東倣麗夜奏 4話
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東倣麗夜奏 〜 Phantasmagoria of Nostalgic Flower.

楽園の外に棲む妖怪達による些細な話。

 

 

 

4話

 

 

 

 桜子 「ああ、もうすっかり涼しくなったわ。」

 奏 「すずしくなったな。」

 

 

すっかり夏の暑さも無くなり、もうすぐモミジやイチョウが色づいてくる頃である。

このところ、桜子と奏が一緒に居る事は少なくなっていたが、桜子に家事の当番が

回って来たので外出を控えているようだ。

 

そんな中、奏からある話を持ちかけられた。

 

 

 奏 「新幹線を知っているかい。」

 桜子 「新幹線? あー、あの速い鉄道よね。

     それがどうかしたのかしら。」

 

 奏 「いつだったか知らないけど、最近新幹線に代わる

    大きな地下鉄道ができたんだと。 旧都と新都を結ぶね。」

 桜子 「あんなのに乗るのは時間に余裕の無い人間くらいよね。」

 

 奏 「で、主がいない間にその辺の妖怪から聞いた話によると・・」

 

 

昔あった遷都の後、新都は急速に発展し今では巨大な近代都市となっている。

しかし、旧都はというと良い話をまるで聞かず、現在でも過去の姿を残したまま

時が止まってしまったようになっていた。

 

そして地下鉄道の完成後、人の流出が加速し人口が大幅に減少、

今旧都では大昔の新都のような霊的な雰囲気がたちこめているそうだ。

 

 

 奏 「つまり、旧都に行けば主の探してそうなものがあるのではないかと。」

 桜子 「何か妖怪とかしか出なさそうだけどね。

     ・・・でもちょっと興味あるかな。 行ってみようかしら。」

 

 奏 「夕飯の準備くらいはしておくれよ。」

 

 

夕飯の準備を終え、その適当さ故、奏に白い目で見られながら

桜子は旧都へ向かったのだった。

 

−−−−−−−−−−

 

秋の旧都。

かつてこの国の首都だった都市。

最後にこの街を見たのは何時だったか。

自分が覚えている街の風景と照らし合わせても、遠くから見える風景は

昔と変わっていないように見える。

 

だが街に近づくにつれ、だんだんと違いがわかるようになってきた。

自動車で埋め尽くされていた道路も、人間の川が出来ていた交差点も、

今ではひび割れたアスファルトの地面が見えるだけであった。

 

そして一部ひときわ目を引くものを見つけた。

 

 

 桜子 「あれは・・」

 

 

ここはかつて環状線が走っていたと記憶している。

駅と思われる建物も人の気配は無く、環状線周辺の建物も他に比べて少ないように思える。

列車と人間と建物に代わって環状線を埋め尽くしていたのは、

真っ赤な花と茎だけの奇妙な植物だった。

 

 

 桜子 「これだけの彼岸花が・・ 

     何かあったのかしら?」

 

 ? 「ここは彼岸花の名所。 丁度今が見ごろだよ。」

 桜子 「うん、やっぱり出た。」

 

 ? 「あー、何よ何が出たのよ。」

 

 

話しかけてきたのは、全身に花の装飾をした派手な格好の妖怪だった。

いかにも花の近くに出そうな妖怪だなあと思いつつ、桜子は余り気にせずに

赤い花の海を眺めていた。

 

 

 ? 「我こそは花を歌う者。

    こんな所まで来て花を見てるなんて、あなたも花が好きなのね。」

 

 桜子 「たまには華でも詠ってみたら?」

 ? 「文字書きは苦手なのよー。」

 

 桜子 「私は通りかかっただけなんだけどね。

     秋の花は私の趣味じゃないけど・・たまには良いものね。

     で、あんたは何なのよ、花みたいな格好しちゃってさ。」

 

 ? 「言ったでしょ。 私は花を歌うの。

    花の記憶を集めて歌にするのよ。」

 桜子 「花の記憶ねぇ。

     この彼岸花には、この街の記憶もあるのかしら。」

 ? 「そりゃあね。 これはちょっと昔のお話。」

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遷都の後もこの街は発展を続けていた。

首都としての機能は徐々に失われていたものの、あらゆる事業の中心地であった為、

人間の出入りは以前とさほど変化は無かった。

 

しかし、突然の大事故がこの街を襲ったという。

国が総力をあげてなんとか復興したものの、それ以上の発展は望めなくなってしまった。

 

 

 ? 「そうねえ。 ちょうど60年ちょっと前だったかしら。

    私は花の無い場所には興味が無くてね。

    ここで何があったかなんて知らないけど、

    なんだかんだで花のある街になったってワケよ。」

 桜子 「ふーん。」

 

 ? 「でも驚いたことに、この花が現れたのはつい最近の事なのよ。」

 桜子 「最近出たんじゃあ記憶も何も無いんじゃないの。」

 

 

ここ数年で突如現れた環状線を覆いつくす赤い花は、観光名所として

この街に人間を集めると思われた。

しかし、辺りを見渡す限り人間の姿は見当たらなかったのだ。

 

 

 桜子 「人間の考えなんてさっぱりだけど、まあこれだけいれば

     近づいてこないのも無理は無いわね。」

 

 

桜子が振り向くと辺りの赤い花が一斉に舞い散った。

それは全て花に憑いていた小さな幽霊達であった。

 

 

 ? 「花とは生の象徴。 

    そんな力を持ったあなたが、花を好むなんてね。」

 

 桜子 「花のある妖怪でありたいものね。」

 ? 「花の妖怪でも何でも無いくせに。」

 

 桜子 「ふん。

     でもまあ、こんなにいるなんてちょっと驚きだわ。

     ・・・それも地縛霊が。

 

     花が現れたのと関係があるのかしら。」

 

 

それなりに長く生きている桜子でも、これだけの量の地縛霊は見たことが無かった。

きっと、目の前の妖怪が言っていた大事故で死んだ動物や虫達の霊なのだろう。

そして、人間の霊だけがほとんど見当たらない理由も大体わかっていた。

 

 

 桜子 「今の人間はちょっとやそっとじゃ死なないからねぇ。」

 

 ? 「さーて、ちょっと面白いのも見れた事だし

    私は帰って歌を創ろうかねぇ。

 桜子 「歌なんて歌っても、聞かせる相手はいるの?」

 

−−−−−−−−−−

 

花みたいな妖怪が去ってしばらくすると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 桜子 「またあんたなのね。」

 

 件 「やっほー、早速だけどちょいと質問!」

 桜子 「あ?」

 

 件 「さっきまでここにいたのってもしかして・・」

 桜子 「何よ見てたの? 気持ち悪い。」

 件 「別にいいでしょ!

    それよりあの方どこに行ったか知らない?」

 桜子 「知らないわよ。」

 

 件 「ぐぐぐぐ、あの方こそ私の尊敬する歌姫!

    是非御教授頂きたかったのにー!」

 桜子 「知らないわよ。」

 

 件 「ばかー!」

 

 

突然現れた件は、そう言い残して物凄い勢いで去っていった。

 

そうこうしているうちに、すっかり日も暮れて夜になっていた。

記憶の中にあるこの街と、現在のこの街。

夜になる事でその違いがより鮮明なものとなった。

 

 

 桜子 「この街は今やっと眠ったのね。」

 

 

かつて眠らない街と言われた旧都。

しかし、桜子が見ている街にその名残は見られなかった。

 

 

 

 

 

踊り笑う心の樹

○桂木 樹々(Katsuragi Juju)

 

結界の外に棲む妖怪。

音を操る程度の能力を持つ。

 

件の憧れの妖怪歌姫、人面樹である。

妖怪の間では有名な歌姫で、その能力は一人での合唱を可能にする。

 

花の妖怪のように、季節ごとに花から花へと移動するが

彼女の言う「花」は植物の花とは限らない。

自分が「花」であると思ったものを「花」と見なし歌を歌うのである。

説明
・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。
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