑いが晴れたわけではありません。司馬懿さんがいないのですから」
「起きたらいなかったんだって。辰さんもいなくなってたし、徐庶ちゃんもいなくなってて、司馬徽さんもいない。あ、俺普通に怪しいかも」
「罪を認めましたね。幸い、わたしたちは罪を償おうと思う気持ちのある人なら何も言わず見逃してあげます。というより、何をされるかわからないので早急に先生の家から出て行ってもらいたいです」
「で、出でってください!」
「いや、出て行って戻ってきたら俺アホじゃん。というより、どうして勝里さんたちは帰ってこないんだ? もうそろそろ帰ってきても……」
一刀の頭に何かが引っかかった。
戻ってきてもいい頃合いなのに戻ってこない。
何かあったのか、と考えるのが普通だが、司馬懿のことをようやく理解し始めた一刀は違う結論に至った。
「………(キョロキョロ)」
「あの、どうして周囲を確認してるんですか?」
「ちょっと待って、誰かいるかもしれないから」
「人がいないことの確認!? いったい何をするつもりなんですか!」
「え、違う……まあいいや、もう。俺の考えが正しければ……」
一刀は見える範囲で隠れられそうな場所に目を光らせた。
「そこだ―――――――っっ!!」
「はわ!」
「あわわ!」
一刀の叫びに驚いた少女二人は奇妙な声を上げた。
「そこにいるんでしょ? 勝里さん。もう十分楽しんだろうから出てきてください」
「さすが一刀くん、わたしのことをよく理解しています。しかし、こっちですよ」
一刀が指差していた隠れられそうな場所より離れた場所から司馬懿、ケ艾、徐庶の三人が現われた。
行き場をなくした一刀の指は宙に停止して動かない。
「朱里、雛里も早いですね。まだ朝食も済ませていないのに」
「彗里ちゃんが今日出立するって聞いてたからお見送りに来たんだよ。いつ頃なのかわからなかったから早起きして」
「そうですか。昼頃には出立する予定です。あ、そうだ。朱里に教えていたお菓子作りの腕前を確認するのを忘れていました。幸い時間もありますし、やってしまいましょう」
「えぇ!? でも材料とか揃ってないし、厨房があるわけでもないし」
「簡単なものなら大丈夫です。ほら、行きますよ。雛里も呆然と立ち尽くしていないで来なさい。
司馬懿さま、出来上がったら試食してください」
「喜んでお受けします。楽しみにしています、孔明さん、鳳統さん」
助けを求めるような潤んだ瞳で見てくる諸葛亮たちに手を振りながら司馬懿はにこやかに見送って一刀と向き合った。
「さて、わたしたちは盤でもして遊んでいましょう。一刀くん、教えてあげるのでやってください」
「盤って将棋とかチェスみたいに一つ一つ駒を動かすアレですよね? 勝里さんに勝てるはずないじゃないですか」
「勝つのが目的ではありませんよ。アレは視野を広げるためのものです。一つの局面に囚われず、複数を見て判断を下す。軍師には必要なことです」
「俺は軍師じゃないし、そういうの必要ないような……」
「うっかり言い忘れていましたが、一刀くんは将軍か軍師、どちらかの職に就いてもらうつもりです。理由はいろいろありますが、気にしないでください」
「待って! 聞き捨てならないことを平然と言われたような気がした!」
「一文官として扱うつもりは毛頭ありませんよ? 武芸に心得があるなら将軍、智略に長けているのなら軍師、これから必要になってくるでしょうから数を増やしておきたいのです」
「言おうとしている事は分かるけど……俺なんて役に立ちませんよ? 辰さんにはボロ負けするし、読み書きがようやくできるようになったところだし、何か知識を提供している訳でもありません」
「それでいいのです。自分に何が出来るのか、それを見つけるのも人生の楽しみですよ。ほらほら、愚痴を言っていないで、遊びましょう」
一刀の背中を押して家に押し込んだ司馬懿はケ艾が準備していた盤の前に座って一から遊び方を一刀に教えていった。
「……打つ手がない。参りました」
「ふふ、そうですか。ありがとうございました。凄いですね、一刀くん。まさかこれほどとは思いもしませんでした」
「いや、俺なんて素人同然ですよ。追い込む事もできなかったし」
「いいえ、そんな事はありません。少しヒヤッとする場面はいくつかありました」
司馬懿は一刀と対局した内容を頭の中で思い出していく。
最初は全くの素人で、どれをどう動かせばいいのか、どれがどう動くのかをしどろもどろにやっている程度だった。
しかし、対局を重ねていくにつれて一刀の本領が発揮され始めたのだ。
普通では思いつかないような手、何を狙っているのか分からない手、保守的な性格なのか、攻めづらい陣形を構築されていた。
それを意図してやっていないのだとすれば、一刀は軍師として相手から恐れられる存在になるはずである。
一刀が考える策や行動は司馬懿たちの世界では思いもしないやり方で、それに司馬懿や徐庶のようなキレ者が加われば何をして来るか全く分からなくなる。
それらを考慮して、司馬懿は凄いと一刀を褒めたのだった。
「一刀くん、城に帰ったらわたしか徐庶さんと軍略を学びましょう。戦局を読んでどう行動すべきか、それくらいは出来るようになってください」
「戦局って……やっぱり俺、戦場に出るんですか?」
「戦場には出ますが、今のままだと副軍師として戦場に出ますね。ちょっとした事を助言する役目です。わたしたちにはない発想で危機を乗り切れそうな気がします」
「俺なんかが勝里さんや徐庶ちゃんに助言って……無理ですよ」
「無理と決め付けるのは愚か者がすることですよ。わたしを失望させないでください、一刀くん。わたしは絶対にできない事をさせるような外道ではありませんよ」
「―――――ッ!?」
普段優しげな顔をしている司馬懿の目が鋭く尖り、一刀は思わず息を呑んだ。
「このような言い方はするべきではないのですが、仕方ありません。一刀くんは知識としてご存知かもしれませんが、これから大陸は荒れます。その兆しは見え隠れしています」
一刀が脳裏に浮かんできた言葉は黄巾の乱。張角が引き起こした大規模な乱だ。
一年という短い期間だが、大陸に大きな影響を及ぼす結果となった大乱は三国志の物語を始める通過点として登場する。
もしかして、と一刀は高鳴る心臓を意識しながら司馬懿の言葉を待った。
「賊の数が急激に増え始めました。その対処に追われる日が来るでしょう。その時、一刀くんは一体何をしますか? 何をしてくれますか?」
「俺は……」
「傍観していますか? 静観していますか? 安全な場所で、安全な住まいで。それもいいでしょう。それを決めるのは一刀くんです」
「……」
「わたしは一刀くんに人を殺してもらいたい。殺す覚悟と殺せる覚悟を身に付けて欲しい。これからわたしと歩むのならばそれは必然的に直面します。その時あなたは何をしますか? 見ているだけですか? 戦っていますか? 逃げ出しますか?」
「……わかりません」
「わかりません、か。それが当然の答えです。そこで人を殺してみせますと言われる方が困りますから。しかし、そうですか、わかりませんか」
司馬懿は正直、一刀の反応には感心する事ができなかった。
わからないという答えは何色にも染まる事ができる厄介な答えだからだ。
覚悟に潰されるか狂うか克服するか逃げ出すか。どうなるか予想しづらいのである。
潰されるのなら立ち直らせる他なく、狂うなら命を絶つ。克服するなら何も言わず、逃げ出すならそれまでだ。
ふぅむ、と顎に手をあて考えていると、その場に似つかわしくない和やかな声が聞こえてきた。
「どうやら徐庶さんたちのお菓子作りが終わったようですね。この話はこれまでにしましょう」
「あ、はい……あの、勝里さん……」
「一刀くん、わたしはこの話は終わりです、と言いましたよ? また時間があれば聞いてあげますから今はあの子たちが気まずくならないように迎えてあげましょう」
「……そうですね。すみません」
「こちらこそ、いきなりこのような事を言ってすみません。しかし、必要なのです」
一刀はどうして必要なのか聞こうとすると、徐庶と諸葛亮、鳳統の姿が見えたので、一刀は口を閉ざして笑顔で彼女たちを出迎えた。
徐庶たちの手作り菓子を堪能した司馬懿たちはその日の昼に司馬徽たちに別れを告げて城への道を馬に跨って進んでいた。
別れ際、司馬懿は諸葛亮たちも一緒に来ないかと誘ったのだが、司馬徽と徐庶に睨まれて冗談です、と難を逃れた。
もちろん冗談ではないが、思いの他、司馬徽と徐庶の睨みが鋭かったので諦める事にした。
「中々の目力をお持ちなのですね。驚きました」
「あなたが朱里と雛里を口説こうとするからです。あの二人まで来たらわたしの立場がなくなるではありませんか」
「そんな事はありません。三人とも平等に扱ってあげますよ」
「朱里たちに負けたくないから逸早く士官したのに朱里たちまで仕官したら意味がないんです。察してください、相談もしたのに」
「拗ねている姿も可愛いですね。もっと顔を良く見せてください」
「……上から覗き込まないでください。不愉快です」
「仕方がありません。一緒の馬に乗っているのですから」
司馬懿と徐庶は同じ馬に跨って帰路を進んでいた。
なぜかというと、帰り際に困ったのが徐庶の移動手段だ。
馬は三頭しかおらず、馬なんてほいほい買えるような代物ではないので調達もできず、どうしたものかと一同考えていると司馬懿は自分の馬に乗せると言い出した。
他に手立てもなく、渋々という様子で徐庶は司馬懿が手綱を握る馬に跨っている。
「時に徐庶さん、わたしは今まで忘れていたのですが、真名を教えてくださいませんか?」
「忘れ……いえ、あなたはそういう人だと思えばなんという事はありません。そうですね、頃合いを見計らっていたこちらとしても喜ばしい事です」
「司馬懿仲達、真名を図々しくも勝里と言います。好きなように呼んで下さい」
「徐庶元直、真名は彗里。これからよろしくお願いします」
「……困りましたね」
「……? どうかしましたか?」
空を見上げている司馬懿を下から見た徐庶が尋ねると、司馬懿は困った風な顔で徐庶を見下ろした。
「あなたをどんな風に呼べばいいかパッと浮かばなかったのです。困りました」
「……普通に呼べばいいではありませんか」
相手を呼ぶような感じで司馬懿は真名を呼んでいく。
「彗里ちゃん?」
「…………」
「何かが違う。彗里さん?」
「……少し違和感があります」
「彗里さま」
「あなたが主です」
「彗里殿」
「おかしいです」
「それでは……彗里」
「――――――ッッ!?」
サッと顔を下に向けて徐庶は真っ赤になった顔を司馬懿には見られないようにした。
直球で真名を呼ばれた瞬間、心臓が急に暴れだし、恥ずかしさがこみ上げてきてどうする事もできなくなった。
その気持ちがどんなものか徐庶はわからず、顔を伏せた。
「……決めました。彗里と呼ぶことにします」
ふふふ、と楽しそうに見つめてくる司馬懿に徐庶は抗議しようと顔を上げるが、見下ろす司馬懿の顔を直視できず、俯いてしまった。
「あぁ〜ありゃ旦那の餌食だな。ああいう反応が一番好きだから、旦那は」
「………」
「一刀? どうした?」
「え、いや、なんでもないです」
「……そうか。ま、落馬だけはするなよ」
思いつめた顔の一刀を横目で見ながらケ艾は司馬懿たちに視線を戻した。
未だ徐庶はからかわれており、司馬懿は楽しそうに上から見下ろしている。
それは城に帰るまで続き、城に着いた頃には徐庶はぐったりとした疲れた様子であった。
ネットが使えなくて正直つらい傀儡人形です
ようやく徐庶を仲間する話を書き終えました
これからの活躍を考えると楽しくてしょうがありません
そろそろ引き抜いた人材を登場させようと思うので楽しみして
くれれば幸いです
説明 | ||
どうも傀儡人形です。 かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください |
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コメント | ||
司馬懿殿に皆遊ばれて(一部鍛えて?)いますな〜。所々で意味深な言葉も出てきていますしこれからも楽しみです。(深緑) この悩みは必要なものだ。がんばれ一刀。(PON) 悩め悩め一刀。悩んだだけ大きくなれるさ。(FALANDIA) 一刀は軍師見習になるのか・・・次回引き抜いた人が出てくるのが楽しみです。(hokuhin) |
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