空の記憶 第1話「夕日色の青年」 |
昔から、夢によく出る青い空。
まるで地面に仰向きで寝て、空を見ているような図。
その図は自分を中心として、空が時計回りのように回り、
白い雲も同等な動きをしながら、私を見下げている…。
でもどこか、この空が
どこかで見たような、そんな気持ちにさせる。
空の記憶 第1話「夕日色の青年」
「んしょっと、これで全部」
部屋中に沢山の段ボール箱が並ぶ。
額に流れた汗を首にかけていたタオルで拭って、周囲を見渡した。
まだ何も飾られて無い部屋。
家具だけが配置され、一休みしようと思い、鞄に入れてきたペットボトルを取り出し、
キャップを開けて口をつけると、心地よい冷たさが喉を通り、身体に浸透していく気がした。
「一人じゃやっぱり、辛いなー片付けるの…仕方ないけど」
今日、私、中島莉子はこの町に引っ越してきた。
しかも一軒家に、女子高生一人で…
理由は、両親が残した手紙だった。
一ヶ月前、両親が仕事で飛行機に乗り、その飛行機が墜落してそのまま亡くなってしまった。
でも大してショックではなかった。
忙しいのが理由で、私は主に家に一人でいた所為か、両親の顔を見るのなんて
一週間に一回あるかないかだったから。
そんな中、両親の部屋を片付けていた時、一通の手紙が送られてきた。
差出人は…見知らぬ男の名前。
「真田 拓真」
誰だ?と思う中、開けてみると、一枚目にはその真田という男からの手紙。
『莉子、お前の両親の手紙を長年預かっていたので同封する。』
シンプルすぎること、この上ないんだけど。
恐る恐る、続きとしてそのまま二枚目に入ると、それは確かに両親の字の手紙。
『莉子へ
あなたがこの手紙を読む時にはもう、私達はもうこの世にいないと思います。
仕事が忙しい所為で、あなたを大事に出来なくて、ごめんなさい。
これは、あなたの親として…最後の我が侭として、お願いを聞いて欲しいの。
ある場所に家を買ってあります。住所は同封した所に書いてあります。
そこに、引越しをして暮らして欲しい。
その場所は私達にもそして、莉子…あなたにも大事な場所だから、必ず訪れて欲しい。』
引越し?しかも、知らない土地に?
頭を暫く悩ませたが、化けて出てきても困るので、両親の手紙に従うことにした。
そしていざ、その地に赴いてみると
その町はのどかで、都会の喧騒から離れた海に近い街だった。
両親が残した家は、その海から少し離れた場所だけど、二階のベランダから
綺麗な海が一望できる良い物件。
二階建てのシンプルな普通のお家。
誰も住んでいなかった筈なのに、その家はとても綺麗に掃除されていたのだ。
そして、それから一週間後…私はこの家に引っ越してきた。
「でも、真田って誰なんだろう…」
もしかして、この家の隣の人かと思い表札を見てみたけど、
名前は違うし、これから通う学校の先生にも聞いてみたが、知らない。
勿論、親戚にも無い。
きっと、両親と親交があった人なのだろうが…
「…私も何で、この手紙の言うとおりにしたのかな」
今思えば不可解すぎる。
他人からの手紙、偽造の可能性だって少なくない。
そう、最初は疑ったのだ。
でも…
この町を見に来たら、そんな事は吹っ飛んでしまった。
ここに居たい、そう思ってしまった。
「ま、いいか。」
手紙をしまいこみ、時間も夕刻に近いので、
ひとまず今日は、コンビニで何か済ませてしまおうと思い、身なりを歩い程度整えて、
家を出た。
綺麗な夕日が空を染めている。
「莉子ちゃん!」
名前を呼ばれて振り向くと、50代前後のおばさんが笑顔でこちらをみていた。
「あ、岩清水さん」
「莉子ちゃん、今日引越しだったんだねぇ〜荷物片付けるの大変でしょ?大丈夫?」
「はい、そんなに量も多くないので、大丈夫です」
このおばさんはお隣さんの「岩清水さん」
私がこの家に引っ越す際に、色々町の事を教えてくれた人だ。
「莉子ちゃん、お夕飯はどうするの?」
「あ、今日は作る時間が無いので食べに行くか、コンビニで済ませようと…」
「じゃあ、うちでご飯食べない?」
「良いんですか…?」
「えぇ♪あ、でもね、うち今親戚の子が来てて…あんまり話たがらない子なの。
娘は仕事で出張だし、二人きりだからちょっと緊張しちゃってね〜莉子ちゃんいると、私も助かるのよ」
「私でいいなら…」
「良かったわ♪じゃあ入って入って!」
おばさんのご好意に甘える事となり、
莉子はそのままおばさんの家へと入っていった…
玄関に通され、靴を脱ぐとスリッパを出され、おばさんについていった。
その時
玄関のすぐ左横に、階段がある。
背筋に視線を感じて、振り返ると
一人の 男の人
少し上の段にいる所為か、自然と私は見上げる形となった。
でも
(え…?)
「あらぁ、拓真くん!降りてきてたの?」
拓真――――。
「莉子ちゃん、この子ね真田拓真くんっていうの、拓真くん、この子は
今日お隣に引越ししてきた、中島莉子ちゃんよ。仲良くしてあげてね」
「…あぁ。」
真田 拓真
「真田…拓真…って…あなた…!」
「…来い、莉子」
そういうと、真田という男はそのまま二階へ上がっていった。
「莉子ちゃん、拓真くんの事知ってるの?」
「あ、い、いや…その、ちょっと…」
「そう、お夕飯準備が出来たら呼ぶから、拓真くんの相手してあげて頂戴な」
笑顔でいいながら、おばさんはそのまま居間の方へと消えた…。
残された私は、階段を一歩ずつ上がる。
上に行くと、その男はいて着いて来いという雰囲気で、
三部屋あるうちの一番奥の部屋へと入って行き、私もその後に続いた。
パタン
ドアが静かに締まる音がする。
入った部屋は布団が一組と、本棚しかない。
男は、正面の窓の方に行くとそのまま莉子に背を向けたまま黙っていた。
「あなた…真田拓真って、本当…?」
回りくどいのは嫌い。
莉子はそう静かに聴いた。少しして、
「あぁ。」
静かにそういって、振り返った。
「あなた、私の両親とどんな関係なの…?」
「知りたいか?」
「あんな遺言めいた手紙を、あなたに任せるんだもん…知り合い程度の関係じゃ、ないでしょ?」
「…変わらないな、お前は」
夕日に照らされた、その顔はとても綺麗に彼を写した。
そして、そっと歩み寄るといきなり、腕をつかまれ引き寄せられる。
「ちょっ…」
「…変わらないな、その目も…声も」
ぐっと近づいた顔。
莉子は抵抗を示すが、女の力で敵う訳もない。
「あなた…私を、知ってるんですか…?」
「…覚えてないのか?」
「あなたみたいな強引な人、昔会っていたら覚えていたと思います」
よく見れば、男性なのに綺麗な顔をしている…。
深い青の瞳が、自分をしっかり見つめて吸い込まれそうな気分になる、が
「…そうか」
ゆっくりと離すと同時に、男は顔を背けた。
「あ、あのっ私の質問に答えて貰ってな…」
「お前の両親からの事付けだ。
…俺の事は、その内分かる…今は俺の名前だけを覚えていろ。いいな」
「そんな勝手な!!あなた…」
「拓真」
「は?」
「俺の名前は拓真だ、そう呼べ。良いな」
「…はぁ?」
「二人ともー!夕飯の支度できたわよー!」
ドア越しに遠くから、おばさんの声が聞こえた。
「…一つだけ、教えてやる。」
「え?」
「お前は、何かを忘れている。だが、それを教える事は出来ない。
自分で思い出せ…いや、嫌でも思い出さずに居られないだろう、この町に居る限りは」
「な、何それ…!!」
意味が分からない。
この人と知り合い?しかもあんな、接近しておいて、捨て置くみたいな…。
でも
そう、この人をはじめてみた瞬間、
初めて背筋で感じた
「懐かしい」という雰囲気。
(この町に居れば、何か分かるのかな)
私は、昔ここにきたのか?
しかも、この人と知り合い?
両親が手紙を託す程の、深い関係の人…
そのまま下へ向かった拓真の後ろについていくように、一階へと降りた。
NEXT
説明 | ||
オリジナル作品です。乙女ゲーのような雰囲気で書いております。ブログのプロットを基にして書いてます。続く予定ですが、宜しければ読んでやってくださいv | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
488 | 481 | 1 |
タグ | ||
空 記憶 オリジナル | ||
久住アキさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |