真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第一章・第二幕 『凶刃乱舞』
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 「こ、これは……」

 

 「……惨すぎる。クソッ!!同じ人間相手に、ここまで出来る奴が居るって言うのか!?」

 

 その、四人の人物の目の前に広がる、光景。それは、少しでも気の弱い者が見たならば、確実に卒倒するであろう、言葉では表せないほどの惨状であった。

 

 地に臥すは、無数の屍。地に流れるは、真紅の河。聞こえてくるのは、幼子の泣き声と、”被害者”達のうめき声。

 

 そして、彼らを励まし、懸命に治療を行う、一刀たちが連れて来た、医療兵達の必死の叫びが、途切れることなく辺りにこだまし続ける。

 

 「輝里。……被害の詳細は、掴めたのかい?」

 

 眉間にしわを寄せたままの一刀が、被害状況を調べていた徐庶に、その結果を尋ねた。

 

 「……生き残りは、三十名ほど。若い女性は、ほとんどが”連中”に連れて行かれた様子です。邑の中に貯蔵されていた、すべての食料とともに、財といえるようなものは、何も残っておりません」

 

 その表情から、怒りと憎悪を決して隠そうとせず、徐庶は竹簡にまとめられた邑の被害状況を、一言一句決してもらさないよう、丁寧に読んでいく。

 

 事の起こりは、半日ほど前。郡内のある邑が、賊の襲撃を受けているとの知らせを受けた一刀たちは、とるものもとらず、その場に駆けつけた。

 

 だが、すべては一足遅かった。

 

 邑は壊滅し、賊たちはすでに逃亡した後だった。

 

 後悔。そんな言葉では片付けられない想いが、一刀たちの心を支配し、そして、それはやがて怒りへと、その姿を変えた。

 

 「……カズ、もちろん、追撃するんやろな?もしこの状況を見てせえへん、なんていうたら、ウチは決して許さへんで」

 

 と、一刀に対して姜維がそう言いながら詰め寄り、その顔を覗き込む。

 

 「……」

 

 ぞくっ!!

 

 その瞬間、彼女は、その背中が凍りつくかのような思いをした。

 

 鬼。

 

 そんな、空想上の存在でしか無い筈の”それ”が、そのときその場に立っていた、と。後日彼女はそう語った。

 

 「……輝里。君はこの場に残り、衛生兵たちの指揮と、生き残った人たちの、?への移送を行ってくれ」

 

 「……御意」

 

 「由。君は先行して、連中の足取りを。……見つけても、手出しはしないようにね」

 

 「あ、は、はい。分かりました!」

 

 「蒔さん。兵たちに出立の準備を、早急にさせてください。……少しでも遅れたものは、厳罰に処す、と。そう伝えてください」

 

 「わ、わかった」

 

 誰も、一刀の指示に口を挟めなかった。ただ、言われたままにてきぱきと行動に移っていく。……そう、何も言える筈がなかった。……一刀のその、まるで、地獄の底から響いてくるような、そんな、怒気と憎悪に満ちたその”声”を聞けば。

 

 

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 その数刻後。

 

 「カズ!見つけたで!連中、いい気になって酒盛りなんかしとる。”あそこ”から連れ去られて来たらしい、女たちも、そこに居てる」

 

 「……数は?」

 

 「……ざっと見て、三万は居った」

 

 「……分かった」

 

 と、姜維の報告を聞いた一刀が、一言だけそうつぶやいて、一人、その歩を進めだす。

 

 「待て!一刀!どこへ行く気だ!?」

 

 「……決まってるでしょ?……”狩り”に行くんですよ。……人を殺すのは、正直今でも、ためらわれるし、怖いですけど、……あそこに居るのは、”人”じゃありませんからね。……欲望に染まり、外道に堕ちた、ただの”餓鬼”。獣以下の、ね」

 

 『…………』

 

 これが、あの時、初めて人を殺した時、胃の内容物を全て吐き、その涙を、枯れるほどにまで流し、後悔と懺悔を、十日もの間行った人物なのか、と。徐晃と姜維は、自分たちに背を向けたままの一刀のその声に、背筋も凍るような戦慄を感じた。

 

 二人がそんなことを思う間にも、一刀はテクテクと歩いていく。まるで、これから散歩にでも行くような、そんな足取りで。

 

 「ちょ、ちょっと待て!一刀!いくらお前が強くったって、一人で三万も相手になんか、出来っこないだろうが!!」

 

 「……」

 

 「せや!あいつらが憎たらしいんはよう分かるけど、無茶にもほどがあるで!!」

 

 「……」

 

 そんな二人の声も、今の一刀には届かないのか。一向に、歩を進めるのを止めようとしない。

 

 「……〜〜〜んっの、馬鹿カズ!!ちょい待ちぃ言うとるやろが!!」

 

 が、と。一刀の肩を背後からつかむ姜維。そして、

 

 「……由、邪魔をしな(ばちぃん!!)……え?」

 

 彼が振り向いた瞬間、いきなり、その頬に、思い切り平手を食らわした。

 

 

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 「ふざけるのも、大概にしておいてください!!そんなに私たちが当てになりませんか?!私たちだって、想いは一刀さんと一緒です!!あんな目にあった邑の人たちの敵を、この手で取りたいんです!!なのに、一刀さんはなんで!”また”、一人で背負い込もうとするんですか!!」

 

 「…………」

 

 本人にも自覚はないのか、無意識に標準語になってしまっている姜維が、一刀に対し早口でそれだけまくし立てる。その台詞を、一刀は痛みの走る頬をその手で押さえつつ、ただ黙って聞いていた。

 

 「……由の言うとおりだな。一刀。お前が強いのはよく分かっている。その、責任感も含めてな。だが、いつぞやか言っただろう?我々は、いつでもお前の傍にいる、と。その剣として、鎧として、だ。……全部とは言わん。少しぐらい、あたしたちにも、”罪”を犯させろ。……一緒に背負うのでは、無かったのか?」

 

 「蒔、さん……。由……。……ごめん。すこし、頭に血が昇りすぎていたみたいだ。……てつだって、くれるかな?敵討ちを、さ」

 

 「もちろんや!」「無論」

 

 笑顔で握手を交わす、三人であった。

 

 

 そして、始まった。

 

 

 生き残った者の内の一人が、助け出された女たちが、そのときのことを、口を揃えてこう表現した。

 

 

 地獄が、この世に現れた、と。

 

 

 

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 「な!なんだ手前は!!」

 

 「……死神さ。お前たちの、な」

 

 ?郡の、とある邑を襲った後、賊たちは野営をかねての、宴会の真っ最中であった。攫ってきた女たちをはべらせ、上機嫌で酒を飲んでいた彼らは、たった一人の人物の接近にすら、気づけなかった。

 

 最初に餌食にされたのは、彼らを率いる頭目だった。

 

 「ひ〜っく。……あ?酒がねえな。おい!誰か代わりの酒を持って来い!」

 

 空になった酒瓶を手に、そう叫ぶ男。そこに、一人の青年が現れて、彼に対してこう言った。

 

 「……酒の代わりに、末期の水でも飲んでなよ」

 

 「あ?」

 

 それが、男の最期の言葉。

 

 何が起こったかわからない、という表情のまま、男の首が、宙に舞った。

 

 「きゃあああああああっっ!!」

 

 男の傍にいたその女性が、その光景を見て悲鳴を上げた。そしてこの時、ようやく賊たちは、”敵”が入り込んでいることに、気がついたのである。

 

 そして、先の台詞へとつながる。

 

 「手前!よくもお頭を!!」

 

 一刀の周りを、数人の男たちが取り囲む。全員が手に手に武器を持ち、その殺気を一刀に向ける。

 

 だが、次の瞬間。

 

 どしゅうっっっ!!

 

 全員の首が、先ほどの男と同じ表情で、宙に舞う。そして、

 

 「……後の連中。好きに選べ。惨たらしい死か、一瞬の死か。……あれだけのことをしたお前たちには、もう他の選択権は一切無い。……さあ選べ!!お前たちが奪った大勢の罪無き命のように、惨たらしくのた打ち回る死がいいか!!それとも、せめてもの慈悲にて、死んだことも分からない内に死にたいか!!」

 

 朱雀と玄武。その太刀と脇差を両手に携え、一刀が”吼えた”。その、憎悪と憤怒の気を、強大な闘気と変えて。

 

 殺戮が、始まった。

 

 

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 ただ、真紅だった。

 

 戦いという名の、一方的な殺戮劇が、一刀を中心に展開されていた。その、狂気とも言える戦いぶりに、賊たちは恐怖を覚え、泣いて命乞いをする者もいた。だが―――。

 

 「……そうやって、同じようにすがる者を、あんたらはどうした?」

 

 一刀は、ただただ、その者たちに、無慈悲な眼と言葉を、向けるのみであった。

 

 そうして、一刻も経つ頃には、一刀の周りに屍の山が築き上げられた。

 

 正確な数は、正直誰にも分からなかった。

 

 逃散し始める賊たち。だが、それも適わなかった。

 

「……どこに行こうっちゅう気や?」 

 

「逃げ場なぞ、もはやどこにもありはしないぞ?」

 

周囲は、徐晃と姜維が率いる八千の兵によって、完全に囲まれていた。

 

 

 そして。

 

 

 それからおよそ一刻も後。一刀たちと、救出された女たち以外、そこには、生物はもう、何処にも居なかった。あるのは、元・賊だったものたちの、成れの果てのみ。

 

 たった八千の兵が、賊相手とはいえ、三倍以上の相手を、文字通り”殲滅”した。その事実は、瞬く間に、大陸全土に知れ渡った。

 

 かろうじて、彼らの手から逃げ延びた、わずか数名の者達。その、彼らを情報源として。 

 

 ある者は、その情報に恐怖し、またある者は、ただただ関心を示し、そしてまたある者は、それを大きく嫌悪した。

 

 

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 その後、?の城に戻った一刀たちは、大勢の民、そして、被害の当事者たちの生き残りの者から、歓声と感謝を、それぞれに受けた。

 

 複雑な、その胸中を必死の笑顔で隠し、それに応える一刀たち。

 

 

 そしてその日の夜。

 

 姜維も徐晃も、そしてすべての兵たちも、みなが様々な理由から来る疲労で、早々と寝静まった深夜。

 

 玉座の間にて、一刀は一人、床に座り込んでいた。何をするというわけでもなく、何を考えているというわけでもない。ただ、眠れなかった。……昼間の、自身の行為を、まぶたを閉じた途端、思い出してしまうために。

 

 そこに、

 

 「……眠れませんか?」

 

 「……ま、ね」

 

 いつからいたのか、徐庶が、一刀のその背に声をかけた。そして、

 

 「……それなら、すべて、出してしまえばいいんです。……涙と、一緒に」

 

 そ、と。

 

 そう言いつつ、一刀を背後から抱きしめる。優しく、優しく、包み込むように。

 

 「輝、里……?」

 

 「……泣くだけ泣いて、また、明日から、いつもの一刀さんに、戻ってください。……今夜のことは、二人だけの、秘密です」

 

 「かが、り……。俺、おれ、は。……う、く、あ、あ、あああああああああああっっ!あああああああああああああああっっっっっっっっ!!」

 

 すきま風が、広い室内の灯りを、全て消し去った。

 

 そこに響くは、一刀の悲痛な叫び。

 

 そして、それもやがて聞こえなくなる。

 

 その代わりに、少女の妖艶な声が、そこにこだまし始める。

 

  

 傷つき、嘆く、その青年の、強くも脆い、その魂を包み込むために、少女はその時、”女”になった。

 

 いとおしい、その一人の男に、全てを捧げて。 

 

 (この人は、何があっても、自分が支え、守り抜く)

 

 そう、新たな決心を、その心に秘めて。

 

 その手の中の、黄色に染め上げられた、一枚の布を、強く、握り締めながら。

 

                                  〜続く〜 

  

 

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 で、あとがきコーナー、なんですが・・・・。

 

 「・・・・・・・」

 

 「えへ、えへへへへ♪」

 

 ・・・えーっと。とりあえずこの場は、二人に任せて僕はちょっと・・・。

 

 「・・・何処行く気ぃや?さくしゃはん?」

 

 あ、いえ!別に何処ってわけでは・・・。

 

 「だめよ、由ってば。作者様に八つ当たりなんかしちゃ」

 

 「・・・〜〜〜〜っ!!・・・いつか、いつかウチだって・・・!!おら、作者!!とっとと次の話書かんかい!!」

 

 ちょ、ま、よせ!暴力はんた、アッーーーーーー!!

 

 

 「じゃ、あの二人は無視して、次回の予告です。ついに黄巾への攻勢に打って出る私たち!」

 

 ・・・・そ、そこに、あの三姉妹はどう絡んでくるのか・・・ガク。

 

 「ふん!・・・でもって、さらに登場する新たな勢力とは?(棒読み)」

 

 「次回、真説・恋姫演義 〜北朝伝〜、第一章・第三幕」

 

 「『黄宴終序』(仮)」

 

 「コメント等、お待ちいたしております。それでは」

 

   

 

 『再見〜!!』

 

 

 

説明
第一章の二話目でございます。

前回の予告とは、内容が少し、いえ、まったく変わっちゃたんですが、生暖かい眼でお見逃しおばww

ということで、時間を少しだけ遡り、張挙が三姉妹に指示を出す、

ほんの数日前の出来事です。

そして、一刀が黄巾の発生を知る切欠となった、

ある事件を紹介します。

では。

追伸:前回の予告と、今回書いた副題、一文字間違えて増したので、

正しい物に直しました。すいません。

追伸の追伸:また少し加筆しました。ホントごめんなさい。
(12/3 20:20)
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コメント
嫌悪ってお花畑グループでしょ?拳を作ってお話しましょうの人たちだからしょうがない(たぬきち)
人を殺した後泣いたり吐いたりするお決まりのパターンってどうにかならないのかね。これくらい簡単に万単位を殺戮出来る生物なら終わった後も平然としているものですよ。蟻を踏み潰すのと変わらない(gt)
優しさだけで生きていけるッて、どこかの劉備玄徳さンですかwww(たこきむち@ちぇりおの伝道師)
なっとぅさま、誤字報告どうもですw直しときます。(狭乃 狼)
誤字2p彼が「無理」向いた→「振り」向いた かな。(なっとぅ)
よーぜふさま、はい、たっぷり甘えたそうです。・・・ククク。モゲチマエバイイノニ・・・。(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、二度とはやらないとは、思いますけどね。(狭乃 狼)
はりまえさま、優しいだけで生きていける。そう思っている人が、約一名いますけどねw(狭乃 狼)
かがりさん・・・壊れすぎw まぁ仲間がいるんだから、しっかり甘えて、頼ってくださいな?(よーぜふ)
輝里が一番乗りですね。しかし一刀強し。あんだけすごかったら確かに地獄が現れたと思うわな。(mokiti1976-2010)
人殺してまともなやつなんていない、いたらそいつはねじが飛んでるやつだな。だからこれが正しい在り方なんだろ。やさしいだけであの世界は生きてはいけないだろうな・・・・・(黄昏☆ハリマエ)
hokuhinさま、桃香については、ま〜、複線・・・とまではいきませんが、絡んではきますよw後々、ね。さて、天和たち以外に、出てくる原作キャラは誰でしょうか?!お楽しみに、です。(狭乃 狼)
一刀の怒りが尋常じゃないな・・・桃香あたりが聞いたら嫌悪しそうだ。次の黄巾の乱で原作キャラと絡むのか楽しみですね。(hokuhin)
kabutoさま、さて、二人が食べられちゃうのはいつでしょうか?!それはまだひ・み・つ。ですww(狭乃 狼)
村主さま、なんて物を由に売ってるんですか!あ、待て、由!それだけは、それだけはかんべn・アッーーッ!(狭乃 狼)
紫電さま、犠牲者なんですね、一刀にクワレタ子はww(狭乃 狼)
砂のお城さま、そこははっきりしていただきたいww(狭乃 狼)
東方武神さま、二人が嫉妬・・・ですか?由と、もう一人って、蒔さん?そんなシーン入れましたっけ?あとがき込みで。はて?(狭乃 狼)
輝里おめでとう!(^∀^)b蒔さんは!?由ちゃんはいつですか!!?(kabuto)
謎商人X「姜維様、ご注文頂いた「すうぱあお菊ちゃんでらっくす」確かにお届けしました さてどなたにお使いになるのやら(2828)」(←7pやりとりよりw(村主7)
コラコラ二人とも嫉妬は良くないですよ〜・・・ククク、一刀モゲチャエ・・・(東方武神)
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恋姫 一刀 徐庶 姜維 徐晃 黄巾 

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