機動戦士 ガンダムSEED Spiritual Vol18
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SEED Spiritual PHASE-75 さあ裏切り者として

 

 その基地も地面を迫り上げ入り口を晒した。砂と雪の違いはあるにせよ、地球連合には個性と言うものが無いらしい。ソフトスキンの軍用車が頬に砂粒混じりの風を当てた。

「どこ行くんだマユ?」

 ライラはこちらに睨みを一つ送ってきたがこの車は二人乗り。何を気にすることがあるのかとシンはそ知らぬ顔で見返した。後方を、オーブ出身者から造られた3人が着いてくるが誰も武装はしていない。――大した武装は、と言う意味だが。

「東欧の、大手PMCのトコよ。名前なんてったっけ……烏がなんとか…旧ロゴス♀イ部エルウィン・リッター氏の経営してた奴らしいわ。今は誰が経営者か書いてなかったけど」

 ライラは腰元のバッグをまさぐると二枚のパンフレットらしきものを手渡してきた。ブレードオブバード≠ニ言う大きな会社名の下に、警備や人材派遣といった業務内容が並べられている。だが重ねられた付則の方には傭兵派遣、兵器開発、民兵育成その他諸々一般企業とはかけ離れた業務内容が列挙してある。傭兵などという仕事は国際的に非合法化されているため悪知恵をめぐらせて表向き害のないものに偽装しているといったところなのか。

 街に入り通りを駆け抜け門扉の前で止められたもののライラが何かの書面を提示すると頭を下げて通してくれる。入り口には施条銃を抱え武装した人足が並んでいるものの、眼前に聳えているものは「カイシャ」以上の印象はなかった。

「……これが、民間軍事会社ってのか? あんまり軍事っぽくないんだが……」

 要塞のような社屋を想像していた。敷地に犇めくモビルスーツを想像していた。が、中に入っても至って普通のオフィスであった。軍用車を降り、雪解け水と泥で汚れた靴跡を刻みつけながら視線だけを彷徨わせた。

「な、なぁ…スーツとか着てこないといけないんじゃないか?」

 先導してくれている背広の視線を盗みながら振り返り、仲間の姿を確かめる。軍人色を前面に出した恰好(グリーンカラー)ではないが、一般人の私服と言った感。ホワイトカラーやメタルカラーにはそぐわない様な気がする。

「静かにしてよ。安く買いたたかれたらどーすんのよ!」

 シンは小声で叱責を返してきた妹に息を飲み、横から後ろにつく位置を変えた。やがて応接室らしき広いソファを促されるもレディファーストを心がけたら座席が足りなくなる。シンは仕方なくリーダーの背後に陣取り腕を背後で組んだ。

「お待たせしましたミズ・ロアノーク。遠路はるばるようこそ」

 入ってきたのは中年から壮年になろうかという男と、シンと同年代と思しきメガネ。ライラは分析するまでもなく彼らの戦闘力を見下した。少なくとも、質量共に暴力で敗北することは有り得ない。

 壮年の男が軍事に相応しくなさそうな道具――名刺――を取り出しライラに渡した。

「バルドル・ケーニヒさんと、サイ・アーガイルさん? こちらこそお手間を取らせて申し訳ないですー。偉いさんが出てきたのかと思ったらそちらも傭兵さんなんですか」

 そして、あぁ恐るべきことに妹が会社役員のような男へ名刺を渡している。兄として、目上の者にそんな対応をした覚えのない自分にやりきれない思いでいっぱいになった

「で、社交辞令やってる時間もないんで単刀直入に行きたいんですけど」

 バルドルとやらは鼻白んだ。

「う、伺いましょう」

 ライラは唐突に笑いを消すとテーブルに両肘を押しつけた。漏らされる声が、低くなる。

「あたし達の戦争に協力してもらいたいの。全面的に、よ? こちらの資本元は……わかってるわよね? そっちの戦力程度よりコレについてこれるかどうかの方が問題ね。途中抜けには死の制裁。それを納得できるの? この会社、そっちの組織――いえあなたが」

 息を飲む気配がはっきりと伝わってくる。壮年と眼鏡とが顔を見合わせた。バルドルは小さくうつむいたが代わりにサイがこちらを見返してきた。ジュリからライラを通し、そしてシンへ。一通りに視線を流す。他がどう思ったかはわからないがシンにはその目に追いつめられた悲壮感を感じた。

「あなた達の力が必要なんです!」

 思わずの絶叫。シンにはその真摯さが疑えなかったが、何に追いつめられているのかを想像すると、それが同情に値するものなのか判断が付かない。

「その為なら、どのような犠牲も厭いません。その覚悟は……提示したはずです」

 彼の表情にはこちらを侮れるだけの余裕はなさそうに見える。それはこちらが良いように使えるとも採れるが、信頼に足る力としては扱えない可能性も孕んでいる。ライラは少しばかり落胆しながらも性急な結論を避けた。

「まぁ、確かに、良くあんな広告世の中にばらまけたわよね」

 シンは片眉を跳ね上げた。妹が何を得てこんな会社に来たのか。理由は、そのいかがわしい広告なのか。シンが疑問に思う間にバルドルが表情に力を取り戻していた。ライラを見返しながら満足そうな微笑みを浮かべている。

「それがこちらの力、ということですね」

「どんな広告なんですか?」

 黙っていた方が良いとは思ったが好奇心に勝てなかった。マユラが服の裾を引っ張ってきたが言ってしまったものは仕方ない。ライラが半眼で振り返ってきたが、やっぱり言ってしまったものは仕方がない。

「はは。これですよ」

 バルドルが取り出しライラに渡したのは広告と呼ぶには抵抗はある小さな紙切れだった。シンは促されるまま紙を手に取り文字を読み取り――動かなくなった。

「…………」

 一応、周囲に視線を配る。応接室と言うことで聞き耳などは立てられていないことを信じてみる。

「なんか、統合国家に喧嘩を売る人募集みたいなことが書いてあるんだが……」

「ね? そんなんばらまいたらフツー捕まるでしょ。隣の人に紙で手渡しならともかく、全然知らないあたしみたいなののとこに届くのよ。ネットも通ってるわけよ」

「いや、検閲とかねーのかよ……」

「我々は、それができたと言うことです」

 こちらには戦力はこの間整った。だが世界を敵に回せるかというとやはり心許ない。単純に兵力やモビルスーツを分けて貰う、それくらいで考えていたシンは世界というものを甘く見ていたような気がしてきた。

「あたし達は戦力を提供する。んで、あなた達がくれるものは、情報ってことなの?」

「無論戦力提供もいたします。表向きはブレイドオブバード≠雇ってるって形になりますが、実際ここには仲介を頼むだけになりますか」

 利害の一致した勢力があり、それらがPMCの仲立ちで融合して軍になる。果たしてこの戦力が「世界」に通用するかは未知数だがシンにはより以上の未知がある。

(統合国家を敵に回して……それで世界は平和になるのかよ?)

 脳裏をよぎったのは何故かカガリ・ユラ・アスハの哀しそうな顔だった。

「――まずはロゴス″燻Yの回収から、となるけどそのバックアップを全面的にお願いして大丈夫?」

 黙考の時間は思いの外長かったらしい。シンはいつの間にか話し合いについて行けなくなっている。

「モビルスーツに関してはご期待に添えるか解らない、とのことですが、情報の収集と撹乱についてはお任せを」

 ライラが頷きながらも、黙った。するとさらさらと静かな音が聞こえてくる。シンが視線を動かせばジュリが帳面に何やら筆記具を流している。アナログな方法が気になった。

「情報、どんな風に集めてるんですか?」

「いえ、それは企業秘――」

「ターミナル≠ナす」

 サイの言葉にライラは眉を顰めバルドルは跳ね上がった。

「さ、サイ君! それは――」

「おじさん……この人達に頼らなければどうしようもないんですよ。信頼して貰わないと駄目なんです」

 やたら震える彼の声。ライラは話し相手を変え、横を向いたメガネに問いかけた。

「サイさん、その、たーみなるってナニ?」

 虚をつかれた彼はしばし逡巡したようだった。

「え……と、あの、すみません。自分も完全に理解しているわけじゃないんですが……世界規模の情報網と言いましょうか。

 先年の、連合支配に陥っていたはずのオーブがどうやって世界最強軍になっていたザフトに対して優位に立てたと思いますか?」

「え? ……それが、ターミナル≠フおかげって言うの?」

「はい。ラクス・クラインやエターナル≠匿っていたり、フリーダム=Aジャスティス=Aドムトルーパー≠フ製造はコレが行ったと聞いています」

 こちら側は総じて虚をつかれた。特にフリーダム=Aジャスティス≠ニの戦闘経験のあるシンはその出所には疑問の抱いていたのだから。

「確かに……オーブの技術力がスゲェっつっても、よくよく考えればあれはねぇな。くそ…あいつら」

「連合支配受けてた平和主義国が……ザフトの一線級を超える機体を作ってたのは確かに意味不明だったのよね。そーかぁ。そんな裏があったんだ……」

 バルドルが苦い顔を見せた。サイも少しばかりは罪悪を感じたようで、繰り返し頷くこちらにも言い訳を付け加えてきた。

「あ、はい。無論我々がその全てを把握しているわけではありません。軍事についてはそちらを頼っていますし。ですが情報戦に関しては――」

「りょーかいりょーかい皆まで言うな。さっきの広告だけで充分よ。こっちは戦闘力を提示する。あなた方は敵を丸裸にしてくれる。それでOKなら契約するわ」

 契約の一言にバルドルの顔が輝いた。手渡された契約書を受け取りながら果たして彼は自分達をどう利用しようとしているのかを打算する。ブルーノはそのターミナル≠ネる存在をどの程度理解しているのか。新たに増えた仕事を思いながらライラは書面を隣に手渡した。

「アサギちゃん読んで」

「ぅえ……あたしの責任になったりとか、ヤだなァ」

 そう言いながらも真剣な目つきで読んでいき、二、三懸案すべき項目をライラに見せる。女四人が項目咀嚼にがんばっている中シンは不安げにそれを見下ろすしかできなかった。性別のせいだろうか。割り込む隙が見つけられない。

「はい。じゃあ契約成立よ」

「ありがとうございます」

 バルドルはこの契約に満足らしく、契約書を後生大事にしまい込むとサイを残して席を立った。ライラも契約書から抜粋した一通りのメモをまとめ終えると、

「じゃ、あたし達も行こか。取り敢えず戦闘開始までに準備しないとね」

 皆を促し立ち上がる。ジュリも最後まで話し合いの内容だかなんだかを書き留め、読み直していたがシンまで出口に向かったのを目にし、サイに礼を言って出て行った。

 部屋を出た先には先程までと同じ景色。しかし入室時には見られなかった男が二人、壁に背を預けていた。

 誰もが彼らに視線を投げ、そして関係する前に目を反らす。しかし相手はこちらを無視したりはしなかった。

「あなた方の資金力は聞いてたが、パイロットも優秀な方を揃えられているようで」

「ん?」

「シン・アスカさんでしょう? あなた。ザフトの、今のフェイスの」

「……!」

 息を飲んだ。が、考えてみれば自分はそれなりにメディアに顔出していた。ザフトのトップエースと呼ばれた時代すらあるのだ。多少の有名人であることを自覚すべきなのだろう。

「あ、あぁ――あ……」

 シンは眉を顰めたがその声に聞き覚えがあるような気がしてきた。

「プラント≠ナは現在行方不明として扱われていると聞いていたが……そんなあなたがなぜ彼女達の組織に? この間は、L4にいましたな?」

「……アンタ、そうだ。連合の査察をしてたとか言う――」

 彼はシンの言葉に笑みを深くすると壁から背を浮かし、右手を差し出してくる。

「ケイン・メ・タンゲレ。まぁ、傭兵だ。あなた達に雇われる形になるので、よろしく」

「あ、あぁこちらこそ」

「なにシン? この人と知り合い?」

 知り合いと言えば知り合いだが、お互い顔を合わせたのは初めてである。シンはどう答えるべきか迷ったが確かなことは一つある。

「知り合いってのかは解らないが、この人は宇宙でプロヴィデンス≠使ってた。腕は確かだと思う」

 ケインは一級品のザフト兵の賛辞にむず痒さを感じた。好奇の目は確かに快感ではあったが、女学生と大して変わらない反応を返す奴らを戦力として計上することに抵抗を覚えもする。

(いや……見た目で判断することは馬鹿らしい。コーディネイターとの戦争、同じ人型、訓練はしっかりやったそんなに差があるはずがない――そう思った奴から死んでたじゃないか)

 少年少女は適当な挨拶を残して出て行った。彼らが見えなくなってから、脇に控えていたサトーが呪詛を呻く。

「小娘となれ合った男が一流のモビルスーツ乗りだと? 気に入らんな……」

 こんな彼でも共闘者の気持ちを思いやるような心はあったらしい。聞こえないように、程度の配慮を見せたが口の中で呪いを呟ことをやめられないサトーにケインは面白がるような視線を向けた。

「おや、ご存じありませんか。アレがあなたを蹴り落としたインパルス≠ナすよ」

 サトーはもう機械に覆われ感覚がないはずの半身が疼くのを感じた。

 パトリック・ザラの思想に、呻きを漏らしたザクウォーリア≠ノ呪縛をかける自分。

 その腕を斬り裂くインパルス=B

 奴はご丁寧に蹴りまでくれて飛び去っていった。その直後苛まれた恐怖は――震えが来るでは済まされない。制御を完全に失ったジン=A砕かれたユニウスセブン≠フ地表がカメラの中で急速に迫る様は――サトーは目頭を押さえつけ、不吉な夢想を追い払った。

「自分を殺した相手か。そいつの力まで借りねばならんとはな」

「気にくわないとか言わないでください。共闘するんですから」

「気に喰わん。だが、あいつの腕は信頼に足るだろう。ヒヨッコなんぞよりはな」

 

 

 

 クロは嘆息を零した。

 なぜ、故郷などに足を向けたのか。姉を引き入れたかったのか、それともただの郷愁か。何か結果が出ていればこんな思い悩みなど生まれなかったのだろうが、何やら自分がものすごく無駄な時間の使い方をしてしまったような後悔に苛まれる。

(世界に喧嘩売ったような奴が……なに余暇なんぞ欲しがってるんだよ……)

 孤児院から出ると、人通りはいきなり少なくなった。工業都市であるセプテンベル≠フ昼間の通りは資材や研究者を送り届け終えており、思いの外静かになる。クロは周囲を憚ることなく独り言を始めた。

「ティニ。聞こえるか」

〈あ、クロですか。ナノマシン、機能しているようで何よりです〉

「ザフトに復隊したわけだが、国防本部や評議会においそれと入れる身分じゃない。このままじゃ会えねえぞ」

〈それはこちらで動いてます。それよりも、満喫してますか?〉

 ティニがどういう意図で聞いてくるのか掴めないクロは渋面を浮かべながら問い返す。

「どぉ言う意味だよ……」

〈いきなりスパイではないかと勘ぐられていたら問題です。緊張するでしょうが平常心でお願いしますよ。あなたが失敗したら……ターミナルサーバ≠ミっくり返してザフト兵クズレを探すのは面倒です〉

「あいよ。風呂もトイレもちゃんとモニターしてろよ。オレはフツーにやるからな」

 ある程度のことは聞いている。

 ティニ――ティニセル・エヴィデンス03は、ここから少し離れたアプリリウス<Rロニーのどこかにいるエヴィデンス02とのコンタクトを望んでいる。ナノマシンで思考を繋げたクロが翻訳だか仲介だかの役目を担い、話し合いたいことがあると言う。

(超常生物がなに考えてるかはわからねぇが……。それが世界を変える役に立つんだろうか……)

 いかな大物が話し合おうとそんな小さな意見交換が頑固極まりない世界意志に影響するとは考えられない。彼女らの話し合いに興味などないが……ティニと同じ生命体とは? 多少興味を引かれる。

 姉に伝えた通り、ザフトへの復隊は済ませてある。いや復隊ではないのかもしれない。クロ――クロフォードの名はザフトのデータベースから削除されずにいたのだから。少なくとも現状はそう「されている」。メサイア攻防戦≠フ折りにMIA、そして先刻無事が確認され、「ザフトのために!」と合唱した。これがクロフォードを示す最新の社会的情報だ。

 クロは想い出す。ピンク色の度し難いザクウォーリア≠乗り捨て、無力となったデスティニー≠奪い取る。アメノミハシラ≠ノ運び込み、世界に怨嗟を漏らし続ける。コードネームを呼ばれ慣れ、ルインデスティニー≠ナ世界を壊した。故郷にまで毒牙を伸ばし、結果諜報員。……思い描ける記憶は全て記録からは抹消されている。

 クロは造られた空を見上げ、ガラスを透かしてここまで届く陽光に目を細めた。

(……抹消された情報がねーと、お日様の下大手を振って歩けねーわけだ……)

 リニアトレインと小型宇宙艇を乗り継いでコロニーを渡る。

 まだ疑似重力の小さいブロックを通過中に野太い声に呼び止められた。

「おう! クロフォードじゃねえか! 良く生きて返ってきたな!」

 振り返れば見覚えのある顔。クロは壁に手をつき慣性を止めると近づいてくる二人に敬礼を返した。ザフト式の敬礼は戦艦の廊下のような狭い場所でも苦労がない。

「久しぶりですラインハルトさん。意地でもボルト咥えてますね」

「俺には挨拶なしかよ?」

「オレは声かけてくれないと話せないヒキコモリなんですよ。忘れましたか?」

 ザフトの中にはフェイスの紫紺色よりも特殊なパイロットスーツがある。黒。アカツキ条約≠ノよって進化が止められ、扱い難さが消せずじまいで未だに三機しかないドムトルーパー%居謗メだけが着用しているものだ。着用を「許されて」いるわけではないため、真似をしたところで罰せられるわけでもないが今のところ真似をする奴は皆無らしい。ヒルダ・ハーケン、ヘルベルト・フォン・ラインハルト、マーズ・シメオンだけが黒い。軍服は副官クラスが黒の訳だがそれはどうやらパイロットスーツには適用されないらしい。まぁ副艦長などとモビルスーツのパイロットを兼任する者がいないからなのかもしれないが。

「部隊は? 決まったのか?」

 彼らとはヤキン・ドゥーエ戦役≠フ際に同じ部隊になった。クロの所属していた部隊はボアズ≠ェ核攻撃を受けた際、ガンバレルパック≠装備したダガー≠ニストライクダガー≠フ一大隊に壊滅させられ、組織として成り立たなくなったため、あちこちに補充要員として回されたのだが、その際クロフォードはヒルダ率いる彼らの部隊に編入させられたのだ。ジン≠オか乗ったことのなかったクロはそこで初めてゲイツ≠ネる新型機を宛がわれ――中距離以遠で何もできないその武装に舌を巻いたものだ。

「まだプラント≠フ防衛ラインにばらまかれただけですよ。戻ってから一度も出撃してません」

「だったらまた俺達とやるのかもな。姐さんが、欠場しちまってるから……人手不足なんだよ」

 笑顔の仮面が少しだけ欠けた。欠場した、とマーズは言った。

 …………そう言えばフリーダム≠ニやり合った際、横槍を入れてきた煩わしいドムトルーパー≠ェいたが――

「その時はまたよろしくお願いします。ザク≠謔閾グフ≠フ方が希望です」

「お前な……緑がぜーたく言うなよな」

 先行量産機を操ったフェイス、ハイネ・ヴェステンフルスの影響か、グフイグナイテッド≠ヘ未だに赤専用なのだろうか。こちらを同等クラスの近接特化、ザクウォーリア≠汎用機として長所を使い分ければ戦略の幅も広がるだろうに。

 ヒルダ組との行き先は同じだったようだ。自分が壊滅させた国防本部に足を踏み入れるのはなかなか勇気の要ることであった。苦い唾を飲み込んだクロは沈黙に耐えきれなくなり少し前を歩くヘルベルトに聞いてみた。

「あぁ、ヒルダさん。今どんな?」

 縮こまった舌は言葉をぶれさせた。意味が通じないほど滑舌が悪かったわけではないだろうが、マーズとヘルベルトは足を止め、顔を見合わせて溜息をついていた。

「ん?」

「死んだよ。黒いデスティニー≠ニ戦ってな……」

 一瞬、意味が採れずに笑顔が消せなかった。

「でもなぁ……。機体から亡骸が引っ張り出されたってわけじゃないんだろ? ターミナル≠フ奴らに保護されたってのも、考えられねぇか?」

「もちろん俺も信じてないがな。だから葬儀はやらずにおくのは賛成だ」

 二人の軽いノリは心を折らずにいるための最低条件。そう感じたクロは迂闊を謝罪することを押し止めた。気の利いた言葉は……何も生み出せず二人の他愛ないお喋りを少し離れて後ろから聞く。

 さあ裏切り者として、最低の人間として何を表に貼り付けて生活すればいいのだろうか。ザフトはこの異分子に何を任せようというのだろうか。クロは二人から視線を外すと国防本部のロビーをぐるりと見回した。一年程度離れただけだというのに馴染める空気が、ない。

(なんか、あるよな……。こういう雰囲気)

 ザフトの遠征で地上に降りた際、消毒された生まれ故郷を訪れたことがある。危険は、なかった。生家までも残っていた。しかし主を失って久しいその家は――自分を迎え入れてはくれなかった。

 つい先程、生家以上に浸り込んでいた住処に足を伸ばしてみた。だがかけられた第一声が「どちら様でしょうか?」敵対者であることを再認識させられる。口元に浮かぶ苦笑を持て余し、隠せずにいると先行するマーズ達が足を止めていた。

「ん?」

「ラクス様?」

「ラクス様だ……」

 その呟きはざわめきに変わり速やかにザフト兵達に浸透していった。各々が必然に支配されるまま敬礼を返す中心に、陣羽織じみた正装に身を固めた最高評議会議長がいた。

「みなさんお疲れ様です」

「ラクス様わざわざありがたく存じます!」

 女王に向ける眼差しは……全て本物の熱情が籠もっていた。自分が唯一の存在だろうとクロは苦笑を禁じ得ない。

(いつからだろうな……ラクス・クラインの敬称に違和感を持っちまったのは……)

 ラクス様、か。滑らかな口調で呼んでいた時期も確かにあったと思うが、思い出せない。そして今は、気持ち悪い。

 今はノストラビッチ博士から与えられた個人用携帯ビーム兵器など所持していないがザフトの制式拳銃はホルスターにある。自分の目的は何だ? 世界をひっくり返すことだ。ここにいる誰も自分のような名もなき人間など気にも止めていない。セーフティを解きつつ銃を抜き、ピンクの髪をポイントしトリガーを引く。直後に自分も蜂の巣にされるだろうが――世界は変わる。

(――混乱するだけだよな)

 支配者をなくして次へ進めるほど、民衆という奴は進化できていない。そう言えばティニに託した世界を殺す術はどうなったのだろう? 完成しているのなら引き金を引く充分な理由となり得たが……今は問いただすこともできない。

「ご自身もお忙しいだろうに……。勿体ない御言葉だ……」

 自分の内側に浸り込んでいたクロは聞きそびれてしまったが、ラクス・クラインはお得意の演説を零していったらしい。近づいてみたヘルベルトの顔は案の定陶酔している。拍手すら起こるロビーで人知れず嘆息したクロだったが仕事を求める彼の首がいきなりのヘッドロックにとっ捕まった。

「をぅ!?」

「ほらクロフォード! 早く行かねぇといい席がなくなるぜ!」

「はぁ?」

 クロはいきなり宇宙艇に積まれて敵地に放り込まれるのかと不安になったが、その不安は杞憂以上の結果を引っ張り込んできた。

 ラクス・クライン。それは今でも歌姫の名であり、昨年のニセ者とされるラクスが暴き出したようにザフト軍の面々は凄まじいまでのアイドルオタクである。

(慰問ライブ………そう思っておこう……)

 メロディが流れ、歌声が紡がれる。

 先程までの喧噪はなりを潜め、静けさがだが確かに染みいる暖かさが会場に浸透していく。

 吐息が漏れて、照明のない暗闇に消えていく。

 くだらないと一笑に付すつもりだったクロの心は……知らぬ間に溶かされ、揺らされていた。最後の拍手に抵抗なく加わっていた。

 歌は、好きな方である。在野に下ってからは、そう言えばミュージックディスクの類には触れていない。歌は人の生み出した文化の極みとまで宣った存在があるそうだが、今のクロにはそれを否定できる心地は残っていなかった。

(敵だろあれは……ったく、オレもなにやってんだろうな)

 時間単位のライブが幕を閉じ、ヘルベルト達にと別れた彼の心には満足感が残っていた。同胞を殺したような奴が安寧を貪っているようで、その心地がクロには何より苦しかった。覚悟の上、それでもやりきれない。だが暖かい。こんな世界を……壊さなければ皆の悲願――戦争根絶は叶いそうにないのだから。

 

 

 

「ご苦労様ラクス。みんな喜んでたよ」

「あら? キラも見てたんですか?」

 羽衣を幾重にも巻き込んだようなステージ衣装で舞台袖に還ったラクスは新たな拍手に迎えられた。軍神の異名とはかけ離れた柔和な笑みが彼女の手を差し伸べ階下に足をつけた彼女をエスコートする。

「久しぶりなんじゃない? 気持ちよかった?」

 問いかけてきたキラの瞳に一抹の淋しさが浮かんだことを、洞察力に優れたラクスは見逃せなかった。彼の問いに答え、生まれた疑念を氷結させるのは容易い。それでもラクスは彼の心に語りかけた。

「キラ……どうかなさいました?」

「……えっ…」

「今のキラ、どこか淋しそうですわ」

 苦笑いを浮かべて髪の毛に手を差し込んだキラはそのまま赤面した。少しばかり勘ぐったラクスはそれが正答でなくとも彼を手玉に取れる言葉が思いつき、悪戯っぽく微笑んだ。

「わたくしが遠く感じましたか?」

「……うっ……」

 キラの視線が逃げた。心を見透かされた羞恥に耐えきれず満面の笑顔を浮かべたラクスから目を反らした彼の髪に温度はふわりと柔らかいものが覆い被さる。桃色の髪とアロマの香りに包まれてキラは一時息をすることさえも忘れてしまった。

「ら、ラクス?」

「大丈夫ですわ。キラ。わたくしはどこへも行きません……。あなたの下に、還ってきます」

「……ありがとう」

「さぁキラ……何を悩んでいるのですか?」

 彼女の世界に暗闇を持ち込んでしまうようでキラは心の吐露を躊躇ったが、であるならそもそもこんなところには来てはいけなかったのだ。それでも、少しでも早く彼女の耳に入れる必要があった。軍神と最高評議会議長の立場がそうさせていた。

「アスランが、ターミナル≠潰して回ってるって……。データ、見る?」

 彼の声の暗さから、それが看過できる規模ではないことくらいは容易に想像できる。

「いえ……執務室で確認させていただきます」

「カガリの仇と思ってるって、オーブの人は言ってた」

 先日あの黒いデスティニー≠倒せた。だがその為に払った犠牲はあまりにも大きかった。特にアプリリウスワン≠ェ受けた被害は計り知れない。それ以前に世界が被った被害も計り知れない。

「僕たちも、倣うべきなのかな? あのルインデスティニー≠ネんて存在を、もう二度と出さないように……」

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SEED Spiritual PHASE-76 悪戯しちゃダメだよ

 

「なんでわかってくれねぇんだよぉ!」

 振り回した腕が花瓶をはじき飛ばし床に破片と水をばらまいた。目をそらす者、体を、子供を抱きかかえる者、居場所を移す者と様々だが……要は群衆が個人に恐怖を抱いている。

「いつもはくれるじゃないか! なんで七日なんだよ……! じゅ、十四日だろ」

 苦り切った医師の表情に、場所を変えろと思う者、警察を呼べと思う者、医者なんだからしっかりしろと思う者と様々だが……ここに『我が儘』が無ければ誰もうんざりせずに済んだはずである。

「……定期薬失くしたって言うけど、ホントなのかしらね…」

「こーゆうのを助けるのが仕事っつってもな……。オレは救われて当然なんだって奴、やっぱイラつく」

「いいから警察呼べって事務長に言ってこようよ…。暴言暴力お断りって張り紙もしてることだしさ」

 ぼそぼそと繰り返される責任転嫁の言葉達以上に彼らの視線が物語っている。言っても無駄なことはある、と。

「あ、院長…」

 思わず姿勢を正して会釈した事務員の前で足を止めた白衣の男は重々しくため息をついていた。

「試して、見るか。許可は取り付けているわけだしな」

 

 

「………サイアクの仕事だったわ…」

「だが、誰もが穏便に済ませられたぞ。喚いていた男が妥協した事によってな」

「穏便にぃ!? ダメよヨウラン! クロとかティニに毒されてるわ。その人の本心を機械的に消して…まるっきり殺人じゃない!」

「うーん…クロに毒されたってのは認めるがなぁ…。言っても無駄だ、反論したらお客様に何する!訴えてやるって奴を危害加えるどころか拘束とかもせずに帰せたのは穏便に、じゃねーかなぁ……」

「ヴィーノとフレデリカが前こんなのやったって言ってたけど実際目にすると気持ち悪さが全然違う。クロ、やっぱおかしいよあの人……」

「そのクロならこう言うんじゃないか。「犯罪者は他人の人権無視して得してるんだろ。そんな奴の人権認める必要なんてあるのか?」とか何とか。さっきの件も、「じゃあお前だったら殴って気絶させる以外になにか出来るのか? 警察呼ぶ、だって結局は力でねじ伏せてるのに代わりはねえぞ」とか」

「似てない。全っ然似てない」

「……悪かったな。でも、クロが言いたいのはそれだろ。反論するなら――」

「代案出せって?」

 高圧的に出るものが得をして、遠慮をするものは何かを我慢。それが理想だなどとは彼女自身も思っていない。だが結局、自分勝手を縛るための道具たる法律とて完璧ではない……。確かにクロなら言いそうだ。態度でかい自分勝手を看過するんなら法律作りなんてやめてしまえ、とかなんとか。

 ルナマリアはそこでお喋りを打ち切った。入ってきた院長から成功報酬を受け取ったのだがそれがどうにも後ろ暗い金に思えてならなかった。

 

 

 

 粉々だった。

 自爆したフリーダム≠ヘ最早原形を留めてはいない。四肢は跡形もなく、焼け残ったボディも中央右寄りから二つに割れてしまっている。煙棚引く爆心地から視線を外し、鎮座したジャスティス≠掠めて閉じられたアスランの目はしかめられて街を見た。

 カイロは間近で爆発を受け、東外周部に甚大な被害を被っていた。爆風で倒壊し、爆炎で炎上し、家屋が、人が、命達が壊滅している。

「――くそっ!」

 だが、目に見える破壊が全てではないのだ。焼け爛れ動かない屍、瓦礫から伸びた細い手を引っ張る子供、無慈悲に救助者へと降り注ぐ屍材群……。目に見える悲劇だけではない。アスランは、未だパイロットスーツのヘルメットすら取れずにいる。

「放射能汚染が懸念されます。モビルスーツから降りるのは――」

 先程そう言われた。それでも居ても立ってもいられず降りたが、宇宙空間にも対応したスーツを脱ぐことはとてもできない。そう、核爆発の怖ろしさは究極とも言える破壊爆発力ももちろんだが、被曝と呼ばれる、より尾を引く地獄の要素が撒き散らされる事にこそあるのかも知れない。光と共に訪れる死を免れても、見えない毒に犯されている。全身に水泡ができ、歯も髪も抜け落ち、喘ぎ横たわることしかできなくなった映像というものなら彼も見たことがある。最近の核被害事例はユニウスセブン≠竍ボアズ≠ニ言った宇宙での破壊であるため一次的な破壊から生き残ることは不可能だった。そのため、放射能汚染による二次災害は忘れ去られているきらいがある。

 核兵器。

 誰もが口をそろえて忌み嫌う、そんな次世代まで殺す大量破壊兵器が何故必要なのか? 忌み嫌うもの達ですら理解している。抑止のためと。理性で造られたはずの秩序も、結局は暴力に屈している。小賢しさを超えた純粋な強さはやはり力なのか……。

「核まで使うなんて……これがターミナル≠フやり方なのか!」

 人心を弄び、大量破壊兵器以上の意味を持つ核兵器に平然と火を入れる――これではデュランダルの感化で世界中が意思統一した結果とはいえアスラン自身も悪と断じ、排斥した旧地球連合と同じではないか。一部の勝手な理屈を振り翳すナチュラルの醜さの、まさに権化。あれだけの戦いを経て潰した存在が、また形を変えて世界を灼く。

「絶対に繰り返してはならないのに……こんな事は」

 心配そうな子供の瞳がフルフェイスに隠れたアスラン自身を見つめていた。不安を少しでも取り除いてやるため笑いかけてやればいいのだが――

 被爆しているのかもしれない。今は心配そうに立っているだけだが……近いうちに前身に火膨れを張り付かせ、乾きに呻いて絶命していくのかもしれない……

 スカンジナビアの軍隊に囲まれたカイロの住民は不安そうな表情で視線を一所に定められずにいる。その中には身重らしき女性の姿も――もし、危険値に達するような放射能汚染があったなら……生まれられるのか? 様々な意味を持つその恐怖に、アスランの待つと言う思考は瞬く間に消費され尽くした。

「アスランさん!?」

 誰の声も聞かずにジャスティス≠ヨと駆け込む。まずは、先程逃亡した車両だ。追い縋り、尋問する。口を割らないようなら拷問すら辞さない!

 瞬く間にシステムを立ち上げ機体の瞳に光を宿らせると通信が割り込んでくる。出る間も惜しんで立ち上がらせたが言葉がもたらす衝撃の方が強かった。

〈アスランさん! ユーラシア連邦の……統合国家の軍です!〉

「なにっ!?」

 立場が怒りを圧殺した。逃亡者アスラン・ザラに自由などない。

 このまま拘禁されようものなら匿ってくれたスカンジナビア王国の立場は、ない。反撃はおろか発見されることすらタブーだ。スカンジナビア軍と行動を共にするジャスティス≠ネどという存在、今はまだ白日の下にはさらせない。

「くっ……すまない。私は撤退する…。調査の方、よろしく頼みます」

〈輸送機へ、お急ぎを。こちらの方はお任せ下さい〉

 レーダーにはまだ何も映っていないがユーラシア側の空を睨み付ける。この非道を放置したままで終わらせるつもりなどさらさらない。こんな事を、許してはいけない。

 

 

 

 その日、ザフトのオペレーター達の間に激震が走った。

「こ、これは!」

 誰かが鳴らしたか、それともシステムの防壁が反応したか、周囲にレッドランプと警報が鳴り響く。解析ができたというルインデスティニー≠ニの戦闘シミュレーションデータを受け取りに来たキラは赤く染まる視界に目を白黒させた。

「どうしたの?」

「き、キラ様! ザフトのサーバーが何者かの侵入を受けていますっ!」

 顔を青ざめさせたオペレーターの言葉に少しだけ考え込んだキラは焦燥に染まりきった彼の肩、そして端末に手をかけた。

「貸して」

「――ぅあ…はい」

 彼の意図を察してシートから退く。普段はぽやぽやしている軍神だがその情報処理能力は他者の追随を全く許さない。学生時代の趣味はハッキングとされ、いきなり機密レベルの連合製モビルスーツを操ったことからハッカーとしての腕前は、彼にその気があれば国を転覆なさしめるとまで噂されていた。

 ずかかかかかかかかかかかかか…! とコーディネイターの目から見ても滅茶苦茶打ってるんじゃないかと思わせるキータイピング。この域まで達するともはやポインティングデバイスなど無用の長物。軍事レベルのサーバでなければあっさりフリーズしかねない情報量が目の前のウィンドウに並べられていく。

 本職の技術者を差し置いての静かなる、だが熾烈な情報戦はほんの数分で終了したらしい。

「できた」

 キラの一言に一同が胸をなでおろす。レッドランプも静まった中、キラの柔和な笑顔が悪戯を思いつき苦笑に変わった。

「じゃあお返しにウィルスでも送っとこうか」

 復讐に対して笑いが起こった。キラは保管してあるウィルスの一つを取り出し多少の改良を加えて――と、特定したアドレスに見覚えがあることに気がついた。

「あれ?」

「どうしました? ――ってちょっと!そんなことしたらこちらの位置――」

 技術者の悲鳴を無視し、意を決したキラはハッキング先と有視界通信を繋いでいた。その先には難しい顔をしてこちら――恐らくディスプレイ――を睨みつけている見知った赤毛の女性。その渋面がこちらを認めるなり仰天に豹変した。

「君……メイリン、だっけ?」

〈あ! ああああ!!キラさんっ!?〉

 確か……ラクスからオーブの代表代行してるとか聞いていたはずだが……オーブは暇なのだろうか? キラは嘆息すると笑顔のまま彼女を見つめ返した。

「……君、悪戯しちゃあダメだよ」

〈ご、ごめんなさい……!〉

 お辞儀の後を追って跳ね上がるツインテールを最後に映像が途切れた。

 

 

 アスランに送った情報はどれくらいになるだろう? 慣れが忙殺を上回り、何よりカガリ・ユラ・アスハの覚醒によって公務の幾つか彼女に渡すことのできたメイリン・ホーク代表代行は、前にも増して情報収集に身を入れていた。――が、特にメイリンのような趣味と仕事を持っていると忘れがちになるが、ハッカー・クラッカーはしっかりと犯罪者である。

「はぁ……あの人には何をやっても勝てないなァ……」

 ……であるのだが、彼女は別に気にする部分の方が大きすぎた。行き先を限定せず情報ばかりを追っていたらいつの間にやらザフトに迷い込んでいたのは失策だが、アスランのデータを調べ上げて射撃訓練前にお姉ちゃんに教えたり、『ラグナロク』のサーバに侵入して遠隔地から警報を鳴らしたりとあのタイプの操作には自信があったつもりだったが、彼には全く敵わなかった。

「アスランさんのためにって、頑張ってるつもりなんだけどなぁ…」

 ノックがあってずり落ちかけていた姿勢を正すと別の仕事が舞い込んでくる。メイリンは本業を後回しにせざるを得なくなる。

 

 

 

 ルブアルハリ砂漠での補給は存外時間がかかった。以降はそんなことはないとここのターミナル≠ヘ保障してくれたが。ルナマリアよりもヨウランの方が信頼を失ったようだった。

「確かにシルエットフライヤー≠ネんて出回るものじゃないけど…他の弾とか用意できるでしょうが…。セカンドステージもミサイルとかほとんど共用ですよ?」

「あぁ……今度からは大丈夫です。ですが――失礼ながら先行試作機みたいな高性能を使いまくってたミネルバ≠ニ同じ考えは、ちょっと。市場に出回ってるものなら問題はないんですがね……」

 多少無理を言った自覚はあったかヨウランもそれ以上追求はしなかった。ルナマリアはドリンクボトルに突き刺さったストローに口を付けたまま、彼らの口論から興味を逸らし、今の愛機を見上げていた。ストライクE=B先日までストライカーパック≠フ動作実験をしていたため、ずっと付けていたノワールストライカー≠ウえも取り外されている。そして、この地のターミナル″業員よりも見知った――ここ最近で顔見知りとなってしまった――アフリカ共同体からの連れ達。ティニによってメンテナンス知識さえもインプットされたのか、その手並みにもたつきなどはない。

「あとは実戦で使えるか、よね……」

 ルナマリアは連合製の愛機を見上げた。基本的には経験のあるザクウォーリア≠ニ同じ運用法方法のはずだ。ストライカーパック≠ニウィザード=B共に戦況に合わせて装備を換装する機能である。ガナーとランチャー、ブレイズとエール、そしてスラッシュとソード。選択の必要性がない、もしくは戦況を読めない状況ならノワールを用いればOKと言うことだろうが。

「ルナマリアさん!」

「はい?」

 呼び止められて振り仰げば通信兵が手を挙げていた。

「リーダーからです」

「……リーダー? ティニ?」

 頷いた彼にめんどくさそうな視線を送りながらその近くに駆けていく。彼に手を挙げて通信を受け取ると現れた無表情少女に向き直る。

「はい、わたしよ」

〈ども、ルナさん。判断はそちらに任せますが近くに危険が迫ってます〉

「え? なに、ここバレたの!?」

〈そう言うわけではありません。危険確率は40%くらいです〉

 要領を得ないティニの言葉に眉を顰めていると画面の中の彼女は特に慌てる様子もなく言葉を継いできた。

〈PMCブレードオブバード≠ご存じですか?〉

「いえ、知らないけど」

 ティニは説明を放棄して言いたいことだけを伝えてくる。ルナマリアにとっては気に入らないが、危険が迫っているというのなら無駄話をしている余裕などないだろう。

「傭兵企業です。そこが他のPMC何社かと提携してテロ組織・反統合国家勢力の撲滅活動――的な名目でここ最近大活躍。ただ、一般企業の合同程度の資本にしては戦力が異常です」

「……異常って――」

 問い返すまでもなく「異常」がディスプレイに映し出された。GAT‐Xの後期型、そして幾つかのセカンドステージシリーズ、極めつけはGFAS‐X1。完成して市場に出回る量産機ではなく運用試験のための高性能機が名を連ねている。営利目的の企業がコストを度外視してまでそんなものを採用するか?

「……インパルス=c どうして? ガイア≠ニかは盗られたから解らないでもないけど、アレはザフトにしかないはずよ」

〈この間のプラント″Uめでクロの撃墜したインパルス≠ェ何者かに持ってかれたと言う情報があります。恐らくこれを修復したものではないかと。まぁどこかのジャンク屋が持って行っても法的に問題ないわけですし、それが流されたとしても誰も怒れないかと〉

 確かにそうだが、何かやりきれない。

〈それはそれとして、PMC側は「統合国家から依頼を受けている」としていますが、統合国家はこれを否定しています。しかしあちらもアスラン・ザラの捜索に兵を裂いていて、これに対抗する派兵なんてできそうにありません〉

 それにだ。あちらとしては反政府勢力の駆逐を止めるよりも見過ごしていた方が旨味は強いかもしれない……。

「えーっと……つまり何? ターミナル≠熾W的にされてるってわけ?」

〈はい。……ですが少し妙な所もあります。調査途中ですけど聞きますか?〉

 そう言われては無視もしづらい。ルナマリアは不機嫌な顔のまま首肯すると画面の中のティニは幾つかのキーを叩き始めた。彼女の操作の跡を追ってこちらに何かが表示される。

「確かにブレードオブバード≠ヘ宣言通り反政府勢力やテロ組織を潰してはいますが、よくよく見てみると大きな割合で制圧対象に含まれている組織が存在します〉

 ティニが指差したのは円グラフだった。指された部位面積は三割程度のデータ。ルナマリアにはそれだけでは重点的に狙われたものなのか解りかねた。だがティニには何か気になるところがあるらしい。

「なんなのその組織って……」

〈旧ロゴス≠フ資産を抑えた組織です〉

「え?」

〈そしてこれ。統合国家の管理している警察機構と言ったものでしょうか。ICPOが前身の、地球連合が管理していたアレですね〉

「……どういうこと?」

 警察機構を沈黙させ、ロゴス≠フ資産を回収? そして敵対勢力の軍事力を削っているのは言わずもがなである。ティニが言わんとしていることは多少の想像力を用いれば形になった。

「まさか……残党が集まってロゴス≠復活させようとしてるとかっ!?」

〈それは調査中です。こちらにできることは任せて貰ってルナさんはあなたのお仕事をお願いします〉

「ここを、防衛しろってこと?」

〈隠れるも戦うもご自由に。ただし戦闘はそこではなく関係ないところでお願いします〉

 

 

「つまりは陽動して来いってこと……か」

 ティニの『造った』兵士達を連れて中東の隅まで輸送機に揺られた。モビルスーツのコクピットに収まり時を待つ。ミネルバ≠ノいた頃は、いやここ最近であっても出撃前は気心の知れた誰かと緊張をほぐす一言二言はかわしていたように思う。しかし今はただ緊張だけが弓のように引き絞られていた。造られた存在と話す。それはどうもぞっとしない。

〈ホークさん。出たら指示お願いします〉

「え? あぇ、えぇ。了解よ」

 話しかけられた。彼らを奇妙と断じていた自分を少しばかり恥じる。指揮をできるのは自分だけだとティニに言われた言葉を思い返す。ルナマリアは瞑目した。彼らを仲間と思えなければどうしようもない。自分は英雄ではない。一人で戦えるなどと……うぬぼれてはいない。

「でも、そのPMCとか、来るのかしらね? ここ狙ってるって確定情報あるわけでもなし」

 電子音に目が開いた。

〈アイオーン≠ゥらの入電です。全機にデータ転送します〉

 フロントモニタ右端に現れ重ねられたウィンドウが数種類のモビルスーツをライブラリから引き出した。アカツキ条約≠ェ敷かれて以来「アンノウン」などと言う言葉は久しく見られていないがそれでも驚ける機体というのは幾つもある。

「セカンドステージ……」

〈それよりこの数のウィンダム≠アそ注意すべきかと〉

「わかってるわよ。じゃあ、出るわよ!」

 ミラージュコロイドを纏った輸送機からストライクノワール≠ニゲイツR≠フ群れが飛び出した。熱紋センサーには街に犇めく光点が見られる。

「街を? こいつらなに考えてんのよ!?」

〈だからこそ、そこをターミナル°駐_だと思わせよう、と言うことなのでしょう〉

「――聞かされた、つもりだけどね!」

 57o口径のビームライフルで狙撃する。スナイパーライフルでもない銃器でこの距離は減衰が大きすぎたようだが前方のガイア≠ェ回避しきれずビームライフルを破壊されていた。

「散開!」

 編隊を組んでいたゲイツR£Bが二つに割れ、死角から包囲を開始する。振り仰いだガイア*レ掛けて落下の勢いまで乗せたフラガラッハ3≠叩き付ければシールドの張り付いた腕が負荷も返さず地に落ちる。反撃の一閃を急後退してかわす間にMMI-M20SポルクスW<戟[ルガンの乱射が黒い機体を打ち据えた。蹈鞴を踏むガイア≠ノ追撃を加えようとしたがそれは敵のウィンダム≠ェばらまいたミサイルに阻まれ叶わなかった。ルナマリアは機体を下がらせ、戦況を見る。

(みんな凄いわ)

 セカンドステージ三機を強奪された追撃戦、そしてユニウスセブン#j砕作業でのテロリストとの交戦ではゲイツR≠ヘ何の戦果も挙げられずに散っていった。彼女の中ではゲイツ≠フ価値はかなり下位に貶められているが、それを完璧以上に操っている。一機の脱落もないまま数で遙かに上回るウィンダム′Qを圧倒している。ルナマリアは今も隠れているはずの輸送機へと通信を送った。

「ランチャー¢翌チて」

〈了解。シルエットフライヤー≠R番射出を!〉

 ガイア≠乗り越えこちらに殺到するウィンダム≠ノビームを撃ちかけたが全て撃ち落とすことはできず距離を詰められた。ライフルを投げ捨てショーティを取り出す。中近距離に弾幕を張り翼をもぎ取る。揚力を失い制御に戸惑う敵機を尻目に近づいてきたシルエットフライヤー≠ヨと飛び上がった。ストライカーパック≠ノはシルエットシステム≠フような自動接続機構が備わっていないため、フライヤーに取り付けられた巨砲とバルカンポッドをもぎ取る。320o超高インパルス砲アグニ≠ヘ設計通りの左腕へと装着するが右肩に装着すべきコンボウェポンポッドはサブスラスターと干渉するためマニピュレータに握り込む。墜落ギリギリの所で体勢を立て直したウィンダム≠ヨと容赦なく対艦バルカンをぶち込んでやる。デスダンスに苛まれながら砕片になっていくモビルスーツから視線をもぎ離すと巨大砲を構える。

 コンピュータが効率的な殺戮を計算する中その射線情報を友軍機へと転送した。

「行くわよ!」

 撃つ。

 建造物をなぎ払い、死にかけていたガイア≠煌ワめた多数の敵機を飲み込んだ。敵機の大半が離脱していく中、仲間の一機が損傷を告げてくる。カメラを向け、望遠倍率を上げれば海面から顔を出し連装砲を向けているアビス%機が映し出された。

「色々持ってるわけね……!」

 連装砲を撃ち込まれ装甲片をばらまくゲイツR♂zしに敵機を狙って赤光を撃ち込む。しかし距離がありすぎた。アビス≠轤ヘ海に飛び込みこれを避けるとまた別の水面から顔を覗かせ七条の閃光を撃ち込んできた。

「次ソード=I」

〈了解だ。次、シルエットフライヤー≠Q番だ!〉

 ルナマリアはランチャー¢部を投げ捨てるとアビス≠ェ浮き沈みする海岸へ攻め寄った。一直線に向かいながら左腕を真横に突き出す。トップスピードからの回避は不能と考えたのだろう。アビス≠ェ大きく海面から飛び出すと同時発射可能な計七門の砲をこちらに向ける。

「かかった」

 その時既にアンカーランチャーが端の石材を捉えていた。直角に流れるストライクノワール≠フ脇を赤と緑の色鮮やかな閃光が通り過ぎていく。その発射元へと右手にグリップしたビームライフルショーティが凶弾の嵐を叩き込んだ。アビス≠フランスが折れ飛び銃撃に押し遣られた機体が工場らしき敷地に倒れ込む。ルナマリアはよじれた内蔵の痛みを無視して彼我の距離を詰める。その間にソードストライカー≠積んだフライヤーが追いついてきた。手を伸ばし、ビームブーメランマイダスメッサー≠掴み取ると起きあがろうとしていたアビス≠ノ投げつけ縫い止める。ショートライフルを腰に戻し、バックパックウイング部分からフラガラッハ3≠手に取りアビス≠フ顔面に突き立てる。刃を引き真一文字に両断しながら振り返れば死にかけていたゲイツR≠ェ仲間に助けられることなくウィンダム≠ノ撃ち殺されている。臍を噛みながら次の相手を睨み付けたルナマリアはもう一刀のフラガラッハ3≠投げつけながらリニアガンを後方に回した。放たれた弾丸は外れ投剣がウィンダム≠フ上半身を弾き飛ばす。

〈ホークさん!〉

 言われるまでもなくアラートが叫んでいた。もう一機のアビス≠ェこちらをロックしている。ルナマリアは漂うシルエットフライヤー≠ゥらシュベルトゲベール≠引き抜くと回転する勢いまで乗せて投げ放つ! 発射寸前のカリドゥス≠貫通されたアビス≠ェ体を傾がせ、ゆっくり沈み――そして爆発した。

 次――は、付近にはない。

「近くにインパルス≠ヘいなかった?」

〈いません〉

〈こちらも補足できていません〉

 軽い失望と共に、ティニとの通信を思い出す。彼女は何かを隠していた。自分はそれに気づけたが、確かめる術はない。

(このPMCこそが……シンが行っちゃったって組織なんじゃないの?)

 ルナさんにまで裏切られては困ります――覚えていないはずのティニの言葉が脳に爪を立てていく。ルナマリアは次の敵を求めて駆けだしたが――本懐達すること叶わず脱走時間が訪れた。奴らを騙せたか? ここが拠点だと思い込んでくれたか? そんな第一の目的は頭を掠めもしなかった。

 

 

「ねぇ。ヨウランは、納得したの?」

 帰路は輸送機、周囲をある程度理解したとしても和気藹々と話す気にはなれなかった。帰投したルナマリアは機体窓から青すぎる空を眺め、傍らの男に愚痴を漏らした。

「――わからないってのが本音かな。クロの考えも――」

 顔を傾けると、瞑目するヨウランが見えた。

「――そうまでしないと救えない世界って奴もな」

 ルナマリアも瞑目する。

(……世界なんてどうでもいい。わたしに安らぎをくれないなら)

 自分を生かしてくれるから、守る価値がある世界。恩恵が感じられないなら――そう、滅んでしまえばいい。

「カガリ・ユラ・アスハ代表とか、ラクス・クラインに聞いてみたいわね。世界って救うと言うか、維持してく価値あるのって」

「おいおいルナマリア……」

「結構、彼女達も答えられなかったりしてね」

 嗤えない冗談を笑ってやる心地にはなれそうもなかった。

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SEED Spiritual PHASE-77 その構造が気に食わない

 

「うわぁ…」

 クロはザクウォーリア≠フ中でザクウォーリア≠ノ対して悲鳴を上げた。

〈クロフォード! 俺達はこっちだ。ついてこいよ〉

「お、おう!」

 レバーから、ペダルから、想像される結果を思い浮かべた後に操作する。必然的に一歩遅れ、クロの機体は置いてけぼりをくらいかけた。

 ファントムペイン≠ノ潜り込んでいた時はナチュラルならではの諸作業がオートで行われる便利OS搭載のスローターダガー≠使っていた。

 そしてほんの数ヶ月前までは強力な思考補助で反射動作自体を底上げしてくれるルインデスティニー≠ノ張り付いていた。ジン≠ノ慣れ、ゲイツ≠ナ戦場を潜り抜け、ザクウォーリア≠ナ生き残った自負など脆くも崩れ去っていく。

(ザクウォーリア≠フ操作ってこんなに忙しなかったかよ!?)

 無論同僚には言えるはずもない。だがしばし操る内に何とか一年以上前の勘が戻ってくる。

(いきなり戦闘じゃなくて良かったよなぁ……)

 現在のザフトは非常時と言うこともあって統率体制に変化があった。かつて隊長クラスが占めていた位置を全てフェイスが占めている。国防本部の崩壊が原因か、全てが評議会に掌握されていると言うことなのか。「動きにくくなった」などと嘯く同僚には胸中で頭を下げるしかない。国防本部を壊したのはオレだ。

「どこまで出るんです?」

〈いや、隊長さん次第だな〉

 クロは今、イザーク・ジュール隊長の指揮下にある。クロが選ばれたと言うよりも、配属されたマーズとヘルベルトに誘い込まれたといった方が正しいか。ハイネ・ヴェステンフルスのような同年代の下に付けられるのならいざ知らず、年下の下僕というのは承伏できかねるものもあった。この思考は実力主義者の集団であるコーディネイターの中では異端なのだろうとも思う。だがそれがいきなり戦闘に放り込まれなかったことの代償だというのなら感謝もしよう。ジュール隊に割り当てられた任務は、哨戒。いわば示威行動であった。これが戦闘であったのなら彼は不自然に後退せざるを得なかったところだ。

 今の自分には、もし実力が追いついていたとしてもこのような負荷もある。

〈クロ、今よろしいでしょうか?〉

 通信機を半自動通信に切り替える。そして、独り言をうんざりと漏らす。

「ティニ……この通信機、お前の目までこっちに来るようにはできねぇのかよ……。もし誰かと喋ってる最中にお前がしつこく突っ込んできたら無視できねーじゃねーかよ……」

〈では三回呼んでも無視されたら通信を切ることにします。そんなことより伝えたいことがありますので〉

「あぁ。今は大丈夫。一人でモビルスーツに乗ってるから」

 マーズからの他愛ないお喋りが入らないことを切に祈る。ジュール隊長殿への返事は皆が代返してくれれば何とかなるだろう。

〈ではまず、アスラン・ザラが私達の考えを悪魔悪鬼と罵っています。不快感全開です〉

「……罵ってる? いや考えってなんだ? あいつがオレ達に不快感全開は普通のことだろうが」

〈どうやらギガフロート≠ナ処分に失敗した針さんがいたようでして。人の根幹的尊厳を踏みにじる悪辣非道の輩と決めてかかっています。大変遺憾です〉

「ま、まぁ……そこの極悪非道はオレも認めるがなー。いやそれより処分ってなんだよ?」

〈話してませんでしたか? 私達が宇宙に飛んだ直後、彼らには死んでいただきました〉

「……っ! そ、それは――なんでだ……っ?」

 言葉の端から漏れてしまった怒りを彼女も感じたはずだが、返されたのはむしろ追加の疑問符だった。

〈慈悲、ですか? 意外ですし異常だと思います。想い出してください。彼らは家を燃やされ泣いて逃げてきた私達に暖かいごちそうを提供するどころか騙くらかして包囲し生命財産もろともに奪おうとしたのですよ〉

「いや、でも処分って……」

〈もしあの時ルナさんとシンさんとクロが弱かったら? 処分されていたのはこちらだと言うことをお忘れなく。そんなことよりもう一つです〉

 命の価値を切り捨てる論法。世界の価値とは比べられないと言うことなのか。

〈アプリリウス≠フ深奥に通じている人間とコンタクトが採れました〉

「なに!? じ、じゃあようやくか!」

〈第一目的を忘れていないようで何よりです。その任務、終わりましたら連絡下さい。誘導いたします〉

 英雄が自分を悪魔と呼ぶ。望むところではある。自分にとって彼らは悪魔なのだから。

〈――いっ! おいクロフォード! どうした?〉

「おぉうはいすいません!」

〈しっかりしろよー。通信機ぶっ壊れたか?〉

「いえ! 今までアクタイオン社の機体ばっか触ってたもので……あっちの操作だとカメラだったのがここ通信になってまして――」

〈おいおいそれはそれでしっかりしてくれよ〉

 咄嗟の嘘に胸をなで下ろす。そして哨戒は大した驚異も直接的な示威ももたらすこともなく終わった。艦に戻り、プラント≠ノ戻り、ヘルメットを外したヘルベルトの溜息を聞きながらクロはそそくさと格納庫(ハンガー)出口に爪先を向けた。

「じゃ、オレはこれで」

「を? なんだよ付き合い悪ぃなぁ。オンナか?」

「違いますよー。帰って数ヶ月で直ぐさま女ができるようならオレは既に結婚してますって」

 爆笑する人相の悪い二人に手を振りながら密かに嘆息を漏らす。指定のポイントはアプリリウスワン=B

(………星流炉が全開だったりしたら……やばかったんじゃねーか?)

 キラから逃れるため、一度は頭を掠めた辺り一面の焼却――だが機体がそれを可能にしていたとしても、自分の心がそれを許さなかっただろう。虚無主義者ではない。世界を、正したいのであって壊したいのではない。

(ラウ・ル・クルーゼなら壊すんだろうか……)

 クロの記憶に浮かんだその男は、今は特級の戦犯として扱われている。奴の操縦センスとネビュラ勲章を初めとした肩書きの数々は当時のクロフォードも羨望の眼差しを向けていたものだが、犯罪者扱いされ、破壊者のレッテルを貼られた瞬間から誰もが色眼鏡を通して彼を見るようになった。そんな心を恥じながらも仕方がないと諦め――アプリリウス≠ノ向かうシャトルに乗り込んだ。

 刹那の星空、そして自分の悪行が視界を掠める。

 何とか無傷の港口はまぁいいとして……継ぎ接ぎだらけのシャフト周辺は直視に耐えるものではなかった。凄惨な光景ではないはずだ。労働者が意欲に燃える景気の良い光景なのだろうが……いや、やはり、良心の呵責を通して見れば凄惨な光景なのだろう……。

 地上に降りたクロは今度は天空の瘡蓋から目が離せなくなった。腕の中と腰部の光学兵器を確かめながらも時折視線が空に向かう。ホルスターだけは変えなかった。ほとんどのものはザフトの制服に隠せたがあれだけはホルスターに合わなかったため、制式拳銃をぶら下げてきている。まぁ装甲のない人間相手なら衝撃まで加算される実弾兵器の方がぶっ殺しやすいかも知れない――あまりそういう事態には遭遇したくないものだが。

「ティニ……」

 空に向かっての『独り言』を見咎められないよう人通りを避け、注目されたら不審者扱いされそうに視線をばらまき歩く。そしてようやく静けさを手に入れたクロはぼそりと呟いた。

〈はい〉

「アプリリウスワン≠ノついた」

 着いて、しばらく、いやかなり歩いた。ビジネス街とも住宅街とも違うアプリリウス≠ヘ人混みと言うほどの密度はないが、それでもより完璧を求めて人目を避けると行政府近くの裏側に迷い込んでいた。行政府の中心ともなると自分が壊した建造物の修復作業で賑やかだが、少し離れれば手が回っていない。

「今は――オレの位置、追ってるか?」

〈いえ。そんな電波だかなんだか拾われそうなことはできませんよ〉

「そうか……今は、行政府の……裏か?。――いや待て!」

 銃声か!? 内面との会話に没入しようとしていたクロは現実がもたらす衝撃に跳ね上がった。音は、どこから? 近くないか?

〈クロ? どうしました?〉

「待て。話は後だ。また連絡する」

 こちらから一方的にぶつ切りにできない通信機を鬱陶しく思いながら走り出す。さらに奧へと引っ込んでいった先には銃声を聞き咎めるような存在はいない。はるか遠くの喧噪を距離より更に遠く感じていると立て続けに銃声が響く。クロは拳銃を引き抜き、セーフティを弾き取った。音を頼りに駆け寄れば、視線だけを投げた先に――黒服の屍が転がっている。

(……SPか?)

 つまりは守られるべき高位者が襲われていると言うことになる。クロは周囲に意識を投げながら渦中へ近づけば、命が危機にさらされるより先に息を飲んだ。

「ラクス・クライン!?」

 ピンクのお姫様は遠目にも見間違うはずもない。昨年のようなニセ者がいるなら話は別だが。

(なんだ? こいつらターミナル≠ゥ?)

 人の努力を自分達の手柄にしてメディアに乗っかり喚いていたアホがいたが、それに連なる奴らだろうか。アスランやラクスを裏社会で匿ったというターミナル♀ヨ係者はザフトのSPは役に立たねぇと嘯いていたことがあったがどうやら事実らしい。棒立ちのまま被弾し、肉の盾になるのが関の山と言った彼らは徐々に立っているものの数を減らしている。

 クロは、逡巡した。

(ラクス・クラインが殺されるか? 見過ごせば――プラスに働くか?)

 クロは即座にその考えを否定した。こんな事件は瞬く間に周知となる。今、自分は事件の目と鼻の先にいるのだ。人の口に戸は立てられない。壁に耳あり障子に目あり。人目を忍んで歩いたつもりでも自分の独り言を聞く奴はどこかにいるのかも知れない。ならば今の自分が、近未来の自分が誰の目にもとまらない存在でいられるとは思えない。

(最高評議会議長殺害現場に居合わせた、出戻りのザフト兵……いかん。あまりに怪しすぎる……。潜入なんかしてられる身分じゃなくなるな)

 拳銃で大人数に突撃する根性などない。クロは襲撃者達に目を付けられていないのを良いことに側面より狙撃を試みた。

 怒号が響いた。だが幸い弾道を見ていた敵はいない。襲撃者達は狙撃手を捜すこともせず目標だけを注視している。クロは更に物陰から狙撃を繰り返した。銃身も短く、照準器もないに等しいこの銃器では精密射撃など望むべくもない。頭部を狙っては何発も外し、目標を胴部に切り替えてマガジンを使い切る。流石にその頃には相手もこちらに敵意を向けた。クロはリロードしながら路地を迂回しSPの黒服を求めた。

 二つほど角を曲がりラクス・クラインの髪先が視界を掠めると――銃口を向けられた。

「待て! ザフトのクロフォード・カナーバだ。助勢する!」

 叫びながら迫ってきた襲撃者を撃ち殺す。黒服達が銃を掲げた。軟化した気配を感じながらその脇を抜け、未だ全方位から狙われるような開けた場所にいるラクスに駆け寄り、彼女を囲む円陣に体をねじ込んだ。

「――っ、議長! こちらへ!」

「あら? 貴方は……」

「大勢から狙われているのにこんなことにいてどーすんですかっ!」

 周囲からの不機嫌を無視して彼女の腕を強引に引く。クロは攻められる方向を限定できる路地に逃げ込むと、後方を黒服共に押しつけ前方に銃口を向けながら通信機を引っ張り出す。

〈ん? クロフォード、どうし――〉

「マーズさん、ただ聞いてください。ラクス・クラインが襲われています」

〈な!? おい! そ――〉

「アプリリウスワン≠ナす。場所は……オレのGPS追っかけて下さい! 可及的速やかに増援願います」

 救援を求める間にも背後からは悲鳴が轟いていた。進む先には敵などないがクロは胃の腑に冷たいものが落ちるのを感じていた。

(そこまで役に立たねぇかよ!)

 視線だけを振り返らせれば――まさかSPが全滅したとでも言いたいのだろうか。襲撃者が一人細い路地に入り込んできている様が見える。ラクスを引いて走る間にも侵入する襲撃者の数は増え始めていた。

(……やっちまったか? 広場で迎撃するべきだったってぇのか!?)

 殺気を感じれば自分の未来さえも予見できる。無数の銃口がその予見を裏付ける。クロは議長を乱暴に奧へと押し遣ると、反射的に左腕を突き出していた。

 銃声が立て続けて轟く。

 次いで巻き起こるのは――肉を乱打する鈍い悲鳴ではなく鉛が沸騰する小気味よい音だった。

「ちっ……!」

 どうしても舌打ちを零さざるを得ない。視界に収まる無数の銃口、それにどう撃たれようと自分と保護対象が傷つけられることはない。路地を包み込む程のビームシールドに守られている。襲撃者達の目に動揺が走るのが光を透かした先で見えた。奴らはどう思った? ザフトの新型装備か? それともターミナル≠フ関係者と看過されたか? 無数の銃口が宙を向くと蜘蛛の子を散らし、足音が遠ざかっていく。クロは殺意とは別の何かに耐えきれなくなりビームシールドを解除した。背後の保護対象はどう思っている? ザフトの最新鋭装備を支給された緑が守ってくれた、か?

「感謝いたしますわ」

「……いえ」

 振り返るのも恐ろしかったが、まさか走って逃げるわけにも行くまい。下を向こうとする自分を無理矢理叱咤し思いっきり振り返って敬礼を向けた。

「確かあなた……この間MIAから生還されたという、クロフォードさんでしたか?」

 クロは恥じた。流石上に立つことを定められた存在、最高位のコーディネイターの長たるラクス・クラインは自分のような一山幾らまで記憶して下さっていたらしい――そこから受けた歓喜を恥じた。恥じ入って、怒りを感じる。こいつはオレの存在を裏切ったのだ。もしここが潜入場所でなく戦場であったなら――ああ心に問いかけるまでもない。オレがこいつを殺してやりたい。

 しかし羞恥にも憤怒にもまみれる時間は与えられない。ラクスは瞬間的な微笑みを隠すと人を従わせることを定められた視線を放ってきた。あっさりと射すくめられ息を飲む自分に憤るもそんな熱さは冷たさに取って変えられる。

 ラクス・クラインの指先がゆっくりとこちらを――こちらの左手を指した。

「……確か、カガリさんを襲った暗殺者が、個人携帯サイズのビーム兵器を手にしていたとの報告がありました」

 アスラン・ザラの報告か。色々と立ち塞がってくれる……。理不尽と解っていても苛立つものは苛立つ。

「ラクス様!」

 クロは更に舌打ちを零した。面倒な目撃者が偶然全滅などという幸運があるわけがない。今度は加勢してやった方に銃口を突き付けられる状況に更に苛立つ。

「お待ち下さい。この方は――」

 使命感に燃えていた黒服の視線がラクスの静止で困惑に変わった。クロも反射的に振り返ってしまった首を戻すと常に計りかねる彼女の表情が待っている。

 ラクス・クラインが口を開く。しかしその声を聞くことは叶わなかった。

「! ラクス・クラインっ!」

 音に導かれ再び振り返り、見えたものに驚愕して議長を押し倒す。再度振り返ったときにはまたもビームシールドに命を託すしかなかった。上空から降り注いだ閃光が街の一角に突き刺さる。M703kビームカービンの一撃は直撃などしなくても凄まじい衝撃をこちらにまで流し込んできた。黒服が焼き尽くされたかどうかなど気にかけている余裕はない。クロはラクスの手を引き駆け出したが直ぐさま視覚をモビルスーツが占有する。GAT‐02L2ダガーL=Bそれも一機ではない。クロは、せめてうんざりしたかったが命を握られてはそれもできなかった。

 政治中枢にまで反乱兵器を放り込む……こんな真似ができるのはあらゆるアンダーグラウンドを支配する存在……ターミナル≠オかない。さっきまでの奴らが生身での任務に失敗してモビルスーツなんて凶器を持ち出した。自分も利用させて貰いながらもこんな時だけ苛立つのはやはり理不尽なのだろう。

「わたくしを助けて下さるんですの?」

「さぁな。とにかく着いてきてくれ。死にたくないって点では同類つっても良いだろう?」

 奴らにとっても電撃作戦しか術はないはずだ。ターゲットを見つけて、踏みつぶす。ザフト軍が本格的に動くより先に。後は逃げるにせよ自爆するにせよ完遂させるにはそれしかない。

 つまり軍が動き出すまで逃げ続ければいい。ここは自陣だ。そうそう勝算の低いものではない。さっさと路地を抜け、建物ごとなぎ払われる心配のない場所へ――

「貴方は組織の価値を……今も疑っているのですか?」

「あぁ。いきなりなんだよ? 疑ってるが、後にしてくれ」

 その受け答え、息を弾ませながらもラクスは彼の正体を看破した。

「やっぱり……あなたがあのルインデスティニー≠扱っていたのですね!」

 何故と問いかける余裕はない。それでも彼は失言に気づく。そう言えば彼女を殺そうとして……問いたいことに苛まれた。彼女から得ようとしていた問いを、結局は横槍に阻まれ得られなかった。

「――あぁ。だが今は黙って走れ」

 こうしている間にもダガーL≠ヘ建物の隙間にカメラと銃口をねじ込んでくる。クロは振り返り、自分が恐ろしくも哀しいほど虐殺者との距離を開けられていないことに辟易する。ラクスの手を引く右手から、左手へと視線を流す。このビームシールドはソリドゥス・フルゴール≠そのままスケールダウンした品だとヨウランが言っていた。ならばデストロイ≠フ巨大砲を受けきったようにモビルスーツサイズのビーム兵器を無効化できるのかもしれない。だが周囲から漏れ入ってくる放射熱に人体が耐えきれるかなど未知数であるし、何より自分の命が賭けられるというのはベットとして大袈裟すぎる

「組織については――束ねた力で実現させる良きものと理解していますが、貴方は、未だに嫌っているのですか?」

 だと言うのに彼女は命よりも問答を優先する。

「嫌ってるわけじゃない。あの時も言っただろう。上に立った奴は人を見下し下の奴らは全てを諦める……人の心をどうしても腐らせるその構造が気にくわないだけだ」

 壁面に背を押しつけ角の奧に視線を投げる。命を磨り減らす地獄の空気を呼吸しながらもクロは言葉を無視することはできなかった。

「あんたが腐らせた自由は、組織の負を世界中にばらまいている」

 視覚と聴覚で脅威を探り――いや、安全であろうと希望し――彼女の手を引く。振り返ったときだろうか。前を見ているはずなのに彼女の微笑みが見えたような気がした。

「わたくしを殺せばその無意味な組織を消し去れるのではありませんか?」

「次をどうする? あんたみたいな超一流が、まだ世界に残ってるのか? 先の大戦でデュランダルとあんたらが支配者階級悉くを消しさっちまった。断っておくがオレ達は世界を地獄に変えたい訳じゃない」

 彼方で轟音が響き、間近で激震が走った。議長に覆い被さりながら爆風をやり過ごし慌てて振り仰げば、着地し、ホバー走行で滑り出すドムトルーパー≠ェ目に入った。安堵が吐息となって漏れる。クロは更に彼女を急かすとようやく建物の密集する地帯から抜け出すことができた。

「――ひっ!」

 短い悲鳴と共に殺すべき保護対象が抱きついてきた。驚愕どころか仰天して彼女を抱き留めたクロは目の前の光景に頷いた。

 モビルスーツの破壊力により街に阿鼻叫喚ができていたのだろう。今はそれも終わり、間近には胸から上を炭化させられ失った屍がある。

 緑ザフトの軍服を引き毟らんばかりに握り込んでくるラクスは、疑いようもなく恐怖していた。

(……なんでだ?)

 ラクスとて数多くの戦場をくぐり抜けてきた女傑のはず。そんなはずはないと思いつつも息を弾ませるクロは問いかけずにはいられない。

「……死体を見たことは無かったか?」

 ラクス・クラインはあろう事か押し潰した目元に涙をため、激しく激しくかぶりを振った。オレは、貴方の守護者では有り得ない……。クロは嘆息し額を抑える。脳裏の収まる知識だけで解を導く自信などなかったが浮かんでくるものはあった。彼女の父であり当時の最高評議会議長シーゲル・クラインは軍部と反目していた。軍部のトップであり評議長の座を簒奪したパトリック・ザラはクライン派≠抹殺対象と定め、シーゲルは彼女と逃亡中に別の場所で殺されたと聞く。そして彼女が出向いた戦場も全て戦艦のモニタやモビルスーツ越しの映像だとしたら、成る程彼女は死体を見たことがないのかもしれない。

「……そうなのか?」

 いやそんなはずはない。現に今SP達が死んでいたし、今の今まで護衛者が彼女の与り知らぬところでだけ暗殺者の排除をしてきたとも考えにくい。クロは強引に怯える女を引き剥がすと噛んで含めるように教え込む。

「死んだら、こういうモノが残るんだ。殺されても、か。人を戦わせている以上、あんたもそれくらいは知っててもらいたいな……」

 死体の凄惨度合いが問題なのか? 当人に尋ねられない疑問は尽きることはないがすぐに懸案事項は取って代わる。クロは手を離すなり崩れ落ちたラクスのことを忘却し、自分の心配に没入せざるを得なかった。

 マーズ達は自分に、彼女に会いに来るだろう。ラクス・クラインの口から事実が語られれば彼らと反目することになる。彼女の肩を押さえながら、彼女のことなど考えてはいられない。

(……大人しく捕まって…ターミナル≠フ手引きで脱獄して協力者と会う。ちっ…借りを作るしかねぇか……)

 まさか今ティニと相談するわけにもいくまい。彼女との約束を一日以上違えるであろう未来に憂鬱を覚えながら背後の戦闘音が止むのを待つ。まだ他の襲撃者の可能性を捨てきれず気を抜くことも出来なければ未来の暗さが予見できて時を急かすことも出来ない。有り体に言えば死後界の川辺に立たされる心地であった。

 やがて戦闘音が沈静化し、残った音達も遠ざかっていく。騒音が他人事になる頃、ドムトルーパー%機が建物を避け破壊された地域に巨大な足裏を押しつけた。

〈ご無事ですかラクス様?〉

 一機はそのままにもう一機のコクピットハッチが開き、黒のパイロットスーツが降りてくる。ヘルメットを外すとヘルベルトであることが確認できた。よりによって固そうな方が近づいてくる。言いくるめるのは無理だろう……。

「やったなクロフォード。良くラクス様を守ってくれた」

「いえ……」

 地獄が目の前で口を開けた。抗うことは……無意味だ。釈迦の手から垂らされる蜘蛛の糸を期待するしかない。クロは自分自身であるクロフォードを演じながら、その仮面が剥がれ墜ちる乾いた音を聞いていた。

説明
「みんなが平和を願っているのに何で戦争がなくならないんだろう…?」そうとは限らない。戦争を願う存在も、平和を戦の準備期間と断定する輩も世界には確かに存在する。何物にも代えて守らねばならない世界、だが自分を認めない世界など滅んでも構わないと言う心も確かに存在する。いくつかの恣意が錯綜するC.E.で出番のない主人公がなんか致命的な失敗を犯す
75〜77話掲載
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コメント
うぐぅ申し訳ありませぬ。―と言いつつ面白がってどこかに突っ込む可能性もありますが。クロはしばらくザクしか乗れないのでシンかケインかライラに期待、となりますが(黒帽子)
そうなのか…。外伝では、設定でしか存在していないから、ぜひともこの3つのシルエットを使いこなすシンの活躍を見たかった…。(シン)
うぐ…多分ノウハウは今のライラ群なら得られるでしょうが…インパルスのシステムを完全に扱うには専用艦が必要なわけで、局地専用機もおぢいちゃんにすり寄ればもらえる彼女らにはメリットが…。今のシンがインパルスを使ったのは戦力が整う前にシンの存在を隠蔽するための意味合いが強いです(黒帽子)
シンは今、ライラのところでインパルスに乗っているのなら、フォースだけでなく、カオス、アビス、ガイアの3つのシルエットを装備したインパルスにも乗って欲しい。(シン)
ウィンダム=花火(涙…。連合最強試作機データの研鑽すら終えた連合最高完成品って機体のはずが…とオレも言えない。確かにルナ部下=洗脳アフリカ人、マユ部下=アウルとか、です。我が脳裏でも戦闘経験を擦り込まれた人<エクステです。むぅ和製英語勝利そんなに死んでますか誤算だな。アウルらは幾らでも増やせる、ルナ部下は限りがあると考えてるからだろか?(黒帽子)
おおサーバ復活。その間お二方いらっしゃいです。まず外伝は?、ですが、私がデストレイよりあとの外伝をHPくらいしか見てないのでヤダじゃなくて不能…。一話でアスランが倭国に行ってますが、あそこの東アジアGは設定だけと思い、世界を見えてない井の中の蛙的扱いをしたかったくらいです。来迎ってナニ?(黒帽子)
サイの台詞聞いてるとやっぱり、某女史はターミナルを便利使いしすぎてるとしか思えませんね。ところで、ゲイツRの中身って角付きのナチュラルですよね?強化人間の乗ってるウィンダムが一方的にやられるばかりってのはどうなんでしょう?種デスだとウィンダム=花火だったのは確かなんですけどw(さむ)
外伝作品の機体やキャラは出てこないの?(シン)
L1第8組(トールの父さんリーダー)とゴビ砂漠組(ティニと敗残兵ズ)は別物です。ノストラ博士がTVに出るまで互いの存在すら知らなかったはず。(まぁティニとN/Aはサーバを介して交流あったかも)。PMC名は以降組織名でもねーと表現しづらいので名乗りますが、ケーニヒおじさんの言うとおりあくまで仲介頼んだだけです。複雑になりすぎてますな…。(黒帽子)
クロは結局的に捕まってしまったみたいですね・・・。次回がどうなってしまうのかとても気になります。・・・それと一つ確認したいんですが、サイ達のグループとティニ達のグループは同一と考えてもいいんですよね?(東方武神)
エヴァと幽白のとある名台詞を臆面もなく放り込めるびば二次創作。突っ込まれる前に言っときます。(黒帽子)
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