東倣麗夜奏 6話
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東倣麗夜奏 〜 Phantasmagoria of Nostalgic Flower.

楽園の外に棲む妖怪達による些細な話。

 

 

 

6話

 

 

 

何かこう珍しい出来事、楽しい出来事は無いか。

すっかり世知辛い世の中になってしまったが、

少しくらい妖怪にとってお得な出来事があっても良いのではないか。

 

・・いや、別に無くても良いのだ。

たとえ何も見つからなかったとしても、その行動は浪漫に溢れている。

そんな毎日を過ごすことが出来たら、どんなに楽しいだろうか。

 

そう思って意気揚々と屋敷を飛び出すようになってから、それなりの時が経とうとしていた。

最近は昼も夜も無くなっていた桜子だったが、今日は妖怪らしく夜に出かける事にした。

 

今夜はいつもとは違う、都市化の進んでいない数少ない場所のひとつに足を踏み入れた。

 

ここは良く月が見える場所である。

雲も無く、空気も澄んでいる。

月を眺めるには丁度良い天候なのだから、月以外の光で邪魔される事の無い

無人の海岸線までやったきたのだ。

 

 

 桜子 「そう、今日は満月。

     こんな満月の夜は何かが出るものよ。

 

     私とか。」

 ? 「あなたとか。」

 

 桜子 「出たわね!」

 

 

唐突に現れたのは、月を隠す不審な雲。 その雲に乗って何者かが話しかけてきた。

 

 

 ? 「満月の夜に現れるのは、死霊かしら、桜かしら。」

 桜子 「そんなあんたは何かしら。 幽霊?」

 

 ? 「残念、神である。」

 

 桜子 「あんたみたいな神様知らないわ。 

     ・・この辺りの神様じゃ無いわね?」

 紅曜 「ははは、私は紅曜。 陽光と月光を遮るもの。

     そう、こんなふうに・・」

 

 

紅曜と名乗る神が手に持った宝株を掲げると、辺りが少し暗くなった気がした。

ほんの僅かな変化だが、月の影響を強く受ける妖怪には大きな変化に感じた。

 

月がほんの少しだけ、欠けていたのだ。

 

 

 桜子 「月が・・

     満月に変化を与えるだなんて、あなた只者じゃ無いわね。」

 紅曜 「あなたも、こんな所にいるのを見る限りただの妖怪じゃ無いわね。

     この国の神と妖怪はすっかり弱ってしまっていると聞く。」

 

 桜子 「そんなあんたはどこの神様なのよ。」

 紅曜 「そうねぇ・・どの辺りかと言うと、南になるのかしら。」

 

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 桜子 「今でもそんなに力があるって事は、あなたの国の人間は信仰心が衰えて無いのね。

     でも、なんでわざわざこんな信仰心の欠片も無い国にやってきたのかしら。」

 紅曜 「私はどこにだって現れるわ。」

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もう、人間が自分の生まれた国にずっと住み続ける時代でも無い。

神を信仰する人間が世界各地にいるように、神もまた世界各地を転々としているのだ。

そう言うと異国の神は再び宝株を掲げ、欠けていた月を元に戻した。

 

 

 桜子 「やっと月が戻った。」

 紅曜 「ふむ。 本当はこんな事したら近所の神に怒られるんだけどねぇ。」

 

 桜子 「あー、この辺の神様になんて期待しちゃ駄目よ。

     もう居るかどうかもわかんないのばっかりだし。」

 紅曜 「むむ、それほどまでとは・・

     ところであなた。」

 桜子 「うん?」

 

 紅曜 「あなたも私と同じように、その辺を転々としているのでは無くて?

     どうせなら、視野を広げて世界を見てはどうかね。

     こんなちっぽけな島国では、そのうち全て見飽きてしまうだろう。」

 桜子 「世界ねぇ・・」

 

 

確かに人間の生活も昔に比べて、国の縛りが無くなって来ていると思う。

それにこの神のように、自分の国に留まらず活動している神もいる。

妖怪も外から流れてくる者はいるが、この国の妖怪が外へ出たという話は聞かない。

 

 

 桜子 「確かにそれも浪漫があって良いと思うけど・・

     この国にしか無い物だって、あったりするのよ。」

 紅曜 「ふむ。 この国には妖怪の楽園があると聞く。

     外から来る者は楽園を求めて、ここで生まれた者は・・」

 桜子 「他所の妖怪なんて、地元から逃げてきたようなのばっかりじゃない。

     それに、楽園なんて興味無いわ。

     その楽園だって、この国から――

 

 

逃げ出した妖怪達が住まう場所なのかもしれない。

・・この国の連中はつくづく動かないなぁと思った。

こんな世知辛い世の中になっても、世界へ飛び出そうという妖怪や神は居なかった。

逆に自分の国に楽園を作り、そこに閉じこもってしまったのだ。

 

 

 桜子 「あの結界以外にも、何かに縛られているのかもしれないわね。

     この国の妖怪や神様も。 もちろん私も。」

 紅曜 「ふむ。 今回はちょっと様子を見に来てみただけだったけど、

     この国には私の知らない何かが隠されているのかもしれない。

     そういったものを探すのが最近の趣味でねぇ。

     今日は帰るけど、きっとまた来るわ。」

 

 桜子 「あんたと顔を合わせたら、震え上がるんじゃ無いかしらこっちの神様。

     信仰度的に。」

 

 

規模は違えど、桜子と同じような活動をしている異国の神は

月の光の中へと消えていった。

 

 

 桜子 「青は藍より出でて藍より青し

     この国の中で生まれたもうひとつの世界はどうなのかしら。」

 

 

楽園に逃げ込んだ者、その楽園を目指してこの国を訪れる者。

妖怪や神の行き着く先がこの国なのか、

それともこの国自体がもうひとつの大きな結界なのか。

桜子はそんな事を考えながら、ここ一番の満月を眺めていた。

 

 

 

 

 

ドラゴンテールの遊星

○紅曜 計都(Kuyou Keito)

 

異国の神様。

朔と望を操る程度の能力を持つ。

 

陽気でフレンドリーな南方の神様。

古来より大きな信仰を集め、現在でも世界各地から信仰を集め続けている。

その能力は、日食と月食を起こしあらゆる妖怪を無力化してしまうほどである。

 

自分を信仰する国の人間達が世界各地に広がり始めた事に影響され、

世界中を転々とし始めたが特に目的意識というものは無い。

珍しいものや謎解きが好き。

説明
・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。
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