真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第一章・第三幕 『黄演終劇(前編)』 |
そこは、?と平原の郡境に位置する小高い丘の上。蒼天の下、黒地に白十字の牙門旗が、その地に揚々とはためいている。
「……これが、袁紹さんの返事、ですか」
怒りと呆れ。その双方を含んだその声を、一刀は眼前の二人に対して投げかける。
『…………』
一刀のその背後には、徐庶と姜維、徐晃の三人が並んで立ち、さらにその後方には、蒼色の鎧を身に着けた?郡所属の兵二万が、整然と隊伍を組んでいる。
その反対側――。つまり一刀の正面には、金色の鎧を身に着けた二人の女性が、その顔に無念の表情を浮かべて立つ。
一人は、腰まで届くほどの長いストレートの黒髪と、その紅い瞳が特徴的な、長身の美女。姓は張、名は?、字を儁艾。
もう一人は、その張?の半分ほどしか背丈のない、首から下を全身鎧で覆った、童のようにも見える少女。姓は高、名は覧という。字はない。
二人とも、南皮を治める袁紹配下の将であり、一刀たちへの援軍として、この地に現れていた。二人の背後に居並ぶ、”五千”の兵を連れて。
「……俺たちはこれから、”十万”の兵と、黄巾の”首謀者”達が居る地を、攻め落とそうとしているんです。今回の乱を、早急に終わらせる好機と判断したからです」
二人を冷たい視線で見据えたまま、一刀は務めて冷静に、その口から言葉を紡いでいく。
そう。姜維とその配下の者たちの調べにより、現在黄巾の支配下にある平原に、その首領と思しき”三人”が来ていることを、一刀たちはほんの数日前に知ったのである。
黄巾の乱を終わらせる、絶好のチャンスだと、一刀は平原攻略を決断した。だが、その彼我戦力は火を見るより明らかだった。
平原に集結している黄巾軍十万に対し、?の戦力はわずかに三万。それも、万が一のことを考えると、すべてを動かすわけにはいかない。
「さきに投降して来た彼らは、いまだ戦力として見込めませんし」
と、徐庶がそんな事をぼやく。
それは、この二日前の出来事。
再び?郡に現れた賊たちの討伐に、一刀達はすぐさま対応すべく動いた。”以前”のような事態を、二度と起こさないように。ところが、いざその賊たちと遭遇し、一刀が名乗りを上げたその瞬間、予想外の事態となった。
賊たちが、一戦も交えることなく、降伏してきたのである。
「……あの時の事が、思わぬ形で返ってきたな」
と、少々拍子抜けした一刀の隣で、徐晃がそうつぶやいた。
その後、降伏してきた者たちの内、半分は農民に戻って働くことを望み、残りが兵として、組み込まれることになった。そして現在は、街に残っているある一人の”将官候補”の指導の下、訓練の真っ最中である。
それはともかくとして、戦力不足を補うために一刀たちが選んだのは、同じ冀州の一郡である、南皮の袁家に援軍を求めることだった。
そしてその結果、一刀たちの下に現れたのが、張?と高覧の二人と、五千の兵だったのである。
一刀達は、心底から失望した。四世に渡って三公を輩出してきた、世に名門と名高い袁家。
所詮、それは名ばかりのものだったのか、と。実際、事前の調べでは、南皮には戦闘可能な戦力が五万は居たはずである。なのに、送られたきたのはそのわずか十分の一だけなのか、と。
「どうやら、袁紹どのには、本気で今回の乱を終わらせる気が無いと見える」
「蒔ねえの言うとおりやな。こんな大事なときに、兵の出し惜しみなんかして。……あんさんらの大将は何を考えとんねん?」
と、言葉は静かに、その怒りは明らかに。袁家の二将に対してそう言い放つ姜維と徐晃。
『…………』
それに対し、二人は何も言い返さずに居た。ただうつむき、その唇をかみ締めている。その両の拳を、思い切り握り締めたままで。
「二人とも、少し落ち着いて。「しかしな」「せやけど」いいから。……張将軍、高将軍。そちらがわずかに五千しか兵を出してこなかったその理由、お伺いしてもよろしいですか?」
怒り心頭、といった感じの姜維と徐晃を制し、一刀が二将にそう問いかける。それに対する二人の答えはというと。
「……色が……です」
「?色が……なんです?」
「その、兵の鎧の色が、地味すぎる、と」
「……え〜っと。それは、どういう……」
張?と高覧の、その言葉の意味がわからず、首を傾げてさらに問い返すのは、徐庶。
「名門たる袁家の兵は、装備もやはり、それにふさわしいもので無ければならない、と。……それで、すべての兵の鎧を、金無垢で統一してからでなければ、私は決して戦に出て行くことは無い、と。……そう、おっしゃっておいででして……」
『……(ぽか〜ん)』
開いた口がふさがらない、とはよく言ったものである。一刀達は正にそんな状態、そして心境であった。
「……なんかもう、あほらしゅうて怒る気ぃも失せたわ」
「そうだな。……張?どの、高覧どの。……大変だな、あんたたちも」
『御同情、痛み入ります……』
半分涙目になっている二人に対し、先ほどまでの怒りを一転、哀れみの目を向ける徐晃と姜維であった。
「……とりあえず、そちらの事情は承知しました。ですがお二人とも、後ろの兵士たちを見る限り、別段代わり映えはしていないように、見受けられますが?」
「そうですね。思いっきり地味〜な、黄色の鎧ですし……。まさか、とは思いますけど、お二人は袁紹さんの許しを得ず、独断で動いてきた、なんてことは……」
『……』
徐庶の問いに何も答えず、ただうつむくだけの二人。それは、彼女の憶測を認めたと同義であった。
「……なんともはや。その心意気は買うが、それでも、主の意向を無視して、勝手に出てきた連中を使ったとなると、後々面倒なことにならないだろうか?なあ、一刀?」
「それは別に心配せんでもええんやないの?”勝手に”出てきた連中が、”勝手に”ウチらと同じところで戦うた。で、”たまたま”思うた通りに動いてくれた。そんだけや。な?輝里」
詭弁。
そんな言葉を知っているかと、徐庶に問われ、何のことやらとそっぽを向く姜維。そして、やれやれと肩をすくめる一刀と徐晃。そして、ぽかん、と呆気に取られる張?・高覧の二人であった。
「……ま、そういうことだから、もしこのまま、お二人が”勝手に”手伝ってくれるのなら、俺たちにはそれを止める権利は、ありはしません。……どうしますか?お二人とも?」
一刀のその問いに、少しだけ互いの顔を見合わせた後、張?と高覧は笑顔になって、
『……喜んで、”勝手に”働かさせていただきます!!』
と、答えたのであった。
ちょうどその頃。?郡内のとある邑。その中の宿の一室にて。
「ぜーんぜん、駄目じゃないよ〜、人和〜。みんな、歌は聞いてくれるけど、その後の話はこれっぽっちも聞いてくんないじゃないの〜」
と、机に突っ伏し、そう愚痴る三姉妹の次女・張宝。
「……そうね。それどころか、黄巾の”こ”の字でも口にしようものなら、ものすごい白い目を向けられるんだもの」
はあ〜、と。頬杖をついてため息を漏らすのは、三女の張梁。
「この郡の人達、今の太守さんがすっごい好きなんだね。……おねえちゃん、ちょっときょーみが湧いたかも」
と、一人だけ嬉々としているのは、長女の張角。
スポンサーである張挙の指示を受けて以降、彼女たち張・三姉妹は、?の”街”を避けて、各地に点在する”邑”のみで、興行を打ち続けて来た。だが、その成果は芳しくなかった。人々は、彼女たちの歌にはその耳を傾け、聞き惚れこそするものの、いざ黄巾軍への助力を、という話を始めると、途端にその態度を百八十度変え、彼女たちを激しく非難し始めるのである。
いわく、
「誰が賊なんぞに手を貸すか!」
「太守さまに歯向かう?そんな罰当たりで恩知らずなこと、できる訳が無かろうが!!」
「北郷さまは私たちを第一に考えてくれる、とっても素晴らしいお方よ!ふざけるもの大概にしてよね!!」
などなど。
一刀を擁護する声が、そこかしこから挙がってくるのである。
「正直言って、これ以上?郡での興行は難しいわ。そこでね、これから平原に向かおうと思うの」
『平原に?』
と、声を揃えて張梁の考えに首をかしげる、二人の姉。
「そう。あそこには今、張挙さんたちが揃って出張ってきているそうだから、今後のことを直接話し合いたいと思うの。どうかしら、天和姉さん、地和姉さん?」
「……そうだね。わたしも、それが良いと思う」
「あたしもさんせー。ていうかさ、あたしらいつまで、連中の言う事を聞かなきゃなんないの?」
「……もう暫くは、続けるしかないと思う。……それじゃ、明日の朝一番で、平原に向けて出発しましょう」
折も折り、一刀たちが平原攻めを開始しようとしていた矢先。彼女たちもまた、平原に向かうことになった。
そしてさらに、同じ地を目指す、別の一団がいた。
「なあ、賈駆っち。ホンマに、これで終わるんやろな?」
「安心なさいな。ボクの情報に間違いは無いわよ。……それよりも霞、あの馬鹿の手綱、ちゃんと握っておきなさいよ?もしもまた」
「そないしつこう言わんでも、ようわかっとるって。……にしても、なんで月っちまで一緒について来んねんよ?戦なんか嫌いなはずやろに」
チラ、と目線だけを後方の馬車に移す、霞と呼ばれたその女性。
「止めたんだけど全然聞かないのよ、月ってば。……太子さまと、何か話していたのは、知ってるんだけど」
その女性同様、視線だけを馬車へと送る、賈駆と呼ばれた眼鏡の少女。
その馬車の横には、紫色のビキニのような鎧を身に着けた女性が、柄の長い斧をその手に携えて並走し、周囲に警戒の気を配っている。そしてその馬車の中では、一人の少女が一本の竹簡をその手に持ち、こうつぶやいていた。
「……殿下のご友人、北郷一刀さん、か……。へう〜。どんな人なんだろうな……」
その一団の先頭に、紫色に染め上げられた、少女の牙門旗が翻り、風を受けて静かにはためいていた。
『董』と書かれたその牙門旗。
それは、涼州刺史・董卓仲頴、その人のものであった。
〜続く〜
あとがき
「の、コーナーでっす。どーもー!一刀さんの正妻、輝里で〜す!!」
「輝里・・・ケンカウットンノ?・・・由や。よろしゅうに」
(こそこそ)
「またんかい、作者。どこいくんねん」
・・・病院ですよ。こないだ誰かさんが”責めて”くれた部分。思ったより酷い事になってたしね。
「ほ〜う。ウチのせいやと。・・・”また”掘ったろか?」
「ちょっと、由。んなことして八つ当たりばっかしてたら、本当に一刀さんと・・・はなくなっちゃうかもよ?」
「む。・・・ち、しゃーないな。こら作者、早いとこウチの順番、回しいや?でないと・・・」
わ、わかりました・・・。黄巾編終わってからってことで、ここは一つ・・・。
というわけで、今回のお話、いかがだったでしょうか?
「いよいよ次回、大規模な攻城戦ですね」
「せやな。天和たちもあそこにやってくるみたいやし、それに」
「月さんたちも、同地へと歩を進めてるね。・・・次で決着つくのかな?」
そこはまだ秘密。もしかしたら、三部位に分けることになるかも。というわけで、今回は予告無しで、ご勘弁を。
「じゃ、みなさん、コメントなどなど、たくさん、お待ちしておりますね」
「支援もポチッと、してやってくれたら、作者が喜ぶんで、よろしゅうに」
それではみなさん、また次回にて、お会いしましょう。
『再見〜!!』
説明 | ||
北朝伝、黄巾編三幕目です。 副題については、まあ、気にしないでくださいw ある情報を元に、ついに行動を開始する一刀たち。 張三姉妹は、そして、新たに出現する、謎(笑)の軍勢とは? では、どうぞ。 追伸:2p目、一文追加改訂しました(12月5日、14:33)。 |
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コメント | ||
KATANAさま、まったくもって、ですね。・・・ま、しばらく無理ですけどww(狭乃 狼) kabutoさま、一刀配下になったら、二人の不幸も消えるのでしょうか?それは誰にもわからないww(狭乃 狼) 東方武神さま、一刀配下になる→種馬の餌食、ですねww(狭乃 狼) mokiti1976−2010さま、多分麗羽にいろいろと吸われるんでしょうwさ〜て、輝里が正妻で決定なんでしょうか?^^。(狭乃 狼) 正妻www張さんと高さんが可哀そ過ぎるけどいいキャラですね。早く一刀引き取れwww(kabuto) 哀れ二人・・・早く一刀の陣営に引き込まなければッ!!(東方武神) 袁家に仕える人はろくな目にあわないのですね〜(七乃は除く)。このまま一刀の許へGO!というわけにも行かないのでしょうが。しかしこのまま行ったら宣言通り輝里が正妻になるような・・・。(mokiti1976-2010) 砂のお城さま、はい、出ないほうがおかしいですねwwあの二人の仲間入りについては、さてさて?(狭乃 狼) よーぜふさま、だからあなたはナニを渡してんですか!!癖になったらどーしてくれると(オイww(狭乃 狼) hokuhinさま、なかなか鋭いですなwwま、ほんとかどうかはわかりませんが^^。(狭乃 狼) シンさま、確かにそのとおりですねwwでも、二人の不幸はとーぶん続くのであったww(狭乃 狼) えっと・・・張さんも高さんも、どんまい? そしてケダモノの餌食がまた増えるんですね・・・ おっと由殿、病院に行かない程度にいたぶるというのでこんなものはどうでしょう? つハリガネムシ〜♪(よーぜふ) 相変わらずの麗羽様か・・・張?と高覧よく来れたな、もしかして斗詩が裏で手を回したとか?(hokuhin) あの二人、仲間に引き込んだ方が救われる。(シン) 紫電さま、はい、苦労してんです、あの二人。だからこの先、・・。おっとと。自主規制、自主規制っとww(狭乃 狼) 村主さま、とりあえずあの二人には、最上級のブツを送っておきますww(狭乃 狼) 鎧の色が気に入らないからか・・・ 横山さん漫画でも子供の病気引き合いに出して好機逃した位ですしw sayさん、張コウ・高覧の二人に一番いいお酒でも(気晴らしになれば・・・)(村主7) |
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