レベル1なんてもういない 2−6 |
「ねぇねぇ、オリアスは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないな。
極めて危ない状態だ」
「ええっ
オリアス…心配だな〜」
「その割には笑顔だが」
「そうかな?すごい心配しているんだけどな〜」
「その顔が歪むのが楽しみだぜ」
「?なあに?」
「こっちの話さ」
「着いた
この中にいる」
「暗くて狭そうな所だね
危ない感じがするよ〜」
「そうだね〜危ないね〜君もそうなるんだ」
「ちょっ待ったー!」
「?」
どうやら建物の中に入る直前に追いついたようだ。
建物に入られたら探しようもない。
「!?」
「その人たちの言う事は真っ赤な嘘だよ
貴方の探している人はウチが預かっている」
「え〜そうなの〜?」
マイペースでのん気な感想が返ってくる。
「な、何を言い出すかと思えば、
出鱈目を言うんじゃねえよ」
「本当の事だもん」
「へぇ〜
じゃあさ、オリアスってどんな顔してるか知ってる?」
「!」
「!!」
これにはこちらも男達も双方ドキッとした。
のん気で騙されやすい顔しながらも非常に抜け目の無い質問だ。
確かに箱という形であるとはいえそれを開けた事は未だない。
それもフミがこちらでは手におえないほどだと脅しをかけていたのもある。
開け方も解らなかったし。
「みんな知らないのかな?」
「あう…」
何も言い出せない。
嘘を並べた所で瞬時にばれてしまう。
「し、知っているとも
イケメンなんだろう」
「そうじゃないんだよ〜違うんだよね〜
ヴァイスに言われてるんだ」
「…嘘吐きには容赦しなくてもいいって」
この台詞だけは急に真顔になった。
出会って間も無いが笑顔ではない顔を1つたりとも想像できなかった。
真顔すらも想像できないほどに。
想像も付かなかったその表情は凍りつくような瞳をしている。
その表情と供に場の空気も冷え込みだした。
そして急に周囲が暗くなった。
いや、見上げると何もない空間から1m四方の黒い球体が現れてその影に覆われたようだ。
「ははは」
金髪の子は既に笑顔に戻っている。
目の前の金髪の子の笑い声と共にバチッ、と一瞬の眩い火花と閃光が走る。
「!!」
「これは…っ」
直後に空間に浮かぶ黒い球体から1mには満たないほどの鎧を着た戦士が現れた。
その顔も兜に覆われて見分けも付かないし、重力に逆らい独自に浮いている状態を維持している。
それにはこの場にいる金髪の子以外の全ての人が驚いていた。
「…」
「サイモン、ここにいる嘘つきさんたちをみんなやっちゃって」
「…」
鎧の戦士はゆっくりと頷いてこちらに近付いて剣を鞘から抜き、臨戦体勢に入っている。
「ねえ葵、この状態はどうなの?」
「召喚術…」
「何?そんなのあるの」
そんなの嘘だ、なんて口々に声が横の男達から聞こえる。
言っている目の前でその事情が起きているのだからこの事実を認めるしかない。
「召喚術なんて技術が出来るのは人間には不可能だった。
でもそれができる種族はずっと昔に居なくなった」
「じゃ、あの人は何なのさ」
「その種族。
人ではない」
「話が合ってないよ
ハーフとか?」
「シュツルは非常に保守的な生物
有り得ない」
保守的か…その末裔があの終始笑顔の子であっていいのだろうか、とも少し考えた。
経緯はともあれ
まずは現実に現れた目の前のサイモンと呼ばれた戦士を退けなくてはならない。
例によって争い事はラフォードに頼らなければならないのが手持ち無沙汰なのだが。
元凶である金髪の子を誘い出した男達は見た目や振る舞いからして当てになりそうも無い。
実は達人だけど素人を装う、なんて素振りをするものでも最小限の自己防衛をするものだ。
その欠片も見られない。
「ただの」人間だ。
「エル、とても危険になる
下がっていて」
「あ、うん
あなた達も早く」
この人らが何が目的で金髪の子を連れて行ったかはだったのかは見当は付いているが、
今回は未遂に終わっている。
足がすくんで動けない人達にハッパを掛け退路に促す。
「くそ、こんなの、話が違うぞ」
「あの目の色…この街は終わっちまう!」
飛躍した答えだ。
「あ…あ…」
戦士はその場から立ち竦む男に向かって一直線に突進し
ドズン
腹部を貫かれた。
「速…」
「ぐ、うぉぉぁぁ…」
戦士は剣を抜いた事で飛散る血飛沫をヒラリとかわし次の標的を定める。
「葵、そいつを留めておいて!
その間にあなた達は早くいって!」
男っていつの世界もこうだったのか。
命の危険に晒されるほど切羽詰っても動かないものは動かない。
動き方を知らないのか。
急な状況の変化についてこれていないのか。
「早く!!」
何度も声をかけることでようやく残りの2人の男は動き出した。
「帰っちゃうの?
いいよ〜じゃあね〜」
あの戦士を呼び寄せた意図も忘れたのか、それともどうでもいいのか、去る者を追う様子は無かった。
「なんちゃってね」
「!」
後ろを見ると肉を削ぎ落とし、骸骨のような頭をした怪物が別の空間から突如出現し、
そこから伸びる通常の人の関節が増えた腕は逃げようとした男達の頭を掴んでいた。
その野性味溢れるいでたちは前述した鎧戦士よりもずっと凶悪な性質に見える。
「いいよ〜ルイン
そのまま潰しちゃってもいいよ」
キ……パキ…バキばキバキッ
主に言われるがままに掴まれた頭は頭蓋骨ごと躊躇なく握りつぶされてしまい、動かなくなった体は重力の働くままに真下に転げ落ちる。
そしてもう1人は男の放つ悲鳴と怪物の放つ轟音と共に地面の埋まるほど強烈に叩きつけられた。
ああなってはどちらも生きてはいない。
「ははは嘘吐きでも血の色は赤なんだ。
そっか〜真っ赤な嘘って言うもんね〜
楽しいね」
「楽しいなんて…
そんな事ない。それはおかしいよ!」
「そんなことあるよ?
楽しくない事なんて1つもないじゃない」
前向きな思考と呼ぶには残酷過ぎる。
目の前の惨劇に対してもヘラヘラ笑っているその瞳は、冷たく光る宝石のように無機質なものに見えた。
全身に纏わり付いてはなびくその長い金髪も生物からのものではないように見えた。
途端に鎧戦士と対峙させたラフォードが気がかりになった。
「葵っ、大丈夫?」
「私ラフォード」
心配になったラフォードを気にかけようとした声をかけると、すでに決着は付いていたようだ。
既に鎧戦士は姿を消していた。
「平気」
「サイモンを負かす力があるんだ〜
すごいね」
「じゃあ次は…」
再び周囲の空気に変貌が訪れる。
次はどんなものを呼び出されるのか。
「葵、召喚術ってあんなに連呼できるの?
「種族でも1人に複数の召喚獣は数えるほどしかいなかった。
すでに2つ…
これ以上があるなら常人離れしすぎ」
もう1つの召喚された化物と対峙しながら質問に答えてくれるラフォード。
このまま無尽蔵に召喚を続けられたらいくらラフォードがこれまで確実な勝利を見せているとはいえ、
見たこともない未知なる生物を相手にしては不利になるかもしれない。
ここは自分が戦うか、平和的に話し合いを持ち込むか…
そうだ、あの箱を持ち出せばどうだろうか。
少なくともこの場だけは回避できるかもしれない。
「ウチさ、本当に知ってるんだ
あなたの言っていたオリアスって人」
「そうなんだ〜」
顔は笑っているが、本当に笑っているのは顔だけでその動きを止める様子は無い。
「あ…ちょっ、聞いて
見たことはないんだけどさ
フ…フミって人から預かったんだ」
「フミ…へえ、フミが」
フミの名を聞くと笑いが消え真面目な返答をしてまた笑顔へと戻った。
「私はね、フミにお願いをしたんだ〜
居なくなっちゃったオリアスを私のところまで連れ帰ってくれって
そしたらね、フミは私のお願いを聞いてくれたんだよ〜」
「そのフミがウチらに預けたんだよ」
この時点では、あの箱の中身にオリアス、生物が詰まっていた事に確証は1つもなかった。
食堂の時にもただただ箱の事が頭をよぎっただけで、あの場では困っている人に協力できたらいいなと、
あの時はその程度の考えでしかなかった。
それが今は目の前の脅威が求めるものであってくれと祈るしかない。
「じゃあ案内して〜
オリアスはね〜私の大事な友達なんだ」
「い、いいよ
解ったからあっちで葵と睨めっこしてるあれを下げてもらえるかい?」
「うん、わかった
ルイン〜お疲れ様〜」
金髪の子の合図と共に壁の奥へと下がっていく。
壁の後ろ側に行ったわけではない。
よく解らない光景だった。
「大丈夫だった? 葵」
「私は大丈夫。
だけど…」
「男の人たちはやられちゃったね…」
何の接点も無い人らだったが、そこら中に飛散った血飛沫を見て少し哀れだと思った。
余計な事をしなければ長生きできたかもしれないのに…
「あの箱の中身の事。
内容によってはまた戦う事になる」
「そっち!?」
「他に何もない」
「あ、そう…」
ここにも他人に無頓着なのがいた。
他人は他人という事か…
いちいち気にしていたら自分の幸せなんて来ないか…
「何も知らない人ごと世界を救う」のが酷いお人好しに聞こえる。
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真っ赤な嘘って言いますものね。 | ||
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