黙々・恋姫無双 拾陸黙 『最終回』 |
「一刀……ちゃん」
「……」【さっちゃん】
ガチン!
後ろではまだまだ戦いが続いている。
ボクは…絶えそうな息をしながら、一刀ちゃんを見ていました。
一刀ちゃんも僕のことを見ていました。
それは……ああ、これは、ボクはこの目を知っています。
一刀ちゃんは僕を頼りにしているのです。
僕に何かいいアイデアがあることを期待しているのです。
お願いだからそうであってってその瞳から叫んでいます。
【さっちゃん、春蘭お姉ちゃんが……】
でも、でも僕にはもう何もないんです。今僕にできることが何もないんですよ。
今の僕は、あそこに近づくことすらも許されない。近づくどころか、ここから何メートル近くに脚を運ぶだけでもボクは消えてしまいます。
僕はそんなに軟弱で使えない存在なんです。
【春蘭お姉ちゃんをあのままほおっておくと駄目なの。あのままだと春蘭お姉ちゃんが城壁の上から兵士さんが撃った矢に撃たれて目を……】
「分かってるんです!!」
「!!」
大きい声をだしてしまって、一刀ちゃんも、叫んでしまった僕もびっくりしました。
「僕もわかってるんです。あのままほおって置くと、戦いがまとまる際に油断していた春蘭さんが城壁の上から飛んでくる矢に気づかず右目を失ってしまいます。……僕も分かっているんです」
【最初から……知っていたの?】
「……はい」
ガチン!
【じゃあ、じゃあ、良かったじゃない!きっとさっちゃんだから、何か考えておいたことあるんでしょ?教えて、ボク何すればいいの?】
「…………」
【……さっ…ちゃん?】
……
ガチン!
【……ないの?何も…?】
「…はい、一度始まってしまったら、僕には何もできません」
「………」
僕を見ていた一刀ちゃんの目が少しずつ下へと下がってゆきます。
……
「なっちゃって、実は一つだけ、方法があるんですよ」
「……」【何?】
一刀ちゃんがまたこっちを見てくれます。けど顔色は暗いままです。
「一刀ちゃん、この前、僕があげた弓ちゃんとありますよね?」
「……」【うん、それが……何?】
「じゃあですね。とりあえず二人の戦いが終わるのを待ちましょう。そしたら、城壁から矢を射ろうとする兵士が見えるはずです。その時その人を狙って矢を撃てば……」
「………」【ごめん……、無理】
「え?どうしたんです?もしかして、持ってきてないんですか?」
「……(コクッ)<<ブルッ>>」
「駄目じゃないですかぁ?ちゃんと持ち歩いてくださいって言ったのに。どこにおいてあるんですか?僕がスバッとに行ってスバッと持ってきますから」
【ごめん!あれ……あれ、実は無くしちゃったんだよ】
「………」
……
【だってほら!あれ、さっちゃんが普段他の人たちに見えないようにしておいたじゃない?それに、小さいからあっちこっち行ってるうちになくしちゃったよ】
「………そうですか。でも、でも大丈夫ですよ。こんな時もあろうかと、僕が弓に発信機を付けてあるんです!」
「!!」
一刀ちゃんがハッという顔になる。
「ちょっと待ってくださいね。探してみますから」
【ちょ、ちょっと待って!】
慌てて僕を止める一刀ちゃん。
「どうしました?早くしないと遅れてしまいますよ」
「………」
呼んでおいて、一刀ちゃんは何も言いません。
………
「一刀ちゃん」
「……」【知ってる】
「……」
一刀ちゃんはそう言って後ろにかくしていた弓を前に出しました。
実は、最初から見えていたんですけどね。
なんか、そうなんじゃないかなぁとは思っていました。
管路……言ってしまったのですね。この弓がどういうものなのか。
【これ撃ったら、さっちゃん、死んじゃうんだよね】
「………はい」
嘘をつくつもりはありません。ついてたって信じてくれそうにもありませんし、ついたところで何も結局はバレてしまうのですから。
【どうして、そんなものをボクにくれたの?】
「………」
【ボクがもらって直ぐにこれ撃ったらどうするつもりだったんだよ!!!】
「……もしそうだったら、それはそれで構いませんでした」
「!!」
この弓は、昔『管理者』たち間の戦いがあった時に作られた武器。
撃たれた相手と、その矢に魂を込めた人(普通は撃つ人)を同時に滅するカミカゼなアイテムでした。
戦争が何の得もなく終わったところで、この武器は全て破棄されたのですが、僕はあるルートでこれを持っていました。
まさかこんな形になるとは思いませんでしたけど。
もしかすると僕は…最初からこうするつもりで今まで一刀ちゃんを近くで守っていたのかもしれません。
【何で……どうしてそんなことをしたの?】
「一刀ちゃんを守るためでした」
【ボク助けてさっちゃん死んだら意味ないじゃない!】
「関係なかったのですよ!」
どうせ、一刀ちゃんがそれをこの世界の人に撃ったら僕は……
「命に賭けても……一刀ちゃんだけは守りたかった。それだけです」
「………」
一刀ちゃんは、涙で潤っている瞳で僕を見つめていました。
わかんない、わかんない!
もう何もわからなくなったよ!
何?どうしてこうなるの?
どうしてさっちゃんボクにここまでするの?
こうするとまるで……まるで……さっちゃんがボクのお母さんか何かみたいじゃない!
何?何でさっちゃんが命賭けてボクを守るとまで言わなければならないの?
しかも何?そんな覚悟でくれた矢なのに、
今はただ他の人の目玉一つのために、
ボクの欲張りのために撃ちなさいって言うんだよ?
そんなの、そんな話聞いてそんなこと出来るわけないじゃない。
「他に方法がないんです」
「!」
さっちゃんは話を続けたよ。
「守るというのは、一刀ちゃん自信だけではないのです。一刀ちゃんの心、意志。一刀ちゃんが貫きたい『理想』のためなら、僕はここで死にます」
わからない……
自分の命を賭けてまで人を助けるということが、
ボクにはわからない。
……わからないの!!
重い……重すぎるよ……
ボクは持っていた弓を落としてしまった。
一刀ちゃんは持っていた弓を落としてしまいました。
「……」
僕は何も言わずにその弓を拾って一刀ちゃんと目線を合わせました。
「僕は……僕は以前にも一度、死んでみたことがあります」
「……?」【死んだことがあるって……】
「おかしいと思うでしょうね。でも、僕は……僕たちは死んでも『輪廻』することができるんです。時間が過ぎると違う自信に生まれ変わるのです」
「………」
「昔の僕は……あまりにも無駄なことで、後悔するようなことをして死んでしまいました。だから今回は一刀ちゃんのために、僕の一番大切なもののためにこの生命を賭けたいんです」
「……」
「一刀ちゃん、一刀ちゃんは何がしたいんですか?春蘭さんが目を失うことを見て、一刀ちゃんは何を思ったんですか?どうしたいと思ったんですか?」
「……」【ボクは……ボクは、春蘭お姉ちゃんがボクみたいになるのが見たくない】
「…一刀ちゃんみたいに?」
【身体の一部を失って、身体も心も傷つくのが……見たくない】
……
【周りがよくしてくれる。外見なんて重要じゃない。ううん、そういう問題じゃないの】
「……」
【周りが見ているうちには励ましてくれたら一緒に笑うし、楽しむ時に一緒に楽しむの】
「……」
【でもね、夜になると……一人になる夜が来ると、目から涙が止まらなくなるの。ああ、ボクも皆一緒が良かったって。どうしてボクはこんな身体なのだろうって……】
「……一刀ちゃんは、そうだったのですか?」
「……」
一刀ちゃんが一人で眠りたくないのは、そういうわけだったのですか?
「……(こくっ)」【一人で寝るのが怖かった。一人で居ると、どうしても自分のことが憎くなってしまうから。どうしても、こんなになってしまったボクを責めてしまうから……】
そう、だから一刀ちゃんはいつも誰かと一緒にいようとした。
恥ずかしがりでも、人知らずでもいつも人の温もりを探していた。側に誰か居る状況をいつも願っていた。
一人になるのが『死ぬほど』嫌だったから。
「それは……本当に辛かったでしょうね。僕、長く側にいたのに気づきませんでした」
「(ふるふる)」【さっちゃんはいつもボクの側にいてくれたよ。だから……これはボク自身のためでもあるの】
「そう……」
矢を撃つのも自信のため、撃たないのも自分のため。
そういうわけですね。
それでいいのですよ。子供だから……
だけど、
どっちかを選ばなければならない。
「!」
【どうしたの?】
「…戦いが終わりました……」
「!」
もう、
迷っている時間がありません。
「はい」
さっちゃんはボクに弓を戻したよ。
「狙う先は分かっていますね?管路の夢で出ていた筈です」
「……」【ヤだ……ボク、ボク撃ちたくない】
「それも一刀ちゃんの選択です。けど、最後までその弓は、一刀ちゃんが持っていてください」
「………」
この弓を今捨ててしまったら、ボクはさっちゃんを殺さないで済む。
だけど、今この弓を落とすと、ボクはボクの権利を……何かをしたいと、守りたいと言った自分の意志も一緒に落とすことになるよ。
春蘭お姉ちゃんと張遼の得物の狙い先が相手から地面に変わったら、二人ののんびりした対話が始まるよ。
そして、
「見えましたね」
「!」
城壁の上に見える兵士さんが何人。
あの中に、春蘭お姉ちゃんを撃つ人が……
「……」【そ、そうだ、今春蘭お姉ちゃんにこれを教えると…】
っ!!
急に脚から力が……
「駄目です。そんな発想をするだけでも『外史』が反応してしまいます。秋蘭さんを探す前に、一刀ちゃんが気を失ってしまいます。そしたら全て終わりです」
そんな……
一体誰が何のためにそう仕組んだの?
「誰のためでもありません。春蘭さんは元々そういう『運命』だったのです」
運命……?
運命…………
【だったらボクは運命なんて信じない】
「……そうですか」
【うん、運命なんて……】
こうすると、まるでボクが撃ってしまうともう決めてるみたいじゃない!
「ところで一刀ちゃん、あなたに今まで言ってないことが一つだけあります」
あ、弓を構える兵士が!
「一刀ちゃんが喋らなくなったのって、確か子供の公園近くで車にぶつかってでしたよね」
さっちゃんは何でこんな時にそんなどうでもいい昔話をするの……?
「あの車を一刀ちゃんにぶつかるようにしたのは……僕です」
え?
偶発な出来事だった。
北郷一刀という存在、あの存在があまりにも憎らしかったあの頃。
僕は……やってしまったんだ。
【今、なんて言ったの……?さっちゃん】
この人生、一番後悔するような真似を…
「言った通りです。あなたをそんな憎らしい身体にしたのは、僕です」
「……」【……ウソ】
若さの愚痴だといったら話はいい。
「あなたを両親に捨てられるようにしたのも」
【やめて】
しなければよかった。
「毎晩を一人で泣きながら寝るようにしたのも」
【もうそれ以上言わないで】
残った時間を贖罪しながら生きようと思った。
「自分自身を憎悪するようにさせたのも全部僕なんです」
【もうヤメテー!!】
「ここまで言ったらわかるでしょ!?あなたがやりたいことをやりなさいって言ってるんです!!」
「……ぅわあああああああ!!!!」
サシュッ!!
これで……もう終わらせようと思う。
身体が……身体が熱い。
力が入らない。
兵士さんは撃ったの?
春蘭お姉ちゃんは……助かったの?
さっちゃんは?
ドスッ
「!!」
その瞬間、
ボクの目には膝を折って身体を崩すさっちゃんの姿が見えた。
【さっちゃん……!!】
「……やりましたね。これで春蘭さんは無事です」
そういう問題じゃない!
【何で、何で最後にあんな事言ったの?!そんなことすると何が……!】
「これでいいんですよ」
【良くないよ……全然…何も…良くない】
【……さっちゃん、ごめんね】
「…なんで謝るのです?おかしい一刀ちゃん。謝らなければならないのは僕の方ですのに」
【ごめん……】
「ごめんなさいね、一刀……一生、謝りながら生きようと思っていました。でも、思ったより早く贖罪できた……この罪を償うことができた」
【…ごめん】
「いいのです。許してあげますから……って、何言ってるんでしょう。許しを乞わなければならないのは僕の方なんですよ?ごめんなさい、一刀ちゃん。最初の時から、最後のこの姿まで……あなたには謝らなければならないことばっかやってますね、僕ったら……」
【ごめん……ボク……ボクね、今まったく後悔してないの】
「……よかったじゃないですか。だったらそんなに泣かないでください…最後に、一刀ちゃんのにっこりと笑う顔がみたいのです。さっちゃん、一生のお願い、ここで使っちゃいます」
【うん……うん…………】
さっちゃん、ごめん、ボク嘘ついちゃってるよ。
今、すごく後悔しっぱなし。
さようなら、一刀ちゃん。
「楽しかったですわ。あなたは覚えてくれないでしょうけれど」
スッ
「……みなみ!みなみちゃんいるーん?」
――遅かったの
「あらーん、みなみちゅあーん。おひさしぶりよ〜ん」
――やめんかい。お主のその口調を聞くと一年は眠れそうにないわ!まったくも。
「ここに来た要件なんだけどぉ〜」
――わかっておる!あの小娘のことじゃろ?
「どっちの小娘かは知らないけどねん。あなたから見ると両方とも小娘でしょうから」
――とぼけるでない!儂はこれでもまだ三千も切っておらんわ!
「十分老いてると思うけどねん」
――余計はお世話じゃ!
「それで、左慈のことだけど……」
――言ったじゃろ、もう遅いと
「……それはどういう意味?」
――既にやらかしちまったよ!もう後戻りなどできぬ!
「まさか見ていたのか?」
――それが仕事だからの。
「ならどうして……」
――儂はあくまで見るだけじゃ。その後のことがどうなるかは知ったこっちゃない!
「それで良いのん、みなみちゃんは?あんたの孫でしょうに……」
――ふん……!とにかくもう遅いったら遅いんじゃ!もう24時間が過ぎると、全て時空、次元のあの子についての記録、記憶の全てが消える。もちろん、儂とお主は覚えているだろうけど……あの過去と未来を見る小娘は無理じゃろうな。彼女はまだ『輪廻』を越えておらぬようじゃし
「あなたは本当に……それでいいのん?」
――そういうお主はどうじゃ?左慈とは腐れ縁じゃろうに。
「………そうね……正直分からないわねん」
――わからないんかい?それとも……
もうさっちゃんとか誰かわすれとるのではないのかい?
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