真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 幕間・其の一 『世間は辛口、酒は甘口』
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 「カズ〜。例の”ブツ”、民への配布終わったで〜」

 

 「ああ、由。ごくろうさま。輝里は?」

 

 「さっきすれ違うた時、後は西区画だけや言うてたから、もうそろそろ終わるやろ。……けどカズ?ほんまに税無しでやっていけるん?」

 

 ?城、その太守執務室。そこに、ある報告を一刀に済ませにきた姜維が、昨日の会議で決まった件案――民からの徴税を一年間停止する――に対する、素直な不安を口にした。

 

 「……昨日も言ったけど、今まで必要以上に搾取されていたからね。せめてそれくらいはしないと、みんな働く意欲も湧いてこないと思う。一応、その間の予算は確保してあるし、大丈夫だと思うよ」

 

 「……ならええけどな。けど、ほんまにびっくりしたで。あの腐れども、まさかあないに貯めこんでたとはな。ま、没収した連中の私有財産は、今、民に返してきたし。……これで、ちっとは胸のつかえが降りた気ぃするわ」

 

 「……そか」「せや♪」

 

 笑顔を交わす二人。

 

 前太守である韓馥と、その側近達が、違法に溜め込んでいたその私有財産は、その総額、およそ二十年分の郡の予算に匹敵した。これには、実際に調べに行った一刀たちも、その度肝を抜かれると同時に、怒りを通り越して思わずあきれ果てる始末であった。

 

 「……まずは、これを郡内の人たちに返そう」

 

 という一刀の一言で、それらをすべて、民たちに還元することになった。……もちろん、当座の予算分だけは確保せねばならなかったが、それでも、相当な量の銭や食糧が、州内の各邑に運び込まれた。

 

 人々のほとんどは、これに涙を流して喜んだ。……ただ、それでも一部には、元々自分たちのものなんだから、感謝するいわれは無いと、配布に行った姜維に対して、面と向かって言い放つ者も少なからずいたが。

 

 「一刀さん、入りますよ?」

 

 「輝里か。お勤めご苦労さん」

 

 「フフ、ありがとうございます。で、ご指示のあった例の高札ですが、すべての区画に配置し終わりました。……集まりますでしょうか?」

 

 「職を失ってあぶれている、若い男の人たちが多いだろうから、募集に応じてくれる人は結構居ると思う。……全部に応えられるといいんだけど」

 

 「田畑の再開発、それも、そこで働いたモンには、平等に分割して、その土地をあげます、言うんや。……来ない方がおかしい思うで」

 

 それもまた、昨日の会議で決まった件案の一つ。

 

 これまでの高税率で、すっかり働く気の無くなった人々にやる気を起こさせ、さらに、その為に荒れ放題になっていた田畑を、その彼らの手で再開発させることにした。

 

 その報酬として、田畑を均等に分配して彼らの財産として認め、さらには、向こう三年間、税を大幅に減免するとの触れを、一刀たちは出したのである。

 

 「これによって、ほかの土地に逃げていた人々も戻って来やすくなるでしょうし、民が定住してくれれば、収入も安定して得られるようになる。いいことづくめです。……ただ問題は」

 

 「治安、か」

 

 「はい」

 

 

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 治安の悪化。

 

 それが今、一刀たちの頭を悩ませている事柄の、最大のものであった。街中の”それ”については、街の有志たちによって構成された巡回組の、その細かな見回りによって、少しづつ落ち着いてきている。

 

 だが、街の外となると、話はまた変わってくる。

 

 ?郡は、冀州のおよそ半分の広さを、その管轄に含んでいる。そしてその広さに加え、森林帯が多いのも、”賊”が潜伏するのに適していることが、冀州でもっとも治安に苦労すると言われる、その所以である。

 

 一刀たちも、時には一刀自らその先頭に立って賊討伐を行い、降る者は許してその戦力に組み込みつつ、治安維持に奔走しては来た。……もっとも、その初陣の際に、”初めて”人殺しを経験した一刀が、暫く悪夢にうなされ、徐庶達がそのフォローに奔走する、といった事もあったのだが、そのあたりについては、また後に語りたいと思う。

 

 それはともかく、いまだ、冀州の治安は完全に落ち着いた、というわけでは無かった。

 

 「ウチと蒔ねえで、毎日動いては居るけれど、当分、賊どもの完全な制圧は難しい思う」

 

 「せめてあと一人、将として動ける人が居ると、大助かりなんですけど」

 

 「無いものねだりしても仕方が無いさ。……で、その蒔さんは?」

 

 「ついさっき戻ってきたと思うで。多分、今頃は練武場で新兵の訓練中ちゃうかな?」

 

 「……じゃ、ちょっと様子を見に行ってみようか。激励も兼ねて」

 

 

 で、その練武場で一刀たちが見たものはというと。

 

 「……あれは、何をしているんでしょうか?」

 

 「……酒盛り、ですね」

 

 「……酒盛り、やな」

 

 五百人ほどの、蒼い鎧に身を包んだ兵士達が、そこらに大量の酒瓶を転がしつつ、徐晃を中心にしての、大宴会の真っ最中であった。

 

 

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 「ちょっとねえさん!なにやってんですか?!」

 

 「おー。一刀に輝里に由じゃんか。どーだ?お前達も一杯?」

 

 「どーだ、一杯。や、あらへんがな!何しとんねん!こんな真昼間から!!」

 

 ほろ酔い、を通り越して、すでに出来上がっている徐晃に、徐庶と姜維がすさまじい形相で詰め寄る。だが、徐晃はそんな二人をまったく気にせず、

 

 「な〜に。今日討伐した賊達のねぐらに大量の酒があってな。捨てるのももったいないから、全部回収してきたのさ。で、街の連中に配った残りをこいつらに振舞って、親睦を深めていたってわけだ。……くは〜〜〜〜っ!旨い!!」

 

 一気にそれだけしゃべった後、杯の酒をぐーーっと飲み干す徐晃。それを見た一刀は、

 

 「……じゃ、おれもお相伴に預かろうかな」

 

 「ちょっと一刀さん!?」「カズ!あんた何を……!!」

 

 どっか、と。徐晃の隣に腰を下ろし、その手に杯を持って差し出した。

 

 「お?なかなか話が分かるじゃないか。よし!ぐっといけ!ぐっと!」

 

 とくとく、と。その乳白色の酒を、嬉々としながら徐晃が一刀の杯に注いでいく。

 

 「……向こうに居たときは、まだ未成年って事で、”あまり”飲んだことは無いんだけどね。……じゃ、いただきます」

 

 ぐーーっと。

 

 杯の酒を一気にあおる。その独特な香りが一刀の鼻腔をくすぐり、のどをほんのりとした甘さが、通っていく。

 

 「はあ〜〜〜。……美味いね、これ」

 

 「そうだろ?ほら、輝里も由もんなとこに突っ立ってないで、こっち来て飲めよ。……嫌いじゃなかろうが」

 

 『ごくっ』

 

 そういえば、暫くお酒とは無縁だったな、と。そんな考えが二人の脳裏によぎる。そして、とどめの一刀の一言。

 

 「ちょっと位ならいいさ。蒔さんの言うとおり、みんなで親睦を深めよう?……ね?」

 

 陥落した。

 

 『じ、じゃあ、ちょっとだけ……』

 

 ちょっとだけ。それですんだことなど、古今東西あるはずも無く、その後どうなったかというと。

 

 

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 「八番!姜伯約!……脱ぎます」

 

 「いっぞーーーっ!!脱げ脱げーーーーっ!!」

 

 酒に酔い、完全な泥酔状態になった姜維が、その場で一枚づつ、ゆっくりとその服を脱ぎ始め、同じく泥酔状態の徐庶が、それをさらにあおるという。……まあ、よくある(?)飲み会の光景がそこにあったりした。

 

 「……しかし、少しだけ意外だったな」

 

 「?……何がですか?」

 

 自身も相当量の酒を飲んでいるはずなのに、全くそんな素振りを見せない徐晃が、一刀に対してポツリとつぶやいた。

 

 「いやな。お前もてっきり、輝里たちと一緒になって怒るかと思ったんだが、まさかそっちから杯を出してくるとは」

 

 トトト、と。そんな疑問を口にしながら、一刀の杯に何杯目かの酒を注いでいく。

 

 「……なんだかんだ言って、あの二人も相当ストレスがたまっていたでしょうしね。……たまには、思い切り発散したほうがいいんですよ」

 

 「すとれす?」

 

 「ああ。鬱憤とか、そういう意味ですよ。……ま、二人があんなに酒癖が悪いとは、思いませんでしたけど」

 

 ほとんど下着姿になっている姜維と、その横でケラケラと大笑いをしている徐庶を、チラリと横目で一刀が見やる。

 

 「……ありがとう、一刀」

 

 「どうしたんです?急に」

 

 突然、自分に対して礼をいった徐晃に、一刀が首をかしげて問いかける。

 

 「私たちの都合だけで、”天の御遣い役”を、お前に押し付けてしまった。その上、郡太守なんてものまでやらせることにもなった。……帰りたいとは、思わないのか?」

 

 「…………」

 

 

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 帰る。

 

 それはもちろん、元の世界に、という意味であろう。だが、一刀はその杯の酒をあおると、笑顔でこう応えた。

 

 「……郷愁が、全く無いとは言いません。けど、今は”ここ”が、俺の帰るべき場所ですから。だから、気にしないでください」

 

 「……すまん」

 

 そ、と。

 

 一刀の肩にもたれかかる徐晃。

 

 「ま、蒔さん?」

 

 「……少しだけ、酔ったようだ。暫く、肩を貸してくれ」

 

 目を閉じ、そうつぶやく。だがそこに、

 

 「あ〜っ!!ねえさんてばズルイ!!私も一刀さんに甘えたいです〜〜〜!!」

 

 「いっ!?ちょ、輝里までなにを」

 

 がっし、と。徐晃とは反対側の、一刀のその腕にしがみつき、まるで猫のようにゴロゴロとのどを鳴らし始める徐庶。さらに、その光景を見た姜維が、

 

 「……二人して抜け駆けですか?私は置いてけぼりですか?!一刀さんも鼻の下を伸ばして、随分と嬉しそうですね?!ハッ!……胸ですね?一刀さんは胸好きなんですね?!そーなんですね?!ねえさんみたいなぼいんぼいんや、輝里みたいな丁度な大きさがいいんですね?!私みたいなヘンぺー胸じゃ駄目なんですね?!う、う、う、うわああーーーん!!」

 

 何故か標準語(?)で早口でまくし立てた後、ボロボロと涙を流して大泣きを始めた。

 

 「やはは〜〜!由ちゃんが壊れた〜〜!!」

 

 「それは君もでしょ。てか由!俺は別に胸で人を差別したりしないぞ!!大きかろうが小さかろうが、俺は別に」

 

 「どうせ、どうせ、どーーせ、あたしなんて〜〜〜!!」

 

 徐庶にしがみつかれたまま、一刀は泣きじゃくる姜維を、何とか宥めようとする。

 

 それを見ていた徐晃が、杯を傾けながら、ポツリと一言つぶやいた。

 

 「……こうやってはしゃげるのも、今のうちだけなんだろうな……」

 

 

 「ふええええーーーーんん!!」

 

 「きゃはははははは!!」

 

 「勘弁してくれーーーーー!!」

 

   

                             〜幕間その一、了〜

 

 

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 お酒は二十歳になってから。

 

 

 というわけで、拠点第一弾です。いかがでしたでしょうか?

 

 「あ〜、あたまいたい・・・」

 

 「うちら昨日、何してたっけ?宴会始めたとこまでは、おぼえてんやけど」

 

 ・・・・・覚えてなくてよかったかもよ?

 

 「う。・・・今後はもちょっと、ひかえます」   

 

 「それがけんめいやね」

 

 

 では、二日酔いの二人は放って置いて、次回予告。

 

 

 次回、いよいよ、黄巾の乱が勃発します。  

 

 「大陸に広がる黄色い嵐。その渦中にて、一刀さんは、わたしたちは」

 

 「どんな選択をし、どんな道へと進むのか」

 

 次回、真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第一章、序幕。

 

 「『蒼天墜日』」

 

 「ご期待ください!」

 

 各種コメント、その他突っ込み、お待ちしております。それでは、

 

 『再見〜!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 「うー、気持ち悪い・・・・」

 

 「酔い止め、酔い止めっと。いや、ここは迎え酒かな?」

 

 

 ・・・懲りんやっちゃな。

 

 

 みなさん、くれぐれも、お酒は二十歳になってから!ですからね〜。

 

 

 

説明
北朝伝、拠点イベントをお送りします。

日々政務に勤しむ一刀たち。

そんな中、賊討伐から戻った徐晃が・・・。

それではどうぞ。
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コメント
久々に読み返して思ったが重税で苦しめてた民に無税と財産変換したとしてもこの時期に兵隊と将が酒盛りしてたらまた反感食うだろ。財産返して貰っても生活基盤ガタガタで生きていくのが大変なのに兵隊は訓練もせず昼から酒盛りかって、最悪こいつらも前任と同じだと思うやつらが出てくるだろう(音狐)
もう種馬。やはり種馬。そして由は標準語。きっと一刀に大小は関係ない!すべてが平等さ。(mokiti1976-2010)
4人で?郡を管理するのは大変そうだな。黄巾の乱で誰かスカウトしないと詰みそうだわw(hokuhin)
よーぜふさま、新兵Bを見ませんでしたか?はて?どこに言ったのやら・・・ww(狭乃 狼)
kabutoさま、由はまあ・・・いや、コメントは差し控えますw蒔さんは豪快ですよー。桔梗さんあたりといい勝負かと^^。まあ、あの方よりは遥かにわk(ドスドスッ!)・・・ま、まだ何も言ってな・・・ガク。(狭乃 狼)
紫電さま、ですよね〜wwま、飲みすぎは体に毒ですけど^^。(狭乃 狼)
瓜月さま、昔の人は良い言葉を残してます。「中庸」・・・お釈迦様だったかな?よく覚えてませんwテヘ^^。(狭乃 狼)
新兵B「Aよ大丈夫だ・・・ちゃんと兵舎で情報は管理しているかr・・・ハッ!?」(よーぜふ)
由ちゃんが・・・・。蒔さん豪快ですね。(kabuto)
中原さま、ほどほどが一番。・・・胸もww(狭乃 狼)
お酒はほどほど(人による)にwww(中原)
砂のお城さま、そう、おっぱいに貴賎なし!!(by一刀)ww(狭乃 狼)
村主さま、新兵A君の姿、何日か見無かったそうです。・・・くわばらくわばらww(狭乃 狼)
新兵A「成る程 姜維殿小・徐庶殿が中・徐晃殿は大か・・・」 ???×3「ナニヲシテイル(ンヤ)'(デスカ)・・・」(ゴゴゴゴゴ) さて新兵Aは明日の陽を拝む事が出来るのか!?(村主7)
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