彼とアタシと如月ハイランド 第二問
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 如月ハイランド来場者アンケート

 

  【第二問】

 

 サービス向上のためのアンケートにご協力ください

 『スタッフの対応にご不満な点がございましたらお書きください』

 

 

 

 霧島翔子の答え

『特になし、前回来たときも丁寧に対応してくれて助かった』

 

 スタッフのコメント

 ありがとうございます。満足いただけたようで何よりです。スタッフ一同またのお越しを心よりお待ちしております。

 

 木下優子の答え

『高校生を雇わないでほしい』

 

 スタッフのコメント

 若い従業員では不安でしょうか。アルバイトも含めて研修はしっかりと行っているのですが。参考にさせていただきます。

 

 

 

 坂本雄二の答え

『不審物を持たない、作らない、持ち込ませない』

 

 スタッフのコメント

 確かにこちらの対処が甘かったと思います。申し訳ありませんでした。

 

 

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 電車とバスを乗り継いで、ようやく如月ハイランドに到着。アタシと明久君は今、入場門の前に立っている。

 初めて来たけれど、ずいぶん広いのね。もっとこじんまりしたところかと思ってたけど、これはいろいろ期待できそうね。

 

「ごめんね優子さん、せっかく誘ってくれたのに……」

 

 まだ見ぬアトラクションに期待を膨らませていると、背後から申し訳なさそうな声がかけられた。そこにいるのは当然ながら明久君だ。どうも電車の中で寝てしまったことを気にしているらしい。バスに乗る前にも謝られたけど、そんなに深く考えなくても良いんじゃないかしら。

 

「気にしないで良いわよ。疲れてたんでしょ?」

 

「でも、ずっと膝枕しててくれたみたいだし。重かったでしょ?」

 

 

「えっ!? あ、いや、それはその……別に嬉しかったから良いというか……」

 

「何? よく聞こえないんだけど……」

 

「…………あぁ〜、もう!! さっきのことは忘れて!!」

 

「え、でも……」

 

「い・い・か・ら!!」

 

 ズイッと明久君に顔を近づけて念を押す。 

 

「う、うん。わかったよ」

 

 ようやくわかってくれたようで、明久君は小さく頷いた。なんか顔がちょっと赤かったような気がするけど、どうかしたのかしら。まあいいか、さっきのことを明久君が気にしなくなってくれるなら。せっかく遊びに来たんだから小さなことは気にしないで楽しんだ方が得ってものよね。

 

「それじゃあ行きましょう」

 

 明久君を促して入場門へ向かった。

 

 

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「……優子に吉井」

 

 門をくぐろうとしたところで不意に名前を呼ばれて足を止めた。

 

「あっ、代表」

 

「……奇遇」

 

 声のしたほうを見ればそこには代表が立っていた。声でわかったけど、まさかこんなとこで会うとは思わなかった。やっぱり代表もデートかしら。

 

「代表は彼氏と?」

 

「……(フルフル)」

 

「あれ。違うの?」

 

「……うちの夫と」

 

 代表の指を追っていくとそこには坂本君がいた。

 

 ……なぜか手枷をはめられた状態でだけど。

 

「……ねえ代表?」

 

「……なに?」

 

 どうして坂本君は手枷つけてるの、と聞こうとしたところで――

 

 

『よお、明久。こんなところで会うとは思わなかったぜ』

 

『・・・・・・僕もこんなところで手錠をつけられた友人に会うとは思わなかったよ。今回はどうしたの』

 

『今朝いきなり俺の部屋に乱入してきてな。どうやらおまえ等が今日ここにくることを聞いたらしく、自分も行くと言い出した。じゃあダチとでも行けよと言ったら意識が飛んで、気がついたらこの状態だ』

 

『・・・・・・相変わらずなんだね』

 

 

――明久君と坂本君の不穏当な会話が聞こえてきた。

 

「……」

 

「……優子、どうかした?」

 

 本当になにも分かってない様子で首を傾げる代表。その様子は可愛いと表現しても良さそうだが、その裏で犯罪行為が二つ三つ行われていることを思うと冷や汗が止まらない。

 人の道を踏み外してそうな友人に対してなにを言えばいいか迷っていると坂本君が近づいてきた。もちろん手枷はしたままだ。

 

「もう良いだろ翔子、俺は帰るぞ」

 

 やはりというか、坂本君はあまり来たくなかったようだ。そうきっぱり告げると来た道を引き返そうとする。もっとも、そのまま見逃してもらえるはずもなく、代表が素早く坂本君の前に立ちふさがった。

 

「……だめ、ここを通りたかったら、まずは私を倒して」

 

「おまえはどこの中ボスだ!」

 

「……雄二がこないならこっちから行く(バチバチ)」

 

「まてこらっ!その手に持ってる青白い光を放つ物体でなにするつもりだ!おいっ、ちょっ、やめ、ぐぁあああああっ!!」

 

 そして代表がスタンガンを押し当てると、坂本君はビクッと一回大きく跳ねて地面に倒れ込んだ。

 

 いや、ちょっと、代表!? なにしてんの!?普通に取り出したから突っ込み損なったけど、スタンガンなんて遊園地に持ち込むものじゃないでしょ!?

 

 言いたいことがたくさんあったが喉元で大渋滞を起こして言葉にならなかった。そんなアタシを代表はしばらく不思議そうに眺めていたが、

 

「……それじゃあ、私たちは先に行く」

 

 そう言い残すと体の至る所から煙を出している坂本君を引きずって入場門をくぐっていった。残されたのは呆然としたアタシと乾いた笑みを浮かべている明久君。

 

「……あ、ははは、霧島さんは相変わらず雄二一筋なんだね」

 

「……あれはそんな言葉じゃすまないような気がするけど……なに?代表っていつもあんな感じなの?Aクラスにいるときはわりとまともなんだけど」

 

「ん〜、雄二と一緒の時はだいたいあんな感じかな」

 

「そ、そうなんだ」

 

 なんだかどっと疲れたような気がするわ。

 

「……大丈夫、優子さん?」

 

 溜息を吐くアタシの顔を心配そうにのぞき込んでくる明久君。

 

「ええ、大丈夫。それじゃあ明久君、アタシたちもそろそろ行きましょうか」

 

「うん、そうだね」

 

 なるべく笑顔で話しかけると、明久君も笑顔で返してくれた。やっぱりこういうとこにきたら笑顔じゃないとね。よし、今日は楽しむわよ。

 

 そう決心すると明久君と二人、意気揚々と入場門をくぐっていった。

 

 

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「いらっしゃいませ。如月ハイランドへようこそ」

 

 しかし、そんな笑顔もすぐ聞こえた声に吹き飛ばされた。ようやく入場門をくぐって、まずなにに乗ろうかと話していたアタシたちの前には――

 

「はるばるお越しいただきまして、まことにありがとうございます」

 

――パピヨンマスクをつけた秀吉が立っていた。

 

「…………」

 

「おやお客様、いかがなさいましたか?」

 

 なんというか、あいた口がふさがらないっていのはこういうことかしら。

 

「……秀吉、なにやってるのさ」

 

「私は如月ハイランドのスタッフです。秀吉という人物とは何の関わりもございません」

 

 明久君も気づいたようだけど(っていうか隠す気があるのかって変装だけど)秀吉はあくまでしらを切るつもりらしい。

 何でこいつがここにいるのよ。ここでバイトしているなんて話は聞いてないけど。一番早いのはこいつに聞くことだけど、この様子じゃあ素直に話しそうにないし。仕方ないわね。

 

ピリリリリリッ

 

 取り合えず何しに来たか力づくで聴きだそうとしたところで突然響いた電子音。どうやらそれは秀吉の携帯だったらしく、秀吉は胸ポケットから携帯を取り出して電話に出た。

 

「もしもし、工藤、何かあったのかの。ふむ。……ふむふむ……わかったのじゃ、今そっちへ行くから待っておれ」

 

 ピッと音が鳴ると秀吉は電話をポケットに戻した。

 

「…………」

 

「……秀吉……」

 

「……あっ」

 

 そこでようやく今の会話がアタシ達に筒抜けだったことに気づいたようだ。沈黙が流れた。まったく、役者の端くれならあそこで素に戻るんじゃないわよ。じとめで睨んでやると、秀吉は右手を顔の横にあげ、パチンッと指を鳴らした。

 

 とたんにあたり一面に立ちこめる白煙。

 

 それが晴れたときにはもう、秀吉の姿は見あたらなかった。

 

「けほっ、こほっ……何なのよいったい……」

 

「……秀吉、いったいなにしにきたんだろう」

 

 まあ、十中八九アタシたち関係でしょうね。さっきの電話からすると愛子も来てる可能性が大ね。後は昨日電話してきたって言う土屋君かしら。

 

「はっ、もしかして秀吉、僕がお姉さんと一緒にいることに嫉妬してついてきたんじゃ?」

 

 そうだったのか、と手を叩いて納得する明久君。いやいや、そうだったのかじゃないでしょ。アイツは男でアタシの弟なのにどうしてそういう結論になるのかしら。まあ、半分くらい当たってそうな気がするけど。

 どうしてうちの学校には性別の壁を些細なものと考える人が多いのかしら。そりゃあアタシだってそういう本は好きだし、実際そういう人がいても取り立てて避難するわけでもないけれど。

 

……それにしても明久君、秀吉に会えてやけに嬉しそうじゃないかしら。今はアタシと来てるっていうのに。秀吉の方がいいってことかしら。

 

 そう思ったらもやもやしてきて、スッと手が明久君の頬に伸びた。

 

「痛っ」

 

 そして明久君の頬を摘んで引っ張った。明久君は困惑気味にこちらを見てくるけど、アタシはそれどころじゃなかった。

 うわっ、柔らかっ。しかもすべすべ。どうして男の子の肌がこんななのよ。アタシは毎日苦労しているっていうのに。そういえば明久君も何度か女装してたけど、普通に似合ってたし。うちの秀吉もそうだけど、ほんとに男の子か疑わしくなるわね。

 しばらく両手で明久君の頬をむにむに引っ張っていた。

 

「優子さん、そろそろ離してくれると助かるんだけど」

 

「あっ、ごめん」

 

 あまりの手触りの良さに夢中になりすぎたらしい。あわてて手を離すと明久君は少し涙目で頬をさすった。ふふっ、涙目の明久君もなかなか可愛いわ。

 いつの間にかもやもやした気分は消えていた。

 

「いったいどうしたの?いきなり頬を引っ張ってきて」

 

「ふふっ、何でもないわ」

 

「……?」

 

「ほら、明久君。早く行きましょ」

 

 首を傾げている明久君の手を引っ張って適当な方に歩き出す。明久君も戸惑いながらついてきてくれた。さて、なにから乗ろうかしら。

 

 

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 あとがき

 

 いかがでしたか,彼とアタシと如月ハイランド第二問。

 

 読まれた方はもう分かってると思いますが、今回はあまり話が進んでいません。到着、入場、終了です。本当は午前分くらいは今回で終わらせたかったのですが。前回から二週間強、ここで出しておかないとずるずる引きずっちゃいそうだなぁと思ったので、短いですが投稿させていただきました。

 

 内容のほうですが、はいでました、雄二・翔子ペア。相変わらず雄二に自由意志はありません。原作だと霧島さんが雄二をいじめて、雄二が明久を痛めつけるみたいな力関係ですが、ここの雄二はやられるだけです。いや,雄二も好きなキャラではあるんですけどね、何故こうなってしまうのか……。

 そして秀吉登場。どうやって先回りしたんだよ、といった類のコメントは勘弁してください。ご都合主義です。もしくは前回の電車のあたりとか。スタッフとして出るのはアニメ版の影響だと思います、マスクはしてませんでしたが。

 まだ出てきていないキャラたちは今後出していく予定です。今の予定では後4人くらいでしょうか。

 

 そして近況報告(っぽいもの)ですが、どうもお気に入り登録してくださった方がついに二桁行きました。ありがとうございます、うれしいです。今後,卒論やら卒論やら卒論やら学会発表やらでペースが落ちるとは思いますが、このうれしさを励みに書き続けていきますので、応援よろしくお願いします。

 

 それでは,次回お会いできることを楽しみにしています。

説明
どうも,naoです。
二週間ちょっとぶりに投稿しました。今回は如月ハイランドに到着といったところです。ただ、ほんとに入ったところあたりですが。
ともかく,彼とアタシと如月ハイランド第二問をお楽しみください。
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コメント
とっても良かったです!続きが早く読みたいです(showgtmhp)
スタンガンを高校生が持っている時点でおかしいんですけどね、うん、原作通りだw(十狼佐)
優子がかわいすぎる(VVV計画の被験者)
タグ
バカとテストと召喚獣 吉井明久 木下優子 明久×優子 如月ハイランド 

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