真なる世界へ 第4話
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「・・・・ぐぅ!! 最後・・・・っ!!」

最後の一人の治療を終えその場に座り込む。

「はぁーっ・・・・・はぁーっ・・・・」

とりあえず、その賊から定期てきな寝息が聞こえたので一安心とする。

しかし・・・。

息するのもキツイ。それぐらい体力を消耗し、疲弊仕切っているのがわかる。

「・・・・クゥ・・・・・・・」

かすれた声でクゥの名を呼ぶ。彼女はわかっていたのか、蒼の腰部分にぶら提げた水筒を掲げ俺に手渡した。

渡された水筒を一気に仰ぐと冷たい水が流れ込み、体の芯が少し冷えるのがわかった。

「ぷはぁ!」

すぐに空になってしまった水筒を再びクゥに渡し、ゆっくりと体を倒した。

「・・・・・疲れたー」

思わずそんな言葉が出てしまう。

疲弊仕切った身体は未だ立つ事を許してはくれないようで・・・・。仕方がないので大地に身を委ねた、というワケだ。

そんな俺を見て何を思ったのか、クゥも外套をシート代わりにして寝っ転がった。

「・・・・・・・・」

「ん?」

クゥが天に向かって両手を伸ばし、何かを探すような仕草をしていた。

「どうした?」

気になって声をかけると、珍しく、クゥが口を開いた。

「一刀、さ・・・・。えっと・・・一刀は・・・・本当に天から・・・来たの?」

俺を呼ぶ名に少々の躊躇いはあったが・・・・この際はスルー。

「まぁ・・・ある意味天から来た、かな?」

「・・・・?」

「・・・・堕ちてきた、だけどな。

元々はもっと先・・・・未来から来た人間なんだ」

「・・・・きいた覚えがある・・・・」

「そうか。 この際だ、少し話そう」

 

体の体力を取り戻す間、クゥに色々なことを話した。

俺が初めて『前の世界に似た、この世界来たこと』については伏せたが・・・。

大切な仲間に出会ったこと。

毎日が楽しくもあり、悲しくもあったこと。

俺がその世界にとって異分子であったこと。

そして、仲間と別れることになってしまったこと。 色々を。

 

 

 

 

話し終えた時には、体力は半分は回復していた。

ぐっと足に力を込め、上体起こしの要領で飛び上がる。

よし、問題ない、かな?

「・・・・しかし、なんでまた天の話なんか?」

そう尋ねるといつもどおりに・・・けれど一瞬だったが寂しげな表情をしていた。

「・・・・・・・・・・・なんでも」

「・・・そっか」

話を早々に切り上げ、外套を羽織り蒼を呼ぶ。

後はいつもどおりに先にクゥを乗せ、どこかへ行く・・・・筈だった。

 

「そこの者、止まれ」

 

「・・・・・・・・・」

その声は聞きなれた声だった。

凛とした声。俺はソレを知っている。

いつもは怖そうな表情をしてるけど・・・よく拗ねるけど、心優しい、大事な仲間の一人。

「・・・聞こえないのか?そこの者だ」

「聞こえているよ」

努めて平然とした声音で応える。 ―――彼女は『彼女』ではない。

心に言いつかせ、落ち着かせる。 ・・・・大丈夫だ。

「そうか。 我が名は関羽。劉玄徳の臣が一人。 貴方は?」

「・・・・一刀。 北郷一刀だ」

俺が名乗ると愛紗――関羽は驚いた顔をした。

「北郷・・・・・! 貴方が噂の?」

「さて、なんの噂なのやら。 一応これが俺の牙門旗になるのかな?」

自分の軍を表す象徴としての牙門旗をバッグから引き出し、関羽に見せる。

「なるほど・・・・漆黒の色に十の紋章・・・・噂通りのモノだな。だとすれば、貴方が天の御遣いなのか?」

そう聞かれて少し戸惑う。

確かに天の御遣いとして称されるならばそうなのだろうが。はたして・・・・。

「・・・・ほぉ。私もその噂は眉唾ものだったが・・・・ふむ」

関羽の後ろから誰かがやってくる。この声は・・・・。

「星!どうしてここに?」

「何、桃香さまが『愛紗ちゃんが心配だよー』、と申していたのでな、少し様子を見にな」

星―――趙雲は興味深そうにこちらを観察していた。

知り合い(一方的だが)とはいえ、じろじろ見られるのはあまり落ち着かない。

「・・・・・そちらは?」

流石に向こうも見ているのは失礼と思ったのか、咳ばらい一つした。

「・・・・失礼。我が名は趙雲。 で、愛紗よ、この者はどうするんだ?」

「むぅ。正直私だけでは判断しそこねていたのだ。 星はどう思う?」

「・・・とりあえず、周りの惨事からでも聞いてみようじゃないか」

「・・・そう、だな。 北郷殿、説明願えるか?」

「・・・・わかった」

別に隠す必要もないと判断した俺は、一部伏線しておき、事情を話した。

 

 

 

「ふむ・・・これだけの賊を相手に一人、とは」

「ふふ。噂通りの豪傑だな。武人として是非とも戦ってみたいものだな」

「はは・・・まぁ機会があったら、な」

ニヤリ、と挑戦的に笑む。

趙雲相手か・・・・正直勝てる気がしない・・・。

「・・・・・(くぅ〜)。 ・・・(くいっくいっ)」

あ、忘れてた。

「うん?その娘は?」

・・・今思ったが、この場合、クゥはどっちなんだろう。

娘?妹?

・・・・まぁ妹の方が説明が楽か。

「あー・・・。まぁ一応義理の妹、かな」

「ふむ。 お腹を空かせているのか」

「ああ、賊と戦っている時はなんも食べさせてやらなかったからな。 しかし・・・・困ったな」

水のストックはまだ残されているのだが、食べ物だけはあそこの湖で捕獲できなかった。

加えて、先ほどの戦いでバックの一部に穴があいてしまい、洛陽で調達した食べ物が落ちてしまったのだ。

「北郷殿。 その娘にあたえる食事がないのか?」

趙雲の問いに俺は浅く頷く。

「・・・。 北郷殿、実は私たちも食事にしようとしたところなのだが。 一緒にどうかな?」

「星?!」

趙雲の突然の誘いに疑惑の声があがる。 まぁ・・・俺としてはとてもありがたい話だが・・・。

「そう神経質になることもなるまいに。 私は北郷殿が同じ志を持てうるものだと見ているが?」

どこか挑発するように、だけど悪戯をする子供のような目で関羽を見据える。

心当たりがあるのか、関羽は一瞬たじろぎ、やがて無言で頷いた。

「ふふ。決まりだな。 北郷殿もよろしいか?」

「・・・・ああ。お邪魔させてもらうよ」

くぅくぅとお腹を空かせるクゥの可愛らしい虫の鳴き声を聞きながら、俺は関羽・趙雲の後に続いた。

 

関羽達に連れられて入った場所は天幕だった。

そこに繰り広げられていたのは・・・。 和やかに食事をする少女たちだった。

なんというか、乱世の世の中で、しかも荒野に陣を張っている中、こうやって和やかに食事をしているのは流石だと思った。

「あ、愛紗ちゃん、星ちゃん。おかえりー」

関羽に手を振った少女は、一言でいえば可愛くもあり、どこか、惹きつける力がある。自然と、俺はそう感じた。

「只今戻りました」

「うん、無事で何よりだよ〜。で、そちらの方は?」

警戒心なく、純粋な笑みで俺に問いかける少女。・・・なるほど。

「俺は北郷一刀。趙雲殿に食事の誘いを受けたのでな・・・よろしいかな?劉備殿?」

「ほえ〜、この人私が劉備だって当てちゃったよ〜」

たしかに名乗ってもいないのだが一目瞭然、というべきか。

そもそも、正史となりうるならばこれだけのメンバーで指揮者がいるとすれば劉備ただ一人。推測することもない。

「ほえー、お兄ちゃんすごいのなー」

鈴々―――張飛が手に肉を持ちながら驚いたようにこちらを見る。 ・・・頬に付いている米粒がなんとまぁ、可愛らしい。

「何、噂はかねがね。民のためにと集う仲間と供に乱世を駆け抜ける軍があるとね」

「まだ少ししか戦ってないけどなぁ・・・」

劉備は困ったように笑うも、これまた可愛らしい少女がおずおずと口を開いた。

「これも桃香様のお力です。皆の為にとわが身を顧みず働くお姿が風評として、各地の民は心から桃香様を求めているとおもいましゅ・・・・あぅ」

朱里と同じような噛み方・・・。はて?この魔女が被るような帽子をかぶっている女の子は?

「んー、我が軍の天才軍師様がおっしゃるのならそうかなー?」

すこし悪戯っぽい笑みを浮かべる劉備。

「あわわ・・・・」

恥ずかしそうにうつむく少女。

あー。ピンときた。

あくまでも推測の範囲だが朱里と同じ口癖・・・。

加えて蜀の軍師といえば・・・名は・・・・

「・・・・鳳統士元、か。」

「あわわ!? どうして私の名を?」

鳳統は劉備の背に隠れながら怯えるようにこちらを見る。

・・・なんか可愛いなー。

「そりゃ『臥龍』『伏龍』と称される諸葛孔明に対して鳳士元は『鳳雛』

 劉備殿が誇る天才軍師と言ったらその二人しかいないからね」

「あわわ・・・・」

「はわわ・・・」

俺がそういうと、二人は照れているのか、赤い顔のままうつむいてしまった。

「・・・・(くいっくいっ)」

「っとと・・・」

やや不満げにこちらの裾を引っ張るクゥの力はいつもより強い気がする。

まぁ・・・さんざん待たされているからな。

「それで・・・悪いんだが、食料を少し、分けてもらえないだろうか?」

「うん、いいですよ」

劉備さん、即答ですか・・・・。

「尋ねて聞くのもなんだが・・・いいのか?」

「いいもなにも、北郷さんは悪い人に見えないから、かな。

私は北郷さんとならうまくやっていけそうな気がするな」

そういって悪戯っぽく笑う劉備。

「・・・それは同盟のお誘いかな?」

俺も同じようにして返す。

劉備もこちらの切り替えしが気に入ったのかより一層の笑みを浮かべた。

「ふふ・・・どうでしょう。 少し言うのが遅くなりましたが、劉備陣営へようこそ!」

こうして俺たちは食事に有りつくのだった。

 

 

 

食事中・・・まぁなんというか。

予想通り騒がしくもあり、賑やかだった。

主に張飛と趙雲がちょっとしたとり合いをして関羽が行儀が悪いと怒り、その声に驚いて鳳統が泣き出しそうになり、諸葛亮がそれを宥めて・・・・。

劉備はその光景を微笑ましく見つめていた。

この雰囲気は俺がいた時と同じ・・・そう。家族のような温かさ。

少し、羨ましかった。

(劉備玄徳、か・・・昔は俺がその役目だったんだがな・・・・・)

っと、いかんいかん・・・何感傷に浸ってるんだ俺は。

「・・・(くいっ)」

「・・・お?」

膝の上でパンを齧っていたクゥが一口サイズに千切って俺に渡した。

・・・・元気出せ、ってことかな。

一口サイズのソレを口の中に放り込み、俺も食事を再開した。

 

「・・・ふう。御馳走になった。

 ありがとう、助かったよ」

改めて劉備の好意に感謝し、礼を述べる。

「いいんですよ。私たちも好意でやっているんだし」

少々恥ずかしげに照れる劉備。

しかし、タダ食いと言うのも気が引ける・・・・。

「・・・・もしよろしければ・・・」

「・・・はい?」

「一飯の礼がしたい。少しの間、同行させてもらえないか?」

「・・・・え?」

「ま・・・理由はともあれ、仮は返したいんだ。腕もそれなりにたつ。

 それに・・・今後如何するか決めかねてるんだ・・・。

 このまま放浪するか・・・誰かに従えるか・・・。 今はまだ、放浪することを選んでるがな・・・」

苦笑いを交えつつ同行許可願を提案してみる。

暫く劉備が呆けた顔をした後、声を押し殺して笑い出した。

俺、なんか面白いこと言ったか?

そう疑問に思っていると劉備は笑いを押し殺しながらわけを説明した。

「ふふっ・・・。朱里ちゃん達が私の事を変だーって言った意味が少しだけ解った気がしたんです」

「・・・?」

「ご免なさい。で、同行の話ですよね?」

「あ、あぁ。よかったら、だが」

「寧ろこちらからお願いをするところでした。

 ・・・では。」

咳ばらいを一つして、手を差し出した。

「北郷一刀さん、我が劉備軍に力を貸してくれませんか?」

「・・・あぁ、喜んで力を貸そう」

俺は差し出されたその手を握った。

それは優しく、女性特有の柔らかさがあって少し戸惑ったが。 ・・・この際忘れておく。

まぁ、こうして俺は一時的に劉備軍の一端に加わったのだった。

 

 

劉備陣営に加わって行軍を続けていたある日。

 

「おにーちゃん、勝負なのだー!!」

「・・・・は?」

陣をはり、一時休憩したときに、張飛が突然そんなことを言ってきた。

劉備と諸葛亮に鳳統は今後の進行ルートの見直しで関羽はその付添でこの場にいない。

趙雲も気づけばいなかったし。

結果的にみて、張飛の暴走は止められないようだ・・・・。

「おにーちゃんは皆から強いって言われてるのだ。

強いなら鈴々と勝負するのだ!」

そういえば・・・『鈴々』は強いやつと勝負したがってたなぁ・・・。

っても俺、そんな強くないし・・・。

「いや・・・・俺は」

「ほぅ。面白そうだ。ならば私も混ぜてもらいたいものだな」

俺の言葉を遮ったのはこりこりとメンマを食べている・・・・

「趙雲!?」

「私も北郷殿の戦い方は気になっていたのだ・・・もぐ・・・・。

後でお手合わせを願いたい・・・・もぐもぐ」

食うか喋るかにしてくれ・・・・。

「失礼」

「ま、いいけど。 しかし・・・燕人張飛相手に互角に戦えるほど俺は強くないぞ?」

今までの鈴々の戦い方を思い出すが、ハッキリいって、あの力に耐えれるほど俺の体は頑丈にできていない。

しかし、そんなことはこのちみっこい将には関係のないことのようだった。

「そんなのやってみないとわからないのだー

 でも鈴々が勝っちゃうけどねー!」

凄い自信だ。 まぁ・・・それは過信ではないから咎めることもないけどな。

しかし・・・そこまで挑発されて挑まなければ男でない気がする。

「あいわかった、そこまで言うなら受けて立とう!」

「そうこなくっちゃ、なのだー!」

「ならば、審判は私が勤めよう」

「頼む」

審判を趙雲に任せて、俺と張飛は対峙することになった。

 

 

俺は神星刀を鞘から抜き、2〜3回素振りをする。

「・・・北郷殿の武器は変わっているな」

「んー・・・そうか?」

と言われてふと黄巾党の剣を思い出した。

ヤツ等のは真っ直ぐと伸びた、謂わば西洋の『剣』 だ。

対して俺の神星刀は若干反れていて、刃は片面・・・つまり、『刀』だ。

この時代において、片面のみの刃など使い難いだけだろう。

『槍』に関してもだが。

俺の持論から言わせると、長刀と槍 の関係は 剣と刀 と当てはまるものがある。

長刀と槍は言いかえれば棒の先端に『剣』か『刀』をつけるかの違いだ。

 

まぁ、つまるところ。

剣だと片面の刃が欠けても反対の刃で補えるし。

なにより両面に刃があるだけで左右に振る際に、手首を切り替えなくとも、振るだけで斬れる。

その面、刀は一々手首の切り替えが必要となる・・・・が。

他の剣とは違い、刀の利点、それは・・・・。

 

他の剣(つるぎ)を持つ系統に対して、抜群の切れ味を持つことにある。

・・・まぁ刀は数回斬ってしまったらすぐに切れ味が悪くなってしまうが・・・。

 

 

ま、そんな脳内雑談はここまでにしよう・・・。気づけば張飛が痺れを切らしていた。

「ふふふ・・・・。では、はじめ!」

趙雲が意地悪そうに微笑んだ後、開始の合図をした。

瞬間に張飛の長い蛇矛が脳天目掛けて振り下ろされた!

「・・・・・!」

瞬時に横に跳ぶ。

バコッ!という鈍い音とともに俺がいた場所は地面がえぐれて陥没していた。

・・・・相変わらず恐ろしい力だ。

コレの直撃を食らうと想像すると背筋が寒くなった。

「にゃー・・・・避けられたのだー・・・・」

クレータを作った張本人は残念そう笑い、その長い蛇矛を構えの位置に戻し今度はぐっと腕を後ろに引いて、

「にゃっ、にゃっ、にゃー!!」

奇妙な掛声と共に高速で突いてきた!

「くっ・・・・・」

先ほどの振り下ろしと比べ、威力はないものの、やはりその力は・・・計り知れない。

張飛の突きを避けながらも反撃のスキを伺う。

確かに張飛の力は凶悪だ、しかし、突く速度は高速と言えど、避けられる範囲内だ。

「ならば――」

「にゃー!」

張飛が突いた瞬間に体を右に反らし神星刀を素早く蛇矛に向って振り下ろす――!!

「あうっ!」

張飛の蛇矛は地面へと軌道を変え、張飛自身も若干体制を崩す。

崩している間に張飛の懐へと――――

「んー・・・・・!にゃぁーーー!!!」

「な――」

懐へと飛び込もうとした瞬間に、張飛は片足を軸にぐるんと一回転、それにつられて蛇矛も大きな円を描き始めた!

避けられないと判断した俺は神星刀で防御したが――

「ぐぅっ!!」

ガンッ!という鈍い音と共に俺は体ごと吹き飛ばされていた。

遠心力で通常より倍の力を受けた俺は体制を立て直すことなくそのまま近くにあった天幕へと飛ばされ、突撃した。

「いてて・・・・・」

「おにいちゃん、だいじょうぶかー?」

「ああ、なんともない」

体制を立て直し、蛇矛を担いだ張飛に答えた。

「今のはびっくりしたのだ」

「俺もびっくりしたけどな・・・」

まさかあの体勢で一回転するとは予想もしなかったな。

「しかし・・・・」

一連の流れを見ていた趙雲がぽつりと呟く。

「北郷殿・・・手を抜いておられたな?」

「あー、それ、鈴々も感じたのだ」

「ワケありでね、本気はまだ出せないんだ。手の内はまだ見せないよ?」

「んー・・・・なら!」

少し思案した後、何を思ったのか張飛は蛇矛を担いだままどこかに行ってしまった。

「どうたたんだ・・・・?」

「さあ・・・」

張飛の突然の行動に俺も趙雲も首を傾げるばかり。

「ま、どちらにせよ、後で戻ってくるだろう。その間・・・・・よろしいか?」

こちらの顔色を窺うようにこちらを見た。

少し肩をまわして見る・・・。うん、異常なし。

「・・・・大丈夫だ」

挑発するように笑うと、趙雲も同じ笑みで返した。

「では・・・・参る!!」

 

「はぁっ・・・・・!」

趙雲は短い掛声一つすると愛槍を構え、神速の如き一撃を放った!

「――ッ!」

殆ど勘で動いた。

ひゅっ、という風を切る音。槍の先端は俺の顔面すれすれを捕らえていた。

はらり、と髪の一部が地面に落ちた。

・・・・・速い。

「ほう。私の一撃を避けるとは・・・・・」

にやりと口の端を歪め、愉快そうに笑う。

「ちぃ・・・!」

小さく舌打ちして、神星刀を片手に構え袈裟切りで趙雲に襲い掛かった。

趙雲は一歩引いて俺の斬撃を避けると槍を短く持ちかえ、石突きで殴りかかった。

神星刀でいなし、腹部目掛けて突く!

「むっ・・・!」

柄で一撃を受け止めるとそのまま飛び下がった。

「やればできるではないですか」

こちらの動きに満足したのか、より一層笑みを浮かべた。

 

――しかし、やり難い。

張飛の蛇矛の長さは一丈八尺・・・約5.5mの長さだ。

それに比べ、趙雲の槍の長さは九尺・・・約3mだ。

張飛の場合、蛇矛が長すぎる所為で懐に潜り込んでしまえば行動は制限される。

しかし、趙雲の場合、標準の槍よりも1m分長いので、その分のリーチがやや長い。

1m伸びたところで槍の本質は変わっておらず、近中遠・・・オールレンジ攻撃、いわばオールラウンダー、と言った所か。

俺はそもそも剣だから近接でしか戦えない。

相性が悪いなぁ・・・。

 

「だが・・・・・!」

短く息を吐き捨てると共に短い動作で突きを繰り出す。

「――‐む?」

数打ちゃ当たるの精神で威力を殺し、手数で攻めて行く。

完全に突き出そうとは考えずに寸での所で止めたりフェイントを入れたりと工夫を凝らしてみる・・・・が。

流石は趙雲、冷静にこちらの攻撃を見切り紙一重で避けていた。

だが―――!

「はぁっ!!」

突いたと同時に意識が剣に向かっていることを確認すると、蹴りを加える。

いける! と思ったのもつかの間、槍の柄の部分で防がれてしまった。

槍をくるっと半回転させ、こちらを弾き飛ばした所で張り詰めていた空気が少し和らいだ。

「今のはいけたとおもったんだがなあ・・・」

「ふぅ・・・まさか剣に意識が向いている時に何か来るとおもっていたが・・・・

いやはや、まさか蹴りだったとは・・・」

「・・・何かって・・・肉体での攻撃以外にあるのか?」

俺がそう問いかけると趙雲は愉快そうに笑った。

「"天の御使い"殿の噂は有名ですぞ。

 なんでも万物を操るだの仙術を使うだの・・・色々あるが?」

あぁ・・・そうだった・・・忘れてたよ、そんな噂。

「・・・・まぁ模擬戦闘では使わないよ」

「ほう・・・」

「この力は対価があるからね。無闇には使えないよ」

「対価・・・?」

と、趙雲が問いかけてきた時に元気な声が割って入ってきた。

「つれてきたのだー!!」

息を切らせることなくこちらに走り寄ってきた張飛の隣には・・・・。

「り、鈴々ちゃん・・・・は、走るの・・・早いよぉ〜・・・・」

張飛に手を引かれていたのは劉備さんだった。

「おや、桃香様も模擬戦闘をご覧に?」

「ふう・・・ふう・・・・・模擬戦?」

「うむ。北郷殿と私や鈴々の模擬戦をやっていたのですが・・・・」

「おにいちゃんが本気をだしてくれないのだ」

「北郷さんの本気?」

「えぇ、我々と共に戦うのですから味方の将の能力を推し量りたいとおもったのですがね」

そう言って挑戦的に微笑む趙雲。その期待に応えてやりたいのは山々なんだが・・・。

「・・・ん?」

「北郷さん?」

この感じ・・・ヤツらか。

「・・・ここでは見せれないが戦場でなら」

「戦場って・・・この近くに黄巾党の連中はいないよー?」

「ならこっちからみつければいいのさ」

「しかし・・・そう簡単に見つかりますかな?」

そう聞かれて俺はすっと東を指差した。

先ほどから神星刀の力を借りて遠くを見据え、ヤツ等が村からかっぱらって来た食料を貪るように食っていた光景が見えた。

「ここから10里・・・いやもう少しか? そのぐらい進むとヤツらの拠点がある筈だ」

「・・・どうして分かるんですか?」

「まぁ・・・どういう原理かと聞かれれば答え難いが、敢えていうならコレが俺の能力、かな

 俺『自身』、戦闘能力にはあんまし突出してない、どちらかと言えば諜報が主かもしれない」

「・・・」

劉備さんは何か考えている様子、俺はそのまま続けた。

「戦闘に関しては基本的に単独で戦っているんだ。

 といっても相手を崩壊させるだけの力はないから、こそこそと動いて戦うのが今のトコロの戦術か」

コレは嘘じゃない。ぶっちゃけた話、神星刀の力を借りないと単独で大軍相手を崩壊させるなんて無理だ。精々小隊を潰すので精一杯か。 ・・・まぁあの時から鍛えてあるから体力には自信がある。

逃げる・・・というより敵を錯乱、分断して各個撃破が限界。

コイツの力が無いと大軍相手にタメ張れない。故に軍を名乗ることが出来る。

(あの人の所為で何故か北郷『軍』と呼ばれるしな・・・)

「ま、俺の能力はどうであれ敵さんは居るんだ、どうする、劉備さん?」

「黄巾党が居る以上、私は軍を代表して皆を守る義務があります」

俺が指した方向に鋭い視線を向ける劉備さん。

・・・いい目をしている。 出会ったと時はポヤポヤしている人かと思ったが・・・そうでもないらしい。

「では桃香さま、私は準備をして参りますぞ」

「戦なのだー!」

「うん、お願いね。星ちゃん、鈴々ちゃん

・・・と、ついでに朱里ちゃんと雛里ちゃんも読んできてくれる?」

「御意」

そういって趙雲と張飛は天幕へと戻っていった。

「さて・・・と」

腰に巻かれたポーチの様なものから地図を取り出す劉備さん。

「私、あんまし頭がよくないですけど、もしよろしければ作戦を一緒に考えてくれませんか?」

「・・・ふむ」

顔は笑っているが口調は挑戦的だ。 恐らく劉備さんなりに俺の実力を測ろうとしているのだろう。

・・・なかなか油断できないお人だ。

「さっき10里ぐらいと言ったが、ヤツ等は平地を拠点としていない。

烏合の衆だが中には頭のキレる奴も居るようだ、山の中に拠点が存在する。

しかもこのまま東から攻めれば視界が悪いところで戦うハメになる。

かといって他の方角から攻めれば地形事態が悪いから不安定な足場での戦いとなる」

「私たち軍の構成の殆どは正規兵じゃなく、農民からの次男三男などの人が多いんです。

主に平地での畑仕事を生業としている彼らには・・・少し難しい場所かも・・・」

「黄巾党が山賊であるが故にこの場所での戦闘は相手に有利だ」

「・・・そうなると・・・」

と、劉備さんが再び考える仕草を見せた時にどこからか懐かしい声が聞こえた。

「敢えて東から攻めて相手をおびき出し、左翼か右翼で前衛部隊を援護、後に別働隊で相手の後方を付く・・・でもそれじゃあ少し足りない気がします」

ソレに続くように少し遠慮がちな声が続いた。

「相手がこちらに突撃を仕掛けている間に別働隊が相手の兵糧を鹵獲するか焼き払うことで相手の士気を奪うことができるんです」

向けば諸葛亮と鳳統が地図を覗き込みながら言っていた。

・・・・いつの間に。 べ、別に小さくて気付かなかったワケじゃあないぞ!?

「・・・なんか北郷さんが失礼な事を言った気がします・・・」

「気のせいだ」

「あぅ・・・・」

「・・・で、その別働隊だが・・・」

諸葛亮と鳳統のうらめしくこちらを見ていたので慌てて話題を変える。

「俺に任せてくれないか?」

「・・・・どうするんですか?」

「・・・先ず―――」

地図を指しながら作戦概要を説明していった――

説明
随分と久しぶりな更新です。
ちまちまと書いていたらこの話が妙に長くなってしまいました・・・;

日を置きながら書いている所為か、テンションが毎度変わるもので、話の書き方に違和感があると思いますが・・・広い心でお許し下さいな。


やはり戦闘シーンは難しいですな。
こういったモノを書いてる人はどんな風に思い浮かべて書いてるんだろ・・・。

そんなワケで第5話です。 ごゆるりと〜。
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コメント
・・・すっかりその機能忘れてました; ありがとうございます〜(AKNESS)
1pではなく、数pに分けてみたら?(zendoukou)
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