変態司馬懿仲達物語 07 |
新野城の軍議などが行なわれる玉座の間に城仕えする武官、文官たち全てが集められ、一同は玉座に通じる中央の道を挟み込むようにして座り、軍議が始まるのを静かに待っていた。
武官の先頭にはケ艾や姜維、一刀が座り、玉座に座る司馬懿とその横に堂々と立っている徐庶を横目で見守っていた。
徐庶を臣下に迎えた司馬懿は武官、文官たちを集めて徐庶の事を紹介し、方針決めの軍議を行なおうとしていた。
「彼女は徐庶元直。あの水鏡先生の私塾で勉学を学び、先生からの推薦を受けた子です」
最初に徐庶を紹介した時の反応はそれぞれだった。
期待の眼差しを向ける者、心配そうに見つめる者、元々興味がない者、冷めた目で見ている者。その一つ一つを司馬懿は確認しながら言葉を続けた。
「彼女には軍師を務めてもらいます。水鏡先生の話では口も達者という事で外交官も任せようと思
っています」
「皆さん、ただいま紹介に預かりました軍師の徐庶元直です。ここからはわたしが進行していきたいと思います」
司馬懿の話が一段落した事を見計らっていた徐庶はスッと一歩前に出て自分に視線を集めるように動いた。
「わたしのような新米風情が軍師などという重要な役職に就く事に不満のある方がいると思いますが、その方は遠慮なく申し出てください。わたしのような小娘の策など当てにならないと思う方、どうぞ申し出てください」
一同はいったい彼女は何を言っているんだ? と疑問を声に出さずに思った。
こんなところで不平不満を漏らしたところで何になるというのか。
司馬懿本人が軍師とすると言ったのだから従わない訳にはいかないのが常識である。
「誰もいませんか? そうですね、恐れられているのでしょう。勝里さま、ここで約束をしては貰えませんか? この場でのわたしに対する不平不満を言っても罪にはならない、と」
「誓いましょう。思う者がいれば名乗り出てください。決して罪にはなりません」
「ならば文官筆頭、零文(れいぶん)が申し上げます」
列より一歩前に出たのは白い髭を生やした高齢の男だった。
「噂は窺っております。何でも死にたがりだとか」
「老人の役割を果たしているに過ぎませぬ」
文官筆頭の零文は司馬懿が太守を勤めるようになった頃から新米や文官たちを束ねてきた男で、老人はいつ首が斬られても問題ない、と危うい発言をする時は必ず名乗り出てくる人物である。
家族、一族は流行り病で全て死に、一族郎党の心配がないのも危うさの一つである。
その威風堂々とした態度から慕う人が多く、かなりの発言力を持っている。
「失礼ながら徐庶元直殿、あなたのような可憐な少女が軍師を務めるには力不足なのではないかと、わたくしめは思うのです」
文官の列から失笑が聞こえてきた。
可憐な少女、というのはこの場に全く似つかわしくない言葉で、零文は遠まわしな嫌味を言い、それを文官たちは笑ったのだった。
武官から抗議の声が上がるが、徐庶は同じように失笑して零文を見下ろした。
「見た目で判断ですか? 愚かですね。しかし、的を射ています。確かにわたしのような可憐な少女がこの場にいるのは相応しくない。あなたを見ていればよくわかります」
「ならば退任なさり仲達さまの妻にでもなられてはいかがですかな? 幸いにも仲達さまには好い人がおらず独り身。あなたのような可愛らしい方が嫁に行けば大層喜ぶでしょう」
今度は武官、文官からおぉ! と感心の声が上がった。
そろそろ好い人を見つけて欲しい、と思っているのは両方とも同じであった。
「彗里、わたしの妻になりますか?」
「(黙っていてください。気が散ります)」
他には聞こえないように小声で抗議した後、ごほん、と咳払いをして妙な雰囲気になり始めた場を元に戻した。
「妻になるならないの話はさておき、相応しくないと思うのは実力を示していないからでしょう。違いますか?」
「その通りです。実力なき者に従うほど愚かではありません。まずは実力を示していただきたい」
「当然の判断です。ならばこうしましょう。軍師としての力量を測るには今すぐという訳にはいかないので保留とし、実力は勝里さまと不和関係にある豪族たちを説き伏せることで示します」
零文はふむ、と髭を撫でるようにして考えを巡らせた。
自身も何度か豪族たちと会合を重ねてきたが、一筋縄ではいかない相手ばかりである。
一番の理由である司馬懿の言動と行動が問題視されており、それを治さない限り友好的にはならないはずである。
「いいでしょう。ならば豪族たちの説得に成功したならばこの零文、あなたを認めます」
「結構です。この場にいる者たち全てが証人です。わたしは見事豪族たちを説き伏せてみせます」
「出来なかった場合、軍師を退任し、仲達さまの妻になる。確かにお聞きしました」
「……待ちなさい。一言もそのような事を言ってはいません」
「いいえ、そういうお話でした。仲達さま、よろしいですか?」
「はい。頑張ってください、彗里」
にこやかな司馬懿と唖然とする徐庶を零文が楽しそうに眺めていた。
「素晴らしい活躍でしたね、彗里。驚きです」
「それはもう……人生を賭けた戦いでしたから」
司馬懿行き付けの甘味屋でお茶を楽しむ司馬懿と徐庶は注文した団子を頬張りながら机に広げられた名前の書かれた竹簡を眺めていた。
竹簡に書かれている名前は説得する豪族たちの者で、その全てに名前の下に○印が記されていた。
徐庶が司馬懿に嫁入りするかどうかが決まった日から三日後、見事豪族たちを説得し、全てに援助を求める事に成功した。
「まさか、わたしが一人一人に頭を下げていくなんて思いもしませんでした。しかし、誠意ある謝
罪のおかげで実を結ぶ事ができるなら安いものですね」
「そもそもの原因はあなたにあるのですよ。寄付を募る為にご子息を利用するなんて……」
「反省しています。わたしの失態を拭ってくださり、ありがとうございました」
「これが臣下の勤めです。そう思うなら二度とこのようなことはしないで、もしするのなら相談してください」
「善処します」
やれやれ、とようやく肩の荷が下りた徐庶は茶を飲んだ。
「それにしても悲しいですね。彗里はそんなにわたしの妻になるのが嫌なのですか?」
「………妻になるという事は一生を捧げるという事です。軽々しく出来るものではありません。わたしはまだ結婚とか子孫とか、そういうのに興味がないんです」
「なるほど。わたしも結婚などに興味がありませんね。まどろっこしいと言いますか、不便と言いますか。まずわたしに嫁いでくれる女性などいるとは思えません」
「それは……わたしもそう思います。気苦労が絶えなさそうです」
「彗里はこんなどうしようもない男よりもっといい男を見つけて結婚して幸せになってくださいね? これは臣下の者たちに言っているのですが、自分の幸せを第一に考えてください」
「………本音は?」
「恋人同士というのは見ていて面白いです。身近にいれば面白いに違いない」
「また面白がって……される側はいい迷惑です」
「そうですね。時に恋人同士で思ったのですが……」
おもむろに串に刺してある団子を箸で外してその一つを摘むと、徐庶の顔へと近づけた。
「こういう姿を見る事があるのですが、本人たちは楽しいのでしょうか?」
「……恋人できたことないのでわかりません」
「なら思い切ってやってみましょう。彗里、はい、あーん」
「―――――――――――ッッッ!?!?」
「どうしました? ほら、口を開けてください」
「うわ、うわわ、うわわわわ……」
「困惑すると“うわわ”と言いますね。可愛いですよ」
徐庶がうわわ、と言っている隙に大きく開かれている口に団子を放り込んだ。
「はぷ……」
「いかがですか? あ、食べながら喋るのは駄目ですよ?」
「もぐもぐ……ごくん。と、とっても美味しかったです」
「そうですか。では、もう一度……」
「い、いえ嘘をつきました! 本当は恥ずかしくて何も考えられなくて味が全くわかりませんでした!」
「それはいけません。今度はちゃんと味わってください」
「うわわ……!」
串から外した団子を箸で摘んで、もう一度食べさせようと口へと近づけていく。
顔を真っ赤にしながら拒絶する事もできず、かといって言われるがままという訳にも行かず、うわわ、と情けない声を上げて団子と司馬懿を交互に見た。
「おいおい、見せ付けてくれるじゃねぇか。兄ちゃんたちよぉ」
司馬懿は横目で声のした方を見た。
黄色い布を頭に巻いた柄の悪い男が少し顔を赤くして立っていた。
「酒臭い……」
徐庶は鼻を押さえて男を睨みつけた。
「なんだよぉ、酒臭くて何が悪いんだよ。ひっく」
司馬懿はちらりと男の腰に差してある剣を見て、周囲の観察を行った。
周囲の他の客は司馬懿たちを心配そうに見守っており、誰も近づいてこようとはしない。
他に被害がいかないのなら、と司馬懿は立ち上がって男と対峙した。
「なんだぁ? 女がいるからっていいとこ見せようって事かぁ? あぁん?」
「迷惑ですよ、少し黙ってください」
男は腰の剣に手を伸ばそうとした瞬間、視界が一転して逆さまになり、頭から床に叩きつけられた。
何が起こったのかわからず立ち上がろうとすると、間近に迫った司馬懿の手が視界を遮った。
「少しでも動くと頭を地面に叩きつけますよ? 動かないでくださいね」
声は穏やかなのだが、視界を遮る手から伝わってくる冷たい殺気に男は何も言えなくなり、動かなくなった。
しばらくして、駆けつけた兵士に取り押さえられ、男は連行されていった。
「強いですね」
「これくらいできないと生きていけませんから。それにしても、黄色い布ですか」
「黄色い布がどうかしましたか?」
椅子に座りなおして茶を飲み、座っている徐庶に目を向けた。
「一刀くんは天の御遣いということは話しましたね? 彼が言うには黄色い布を巻いた者たちは危険だそうです。実際、中央ではちらほら黄色い布を巻いた者たちが暴れているとか」
「……乱の兆し、でしょうか」
「そうですね。兆しは見えています。それに向けて二人の人材が手に入れました」
「二人とは……わたしと北郷さんですか?」
「いいえ、一刀くんは切り札と言うべき存在です。あなたともう一人、袁紹軍から引き抜いた者がもうじき加わる事になっています」
「わたしの他にも……複雑な気分です」
「彗里が仕官してくれるのは本当に嬉しい誤算です。水鏡先生と交流はあっても仲がいい訳ではありませんから。推薦してくれるなんて微塵も思いませんでした」
「……先生に考え直せ、と何度も言われました」
「ですから彗里が落ち込む必要はありません。彗里だけでは心配だから人材を増やしたというわけではありませんから」
「……少し嬉しかったりします」
「期待していますよ。さて、零文に報告に行きましょう。既に報告は届いていると思いますけど」
「そうですね。勘定はわたしが……」
「奢らせるなんてさせません。お姉さん、ご馳走様でした。追加分はここに置いていきます」
「はい、ありがとうございました」
すばやく懐からお金の入った袋を取り出して机に置いた司馬懿は徐庶を残してさっさと店を後にした。
「待ってください、主に奢らせるわけにはいきません」
「いいのです。お気になさらず」
払います、と言い寄る徐庶をぬらりくらり、とかわしながら司馬懿は城へ戻っていった。
傀儡人形です。
今回は徐庶の活躍の場と豪族たちとのわだかまりをなくす話としました。
引き抜いたキャラを出そうと思っていたのですが、
次の回に持ち越しさせていただきました。
新キャラを期待していた人、いないかもしれませんが、ごめんなさい。
次回は引き抜いたキャラを出すので楽しみにしていてください。
では。
説明 | ||
どうも傀儡人形です。 かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください |
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2105 | 1942 | 15 |
コメント | ||
人生を掛けて頑張っているんだな^^; 袁家からは誰がくるのだろう?(深緑) これ零文が司馬懿に結婚させようとしただけだろw(PON) これ一刀が活躍しないな〜(zendoukou) 失敗したら即嫁入りって、なんという背水の陣w(hokuhin) |
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